此処は第1管理世界ミッドチルダ。
首都は近未来的な大都市のクラナガンで、技術力、科学力、そして軍事力などあらゆる面において他の次元世界を圧倒しており、現在では事実上全次元世界の統治者のように振舞っている。
そんな大都会のとある川岸の数あるボロ屋の中の一つから金髪に赤い瞳をし、周りのホームレス連中のようなボロボロでクタクタな服とは違い、見方によってはまだマシな服装をした青年が現れる。
青年はボロ屋から出た後、何処かへ向かうように歩いていく。
すると前からボロボロな服を着た中年くらいの男が手に空き缶が大量に入ったビニール袋と鉄挟みを持って青年に近づいてきた。
「ん?兄ちゃん、お勤めかい?」
「ああ、まぁな」
「ハッハッハッ、よくやるねぇ・・・頑張れよ?」
「ああ、アンタも空き缶拾い頑張れよ」
二人は短く応援したあと、男は青年を見送り、完全に居なくなったのを確認してまた空き缶拾いを再開した。
☆★☆
ここはクラナガンの一等居住地区。そこはエリートサラリーマンやエリート官僚などの家庭が住む家々が並び立つ地区であり、一般サラリーマンの年収では手が出せないような場所である。
そんな場所に立つ一軒の家から、長い金髪に赤と緑色の瞳をした少女=高町ヴィヴィオと、栗色の長髪をした女性=高町なのはが丁度今、家から出てそれぞれの職場と学校に向かう所だ。
「ヴィヴィオ、今日は始業式だけでしょ?」
「そだよー。あっ、でも帰りにちょっと寄り道してくけど」
なのはは家のロックを掛けながらヴィヴィオに聞き、ヴィヴィオも持ち前の元気一杯な態度で返す。
「今日はママもちょっと早めに帰ってこられるから、晩御飯は4年生進級のお祝いモードにしよっか?」
「ホント?いいねー♪」
「さて、それじゃ・・・」
「うん!」
「「行ってきまーす!」」
二人は互いの手のひら同士を重ね合わせ、タッチしてから分かれて通勤、登校した。
☆★☆
自分の母親であるなのはと分かれて学校に登校しているヴィヴィオは一人で今日の晩御飯のことを考えながらルンルンと鼻歌を歌いながら気分よく歩いていた。
「(今日の晩御飯なぁにっかな~♪ママはお祝いモードって言ってたからハンバーグかな?あっ、もしかしたらステーキだったりして!)」
ヴィヴィオは妄想を膨らませながら歩道橋の階段を登る。
前からは先ほどの青年がゆっくりと階段を下りていた。
ヴィヴィオと青年は目を合わせることもなくそのまますれ違う。
「(デザートにはやっぱりケーキだよね!チョコかな?定番の苺ケーキも良いなぁ~)」
ヴィヴィオは妄想に集中し過ぎて階段を登るのが疎かになってしまい、階段の段差の角に足を乗せてしまい、そのまま体の重心が後ろに傾く。
「えっ・・・?」
ヴィヴィオが妄想から帰り、自分の状態に気づく頃には既に足は地を離れ、背中から落下していた。
「(何・・・?嘘っ・・・私、落ちてる?このままじゃ死んじゃう!そんなのヤダ!まだ・・・死にたくない!!)」
ヴィヴィオは走馬灯のように頭に様々な記憶が蘇ってフラッシュバックしていく。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!???」
ヴィヴィオは自分の運命に抗うように喉がはち切れれんばかりに悲鳴を上げるも、落下は止まらない。
「・・・・ん?」
青年はヴィヴィオの悲鳴を聞いて後ろを振り向くと、自分に向かってくる小さな背中が見えた。
「なっ!?」
青年は瞠目するが、一瞬でこの状況でどうしなければならないか考え、思いついた方法を直ぐに取り掛かる。
青年は左足を1段下に置き、左腕でヴィヴィオの体をキャッチし、右手で自身の体も巻きこまれて落ちないように手摺を掴み、自身の体を支え、右足で踏ん張る。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・ってあ・・れ?落ちてない・・・?」
「ッおいガキ、この体制キツイから早く退けろ!」
「ひゃっ!?ひゃい!!」
青年は辛そうな顔をしながら言い、ヴィヴィオを無理やり退かす。
「ったく、ちゃんと段差に気を付けながら階段を登りやがれ。俺が居たから良かったものの、居なかったら確実に大怪我してる所だぞ?」
「ス。スミマセン・・・あ、あの!お礼は・・・」
「ンなモン要ねぇよ、ガキのお礼なんてたかが知れてるからな。んじゃな、今度は落ちないようにしろよ」
