No.444007 真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~ 第二十八話 夏のヒーロー祭り!華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫! 三幕YTAさん 2012-07-01 02:39:01 投稿 / 全16ページ 総閲覧数:3289 閲覧ユーザー数:2680 |
真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~
第二十八話 夏のヒーロー祭り!華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫! 三幕
壱
「どうしてこうなった……」
北郷一刀は、孫権こと蓮華の柔らかい手に自分の手を握られているにも関わらず、ガックリと項垂れたまま、蓮華が手を引くに任せて人混みの中を疾走していた。むねむね団が出現したと言う場所に急行する為だ。
「もう諦めろ、北郷。お前が何を憂慮しているのかは分からんが、こうなったら、成るようにしか成らんさ」
「やめて!美周朗さんからのダメ押しなんか聞きたくない!僅かな希望すらなくなる気がするッ!!」
「一刀!何時まで言ってるの!あなたは統治者なんだから―――って、えぇ!?」
蓮華は、後ろの一刀に向けていた視線を戻した瞬間、驚愕の声を上げて立ち止まった。一刀の隣を駆けていた周瑜こと冥琳も、「これは……」と呟いて、足を止める。
「あ~あ、やっちゃった……」
一刀は、他の二人とは違い、呆れた声を出して止まると、蓮華の手を離し、両手を腰に添えた。三人の視線の先、東西南北に伸びる大通りが交わる四辻の中央には、巨大な威容を誇る大櫓が
三人が、大櫓の更に近くまで接近すると、その周囲は正に、阿鼻叫喚であった。仮面を付けた量産型三人娘は、最早、誰がオリジナルか分からない程に量産されまくり、「むねんじまえにゃ~!!」と叫びながら女性を追いかけ回しているわ、チンピラ達は思うがままに暴れ回っているわで、途中から来た者には、何が何だか全く理解出来ない状況である。
「お~っほっほっほっほ!良いですわよ皆さん!その調子で、我がむねむね団の崇高なる理想を愚民達に示しておやりなさい!!」
「……なぁ、北郷。あれは……」
大櫓の上で高笑いを響かせている人物を指差した冥琳が、何とも言えない表情で一刀にそう問うと、一刀は、深い溜め息を吐いて首振った。
「言うな、冥琳。頼むから―――」
「おのれ、あれが“むねむね団”の首領、“爆乳の袁”ねッ!?成都のみならず、都まで混乱に陥れるなんて、許せない!」
「……うわぁ、蓮華もそっちサイドの人だったんだぁ……」
一刀が、自分の言葉を遮って、義憤に燃える眼差しを仮面を被った袁紹こと麗羽に向ける蓮華に対して諦め気味の言葉を呟いている横で、冥琳は興味深そうに眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ふむ……面白いな。私には瞬時に理解出来たと言うのに、蓮華様には出来なかった……この違いには、どんな法則性が―――」
「やめとけ、冥琳。そこを突き詰めると、アカシックレコード的なモノに触れてしまうぞ……」
「ちょっと、二人とも!またそうやって呑気に話し込んで!早くあの狼藉者達を捕えないと……」
「だから、慌てなくても大丈夫だって、蓮華。もうそろそろ―――ほら」
一刀が、掴みかからんばかりの剣幕で詰め寄る蓮華を両手で制しながら、視線を空中に向けると、そこを、蒼と紅と白、三つの影が、すり抜けて往った―――。
弐
「トウッ!」
「……えい」
「そりゃッ!」
三つの影は、混乱の只中に着地するのと同時に、其々の得物で二・三人のチンピラを同時に薙ぎ払った。
