-前回のあらすじ-
大陸制覇に向けて最後の敵蜀と戦う事を決めた北郷一刀と魏は二十万の兵力をもって征蜀の軍を発す
対する蜀軍、兵力差などを考えれば地形の険しい益州に篭り魏軍を迎え撃つかと思われたが
劉備玄徳自らが四万の軍を発し荊州の魚腹浦に陣を構えたのだった
そして双方は激突する
蜀軍は険しい山野に陣を構えたとは言え二十万対四万の戦い、
しかも攻めるは数々の戦いを勝ち抜いてきた大陸最強の魏軍
五倍もの兵力差を生かし魏軍が有利に戦いを進めるかと思われたが
蜀軍は軍師諸葛亮孔明、龐統士元らの綿密に練られた数々の策によって魏軍を苦しめる
反撃に転じる魏軍ではあったが孔明の天候を熟知した火攻により多大なる被害を出して撤退を余儀なくされる
本陣よりその様子を見る魏の覇王北郷一刀は改めて敵の強大さを思い知るのだった
-魏軍本陣-
激戦から帰還した将兵達を見る一刀は主だった将が皆無事だった事に安堵する
激励の為に声をかけようとしたが
「関羽…強い、でも恋は負けない!」と恋
「ええい!結局趙雲の奴に逃げられた!のらりくらりと戦いおって!だが次は逃さんぞ!」と春蘭
「くくくく♪、ええわぁ♪、たまらんなぁ♪、馬超中々楽しませてくれるやんかぁ♪」と霞
「くっそー、ちびっこめーーーーー!!」と季衣
武人の方々はそれぞれ対峙した蜀の将達との激戦に勝負が付かなかった事にモヤモヤしているようだった
しかしそれは同時にまだやれるという気概に満ちている証拠、士気も高く一刀も皆の事を心強く思う
問題は軍師達の方だった、前線から戻ってきた詠、風、稟の三人の軍師は言葉少なく一刀の優しく迎え入れる言葉にも
答えられないほど沈んでいた、無理も無い、圧倒的な兵力差にも拘らず一方的な敗戦を喫してしまったのだから
そして迎え入れた桂花もまたそんな三人と同じく言葉少なく何も話せず沈痛な面持ちでいた
数々の激戦や危機的な状況を乗り越え名実共に大陸最強となった魏軍
だからこそ自分達に油断があったのでは、状況を軽く見ていたのではと後悔ばかりが脳裏に浮かぶ
そんな様子を見た一刀は溜息をつくと四人の軍師達の前に立ち
「さて魏の誇る四軍師の方々、俺はこの後次の二つのうちのどの選択をすればいいんだ?」
そう軽い口調で質問をする、その言葉に四人の軍師達はようやく顔を上げ一刀を見つめる
言葉を発したのは桂花
「選択って…何の?」
「もちろん今後の選択さ、まず一つはこのまま戦い続け勝利した後俺はこの大陸の制覇を共に戦ってきた
仲間と兵士達と喜び合う選択
今一つは抵抗をやめて蜀軍の軍門に降り劉備に天下を明け渡すかのどちらを選択すればいいのかって事さ」
微笑みながら飄々と語る一刀の思がけない二つ目の言葉にようやく我に帰った桂花は激昂し
「しょ、蜀軍に降るって何馬鹿な事言ってるのよっ!こっちの方が圧倒的に有利なのよ!
それに戦いはまだ何も決してもいなきゃ負けてもいな…「じゃあ俯くな!弱みを見せればさらに付け込まれるぞ!」」
桂花の言葉を遮り一喝する一刀
「軍を指揮する軍師達が俯いて戦いに勝てると思っているのか、兵士達は軍師を信じて戦っているんだぞ!
俺達の役目は命がけでこの国の為に闘ってくれる兵士達を導く事だ!彼らの未来、そして家族や大切な人達を
悲しませない為にも俺達は前を向き絶対に俯いちゃダメなんだ!どんな事があっても上を向き前を見続けろ!」
その言葉に今まで俯いていた四軍師は拳を握り締め歯を食いしばる
「わ、わかってるわよ!別に弱みなんか見せてないでしょっ!
