No.442136 獣王恋姫伝 ~時代の破壊者~ 第一話ZERO(ゼロ)さん 2012-06-26 14:52:52 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:1834 閲覧ユーザー数:1765 |
~Side ????~
「何だ、また殆ど食っては無いではないか・・・遠慮ばかりして居ると成長出来んぞ少年」
その言葉を聞いているのか聞いていないのか判らないような表情で目の前の少年は私を見つめて来る。
食事の載った盆に眼を落とせば食べては居ない訳ではないようだが、明らかに年頃の少年が食すには少な過ぎる量のみが減っているだけであった。
私がこの少年を拾って一週間程の時が流れた。
拾ったその時からこの少年は一言も口を聞こうとはしない・・・いや、若しくは口が聞けないのだろうか?
取り合えず私が出す食事を少ない量とは言え食べている所を見れば、死にたいと言う訳ではなさそうではあるのだが・・・。
「まあ良いか、食べるだけは食べているんだから。
取り合えず向こうに作りおきを置いておくから腹が減ったなら遠慮なく食え」
取り合えず耳は聞こえるだろうと思われる少年を残し、私は自室へと戻った。
自室に戻って思う、相も変わらずだが殺風景な部屋だなと・・・あるのは粗末な机と椅子、それに少々の書簡と寝床のみ。
元々私は物を残す事や取って置く事を余り好まぬ性格故に必要最低限のものしか置く事はしない―――この書棚すら置いていない部屋を見て、私をかつて洛陽の県令だったと聞いて驚く者は実に多い。
「さて・・・何処まで読んだか」
粗末な机の上に置いてある書簡を取ると文を眼で追いながら今まで読んだ箇所を探し出す。
・・・思えば他の書簡には興味すら湧かぬが、この漢書の名臣列伝だけは興味が湧き読み続けてきた。
臣の在り方、歴史、生涯・・・そのような物ばかり読み耽っているが故に私は今の時代の為政者達には興味を持てないのかもしれない。
小さき事、己の利権、欲望を発散する事しか考えぬ愚かな者達が多過ぎる今において遥か昔に偉業を成した者達のようになれと言うのが度台無理な話なのかも知れぬが。
「・・・ふむ」
書簡に眼を向けながら私はふと、脳裏に“あの少年の姿”が浮かんだ。
一週間前に初めてあの少年を見つけ、我が家に連れて来てからも・・・最初に会った時と同じように何をするでもなく、唯虚ろな目で虚空を眺めているだけだった。
その姿はまるで心の無い人形のように、唯其処に“生きている”と言うだけでそれ以外の事は何も出来ないかのようである。
全身中に刻み込まれた数多くの傷。
其処から垣間見るに恐らくは何処かの戦にて親を亡くし、更に己も死ぬような思いをした故に心と言うものが壊れてしまっているのではないかと思う。
国の中心たる者達が腐り果てている今においては珍しくも無い話だ。
だがあの虚ろな目はかつての私に良く似ている。
意味は違えどかつての私もまた生まれ付いて他人の興味持つ事に興味を持てず・・・他人を、家族さえも関わりを持とうとせずに生きていた。
己の知の探求、武の探求にのみ全てを捧げ、両親が鬼籍に入ろうとも涙どころか感情の変化すらなかったのだ。
何時しか気付いた時には私の周りに血縁者達は一人も居なかった。
友も居らず、妻も娶らず、唯意味など無く他人の存在を否定して生きて行く事の無意味さ、価値の無さを・・・私は全てを亡くし、云十年以上の歳月を掛けて漸く気が付けたのだ。
愚かだった―――
他人に興味を持てなかったのではない、己から壁を作り誰かが入り込んで来るのを否定していただけだ。
いや違う、本当は誰かを信じて心を許し裏切られる事を恐れていただけ・・・自分本位な理由を勝手に大義名分として、人を信じるのが怖かっただけに過ぎない。
その事に気付いた時、私は無性に空しさを感じたものだった。
私は両親・親類達の墓に手を合わせた後に生まれ故郷を去った。
変わるのであれば己が変わらねばならない・・・その為には、全てを捨てて一からやり直そうと。
そして新天地として今の地を見つけ、勝手が判らぬがどうにかこうにか私塾のようなものを開きながら今に至る。
あれだけ否定していた他人も、その者自身の良さを見つけ、自ら逃げぬように歩んできたお陰で少ないながらも心を許せる友もいる。
だからだろう・・・昔の己と同じく、他人を否定して自らの殻に閉じ篭ったあの少年を此処に拾って来た理由は。
―――ガチャァァァン!!