「は、はいっ!ありがとうございました!!・・・あ、あの、お名前は?」
「なんで初対面の奴に教えなきゃなんねぇんだよ・・・それより学校は良いのか?」
「あっ!そ、そうだった!それじゃ失礼します!」
「ああ、もう扱けんなよ」
「はい!」
ヴィヴィオは急いで階段を、今度は段差に注意しながら登る。
その小さな背中を無言で見送った後、青年はまたゆっくりと歩道を歩き始め、目的の場所へと向かった。
☆★☆
此処はミッドチルダのとある市営図書館(原作1巻第1話に出た図書館)
「ちはー」
青年はその図書館の裏口にある関係者入口から中に入り、仕事用の服を着替える。
そして事務室に入り、市から送られてきた大量の本を整理し、バーコードなどをPCにキーボードにタイピングして入力し、データ保存が終わった物から棚に並べていく作業をする。
青年はこの市営図書館のアルバイトで、給料も良いので此処にもう3年は働いており、同じアルバイト仲間や上司からは「もう此処に就職すれば良いんじゃないか?」と言われているが、青年は頑なに拒んでいるとのこと。
まぁそんなことは置いておこう。
青年が作業を続けて数時間が経ち、もう昼時になった。
青年は相変わらず本の整理をしていた。
「・・・(【L=0983】は確か向こうの棚だったな・・・ん?)」
青年が本の山を持ち上げて別の棚に移ろうとした時、複数の女の子のキャッキャと話し声が聞こえたので声がした方向を首を回して確認すると、そこでは今朝助けた少女=ヴィヴィオと他の少女2人と話して居た。
青年はヴィヴィオの姿を見て瞠目するも、直ぐに元に戻し、作業を再開した。
そして持っていた本を全て黙々と棚に戻し、バイトの終了時間が近づいてきたので事務室でタイムカード押そうと事務室に入ろうとしていた時だった。
「あっ!待ってください!!」
青年が後ろを振り向くと其処にはヴィヴィオが嬉しそうに満面の笑みを浮かべて立っていた。
☆★☆
ヴィヴィオは通っているSt.ヒルデ魔法学院で始業式を終えて親友である黒髪に口から八重歯を覗かせた少女=リオ・ウェズリーとピンク色のツインテールをした少女=コロナ・ティミルは共に青年が働く市営図書館に来ていた。
「そういえばヴィヴィオって自分専用のデバイス持ってないんだよね」
「それフツーの通信端末でしょ?」
二人がヴィヴィオに聞くと、ヴィヴィオは困ったそうに話す。
「そーなんだよー。ウチ、ママとその愛機
レイジング・ハート
が結構厳しくって・・・『基礎を勉強し終える迄は自分専用のデバイスとか要りません』『それまでは私が代役を』・・・だって」
「そーかー・・・」
それを聞いて二人は苦笑する。
ヴィヴィオはリオの自分専用デバイスを心底羨ましそうに見ながら愚痴る。
「リオはいーなー、自分専用のインテリ型で」
「あははー・・・」
『スミマセン』
そうして3人で談笑しているとヴィヴィオの携帯にメールが入る。
「あ・・・丁度ママからのメールだ」
「何か御用時とか?」
ヴィヴィオは携帯画面を見ながらキー操作して確認すると、嬉しそうに綻ぶ。
「あー平気平気。早めに帰ってくるとちょっと嬉しいコトがあるかもよ・・・だって」
「そっか、じゃ借りたい本決めちゃお!」
「うん!」
3人は席を立ち、本棚に向かう。
3人は同じ棚を探索しながら目当ての本を探していると・・・
「え~っと・・・あれ?あの人って・・・」
ヴィヴィオは別の本棚から見覚えのある青年の横顔を見つけ、今朝の礼を言う為にその背中を追う。
そして青年がタイムカードを押す為に事務室に戻ろうとした時・・・
「あっ!待ってください!!」
ヴィヴィオはそこまで言って立ち止まった。
青年はヴィヴィオの声に反応し、振り向く。
何処までも真っ暗な髪に、気の強そうな吊り目。大してカッコイイとは言えないがそれでもマシな顔立ち。高い身長に年相応に見える締まってそうなガタイ。
その姿は何処からどう見ても、服は違えど今日の今朝、自分が歩道橋の階段から落ちそうになった時に助けてくれた恩人だった。
☆★☆
「あ、あの・・・「何か・・・?」ッ!」
ヴィヴィオが話し出す直前に被せるように青年が問いかける。
「ヴィヴィオー!」
後ろからリオとコロナが突然居なくなったヴィヴィオに向かって早足で歩きながらやってくる。