今はその…、そ、そうお腹がすいていただけなんだからっ!」
「おやおや桂花ちゃんもですか~、実は風もすこぉしお腹がすいていまして~
いやいや腹が減っては戦はできぬと古来より言われていますからねぇ~、ぐぅぐぅ」
「はぁ、まったくあんた達は緊張感がないんだから!でも確かにお腹がすいたわね
やっぱりお腹がすいたら良い考えなんか浮かぶ訳ないわね、ほんとお腹がすいたわ」
桂花、風、詠の三人はそんな感じで微妙な強がりを言いつつも一刀の一喝が心に響いて
再び闘志を燃やしたようだった
しかし稟だけはいまだ俯き手を震わせていた、そんな稟に一刀が声をかける
「稟、戦いはまだ始まったばかりだ、それはこの戦いだけじゃない、
この先この国にさらなら災厄や他国の侵攻といった戦いがきっと待ち受けている
その戦いには稟の力が必要なんだ、だからこんな所でくじけちゃダメだ」
「わかっています…、こんな所で止まってはいけない、下を向いてはいけないとわかってはいます、
ですが一刀殿から諸葛亮の事を聞いておきながら…、敵の兵器の事を聞いておきながら迂闊な戦いで
多大な被害を出してしまいました、それが悔しいのです…」
「一刀殿の覇道に泥を塗ってしまった自分が情けないのです…」
溢れる涙を止める事ができない稟が言葉を続ける前に一刀は稟を抱きしめそして優しく声をかける
「強くなれ稟、大丈夫、君ままだまだ強くなれる」
一刀の力強い言葉に涙が止まらない稟、
声を殺し一刀の胸の中で自分の不甲斐なさをただただ悔やんで泣き続けるのだった
-軍議が始まる-
「まず被害から報告するわね、こちらの被害は死傷者が約一万、一方敵に与えた被害は軽微
初戦はこちらの大敗と言ってもいいわね、特に稟の指揮してた左翼の被害が酷いわね」
報告するのは筆頭軍師の桂花、先ほどまでとは打って変わり私情をはさまず冷静に分析し正確に報告する
一方矢表に立たされた稟は無言ではあるものの俯く事はなかった、前を見据え手を握り締め
「一刀殿より機会を頂きました、次は敵につけ込まれるような事はさせません」
「そうありたいものね、さて今後の方針だけど被害もさる事ながら士気の低下が著しいわ、
このまま戦う事も可能だけど敵を恐れるような兵士じゃ戦果は期待できないわね、
時間をかけて態勢を整えるってのも選択肢の一つだけど…」
「時間をかけるのは逆効果じゃないかしらね、厭戦気分が蔓延したらそれこそ被害が増えていくわよ」
「ですね~、ここはやはり早期決戦で決着をつけるべきでしょうがその為には士気高揚が必要ですね~」
桂花の言葉に詠、風がそれぞれ答えその言葉に一刀が
「俺が前に出るよ、どの程度の効果はあるかは分からないけど兵士達を鼓舞してみる」
「確かにそれが一番の手でしょうけどそれこそ孔明の策の可能性が高いんじゃないの?」
「かもしれないな、俺が前に出るのは向こうには予定通りかもしれないし何を画策してるかわわからない
けどそうしなきゃ勝てないっていうならやるさ、これ以上被害を出すわけにはいかないからな」
一刀の言葉に軍師達は考えるものの他に良い代案も出ず結局一刀が前線に出て士気高揚を図る事が決まる
その後軍師達が軍の再編成を行い中軍を失くしその兵力を前衛に割り振り厚みを増す編成がなされ
再戦の為の準備を整えいざ出陣という時
「あ、皆ちょっといいかな、実は皆に頼みたい事があるんだけど」
突然の一刀の言葉に皆は顔を見合わせる、そんな皆に
「あ、いや、そんなたいそうな事じゃないんだよ、なんて言うかちょっと情けない頼みなんだけどさ…」
そう言って一刀は魏の面々にその”頼みごと”というものを語る、その内容は皆にとっては”何をいまさら”
というような内容だった、そんな事は当然であり一刀は何故今更そんな事を言うのだろうと
そして皆は一刀のその”頼み事”を当然の如く快く承諾する、そんな皆に一刀は
「ありがとう皆、これで安心したよ」
そう微笑む一刀、そして蜀軍の陣地を見つめると力強く号令する
「じゃあ行こうかみんな!この戦いを終わらせて平和な未来を作るんだ!」
「「「「応っ!!!」」」
-蜀side-
険しい山野に軍を構えた蜀軍、防柵や櫓などを無数に配し陣というよりは城塞のようなその陣地は
蜀軍の軍師諸葛亮孔明こと朱里が知略の限りを尽くして構えた陣であった
その陣地の本陣より高さ10mほどの物見台の井蘭(せいらん)より魏軍の陣容と行動を見つめる
朱里ともう一人の蜀軍の軍師龐統士元こと雛里
「朱里ちゃん、魏軍が態勢を整えてきたよ、どうやら中軍を失くして前衛に厚みを増す編成みたい
北郷一刀も前に出てきそうだね、朱里ちゃんの予想通りかな」
「魏軍は早期決着を目論んでるみたいだから初戦に被害を与えればそれを立て直すのに
時間をかけずにやるしかないしね、
最も早くそれを行うには北郷一刀自らが前線に出て兵士達を鼓舞するのが一番だから」
「でもそう簡単に立て直せるかな?」
「どうかな、でもそれをやってのけるのが北郷一刀かもしれないね」
-魏side-
魏軍は整然と蜀軍の陣地前に進み陣容を整える、しかし兵士達は初戦の思わぬ敗北からまだ立ち直れてないようだった
一刀はそんな兵士達の前に進むと皆の顔を見回す、兵達は今までとはあきらかに違う相手と用兵に不安に陥り
ショックを隠せないでいた、そんな兵士達に一刀は一呼吸すると
「聞け!魏の勇者達よ!戦いはまだ始まったばかりだ!」
「寡兵の敵は数々の策を弄して俺達を苦しめている、この先も激戦となる事は必至だろう!
でも何も心配する事はない!皆にはこの俺がついている!天の御遣いであるこの俺がついている!」
「俺達は袁一族を討ち滅ぼし西涼を制し大国呉にも勝利した!
皆はその激戦を潜り抜けた一騎当千、万夫不当の勇士達だ!
