真・恋姫無双 ifストーリー
蜀√ 桜咲く時季に 第41話
【愛紗を可愛くしちゃおう大作戦】
《愛紗視点》
まったく……何を考えているのだ菫は……
廊下を歩きながら今朝の朝議でのことを思い返す。
………………
…………
……
「では、これで朝議を終了する。各自持ち場に戻り作業を進めてくれ」
さて、私も自分の……ん?
そう思っていた時だった。菫がニコニコと微笑み、私を見ていた。
(こつっ)
菫は微笑みながら私に近づいてきた。
「っ!」
「あら?」
(こつっ、こつっ)
「っ!!」
「あらあら?」
「っ!!!」
(こつっ、こつっ、こつっ)
「あらあらあら?」
一歩近づくと、私は一歩離れ、二歩近づかれたら、二歩離れた。
「どうして逃げるのですか?」
「に、逃げてなど居ないぞ!わ、私はき、急用を思い出したのだ!そ、それではな菫!」
別に急用なんてものは無い。
ただ、昨日の出来事で、私は菫を警戒していたのだ。
私は急ぎ、この場から離れた。
………………
…………
……
「はぁ、まったく……菫もご主人様も何を考えているのだ……」
廊下を歩きながら思わず溜息を吐く。
「溜息などついてまた主の事で悩んでいるのか?」
「ん?、なんだ星か。何の用だ」
話してきた相手が星だとわかり、振り向き歩き出す。
「なんだとはご挨拶な。溜息を吐いていたのでまた主の事で悩んでいるのだと思い話しかけたというのに」
「なんで私が溜息を吐くとご主人様の事で悩んでいることになるのだ」
「では違うというのか?」
「……違くはないが……」
「ほれ、やはり主の事ではないか」
星は、にやりと口元を吊り上げていた。
「それよりも、お前は鈴々と共に昼まで警邏だろ。ささといってこい!」
「しかしだな、主がらみと聞いては黙っておくわけにも……」
「お前はただ単に面白そうだから首を突っ込みたいだけだろ!」
「うむ!」
「力強く頷くな!さっさと警邏に行って来い!」
「詰まらんな、実に詰まらん……」
星はぶつぶつを文句を言いながら歩いていってしまった。
「まったく……当の私はまったく面白くないというのに」
だが、ご主人様は私を一人の女として見てくれているのも事実。
私にとってはそのことだけでもとても嬉しかった。
私は戦しか知らない。女の子らしいところもお洒落にも私は疎い。
『愛紗は大きくなったらかわいいお嫁さんになるの!』
子供の頃はそんな事を言っていたが、蓋を開けて見ればこの通り、お嫁さんになるどころか好いた人に素直にもなれない捻くれ者に育ってしまった。
こんな私を愛してくださる人など居ないと私は諦めていた。
だが私は巡り会ってしまった。
ありのままの私を受け入れ、男勝りの私を可愛いといってくれるたった一人の男性に。
出来ることならご主人様の願いを叶えてあげたい。だが、どう天地がひっくり返ろうとも私は可愛くなどなれない。私はそう思っている。
心苦しくもあるがこれが現実。菫やご主人様には悪いが諦めて貰うほかない。
「さて。兎に角、私も仕事をしてしまおう。今日は色々と忙しいからな」
私は気持ちを切り替えて歩き出した。
「ふぅ~。愛紗、こっちは終わったよ」
ご主人様は最後の書簡を横に置き一息吐いた。
「お疲れ様ですご主人様」
「他に目を通すのはあるか?」
「いえ。今のところはありません。夕方くらいに来る報告書だけですね」
「そっか。それじゃ手伝おうか?」
「いえ。私もこれが最後です。よろしければ城下へ降りて町の様子を見てきては如何ですか?」
「一人で行ってもなあ……桃香はどうだ?」
「私はまだだよ。でもあとちょっとで終わるから、私の事は気にしないで。その代わり、お土産よろしくね♪」
どうやら桃香様はまだ仕事が残っている様だった。ご主人様が手伝を提案してきたが、桃香様はもう少しで終わるから手伝わなくても大丈夫と仰っていた。
しかし、ちゃっかりとお土産を要求することは忘れてはいないのですね。
「ははっ、了解。それじゃ行ってくるよ」
「うん。行ってらっしゃいご主人様!」
「行ってらっしゃいませ、ご主人様。くれぐれも護衛を付ける様に」
「了解だよ」
(ばたん)
そう言うとご主人様は部屋から出て行かれた。
はぁ、本当に分かっておいでなのだろうか……
私が覚えている限りでは、ご主人様は一人で出歩く時、いつも護衛をつけては居ない。
「はぁ……」
「んふふ♪」
「?私を見て、何を笑っているのですか桃香様」
「え?なんでもないよー♪さ~、お仕事お仕事♪」
「?」
妙に明るい桃香様だが、何かいい事でもあったのだろうか?
そう言えば、気が付けば桃香様は私を見て笑っていたな……私の顔に何かついているのか?
だが、ご主人様は私の顔を見ても何も言って来なかったと言う事は、別に私の顔に何かが付いているという事でもないだろう。
しかし、ちょくちょく私を見ていた桃香様だが、あんなに早く仕事を済ませられるものなのだろうか?
「……」
私はそう思い桃香様の机を見つめる。
「……っ!」
やはり、そう言うことか……
私は席を立ち桃香様の席へ向かった。
「ん?どうかしたの愛紗ちゃん」
「ええ。気になるものを見つけましたので。少々よろしいでしょうか」
「な、なにかな?」
「その足の下に隠している書簡を見せていただきたいのですが」
「え゛!こ、これはその……終わった奴だよ!」
「そうですか。では見せてください。私が確認します」
「ごめんなさい!まだ終わってないです!」
書簡を手に取ろうとすると、桃香様はすぐに謝ってきた。
「……はぁ。直ぐにわかる嘘をつかないでください、桃香様」
「だ、だって、ご主人様に少しは休んで貰いたかったの。ここの所ずっと忙しかったから……」
「桃香様……」
確かに、ここ諷陵に来るまでご主人様はずっとご無理をなさっていた。
曹操軍との戦闘、菫の治療、諷陵の町の建てなし等、目も回るほど一度に色々な事が起きた。
その為、ご主人様はあまり休めていないのは事実だった。
「だから少しでも体を休められたらなって……これ見ちゃったらご主人様、手伝ってくれちゃうでしょ?」
「桃香様なりに考えておいでだったのですね」
「うん。私にはこれくらいしか出来ないから」
「……」
「愛紗ちゃん?」
私は微笑み、桃香様の手をつけていない書簡を何個かを手に取った。
「今回だけですよ」
「愛紗ちゃん、ありがと~~~~!」
はぁ、なんと私は桃香様に弱いのだろうな……本当ならば、これくらいは軽くこなして頂かないと困るのだが。
自分の甘さに溜息が出る。
まあ、嘆いていても仕方がない。早く済ませてしまおう。
私は席に戻り、仕事を再開した。
………………
…………
……
「やれやれ、やっと終わった」
桃香様のやるべき分の書簡を半分肩代わりし、やっと終わり廊下に出た。
「おっ!ちょうどいいところに居たぜ。お~い!愛紗!」
「ん?翆ではないか、大声上げてどうした。私に何か用か?」
しばらく廊下を歩いていると、翆が大きな声で私を呼んできた。
「いや~用と言えば用なんだけど、今暇か?」
「?ああ、丁度、仕事が一区切りついたところだが」
「本当か?そりゃよかった!だったらよ、
翆の言う相手とは多分鍛錬の事だろう。
「別に構わんが、今日はたんぽぽと鍛錬をするとか言っていなかったか?」
「ああ。それがさ、ご主人様の護衛とかで町に行っちまってたんだよ」
「なに?それは本当か」
「ああ、朝から探してたんだけどさ。ご主人様の護衛じゃ仕方ないしな」
それはおかしいな……ご主人様が執務室から出たのは昼過ぎのはず……
「ご主人様の護衛はたんぽぽだけだったのか?」
「ん?雪華も居たけど、それがどうかしたのか?」
「いや。なんでもない」
雪華は街の調査と言うことで朝から町へ行っている。と、言うことはご主人様はまた私の言いつけを守らず一人で町に行ったということだ。
そして、鍛錬をサボっていた蒲公英を見つけた。と言うことになる。
さらに、翆に見つかり怒られそうなところをご主人様が庇ったということだろう。
「それでどうなんだ?付き合ってくれるのか?」
「ああ、構わんぞ。だが、やるからには本気で行かせて貰うぞ」
「そう来なくっちゃな!
こうして私と翠は、修練所に向かいお互いを高めあった。
途中からだったがご主人様と雪華と蒲公英も加わり、ご主人様は二人の鍛錬を見ながら助言をしていた。
翌日――
「これより、朝議を始める」
いつものように、いつもの号令をかける。
今日は非番ではあったが、朝議は全員参加なので非番の者も出席することになっている。
今日は得にすることが無いので思う存分鍛錬を行おうと考えていた。
しかし、その為にも菫からは逃れなければならない。
横目で菫を見ると、菫は微笑みながら話を聞いていた。
私の事を気にしていないということは諦めたということだろうか?
