夜・・・
青年は昼にヴィヴィオを見送った後、バイトの疲れを癒す為に住居の中で毛布一枚を多い被せて安眠して居て、たった今起きた所だ。
「・・・ん・・ふぁぁぁ・・・腹減ったな。ってそういや昨日アイツが来やがった所為で飯、切れてたんだったな・・・買い出し行くか」
青年は独り言を呟きながら今、自分の住居の食卓事情がピンチなのを思い出し、身体に覆い被さった毛布を退かして立ち上がる。
そして財布をポケットに入れて住居から出て、春だというのにまだ肌寒い風を全身に浴びながら夜の街をゆっくりと目指す。
☆★☆
夜の街を街灯やビル窓から漏れる光が夜の街を昼のように明るく照らし、眠らない街へとなっていた。
その街のとあるビルとビルの間に建てられたごく普通の何処にでも在りそうなスーパーの自動ドアから買い物を終わらせてパンパンに物や食材が入ったレジ袋2つを両手に持って青年が現れる。
青年はこちらに向かって来る人波の隙間を掻い潜り、避けながら帰路に就く。
「・・・・」
そんな青年を見つめ、見下ろす視線。
その視線の主は低いビルの屋上に居た。
「・・・逃がしません」
視線の主は青年から視線を外さずにビルとビルの屋上を飛び越えて青年の姿を追いかける。
「・・・(誰か俺を追い掛けて来てるな、誘い込むか)」
青年はチラリと視線の先の主を見通し、ビルとビルの隙間の狭い路地に入り、視線の主を誘い込む。
視線の主も誘い込まれてるの感じたのか誘いに乗るように追いかける。
☆★☆
狭く長い路地を抜け、小さい市内公園の公共魔法練習場にやってくる。
視線の主はもう追いかける必要は無いと思ったらしく、青年の前に飛び出すように街灯の上から飛び降りる。
そして上手く着地し、振り向いて青年と対峙しようと向いたら其処に青年の姿形は何処にも無かった。
「ッ居ない!?・・・一体どこに・・・?」
「・・・よぉ」
視線の主の後ろにはついさっきまで自分が追っていた筈の青年が睨みながら立って居た。
視線の主は声に気が付き
「!?(何時の間に!?)」
「テメェ、さっきから何で俺を追って来る・・・?」
青年は殺気は出さず、ただ尋問する雰囲気を噴出して居た。
「・・・貴方と闘う為です」
主は少し落ち着いたのか青年の質問に返答する。
「何?・・・成程な、テメェが噂に聞く武闘家襲撃犯か・・・まさか女とはな」
そう、視線の主は青年くらいの年齢と変わらない美しい女性らしい顔立ちをし、目元にはバイザーを取り付けて正体が分からないようにし、長い翡翠色の髪をした女性だった。
「女だからと言って侮らないで下さい。私の名はハイディ・E・S・イングヴァルトと言い、『覇王』を名乗らせて頂いてます。以後お見知りおきを」
「へぇ・・・襲撃犯っていうからにはもっと乱暴で荒い口調かと思ってたが案外律儀にも名を教えてくれんのかよ、良いのか?俺がお前の事を管理局に名指しで通報しても?」
「その心配には及びません。話によると貴方はそう言った負け惜しみな行為はしない方だと聞きました。私はその情報を信用するだけです」
「そうかい・・・(そういった事もちゃんと考えてる所を見ると、ただ其処ら辺の奴をストレス発散相手としてボコした訳では無さそうだな。・・・だが)なら何故こうして襲撃をする?理由を教えない限り俺は貴様からの挑戦は受ける気は無ぇ」
「そうですね、私と闘って下さるというのならお教えしましょう」
ハイディと名乗った女性はバイザーを外し、青と紫のオッドアイで青年を射抜く。
「私はただ自分の強さを知りたいのです。そして列強の王達を全て倒し、ベルカの天地に覇を成すこと。それが私の成すべき事です」
「その為なら、今やただ平凡に生き、普通に生活し、平和に過ごす王達の子孫達が傷付こうが気にしないってか?」
「それが、私の中にある私自身の祖先であるクラウス・イングヴァルトの数百年の後悔と覇王家の悲願の為なら構いません」
ハイディはつらそうながらも仕方なさそうに淡々と話す。
青年はその話を聞き、溜息を吐いた後、口を開き、言葉を発した。
「くだらないね」
「なっ!?」
その青年の返答は予想外だったのか、ハイディは驚愕した表情となる。
「数百年分の悲願だか後悔だか知らんがそんな事してそのクラウスとかいうテメェのご先祖様が喜ぶのか?いや、それ以前にそんなテメェ個人の想いとかいうくだらん物の所為でお前の数百年の後悔や覇王の悲願も何も知らない聖王達の子孫が傷付いて良い理由になる訳無いだろうがバカが。もうちょっと頭使えよ、見かけの割に頭の中はスッカラカンか?」
「・・・貴方は・・・私の!・・・いいえ、覇王の成し得なかった後悔と想いの重さが!くだらないと言うのですかッ!!?」
ハイディは青年の言葉を認めたくないように顔を顰めて叫ぶ。
「さっきからそう言ってんだろ、言葉の意味も分からんのか?覇王家も落ちぶれたな」
