No.439264

Masked Rider in Nanoha 十二話 勇気は不死鳥の如く~Eternal Blaze~

MRZさん

襲い来る闇に立ち向かう二人の仮面ライダー。だが、闇の力は強大だった。
苦戦しながらも互いに超変身を使い活路を切り開くべく二人は戦う。
そして、なのは達にも反撃の時がくるのだった。

2012-06-19 15:59:32 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3131   閲覧ユーザー数:3013

 邪眼相手に戦うクウガとアギト。初めこそ二人の気迫に押されていた邪眼だったが次第に立ち直り、今は二人を相手に圧倒していた。その原因は邪眼が新しく得た力である魔法にある。

 そのためなのは達も援護を試みたのだが、下手な魔法は邪眼に利用されクウガ達を苦しめてしまうために大した魔法が使えなかった。一方のクロノ達は決め手に欠けていた。そもそもクロノ以外はサポート役が多かったためか強力な魔法がほとんどなく、専らクウガ達の支援に回っていた。

 

 そんな中、ならばとシグナムやヴィータなどは直接攻撃に出ようとしたのだが、クウガ達の攻撃を軽々と受け止める邪眼相手ではそれも厳しいと感じたため、中々手を出せずにいた。

 多くの者達が悔しげに視線を眼下へ向ける。そこでは邪眼相手に苦戦する二人のライダーがいた。

 

「くうぅぅぅ……」

 

「くそっ、このままじゃ……」

 

「不味い、よね」

 

 邪眼の一撃に吹き飛ばされるクウガ。それを見たアギトの言葉にクウガがそう続けた。格闘戦だけなら二人は人並み外れた経験がある。だがそこに魔法を組み込まれると調子が狂うのだ。それだけではない。邪眼は電撃を手から放ち、それを魔法を加えて使ってくるのだ。

 特にフェイトの魔法は相性がいいので紫の電撃を纏ったフォトンランサー・ファランクスシフトなどは、なのは達の援護がなければ流石のクウガやアギトといえど大ダメージは必死だったのだから。

 

 だが、そろそろなのは達にも疲労の色が出始めていた。魔力もそうだが、何より精神的な疲労が大きい。仮面ライダー二人を相手にしながら邪眼は優位に立てる程の力を持っている。それと対峙するだけでも精神が削られていくのだ。

 それをクウガとアギトも理解している。故に焦っていたのだ。このままではいずれ押し切られる。そう感じていたがために。そしてクウガは決断する。ここが無理をするところだと。

 

「こうなったら……俺が盾になるから翔一君は攻撃に専念して」

 

「えっ……盾って、五代さん?!」

 

「超変身っ!」

 

 動揺するアギトに構わず、クウガはその体を変化させる。赤い体は紫の鎧に変わり、目の色も同じ紫へ変わった。タイタンフォーム。防御力に優れ、力は全フォーム一を誇る。

 邪悪なる者あらば、鋼の鎧を身に付け、地割れの如く邪悪を斬り裂く戦士である。

 

 それを見てアギトはクウガの意図を理解した。そして内心で申し訳なく思いながら、彼もまた姿を変える。金色の体は青くなり、左腕が変化を遂げる。

 ストームフォーム。俊敏性に優れ、風を司る姿である。超変身したアギトはその手をベルトへ回すと、そこから一振りの武器―――ストームハルバートと呼ばれる薙刀が出現した。この姿と、とある姿でしか使えない専用武器だ。

 

「ふんっ! 姿を変えただけで我を倒せるものか!」

 

 クウガとアギトが姿を変えた事にやや驚く邪眼だったが、それもほんの一瞬で立ち直る。すぐさま走り出すとその腕をクウガへ振り下ろした。それをクウガは避けもせず、両腕でしっかりと受け止めた。