これならば、邪魔されずに鍛錬が出来そうだ。
私はそのことに一安心をした。
「これで朝議を終了とする」
朝議も終わり、私は念の為に、菫より早く部屋から出た。
「ふぅ。これで一安心だろう」
廊下を歩きながら安堵の息を吐く。
「愛紗ちゃ~~ん!まってよぉ~」
廊下を歩いていると、桃香様が走って私を追いかけてきた。
「どうかなさいましたか桃香様」
「あ、愛紗ちゃん、足速いよぉ」
「そ、それはすみませんでした」
「あ、うん。別に怒ってるわけじゃないから気にしないで!それでね、愛紗ちゃんって今日、非番でしょ?」
「はい。そうですが」
「ちょっと手伝ってもらいたことがあるの。あっ!別にずっとって訳じゃないんだよ。荷物を運ぶの手伝って欲しいの」
桃香様は慌てて手を振り、そんなに時間をとらせないと訂正してきた。
「別に構いませんよ。それで荷物はどこに?」
「こっちだよ」
私は桃香様の後を着いて行った。
そして、私はすぐに後悔することになるのだった。
………………
…………
……
「ここだよ!」
「ここは……客間ですか?」
桃香様に案内されてきた場所は客間の一角だった。
「うん。ここに一時的に荷物を運んで貰ってたの」
(ぎぃぃ)
桃香様は説明しながら扉を開けた。
「暗いですね」
「多分、窓を閉め切ってるからじゃないのかな?」
「では、まず窓を開けましょう」
私は窓を開けるべく、部屋に入った。
「……今だっ!」
(ばたんっ!)
「と、桃香様!?」
桃香様は私が部屋に入るのを見計らい扉を閉めてしまった。
「あらあら、やっと来ていただけましたね」
「っ!だれだ!」
暗闇の中、陽気に笑う声に警戒した。
(がらっ!)
「ぅ……」
暗い部屋の中でいきなり窓を開けられ、外のまぶしさに思わず、手で目を隠した。
「ふふふっ。ごきげんよう愛紗さん」
「す、菫!?……はっ!」
そこで私は桃香様にはめられたのだとわかった。
「桃香様を攻めないで上げてくださいね。桃香様も愛紗さんの事を心配しておいでなのですから」
「ぐっ……だ、だからと言って人を罠にはめるのはどうかと思うぞ」
「それは、謝りますわ。申し訳ありませんでした。ですが、逃げる愛紗さんもいけないのですよ」
素直に謝ってくる菫だったが、すぐに切り替えしてきた。
「うっ……」
「せっかくご主人様がご期待されていらっしゃるのに、主を裏切るよなことをしてはいけませんよ。愛紗さん」
「その言い方は卑怯だぞ!それでは断われないではないか!」
「はい♪断われない、言い方をしました」
「あ、あなたと言う人は……」
菫の開き直りには呆れるしかなかった。
「ささ、時間が惜しいですわ。さっそくはじめましょう。もう、逃げるつもりもないのでしょ?」
「ああ、もう好きにしてくれ……」
私は半ば、自棄になり菫に全てを託してしまった。
どうせ、私は何をやっても可愛くはなれないのだ……だったらせめて好き勝手にやらせて納得してもらった方が早い……
「では、はじめましょうか。大丈夫、愛紗さんは素材がとても良いからきっと可愛くなるわ♪」
「ふん、気休めはよしてくれ。私など可愛くなれるはずが……」
「はい、そこまで。後の言葉は完成した自分を見てからでも遅くはないでしょ?」
「……」
菫に言葉を遮られ黙ることしかできなくなってしまった。
兎に角、菫が飽きるまで好き勝手やらせてみることにした。
「♪~~」
「……」
菫は鼻歌を歌いながら私の髪を梳いていた。
「本当に綺麗な髪ですね。何か手入れでもしておいでなのですか?」
「別に何もしていない」
「あら、そうなんですか?うらやましいですわ」
こうして時折、私に話しかけてはまた鼻歌を歌いだす。
「ところで、ご主人様のどんなところがお好きなのですか?」
「なっ!」
(がたっ!)
菫の質問に思わず立ち上がってしまった。
「あらあら、いきなり立ち上がらないでください。ささ、座って座って」
菫は私の肩に手を置き、強引に座らせてきた。
「す、菫が変な事を聞いてくるからであろう!」
「別に変な質問をしたつもりはないのですが」
「し、しかしだな……」
「ふふふっ。恥じらう愛紗さんも可愛いですね」
「す、菫!からかわないでくれ!」
「あらあら、ごめんなさいね」
菫は謝りながらも髪を梳く手を止めなかった。
「……菫はどうなのだ?」
「はい?
「菫は、ご主人様のどんなところに魅かれているのだと聞いたのだ」
「そうですね……誰にでも優しいところでしょうか」
「そうか……」
菫の答えは余りにも単純だったが、ご主人様の核心を突いた言葉でもあった。
「それと、
菫は頬を染めながら答えた。
「さあ、今度は愛紗さんの番ですよ」
「うっ……やはり言わなければダメか?」
「
「むぅ……」
「ふふふっ♪」
菫は笑いながら私が喋るのを待っていた。
「……一目惚れだ」
「はい?」
「だ、だから!一目惚れといったのだ!」
「あらあら、まあまあっ!」
菫は興味津々とばかりに目を輝かせて話に乗ってきた。
あまり乗って来て欲しくはなかったのだがな……
「管輅の占いは知っているか?」
「ええ。人伝ながら、あまり信じてはいませんでしたが」
「まあ、普通はそうだろうな。だが桃香様と私と鈴々はそれを信じて旅に出ていたのだ」
「そして、昼間に煌く流れ星が落ちた場所にご主人様がいた」
「それでは、ご主人様は本当に流れ星に乗って現れたということですか?」
私の話に信じられないとばかりに聞き返してきた。
「それは私にもわからない。だが現に、流れ星の落ちた方向にご主人様は居た。管輅の占いの通りにな」
「そして、ご主人様のお顔を一目見て惚れてしまったと」
「そ、その通りだ……最初のうちは自制できていたのだが、そのうち抑えられなくなってきてしまっていた」
「ふふふっ、それが普通ですよ。それに我慢は良くありません。言いたいことは言った方が良いですよ」
菫の言うことはもっともだ。我慢は良くないことは良くわかっている……だが。
「だが、ご主人様の事を思っているのは私だけではない……」
「桃香様、それに他のみんなもかしら?」
やはり菫もわかっていたか。仲間になりたった数日だが、誰が見ても明らかだろう。
「ああ。特に桃香様はご主人様の事を強く思っている」
「それが愛紗さんの本気になれない理由かしら?」
「……」
私は何も言えず黙ってしまった。
「いいのではないかしら?」
「え?」
「同じ人を好きになることってそうそう無いと思うわ。それにご主人様なら受け止めてくれるのではないかしら?」
「……同じことを桃香様にも言われた」
「ふふふっ。あのお人ならいいそうなことですね……はい、出来ましたよ。ご覧になりますか?」
「当り前だ。どれだけ変わっていないか見てやろうではないか」
「あらあら」
苦笑いを浮かべながら菫は手鏡を手渡してくれた。
「……っ!こ、これが私……?」
鏡に映ったのはまるで私ではなく別人なのではないかと言いたくなるほど可愛い少女がそこに居た。
「ふふふっ、言ったでしょ?愛紗さんは素材が良いのだから少し手を加えるだけでもっと可愛くなると」
「だ、だがしかし……本当に私なのか?」
今でも信じられない。だが現にこうして目のあたりにしている以上、事実なのだ。
「さあ、次はこの服を着てくださいね」
「なっ!こ、こんなヒラヒラした服を着ろと!?」
菫が取り出した服を見て私は顔をひきつらせた。
「ええ。普段着ている服もとてもお似合いですが、これを着ればもっと可愛らしくなりますよ」
菫は有無も言わさず私に服を押しつけてきた。
「し、しかし、このような服を着てご主人様は本当に喜んでくれるとは思えないのだが!」
私はここに来て、無駄と分かりつつも抵抗を試みる。
「可愛い恰好をした女の子に喜ばない殿方は居ませんよ。ささ、早く着替えてしまいましょう。時間が惜しいですわ」
菫は笑いながら私の服を脱がし始めた。
「ちょ!まっ!か、勝手に服を脱がすさ!じ、自分で脱ぐからーーーーーーっ!!」
「良いではないか。良いではないか♪」
「よ、良くなーーーーーーーーーいっ!!」
「ひ、酷い目にあった……」
私はぐったりと疲れ切った表情で廊下を歩く。
「愛紗さんが素直に着替えてくれないからですわ」
「脱ぐ前に菫が脱がしてきたのだろうが!」
「あら、そうだったかしら?」
「くっ!白々しく言いよって……」
「ふふふっ。でも、とてもお似合いですよ。愛紗さん」
私は菫が用意した服を着てご主人様の居る部屋へと向かっていた。
「だ、誰かに見つかったりしないだろうか……こんな姿を見られては私は生きていけない」
「あら。良いではありませんか。みなさんにも見ていただいては」
「ふ、ふざけるな!こんな姿を見られては武人としての威厳と言うものが!」
「声が大きいですよ、愛紗さん。それでは自ら見つけてくれと言っているようなものですわよ」
「っ!」
私は即座に口を押え、辺りを見回した。
ど、どうやら。気づかれていないようだっ……
「♪~~」
「っ!」
しかし、ある一点を除いては……
「えへへ~。愛紗ちゃん、可愛い~~~っ!」
「と、桃香様っ!?」
ある意味で見つかっては欲しくなかった桃香様に見つかってしまうとは……
「わ~!やっぱり、愛紗ちゃんってこんなに可愛くなれるんだよ!」
桃香様は私の姿を隅々見回して喜んでおられた。
「と、桃香様。落ち着いてください!これでは誰かに見つかってしまいます!」
「え~!折角だし、皆に見て貰おうよぉ~」
「ダメです!ただでさえ、恥ずかしいのに皆に見てもらうなど!」
「そっか。そうだよね」
「わ、分かってもらえましたか……」
分かってもらえたようで、桃香様は頷いてくださいました。
「うん!やっぱり最初はご主人様に見てもらいたいもんね!」
「は?と、桃香様?」
何を言っておいでなのですか?