「もーヴィヴィオ!勝手に居なくなっちゃダメだよ、心配しちゃった!」
「あははー・・・ごめんねリオ、コロナ」
リオは叱るようにヴィヴィオに言うと、ヴィヴィオは笑って誤魔化す。
「それでヴィヴィオ、この人は?」
コロナがリオの後ろから青年を覗くような体制になりながらヴィヴィオに聞くと、ヴィヴィオは笑いながら説明し始める
「あ!リオ、コロナ!この人はね?私が今日学校に行く時に階段から落ちそうになった所を助けてくれた人だよ!そうですよね?」
ヴィヴィオは笑顔で聞く。しかし・・・
「知らん」
「・・・えっ?」
たった一言、冷酷に淡々と誤魔化す気も無く青年は面倒くさそうに告げた。
「確かに俺は階段から落ちそうになった少女を助けたがそれがお前かどうかなんて覚えてねぇよ。面倒だからな」
「そ、そんなぁ・・・」
ヴィヴィオは自分の事を覚えていてくれてなかったことがショックだったらしく、ヘナヘナと涙目になりながらその場に座り込む。
「地べたに座らねぇほうが良いぞ。その制服St.ヒルデの物だろ?そんな高い服を地面に着けて汚しても知らねぇぞ」
「うう~・・・だってぇ~」
青年が注意するとヴィヴィオは駄々を捏ねるように言葉を漏らす。
「・・・はぁ、あと5~6分経ったらこのバイトが終わる。それまで待ってろ」
そう言って青年はしゃがみこんでヴィヴィオの目線の高さと同じ位置に目線を落とし、ポケットからハンカチを出してヴィヴィオに渡し、事務室に戻った。
☆★☆
バイトが終わった後、青年はヴィヴィオ達と合流して途中リオとコロナは帰り、今はヴィヴィオと二人きりだ。
二人は何故か手を繋ぎ合い、一緒に歩いている。
「それでですね、今日の事をママに伝えたら『その人を誘っても良いよ?』ってお許しが出たんです。なので・・・私の家でご飯を一緒に食べませんか?」
「いや、別に良い。お前から聞いた話では今日はお前が主役のお祝いなのだろう?関係無い俺が居ても気不味いだけだ」
「そんなことないです!こうやって私が元気で居るのは貴方のお陰なんです!是非来てください!」
「嫌だ。正直に言うが、そもそも俺は他人のお祝いとかが苦手でな。今日はもう帰って寝る所だ」
「じゃ、じゃあ住んでる場所だけでも教えてください!」
そう必死に懇願してくる気迫を纏ったヴィヴィオを見て溜息を吐き、何か諦めたような表情をする青年。
「・・・はぁ、どう言っても引く気は無いみたいだな。別に自宅迄案内するのは良いが・・・あまり他人に言わないでくれ」
「ハイ!分かりました!」
「返事だけは一人前なんだがな・・・まぁ良い、こっちだ」
ヴィヴィオの気迫に折れた青年はヴィヴィオの手を引き、自分の自宅がある川岸に迄案内する。
そして、川岸・・・
案の定、川岸には浮浪者達が岸の一部に住居を建てて巣食っていた。
「あ、あの・・・此処は・・・?」
「俺の家がある場所」
「・・・えっ?」
「ほら、俺んち知りたいんだろ?こっちだ」
青年は逸れないようにヴィヴィオの手を軽く握って引きながら歩き出す。
釣られてヴィヴィオを歩き出す。
青年はホームレス達を掻き分け、奥にある自分の住居まで案内する。
そしてその住居は立派とは到底言えない不格好だが、周りの段ボールやブルーシートなどで作り上げた住居よりはマシなものだった。
その光景にヴィヴィオは茫然とし、ただ言葉を無くすだけだった。
「・・・・」
「・・・・やっぱりな、これだから連れて来たくなかったんだ。ほら、離れるぞ?いつまでもお前のような良い所の嬢ちゃんが此処に居ちゃ拙い」
「・・・ッは、はい・・・」
青年に先導されて戻るヴィヴィオ。
「ここからなら自分で戻れんだろ、後は自力で帰れんだろ。それじゃな」
そういってヴィヴィオに背を向け、川岸に戻る青年。
その背中をヴィヴィオはただ見送るしかなかった・・・
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この物語の主人公である青年はホームレスである。
何時もはクラナガンのとある川原に設置されたボロボロの小屋に住み、バイトは市立図書館の司書。そんな青年がちょっとした切欠で管理局のエース・オブ・エースの高町なのはの義娘で聖王の現身である高町ヴィヴィオと出会い、その出会いによって青年の運命が色々と変わって行く物語。(にじファンからの転載です)