No.438359

Masked Rider in Nanoha 十話 戦士

MRZさん

遂に完成の時を迎える闇の書。そして始まるリインを助けるための戦い。
赤き龍が舞い、青き龍が跳ぶ。その背を支えるように魔法の輝きが煌めき闇を撃つ。
だが、闇は追い詰められて尚不気味さを増す。それが何を意味するのかは誰も知らない。

2012-06-17 10:40:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3241   閲覧ユーザー数:3114

「レイジングハート・エクセリオン」

「バルディッシュ・アサルト」

「「セットアップ!!」」

””セットアップ””

 

 その声に応え、待機状態から姿を変える二人のデバイス。そう、シグナム達のデバイスのように”カートリッジシステム”を搭載し生まれ変わった愛機。それがレイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルトだ。

 

 それを展開し終えたのを見てはやてがリインへ視線を送る。その力強さに頷き、周囲に向かってリインが告げた。それは開戦の狼煙。

 

「では始めるぞ」

 

 その声に全員が頷く。そして、シャマルが旅の鏡と呼ばれる魔法を展開した。その相手はアースラにいるエイミィだ。

 

 既に蒐集も終わりに近付き、残すは二頁と半分。それを埋めるため、エイミィが自分を蒐集させる事を申し出たのだ。それなら完成の時期を自分達で決められるからと。それにクロノが猛反対した。いくら危険が少ないとは言え、何が起こるかわからない。それに、残りが少しなら魔法生物でも十分だとも。

 

 そのクロノに全員が驚いていた。常に沈着冷静を心掛けるクロノ。それがまるで感情をむき出しにしてエイミィに反論したのだ。それにエイミィも驚くも、何故か嬉しそうに笑みを浮かべて言い返した。彼女には分かったのだろう。クロノが何故そうまでして反対したのかが。

 

 けれど、エイミィは局員として告げた。誰かが疲弊する事無く蒐集する事が出来ないのは、防御プログラムと戦う際の致命傷になるかもしれない。だからこそ、大した魔法も使えない自分が適任なのだと。それに尚も反論しようとするクロノへエイミィは念話で告げた。

 

【もういいよ。クロノ君の気持ちは伝わったからさ……ありがとう】

【……そんなんじゃない。僕達には君の管制が必要だからだ】

 

 どこか照れるようで拗ねるような答え。それを聞き、エイミィは心から笑みを浮かべるもそれを隠すように全員に告げた。

 

「あたしもみんなと一緒に戦うよ。隣じゃなく、このアースラからだけど。みんなの笑顔のために、ね!」

 

 それに全員が頷き、笑顔とサムズアップを返した。クロノもやや憮然としながらも同じようにサムズアップを返す。こうして現在に至るのだ。現在アースラはとある無人世界の衛星軌道にいる。そして、五代達はその無人世界で待機。

 

 作戦はこうだ。まずエイミィから蒐集し、完成した闇の書をはやてがアクセスしてリインと共に守護騎士プログラムなどを切り離す。そして、それと並行してなのは達により防衛プログラムへの攻撃を開始。はやてとリインがバグから解放されるために魔力ダメージで大ダメージを与える。

 

 そして解放されたはやてとリインを加え、おそらく独立するであろうバグ本体である防衛プログラムを撃破し、とどめはクウガがその核を封印。その際、起きる可能性の高い大爆発を考慮し、五代が無人世界を希望したのだ。誰にも何にも被害を出さずに済む場所として。

 

 それに応え、リンディ達が見つけ出したかつて資源採掘に使われた世界。それがこの場所だった。今や住む者もなく、ただ荒れ地が広がるのみ。それを見て、五代は真剣な表情で頷いたのだ。ここなら思いっ切り戦える、と。

 

「そういえば、どうして翔一君はバイクを?」

「あ、これですか。きっと空中戦になると思って持ってきたんです。リンディさん達も同じような事聞いてきましたけど」

 

 五代は隣にいる翔一にそう尋ねた。翔一の傍には一台のバイクがある。この世界に来た時に乗っていたものだ。五代は翔一の答えに疑問を感じるものの、それを尋ねる事は出来なかった。感じたのだ。何かが地の底から這い出るような悪寒を。

 

「これで……完成だ」

 

 そうリインが呟いた瞬間、闇の書が鈍く輝き出す。それはそのままリインとはやてを包み込み、その足元にベルカ式の魔法陣が浮かび上がる。

 

