「チェッ……」
商店街の小石を蹴飛ばすと美和狼は納得いかない顔でうなだれた。
「竜にぃ、あのサイコロに絶対にイカサマしただろう……」
夕食の買出しの時にした勝負のチンチロを思い出し、苛立った。
「連続で丁が出るなんて、絶対にありえない! 今度戦うときは」
怒鳴り声が聞こえた。
「おい、ガキ、人にぶつかっておいて、ゴメンもないのか!?」
「これだから、最近のガキは教育がなってねーぜ!」
「ご、ごめんなさい……えっぐ」
小学校に上がったばかりと思える女の子が泣きながら、中学生くらいの男二人に謝っていた。
「ゴメンじゃねーよ! 最近のガキは謝れば、なんでも許されると思ってやがるのか!?」
「俺が親に注意してやる! 親を呼んで来い! ぶつかった分の慰謝料は貰うからな!」
美和狼は頭痛を感じた。
(典型的な中学生男子の絡み方だな)
自分より弱いものにしかたかれない男たちに美和狼はため息を吐いた。
「おい!」
「あぁん!?」
振り返る男たちに美和狼は拳を振り上げた。
数秒後。
「ご、ごめんなさい……も、もう弱いものを脅さないから、許して」
「いてぇよ~~……死んじまうよ~~」
全身、打撲まみれの血だらけの鼻血にまみれの顔で男たちは泣き出した。
美和狼は飄々とした態度で足を上げた。
「そんなに強く殴ってないよ」
傷口を踏んづけた。
「ぐぇえぇぇ!?」
「いってぇぇぇ!?」
あまりの激痛に泣き狂う男たちに美和狼はクスッと笑った。
「痛いといえば、許されると思ってるの? ゴメンといえば許されると思ってるの? 最近の子供は躾がなってないね?」
「ヒィィ……!?」
男たちがいった言葉を真似ると美和狼は二人のうちの一人の頭を鷲掴みにした。
「この町で粋がってると、死ぬよ……私の手でね?」
頭を離し蹴飛ばした。
「ほら、死にたくなかったら、さっさと消えろ、グズ!」
「ひ、ひえぇぇぇ……」
泣きながら逃げる男たちに美和狼は手のひらから精神エネルギーを集中させ作った拳銃・大弓銃(だいきゅうじゅう)を取り出し、引き金を引いた。
「ほら、死にたいの? さっさと消えろ!」
「は、はひぃぃ……」
男たちは飛び交う拳銃の雨の中、泣きながら逃げていった。
自分を取り巻く人間達に美和狼は空に拳銃を撃った。
「なんだ、君たちも死にたいのかい?」
みんな厄介ごとはゴメンだといいたそうに散っていった。
「まったく」
根性のない大人たちにさらに呆れた。
「大丈夫かい、君?」
「あ……?」
女の子と目が合うと美和狼は不思議な感覚に襲われた。
(どこかで会ったことのあるような?)