「おのれ、むねむね団め!この都にまで現れるとは!」
「……眠い……」
「おい、恋華蝶!寝るなってば!」
星華蝶の数歩後ろで今にも船を漕ぎそうな恋華蝶を、仮面白馬が必死に揺り起こしていると、周囲の観衆から一斉に喝采が巻き起こった。
「華蝶連者だ!華蝶連者が来てくれたぞ!!」
「あれが成都に現れる正義の味方かぁ!!」
「仮面白馬もいるみたいだぞ!」
「頑張れ!華蝶連者!」
「これが、北郷と桃香直属の“秘密遊撃隊”、とやらな訳か。成程、この面子ならば、例え一個師団相手でも負けはすまい」
その様子を見ていた冥琳は、したり顔で頷いた。
「だろ?だから大丈夫だって―――あれ?そう言えば、何かが徹底的に足りないような……」
一刀が、腑に落ちない顔で首を傾げていると、後ろから聞き知った声が、一刀を呼んだ。
「あれ?ご主人様じゃないですか。蓮華さんと冥琳さんも」
「あ、朱里―――って、そうか!“名乗り”がまだだったっけ!」
一刀が、手を叩いてそう言うと、朱里は小さく頷いて、困った様に笑った。
「はい。何でかは分かりませんけど、皆さん、さっさと突っ込んで行ってしまいました……」
「ふむ……その言い様から察するに、朱里も巻き込まれているのだな……」
「はわわ!?え、ええと、冥琳さん、これには深い訳が―――」
「ま……マズい……これはマズいぞ……・!!」
一刀は、慌てて冥琳に言い訳をする朱里を尻目に、頭を抱えてしゃがみ込む。それを見た冥琳と朱里は、顔を見合わせてから、戸惑いがちに一刀に話しかけた。
「あの……ご主人様?何がマズいんですか?」
「腹でも下したのか?酷い顔色だぞ?」
「ふ……フラグが……」
「“ふらぐ”……ですか?」
「もう一つフラグが立っちまった!……Aパートの初っ端から名乗り無しでのバトルシーン突入は、“一度負けてからCM挟んでの新戦力登場で大逆転”の鉄板なんじゃぁぁぁ!!」
「また、訳の分からん事を……」
「私は、何となく分かりますけどね、ご主人様のお気持ち……」
「あぁ……この際、新兵器的な物で済ませてくれないかな……必殺華蝶バズーカ!とか、華麗合体カチョウオー登場!みたいな……無理かなぁ……無理だろうなぁ。な、蓮華。大丈夫そうだし、やっぱり帰ろ―――」
二人の軍師の会話など耳に入る状態ではない一刀は、蓮華の方に顔を向けた。蓮華さえ説き伏せる事が出来れば、冥琳は無理にこの場に留まりたいとは言わないだろうと踏んだのである。しかし―――。
「行けーッ!!そこよ!華蝶仮面!!あ、危ない!!」
「……ダメだ、こりゃ……」
「先刻から、やけに静かだと思えば……」
「きっと、手に汗握ってたんでしょうね……」
冥琳の、目頭を揉みながらの溜め息混じりの言葉に、朱里も頷いて微苦笑を漏らした―――。
参
「くそっ!何なんだ、この数は!!?」
仮面白馬は、新たに襲って来たチンピラの胴に剣の腹を叩き付けて、舌打ちをしながら呟いた。星華蝶と恋華蝶も、それぞれの包囲を潜り抜けて、仮面白馬と背中を合わせる。
「迂闊であった……まさか、麗羽の奴が、ここまでの軍勢を集められるとは……何より―――」
「……眠い……お腹へった……」
「切り札がこれでは……まさか、昼寝から起き抜けの腹減り状態を狙われるとはな……」
星華蝶は、背中を合わせた恋華蝶の覇気のない横顔を見て、
しかも、チンピラ達の後ろには、まだ南蛮の量産型が大量に残っているのだ。
「お~っほっほっほ!良いザマですわね、チョウチョ軍団!」
「くっ、れい……爆乳の袁!!お前、そんなデカブツまで引っ張り出して―――!」
仮面白馬が、声のする大櫓の上を見上げると、そこには、口に手を添えて悠然と高笑いをする、爆乳の袁の姿があった。
「んふふふ……今日は記念すべき祝典ですから、皆さんに楽しんで頂ける様に、舞台も豪華にしてみましたの。どうです、素敵でしょう?」