 それを見た五代と翔一は揃って構えた。それは、彼らが戦う意志を表す動作。戦士と変わるための決意表明。

 

「「変身っ!」」

 

 二人の想いに呼応しベルトが光る。そして二人の体を変えていく。それが終わった時、二人を見ていた全員が感じた。絶対に勝てると。闇の書の悲劇をここで終わらせるんだと。

 

 そんな想いを与えた二人のヒーローは、リインと同じ姿をした闇の書の闇とも呼ぶべき存在を見つめていた。

 

「いいか! まずは相手に大ダメージを与える。サポート組は支援に徹し、前線組は攻撃に集中しろ!」

 

 クロノが先陣を切るように手にしたデバイスを構える。そのデバイスの名は”デュランダル”。アリアとロッテがグレアムから与った対闇の書用のデバイスだ。

 グレアムはリーゼ姉妹から心変わりとその理由を聞かされ、何も言わずにデュランダルを渡した。その顔は何か憑き物が落ちたように清々しく、二人はそれを見て改めて思ったのだ。

 

 この事件で誰よりも犠牲を出す事を嫌っていたのは、他ならぬグレアムだったのだと。

 

 その時の光景を思い出しながらアリアは姉妹であるロッテへ視線を向けた。

 

「ロッテ、頼んだわよ!」

「任せろって! 行くよ、翔一!」

「はいっ!」

 

 飛行魔法で飛び上がるロッテに続けとアギトもバイクに跨る。それにバイクが姿を変え、マシントルネイダーと呼ばれるものへと変わった。それに周囲が驚き、防衛プログラムさえ僅かに動揺していた。

 更にそこからマシントルネイダーは形を変え、アギトが跳び上がると同時にスライダーモードと呼ばれる飛行形態へと変わって宙に浮いたのだ。

 

「嘘っ?!」

「空飛ぶバイクかよ!?」

 

 目の前で見ていたリーゼ姉妹が声を上げるのも無理はない。アギトはそんな二人に構わず視線をクウガへ向けた。それだけでクウガは何かを悟った。アギトが何を考えているのかを。

 

「そうか!」

 

 そう言ってアギトの後ろへ飛び乗るクウガ。それに頷き、アギトはマシントルネイダーを上昇させる。その速度は周囲が想像していたよりも早く、クウガだけでなくその場にいる誰もが驚きと同時に希望を抱いた。空を飛べぬ仮面ライダー達が空戦能力を有したと理解して。

 

「よし、超変身っ!」

 

 そしてクウガは今の姿のままでは戦いにくいと判断し、青い体へと変わった。

 

 ドラゴンフォーム。跳躍力に優れ、俊敏さは全フォームの中でも断トツ。その反面、筋力は落ちるために専用武器”ドラゴンロッド”を使い戦う姿だ。

 

 長き物を手に、邪悪をなぎ払う水の心の戦士である。

 

「五代雄介っ! これを使え!」

「っと、ありがとうクロノ君。これ、使わせてもらうよ」

 

 そんなクウガへクロノが渡したのは彼の持つ本来のデバイス”S2U”だ。それをクウガが待機状態から変化させると、その形状がドラゴンロッドへと変わる。更にその上下が伸びたのを見て、クウガは頷く。これで準備は整ったと。

 

 視線を戻せば、シグナムとフェイトを中心になのはとヴィータが的確にダメージを与えている。そこにはこれまでの蒐集活動での経験が活きていた。互いの動きや魔法を理解し、連携を組んでいた事もあるなのは達。それが今防衛プログラムを相手に如何なく発揮されていたのだ。

 

「五代さんっ!」

「分かったっ!」

 

 だが、それでもまだ大きな一撃が加えられていない。それを見たクウガが虚を突いて飛び掛った。三十メートルを一度で跳べる跳躍力を使って。更にそこから放たれるのはドラゴンフォーム必殺の一撃。

 

「おりゃあ!!」

「ぐっ……」

 

 スプラッシュドラゴンと呼ばれる攻撃が防衛プログラムへ炸裂する。突き当てられたロッド。それを押すように防衛プログラムから離し、クウガは落下していく。すると即座にアギトがそれを助けに回る。

 だがその間、クウガの視線は防衛プログラムへ注がれていた。腹部を押さえている防衛プログラム。やがてその手がゆっくり離される。そこには———。

 

「……よし」

 