「あ、ありがとう、お姉ちゃん。助けてくれて!」
「まぁ、アレくらいはね」
拳銃を消し、テレた顔をした。
「やりすぎな気もするけどね」
「いうね……」
無邪気に笑う少女に美和狼も自分の行動を反省した。
「お嬢ちゃんも買い物?」
「うぅん! 従兄妹のお兄ちゃんのところに遊びに来たの!」
「そうか? じゃあ、気をつけていっておいで。あんなのに絡まれたら命がいくつあっても足りないからね」
「わかった! ありがとうね、お姉ちゃん!」
満面の笑顔で走る少女に美和狼も手を振った。
「さて、買い物に戻るか……アレ?」
ポケットに入れておいた財布がなくなっていた。
頭の中にさっきの記憶が蘇った。
自分に抱きついてきた男の顔が思い出された。
「あいつら!?」
血相を変えて走り出した。
美和狼から逃げると男はビルとビルの間の路地で倒れ、泣き出した。
「だ、だから、この町で調子に乗るのやめようっていったんだ! この町はバケモノだらけの人間が多いんだぞ!?」
「う、うるさい! 最初にあのガキに絡んだのはお前だろうが!?」
「だ、だからって……」
「それにあんな乱暴者に簡単にやられる俺じゃないぜ」
ポケットから可愛い柄の財布を取り出した。
「それって?」
「アイツのポケットから奪ってやったぜ。慰謝料代わりに貰っちまおうぜ!」
「バ、バレたら、殺されるぞ、本当に?」
「大丈夫だって! 俺たちは中学生だぜ、まだ、謝れば許してくれる年だって!」
「で、でもさ……さっきの女、銃を」
「気のせいだ! この平和な日本でどうやって、拳銃なんて、手に入れる!? ただのエアガンだよ!」
「で、でも……」
「うるせーな! これは正当な慰謝料だ! なんだったら、今すぐ、あいつのもとへ行って」
「なるほど、お前たちは財布を取ったくらいで仕返しが完了したと思ってるわけか?」
「ヒィィッ!?」
怯えたように振り向くと男はホッとした顔で眉間にしわを寄せた。
「なんだよ、オッサン! 俺たちに気軽に話しかけるな、殺すぞ!?」
「俺の名はスサノ。あの女に生きてもらうと困る人間だ」
「あの女?」
「どうだ、仕返ししたくないか? 自分をそんな痛い目にあわせた奴に倍の痛みを味合わせたくないか?」
「で、出来るのか?」
スサノの言葉に財布を取った男は疑わしげに近寄った。
「ああ、この光を手に取れば、お前たちは地上最強になれるぞ」
手のひらに二つの光の球が現れた。
二人は喉を鳴らした。
「こ、これをとれば」
「あいつに仕返しが出来る」
美和狼に対する筋違いの怒りが二人に襲った。
「俺たちの力」
「俺たち最強」
光に触れようとした瞬間、背中から怒鳴り声が響いた。
「見つけたぞ、この盗人野郎!」
「ヒィッ!?」
美和狼の怒鳴り声に二人は驚いたように光に触れた。
二人の身体に信じられない激痛が走った。
「グァァァァァァァ!?」
「ギャァァァァァァ!?」
美和狼はスサノを認めた。
「お前はあの時の!?」
「人間を倒せるかな、勇神?」
二人の身体が巨大なサイとゴリラの宇宙獣へと変わり、巨大化した。
「これは!?」
「人間を宇宙獣に変える秘儀だ。どうだ、こいつらと戦えるか?」
「エグイことをするね?」
「俺は悪だからな?」
ニヤリと笑うスサノに美和狼も笑った。
「君は勘違いしてるようだね?」
「勘違い?」
「私は勇神一、残酷なんだ!」
暴れ狂う二体の宇宙獣の身体に黒い狼のロボットが体当たりしてきた。
「ほう、人間と戦うか?」
「財布を取られた恨みもあるからね」
銃を構える美和狼にスサノはゆらっと揺れるように後退した。
「逃がすか!」
銃を撃った。
銃弾がスサノに当たることなく、霧でも打ったように後ろの壁にめり込んだ。
「逃げたか!?」
スサノの姿が霧となって消え、美和狼は苛立った。
「まったく!」
二体の宇宙獣と格闘する黒い狼のロボットに美和狼は叫んだ。
「牙星合体(きばせいがったい)!」
襲い掛かるゴリラの宇宙獣の拳を避け、黒い狼のロボットは空中でムーンサルトを決めるようにジャンプした。
狼のロボットの身体が人型のロボットに変形した。
美和狼の身体が人型へと変形した狼のロボットの角飾りへと吸収されるた。
「牙星神!」