 先程まで成す術なく吹き飛ばされていた相手が急に自分の攻撃を受け止めた事に邪眼は流石に動揺を隠せなかった。あの発電所で邪眼が戦ったライダーで超変身出来たのはアギトのみ。しかも、彼はバーニングフォームとシャイニングフォームしか使っていなかったのだ。

 

 つまり、超変身が本来持つ意図。状況に応じるための使い道という事を知らずにいた。単なる強化とは違う超変身の強み。それが今最高のタイミングで発揮されようとしていた。

 

「はぁ!」

 

 クウガの防御力が上昇した事に戸惑う邪眼。その隙を見逃すアギトではない。素早い動きで邪眼の横に回りこむと手にしたストームハルバートで邪眼に斬りかかった。その一撃は確かに僅かな反撃だった。だが、これが初めて邪眼に与えたダメージ。しかも―――。

 

「ぐあっ!」

 

((っ! 効いたっ!))

 

 邪眼の口から初めて苦痛に呻く声が出た。それを聞き、二人のライダーも手応えを感じた。勝てる、と。決して無敵などではない。そう思ったクウガは受け止めていた腕を払い除け、呻く邪眼に渾身のパンチを叩き込む。

 

「おおりゃ!」

 

「ぐう!」

 

 力自慢のタイタンフォームの一撃に邪眼も堪らず後ろへ下がる。そこへ更にアギトがストームハルバートで追い打ちをかけようとするも邪眼はそれを何とか電撃で阻止した。そして、それに続けと動き出そうとしていたクウガへ電撃を放ち後退させる。

 クウガは鎧に受けた電撃のダメージがあまりない事を確認すると同時にある事を思いつく。それにはアギトの協力が必要だ。そう考えクウガは邪眼を見つめたままアギトへと声を掛けた。

 

「翔一君! それ貸してくれない!」

 

「分かりました!」

 

 クウガの提案を疑う事も尋ねる事もせず、アギトは手にしていたストームハルバートを手渡した。それをクウガが手にした途端、ストームハルバートが姿を変えてタイタンソードへと変化した。その刃先が伸びたのを確認し、クウガは小さく頷いた。

 薙刀は刀。つまり切り裂くものである。それ故に変化を起こし、タイタンソードへとなったのだ。そして、それを見たアギトもそれならばとベルトを叩いて再び姿を変える。

 

 青い体が金色を経由し赤い体に。変化が左腕から右腕に変わり、先程と同じくベルトから一振りの武器が出現する。フレイムセイバーだ。

 互いに武器を構えるクウガとアギト。だが、クウガはそれを静かに下ろし一言告げる。

 

「行くよ」

 

「はいっ!」

 

 悠然と歩き出すクウガと合わせるようにアギトもフレイムセイバーを下げゆっくりと歩き出す。それを見ていたなのは達は正直不安で仕方ない。だがどこかで信じている部分もある。仮面ライダーが負けるはずないと。

 そう、なのはだけでなく全員が黙って見守っているのだ。その目は諦めた目ではない。何か方法はないかと探る目だ。目の前で戦う二人のヒーロー。その勇姿に応えようと。だからこそ全員が見守っている。僅かでも勝機を見逃さないようにだ。

 

(頑張って! 仮面ライダー!)

 

 そう心で叫んで、なのははレイジングハートを握り締める。先程までの無力感。それを吹き飛ばしてくれた二人の仮面ライダーに自分も出来る事を探すのだと。

 そう想いを新たにするなのはの視線の先では、邪眼が二人に向かって電撃を放つところだった。

 

 目の前に迫る電撃。それをクウガは鎧に受け僅かに後ずさるも、すぐに歩みを再開する。アギトは電撃をフレイムセイバーで切り払いながら歩き続ける。フレイムフォームは感覚が鋭くなっているため、アギトは電撃を落ち着いて対処する事が出来ていた。

 だが、その要因にゆっくり歩いている事も影響している。走っていたのならさしものフレイムフォームもこの電撃に完全に対処する事は難しい。しかし、クウガに合わせてゆっくり歩いているため、それが可能となっていた。