 封印の文字が浮かび上がっていた。それを確認し、クウガは小さく頷く。更に何故か防衛プログラムはその文字に苦しんでいた。まるで何かに抗おうとするように。それを見たユーノが叫んだ。

 

「やっぱり防衛プログラムはバグによって変質しているんだ! それがクウガの封印エネルギーに対して反応し、沈静化か上手くすると浄化しようとさせているのかもしれない!」

 

 それを聞き、全員に希望の光が灯る。本来ならばきっと苦戦した相手。それが天敵とも呼べる存在がいる事で絶望どころか希望さえ持てるのだから。そんな風に思って周囲が視線をクウガ達へ注ぐ。そこではクウガの攻撃の効果にアギトが手応えを感じて喜んでいた。

 

「五代さん! 効いてますよ!」

「うん。なら、もう一度行くよ!」

「分かりました! 俺が必ず着地地点に回りますっ!」

「お願い!」

 

 二人のライダーは互いのやるべき事を確認し合い、再び行動開始。それに負けるなとなのは達にも気合が入る。

 

「ディバイン……」

「サンダー……」

”バスター”

”スマッシャー”

 

 桃色と黄色の輝きが防衛プログラムの動きを止める。だが、それでいいのだ。何故ならば、その隙を見逃す程ベルカの騎士は甘くない。そう、その近くにはシグナムとヴィータがいたのだから。

 

「レヴァンテイン!」

”シュランゲフォルム”

「アイゼンっ!」

”了解”

 

 連結刃と呼ばれる鞭のような形態へ変わるレヴァンテイン。それを駆使してシグナムは防衛プログラムを拘束する。そこへ間髪入れずヴィータが小さな鉄球を魔力でコーティングしたものを浴びせた。

 それを喰らい、ややよろめく防衛プログラム。そこへ青い光のバインドと緑の光のバインドが現れ、その体を再び拘束した。

 

「逃がさん!」

「五代さん、今です!」

 

 ザフィーラとユーノのバインドを何とか破壊しようとするも、異なる術式のバインドを同時に破壊するのは困難。だが、それでも瞬く間に破壊した防衛プログラムだったが、その僅かな時間さえ———。

 

「おりゃあぁぁ!」

「かはっ……」

 

 クウガにとっては好機となる。その跳躍力を活かし、視界の下から突き上げるようにドラゴンロッドを突き立てたのだ。そして、そのまま勢いを殺さずクウガは防衛プログラムと共に上空へ。するとそこに一つの人影があった。

 

「喰らえ!」

”ブレイズキャノン”

 

 クウガの動きを読み、待ち伏せていたクロノは得意の砲撃魔法を叩き込んだ。器用にクウガが離れた瞬間を逃さずに放つところに彼の優秀さが光る。

 そのダメージと封印エネルギーが防衛プログラムを襲う。そのせいもあってか先程よりも文字が消えるのも遅い、その痛みに苦しむ防衛プログラムを見て、誰もが内心で苦しんでいた。何せ外見はリインなのだ。

 

 相手は防衛プログラムだと頭では割り切っていても、優しい彼女を苦しめているように見える光景にクウガ達は心を痛めていたのだから。そんな時、遂に待っていた報告が入る。

 

【なのはちゃん達、聞こえとるか! こっちは終わった。早くこの子を止めたって!】

 

 はやてからの作業完了の声。それに気持ちを入れ替えるなのは達。それを見てクウガ達も状況を把握し頷き合う。もう少しだと。

 

『魔導師組はとどめに備えて準備! 騎士達と翔一さんで五代さんを援護する形で彼女へ攻撃を続けて。もう一度封印攻撃を仕掛ければ終わるはずだよ!』

 

 エイミィの指示でそれに全員が了解の意志を示す。なのはを始めとした魔導師達は、この後戦う事になるだろう独立する防衛プログラムへの対策のため、簡易的な打ち合わせを開始。

 クロノのデュランダルの氷結魔法で動きを止め、その間になのはとフェイトがそれぞれでダメージを与えつつ大威力魔法の準備。ロッテは二人の護衛を務め、ユーノ、アルフ、アリアの三人はシャマルと共にクウガのとどめの手助けするための転送魔法を担当。

 

 実はこれが今回の一番の要。というのは、クウガの目の前に転送するのではなく、その放つ一撃へ当たるように転送するのだ。そのタイミングはシビアだが再生能力が高いと思われる核を叩くには刹那の間さえ惜しい。

