No.440951

TRAVELING GAROYLE-サンプル-

シセさん

すっかり告知投稿する事を忘れていた・・・。 完全に後の祭りでも何者でもないですが、先月の博例神社例大祭⑨で配布した新刊の委託が始まりましたので告知含めて上げておきます。本当に今更すぎるなぁ・・・
とらのあな【http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/04/87/040030048792.html

今回のイラストは因幡うさぎさんに描いていただきましたっ!《http://www.pixiv.net/member.php?id=53405

2012-06-23 21:48:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:655   閲覧ユーザー数:654

TRAVELING GARGOYLE

 

紅魔館の中で一番の広さを誇る部屋。紅い蔦が纏わりついたような手摺りが図書館をぐるりと覆っている。その光景を見ていると蔦と言うよりも赤錆がついているようにも見えた。中央には図書館の各階を繋ぐ螺旋階段が天井に伸び、支柱が天井を突き抜けているように感じる。その姿はこの図書館の中で孤独に見えるようだった。この図書館の造りはレミリアの趣向なのか、はたまた何処かの誰かなのか。私は知るよしも無いが、不気味に紅へ染まるこの図書館は、紅魔館と言う名前にふさわしい図書館かもしれない。

地下に一階、地上から二階と合計三階程もあるこの図書館は、部屋の壁に木製の本棚が置かれ、茶色に色褪せた本が血を吸ったように赤い図書館に似合う形で仕舞われていた。

私は図書館の一番下の階、地上から数えて地下一階に相当する階にいた。本棚が壁と平行に並ぶ先、白いレースが敷かれた円卓が一つ置かれている。そこに私を合わせ三人の魔法使いが円形に三角形を築く頂点のようにして席に着いていた。二人は黙々と本を読み、一人は円卓の上で打ち伏している。

まだ昼前、刺す程ではない軟らかい太陽の光が、天井のガラス屋根を通して図書館へ光を差し込んでいる。日の光は図書館を美しく紅く照らしていた。暖かい日だ。今の季節を考えると外へ出ればまだ寒いのだが、部屋にいる分には十二分に暖かかった。うつらうつらとした暖かい空気で淀んだ部屋。油断をしていると眠気が私を襲ってきそうだ。暖かい空気の所為で本の内容が段々と頭に入らなくなってくる気がする。もうそろそろ私が夢の中に落ちてしまいそうだ。うぅんと、全身を伸ばしてみる。

「・・・はぁ・・・・・・」

何とも微妙。ふわりとした意識が晴れる事はなかった。

ぼぅ・・・っとした視界の中、周りを見渡してみる。見慣れた図書館。何か目新しい所も、気になる所も見つかる事もない。ここにいる二人も静かに、微動だにせず静かにしていた。

全くもってこの部屋は無音過ぎるし変化が無さ過ぎる。普段であれば読書をするのにとても良い環境だと思うが、今は別。何か・・・こう、少しばかり気分転換になる何か変わった事が欲しい。折角良い本を読んでいるのにこんな気分では内容も頭に入らないし、碌に楽しんで読めない。音楽でもかければ少しは気分も変わるのにと思ったが、この部屋には残念ながら音楽を奏でてくれる蓄音機も楽器も無い。他の部屋から持って来ればあるとは思うのだが、面倒なので眠らない音楽といえば何だろうと少し考えてみることにした。

まずはクラッシック。いや、逆に眠くなってしまう。図書館にピアノソナタの曲でも流れれば、それはとても素敵だと思うがあまり実用的ではないと思う。今の私の状態なら十分ともかからずに、睡魔が私を襲ってくるだろう。ゆったりと奏でられる鍵盤の音楽が睡魔をうつらうつらと呼び寄せて、ここにいる二人もろとも襲ってきそうだ。

だとしたら何だろう。音楽と言うものについてそこまで私は詳しくは無いのが悲しい・・・・・・あ、ジャズはどうだろう?あんなアップテンポで体を飛び跳ねるような音楽が、この静かな場所に似合うかと言われればきっと似合わない。流れる金管楽器、跳ねる音符がきっと私の読んでいる本の上で踊るだろう。だが、私はこの図書館にジャズを流すのは少し名案だと思った。木製の本棚。色褪せ、蟲が食む痕が残る本の背表紙。茶色に染まるを見ると、その色に対してジャズはとても似合う気がする。茶色い音楽。ジャズはそう言う色だと私は思う。使っている楽器が、茶色に近いからかもしれない。ジャズは茶色だ。だから実際この図書館で流す音楽としては一番似合う。彼女たちにしてみれば眠くなるクラッシックよりも、少しばかり気が散りそうな跳ねる音楽を聴いたほうが集中できるだろう。