 

 勿論、クウガはこれを狙った訳ではない。しかし、奇しくもクウガの戦法がアギトのフレイムフォームにも良い効果をもたらしていたのだ。これに驚いたのは邪眼である。通用していた攻撃が効果を無くし、しかも相手は悠然と近付いてくるのだ。

 どれだけ電撃を放っても、クウガは怯まず歩みを止めないし、アギトは全てを見事に切り払いながら進んでくる。さながら邪眼の死刑執行人にも思えるような光景だ。最初は二十メートルはあった距離が、気付けば十メートル、五メートルと縮まっていき―――。

 

「ば、馬鹿な……」

 

 気付けば眼前に二人のライダーがいた。それに電撃を放とうとする邪眼だったが、その電撃をアギトが切り払う。それに邪眼が怯んだ瞬間、クウガが手にしたタイタンソードを構えた。

 そして同時にアギトもその手にしたフレイムセイバーを構える。すると、その鍔が展開した。

 

「おりゃ!」

 

「はっ!」

 

 クウガが右袈裟に、アギトが左袈裟に斬りつける。邪眼の体へ二筋の剣閃が走った。浮かんで消えるクウガの刻んだ封印の文字。それに苦しむ邪眼へ更に二人は強烈な一撃を放つ。

 

「うおりゃあ!!」

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 とどめとばかりにクウガがその切っ先を邪眼の体へ突き立てる。カラミティタイタンと呼ばれる一撃だ。それを受けた邪眼は辛うじて手で止めて貫かれる事を阻止した。

 そこにアギトが真っ向に斬りつけた。セイバースラッシュと呼ばれる必殺の一撃。その威力で邪眼の力が弱まり、クウガがもう一度タイタンソードを突き出した。二つの攻撃をまともに喰らい、さしもの邪眼もこれまでかと思われた。

 

「図に乗るなぁ!!」

 

 だがそれを耐え切った邪眼の両手から放たれた強力な電撃が二人を大きく吹き飛ばした。そして、それを見ていたなのは達にも動揺が走る。邪眼が両手を掲げて何かの魔法を使おうとしていたのだ。

 そして、それが何かを一番最初に理解したのはなのはだった。何故ならそれは彼女が使う魔法だったのだから。

 

「っ!? レイジングハートっ!」

 

”ロード カートリッジ”

 

 なのはの声に合わせ、レイジングハートがカートリッジを排出する。その数三つ。それを見ていたフェイトもなのはの動きから邪眼の使おうとしている魔法の見当をつけ、その表情を変えた。

 故にフェイトも即座にバルディッシュへ同じ事を頼む。フェイトの言葉に呼応しカートリッジを排出するバルディッシュ。すると、その姿を鎌から巨大な剣に変えた。そんな二人に周囲はまだ理解出来ないようだったが、ユーノは邪眼の周囲に魔力が集束していくのを見て確信した。

 

「スターライトを使うつもりだ!」

 

 その言葉にクロノとアルフだけが驚愕する。他の者達はその魔法を知らない故にいま一つユーノ達の焦りが分からないようだったが、少なくとも碌な事にはならないと感じたのだろう。即座にそれぞれが動いたのだ。

 リインははやてを抱きしめ、ザフィーラとシャマルがその前に立ち絶対死守の姿勢。シグナムとヴィータはアリアとロッテを下がらせ、自分達が防ぐと言わんばかりにデバイスを構え、アルフはクロノと共にユーノと三人で広範囲の防御魔法を展開する。

 

 そして、なのはとフェイトはクウガとアギトの前に立ち、デバイスを邪眼へ向けた。

 

「なのはちゃん……」

 

「五代さん達はそこで休んでて。あれは私達が防ぐから!」

 

「フェイトちゃんも……」

 

「翔一さん達が私達の最後の希望。絶対に守ってみせる!」

 