「それなのにごめんね。私が最初に見ちゃって」
「い、いや!な、何を言っているのですか?」
「ご主人様なら、多分部屋に居ると思うよ!それじゃ、頑張ってね愛紗ちゃん!今回は邪魔しないから!」
「お、お待ちください、桃香様!」
「じゃあね~~~!」
桃香様は私の話を聞かず、行ってしまわれた。
「行ってしまわれましたね」
「なんというか……私はもう生きてはいけない」
あぁ~もう、穴があったら潜りたい!そしてそのまま埋まりたい!
「ここで嘆いていても仕方ないですし。ご主人様のお部屋へ向かいましょう」
「……もう好きにしてくれ……はぁ」
私はさらに肩を落としてご主人様の下へと歩き出した。
………………
…………
……
「……や、やっぱり止めないか?」
ご主人様の部屋の前に立ち怖気ついてしまった。
「ダメですよ、愛紗さん。ここまで来て」
「うぅ……しかしだな。いざ、ご主人様のお部屋の前に立つと、やはり……」
「ふふふっ。可愛らしい恥じらいですね。でも、ダメですよ♪」
(コンコンッ!)
「なっ!、す、菫!?」
菫は笑いながらご主人様の部屋を叩いた。
『は~い。開いてるよ』
「では、頑張ってくださいね。愛紗さん」
「ちょ!ま、待て!一緒に居てくれないのか!?」
「ふふふっ。ここからはお若いお二人にお任せしますわ」
菫は笑いながらこの場から居なくなってしまった。
うぅ……どうしろというのだ。
『愛紗だろ?中に入っていいぞ。菫は居なくなっちゃったみたいだけど』
「は、はい!」
そうであった。ご主人様は気配で誰であるのかが分かるのだったな……
ええい!こうなれば自棄だ!どうとでもなれ!
「し、失礼します。ご主人様」
私は意を決してご主人様の部屋の扉を開けた。
「やっぱり愛紗だったね。どうかした、の……」
部屋に入るとご主人様は本を読んでいたらしく。私に背を向けていた。
しかし、振り向いたご主人様は私を見てそのまま固まってしまった。
「あ、あの、ご主人様?」
「えっ!あ、うん。愛紗、だよね?」
「は、はい……」
「ごめん。凄く綺麗で髪も下ろしてたから一瞬誰か分からなかったよ」
「うぅ……すみません」
思わず謝ってしまった。
「何で謝るのさ。凄く可愛いのに」
「そ、その……ありがとうございます」
私は俯き頬を染めながらお礼を言った。
「言ったとおり。やっぱり、愛紗は可愛いね。自分でもそう思っただろ?」
「で、ですがやはり私には似つかわしくないかと……」
「そんなこと無いよ。いい加減に自覚して欲しいな~。愛紗は可愛い。誰がなんと言うと、愛紗は可愛いんだ。それは俺が保障する」
力説するご主人様。だが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「それにしても菫は凄いな。今まで以上に愛紗を可愛くしてくれたんだから。それで菫は?」
「菫は、あとは私達に任せると……」
「ふ~ん……」
ご主人様は頷き、何かを考え始めた。
「よし!町に行こう愛紗」
「は、はいぃ!?ま、町にですか!?」
私は思わず声を裏返して驚いてしまった。
「ああ」
「い、いや。流石にこの格好では!」
「その格好だから良いんじゃないか。俺はすごく嬉しいよ。それとも愛紗は俺と出かけるのは嫌なのかな?」
「あ、う……お供します……」
ご主人様にそう言われてしまうと嫌とも言えず、頷くしかなかった。
………………
…………
……
「♪~~」
「……」
ご主人様は嬉しそうに私の横を歩いていた。私はというと俯き、誰かに見られているのではないかと周囲をずっと気にしていた。
「挙動不審の方が逆に目立っちゃうよ?」
「っ!で、ですが、やはり恥ずかしいのです。こんな格好、今までにしたことが無いもので」
「う~ん。それは困ったな……よし!愛紗、付いてきて!」
「ご、ご主人様!一体どこに!」
ご主人様は私の手を取り、行き成り走り出した。
(わー!あの人きれー!)
「っ!」
(御使い様ったら、あんな可愛い娘と手を繋いで嬉しそうにしているわね)
「っ!?」
(あの子どこの誰かしら?)
(羨ましいわね。御使い様に見初められるなんて)
「っ!?」
ご主人様と手を繋ぎ、市場を走り抜けていると周りからの視線と話し声が私の耳に入ってきた。
うぅ~、これでは余計に目立っているではありませんかご主人様!
だが、そんな言葉も、大きな声を上げて言えず、ただ着いて行くだけになってしまっていた。
………………
…………
……
「到着!」
「ここは……」
そこは帽子だけを売っている店の様だった。
「ちょっと待っててくれ。愛紗の服に似合いそうな帽子があるんだ」
「は、はぁ……」
そう言うとご主人様は店の中へと入って行ってしまった。
「……」
(そわそわ)
「……」
(そわそわ)
「……わ、私も行きます!」
一人で店先の前で待っていると周りの視線が気になりだし、私はご主人様を追いかけて店の中へと入って行った。
「ご、ご主人様?どちらに居られますか?」
店に入り、大量に飾られていた帽子(ただ、積み重ねてあるだけだが)を崩さぬようにしてご主人様を探す。
「こっちだよ、愛紗~」
「??」
声は聞こえど、ご主人様の姿は一向に見つからなかった。
「ごしゅ……」
「っと!」
「わぷっ!」
辺りを見回しながらご主人様を探していると、目の前にいきなりご主人様が現れぶつかってしまった。
「ごめん、愛紗。大丈夫か?」
「い、いえ。私の方こそ、前を気にしていませんでした。申し訳ありません」
「それじゃ、お互い様ってことで」
ご主人様はそう言うと、帽子を私の頭に被せて来た。
「これは……藁帽子?」
どこにでもある普通の藁帽子、ただ少し違っていたのは可愛らしく綺麗な布で飾られていたことだった。
「うんうん!やっぱり、ワンピースには麦藁帽子だよな!」
一人嬉しそうにしているご主人様に私は聞いてみた。
「わんぴすとはなんなのですか?」
「ワンピースね。ワンピースって言うのは、今、愛紗が着ているみたいな服のことだよ。若干違うけどね」
「なるほど……」
確かに、少し変わった意匠ではあるとは思った。
「よし、これで少しは恥ずかしくなくなったよね」
「え、ええ、まあ……」
「それじゃ、これで心置きなく愛紗とデート出来るわけだ」
でぇとと言えば、以前ご主人様が逢引の事だと教えて頂いた……逢引!?
「で、でぇと!?で、でぇととはあ、ああ、逢引の事ですよね!?」
「そうだけど?」
ご主人様は、さも当たり前のように答えた。
「そ、そうだけど?ではありません!」
「まあまあ、いいからいいから。せっかく、菫が愛紗をこんなに可愛くしてくれたんだから。それに、お互い、今日は一日非番だろ?」
「そ、それはそうですが」
「それとも、俺と出かけるのは嫌なのかな?」
「とんでもありません!」
「なら問題ないじゃないか。ほら、行こう」
ご主人様は笑顔で手を差し出してきた。
「は、はい」
私は戸惑いつつもご主人様の手を取る。
そして、うまくご主人様に言い包められてしまった私は、そのままご主人様と逢引をすることになってしまった。
「あらあら、御使い様!今日はどうされたのですか?」
市場に露店を出していた一人の女性がご主人様に話しかけてきた。
「うん。ちょっと散歩にね」
「そちらの女性は?」
「っ!」
「あ、あ~……うん。ちょっとした知り合いなんだ」
「あらあら、可愛らしい意匠ですね。買ってもらったのかい?」
店の女性は私の服を見て褒めてくれていた。
「……(こくこくっ!)」
だが、恥ずかしさのあまり、頷くことしかできなかった。
「あらあら、俯いちゃって。恥ずかしいのかね?」
「は、ははは。照れ屋なもので。それじゃ俺たちは」
「はい。こちらに居る間は、また寄ってくださいね御使い様」
「ああっ!」
ご主人様は見送る店の人に手を振っていた。
「いや~。まいったね」
「ええ。町に良く出歩いているということがわかりました」
「あ、あはははは」
睨み付けながら答えるとご主人様は空笑いをしていた。
「あはは……ほ、ほら、あそこのお店!美味しそうな肉まんの匂いがするぞ!ちょっと行ってみよう!」
「ご、ご主人様!行き成り手を繋ぎ走らないでください!」
「愛紗だってお腹すいただろ?」
「私は空いてなどいませっ(くぅ~~)……」
「はは、やっぱり、お腹空いてるじゃないか」
「~~~~っ!!」
な、なんでこんな所でお腹が鳴るのだ!