油断も慢心もしちゃダメだ、でも恐れを抱く事もない!」
「疲弊しきったこの大陸を救えるのは俺達だけだ!皆くじけるな!奮い立て!」
「敵に勝利し俺達の勝利の凱歌を大陸中に響かせるんだ!天意は俺達の下にある!」
「共にっ!平和な世界を作ろうっ!!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
一刀の声に鋼の稲原は風を受け立ったように揺らぎ、兵達の喚声は大地を振るわせる
その声は蜀軍の構える陣地にまで響きわたる
「完璧だね、北郷一刀の号令で魏軍は士気を回復したよ雛里ちゃん」
「じゃあ魏軍はこれから再度攻勢に転じるかな」
「うん、でも焦らなくても良いよ雛里ちゃん、魏軍はしばらく大規模攻勢はかけてこないと思うから、
じゃあ前線の指揮は任せたよ雛里ちゃん」
「うん、まかせて朱里ちゃん」
-魏side-
一刀の号令によって士気が高まり兵士達が再び戦う力を取り戻すと将帥達はそれぞれの戦場へと赴く
残った魏軍本隊の中で前衛を指揮する桂花と詠は蜀軍の陣地を見ながら
「どう見る?」
「そうね、多分あんたの考えてる事と一緒だと思うわ」
「そう、じゃあやっぱりそういう事なんでしょうね、
まぁ蜀軍が荊州を戦場に選んだ時点で勝つ事は考えてはないとは
思ってたけど蜀軍の目的、劉備の目的、そして蜀軍の戦い方は…」
『最善の負けをするのが目的の戦い』
「蜀は、いえ劉備は元々大陸制覇などまったく考えてはいない、国力差を考えれば本気で魏と戦える訳でもない、
降伏し恭順すれば無益な血も流さずに済むのに何故戦うのか、勝つのが目的じゃない、死して名を残すのが目的」
「劉備が目指すのは王道、覇道を進む北郷一刀の前に立ちはだかり挑む事で後世に名を刻む」
「従う兵達は殉教者ってわけね、恐るべきはその求心力かしら、関羽達一騎当千の武将達、孔明のような軍師達が
劉備と共に戦う事を望んで共に死ぬ覚悟をしている、勝ち目なんかまったくないってのに」
「だからこそ恐ろしいのよ、もしここで劉備に名を成さしめたら今後劉備のような奴らが沸いて出てくる、
もしくは劉備の名を掲げ魏に反攻する勢力が現れるかもしれない、少しの綻びは新たな反乱の芽を生み
大陸を制覇しても磐石の態勢を整えるのが難しくなる」
「厄介なのはこの戦いが”戦いの中の一つ”ではなく”最後の戦い”って事だわね」
「”最後の一勝”にどれほどの価値があるのかを諸葛亮は知ったその上でのこの戦い方なんでしょうね
まったく厄介な事だわ」
桂花と詠は各々の感想を述べる
「どの程度の被害を想定してると思う?」
「そうね、多分四割八万くらいに被害を与えるのが目的ってとこかしら、それだけの被害を受けて勝利を
謳っても物笑いの種になるでしょうしね、私たちも北郷一刀も恐るるに足らずって後世にまで言われ続けるわね」
桂花の言葉に詠は考え振り返ると北郷一刀を見つめる、一刀は常に蜀と劉備を強敵と見据え最大の敵としていた、
蜀よりも勢力や兵が多くさらに英雄孫策と大軍師周瑜のいた呉よりもだ
魏の将帥はそういったものに皆違和感を覚え異議を唱えていたが今この状況になってその意味を理解する
そして対蜀戦を開始する前に一刀の言った
『なんとか兵を三十万用意できないかな』
その言葉、誰もが驚愕しありえないと言ったその数字が今になって重くのしかかる
「もし三十万の兵を動員できていたらこの戦いは違ったものになっていたでしょうね、
攻城戦なら三倍、攻囲戦なら五倍の兵力が必要という原則を考えれば大規模攻囲戦も出来たろうし」
「予備兵力を置く事もできたし被害も多くて四~五万といった所に落ち着いて
蜀軍善戦するも適わず魏軍圧勝の元に天下を平定す、そう後世に伝えられたでしょうしね」
「まぁこんな所で仮定の話をしててもしょうがないわね、
敵には敵の目的があるんでしょうけどそれに付き合う事はないわ
何よりなめられっぱなしじゃ私たちのいる意味がないものね」
そう言うと詠と桂花は顔を見合わせ微笑む
「攻勢はまかせたわよ詠、けど無闇に突出させないでよね」
「わかってるわよ、そのかわり防備の方はまかせたわよ桂花