 そんな二人の驚くライダー達へなのはとフェイトが見せる仕草はサムズアップ。大丈夫。それを無言で告げ、二人の魔法少女は邪眼を睨む。

 

「ふんっ! 小娘如きに何が出来る! 喰らえっ! ダークネスブレイカー!!」

 

「スターライトっ!」

 

「ジェットっ!」

 

 迫り来る漆黒の砲撃。それがユーノ達の展開した防御魔法を突き破っていく。だが、それに僅かに勢いを落としたのをなのは達は見逃さなかった。だからこそそれに対して二人は怯まない。背中にいる二人のヒーロー。それがくれた勇気と希望を胸に、不屈の想いで叫んだ。

 

「ブレイカー!!」

 

「ザンバー!!」

 

 二色の閃光が巨大な漆黒と衝突する。微かに、だが確実に二つの閃光が押されている。それでも二人は諦めない。顔を衝撃に歪ませながらしっかりと大地に足をつけ、漆黒の砲撃を―――その先にいるであろう邪眼を見据えていた。

 

 それを上空で見ていたはやてが堪らなくなったのかリインへ視線を向けた。なのはとフェイトは数少ない友人。しかも自分の事を知って進んで蒐集してほしいと名乗りを上げた者達なのだ。今も家族である翔一を守ろうとしている。

 そう考えたはやての中に一つの想いが生まれていた。その気持ちを素直に言葉として発したのだ。切なる願いの叫びとして。

 

「リインっ! わたしも……わたしも戦いたい!」

 

「主、気持ちは分かりますが」

 

「お願いや! 友達が家族のために頑張ってくれとるのに、わたしだけ見とるだけなんて嫌や!」

 

 涙を浮かべ、リインへ告げるはやて。その目に宿る強さを感じ取り、リインは頷いた。そして、はやてに優しく笑いかけて告げる。

 どこまでも私は貴方と共にあります、と。それに嬉しそうに頷くとはやては凛々しい表情でリインを見つめた。それにリインも同じ表情を見せ、二人は声を合わせた。

 

「「ユニゾン・イン」」

 

 はやての体にリインが融合し、彼女用の騎士甲冑と杖が出現する。それと同時に堕天使を思わせる羽が展開された。それを確認し、はやては押されつつあるなのは達の元へと向かう。

 それをシャマルもザフィーラも止める事はしない。はやての決意や覚悟を知るからこそ、臣下ではなく家族として取るべき行動は決まっていた。

 

「行くわよ、ザフィーラ」

 

「心得えている」

 

 はやての後を追うように二人もなのは達の傍へ。それを見て、アリアとロッテがシグナムとヴィータに目配せで追うように告げた、それに二人も頷き合い、アリア達に目礼を返しなのは達の元へ急ぐ。

 それをユーノは眺めながら攻撃魔法を使えない自分を悔しく思っていた。だが、それを気付いたのかクロノがため息混じりに呟く。

 

「そんな顔をするな。僕らだって十分役に立っている」

 

「そうさ。現になのは達が拮抗出来るのはアタシらの魔法を突き破ったからだよ」

 

 二人の言葉にユーノも頷き、視線をなのは達に向けた。そこでははやてが魔法を展開しようとしていた。

 

「来よ、白銀の風! 天よりそそぐ矢羽となれ!」

 

 はやての姿に驚いたなのは達だったが、彼女が告げた一緒に戦うとの言葉に笑顔を浮かべ、クウガ達はその言葉にはやてもまた強い心の持ち主だと改めて感じていた。

 そして、そのはやてが力強く紡ぐ言葉は闇を貫く光へ変わる。

 

「フレースヴェルグ!!」

 

 はやてから放たれた魔法の輝きが加わり、三色の閃光となる。それが押され始めていた状況を五分にまで押し戻した。それにクウガとアギトが息を呑む。幼い少女三人が自分達でも防ぐ事が難しいだろう攻撃を押し返そうとしている光景に。