 そう判断し、核への再生時間は極力与えぬためにも三人の魔法制御と精度が重要となるのだ。それを改めて思い返しクロノはユーノ達へ視線を向けた。

 

「いいな? 君達に掛かっているようなものだから気を抜くなよ」

「分かってるよ。僕らだってやる時はやる!」

「そうだよ、少しは信じな!」

「私達が絶対五代さんを、仮面ライダーを手助けします!」

 

 三人の言葉に頷くクロノ。なのはとフェイトもそれを聞き、笑みを浮かべた。その視線の先ではクウガがもう一度スプラッシュドラゴンを炸裂させていた。

 

「どうだ?」

「やったか?」

 

 ヴィータとシグナムが揃って防衛プログラムへ視線を向ける。その途端、はやてが弾かれるように現れた。それに驚くシグナム達だったが、即座にアギトがそれを受け止める。はやての無事に安堵するシグナム達。するとザフィーラが何かを見て叫んだ。

 

「見ろ! 奴の体を!」

 

 その声に全員の視線が防衛プログラムへ向く。見れば、その周囲から紫のような色の暗いオーラが滲み出している。その原因がクウガの付けた文字である事は誰も疑っていない。そう、防衛プログラムの腹部にはその文字がはっきりと浮かんでいたのだから。

 

 だが、その光景にクウガは違和感を抱いた。

 

(何でリインさんのままなんだ……?)

 

 本来であれば、未確認達は文字をきっかけに一様に亀裂を生じ爆発していった。だが、今回はそれがない。それは彼らにあった装飾品がないからだとクウガは知っている。

 だが、リインが解放されないのは不自然なのだ。文字は鮮明に浮かんでいる。しかしその後に続く事が起こる気配がない事に、クウガは一人言い知れぬ不安を抱いていた。

 

 その一方で、アギトもまた不安を抱いていた。それは防衛プログラムから滲み出しているオーラにある。そのオーラを彼は見た事があったのだ。しかも、それはあまり歓迎出来ない状況で。

 

(あれは……”邪眼”と同じものだ……)

 

 そう、彼がこの世界に来る前に戦った邪眼。それが復活した際、全身から滲ませていたのがそれだった。そこへはやてから驚愕の事実が告げられた。

 

「おかしいんや! リインが中に何かおるって言って、そいつがどうも切り離しを邪魔しとるんよ!」

 

 その言葉が意味する事に全員が戦慄する。視線の先では、依然防衛プログラムが苦しんでいた。だが、その雰囲気からクウガとアギトは何かを感じ取っていた。

 

((何かが……出ようとしてる……))

 

 その予想は二人の想像を超える形で当たる。それは、本当の”闇”との戦いへの幕開けだった。

 

 ついに始まった闇の書の闇との決戦。なのは達の協力やクウガの力により防衛プログラムを追い詰めたに見えたのだが、はやての言葉に不安を抱く二人の仮面ライダー。

 

 果たして、闇の書の闇に潜むモノとは? 本当にリインを助ける事が出来るのか?

 いつものように流れる時間。穏やかな日々。それが永遠に続くと誰もが、いや彼だけはそう思っていた。これは、そんな頃の話。

 

「次に目覚めるのは、セッテだっけ?」

「そうだよ。七番目だからね。でも、どうもドクターがセッテやオットー、それにディードは調整をクア姉に任すんだって」

 

 真司の言葉に笑って答えるセイン。だが、後半はどこか残念そうだった。それを聞いて真司も同じように残念そうな表情を浮かべる。

 クアットロが調整を行なう事になった以上、セッテ達の起動はおそらく遅くなるだろうと思ったからだ。クアットロは完璧主義者。自分の納得いくまで三人を起動させないだろうと。

 

「……俺、少しクアットロに起動を早くしてくれないか頼んでみる」

「真司兄……」

「だってさ、やっぱ家族は多い方がいいって。楽しいし、賑やかだし。俺もセインやディエチみたいな妹が出来て嬉しかったしさ。同じ気持ちをセインにも感じて欲しいんだ」

 

 笑顔でそう言って、真司はセインへ手を振って走り出す。行き先はナンバーズの調整室。この時間ならジェイルかクアットロがいるはず。そう思って真司は走る。

 その背中を見送って、セインは嬉しそうに小さく呟いた。何の繋がりもない兄貴分への確かな気持ちを込めて。

 

———やっぱりあたし、真司兄のそういうとこ好きだよ。

 