少なくとも守りに関してはボクは桂花の方が上だと思ってるんだからね、
まず兵を分けるわ、二万づつの兵を四隊に分けて昼夜問わず攻撃をし続けて蜀軍を疲弊させる
しかる後に隙を突いて敵軍の尤も防御の薄い部分に一転集中攻撃ののち敵陣突破」
普段は仲の悪い二人ではあるが互いにその才は認め合っていた、
鉄壁の守りの桂花と烈火の如き攻勢をかける詠、その二人がいながらも蜀軍の守りを崩す為の効果的な策を
見つけることができなかった、被害を度外視すれば勝つのは容易い
しかしそれこそが蜀軍の望むものであると考えると大規模な攻勢をかけるべきか判断に迷う所であったからだ
「さて、まずは火矢で敵陣前の厄介な障碍器材を掃除した後敵防御陣を消耗させましょうか」
「弓手前へ、万鉤弩狙え!」
盾兵に守られた弓手が前に進み火矢を構え後方では射程距離の長い万鉤弩が準備を整える
そして準備が整ったのを確認すると詠はその大きく上げた手を前に振り下ろす
「放て!」
詠の号令の下魏軍からおびただしい数の火矢が放たれ
瞬く間に蜀軍陣地の前に置かれた数百両の蒺藜車が燃え上がる
”魏軍が攻撃を再開するみたいだけど朱里ちゃんが言ってた通り大規模攻勢は仕掛けてこなさそうだね
しばらくはこちらの兵力を削いでいく損耗戦を続けるみたい”
”うん、どうやら私たちがこの地で果てる戦いをするって思ってくれたみたい”
”じゃあこちらは予定通り相手の思惑に乗ってあげなくちゃね”
”それでも攻撃は強力だと思うから防衛は堅固にね、
攻勢を指揮する相手の軍師賈文和は隙を見せれば一気に仕掛けてくると思うから”
”わかってるよ朱里ちゃん、でもこの攻勢を見てる限り魏の戦いは予想通りだね、だとすれば…”
”うん、北郷一刀の弱点を上手く突けたみたい”
蜀軍は陣地前に蒺藜車を横に並べ防壁とし、拒馬槍と拒馬木槍を無数に配置しさらに鉄蒺藜を無数に撒き
騎馬隊、さらには魏兵を陣に取り付かせないよう障碍器材を配置していた
対する魏軍は朱里と雛里の予想した通り各地で蜀軍陣地への徹底的な損耗戦を仕掛ける
基本戦術は弓と万鉤弩を使った火矢の苛烈なまでの長距離射撃で
蜀軍の敵陣前に敷設された障碍器材を排除しさらに蜀軍の弓による攻撃を無力化する、
その援護を受けての騎馬隊が数百騎単位で敵陣前を撹乱しつつ盾兵によって守られた工兵隊が敵陣前に活路を作り
続く戟兵が蜀軍に圧力をかけるといったものだった
一方的に攻撃される蜀軍陣地、陣地の前に置かれていた蒺藜車は次々と焼かれ蜀軍陣地にも火の手が上がる
しかし火攻対策の為足場に泥濘を作り十分な水を用意していた蜀軍陣地はその火をすぐに消していた為
魏軍は大きな被害を与える事はできないでいた
「まるで官渡だな」
そうつぶやいたのは一刀、河北の覇権をかけた袁紹との戦い官渡の戦い、
30万の袁紹軍を7万の北郷軍が打ち破った戦いだ
その戦いでは北郷軍は官渡城で必死に袁紹軍の猛攻を耐え続けた後逆撃、勝利し天下に近づいた戦い
攻守ところを変え彼我兵力差もほぼ同じ、攻めるというのがこんなにも難しいものかと改めて思う一刀
「桂花、崩せそうか?」
「誰に言ってるのよ、心配しなくてもあんな陣いつでも突破してあげるから安心していなさい!」
「心強いね」
それからの魏軍の猛攻は昼夜を問わず数日間にも及ぶ
桂花の言うとおり魏軍は蜀軍の陣地へ少しづつ肉薄していた、それは綿密に計算しつくされた戦い方だった
間断ない攻撃は被害を最小限に抑えつつも蜀兵の中にある恐怖感や焦燥感を増幅させつつ戦力を削いでいく、
一箇所でも突破口が出来ればそこから一気に突破する構えをみせる詠の指揮する魏軍前衛
百戦錬磨の軍師が見れば誰もがそう考える魏軍の戦い方
”でも本命はここじゃないよね”
”朱里ちゃん、ようやく敵の両翼が動き出したよ、騎馬隊による突破を考えてるみたい”
”やっぱり中央の攻勢は囮だったね、気を抜いたら戦線が崩壊しかねない賈文和の攻勢の強さはさすがだけど
被害を最小にして戦線を壊すには一翼圧迫からの騎馬隊による防御陣突破が尤も有効なんだよね”
”どっちが本命だと思う朱里ちゃん?”