「祝典……だと!?」
「そうですわ!“これ”をご覧なさい!」
爆乳の袁がそう言って右手を
『品乳むねむね団』
とデカデカ書かれた金色の旗の布地には、ご丁寧にも、巨乳の女性が腰と側頭部に手を当て、“しな”を作っているシルエットが描かれていた。
「今日からむねむね団は貧乳党を吸収し、“新生むねむね団”改め、“品乳むねむね団”として、再結成されるのですわ!!」
「な、なんだってー!?」
「な、なんだってー!?」
「……??」
「さぁ、姿を現しなさい!品乳むねむね団の大幹部たち!!」
爆乳の袁―――もう面倒臭いので麗羽―――は、それぞれに驚愕する(約一名を除く)華蝶連者の顔を満足気に見
「巨乳の顔!」
「貧乳の文!」
「さ……才乳の荀!」
「姫乳の孫!」
「乳隠れの周!」
「乳鉄球の許!」
「炉利乳の程~」
「無乳の孟だじょ!」
「麗しの微乳歌姫、チー!」
「「我等、品乳十本槍!!」」
「多ッ!?大幹部、多ッ!!」
「くっ、何と言う事だ!おのれ、むねむね団!(キター!私の大好物な展開キター!!)」
「…………ひとり、足りない?」
思わずツッコむ仮面白馬と、言葉とは裏腹に、何故かニヤニヤと嬉しそうな星華蝶を尻目に、恋華蝶がぼそりとそう呟くと、麗羽が忌々しそうに怒鳴り声を上げた。
「う、うるさいですわ!こちらにも、事情と言うものがありましてよ!!さぁ、大幹部の皆さん!今日こそはあのチョウチョ軍団をぎゃふんと言わせて差し上げなさい!!」
「「あらほらさっさ~!!」」
「あ、あらほらさっさ―――くっ、屈辱だわ……何でこの私が!」
「その内、慣れますよ。桂花さん……」
顔良こと斗詩は、仮面を付けて屈辱に身体を震わせる桂花を、同情を込めた眼差しで慰めるのだった―――。
四
「あ~、そう言えば雛里は今日、西方の視察だったっけなぁ」
「北郷……」
「何かな、冥琳?」
「この事だったのか?お前が、小蓮様と明命の動向を気にしていた訳は……」
「いや、まぁ……うん」
「そうか―――ふ、ふふふふふ……我が孫呉の誇る武将と末の姫が、む……むねむね……むねむね団……?」
「はわわ!?冥琳さん、お気を確かに!!」
「冥琳、帰って来い!俺の目を見ろ!取り合えず落ち着こう、な?さぁ、深呼吸深呼吸!はい吸って~、吐いて~」
中空を見詰めて何やらブツブツと呟く冥琳の瞳の奥に、比較的ヤバめな光を見た一刀は、彼女の両肩を掴むと、小さく揺すって顔を自分に向けさせ、深呼吸をして見せる。冥琳は、幼子の様な素直さで一刀の真似をして深呼吸を繰り返し、次第に落ち着きを取り戻した。
「す、済まない北郷……取り乱した……」
「いや、気持ちは良く分かるから……な?朱里」
「はい。それはもう、痛い位に……」
「ありがとう、二人とも。……この上は、蓮華様がお気付きで無い事と、“あやつ”がこの場に居ない事が、せめてもの救いだ……」
急激にやつれた顔でそう言う冥琳に向かって、一刀と朱里は揃って頷いた。
「雪蓮はなぁ……居たらホントに
「はわわ……絶対に面白がって、場を引っ掻き回しておしまいになるでしょうからね……」
「うむ……って、北郷?どうした、急に私の後ろに回ったりして―――」
冥琳は、突如自分の後ろに回り込んで頭を下げた一刀に、怪訝な眼差しを向けて振り返った。一刀は、やけに神妙な顔で頬から汗を流して答える。
「見つかったか……!」
「はぁ?」
「朱里、どうだ?」
「えぇと……」
朱里は、一刀の行動で全てを察し、仮面を付けた文醜こと猪々子と、許緒こと季衣の二人と激闘を繰り広げている星華蝶の姿を目で追った。
「あ~、はい。バレちゃったみたいですね。あからさまにこっちをチラチラ見てます……」
「マジでか……くそぅ、色んな事が一遍に起こり過ぎて、身を隠すのをすっかり忘れてた……」
「ふむ、上手く切り結びながら、徐所にこちらに近づいて来ている。どうやら、間違いないらし―――って、蓮華様!?何をなさっているのです!?」