青年は大して悪びれた様子も無く喋る。
「訂正・・・してください」
「ん?」
「覇王家が落ちぶれたという発言と・・・くだらないと言った事を!訂正してください!」
「俺に勝ったらな」
「それでは・・・行きます!!!」
「来なくて良いよ・・・っとホレ」
「!? なっ・・・?!」
覇王家と覇王の想いと後悔を馬鹿にされたことに痺れを切らし、激情したハイディは青年目掛けてかなりのスピードで突撃するが、大して慌てる事無く青年は体制を横にし、片足を振って足元がお留守だったハイディの足を払う。
「クッ!」
ハイディは手を地面に付きそのまま前転して起き上がる。
「ふっ!」
猪突猛進という四字熟語の意味そのままにハイディは青年に襲いかかる。
「よっと」
青年は襲いかかって来るハイディの猛攻をまるで興奮した牛に立ち向かう闘牛士のように華麗に避けていく。
「ふっ!はっ!せいっ!」
ハイディの必死な猛攻も、青年には擦りもしない。
「(良い攻撃だな、想いの重さも有るのだろうが・・・それでも俺には勝てない。興奮し過ぎてテレフォンアタック(※テレフォンアタック=攻撃する前から次に何処を攻撃するのか簡単に読める状態)になってる。自分の家系を馬鹿にされたくらいで此処まで冷静さを欠けてたら致命的だぞ?)」
「戦闘中にッ!考え事とはッ!余裕ですねッ!!!」
「ああ、余裕に躱せるからな。お前の攻撃が」
青年は軽口を叩いて挑発しながらハイディのアッパーをバックステップで余裕に交わす。
「ッバカにして・・・!なら、これならどうです?!覇王・・・」
ハイディは右手を右腰に持って行って深く構え、右手に魔力を集中させる。
「(この攻撃はッ・・・!?しまったッ!)」
青年はこの攻撃は流石に拙いと感じたのか躱す体制になろうとするも、全身にハイディが仕掛けた遅延型の魔力チェーンが体を束縛し、右腕以外が身動き取れない状態になってしまう。
「断空拳ッッッッッ!!!!!」
掌底が青年の体にヒットし、魔力で威力を上げた掌が魔力を放出して爆発を引き起こす。
そして爆発により、土煙が空中に舞い、煙幕となる。
ハイディは自分の攻撃に確かな感触を感じ、倒したと思う。
だが・・・
「焦った・・・完璧に油断していたな、右腕が解放されてなければ負けてたかも知れないが・・・受け切ったぞ」
ハイディが放った掌底は青年の右手が女性の掌底を手首と掴んだ事によってギリギリ体に当たらず防がれ、そしてハイディの右手もまた青年の右手が右手首を掴んだ事によって離せない状態へとなっていた。
「そ、そんな・・・!私の拳が・・・!防がれた・・・?!」
「次はコッチの番だ・・・」
青年は自分の纏わり付くチェーンを力技で引き千切り、右手を掲げてハイディの手首を掴み上げて胴への攻撃を可能にさせ、空いた左手でハイディと同じように掌底の構えをする。
「!?・・・しまっ」
「遅い」
その言葉を発した直後、右腋下から胴へ鈍い音と同時に鋭く強烈な衝撃が体に響き、ハイディの視界は真っ黒となった。
☆★☆
ハイディと名乗った女性を気絶させた青年。
先ほどの攻撃は唯の発勁
はっけい
という掌底の一種である。
掌底などで体に衝撃を与え、ハイディのように相手を昏睡させることや、相手の体を麻痺させて身動きを一時的に奪ったり、技によっては1撃で相手の命を奪うことも可能な攻撃手段である。
青年は気絶したハイディを見下ろしながら買い物した物が入ったレジ袋を持ち上げ、そのまま帰ろうとした直前・・・!
「・・・? 何だ?」
ハイディの体が突然光り出し、女性だったその体はドンドンと少女の体へと変わって・・・いや、戻っていく。
これは変身魔法の1種であり、他人の視覚情報に自らの体が成長して大人になった姿に見せる魔法である。
「マジかよ・・・まさか武闘家襲撃犯がヴィヴィオ・・・だったか?ソイツと変わらねえ位の歳のガキだったとはな・・・取り敢えず此処では目立つな、何処かにでも連れてくか・・・。
病院・・・はダメだ、金が無ぇ。管理局は明日にして・・・仕方ない、此処に置き去りってのも気が引けるしな、俺ん家に連れて帰るか・・・はぁ、今日は地べた寝かな?」
そう青年は頭を抱えながら独り言をブツブツと呟きながらこの状況をどうするか考え、考えが纏まるとハイディを背中におんぶってその場を急いで離れた。
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この物語の主人公である青年はホームレスである。
何時もはクラナガンのとある川原に設置されたボロボロの小屋に住み、バイトは市立図書館の司書。そんな青年がちょっとした切欠で管理局のエース・オブ・エースの高町なのはの義娘で聖王の現身である高町ヴィヴィオと出会い、その出会いによって青年の運命が色々と変わって行く物語。