”普通に考えれば騎馬の運用に特化した郭奉考だろうけどそう見せた程仲徳の右翼が本命かな”
-魏軍右翼-
「読まれては…いるんでしょうね~、ですがそれでも策を講じないわけにはいかないのが辛い所ですね」
蜀軍の陣地を見つめながら右翼を統括する風は溜息をつく
「合図の太鼓と共に弓手を前に出して射撃をさせてください、敵陣防衛の尤も厚く堅い中央です」
通常射撃が続いた後風の命令の下魏軍弓隊が一斉射を行う、何千何万という矢が一点に集中し蜀軍の弓隊は沈黙する
それを合図に魏軍工兵隊が一気に蜀軍の陣前へと突進する、眼前には焼け残った障碍器材がまだ無数にあるものの
工兵隊はそれを排除し木材と土嚢を敵陣前に投げ込み決死の覚悟で活路を作っていく
「騎馬隊を」
風の命令に呼応して激しく打ち鳴らされる陣太鼓、それを合図に三千の騎馬隊が一気に敵陣前へと雪崩れ込む
工兵が切り開いた足場を突き進む魏軍騎馬隊、だが敵陣前に辿り着くも
「わああっ!」
魏軍騎馬隊の足元が急に崩れ始める、落とし穴だ、予め用意されていたそれは魏軍騎馬隊の突入を合図に
穴の上に載せられていた板が破壊され騎馬の進行を止める、だがそれはすでに想定済みの魏軍、後方からの援護の下
さらに敵陣へと突貫する、被害を出しつつも敵陣へ肉薄し最前の柵を破壊し蜀軍の陣地に突入する事に成功すると
「一気に攻めよっ!」
騎馬隊を指揮する将が気勢を上げ部下に発破をかける、
それに呼応するかのように歓声を上げ一気に攻め込み乱戦を仕掛ける魏軍騎馬隊
が、それこそが蜀軍の狙いでもあった
騎馬隊乱戦によって魏軍よりの弓による支援射撃が無くなると同時に蜀軍は突出した騎馬隊を包囲殲滅しにかかる
突破を予め予期していた蜀軍は陣内に騎馬対策の罠を無数に仕掛けていたのだった
「いまぞ!」
合図と共に地中より現れる無数の拒馬槍が新たな柵を作る、蜀軍は予め陣内にも拒馬槍を無数に埋設していたのだった
魏軍の騎馬隊は新たな柵に進撃を止められ立ち往生する
その止まった所を蜀軍は至近距離からの弩で一斉に攻撃し落馬した者を戟で確実に仕留めていく
しかし幾度もの戦いを経験した百戦錬磨の魏軍騎馬隊である、すぐに態勢を整えると拒馬槍の柵の排除にかかる
被害をだしながらも懸命の作業で拒馬槍の柵を排除し再度突撃をせんとした魏軍騎馬隊ではあったが
少し進むと蜀軍は新たな拒馬槍を地中から引き起こし再度柵を形成し魏軍の進撃を止める
「くっ!蜀軍はどれだけの拒馬槍を埋設しているんだっ!」
次々と現れる拒馬槍の柵に進撃を止められ地団駄踏んで悔しがる魏の将兵達
蜀軍はそんな魏軍に苛烈なまでの攻撃を与え次々と討ち取っていく
先行した騎馬隊援護の為に蜀軍陣地に進む魏軍前曲、しかし進む魏軍前曲に連弩と長弓が放たれる
狭く密集して進む魏軍に浴びせられる無数の矢は確実に被害を与え続ける
前曲が連弩と長弓の激しい攻撃にさらされ進撃できない為突出した騎馬隊との連携が上手くとれなくなり
援護を受けれない騎馬隊の被害は増えていく、
屍が山となり攻勢の邪魔をしだすと魏軍右翼の攻勢は鈍化していく
「やはり防備は堅いですね、ならば後は…」
風は正面を見据えつつある方向を見る
”さて、そろそろかな”
”朱里ちゃん、細作から報告がきたよ、こちらの左翼側の後方の離れた山間部で魏の軽騎兵隊を確認、数は二千
足場が悪いにも関わらず騎馬の速度は速いって”
”遊撃隊だね、こっちの後方を突くつもりの運用だと思うよ”
”それにしてもこの騎馬隊凄く動きが良いよ朱里ちゃん、悪地でもよく統率されてる、誰が指揮してるんだろう?”
”多分北郷軍第五の軍師…”
-魏side-
「陳公台ここにありなのですーーーーー!!」
戦場を遠回りで進み蜀軍の後方を突かんとする軽騎馬隊を指揮するのは陳宮こと音々音
董卓軍壊滅後は恋専用の軍師として恋のみにその知を発揮してきた音々音ではあったが
敵陣を崩す一手として一軍を任されたのだった
軍師としての才は桂花、詠、風、稟のの四軍師ほどではないにせよ、反董卓連合の時には虎牢関を守り
魏呉決戦時には蜀方面を任されたほどである、
騎馬の運用に関しても並みの将帥よりも抜きん出たものを持っていた
その音々音に命じられた任務は蜀軍左翼の後方に進出する事である
進出と簡単に言うものの蜀軍は悪地形を上手く利用し陣の周りは断崖や悪地形で兵の運用が難しい地形であった
しかし音々音はその悪地形をものともせずに兵を進める
次々と脱落する者も現れるも音々音はその兵を置きざりにし昼夜を問わずとにかく強行軍を続ける