その時響いた皿が割れる音。
何事かと思い私は席を立ち、音のした方へと向かう。
このような質素倹約と言う言葉が実に合いそうな屋敷に忍び込む泥棒など居まい、と言う事はあの少年がどうかしたのではないかと考えるに至った。
かの少年を連れて来て一週間、何かの動きがあったのは初めての事だ。
音のした場所に付いて私が最初に見たもの。
それは―――自らの腕に包丁を付き立てようとしている少年の姿だった。
~Side out~
虚空を見つめ続ける少年―――かつては北郷一刀と呼ばれていた人物。
それが己の違和感に、己自身の身に普通と違う“ナニカ”があると気付いたのはほんの少し前の事である。
自分が誰なのかは良く判らない。
漠然と“カズト”と言う名と、それに併せて自らの身体にまるで虫が蠢くかのように感じる不快な鳴動。
そしてその先に見えるのは本来なら居る筈もない、眼に映る人のカタチをした何か。
それら人の形をした何かは何をするでもなく唯少年を見つめている。
初めの内は何故それらが自分を見つめているのか良く判らなかった・・・だがそれが二日、三日、四日と続く間にそれらが見ているのは自分ではないと気付いたのだ。
彼らが見つめているもの、それは少年の右腕であった。
『何故自分の右腕を見つめているのか?』
意味が判らずに自らの腕に目線を落としたその時、少年の目には信じられないものが映ったのだ。
それは右腕のみがまるで獣の如く鋭い爪と体毛を生やして居る光景・・・その腕のみがまるで異物かの如く姿を取っていたのである。
そこで少年はある事を思い出した。
自らの身に感じていた不快な鳴動、衝動・・・その正体はこの腕であったと。
この腕を無くしてしまわなければならない、この腕があればまた誰かに苦しみを与える事になる。
そんな思考を自らの中で抱いた少年は、一週間の歳月により何とか動くようになった体を推すと虚ろな眼のまま歩き出した。
歩いた先で見つけたもの・・・それは包丁。
その隣に置いてある食事になど眼も向けぬままに少年は置いてあった包丁を手に取ると、自らの右腕を台の上に置き、その腕に向かって躊躇無く包丁を突き立てようとする。
しかしその時、不意に後ろから誰かに声を掛けられたのだ。
「こら少年、包丁とはそのような事に使うものではないぞ?」
その言葉に振り下ろされていた包丁が異形の腕に突き刺さる寸前で止まる。
少年の虚ろな目線が空を彷徨う様に動いた後、声がした方向へと向いた―――其処には初老の紳士が立っていたのだ。
初老の紳士はゆっくりと歩み始めると少年の前に向かい、怖がらせぬように目線を合わせて座り込むと優しく包丁の刃を摘んで手から離させた。
その時、初老の紳士は少年の異形の腕を見る。
しかしそれには一切触れずに包丁を調理台の上に戻すと、もう一度目線を合わせるようにして座り込んで少しだけ微笑むと少年に向かって呟いた。
「腹は減っていないか?」
初老に紳士の言葉に困惑する少年。
少なくとも目の前の人物は先程、己の異形の右腕を見ていた―――普通ならば気味悪がるであろうのに、何故?
だが、その意味が判る前に空気を読まないようにして『ぐうぅぅぅ』と言う音が鳴る・・・その音源は他でもない、少年の腹の音である。
音を聞いた初老の紳士は微笑みながら言葉を続けた。
「はっはっは、身体は正直だな?
良し待っていろ、今新しい食事を作ってやる・・・こう見えても自炊経験は長いからな、味は保障するぞ」
困惑する少年の目線の先に映ったもの。
それは床に落ちて散乱した皿の破片と、その皿の中に入っていたであろう炒めた米、炒めた野菜などだ。
どうやら先程包丁を取ろうとした時に近くに置いてあったらしいが、気付かずに落としてしまったのだろう。
―――すると直ぐに良い香りがし始める。
先程『味は保障する』と自分自身で言っていただけあり、初老の紳士の手際は実に良い。
直ぐに新たに置かれた皿の上に暖かな湯気立つ旨そうな野菜と肉の炒め物が出来ていた・・・。
更にその後直ぐに炒め飯が皿の上に出来上がると初老の紳士は少年に尋ねた。
「さあ出来たぞ、暖かい内に食べると良いぞ少年。
・・・ふむ、よくよく考えてみれば何時までも『少年』などと呼ぶのは無礼かな?