 セインの眼差しに後押しされた真司は一路クアットロのいる場所へと到着するや、彼女へ先程の願いを口にしていた。ただ、それに対するクアットロの反応はお世辞にも快いものとは言えなかった。

 

「セッテちゃんを早めに出して欲しいぃ?」

「そう。何をするのか知らないけどさ、基本的な事はみんな同じなんだろ? だったら」

「あのねシンちゃん? セッテちゃん達は、私がドクターに任されたの。つまりぃ、私の好きにして、い・い・の」

「っ?! ふざけるなよ! 妹だろ!? 早く起こしてやりたいって思わないのかよ!」

 

 まるでセッテ達をおもちゃのように考えているかのようなクアットロの言い方に真司は感情をあらわにした。いつもならクアットロの茶化す口調などにも真司は怒る事無く返すのだが、今回はその発言に怒りを見せた。

 声を荒げ、視線は確かな怒りを宿してクアットロを睨みつけていたのだ。その鋭い視線にはさしものクアットロも気圧され、一歩後ずさる。普段の真司にはない力強さを感じたからだ。

 

 その後も真司は叫ぶ。確かにクアットロ達は普通の人間とは違う体だ。それでも心があるのだから早く起こしてやって世界を見せてやりたいと。楽しい事や嬉しい事、辛い事や泣きたい事も全部ひっくるめて感じさせて、教えてやりたいんだ。

 そう真司は言い切ると深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして最後にクアットロへゆっくりと告げた。

 

「……少し言い過ぎたかもしれないけど、俺、この話に関しては絶対譲らないから」

 

 そう締め括って真司は部屋を出ようと扉へと向かう。その後姿を黙って見つめるクアットロ。きっと、昔の彼女ならば真司の言葉に反論していたか認めた振りをして流していただろう。だが、今彼女が考えているのはそのどちらでもない。

 

(”人らしさ”なんて戦闘機人には不要。感情を削ぎ落とし、機械に近い存在にする……それが私のプラン。でも……)

 

 視線は扉の前で何故か止まっている真司へと向けられている。何だろうと思ってクアットロが見つめていると、背中越しに真司は口を開いた。

 

「だけど……クアットロがジェイルさんに任されたのも事実だし……俺、納得してもらうまでまた来るからな」

 

 その言葉を今度こそ最後に真司は部屋を出て行った。その言葉の意味を理解し、クアットロはやや沈黙したもののすぐに笑い出した。それは嘲笑うでも馬鹿にするのでもなく、本当に心から可笑しくてしょうがないというように。

 

(”心”……か。それが一番不要って思ってたのに、私が笑ってるのもその”心”のおかげなのよね。もう、シンちゃんのせいよ、私が狂ったの)

 

 そんな事を考え、クアットロは目元を拭う。どうやら笑い過ぎて涙が出てきたようだと、そう思ってクアットロは扉へ向かって告げる。

 

「いいわ。シンちゃんがそう言うなら、セッテちゃん達は心を大切にしてあげる。その代わり、貴方が責任持って教育してね?」

 

 そう呟くとクアットロは調整へ手を加えた。先程まで組み上げていたプランを白紙にし、出来うる限り手を加えず”妹”達をありのまま目覚めるようにと。

 彼女は知らない。先程の涙が笑いから流れたものではなく、嬉しさから流れたものだと。妹達だけでなく自分達全員を心から想った真司の気持ちに触れた事。それが彼女に流させた涙なのだという事を。

 

 ナンバー4、クアットロ。本来一番狡猾であったはずの彼女が変わった。そう、それはまさしく彼女の言った通り真司が狂わせたのだ。戦闘機人ではなく人として機能するように。

 

 この日からクアットロは心無しか物腰が柔らかくなったとセインとディエチは感じるようになる。それはチンクや真司も同じで一体何があったのだろうと全員が首を傾げたが、クアットロはそれに悪戯っぽく笑うのみだった。

 

 後に、ナンバーズ後発組(セッテ以降)の中で姉の中で誰が優しいかを話すようになる。そのトップはチンクだったが、なんと二位はクアットロとなるのだ。その理由はこう。からかいなどをしてくるが、自分達をきちんと見ており、的確なアドバイスやさり気無くフォロー等をしてくれるからと。

 

 また一つ運命が変わる。誰にも知られず、誰も知らず、世界の平和のために動く者がいる。彼は知らない。自分がやがて起こるはずの戦いを未然に防いでいる事を。それを知る時、彼に待つのは一体何か。その答えはまだ分からない。


 
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