「止めないで、冥琳!これじゃ、多勢に無勢過ぎるわ!華蝶連者を助けないとッ!!」
「お……おやめ下さい、蓮華様!そんな事をしたら……したら―――えぇと……そう!もし、華蝶連者の戦いに乱入して御身が怪我でもなされば、蜀との外交問題になってしまいます!」
(『いい大人がそんな事したら、あまりにイタ過ぎる』とは口が裂けても言えない)冥琳の必死の説得が功を奏したのか、蓮華は南海覇王の柄に掛けた手を漸く放し、悔しそうに唸った。
「じゃあ、どうにもならないの!?……そうだ、一刀!!」
「ふぁい!?」
冥琳の背に隠れたままの一刀は、唐突に名を呼ばれてビクッと跳ね上がった。
「どうしたの、一刀?冥琳の後ろでしゃがんだりなんかして……」
「え?あ、これ!?これはその―――屈伸?」
「屈伸?て、なんで疑問形なの?」
「あ~!ほら、ずっと立ちっぱなしで疲れちゃってさ!おいっち、に~、さん、し~、やったぜ、カズちゃん、なんつってな!で、何かな、蓮華?」
一刀が、蓮華の訝しげな視線を屈伸運動をしながら受け止めると、蓮華は、自分が慌てていた事を思い出し、屈伸運動中の一刀の襟を引っ掴んで、無理矢理に立たせた。
「カズちゃん?って、それどころじゃないわ!一刀、あなたなら助けられるでしょ!?」
「あ~。一応、聞くけど……誰を?」
「華蝶連者に決まってるじゃない!」
「で、ですよね~。ははは……」
一刀は、愛想笑いを浮かべながら、蓮華が後ろに追いやった冥琳に視線を送った。北郷一刀が華蝶連者に直接、助太刀すると言う事は、国家元首自らが品乳むねむね団を市民の前で糾弾すると言う事。即ち、国家に取っての最重要犯罪者に認定するに等しい。
そうなれば、最早、蜀の華蝶連者に一任するなどと言うワガママは
見れば冥琳も、見た事も無い様な必死の形相で首をブンブンと振っていた。それはそうだろう。一刀にすら大事になると予測出来るのだ。
大軍師、周公謹の脳内では、ハイビジョン並みの鮮明さで、来るべき大惨事が再生されているに違いない。ましてや一味には、呉の王族と主戦力の猛将が絡んでいるのである。ともすれば、お家騒動どころの騒ぎではすまないだろう。
「いや、ほら。俺は、あれだ―――」
「蓮華様!北郷も同じ事です。もし、北郷の身に何かあれば、蜀は華蝶連者を非難しなければならなくなります。そうなれば本末転倒。そうだな、朱里!」
「はわわ!?えと、そ、そうですね!華蝶連者さんは国民からの人気も高いですし、そんな事になると政権の風評にも影響が……」
流石は臥龍と言うべきか。朱里は、とっさに冥琳に話を合わせると、微苦笑を浮かべて、薄紅色の羽扇で口元を隠した。
「(これは……チャンスだッ!)あ、そうだぁ!!なら俺、ひとっ走りして、これから警備隊の皆を連れて来るよ!うん、それが良い!」
一刀は、最後の好機を逃すまいと大袈裟に声を上げ、いそいそと群衆の外に足を踏み出した―――のだが。
「(あの……朱里さん?)」
「(はい?)」
「(えぇと……この手は……?)」
一刀が、自分のロングコートの裾をしっかと握る朱里の手を怖々と指差すと、朱里は、よほど特殊な趣味の男でもなければ確実に恋に落ちそうな極上の笑顔を浮かべて、愛らしく首を傾げた。
「(皆で幸せになりましょう?……ね、ご主人様♪)」
「(今ここにある危機ッ!?這い寄られてたの?俺、いつの間にか這い寄られてたの!?)」
一刀は、冥琳と蓮華に気付かれない様、小声で朱里と遣り合いながら、何とか彼女の手を引き剥がそうとするのだが、火事場の馬鹿力か、はたまた死ならば諸共の気概ゆえか、朱里は顔を真っ赤にしながらも、頑として一刀の裾を放そうとしない。
「(放してくれ朱里!そう言うのは、愛紗とか蓮華のネタだろうが!あぁ、星が、星が直ぐそこにッ!!)」