私は自分のお腹が鳴ってしまったことに恥ずかしくなり顔を赤くした。
「と、兎に角!肉まんを食べるにせよ。急がず落ち着いて行動を」
(どんっ!)
「いってーーっ!なにしやがんだよ姉ちゃん!」
私は、ご主人様を注意して歩いていたせいで、三人組の一人にぶつかってしまった。
「こ、これはすまなかった。私の前方不注意だ。許してくれ」
「ああ?何言っちゃってんのこの姉ちゃん。親分が怪我しちまったんだぞ?詫びだけで許されると思ってるのか?」
はぁ、こういった輩はどこにでもいるのだな。些細なことでいちゃもんを付ける馬鹿どもが……
「こちらは謝ったのだ。これ以上私がすることはない。それに肩が触れた程度ではないか。それだけで怪我をしたというのなら、どれだけ軟弱な体をしているのだ?」
「き、貴様っ!女だからってつけあがりやがって!おい、デク、チビ!やっちまえ!」
「へい、親分!」
「わかったんだな」
親分と呼ばれている男の一人は二人に命令を出した。
「ふん、貴様らなど、私の天龍偃月刀で……偃月刀、で」
(すか、すか)
し、しまったーーーーーっ!!得物を部屋に置き忘れてきてしまった!
朝議の後、そのまま桃香様に連れられて菫の下へと来てしまったせいだ!
そして、部屋に戻ることなく、ご主人様とこうして町に来てしまったので取りに行く暇がなかった。
「ん?なに顔色変えてるんだ姉ちゃん?今更、命乞いか?」
「くっ!誰が貴様らなどに……」
しかし、分が悪い……獲物がない以上に、この服のせいで思うように動けない……
「……」
「ご、ご主人様?」
「ん?なんだ兄ちゃん。庇おうってか?」
どう戦おうか悩んでいると、私の前にご主人様が庇うように立っていた。
「まあ、これでも一応、男なんでね」
「へっ。かっこつけやがって……おめえら、やっちまえ!」
「「へい!」」
「危険ですご主人様。お下がりください」
「大丈夫だよ。それに、好きな女一人くらい。守れないとな」
私はご主人様に危険を伝えるが一瞬、私の方を向いて微笑み、そんな事を言ってきた。
「えっ……」
ご主人様は今何と……?
私はご主人様の一言に思わず動きを止めてしまった。
「なによそ見してんだよ!」
「ご主人さっ、ひゃあっ!?」
「別に見えて無くても気配で直ぐ分かるから、ねっ!」
「なにっ!?げはっ!」
(がらがらっ!!)
ご主人様は突然私を抱きかかえ、そのまま体の軸をずらし、背の低い男の攻撃を避けた。
避けた拍子に男は勢いあまり、立てかけてあった材木にぶつかり下敷きになった。
「チビッ!貴様よくも」
「勝手にぶつかっただけじゃないか」
「うるせっ!おい、デク!」
「わかったんだな」
(ドシン、ドシン)
「許さないんだな~~~!」
デクと呼ばれた大男は両手で私達を捕まえようと手を伸ばして向かってきた。
「愛紗。ちゃんと俺に捕まっててね」
「え?あ、はい」
ご主人様に言われ、首に手を回す。
「ふん!ふん!ふん!」
「よっ!ほっ!とっ!」
ご主人様は伸びてくる手を軽々と避けていた。
「なにやってんだデクッ!さっさと捕まえろ!」
「だ、だめなんだな。動きが早くて捕まえられないんだな」
「くーーっ!おい、いつまで寝てやがるさっさと加勢しろ!」
「いてて……わ、わかったぜ親分」
木材の下敷きになっていた男に檄を飛ばす。
「デク、挟み撃ちだ!」
「分かったんだな」
前後から私達を挟み撃ちにして捕まえようとしてきた。
「へへ、これでもう逃げられないぜ!」
「なんだな!」
「そんなんじゃ、俺は捕まえられないよっと!」
「なっ!」
「なんだな!?」
(どーーんっ!)
ご主人様はつかまる瞬間、勢い良く横へ飛び退き、男達はぶつかり合った。
「まったく、こんな騒いだら誰かが着ちゃうだろ?って、この気配、近くまで来てるな」
「ご、ご主人様。今、この区画の警邏を担当しているのは星と鈴々です!星にこの姿を見られるのは困ります!」
星の事だ、きっと、いや、絶対に私をからかってくるに違いない。しかも、それをいつまでもだ!だから早くここから離れたい。
だが、まだ親分と呼ばれている男が残っている。くそ!早く何とかしなければ。
「そこまでだ。悪党共!」
「悪いことをする奴は捕まえるのだ!」
だが、私の願いもむなしく、星と鈴々が来てしまった。
「げっ!もう着やがった!お前ら、ずらかるぞ!」
「ま、待ってくださいよ親分!」
「ま、待つんだな~っ!!」
「にゃにゃ!逃がさないのだ!」
「頼んだぞ鈴々!」
三人組を追いかけて鈴々は走っていった。が、問題の星が残ってしまった。
「おや、誰かと思えば主ではありませぬか」
「やあ、星。お疲れ様」
「……」
「して、その
「あ、ああ。あの三人組に絡まれていたから助けたんだよ」
ご主人様は咄嗟に誤魔化してくれた。
「そうでありましたか。よかったな、主が近くを通りかかってくれて」
「……(こくこく)」
声を出しては星にばれてしまうと思った私は喋らず、頷いた。
「どうやら、怖くて声が出せなくなってるみたいだね」
ご主人様は私の気持ちを汲み取ってくれたのか、誤魔化してくれた。
「のようですな。主よ、ここは我らが場を収めますので、どうぞ少女を落ち着かせてあげてください」
「ああ。そうさせてもらうよ」
星に言われご主人様は私を抱きかかえたままこの場を離れようとした。
「ああ、言い忘れていましたぞ主よ」
「え?」
「落ち着かせるなら、町ではなく、河原に行ってみてはどうですかな?静かで誰にも邪魔されませぬぞ」
星はそう言うと、抱きかかえられている私を見てニヤリと笑った。
ば、ばれている!?そ、そんなはずは!だが、今の視線はどうみても私を見て……
「あ、ああ……そうさせてもらうよ」
星の言葉に、ご主人様は苦笑いを浮かべていた。
「……気づかれてたみたいだね」
しばらくご主人様は私を抱きかかえていたが、一言だけ呟いた。
「はぁ~……なぜわかってしまったのでしょうか」
「う~ん。それは俺にも分からないな。あとで聞いてみたら?」
「怖くて聞けませんよ。それに聞いたところで教えてはくれないでしょう。逆になんであんな恰好をしていたか問い詰められるに決まっています」
「あ~……確かに……」
ご主人様は頷き、苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、星が言った様に河原に行ってみようか。愛紗も人目とか気になってるんだろ?」
「はい……あ、あのご主人様?」
「ん?」
ご主人様に声をかける。
「そ、そろそろ降ろしていただけないでしょうか。さすがに皆の視線が……」
藁帽子のおかげで私の顔は見えていないだろうが、こちらからは周りの景色が良く見える。
それに、ご主人様が私を抱きかかえて歩いているせいで注目を浴びていた、特に女性から目が何と言うか、羨ましそうに頬を染めて見られていた。
「だ~め」
「なっ!」
「俺がこうしていたいんだ。ダメかな?」
「ぁ、ぅ……どうぞ」
そんな笑顔で言われてしまうと私は何も言えなくなってしまうではありませんか、ご主人様……
まったく、先ほどの言葉といい、今といい、ご主人様はずるい……
あんな言葉を言われてしまえば、どんな女性も本気にしてしまいますよ。あんな……
『好きな女一人くらい。守れないとな』
「はぅ!」
先ほどのご主人様の言葉を思い出してしまい、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。
「?どうかしたか、愛紗?」
「い、いえ!なんでもありません!そ、それより早くここから離れましょう!」
「わかりました。我がお姫様」
「なっ!?!?」
その言葉に私はさらに顔を赤くしてしまった。
「き、急に何を言い出すのですか、ご主人様。それに私は姫などでは」
「今の俺にとっては愛紗はお姫様だよ」
「はぅ!」
ほ、本当にこのお方は……真顔でそんなことをおっしゃるのですから……
呆れつつも、内心ではとても嬉しく、胸がドキドキと脈を速くしていた。
そして、民衆に晒されつつも、なんとか町を抜け、城の近くにある小さな河原に辿りつくことができた。
「ふぅ……ここまでくれば一安心だね」
「は、はい……あの、ご主人様。そろそろ降ろしていただけますか?」
「ああ、そうだね。はい」
ご主人様は腰を屈めて抱きかかえていた私を降ろしてくれた。
「……」
「……」
降ろして頂いた瞬間、目と目が合い、お互いに動きを止める。
ご主人様のお顔がこんなに近くに……
とても恥ずかしい、恥ずかしいのだが、なぜか目を背けることが出来なかった。
「愛紗……綺麗だよ」
「ご主人様……」
顔が近づき、自然と私は目を閉じる。
(ガサガサッ!)