この行軍に求められているのは速度なのだ
魏軍騎馬隊は険しい山野を突き進む、そして遂に蜀軍左翼の後背に進出する事に成功する、
ついてこれたのは全軍の七割ほどという強行軍だった
蜀軍の左翼が微かに目視する事ができると音々音は一旦小休止をさせた上で隊を整列させる
眼前には林が見える、あまりにも静かすぎ罠を警戒するものの音々音は
「罠があったとしても蜀軍にはこちらに兵を割く余裕はないはずなのです、
ならばここは無理をしてでも進むのみなのです!」
「恋殿の為にもねねはこの戦いに勝利するのです!全軍敵の後背を突くのですーー!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
音々音の号令に喚声を上げ騎馬隊は林を突き進む、
鉄蒺藜の敷設も警戒したが存在は確認できず音々音は策が的中したと歓喜する
林を抜け落ち葉で覆いつくされた荒地を疾駆し敵の後背を一気に突かんとしたその時
「うわああ!」
先行した騎馬隊に異変が起こる、先行して進んだ騎馬隊が足をとられ落馬する者が続出しそのまま
ずぶりと地中に引きこまれていくのだ、もがき苦しむ魏軍騎馬隊、
必死で仲間を助けだそうと手を貸す兵士達だがその兵士達も足が沈み地中に飲み込まれていく
音々音は唖然としながらもすぐに一時後退を命令する、何とか逃げ出した者の報告を聞くとその原因がわかる
報告によればこの地は隠されているもののその下には腐葉土と泥濘によって沼のようなものが出来ているとの事
その深さは場所によっては人より深いとの報告を受ける、さらに音々音が驚愕したのは
ここが人工的に作られた形跡がある事
恐らくは敵の軍師がこの地に魏軍が来る事を予期し事前に仕掛けていたものであろうと
一度足を取られれば抜け出すことは至難の業、どれだけの範囲でそれが形成されてるのかも目視ではわからない
時間をかけ探れば道を見出す事はできるかもしれない、しかし魏軍は今攻勢の真っ只中
必死で抜け出す道を探していた時
「ぐあっ!」
矢に射抜かれ倒れる魏軍の兵士達、見れば敵陣から蜀軍の弓手が数十人確認できる
進めない魏軍に浴びせられるのは魏軍が蜀軍に降らせた矢、返さんとばかりに蜀の弓手は矢を撃ち続ける
音々音は考える、このまま突撃を行えば被害は甚大であろう
しかし現状のこう着状態を考えれば戦線に穴を開ける必要がある、眼前の敵はわずか数十人
音々音は軍師として考えそして決断する
「隊を二隊に分け一隊は援護、一隊は突撃をしてなんとしても敵陣に辿り着くのです!」
激しく打ち鳴らされる太鼓の音
その合図と共に突撃をかける魏軍騎馬隊、しかしやはり足を取られ中々前に進む事ができない
動けない魏軍兵士は蜀軍の弓手の格好の的となる
被害をだしつつも前に進まんとする魏軍、だが援護も虚しく次々と討ち果たされていく
さらに刻が経ち蜀軍に援軍が現れ敵陣どころか前に進むのも難しくなってくると音々音はやむをえず攻撃を中止する
防備を固める蜀軍、その数は続々と増えていく、音々音はこれが魏軍右翼の攻勢が頓挫したと判断する
事実この時右翼を統括する風は被害の多さと音々音の挟撃がない事を判断し攻勢を中止し兵を引かせていた
音々音は蜀軍の反撃で壊滅の可能性を考え苦渋の想いで転進を決意する
右翼の攻勢は蜀軍に被害を与えはしたものの魏軍の被害も甚大なものだった
-魏軍本陣-
「風と音々音が止められた…」
右翼から送られてきた報告を読んで桂花は重い声で一刀に報告する
風は被害を出しながらも上手く敵を引きつけ敵陣の突入にも成功した、音々音も悪地を予定以上の速度で進み
敵左翼の背後に進出を果たす事に成功していた、完璧な一翼包囲攻撃の形になっていたはずだった
一翼包囲攻撃とは敵防御陣の一方の翼を突破して敵陣の側背を通って敵の退路を遮断し後方の防御陣の中枢を
打撃して防御を崩壊させる戦術である
機動力に特化した軍が拠点防衛をする敵を切り崩すのに尤も適した戦術であり魏軍の得意とするものだった
本隊を統括する桂花はその報告に沈黙する、が、一刀が目に入るとすぐさま顔を上げ前を見据える
戦いはまだ終わってはいないのだ
「右翼の攻撃は確かに上手くいかなかったようだけど敵を徐々にではあるけど削ってるわ、
このまま戦いを続ければ勝利は確定ね」
桂花の言う通り消耗戦となりつつあるこの戦いはこのまま戦い続ければ魏軍は勝てるだろう
被害も想定の範囲内といった感じで、だがそんな戦いを敵が、孔明がするのだろうか?