私は聴いた事のあるジャズを頭の中で奏でながら、手にしている魔導書を眺める。目の前で流れる文字の海が、飛び跳ねているように見えた。あら、意外と良いかも知れない。頭の中でクルクルと妄想した音楽を流すだけでも頭が覚めて来るようだ。私は鼻歌を歌わないよう、気をつけながら目で文字を追って行く。文字達が皆遊ぶようにして私の両手で飛んでいる。何とも楽しそうに見えた。

「なぁ・・・」

と、一人でお楽しみだった私をボソッとした声が止めた。声を発した霧雨魔理沙は私からみて左側。机の上で打ち伏している為、彼女が愛用している巨大な黒い三角帽子が机の上に乗っているようにしか見えない。

「んっ?」

チラリと一瞬、魔理沙を見る。三角帽子がもぞもぞと動き出し、机と帽子の隙間から顔が段々と現れてくる。寝癖のようにウェーブがかかった金髪が白いテーブルクロスに流れた。魔理沙は眠いのか三白眼気味の顔で私に話しかけた。

「・・・暇だ」

魔理沙はあくびをひとつしながらそういった。

「私に言った所でどうにもならないわ」

「暇だ・・・眠い・・・・・・限界だー」

眠気を覚まそうとしているのか、しきりに机の上でごろごろと猫が甘えるように頭を左右に動かしている。偶にうぅんと、うめき声に似た声を上げた。何とも眠そうだが、馬鹿らしく見えた。

「じゃあ寝れば良いじゃない」

もう一人の魔法使い、アリス・マーガトロイドが魔理沙に少し冷たく声をかける。彼女は本から視線を反らすことはなかった。

「だって、こんな昼前に寝たら一日損した気分になるじゃないか」

「無理矢理起きているよりかは良いかと思うけれどね」

アリスはふぅ、と一息つくとブロンドの髪の毛をかき上げる。そしてそのまま魔理沙を放置して再び読書に戻った。

よくよく考えてみると彼女がわざわざ紅魔館へ来るというのは珍しいと思う。いつもであればそこまで他人の家に出向くような事は無いと思っていたが、何か人形の実験で必要な資料を見たいとか言っていた。だが、彼女の読んでいる本をよくよく見てみると標本図鑑だ。しかも魚の。何か人間以外の人形でも作るつもりなのだろうか。私は知るよしも無いが・・・まぁ、静かに本を読んでくれるのなら何も問題は無い。むしろ本好きの仲間が増えるのなら大歓迎だ。

「うぅーん・・・」

アリスに放置された魔理沙は再び頭を机の上で転がし始めた。

全く、そんなに眠いのなら寝てしまえば良いのに、寿命の短い人間の感覚が判らない。そんなに時間というものは大切な物なのだろうか。今の私からすると、それはとても考えられるものではない。

「そんなに眠いのなら霊夢の所にでも行って来れば良いじゃない。何時も霊夢と一緒に話してるじゃない」

 魔理沙が五月蝿く見えてきたので遠まわしに出て行けと言ってみた。

「あいつは祭りの準備だとかで忙しいのだとさ・・・さっき行ったら追い出された」

「あら、そうなの?」

「だから追い出されて帰るところが無くてここに来たんだぜ・・・」

「ここは貴女が帰ってくる場所じゃないわよ」

「戻るのなら自分の家に戻りなさいよ」と、アリス。

「だってやる事無いんだからしょうがないだろ」

 魔理沙の祭りという言葉を聞いて思い出した。そうか、今はそんな時期だったか。例大祭とか言っていた気がするが、そういえばそんな祭りが一年に何度かあの神社で行われていたはずだ。私も一回だけ行った事はある。昔文献で読んだ大きな山車と言った物は無かったが、神社の麓から神社の中までびっしりと出され、まるで出店が神社までの一本道を作っているような光景だったのか印象に残っている。

 確かにあれ程の規模であれば準備で大忙しだろう。ましてや唯でさえ参拝客が少ない神社だ。こういうときでしか稼ぐ手段が無いだろうから、あの巫女も気が気ではない筈だ。

しかし、ここで暇だと言われても正直困る。私は自分の研究を進める為に本を読むことで忙しい。アリスも自分の研究で忙しい。いやむしろ、一体私にどうしろというのだ。暇なら魔理沙も自分の研究のために、参考文献がてらに何か読めば良いじゃないか。