 

「な、何ぃ!」

 

 同様に邪眼の声にも微かに驚きが混ざる。だが、そこから状況は再び膠着状態に陥る。それに邪眼が余裕を取り戻そうとした瞬間、そこにシャマルが降り立ちクウガとアギトを魔法で癒し始めた。

 そしてザフィーラも同じ様に降り立つと邪眼の足を狙ってバインドを放つ。それは何故か妨害も無力化もされない。それにユーノ達が驚くが、どこか邪眼はしまったというような雰囲気を感じさせた。

 

「やはりか。貴様が魔法を無効化ないし利用する際、必ず手を使っていた。ならば、両手が塞がっている今は魔法を防ぐ事は出来んと踏んだが……どうやら当たりらしいな!」

 

「さすが盾の守護獣だ」

 

「良く見てるじゃねぇか!」

 

 更にそこへシグナムとヴィータも到着し、そのデバイスを構えた。それと同時に排出されるカートリッジ。シグナムはレヴァンテインを鞘と繋げ弓のようにし、ヴィータはグラーフアイゼンを空高く掲げた。

 それは彼らの最後の切り札。烈火の将と鉄槌の騎士のとっておき。魔法攻撃が通用する今しか使いどころがないと判断し、ここぞとばかりに最大攻撃を選択したのだ。

 

「翔けよ! 隼っ!!」

 

”シュツルムファルケン”

 

「轟天! 爆砕っ!!」

 

”ギガントシュラーク”

 

 互角だった衝突にシグナムの一撃が加わり、ダメ押しとばかりにヴィータの一撃があろう事かその巨大な閃光を後ろから叩いた。それを受けて漆黒を飲み込むように進む巨大な閃光。それはそのまま勢いを止める事なく邪眼へ向かい―――。

 

「そ、そんな馬鹿なぁぁぁぁぁ!!」

 

 その体を飲み込んだ。その光景を見ながらユーノだけが疑問を感じていた。なのは達の魔法を何故無効化する事が出来ないのかと。ユーノの見ている中、光が闇を消し去るが如くなのは達の魔法が邪眼を包み込む。そして、その輝きが消えた後には邪眼の姿はなかった。

 

「終わった……?」

 

 なのはの呟きはその場にいた全員のものだった。そこには、最初から何もいなかったように荒野が広がっているだけ。ただ、残った大きなクレーターだけが確かにここで激しい戦いがあった事を物語っていた。

 

 しかし勝利したという確信をクウガとアギトは抱けずいた。むしろ、これで終わりではないと感じ、クウガとアギトは静かに立ち上がる。

 そしてクウガは体の色を紫から赤へと戻したのだ。それに気付いてなのはが小首を傾げる。

 

「五代さん、どうして変身を解かないの?」

 

「翔にぃまで……」

 

 はやてもアギトが元の金色へ戻った事に不思議そうな表情を浮かべた。グランドフォーム。アギトの基本の姿だ。

 二人のライダーは基本形とも言える姿へ戻ると、少女達の疑問へ答えるように視線を一点へ向けた。

 

「うん、それはまだ終わってないからだよ」

 

「分かるんだ。邪眼は倒せてないって」

 

 そう言って二人の仮面ライダーは視線を先程まで邪眼がいた位置へ向けている。それにつられるように全員の視線がそこへ向いた。

 そこにはもう何もない。だが、それでもクウガもアギトもそこから目を逸らさない。

 

「「……来るっ!」」

 

 構えるダブルライダー。それに呼応するようにその周囲の空気が蠢き出す。それを感じ、なのは達も身構えた。その瞬間空間が歪み、そこから邪眼が再び姿を現した。それを見て誰もが息を呑んだ。

 邪眼は無傷だったのだ。あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、その体には傷跡一つ残っていなかった。何故。どうして。その気持ちが表情に出ていた。

 