そう考えた一刀は戦場を見渡たし今までの戦いを考え直すとそこから何かを敏感に感じとる
(何だろう…、何か違和感のようなものを感じる、何だ…)
一刀は戦場を見直す、蜀軍の陣地は守りに徹している、圧倒的優位の魏軍の間断ない攻撃を防ぐので手一杯だ
桂花と詠のコンビは一見水と油のように見えるものの互いに互いの弱点を補い合い上手く機能している
各地に放った細作の報告では援軍や伏兵があるといった報告は今の所はない
この戦いの本質、おそらくそれが分かるのは一刀のみだろう
戦う事で得られるもの、そしてこの先に待ち受けるもの、一刀は考え続ける、この戦いの意味を
様々な事を考えれば考えるほど一刀の感じる違和感のようなものは増大していく
そしてその疑問を解決する為に一刀は桂花に質問をしてみる
「桂花いいかな?少し確かめたい事があるんだけど」
「何よ?今忙しいんだから手短に頼むわよ」
「あ、うんわかってるよ、実は今ちょっと違和感のようなものを感じててさ、
桂花はこの戦いで何かそういう違和感のようなものは感じてないかってのが聞きたくて」
「違和感?何よそれ?」
「うん、どうもここは今までとは何か違う感じがしてさ、それが何かはわからないんだけど
なんかこう、ムズムズってして…」
「はぁ?忙しいのによくわからない事言わないでよっ!」
「は、はい、すみません…」
桂花に怒られ頭を掻きながらすごすごと引き下がる一刀、そんな一刀を見てハァと溜息をついた桂花は
「違和感ね、どうかしら、確かに今までとは違うようなものは私も感じてたけど
それは諸葛亮の用兵によるものじゃないの?変な武器やら天候を利用した戦いは今までとは確かに何か違うし」
「うん、それもあるとは思うんだけどそれ以上に何かこう…、空気のような…」
どう伝えたらいいものかとしどろもどろな一刀は頭をクシャクシャと掻いて椅子に腰を下ろし苦悩し始める
桂花も一刀が冗談で言ってる感じではないとわかると様々な事を考え始めるが特に何も思いつかなかった
しばらく時間が経ち前線から詠が報告と休息の為に本陣の幕舎に戻ってくると
一刀は詠にもさきほどの問いをしてみる、問われた詠は少し考え
「違和感ねぇ…、それは諸葛亮が何かを画策してるって事?」
「かもしれない、それが何かはわからないんだけど…」
「曖昧すぎてよくわからないわね、あんたが言うならこの戦いに影響する事なのかもわからないけど
現状こちらが圧倒的に有利な状況で蜀軍が戦況を覆す事なんか不可能なのは間違いないだろうし」
詠と一刀のやりとりに桂花が加わり
「さっき詠とも話してたんだけどあいつらは死して名を残す戦いを選択したんでしょ?
覇道を進む魏に最後まで抵抗した王道を進む者として後世に名を残す為に」
その言葉に一刀は
「それはないとは思う、そんな事をしても劉備は願いを叶えられない」
「劉備の願いって?」
「俺を止めることだ、だからここで玉砕しても俺を止めることはできないから意味がない」
自信満々に答える一刀の言葉に桂花と詠は顔を見合わせ再び考え始める
そんな時左翼から戦況報告がされてくる、現状攻め倦んで中々蜀軍に被害を与えられないとの事だった
「稟はまだ初戦の敗戦を気にしてるのかもね、いつもの鋭い用兵が感じられないわ」
「どうしたものかしらね」
左翼から送られてくる報告を見て二人が稟を心配してるのを見て一刀が
「あ、じゃあ俺がちょっと稟の様子を見てくるよ、気落ちしてるようなら元気付けてみるから」
とあっけらかんと話した一刀に桂花が
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ!
総大将であるあんたがチョロチョロしたら兵達が不安になって士気が落ちるでしょ!」
「心配しなくても大丈夫だよ、お忍びでちょっと様子を見に行くだけだから、
牙門旗はここに置いておくし桂花と詠がいてくれれば本陣は何の心配もしなくても大丈夫だろ」
「そういう事じゃなくてあんたが「じゃ、頼んだから」人の話を聞きなさいよっ!!!」
桂花が必死に諭すのを聞かず一刀は直垂を羽織って愛馬絶影を呼び寄せて準備を着々と進める
怒鳴りながらも必死で止める桂花の様子に詠は苦笑し
「筆頭軍師様も大変ね」
「あんたもこの馬鹿を止めなさいよっ!」
「まぁ大丈夫なんじゃないの?蜀軍はこちら側に伏せるほどの兵の余裕もないだろうし
何より王自らがあちこち走り回るなんて誰も考えないでしょうし」
まるで他人事の詠に頭を抱え「ぐぬぬ」と唸る桂花、そんな桂花の心配をよそに準備を整えた一刀が
「じゃあ行ってくるから、留守番よろしくな桂花、詠」
軽く話すと親衛隊の護衛十騎と共に稟のいる左翼へと馬を疾駆させる
素早く去っていく一刀達をみて桂花は
「絶対無茶しないでよっ!」
と一刀を心配しながら怒鳴りつけるのだった
-魏軍左翼-
左翼の戦線はこう着状態だった、初戦の敗戦から今だ立ち直れていなかった稟の指揮は精彩を欠き
先ほどの右翼と連携しての攻撃でも戦果らしい戦果を上げる事が出来ないでいた
現状は弓隊で長距離射撃を続ける事で蜀軍の戦力を少しずつ削っていくのが精一杯の状況
そんな左翼に十騎ほどの親衛隊を警護に白いフランチェスカの制服が目立たないように直垂を羽織った
一刀がやってくる
「一刀殿!?」
突然の一刀の来訪に驚く稟、周りの将帥達も何事かと緊張感を増す、そんな皆をよそに一刀はにこやかに
「ああごめん何か変な緊張感を作っちゃったかな、別に何かするって訳じゃないから皆気楽にしてよ」
飄々と振舞う一刀に皆はどうしていいものという微妙な雰囲気、