もし口が聞けるなら名前を教えて貰えると有難いのだがね? 聞けないのであればそこ書いてくれれば良い」
指し示した場所には紙と筆。
少年が困惑したままで居るのを見、初老の紳士は続けて口を開いた。
「おお、これは済まんな。
人の名を名乗る前にまずは自分が名乗ると言うのが礼儀であったか。
私の名前は姓は『司馬』、名は『防』―――この洛陽の外れでしがない私塾を開いてる者さ」
『司馬防』と名乗った初老の紳士は自己紹介が終わると置いてあった椅子に座り込む。
少しだけ待っていたようだが・・・まあそもそも一週間程度しか経っていない、しかも何か秘密がありそうな少年がいきなり自己紹介などする筈もないと思っていたのかゆっくり立ち上がり食事の載った盆を少年に優しく手渡した。
「無理して教えてくれとは言わんよ。
まあ取り合えずそうやって動き回れるようになったのだから、今日からはしっかりと食事を取らねばいかんぞ?
さあ、暖かい内に食べてしまうと良い」
進められるまま、少年は匙を取り食事を口に運ぶ。
『暖かい・・・』―――飲み込み終わった後、腹の奥だけでなく胸の置くまで心地よく暖かくなるのを感じた少年は夢中で食事を食べ始めた。
「おいおい、別に誰も取らんからそんなにあわてて食わなくても良いぞ?」
しかし司馬防がそう言っても少年は聞かずにまるで獣かの如く貪り食らう。
やがてそんな慌てた食事の仕方が原因か、いきなり咽始めると・・・何と少年は涙を流していたのだ。
「やれやれ、言わぬ事ではない。
もっと落ち着いて食うが良い、何度も言うが誰も取らぬのだから・・・」
優しく背を摩る司馬防。
だが少年は苦しかった訳や、咽た訳で涙を流している訳ではない。
・・・胸の奥が暖かくなる度にこみ上げてくる何かが少年の頬に涙を伝わせていたのだ。
少年はこの食事が終わった後も暫くの間、とめどなく流れ落ちる涙を止める事は出来なかった―――
「美味かったかな?」
そう優しく問い掛ける司馬防。
対して少年はぎこちなく、極めて小さくだが頷いた―――まあそもそも、不味い料理を泣きながら嬉しそうに食べる者もそうは居まい。
再び沈黙が訪れる・・・。
だが敢えて司馬防は少年を問い質そうとはしない。
彼は知っている、どんな聖人君主であれ隠しておきたい事の一つや二つは必ずあると言う事を。
・・・そもそも己とて、人には語れぬ“裏の顔”のようなものがあるのだから。
と、その時。
不意に沈黙を破るように少年が口を開く。
「・・・・・・カ・・・ズト・・・」
か細い声で呟かれた言葉。
どうやら口を聞く事は出来るようだ、それを理解した司馬防は微笑を浮かべて言葉を返す。
「“カズト”・・・それがお主の名かな?」
少年は肯定も否定もしない。
しかしその名を呼んだ際にじっと司馬防の事を見つめている所を垣間見れば、それが彼の名だと言うのは間違っては居まい。
それ以来再び俯いて黙り込んでしまうカズトと名乗った少年。
「ふむ、カズトか・・・成る程、覚えたぞ。
しかしお主、良いのか? どうもその名前は真名のようだが、こんな見ず知らずの私に行き成り名乗ってしまって?
―――と言うよりも、男で真名を持っている事自体が珍しいがな」
矢継ぎ早に言葉を続ける故に困惑したような表情を司馬防に向けるカズト。
その表情に気付き、バツが悪そうに笑う司馬防・・・洛陽の県令をやっていた頃の未知への探究心は未だ健在のようだ。
「いや、済まぬ済まぬ・・・つい余計な事を」
再び沈黙が流れる二人―――
そんな中カズトの姿を見ながら不意に司馬防は気付く、しきりにカズトがモジモジと座りながら動いているのだ。
・・・それは別に厠に行きたいのでは無かろう、司馬防の目線から己の異形の右腕を隠すようにしている。
その眼には“恐怖”のような感情が浮かんでいた。
当然だろう、本来なら普通の人間には存在しない筈のものを持っているような人物の事をどう思うだろうか?
化け物だと罵るか、奇異の目で見るか、どちらにしても碌な事がある筈が無い・・・自分が何なのかが判らないカズトであっても、その位の事は理解出来た。
そしてそんな感情を、司馬防もまた理解していたのだろう。
だからこそ彼は敢えてカズトの素性を聞く事もせず、余計な事を言おうともしないのだから。
「カズト」
どれだけ沈黙の時が流れただろうか?