「(ダメです!ここまで来たら諦めて下さい!でないと―――)」
「(でないと……?)」
「(ご主人様がどさくさに紛れて私のお尻を撫で回したって、大声で言っちゃいます!!)」
「(こ、
「(当たり前です!後で
今の一刀に取って、これほど恐ろしい脅し文句もあるまい。既に民衆には、『三国一の種馬君主』などと言われて知れ渡っており、まぁ、哀しい哉、事実なので痛くも痒くのないが、この場には、三国からそれぞれ、十人以上の猛者が揃い踏みしているのである。
今現在、此処に居る面子に(例えウソでも)パブリック・セ○クス紛いの事をしたなどと知られれば、明日には三国の主だった将全てに、尾ビレと背ビレのオマケ付きで知れ渡るに違いない。そうなれば、確実に死ねる。いや、事と次第によっては、死よりも恐ろしい結果をも招きかねない。
「(これが、孔明の罠の威力だと言うのかッ……!?)」
一刀は、ガックリと全身の力を抜くと、三国志演義の司馬懿に心から同情しつつ、剣戟の音のする方へと視線を投げた。絶望は、すぐ近くにまで迫っていた―――。
四
「そりゃ~!!」
「(―――今だッ!!)」
星華蝶こと星は、猪々子の大剣を槍で受け止め様に、両足に力を入れて、勢い良く後方に飛び退いた。
彼女の着地点には勿論、諦めきった顔の北郷一刀が立っていた。
「くッ!失礼した……」
「大丈夫!?華蝶仮面!?」
「ありがとう、素敵なお嬢さん―――これは、北郷殿!」
一刀は、ワザとらしく驚いて見せる星を抱き止めた胸から離し、乾いた笑いを浮かべた。
「やぁ、せ―――星華蝶……」
「お恥ずかしい所を―――(右の
「はぁ~い。頑張ってねぇ~」
一刀は、ひらひらと手を振って星華蝶を送り出すと、素早く振り向いて、彼女が囁いて行った箇所をゴソゴソと引っ掻き回した。すると―――。
「……あったよ……」
一刀がそう呟いて、そっとコートの内側を覗き込むと、そこには、紛ごう事なき“真桜謹製仮面白馬変身マスク改”が入っていた。今、星が入れたのではない事は、間違いない。
幾ら星の手先が器用だとは言え、それならば一刀が気付かない筈はなかった。だとすれば、今日一日、一刀のコートの右ポケットには、このマスクが入っていた事になる。
「そういやぁ、今日は何故か、何処にもマスクが置いてなかったもんな……いくら視察だったとは言っても、星なら、龍風の背中に置いておく位の事はしそうなのに……迂闊だった……」
今に至るまで、マスクは必ず、小さな木の箱に入れられて一刀の前に置かれていた。その思い込みを、見事に利用された形である。煙草は普段、左ポケットに入れているし、財布はズボンの後ろだ。
普段、右の胸ポケットは、普段意識もしなければ使いもしない場所であると言う虚を、完全に突かれたのだ。
「朝からずっと、俺の服の中に……は、ははは……メリーさん並みの追尾能力だな、おい……」
「ご主人様!」
最早、立っている事がやっとの一刀の意識を、朱里の真剣味を帯びた声が呼び戻す。
「今度は何なんだ、朱里……」
「ご主人様、今度は本当に、大変みたいです!!」
「ん―――?あらら……」
伍
「無念……!!」
星華蝶は、悔しそうにそう呟くと、地面に膝を付いた。流石に、一流どころの軍師が二人も付いていると、数で勝る方が圧倒的に有利である。
以前のむねむね団とは、戦略の幅が桁違いだった。現に、星華蝶と仮面白馬は
「恋々しゃま、ミケ達をイジめるにゃ?」
「れんれん、トラ達が嫌いになったにゃ?」
「れんれん様、しゃむ達を叩くにゃ?」
うるうるうるうる……。
「うぅ…………違う、恋、みんなを嫌いじゃない……」
恋華蝶は、自分にしがみ付いて瞳を潤ませ、口々にそう言い募る量産型三人娘に、抵抗出来ずに為すがままになるしかなかった。こんなエグい作戦を、まさか三人娘が思い付く筈がない。