「そんなに暇なら自分の研究の本を読めば良いじゃない」

「いや・・・今実験をやってるんだが、反応が数日かかるんだ。その結果待ち・・・。その実験の結果次第で色々出来るんだが・・・何も手出しが出来ない以上、今の私は何もすることが無いんだ・・・」

「じゃあ何処か散歩にでも行けば良いじゃない。ここにいても何も出ないわよ」

「折角二人で静かに本を読んでたのに・・・」

 アリスがそう、遠まわしで五月蝿いと魔理沙に投げかけた。

「私は、お茶と菓子目当てで私は来たんだ。朝ごはん食べるの忘れていたし・・・本なら昨日丸々一日読んだから今日はもう読みたくないぜ・・・」

 魔理沙のどうしようもない考えにため息をついてしまった。

「お茶とお菓子なんて出さないわよ。貴方は客人じゃないんだから」

「え~・・・。じゃあ何だって言うんだよ」

「 “ 侵入者 ” よ。素敵な名前でしょ?」

「それは・・・とても素敵な呼び方だな・・・」

「ま、アリスは客人だから何か出してあげても良いわ。何が良いかしら?適当に紅茶とお菓子でいい?」

「あら、お構いなく。良い参考文献を読ませて貰っているから、私はむしろパチュリーに何か恩返ししなければならないわ」

「あら、そう?残念ね、魔理沙」

 私とアリスは薄ら笑いを魔理沙に投げかけた。魔理沙は私たちの話を聞いていないのか、まだ机の上で伏せたままだ。

「うぅ~ん・・・どうしろって言うんだよ」

 また帽子がしゃべってるように見えた。もぞもぞと帽子が動く様が、何だか少しほほえましく思えた。どうしても言われてもねぇ・・・。そう思いながら、私は魔理沙を流し目で一旦見た後、再び目線を本に戻す。何時もの事だが、私にどうこうしろと言われても無理なものは無理だ。別に人に強要する趣味はないし、魔理沙に何か紹介したところで、ああでもない、こうでもないとギャアギャア話と体力を使って話をするのが何時もの事。今日はそこまで体調は良くないし、体力を無駄に使いたくないから残念だけど魔理沙、諦めてね。と言うわけで、再びゆっくりと頭の中でジャズを奏でながら本を読む事にした。

「そう言えば・・・・・・さ」

 本に集中しようとした所でまた魔理沙が私に向けて聞いてきた。

「はぁ・・・まだ何かあるの?」

「パチュリーとレミリアって仲が良いのか?」

「唐突に何を言うかと思えば・・・良いと言えば良いわね。そもそも一つ屋根の下で住んでる訳だから、仲が悪かったら今頃放り出されてるわ」

「ふぅん・・・そうかぁ・・・」

 何か腑に落ちないのか、考え事をしているような声で魔理沙は言った。

「何よ?何かおかしいところでもあるの?」

「いや・・・お前とレミリアってどちらかと言うと、正反対の性格だなぁ・・・って思ったから、単純に何で仲が良いかって思っただけだぜ」

「仲が良いことに性格は問題じゃないと思うわ。要は相性の問題よ」

「相性ねぇ・・・本当にそうかぁ~?」

「そういう物よ。アリスだってそう思うでしょ?」

「そうねぇ・・・・・・」

 アリスは急に話を振られた所為か、体を一瞬固まらせたが顎に手を沿え、少し考える仕草をした。

「相性っていのはあるけれども・・・確かに魔理沙の言う通り何で仲が良いのか少し疑問に思うわね」

「おっアリスにしては意見が合ったな」

「あくまで私がいた魔界での話しになるけれどね。魔物とは仲が良い魔法使いはいたけれど、一つ屋根の下で暮らす程仲の良い魔法使いはいなかったわ」

「あら、そうなの?」

「友達としてなら良いでしょうけど、一つ屋根の下で暮らすとなるとそれなりに障害が起きるものよ。魔物独特の風習とか食べ物とか、その辺りが私達とは違うわけだから暮らすまでは行かないわ。まぁ、いたとしても使い魔くらいかしらね」

「へぇ、それは興味深いわね」

 言われてみると、確かに魔物と魔法使いの仲が良いという話は聞いたことが無い。幻想郷に来てからは仲が良い事が普通になっているようだが、レミリアやフランとは食べる物も、そもそも好みも何一つ噛み合う事は無い。食事は咲夜が何も言わず私好みに作ってくれるから別に問題はないし、私からレミリアに話しかけることもあまり無いから風習とかそういったものについてぶつかった記憶は無かった。