「「っ!!」」
茂みの音に私達は驚き、距離をとる。
(ガサガサッ!……ぴょんっ!)
「う、うさぎ?」
「の様ですね……」
茂みから出てきたのは一匹の野うさぎだった。
「……ふふっ」
「……ははっ」
お互いを見て思わず笑いあってしまった。
「私はてっきり、また桃香様たちが覗いていたのかと思いました」
「ああ、俺も一瞬焦ったよ」
野うさぎの登場により場の空気が一瞬で変わってしまった。
ちょっと残念な気もしたが、これはこれで良かったのかも知れない。
(びゅーーーっ!)
「あっ!」
一瞬、強い風が吹き、被っていた藁帽子が風に飛ばされてしまった。
「俺が取るよ」
「いえ、私がっ……あっ!」
帽子を追いかけようとするご主人様。私も追いかけようと立ち上がったがその瞬間、眩暈が起きて一瞬、意識が飛びかけた。
「っ!危ない!」
ご主人様は私が倒れるのに気が付き、慌てて向きを変えて私を助けてくださった。
(どしんっ!)
しかし、無理な姿勢から私を抱きとめた為、そのままご主人様を下にして倒れてしまった。
「んっ!?」
「んっ!!」
そして、地面に倒れた衝撃で、私とご主人様は口づけをしてしまった。
「ご、ごめん愛紗!」
「い、いえ……私のほうこそ助けていただき、ありがとうございます」
「……」
「……」
先ほどの朗らかな空気と打って変わり、なんとも気まずい空気があたりを漂っていた。
「そ、そろそろ戻ろうか」
ご主人様は立ち上がり、歩こうとした。
「っ!」
「愛紗?」
「え?……あっ」
私は無意識のうちにご主人様の服の裾を掴んでいた。
しかし、これは私にとって好機ではないか?愛紗よ、今ここで勇気を出さず、いつ出すのだ!今、この時が絶好の好機だぞ!
私は自分に言い聞かせる。
「どうかしたのか?」
「あ、あの……」
嫌われてもいい……だけど、後悔だけはしたくない!
「わ、私を……私を抱いてください!」
私は立ち上がり勇気を出し、ご主人様に思いをぶつけた。
「あ、愛紗?な、何を言って……」
「わ、私は本気です!ご主人様をこの目で見てからずっと……私はご主人様の事をお慕いしていました!」
私の思わぬ告白にご主人様はただただ目を丸くしているだけだった。
やはり、私のような一武将がご主人様に恋など、おこがましいのかも知れない。でも、もう後には引けない。私はそのまま続けた。
「迷惑なのは百も承知です!ですが、このまま胸に秘めて苦しむよりも、いっその事、言葉にして……っ!」
(ぎゅ……)
「ありがとう、愛紗。嬉しいよ」
「ご主人、様?」
ご主人様は私を優しく抱きしめてくださった。
「迷惑では、無いのですか?」
「そんなこと無いよ。それに、前にも言ったかもしれないけど、俺は愛紗の事、好きだよ。一人の女性として」
「ご主人様……」
私はその言葉だけでも十分だった。
「愛紗……」
「ご主人様……」
私の名を呼び、顔を近づけるご主人様。私もそれに答えるように目を瞑り顔を近づける。
「ん……ちゅ」
軽く触れるだけの口付け。しかし、それは先ほどの口付けと違い、とても心が満たされた。
「……もう一度」
「ん?」
「もう一度、口付をしていただけますか?」
「何度でもしてあげるよ……でも、口付じゃなくてキスって言ってほしいかな」
「き、す?」
「そう、俺の居たところでは口付をキスって呼んでたんだよ」
「きす……き、す……」
『きす』、なんだかその言葉は同じ意味なのにとてもいやらしく聞こえた。
「……き、キスをもう一度していただけますか?」
「ああ……」
「はふうぅ、っん……ひふ、はっ、む、~~~~~っ!?」
先ほどのキスとは違い、長く、そして少し荒かった。
だけど、私はとても嬉しかった。
「ふ~、ふぅ……」
顔が離れ、唇が離れると、私は、吸えなかった空気を吸い込んだ。
「どうだった?」
「は、はい……とてもすごかったです」
「まだまだ、こんなものじゃないけどね」
「え?それはどういう……っん!?」
ご主人様はそう言うと、私の口をまた塞いできた。
「はあぁ、ん……ぁ、あ……ちゅ、はぁ……む、んん……ん」
今度も先ほどより長く、キスをする。途中で少しだけ口が離れると私は息を吸い込み、またキスをする、それを繰り返していた。
「ご主人様……ん、むふ、んん……」
「愛紗……ん、口開けて」
「?こ、こうれふか?」
私はご主人様に言われたとおり口を開けた。
「ん、れろ」
「はひゅ!?ご、ごひゅじんひゃま!?にゃ、にゃにを……んんっ!」
ご主人様は行き成り私の口の中に舌を入れ、口の中を嘗め回してきた。私は一瞬の出来事に分けが分からず、なすがままになってしまっていた。
「んんっ、じゅる、ひゃ、……ひゃめ、ひゃぅ……ん、……んん」
「愛紗も、ちゃぷ、ん……俺と同じようにしてみて」
「こ、こうでふか?……ちゅぷ……じゅる、んん……」
言われたとおり、同じように舌を絡めて見た。
「んん……はぁ、んん、じゅる……ちゅぱ、ぁ、あ……ご、ごしゅじん、ひゃま……ごしゅじん、ひゃま」
「あいひゃ……ん、可愛いよ……じゅぷ……じゅるじゅる……んん」
私とご主人様はお互いを求め合った……
「っ!ご、ごひゅじんひゃま……ま、まっへ……んんっ、ぁ、あ……ちゅ、ん」
しばらくすると、あまりの気持ち良さからか、体に変化が訪れた。
目の前がちかちかとしだし、下半身に力が入らなくなってきたのだ。
「ひゃっ……な、なにかくりゅ……んん、だ、だめへふ、ご、ごひゅひんひゃま……ひゃ、ひゃめ……っ!んん~~~~~~~~~~~~~っ!?!?!?」
次の瞬間、目の前が真っ白になってしまい。私はご主人様の腕の中で崩れ落ちた。
「大丈夫か、愛紗?」
「はぁ、はぁ……い、今のは一体……」
「ちゃんとイケたみたいだね。よかった」
「イケた?」
「えっと、達したって言えば分かるかな」
「な、なるほど」
そうか、これが達したということなのか……
「で、では、ご主人様も?」
「え~っと……俺は、まだ、かな」
「そ、そんな!……ご主人様を差し置いて達してしまうとは……申し訳ございません、ご主人様」
「そ、そんなに落ち込まなくても。それに愛紗が俺のキスでイッてくれたことの方が嬉しいよ」
「ご主人様……」
ご主人様の言葉に顔が熱くなる……
しかし、そこで私はあることが気になった。
わ、私は達した時、変な顔をしていなかっただろうか?