 だが、一人リインだけが気付いていた。邪眼が無傷な理由を。そして、それが意味する事を悟り、リインは絶望にも似た想いを抱いてはやてに伝えた。邪眼は転生機能を備えてしまっている、と。その言葉に声を失うはやて。

 邪眼ははやての表情からリインの言葉を感付いたように不気味な笑いを上げる。闇は不敵に笑う。この場にいる者達へ絶望を与えるために……

 

 いつものように流れる時間。穏やかな日々。それが永遠に続くと誰もが、いや彼だけはそう思っていた。これはそんな頃の話。

 

「これで良しっと」

 

「何かさ……変な気分だね」

 

 持って来たケースを置き、セインは笑みを浮かべる。だが、ディエチはそのケースを見つめて浮かない表情。二人が持ってきたのはジェイルのコピーの受精卵が収められたケース。全部で十一。ナンバー2であるドゥーエ以外全員のものが入っている。

 それをラボの奥深くにある廃棄所へ捨てにきたのだ。本来なら焼却処分などをするのだろうが、それは何となく気がひけたのだ。曲がりなりにも命だと考えてしまったせいもある。よって、こうしてラボの奥深くで永遠に眠ってもらおうという結論に達したのだ。

 

「う〜……ま、仕方ないよ。あれもドクターと同じって考えると……ねぇ」

 

「そうだけど……何か嫌な予感がするんだ」

 

「え? まさかあれが独りでに成長して襲ってくるとか?」

 

「そんなんじゃないけど……」

 

 セインの言った内容にディエチは苦笑する。どこかのB級ホラーのようだったからだ。そんな事を考えたからだろう。先程までの浮かない気分は少しマシになっていた。

 セインが気を遣ってくれたんだと思い、ディエチは小さく笑う。姉らしいところもちゃんとあるんだと思って。ディエチが笑ったのを見たセインはそれを知らず、馬鹿にされたと思ったのかディエチに対してむくれた顔をする。

 

 そんなセインにディエチはやや慌てながら弁解開始。セインはそれを聞きながら、拗ねた顔を見せて歩き出した。

 

「もっと姉としてちゃんと敬ってよ」

 

「えっと……なら姉として敬われるようになって欲しいな」

 

 ディエチの答えにセインがショックだと叫んで走り出す。それにディエチも慌てて追い駆ける。だがセインの顔はどこか楽しそうだ。ディエチを軽くからかっているのだろう。それを知らずにディエチはセインの後を必死に追いかけるのだった。

 

 騒々しい声と音を響かせながら廃棄所を去っていく二人。この時、ディエチが抱いた不安。その予感が正しかったと二人が気付くにはここから十年近い時間が必要だった……

 

 

「真司」

 

「ん? 何だよ、トーレか。訓練ならやんないぞ。今日はもうチンクちゃんとしたからな」

 

 トレーニングルームの掃除をしていた真司だったが、そこに現れたトーレに手を止める事無く掃除を続けていた。そんな真司の反応にトーレは内心苦笑するも、それを彼に見せないようにいつもの顔で告げた。訓練ではなく相談があるのだと。

 それに真司は手を止めて顔を上げた。その反応の違いにトーレは呆れたように笑うと、大した事ではないと前置いてこう言った。

 

「妹達の事だ」

 

 それから十分後、真司とトーレは二人でトーレの部屋にいた。本当は真司の部屋にする予定だったのだが彼の部屋はよくセインやディエチが訪ねてくるため、トーレの意見によって彼女の部屋となった。

 真司はそれでも女の子の部屋だからと別の場所を提案したのだが、トーレの他に都合の良い場所などないとの言葉に切り捨てられこの有様である。押しの強い女性には弱い真司であった。

 

「で、妹達の話って……セイン達?」

 

「違う。いや、厳密に言えばあの二人もか。まぁ、つまりセイン以降のセッテ達についてだ」

 