「それに使い魔なら、一緒に家にいることもまだわかるけれど、あの吸血鬼は別格じゃない?」

 アリスは読んでいた図鑑を閉じると、テーブルの上に置きながらそう言った。

「使い魔なら私だっていたことはあるぜ。だけれども、レミリアは別格だろ。アレは本物の悪魔で誰も契約しているわけでは無いだろ?傍若無人な魔物と実際に一つ屋根の下で暮らすことなんてまず無いぜ」

「確かに言われてみれば・・・自分自身よくもまぁ、仲良く出来るって思うわね」

 魔理沙とアリスの話も一理ある。種族が違うという事は考え方も違うわけだ。お互いに長い付き合いの所為だろうか、考えてみるとそんな気がしないでもない。レミリアはどちらかと言うと、知的だけど結構子供っぽい。子供っぽい所はここ最近になってからだと思うが、昔から適当なところがあったりしたかな?まぁ、昔と比べても彼女と意見が合うというのは余り無かった気はする。

「考えてみると何とも奇妙だよな。魔法使いって種族は偶にこういうことはあるのか?」

「魔界ではまぁ・・・それなりって所かしらね。良くも悪くも馬が合えば仲は良いけれども、さっきも言った通りやっぱり暮らすというところまでは行かないわ」

「やっぱりそうだよなぁ・・・」

 魔理沙は椅子に凭れ掛かり天井を見上げると、うぅむと唸った。

まぁ、それもそうだ。傍から見れば私たちの関係はかなり微妙でとても不思議な物なのだろう。幻想郷の常識に何時の間にか浸っていた所為かもしれない。

そう言えばどうして私は一緒に住むことになったんだろう?確か咲夜と出会って成り行きで一緒に住むことになったはずだけれども、レミリアと知り合ったのはもっと前からだし、初めて知り合ってからそれがきっかけとなっているのだろうか・・・。天井を見上げたままの魔理沙を横目で見る。ふと、目が合った。

「何で仲がいいんだ?」と聞きたそうな眼を向けられる。

何で仲が良いのか。どうしてだろう。単純な問いの筈なのに答えられない。初めて会った時、あんなにもレミリアの事が嫌いで殺したくてたまらなかったのに、今ではそうでもない。今こうして幻想郷に辿り着くまで様々な出来事もあったし、その所為で私が変わったのか?それとも・・・・・・あの出来事が切っ掛けとなっているのだろうか・・・。

「そう・・・ね・・・。私とレミィが出会った時が影響してるのかしらね・・・」

 どうして仲が良いのか。今のこの状況は、決して良いとは言えないかもしれないけれども、何でだろう。

「聞きたいの?」

魔理沙に私はそう問いかける。まぁ、答えは決まっている。

「良い暇つぶしだからな。他人の昔話ほど時間を潰せて楽しいものは無いぜ」

案の上の答え。魔理沙は笑顔で私にそう答えた。

ふっと、軽いため息をつく。どうしようか。あまり話した事の無いものだし、何処から話せば良いかと少し戸惑ってしまう。昔話を話すのは嫌いではない。消えそうな記憶を再び自分の頭の仲においておくためにもう一度呼び起こす事は良いと思う。薄く目を閉じる。何時頃から話そうか。そう思い、出会った頃を少し思い出してみる。

記憶の断片が散らばり、それがフラッシュバックとなって頭の中で焼き焦がれる。断片を模った写真が足元に散らばるような気がした。一枚一枚を拾うように思い出してみる。良い思い出、記憶ではない。どうしてもと言われなければ、もう一度呼び起こそうとはしない記憶。トラウマに近い代物だ。だが、今更このトラウマを掘り起こした所で何生まれるわけではない。今こうして私がいることに何も変わりはない。唯、今何故自分がレミリアと仲が良くてこうして一つ屋根の下で平然と過ごしているのか。それが判りそうな気がする。

良い・・・良いよね?どうせ、私も気分転換をしたかったし。

「そう・・・あれはそうね・・・。まだ私が外の世界にいた頃の話からしたほうが良いかしら?」

散らばった記憶を整理しながら私は考える。あの時の出来事から一体何がどうなったのか。遠い昔。記憶でも薄れそうな程の昔。私が小さかった頃の記憶を呼び覚ますのは何年ぶりなのだろう。少し懐かしくも思える。それほどまで昔の事を私は、本棚から絵本を取り出すように、そっと・・・話すことにした。

まずは、一ページ目のお話から。

 

 

                                                          ・・・to be continued


 
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