だがそれ以上に、私だけ気持ち良くなっては申し訳がたたない。
「ご、ご主人様!こ、ここ今度は私がご主人様に気持ちよくなってもらう番です」
「別に気にしなくてもいいのに」
「いいえ。そうは参りません。やはりご主人様にも気持ちよく……あ、あれ?」
ずぼんを脱がせようとしたが、脱がし方が分からず、戸惑う私。
「自分で脱ごうか?」
「い、いえ!お任せください。必ずや脱がせて……取れた!……っ!?」
なんとかずぼんを脱がすことに成功したが、そのとたん、ご主人様の局部からそそり立つものが現れた。
「こ、ここここれは……」
は、初めて見た……これが殿方の……ご主人様の……
「ごくん……」
初めて見る男の物に思わず唾を飲んでしまった。
「あ、あの……そんなに凝視されると恥ずかしいんだけど」
「はっ!す、すみません!は、はじめてだったものでつい!」
後ずさりして何度も頭を下げる。
「いや、別にいいんだけどさ……えっと、それでどうするの?」
「……は?」
「いや、どうやって俺を気持ち良くしてくれるのかなって」
「……」
あ、あれ?どうすればご主人様を気持ち良くできるのだ?何も考えが無いまま、ずぼんを脱がせたが……
「えっと……愛紗?」
考え込む私にご主人様は話しかけてきた。
「……すみません。考えていませんでした」
うぅ……なんてことだ。ご主人様にこのような失態をお見せするとは……
「それじゃ、一緒に気持ち良くなろうか」
「え?それはどういう……」
一人で後悔しているとご主人様が提案してきた。が、どういう意味であろう。
「おいで、愛紗……」
「は、はい……きゃっ!」
ご主人様に手招きされ言われた通りにご主人様に近づと手を握り引っ張られた。
「ご主人様、なに、んんっ!?」
抱き寄せるご主人様に振り返ると口を塞ぐ様にキスをしてきた。
「ん……な、んぁ、……何をなさるのですか…ん…ごひゅじんひゃま!」
「もちろん。お互いを気持ち良くする為の準備だよ」
「じゅ、準備?……ひゃぁぁああっ!」
そう言うと、ご主人様は私の胸を揉みだした。
「お、お止め下さ、んんっ!ご主人様っ!」
「そんな大きな声を出すと、誰かに見つかっちゃうよ?」
「っ!」
慌てて手で口を押える。
「それとも、愛紗は誰かに見られたいのかな?」
「そ、そんなわけっ、んはっ!ぁ……ご、ご主人様がお止めしてくだされば……んんっ!」
文句を言うも、ご主人様は手を休めることなく、私の胸を揉み続けた。私は声を抑えることで必死で、ご主人様から逃れることができずにいた。
「ん……んぁ……そ、そこは……だ、だめぇ……」
ご主人様の手つきは優しく……私は次第に体の力が抜け始めた。
「どう、愛紗?気持ちいいかな?」
「そ、そんなこと……ありま、んんっ!せん……そ、それより、……これでは、ご主人様が気持ち良く、なれまっひゃっ!」
「大丈夫、ちゃんと二人で気持ち良くなれるから。最初は痛いかもしれないけどね」
「痛いとは、どういうことですか?」
(こり)
「っ!?!?んっいぃっ!?ーーーーーーーっ!!」
ご主人様は私の質問に答えず、胸の先端を摘まんできた。そして私は、その刺激にまた目の前が真っ白になり、達してしまった。
「にゃ、にゃにをひたのでふか……ごふひんひゃま……」
あまりの刺激に、呂律が回らなくなってしまった。もはや、私ですら、何を言っているのか分からなかった。
「ん~、気持ち良くなるボタンかな?」
「ほ、ほはん?……んん!?」
聞き返すも、ご主人様は笑顔を見せるだけで何も答えてくれず、キスをしてきた。
「そろそろこっちもいいかな?」
「はひ?……っ!ひょ、ひょこは!」
ご主人様は、私の密部に手を伸ばしてきた。それを私は拒むように足を閉じる。
「愛紗?」
「だ、だめです……ご主人様のお手を汚してしまいます」
一気に我に返り、言葉も元通りになり、なんとかご主人様に止めてもらうとする。
「でも、一緒に気持ち良くなりたいだろ?」
「そ、それはそうですが……っ!ご、ご主人様、まだ話のさいちゅ、んんっ!!」
ご主人様は私の話を無視して胸を触ってきた。
「ん……ず、ずるいですご主人様……ちゃんと話しを……んあっ!」
「ちゃんと聞いてるよ」
「でしたら……んっ……胸を揉む手を離して、くださ、い……」
「それはだーめ。このまま話してよ」
「そ、そんな……こんな状態ではまともに話なんて…んひっ!」
ご主人様はまた私の乳首を触り始めた。
「ひぅ!そ、そこだ、ダメです……ま、また……んん、す、直ぐにた、達してしま、いぃ!?」
「うん。いいよ、いっぱいイッても、その方がきっと痛くならないだろうし」
「ですが、それではご主人様が……んんっ!」
「俺の事は気にしないで良いよ。だから、愛紗は我慢しないで気持ち良くなっていいんだよ」
ご主人様はそう言いながら胸を、乳首を揉み続けた。
「舐めたらどうなるかな?」
「へ?……っ!だ、ダメですご主人様!い、今舐められてはっ!」
「ぺろ」
「ひゃーーーーーーーっ!!」
ご主人様は私の乳首の周りを舐めた。その衝撃は計り知れず、声を抑えること出来ず叫んでしまった。
「やっと、声を出してくれたね」
ご主人様は嬉しそうに微笑んでいました。
かと言う私は誰かに気づかれなかったかひやひやしていた。
「大丈夫だよ。この近くに人は誰も居ないよ。だから愛紗はもっと声を出していいんだよ」
「っ!で、では先ほどの言葉は!」
その言葉を聞いて私はご主人様に騙されていたと初めて分かった。
「ごめんね。我慢する愛紗の顔を見ていたかったから」
「ゆ、許しません!騙すなん、ひゃう!」
「ぺろ……ぺろ」
ご主人様はまた私の胸を舐め始めた。今度は先ほどみたいに一回ではなく何度も舐めていた。
「ひゃっ!そ、それは、ああっ!だめ……だめです!」
「愛紗は感じやすいね。それじゃ、こんなことしたらどうなるかな?」
「はぁ、はぁ……へ?」
「……こり」
「ーーーーーーーーーーーっ!?!?!?……んはっ!はぁ、はぁ……」
ご主人様は私の乳首を口に含み、軽く噛んできた。
私は今まで以上の快楽に気を失いかけた。
「ご、ご主人様は手馴れて、んは、おいでですね」
「そ、そうかな?これでも初めてなんだけど」
「……え?」
こ、これが初めての手つきなのか?私も初めてでよくわからないが、なんだかご主人様は手馴れて居る様に思うのだが……
「それにしても愛紗って感じやすいんだね。もうここがこんなだよ」
「え?……っ!?!?きゃーーーっ!!!」
ご主人様はいつの間にか私の密部に手を伸ばしていた。
「ひゃぅう!や、止めてくださいご主人様!そ、そこは汚いです!」
思わず足を閉じて拒もうとしたが既にご主人様の手が入り込んでいてそれは叶わなかった。
「愛紗に汚いところなんてないよ……ん」
(くちゅっ)
「んあっ!?」
ご主人様はそう言うと私の胸と、密部を手と口で同時に攻め始めた。
「あっ、あっ、……ど、同時はら、らめれす!」
もう声を抑えるどころの事態ではなかった。同時に攻められたことにより、今まで以上の快楽が私を襲っていたからだ。
「ひゃ、ひゃめてくだひゃっ、んんっ!?」
「可愛いな愛紗……ぺろ、ちゅ」
「む、胸を舐めないでくだひゃい……ぁ、ああ、ま、また、くる……きひゃいます!」
「愛紗、そういう時はイクって言うんだよ」
「い、いく?」
「そう。それじゃ、またイこうか……ぺる、ちゅぱ……」
「ひゃぅ!ほ、ほんとにだめれす!い、いっひゃいますから!」
乳首を舐めることを再開したご主人様、そしてそれと同時に密部も弄る。
「ちゅぱ……ちゅる……ん……こりっ」
(くちゅ……くちゅ……びゅぷっ…きゅっ)
「ッ!?!?い、いきゅーーーーーーーーーっ!!!!」
同時責めにくわえ、ご主人様は乳首を噛み、密部にある突起を摘まんできた。
その同じの責めに耐えられず声を上げていってしまった。
「はっ!はっ!はっ!」
私は空気を求める様に息を何度も吸った。
「気持ち良かったかい?」
「ひぐ……ひぐ……み、見ないでください。私の顔を」
「あ、愛紗?」
きっと今の私の顔は酷いことになっているだろう、だからご主人様には見てほしくなかった。
「……ごめん、またやりすぎちゃったみたいだね」
「ぐす……ご主人様」
ご主人様は私を抱きしめ、背中を擦ってくださった。
「でも、わざとじゃないんだよ。愛紗が可愛かったから……もっと愛紗の可愛い顔を見たかったからなんだ」
「で、ですが、あんなだらしのない顔をご主人様に見せては、私は生きて行けません」
「そんなことないよ。すごく可愛かったよ」
「嘘です」
「本当だよ。その証拠に……ほら」
「っ!」
ご主人様は体を少し離して、目線を下に向けた。
するとそこには、最初に見たものよりも長く、太く、そそり立っていた。
「……」
「愛紗の可愛い顔を見て、こんなに興奮してるんだよ」
「私でこんなにも……」
「ああ……っ!」
思わずご主人様のそれに手を伸ばし、おもむろに握ると、ご主人様は体を一瞬震わせた。
「す、すみませんご主人様!痛かったですか?」
「いや、平気だよ。ただ敏感になってるから優しく触ってくれるとありがたいかな」
「は、はい……っ!すごい……」
(びくんっ!びくんっ!)
そっと握ると、ご主人様のそれは激しく脈打っていた。
「それじゃ、一つになろうか」
「っ!は、はい」
と、と、等々ご主人様のご寵愛を頂ける!
「よ、よろしくっ……」
「?」
一瞬、桃香様のお顔が脳裏を横切った。
いいのか?桃香様を差し置いてご寵愛を頂いても……私は家臣だぞ?
