ルーアン市に向かって歩いていたエステル達は山道を越えて、ルーアン市に行く途中にある村、マノリア村に続く街道を進み始めた。
~マノリア間道~
「わあっ……!」
「エステル?」
突然エステルが感動の声を上げたことにヨシュアは首を傾げた。
「見て見て、ヨシュア!海よ、海!」
「はいはい。言われなくても判ってるよ。」
「フフ、高い場所から見る海は眺めがよくていいですね。」
「うん、それに風が気持ちいいね。」
「そうだな。リウイの故郷であるモルテニアからも海が見えるが、ここから見る海の景色はまた格別だな。」
はしゃいでいるエステルを見てヨシュアは呆れ気味の声で答え、プリネ達はエステルの感動に微笑しながら同意した。
「青くてキラキラしてメチャメチャ広いわね~。それに潮騒の音と一面に漂う潮の香り……。うーん、これぞ海って感じよね。」
「エステル、海を見るのは初めて?」
海を見てはしゃいでいるエステルを見て、疑問に思ったことをヨシュアは尋ねた。
「昔、父さん達と定期船に乗った時、ちらっと見た記憶があるんだけど……。こんなに間近で見るのはひょっとしたら初めてかもしれない。」
「そっか……。僕も海は久しぶりだな……。定期船を使わずに歩いてきた甲斐があったね。」
「うんうん。何だか達成感があるよね!」
「フフ、達成感を感じているところ悪いですけど、旅はまだまだ終わっていませんよ?」
「うむ。まずは看板に書いてあったマノリア村とやらを目指すぞ。」
そしてエステル達はマノリア村に向かって海の景色を楽しみながら歩き始めた。
一方エステル達がマノリア間道を進んでいる間、間道の近くにある森で一人の女性が窮地に陥っていた。
~マノリア間道・森~
「「「「「「「「「グルルルルル…………」」」」」」」」
「ハァ…ハァ…ハァ………」
女性は見た目では人間と変わらない姿をしていたが、唯一足の部分は木の根がからみついていた。その女性を囲むようにエステルやリフィア達が関所で戦った狼達が唸りを上げながら女性を攻撃する態勢に入った。女性は最初、狼の群れが自分を標的にした時戦いを避けて逃げていたが、間の悪いことに逃げている最中に他の魔獣まで女性に襲いかかったのだ。魔獣に襲われた女性は自分の武器である弓や習得している魔術で対抗して倒していたが、魔獣との戦闘の最中に狼達が追いつき魔獣との戦いが終わった頃には狼達が女性を囲んでいたのだ。
「ううっ………やっぱり異世界だと力が入らない……森出なんてするんじゃなかったです……」
自分の劣勢に女性は脅えた。本来なら女性は華奢な見た目に反してかなりの実力を持っているのだが、女性はリウイ達の世界――ディル・リフィーナに生息する精霊の一種のため、異世界では魔力が合わない上本来力を貸してくれるはずの大地に住まう精霊達も答えなかったため、自分の力のみで戦っていたのだ。
「「「ガウ!」」」
「くっ………降り注げ、大地の矢よ!………大地の援護射撃!!」
「「「ギャウ!?」」」
襲いかかった狼達を女性はエヴリーヌが得意とする弓技に似ているが唯一違うのは大地の魔力と闘気を合わせた大技を放ち狼達を倒した。
「あっ………力が……」
しかし力を使い尽くしたのか女性は跪いて立てなくなった。
「「「「「グルルルル………」」」」」
残った狼達は獲物が弱っているとわかり、いつでも飛び掛かる態勢になって唸った。
「ひっ……!誰か~!助けて下さい!ご主人様~!山の主様~!」
絶体絶命になった女性は助けを求めるように大声で叫んだ。
~マノリア間道~
「あれ?」
「どうしたんだい、エステル?」
急に足を止めたエステルにヨシュアは不思議に思って尋ねた。
「うん……今、誰かが助けを求めているような気がしたんだけど……(なんだろう……この不思議な感覚、パズモと出会った時に似ている気がする……)」
「?助けを求める声なんて聞こえないけど……」
エステルの言葉を信じてヨシュアは耳を澄ませたが何も聞こえなかったので不思議に思った。
「待って下さい。………………!!どなたか、そこの森の中から助けを求めています!」
同じように耳を澄ませたプリネは近くの森の中から聞こえる助けを求める声を聞き、顔色を変えた。
「余も聞こえたぞ。……かなり窮地に陥っているようだ。すぐに助けに行ったほうがいい。」
「………あっちの方から聞こえたよ。」
プリネの答えにリフィアも頷き、エヴリーヌは声が聞こえた方向を指差した。
「え……」
自分以外は全員聞こえたことにヨシュアは驚いた。
「あっちね!………サエラブ!」
(……何用だ。)
そして驚いているヨシュアを気にせず、エステルは素早く助けを求める声の場所に行くために素早い動きをする幻獣――サエラブを呼んだ。
「お願い!助けを求めている人がいるの!あなたの背中に乗せて!」
(………お前と契約して最初の指示がよりにもよって、我の背に乗せろとはな………)
「あなたの契約主としてまだまだなあたしが誇り高いあなたに背中を乗せてなんてことを頼むなんてどうかしてると思うけど、お願い!助けを求めている人がいるの!」
不愉快そうに聞こえるサエラブの念話にエステルは頭を下げて、一生懸命嘆願した。
(……さっさと乗れ。急を要するのであろう?)
「いいの!?」
誇り高い性格のサエラブの以外な答えにエステルは頭を上げて驚いた。
(……以前の我なら断固断っていたところだが、今の我はある程度の事に関しては寛大になっているつもりだ。ただし、我の背に乗るのはお前かウィルしか許さないし、緊急時でない限りは乗せないからな。)
「うん、ありがとう!」
サエラブの念話に表情を明るくしたエステルは、サエラブの背に恐る恐る跨った。
「エステル!一人では危険だよ!僕達も……!」
「ヨシュア達は後から追いついてきて!あっちの方向よ、お願い!」
(承知!)
ヨシュアの制止の声を聞かず、エステルはサエラブに助けを求める声がした方向を指差した。エステルの指示に頷いたサエラブは背にエステルを乗せているにも関わらず大きく跳躍して、森の中に入って跳躍と走りを繰り返して助けを求める者を
見つけるために進んだ………
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第55話