目に強い光が宿り、叫んだ。
「キバテイオー!」
地面に着地するとキバテイオーは拳を構えた。
サイの宇宙獣が突進した。
「宇宙獣になっても頭が悪い」
突進してくるサイの宇宙獣の身体を片手で受け止めた。
後ろからゴリラの宇宙獣が両手を組むように手を握り、後頭部を殴りかかろうとした。
「遅い!」
サイの宇宙獣をまるで鈍器でも振り上げるようにゴリラの宇宙獣の身体を殴った。
「ぐああぁぁぁぁ!?」
ゴリラの宇宙獣の身体が遠くへ吹き飛ばされ、大地を大きくえぐった。
「ヨッと!」
鈍器代わりにしたサイの宇宙獣もゴミを捨てるようにゴリラの宇宙獣に向かって投げ飛ばした。
「ぐあぁ!?」
短い悲鳴を上げる二体にキバテイオーは手のひらから精神エネルギーを具現化させた牙星銃(きばせいじゅう)を取り出し、グリップを握った。
「少し、反省しろ!」
銃口からエネルギーが収束された。
「月光銃撃(げっこうじゅうげき)!」
「ッ!?」
撃ち放たれたエネルギーが二体の宇宙獣を飲み込んだ。
彼方へと消えるエネルギー波にキバテイオーは感心した。
「自分で言うのもなんだけど、さすがの威力だ」
クレーターの出来た穴の中で黒焦げになって気絶している人間に戻った男たちを見た。
「まったく……バカしなきゃ、痛い目にあわないものを」
銃を仕舞い、背を向けた。
買い物を終わり、家に帰ると美和狼はビックリした。
「君は!?」
「あ、お姉ちゃん!」
竜と遊んでいた少女は大好きな姉に飛びつくように足に抱きついた。
それは紛れもなくさっき、自分が助けた少女であった。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんの彼女?」
「お、お兄ちゃんって?」
自分に抱きつく少女に美和狼は真っ青になった。
竜も頷いた。
「美和狼だ。小さい頃のお前だな」
納得したように頷いた。
「どこかであった気がしたと思った……」
自分自身と出会うなんて、なんとも不思議な気持ちだった。
「でねでね! 私、しばらく、ここに住むことになったから、お姉ちゃんの名前を教えてよ!」
「え?」
信じられない顔で竜を見た。
竜も申し訳なさそうに頭を下げた。
「叔母さん夫婦には色々と世話になってるから、逆らえないんだ!」
「竜にぃ~~……」
呆れた顔でため息を吐いた。
「お姉ちゃんの名前は?」
「お、お姉ちゃんの名前ね?」
目線を合わせるため、しゃがんだ。
「け、慶狼。慶狼黛(けいろうまゆずみ)だよ」
「慶ねぇか! よろしくね、慶ねぇ!」
「うん。よろしく、みか……ちゃん」
「プッ!?」
自分で自分にちゃん付けする滑稽な姿に竜は笑い出した。
竜の頬に一線の傷跡が出来た。
「え……?」
タラ~~と傷口から真っ赤な血が流れた。
竜は真っ青になった。
「ごめんなさい」
「よろしい!」
銃を仕舞うと小さい美和狼もマネるように銃を仕舞うジェスチャーをした。
いまだにクレーターの中でアホな顔をして倒れている中学生の男たちにスサノは呆れた。
「同じ人間なら、手が出せないと思ったが、アイツは悪魔か?」
生きてることは生きてるが、これは当分、再起できないだろうなとスサノは同情した。
「やっぱり、回りくどい手は通じないか」
携帯電話がなった。
「郷氏か? そうか。前回失敗した運命町の封印点(ふういんてん)は破壊したか。まぁ、今回はこれくらいで満足するか」
アホな顔の男たちを一瞥し、一万円札を数枚投げた。
「慰謝料だ。欲しいんだろう……」
投げた金がうまい具合に風に乗り、黒焦げになった二人の上に落ちた。
ガバッと起きた。
「か、金だ!?」
「こ、これで遊べ……いってぇぇぇぇ!?」
「う、腕が……両手の腕が骨が折れた~~……!?」
「救急車呼んでくれぇぇぇぇぇ!?」
地面を転げまわる二人にスサノは笑った。
「大好きな慰謝料が治療費に足りるかな?」
クスクスと笑いながら、スサノは去っていった。
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当時、中学生だった私の記憶は教師にも先輩にも恵まれない暗黒時代でした。
唯一の救いは同級生には恵まれてたくらいでしょうか。