しかしようやく一刀が個人的な理由でやってきたのだとわかると将帥達は自分の仕事に戻る
その後一刀は稟の幕舎へと向かう
戦場でありながらも竹簡や地図は綺麗に整理整頓された幕舎の中で稟は一刀の為にお茶を差し出す、
そのお茶を美味しそうに飲み干す一刀を見た稟は安殿し一刀に言葉をかける
「一刀殿あまり無茶をしないでください、どこに刺客がいるのかもわからないのですよ」
「大丈夫だと思うよ、劉備はそんな事しないと思うから
それにこの戦いはそういう決着にはならないと思うんだよね」
「ふぅ…、ほんとに貴方は相変わらずですね、それでここには何をしに?」
「うん、稟が元気ないんじゃないかって桂花達が言うんでちょっと様子を見にね
でも元気そうで良かったよ、うん」
「……」
一刀の言葉に稟は顔を曇らせる、そして俯き悔しそうに
「すみません、私が不甲斐ないばかりに一刀殿にまで余計な手間をかけさせてしまって…
ですが私は大丈夫です、確かに今は攻め倦んではいますがすぐにでも攻勢をかけて必ず一刀殿に勝利を…」
「ていっ!」
「痛っ!」
俯き下を向こうとした稟の額を一刀のデコピンがビシッと炸裂する、痛みに涙ぐみ額に手をあてる稟に
「気を張りすぎだ稟、もっと肩の力を抜いて冷静になった方がいいよ」
その言葉に稟はハッと我に返り自分を見つめなおす、そしてずれた眼鏡を直し一刀に向きなおすと
「そうですね、焦っていたのかもしれません、こういう時こそ冷静になって戦わねばならないというのに…
一刀殿申し訳ありませんでした、今一度冷静になり作戦を見直して見ます」
「うん、それでこそ稟だ」
そう言うと稟の頭を優しくなで満面の笑みで微笑む一刀に稟は頬を染める
その後二人は楽しく語らい、稟もひと時の幸せを感じていた
「さて、じゃあ本陣に戻るとするか、来る時桂花がかなり怒ってたっぽいしな、
あんま怒らせると後が怖いし」
「ふふっ、あまり無茶をしないでくださいね、私も桂花も、
いえ魏の皆が貴方に何かあったらと心配しているのですから」
その言葉に一刀と稟は笑いあう、そして一刀が稟の幕舎を出ようとした時
例の違和感のようなものの事を思い出し稟に聞いてみる
「稟、ちょっといいかな?」
「はい?何でしょう?」
「うん、実はちょっと今気になる事があってさ、この戦場、何か違和感のようなものを感じるんだ
桂花や詠にも聞いたんだけどわからなくてさ、稟はどうかなって
何か違和感のようなものを感じたりしてないか?」
「違和感…ですか?」
稟は一瞬戸惑ったものの考え始める、そして
「確かにこの戦場は今までの戦いとは違うような気はしますがそれは諸葛亮の用兵のせいでは?」
「桂花や詠もそう言ってたけど…、やっぱそうなのかな」
稟の答えに考える一刀だったがそれ以上詮索しても無理かなと思い一刀はこの話を切り上げ
本陣に帰ろうとする、と稟が
「あまり深く考えない方がいいんじゃないでしょうか?
何かあったとしても私たちが必ず一刀殿をお守り致しますからご安心ください」
「はは、ありがとう稟、そうだな、うん、もうあまり考えないようにするよ」
「まぁ何かを考える時は見方を変えてみるのもいいかもしれませんね」
「見方を変える?」
「ええ、例えば蜀軍から魏軍を見てみるとか、
もし自分が蜀軍の立場だったとしたらどう戦っていたとかでしょうか
まぁ現状を考えれば蜀軍には降伏以外の選択肢があるとも思えませんが」
「………」
稟の言葉に何かを考える一刀
微動だにしない一刀に稟が声をかけようとしたその時
「あっ…」
一刀は何かに気付く
「そういう…、事か…」
一刀はようやく違和感の正体のようなものに気付く、そして笑顔になると稟に抱きつき
「ありがとう稟!ようやく違和感の正体がわかりそうだ!うんうん稟が仲間でほんとに良かったよ!」
一刀に抱かれた稟は何が何やらわからないといった感じだったがどうやら一刀の役に立てれた事に喜び
強く抱かれている事に幸せを感じ頬を染め身を委ねる
「さて、そうとわかればっと」
そう言うと一刀は稟の幕舎を出ると蜀軍の陣地を見る、蜀軍の陣地は山野を上手く使い頑強な陣地となっている
こちらの蜀軍の戦線には六千ほどの兵士しかいないものの三万近い魏軍左翼の猛攻をよく耐えていた
それを見ながら一刀はある事をを思いつく、しかしそれをやったものかと考える一刀、
脳裏に浮かぶのは皆の怒った顔、特に桂花が涙ぐみながら怒鳴りつける顔が鮮明に眼に浮かぶ
それについ苦笑してしまう一刀
楽しげにしている一刀に稟は何事かと怪訝に思う、
それに気付いたのか一刀はコホンと咳払いをすると一呼吸置いて落ち着き敵陣を見つめ
「仕掛けてみるか」
一刀は行動を起こす
あとがきのようなもの
凄くお久しぶりですという感じで改めてすみませんです
まぁリアルで色々ありましてグダグダなもので
あと長い事書かないとほんと書けなくなるという悪循環で投稿が遅くなってしまいました
今後もペース的にはのんびりマイペースかもしれませんが長い目で見てやってください
話的にはもう残り少ないので完結はなんとしてもやりとげたいとは思っていますので
それでは
kaz
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魏蜀激突編その2 うーにゃー
軍師達の戦いがメイン
まぁなんていうか久しぶりすぎて話も覚えてないかもしれませんが
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