明るかった空は何時の間にやら赤い夕焼け空となっている・・・そんな中、今までずっと黙っていた司馬防が口を開く。
「私はお主の事を何も知らんし、判ったような事を言う資格など無いだろう。
だからこれから言う事をお主がどう解釈しても構わんし、それについて意見してくれとも言わん・・・だが、聞くだけ聞いてくれ」
その言葉に顔を伏せていたカズトが顔を上げる。
「人は生きる上で色んな辛い現実を経験する。
それは生まれ持ったモノも、生まれ付いて無かったモノも同義だ・・・人は生まれ持つ姿を選ぶ事は出来ないのだからな」
そう、それは『例え腕を無くしたとしても何も変わらない』と言う事を暗に言っているのだろう。
何故そんな事を言い出すのか、カズトには判らずじっと司馬防の事を見つめている。
「しかし私は生まれ持ったその力もその姿も必ず意味があると思っている。
人と違うと言う事、それそのものに必ずそうなったと言う意味がな・・・それが判るまでは態々自分を傷付ける事もあるまい?」
そう言うと、司馬防は徐にカズトへと近付く。
そして直ぐ隣に座り込むと・・・必死にカズトが隠そうとしていた異形の手を優しく撫でてやる。
理解が出来ない―――こんな化け物のような腕を持った自分の事が彼は怖くないのだろうか?
「・・・何・・・で・・・?」
カズトの疑問も尤もだ。
しかしそんなカズトに対して司馬防はゆっくりと頭の上に手を置くと撫でながら答えを返す。
「何で? 私がお主を恐れない理由か?
いやいや、そもそもお主は腕がそうなっているだけなのだろう? ならば恐れる必要が何処にあるかね?
それにお主が人心を持たぬ妖(あやかし)ならば、今まで何もせずに居る訳があるまい?」
何の事も無いかのように言い返す司馬防。
彼にとっては見た事、感じた事が全てであり、不確かな事に流されるような人物ではないのだ。
―――少なくともカズトの消失している記憶の中では、彼のような人物に会ったのは初めての経験であった。
「・・・そうだカズト、良ければ此処に住まんか?」
司馬防から突然に尋ねられた提案。
自らの異形の腕の事もあり、訝しげな眼で見るカズトの誤解を解くかのように司馬防は言葉を続ける。
「心配せんでもお主を何かしよう等とは思っては居らんさ。
理由は三つあるが、そうだな・・・一つはこの屋敷には私以外が住んでおらんからな、話す相手も居らんし連れが欲しかったと言った所だ。
それにお主はどうも記憶と言うものが抜け落ち取るように見える、そんな状態で役人にでも見つかってその腕を見られれば確実に命を奪われるだろうよ。
それともう一つは・・・何、お主の様な輩が居れば“面白そう”だと思っただけの事よ」
それ以外に実はもう一つ理由があるのだが、口に出して言うのは恥ずかしい故に語る心算は無い。
まあ当のカズトも行く場所も無く、異形の腕の事もバレて居るのだ・・・ならば無理に出て行く理由もあるまい。
・・・それにカズトはこの場所に居ると、心に暖かさのようなものを感じていたのだから。
「・・・・・・・(コクッ)」
小さくそう頷くカズト。
過去の記憶は彼には無い―――だがその身は、孤独に生きた事の空しさや悲しさをおぼえていたのだろう。
だからこそカズトは、自ら他人を拒否するのではない生き方を選択したのだ。
「そうか・・・ならまずはその腕を何とかしなくてはな。
よし、少しそこで待っていろ・・・確かあの胡散臭い妖術師から買ったアレは何処に仕舞ったか・・・?」
ぶつぶつと独り言を呟きながら奥へと向かう司馬防。
暫くの間、何かをひっくり返すような音が長々と鳴り響いたかと思うと扉が開き出て来る。
その手には何か、黒い色の布のようなものが握られているようだが・・・。
「ふう、やれやれ・・・私とした事が探し出すのに実に苦労した。
物を置くのが好きではないにしても、貰い物を全て納屋に突っ込んでおくのは止した方が良いかも知れぬな」
呟きながら再びカズトの横に座り込むと、異形の腕と化している右腕にその布の様な物を巻く。
どうやら大分伸縮性があるのか、それとも他に何か理由があるのかは判らないが・・・司馬防の持ってきた布は余す事も無く丁度の量でカズトの右腕全てを覆い終わった。
確りとキツク絞めたようにも見えるがその実、腕には締め付けられているような違和感も無いという不思議な布である。
布を巻き付け終わった腕はどう見ても普通の人間の腕にしか見えない。
「ウム、これで良しと。
こうしておけばその腕は見えんし、誰かに聞かれたら腕を怪我しているとでも言えば誤魔化せるだろう。
・・・まあ生憎と白い布が無い故に黒い布となってしまった事だけは勘弁して欲しい」
確かにこれで一応、腕の方は心配は無くなった。
続けて司馬防はカズトに向かって腕と同じ位に大事な事を言う。
それは本来人間であるなら、この“世界”と言うものに存在しているのならば誰もが持っていながら大事だと気付かないもの。
至極単純で、ごく当たり前で・・・それ故に誰もがその事に何の疑問も持たないもの。
それは―――
「それからな、流石に“カズト”と言う真名だけでは他人から呼んで貰う際に不便だろう?