 トーレは、残りのナンバースは戦闘用に特化した者が多くなるため、その訓練を自分やチンクだけでなく真司にも担当してほしいのだと告げた。

 それを聞いた真司は微妙そうな表情を浮かべる。真司にとってはセイン達は妹分であり、可愛い女の子達なのだ。いくら戦闘用に作られたからといって、はいそうですねと扱える訳ではない。

 

 だから彼はトーレの言い分に素直に頷く事が出来なかったのだ。それをトーレも理解しているのでこう真司に告げた。妹達が起動したら、まず本人達に真司が尋ねて欲しいと。

 それは戦闘機人として生きるのか、それとも別の生き方を選ぶのかだ。その問いかけが何を意味するのかを察し、真司はどこか信じられないとばかりな表情を見せた。

 

「それって……」

 

「私の独断ではない。ドクターもお許しになった」

 

「そっか。ジェイルさんもね……ん? ドク」

 

「それともう一つあってな。セッテとオットー、ディードの三人はお前が教育しろと言っていた」

 

 真司の言葉を遮り、トーレは早口でそう告げた。そのトーレの反応から真司は自分の抱いた疑問の答えを悟る。ジェイルがその問いかけを許してくれた背景にはトーレの口添えもあったと。だが、トーレの告げた後半部分に真司は首を傾げた。

 何故自分が三人の教育する事になっているのか。その気持ちが顔に出ていたのをトーレは見て、やや呆れながらクアットロがそう伝えて欲しいと言っていた事を教えた。

 

 それを聞いてもまだ真司は分からずやや考える。だが、少ししてその意味を理解しガッツポーズ。それは、クアットロが担当になった妹達を真司に委ねると決めたと分かったからだ。つまり、三人をちゃんと妹として扱うと断言してくれたのだと。

 

「そっか。クアットロの奴、分かってくれたんだな」

 

「お前に毎日毎日顔を出されるのが鬱陶しいからと言っていたがな」

 

 そう告げて軽い笑みを浮かべるトーレ。気が付けば、真司が来てから様々な事が変わったと思いながら。まず変化したのはチンク。次に食生活とジェイルの考え方。続けてクアットロの物腰にウーノの接し方も変わった。そして何よりも感じるものが彼女にはあるのだ。

 

(私自身も、か……)

 

 戦う事だけが生き甲斐であり生まれた意味。そう思っていたトーレ。だが、それを真司は柔らかくゆっくりと否定していった。ほとんど笑う事などなかった彼女へ、真司は笑った方がいいと事ある毎に言っていた。

 それを最初は鬱陶しいとしか感じてなかったのがうるさい奴に変わり、相変わらずだなに変わり、今ではたまに笑みを見せ合うようになっていたのだから。

 

 訓練終わりにする他愛ない会話。洗浄と表現するトーレに対し、風呂と言えと繰り返す真司。そんなやり取りなどを思い返し、トーレは思う。このまま妹達や真司と静かに暮らすのも悪くないと。

 

(もうドクターも計画に興味を無くし始めているしな……)

 

 つい先日ウーノが姉妹を集めて話した事がある。それはジェイルは計画を変更して、従来の管理局を相手にした反乱ではなく最高評議会を利用してのんびりライダーシステムの研究やその発展系を考えていきたいと考えているとの推測。

 そのため、もうジェイルは”ゆりかご”をただの研究施設に改造し今後に備えようとも考えているのでは。それがウーノの予想だった。そんな事を思い出し、トーレは真司を見つめる。真司は、どうやったら三人をちゃんとした女性に出来るかを必死に考えているようだ。

 

 その表情を険しいものにして、あ〜でもないこ〜でもないと言っている。そんな真司を見てトーレは小さく呟いた。

 

―――このバカめ。

 

 その声には、紛れも無い親しみと愛おしさが込められていた。

 

 

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十二話。次回で邪眼戦は終了です。そしてA's編も終わりが近い。

 

空白期もA's程長くはないですが描きますのでご期待ください。


 
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