確実に、才乳の荀こと桂花か、炉利乳の程こと風の入れ知恵だろう。星華蝶は、陰険さよりもエグさの方が勝っている事から、風であると推測していたが。
「お~っほっほっほっほ!お~っほっほっ……げほげほ!?―――ッぜぇぜぇ……ゴホン!どうです、チョウチョ軍団と馬面仮面さん。我が品乳むねむね団の力は?」
「むせたな……」
「あぁ、むせた―――てか、馬面言うな!!」
「だまらっしゃい!……まぁ、その小生意気な態度もこれまでですわ!」
いつの間にか地上に降りて来ていた麗羽と残りの大幹部達は、身動きの取れない華蝶連者を愉快そうに睨み付ける。
「さぁ、文さん、周さん。そのチョウチョと馬面の仮面……この場で剥ぎ取って差し上げなさい!」
「え!?」
「はぅあ!?」
それぞれ、星華蝶と仮面白馬に得物を突き付けて動きを封じていた猪々子と明命は、麗羽の言葉に驚いて、思わずその顔を見合わせた。
「ねぇ、いっちー。それは流石に、ヤバいんじゃないかなぁ……」
「分かってるよ、きょっちー。でも、麗羽様だし、絶対、訳分かってねぇんだよな……」
「ど、どうしましょう、斗詩さん……」
「どうしようね、明命ちゃん……。麗羽様、本気で星さん達の正体に気付いてないしなぁ……」
猪々子と明命は、それぞれコンビを組んでいた季衣と斗詩の二人と、声を潜めて話し合う。彼女達は、単純に星達の正体を暴く事に漠然とした危険を感じていただけであったが、実は、事態はそれよりも深刻であった。
華蝶連者の正体が、実は軍人だった―――それは、国家権力に依存しない“正義の味方”を求めて華蝶連者を応援していた民衆には、あまりに大過ぎる衝撃であろうからだ。
「(ねぇ、桂花ちゃん)」
麗羽の後ろに控えていた風は、横に居る桂花の服の袖を、くい、と引っ張った。
「(何よ、風)」
「(良いんですか~?ここまでやらせちゃってぇ~。流石に、これ以上は後が面倒になると思うんですが~)」
「(良いのよ!この位しないと、北郷がやる気にならないでしょ?アイツをおびき寄せて、衆目の前で大恥を掻かせる為に、麗羽の下に付くなんて屈辱的な事までしてるんだから!もし、これでも北郷が来ないって言うのなら、アイツが私の予想以上の腰抜けだったって事―――後がどうなろうと、自業自得よ!)」
「な~にをモタモタしてるんですの!?チャッチャとなさいな!チャッチャと!!」
麗羽が、周りの気遣いやら思惑やらなど意に介さずにそう怒鳴ると、猪々子と明命は、おずおずと星と白蓮の仮面に、手を伸ばした―――。
六
「さぁ、文さん、周さん。そのチョウチョと馬面の仮面……この場で剥ぎ取って差し上げなさい!」
麗羽のその言葉を聞いた一刀は、一瞬、眉を
『我等の行いに感じる者が増えたなら、きっと、この国には正義が満ちましょう―――』
『私もなれるかな?今からでも、“正義の味方”に―――』
「…………朱里、腹減ったな―――」
「へ!?」
事の成り行きを、固唾を呑んで見守っていた朱里は、主の場違いな呟きに、思わず間の抜けた声を上げた。
「いや、昼飯、食いっぱぐれちゃったからさ。ほい!―――これで、肉まん買って来てくんない?」
一刀は、困惑する朱里の胸元に財布を放り投げて、片目を瞑った。
「“恋が腹一杯になる位”、たくさん頼むわ」
「!?―――はい!!」
朱里は、一刀の言葉を聞くと、困惑した表情から一転、晴れやかに微笑んで、群衆を掻き分け、点心の屋台を探しに行ったのだった。一刀は、その後ろ姿を確認すると、冥琳に小声で話し掛けた。
「んじゃ、冥琳。悪いけど俺、朱里が戻って来るまで、一服しに行ってくる―――蓮華の事、宜しくな?」
「一服……なぁ?」
冥琳はそう言って、危機に陥っている華蝶連者に再び釘付けになっている蓮華にチラリと視線を投げると、愉快そうに笑った。
「まぁ、良いだろう。さっさと“済ませて”こい。民衆から英雄が取り上げられるのを唯、見ているだけと言うのも、つまらんからな」