「……あ、あのご主人っ……?」
「愛紗の言いたいこと、何となくわかるよ。桃香の事だろ?」
「……(こくん)」
「それじゃ、止める?」
「っ!……いや、です……止めないでください」
思わず出てしまった言葉に私は自分で驚いた。
しかし、嫌だと答えると、ご主人様は優しく微笑んでくれた。
「わかった。それじゃ二人で気持ち良くなろう」
「はい」
「あ、でも、痛かったら無理しないで言ってね」
「ふっ、これでも武人ですよ。痛さには慣れています」
ご主人様の気遣いに思わず笑ってしまった。
「それじゃ、ゆっくりと入れるよ」
「は、はい……っ!」
ご主人様は私の密部に自分のものをあてがった。
「それじゃ、いくよ」
「は、はぃい!?」
な、なんだこの痛さは!今までに感じたことのない痛さだ。内側から体を裂くような痛さが私の体を硬直させた。
「ぅぅ……ぃっ!」
「愛紗、痛いのか?」
「へ、へいき、です……気にせず、入れてくださぃぃ!」
「でも……」
「大丈夫、です……これくらいの痛み、耐えて見せます」
折角、ご主人様と一つになれるのだ……これくらいの痛み、耐えなくてどうする!
私は歯を噛みしめて痛みに耐えていた。
「それじゃダメだよ愛紗。二人で気持ち良くなるんだろ?」
「ご、主人様?なにを……ひゃっ!」
ご主人様は密部に手を当てがい、私の敏感になっているところを弄り始めた。
「あっ!あっ!あっ!こ、これだめ!だめです、ご主人様ぁぁあああっ!」
私はその行為で、軽くだがいってしまった。
「少し力が抜けたかな……愛紗、体の力を抜いて……そうすれば痛くないから」
「は、はぃ……すー、は、はぁーーー」
私は一度息を吸い、吐き出すとともに体の力を抜いた。
すると、不思議なことに、痛みが少し和らいだ気がした。
「……もう大丈夫です、ご主人様」
「わかった、それじゃ、いくよっ!」
「は、はい……っ!」
ご主人様が私の中を貫いていく……痛みはあったが先ほどのような痛みは無く、代わりに異物が私の中を押し広げていくような違和感を感じていた。
「……もう少しで、全部入るよ」
「は、はい……んんっ!くぅっ!」
「はぁ、はぁ、……全部入ったよ愛紗、痛くはないか?」
「は、はぃ……痛みはありません……本当に私たちはひとつになれたのですねご主人様」
「ああ、そうだよ」
「~~~~っ!」
嬉しかった……ご主人様と一つになれたことがとてつもなく嬉しかった。
そして、目の前が徐々に霞んできた。
「愛紗……泣いているのか?そんなに痛いのか?」
そう、私は涙で前が霞んでいたのだ。
「いえ、これは。ご主人様と一つになれたことが嬉しくて……」
それは辛さからではなく、嬉しさからくる涙。
「……俺もうれしいよ愛紗」
ご主人様はそう言うと、目じりにたまった涙を指ですくってくれた。
「ご主人様……っ!」
「やっぱり痛いのか?もう少しこのままでいようか?」
「いいえ。大丈夫ですよ。それより……っ」
私は軽く腰を浮かせてみた。少し動いただけで、痛みが全身を駆け巡った。
「やっぱり痛いんじゃないか」
「だ、大丈夫です。これくらい、ですからご主人様はご自身が気持ち良くなれるように私を使ってください」
「そんなこと出来るわけないだろ?それに使ってくださいだなんて言うなよ。愛紗は物じゃない、愛紗は人間の、しかも女性なんだ。だから愛紗も気持ち良くならないとダメなんだ」
「……すみませんでしたご主人様。でも、私は平気です……ですが、しばらくゆっくり動いてくれていると助かります」
「わかった。それじゃ、最初はゆっくりといこう」
「はい……んっ!」
そう言うとご主人様はゆっくりと腰を動かし始めた……その動きは本当にゆっくりで、それほど痛みを感じんかった。
「痛みはどう?」
「はい。これくらいでしたら、ぁ、平気みたいです」
「うん。それじゃしばらくこれくらいの速さで行くよ」
「は、はい」
ご主人様はゆっくりと私の中を出たり入れたりしてくれていた。
「ん……んふ、……あっ、……」
次第に、痛みは無くなり、痛みの代わりに徐々に気持ち良くなってきた。
「ご主人様、……ん、もう少し、早く動いていただいても結構です」
「うん、それじゃ、いくよ!」
(ずんっ!)
「ひゃぅ!……あっ、あっ、あっ!す、すごい……」
ご主人様の動きに合わせる様に声が出てくる。
熱い……ご主人様の私を貫くそれはとても熱くて、硬くて、そして優しかった。
「はあああああ……!?ご、ご主人さ、ま……ご主人様!……はふぅぅ、ん……くちゅ……ん、じゅぷ……」
私は手を彷徨わせて、ご主人様の頭を掴むと無理やりにキスをした。
「ん~~……ぷ、ちゅ、んぅ……ごひゅひんひゃま、……ちゅうぅっ、ぴちゃ、ごひゅほんひゃま!」
私はキスをしながらなんども愛しい人の名前を呼んだ。
「も、もっひょ、もっひょわたひを感じてくだひゃい、ん、ちゅう、ちゅぷ、はぐ、!」
「愛紗……はっ、はっ、……愛紗!んんっ!……ちゅ、ん」
ご主人様はさらに腰の動きを早めた。
「んうぁぁあああっ!っく、う、ひゃ!あ、う……うっあ、ん!?」
「ごめん……愛紗……俺、もう……」
ご主人様の顔は少し歪んでいた、それはご主人様がもう少しで達してしまうという合図だった。
「わ、わたひも!わたしももう少しで!だ、だからいっひょに、一緒に!」
「ああ、……ああっ!」
「あ、あ、あ、!あっああ!ん、ちゅ、う、ん、ちゅぷ、好き……好きでふ、ご主人様ぁ!!」
「愛紗っ!」
ご主人様、私の名を叫び、強く抱きしめキスをしてきた。
「っ、ふ、ん、んんんんんんぅ~~~~~~~~っ!?!?」
それと同時に、私の中にご主人様の熱いものが流れ込んできた。
その熱さと、快楽の波に飲み込まれ私もイッてしまった。
「んぱっ!は、は、……はぁ~~~~、あ、ぅ……あぁ…………」
「はぁ、はぁ……愛紗っ……ちゅ、ちゅ」
「ご主人様……はふ、ん~~~……ちゅ、ぴちゅ、きもひ……よかったれすか?」
「ああ……すごく良かったよ……ちゅ、ちゃぷ」
「わたひも……ん、気持ちよかっはれす……私の中でご主人様の熱いものが流れ込んできて……とても……とても」
私はご主人様に抱き着い、離さないでいた。なんだか、このまま終わりにしたくなかったから。
「ご主人様……もう少し、このままでいてもいいですか?」
「ああ」
「ご主人様……大好きです……一生、着いて行きます」
「俺も大好きだよ愛紗。だから、俺のそばにずっといてくれ」
「はい、ご主人様♪」
私はご主人様の言葉に笑顔で答えた。
「ご主人様……キス、してくださいますか?」
「よろこんで……ん」
「はん、ちゅ……んぷぁ、あ、ん……」
ご主人様は微笑み、私にキスをしてくださった。
そのキスは行為の最中のような、荒く、刺激的なキスではなく、優しく、包み込むようなキスだった。
「すごく幸せです。ご主人様」
「俺も幸せだよ。俺の最初の相手が愛紗みたいな可愛い子で」
「~~~~~っ!ま、またそのようなことを……」
「本当の事だよ」
「うぅ~~……しりません!」
私はぷいっとご主人様から顔をそむける。
「はは、苛めた愛紗も可愛いね」
「なっ!ご、ご主人さ、んん!?」
振り向いたと同時に口を塞がれる。
「はぅ……ずるいです、ご主人様」
「ごめん」
「許しません」
「そえじゃ、どうしたら許してくれるかな?」
「……もっと強く抱きしめて、キスをしてくれたら許してあげます」
「了解……ん」
「ん……ちゅ、はん、ん……」
私はしばらくご主人様と繋がったまま、抱きしめあい、キスをした。
「うぅ……歩き辛い」
痛みからなのか、はたまた、ご主人様の精が私の中にあるからなのか、ひょこひょこと歩いていた。
「……おぶろうか?」
「っ!い、いえ。これくらい平気です!気にしないでください!」
私とご主人様は帰路の途中だった。
すでに町は昼間の賑わいから、夜の賑わいへと変わり始めていた。
「……」
「……」
お互い無言で歩く。
行為に及び、何を話して良いのか分からなかったからだ。
等々してしまったのだ……私とご主人様は……
「……」
思わず手を自分の下腹部に当てる。
ここにご主人様の精が……
それがなんだか気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
そんなことを思っていると、いつの間にか城についていた。
「あ、あの……ご主人様」
「ん?な、なに?」
「そ、その……」
呼び止めたものの言葉が出てこなかった。
「そ、その……~~~~っ!ま、また、ご寵愛を頂いてもよろしいでしょうか……」
「え?」
「あ、いえ、その……今すぐにという訳では無く、そ、その、今度はご主人様のお部屋で愛していただきたいとかそう言う訳では無くてですね!」
ああ、私は何を言っているのだ、自ら墓穴を掘るようなことを!