それに素性の知らない子供のままではお主がいざと言う時に大変だと思う、だからお主に真名以外の名前を付けてやりたい。
立場はそうだな・・・妻も居らぬのに行き成り子が出来ては何かと面倒な事になりそう故、私の甥っ子と言う事にしておこう」
其処まで言ってから一度考え込むように顎に手を当てる司馬防。
少しの時間の沈黙の後、司馬防はカズトにとって“新しい人生を歩む為の新しい名”を呟いた。
「名前はそうだな―――『司馬懿 仲達』でどうだ?
私にもし息子が出来たなら付けてやろうと考えていた名だ・・・残念ながらその機会には恵まれなかったが。
どうするかね? もしお主が良ければだがな」
問い掛ける司馬防にカズトは小さく呟く。
「司馬懿・・・仲達・・・。
それが・・・ボクの・・・新しい・・・名前・・・」
嬉しそうにそう言葉を呟くカズト。
当然だ・・・名も無く自らの力の意味も判らず人形のような少年が、人から自らの存在を認めて貰ったのだから。
司馬防もまた、そんなカズトの・・・いや『司馬懿 仲達』の気持ちを理解したのだろう、微笑みながら呟いた。
「ああ、そうだな。
おめでとう・・・今日はお主が司馬懿 仲達として生まれ変わった日だ。
これからよろしくな、カズト」
その言葉に、カズトは・・・ぎこちなくだが、嬉しそうに初めて笑っていた―――
さて第一話、如何だったでしょうか?
意外とこのような流れになるのを読んでいた読者の方は多いのではないでしょうかね。
そう、この物語は名を無くした北郷一刀が後に三国時代を終焉に導く『狼顧の相』を持つとされた稀代の軍師・司馬懿仲達の名を貰い生きていく物語です。
ちなみに武闘派タイプっぽいこの作品の主人公を司馬仲達にしたのにはそれなりに理由があります。
実は仲達、三国志などでは結構諸葛亮なんかと並べられる為に“軍師”だとメディアでは考えられてますが史実では参謀よりも将軍として活躍した方が多いんですよ。
真・恋姫では名だたる武将などが結構女性化しちゃってますので有名どころは仲達位だったモンで。
(まあ後は作者が魏が好きだってだけの話ですけどね)
ちゅう訳で、この作品の司馬仲達は軍師ではありません。
あくまでも“軍師が兼任出来る武将”として描いていきますので、他の作品とはまた違った感じになると思います。
それをどうぞお楽しみに~^^
追伸:尚、作中に出て来る『司馬防』と言う人物は史実では司馬懿の父親です。
更にこの人、実は曹操を洛陽の北部都尉に起用した人で、曹操が魏王になった後も親交が深かった人物らしい。
(真・恋姫で曹操(華琳)が尊敬していたらしい『橋玄』つう人物は多分、この司馬防のエピソードも基にしているのだと思われます)
キャラクター設定:その1
司馬懿 仲達
姓:司馬 名:懿 字:仲達
真名:神律刀(神を律する刃(刀)と言う意味)
司馬防の甥っ子として生きる事となったかつては北郷一刀と呼ばれていた少年。
『貂蝉』と名乗った謎の少女の導きにより過去の記憶の殆どを浄化された状態で外史へと送り込まれる。
元は遺伝子改造超兵として改造された過去を持ち、現在でも貂蝉が意図して残したのか、それとも別の要因が関わったのかは不明ながら右腕のみが人の物では無い。
司馬防から貰った謎の黒い布によって現在は腕を隠している状態である。
性格は素直な人物ながら皮肉屋。
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【第一話:新たな名】