「恩に着る……!」
一刀は、振り向かずにそう言うと、裏路地に向かって、足早に歩き出すのだった―――。
七
猪々子は、麗羽の叱責を受けて、諦めた様に溜め息を吐いた。
「あ~、もう限界みたいだわ……悪く思うなよ……」
「す、済みません、ぱいれ―――仮面白馬さん……」
明命もそう言って、猪々子に倣い、白い仮面に手を伸ばした。その時―――。
「待てぃ!!」
良く通る男の声がその場に木霊し、一瞬、全ての人間が動きを止めた刹那。鋭い風切り音を伴った物体が弧を描いて飛来し、猪々子の大剣と明命の刀を、火花を伴って弾き上げ、再び空中に舞い上がって行った。
星華蝶と仮面白馬は、その瞬間を見逃さず、地面に捨てさせられた己の得物を手にしながら素早く後退して、間合いを切る。
「ムキ―――ッ!!もう少しでしたのに!私の邪魔をしたのは、どこのスカポンタンですの!?」
男の声は、麗羽の苛立ちを爆発させる様な怒声など存在しないかの様に、何処からか朗々と言葉を紡ぐ。
「優勢と劣勢には翼があり、常に戦う者の間を飛び交っている―――例え絶望の淵に追われても、勝負は一瞬で状況を変えるのだ。人、それを―――“回天”と言う!」
「あっ!上だよ!!」
その場に居た全ての人間が、小蓮が指差した先に視線を注ぐ。そこ―――大櫓の頂点の欄干の上―――に、男は日輪を背にして、仁王立ちになっていた。
男が、右の人差し指と中指で挟んでいるのは、白い仮面だ。男は、その仮面を投擲して、猪々子と明命の武器を弾いたのである。下に居る者達には、男が背負った日輪の逆光で、その素顔は影となって隠されていた。
「この―――そこは、私の特等席でしてよ!?無礼な!何者です!!?」
「お前達に名乗る名は無い!!」
男は、仮面を自分の顔に着けてそう言い放つと、迷いも見せずに欄干の上から飛び降り、腰の剣を抜き放つ。
「剣よ、勇気の雷鳴を喚べ!!」
男が空中でそう叫ぶと同時に、空中でくぐもった爆発音が轟き、男の身体を白煙が包み込んだ。次の瞬間、白煙を突き抜けて現れた男は、白いロングコートの上から更に短いマントを纏い、身体に白い糸の様な煙を引いて悠然と地面に着地し、ゆらりと剣を構える。
「闇ある所、光あり。悪ある所、正義あり。草原よりの使者、仮面白馬・剣龍……参上!」
男の口上を聴いた民衆から、一斉に喝采が巻き起こる。
「ちょ!?貴方、この前は“ばいかんふー”とか言っていたではありませんか!何で、名前が違うんですの!?」
「その訳は、いずれ解る……貴様らが、それまで立っていられればな!」
「ムキ~~~ッ!!何処までも無礼な男ですわね!皆さん、やっておしまい!!」
地団太を踏んだ麗羽が右手を翳すと、幹部達と戦闘員が、一斉に剣龍に向かって武器を構える。今、都に現れた新たな仮面の戦士と、品乳むねむね団との死闘の火蓋が、切って落とされた―――。
あとがき
はい!今回のお話、如何でしたか?もうね、気が付いたときには、自分でもどうにもならない長さになってしまいましてね……。
今回での完結を期待して下さっていた方々、本当に済みません……orz
図々しい話で恐縮ですが、コメント、支援アイコンクリックなど、励みになりますので、宜しくお願いします。今作に忍ばせた元ネタの数々、いくつ発見してもらえるのでしょうか(笑)
では、また次回、お会いしましょう!!
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どうも皆さま、YTAでございます。
本来は、三部作構成にしようと思っていた今作なのですが、何時もの如く、長くなってしまいまして……。
気が付いた時には、倍功夫登場までに13ページも使ってしまい、このまま書き続けると、ストーリーのテンポが悪くなってしまうと危惧し、四部構成にさせて頂きました。
兎も角、どうぞ!!