「えっと……それじゃ、無事に成都に着いた時にでも」
「っ!よ、よろしいのですか!?」
「あ、ああ。愛紗さえ、良ければだけど」
「そ、そんな!こちらからお願いしたことです。嫌なはずがありません!」
「ならよかった。それじゃお互い、無事に成都に辿りつこうね」
「はい!お任せください、ご主人様。関雲長、我が得物、天龍偃月刀に懸けて誓いましょう!」
そういって手を前に差し出すが、得物は無かった。
「……そ、そうであった、私の得物は部屋に……と、兎に角!我が真名に懸けて誓いましょう!」
「うん。それじゃ、俺は先に戻るね」
「あっ!しょ、少々お待ちをご主人様!」
「ん?」
城戻ろうとするご主人様を呼び止める。
「そ、その…………………………ちゅ」
私は背を少し伸ばし、ご主人様の唇にキスをした。
「愛紗……」
「お、お疲れ様でした。ご主人様」
「うん、愛紗もお疲れ様」
ご主人様は私を労い城へと戻って行った。
………………
…………
……
「……ふぅ」
ご主人様を見送り、一人になると思わず溜息がこぼれた。
「あらあら、溜息を吐くと幸せが逃げてしまいますよ。愛紗さん」
「っ!そ、その声は菫か!」
辺りを見回すと、どこからともなく、菫が現れた。
「随分と、遅かったので心配いたしましたわ」
「そ、それはすまなかったな、だがこの通り無事だ」
「……そのようですわね」
菫は私の体を見回した後、微笑みながら答えた。
「どうでしたか?」
「ど、どうとは、どういうことだ?」
「あらあら、ご主人様とのことですわ」
「ご、ご主人様!?」
『ご主人様』という言葉に思わず反応してしまった。
「あら?あらあら?」
「う、うぅ……」
私の反応がおかしいと思ったのだろう、菫は何度も首を傾げながら私を見ていた。
「も、もう良いであろう!わ、私が可愛いというのは菫のおかげでよく分かった!」
「そうですか、ようやく分かっていただけたのですね」
ぽんっと手を合わせ微笑む菫。
「では、逢引もそれは楽しかったのでしょうね」
「なっ!」
『逢引』と、言われなぜか先ほどの行為を思い出してしまった。
「あら?愛紗さん、顔が赤いですよ?」
「な、何でもない!気にするな……」
「そうですか?……あら、ご主人様」
「な、なに!?ど、どこにおられる!」
辺りを見回しご主人様の姿を探す。
「……えい」
「ひゃぁあああっ!な、何をするのだ菫!痛っ!わ、わわっ!」
脇腹を突かれ、驚き距離を取るが下腹部の痛みに思わず尻餅をついてしまった。
「あらあら、やはり、そう言うことだったのですね」
「な、何のことだ」
私は兎に角、白を切る。
「ふふふっ、最初は痛かったでしょう。愛紗ちゃん」
「なっ!」
笑いながら話す菫。私はというと先ほどの出来事なのでご主人様との行為を思い出して顔を赤くした。
「でも、その後、とても気持ちも良かったのでしょ?いいわねぇ」
「な、なな何を言っているのだ?」
「
「わー!わー!わー!こ、こんな門の前でそのようなことを喋るな!」
「あらあら、別に良いではありませんか、悪いことではないのですから」
「そ、そうかもしれないが」
「それと、愛紗さんも分かっていただいたようですし」
「?何をだ?」
「ご自分が可愛いということにですよ」
「あ、ああ……そ、そうだな。十分分かった」
あれだけの民衆の色めき立つ声と、ご主人様から何度も言われれば、嫌でも自覚してしまう。
「ふふふ、その格好にお似合いの帽子ですね」
「ご主人様から頂いたものだ。この服にはこれが似合うと」
「ええ。ですが、顔が隠れてよく見えませんね」
「い、いいのだ。そうじゃないと……は、恥ずかしくて外を出歩けん」
「あらあら、ふふふ♪」
私の反応を見て微笑む菫。
「と、とにかく!私は戻るぞ!」
「あらあら、残念ですね。ご主人様とどのような育みがあったかお聞きしたかったのですが」
「だ、誰が教えるか!」
菫のとんでもない発言に声を上げて拒否をしてこの場を離れる。
「まったく……菫には困ったものだ」
思わず愚痴がこぼれる。
だが、菫が居なければご主人様に思いを遂げることが出来なかったのは事実だろう。
「ま、まあ……感謝はしているが」
してはいるが、やはりあの性格は何とかならないものだろうか?
菫の言動に困りつつも、私は今日という日を忘れることは無いだろう。
《To be continued...》
葉月「ども~葉月で」
愛紗「天誅ーーーーーっ!」
葉月「ぶべら!」
愛紗「はぁ!はぁ!はぁ!」
葉月「い、行き成り何するんですか!」
愛紗「う、うううるさい!何だ今日の話は!」
葉月「何って、愛紗を落とすお話ですけど?」
愛紗「真顔で言うな!」
葉月「え~。だって、みんなそろそろ愛紗と一刀の合体を見たいかなって」
愛紗「が、合体言うな!恥ずかしいだろ!」
葉月「まあまあ、それで?一刀に初めてを捧げた気分は如何でしたか?」
愛紗「う、うむ……やはり、嬉し……って、何を言わせるのだ!」
葉月「ちっ、もう少しだったのに」
愛紗「お、おのれ~!」
葉月「いや~。それにしてもまさか愛紗の話でここまで書くとは思いませんでしたよ」
愛紗「こ、こんなに長く書く必要ないであろう。もっと短く済ませられないのか」
葉月「無理です!愛紗への愛が、ここまで書かせたのです!」
愛紗「だ、だから真顔で言うなといっているだろ!」
葉月「はっはっは。照れ屋だな~愛紗」
愛紗「ぐぬぬっ!」
葉月「まあ、これで少しは愛紗も一刀に積極的になるでしょう。やることやっちゃったんですし」
愛紗「うぅ……、恥ずかしさで死んでしまいそうだ」
葉月「またまた~。そんなこと言っちゃって~、本当は凄く嬉しいくせに……ん?」
愛紗「どうかしたか?」
葉月「いや……なんかどこからか殺気を感じるんですが……別に恨まれるようなことはしてないよな~っと」
愛紗「……」
葉月「何ですかその『お前は恨まれるような事ばかりしているだろ』って視線は」
愛紗「まったくその通りなのだが?身に覚えが無いと?」
葉月「ないですね!」
愛紗「どや顔でいうな!……ん?あれってセキトでは?」
セキト「わふわふっ!」
葉月「何か加えてますね。愛紗、取りに行って来て下さい」
愛紗「まったく……人使いの荒い……」
葉月「そう良いながら取りに行く愛紗。愛してる!」
愛紗「煩いぞ!まったく……どれどれ……っ!……ほほう」
葉月「なんて書いてありましたか?」
愛紗「羽交い絞めにしろ、っと」
葉月「は?」
愛紗「そして、そのまま待機。っと」
葉月「えっと、誰からですか?」
愛紗「……(にこり)」
葉月「?」
愛紗「桃香様からだっ!」
(がしっ!)
葉月「ちょ!な、何するんですか!」
愛紗「煩いぞ。桃香様の命だ、大人しく捕まっていろ」
葉月「なんで!?」
愛紗「それは桃香様が来たら聞いてみるのだな。まあ、大よその見当はついているが」
桃香「は~~づ~~~き~~~さ~~~~ん」
葉月「ひっ!」
桃香「や~~く~~そ~~く~~し~~た~~の~~に~~~~っ!」
葉月「あわわわわっ!と、桃香が井戸の中から!?」
愛紗「こんな所に井戸なんかあったんだな……」
葉月「そんな悠長なこと言ってないで離してください」
愛紗「却下だ」
葉月「鬼ーーーーーーっ!!」
(ずりっ……ずりっ……)
桃香「フフフフフッ」
葉月「ひーーーーっ!」
(ずりっ……ずりっ……)
桃香「は~づ~き~さ~~ん」
葉月「わ、わかりました!じ、次回は桃香オンリーで書かせていただきます!だ、だから来ないで~~~っ!!」
桃香「……」
葉月「はぁ、はぁ、はぁ」
桃香「えへへ。約束だからね葉月さん♪約束破ったら、めっ!だよ♪」
葉月「は、ははは……」
愛紗「桃香様……」
桃香「あーっ!なんで愛紗ちゃん呆れてるの!?ひどいよぉ!」
愛紗「呆れもします。態々こんなことまでして……」
桃香「愛紗ちゃんだってきっと書いてくれなかったら得物振り回して葉月さんの事、追い掛け回すくせに~」
愛紗「う……」
桃香「それに、今回は愛紗ちゃんがすっごーーーっく、幸せな体験したんだから次は私だもんね。そうですよね、は・づ・きさん♪」
葉月「はい!そうですね!」
桃香「それじゃ、次回予告。いってみよ~♪」
葉月「じ、次回は、一刀と桃香のにゃんにゃんを書かせていただきます!」
桃香「いや~ん!そんな大声で言うなんて、私恥ずかしいよ♪」
愛紗「……まあ、今回だけは同情してやるぞ葉月」
葉月「は、ははは……それでは皆さん。また次回、お会いしましょう」
愛紗「さらばだ」
桃香「まったね~♪」
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皆さんこんにちは。
第41話投稿完了です。
今回も前回と同様に拠点の話です。
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