No.409178

真説・恋姫演義 仲帝記 幕間の六『崇拝するは偶像か、それとも・・・・・・のこと』 

狭乃 狼さん

幕間の六回目。

仲帝記、久々更新は、オリキャラ’sから楽就こと樹と、周倉こと椛の、メインとなったお話です。

アイドルファンの熱気を見よ!

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2012-04-15 21:40:57 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:7563   閲覧ユーザー数:6320

 アイドル。

 

 直訳すれば偶像、と言う言葉になるそれは、現代においてはイコール、人気のある歌手のことを指すことが多い。

 

 そして、それは何も現代に限った事でもなく、時代が違えど多くの人間に支持される、歌の歌い手という者が少なからず居るものである。

 

 そして、それもまた時代が違っても、アイドルが居れば必ず居るであろう者達。

 

 ファン。

 

 歌い手に限らずありとあらゆる、人の耳目を惹く行為を行う者には、大概熱狂的なファンというのが着くものであり、最早信仰としかいえないほどにまで熱狂する者達まで、中には現れたりもする。

 

 かつて起こった未曾有の農民反乱である黄巾の乱もまた、それを原因の一つとするものであり、その対象となったアイドルユニット、張三姉妹の、歌で大陸を獲りたいというその願いが、色々と捻じ曲がった形でファンの間に広がった事が、乱の起因の一つとなったことは、歴史の闇に埋もれた一つの真実である。

 

 そんな張三姉妹の熱狂的ファンクラブとも言うべき黄巾党に、かつて所属していた二人の人間が居る。

 

 楽就こと(いつき)

 

 周倉こと(もみじ)

 

 かつては張三姉妹に熱烈に惚れこみ、その親衛隊をも率いて荊州方面の黄巾軍の大将、そして副将とまでなっていたこの二人だが、袁術らに敗れてその配下になって以降、あれほど支持し、熱狂的に応援していた張三姉妹のことを、今では完全に過去の亡霊とまで言い切るほどに、新しい崇拝の対象と言うか、偶像を見つけていた。

 

 その新たな偶像の名は――――――。

 

 

 

 幕間の六『崇拝するは偶像か、それとも……のこと』   

 

 「おらそこっ!そこはそっちじゃねえって言っただろうが!」

 「樹ー!こっちの準備は終ったぞー!そっちはどうだー!」

 「おー!後は最後の符を設置するだけだ!」

 

 所は袁術の旧領である荊州は南陽の、宛県の街のその一角。普段は人々の憩いの場として活用されている、公衆広場とでも言うべきそこで、見事なまでに大掛かりな舞台の設置が、現在急ピッチで行なわれていた。

 その設営現場において、作業をする者達の先頭に立ち、彼らを指揮しているのは、現在この地の太守を務めている徐庶の副官、楽就と周倉である。

 

 「よーし!これで後は、明日の開演の日を待つばかりだな」

 「そうだな。……久々の美羽さまの生演舞会だ。うー、今から待ち遠しくてしょうがないぜ。なあ、樹よ」

 「まったくまったく。あー、早く明日の朝にならねえかなあー♪」

 「あ、そういや明日は、北郷の旦那も見に来る予定だったっけか?」

 「ああ、そう聞いてるぜ。いつだかの演舞会が開かれた庫見家とやらの時は、旦那は人の数と熱気に当てられて気を失っていたらしいからな。今度こそはと、随分楽しみにしてるって話だ」

 

 今回この場に設営されたこの大仰な舞台、実はこの翌日に行なわれる事になっている、兵や民たちの慰撫のための演舞会、と言う名の袁術と張勲による生ライブの会場なのであった。

 

 「その北郷の旦那だがよ、樹。お前さんは気付いているか?」

 「?何をだ、椛」

 「……あの旦那な。どうやら、美羽様に本気で惚の字らしいぞ」

 「な、なんだとおっ?!」

 

 一刀が袁術に惚れている。

 その事は袁家に仕える人間であれば、既に誰もが知っている公然の秘密として、少なくとも、将軍レベルの位に居る者ならば、とっくに周知しているものと周倉はそう思っており、同僚である楽就もまた、自分と同様だとそう思い込んでいて、その事を何気なくその場で口にしたのであったが、楽就の反応を見る限りでは、どうやらまったく知らなかったようである。

 

 「……本気でお気付きで無かったのかい?……周囲にはあれで隠しているつもりなんだろうけど、旦那が美羽さまにぞっこんなのは、ばればれも良い所なんだけどな」

 「……まじでか」

 「おおまじだ。……て、ちょっと待て樹!お前、何処へ行く気だ!?」

 「決まってる!汝南の北郷の旦那の所だ!今すぐ本人に確かめて来てやるぁ!」

 

 顔面蒼白から一転、周倉の話を聞いたその瞬間、楽就は文字通り血相を変えて、その場から駆け出そうとしたのだが。

 

 

 

 「やめろこの馬鹿!」

 「むぐおっ!?」

 

 周倉が思い切り投げつけた木箱が彼の背中に直撃し、楽就は駆け出そうとしていた勢いのまま、その場に激しく倒れてしまった。

 

 「~っ!!……なんで邪魔をしやがる、椛!我らが永遠の歌姫、袁公路様に恋慕するような不届き者なぞ、親衛隊の名にかけて許すわけには」

 「ちったあ落ち着けこの馬鹿!でっかい勘違いをしてんじゃあないよ、お前は!」

 「勘違い……だと?」

 「そうだ。……いいかい?美羽様は確かに、あたしらにとっちゃあ天使、それもかつての張三姉妹、今の数え役満姉妹なんざ、その前じゃあその存在すら霞んじまうような、眩いばかりの存在さ。けどな」

 

 地面に座り込んだまま自分のことを睨んでいる楽就を見下ろしつつ、袁術の如何に素晴らしきかを語りながら、彼のことを諭し始める周倉だったが、その途中で言葉を一旦濁し、少しばかり寂しげな表情にその顔を変えて空を見上げる。 

 

 「……そんな美羽様だって、公の場を離れさえすれば、一人の年相応の女の子なんだってこと、きちんと認めないとな」

 「いや、しかしだな……」

 「もちろん俺だって、美羽様の事は大好きだし、あの方を穢そうとする奴は、例え皇帝だろうが容赦ぁしないさ。けどよ、それはあくまで、歌い手兼踊り手である『みう』と、あたしらの主君である『袁公路』の事であって、一人の人間である『美羽』の事じゃあないんだ」

 「……」

 「こんだけ言えば、あんたも分かっただろ?ほれ、そろそろ本来のお仕事に戻るよ。明日までに、例の豪族どもに対する件、一区切りつけとかないとな」

 「……わあーったよ」

 

 まだどこか納得していない部分も彼の中にはあるのか、周倉の言葉に渋々といった様子の楽就だったが、それでも周倉の言葉に逆らえる要素は今の彼には最早無く、無骨ながらも笑みを浮かべて差し出された同僚の手をとり、その場にゆっくりと立ち上がった。

 

 「ほら、いつまでもクサってんじゃあないよ。さっさと輝里の姐さんの所行くよ」

 「分かった分かった。ったく、口うるせえ女だな、お前は。……つか、本当に女なんだろうな、お前?」

 「……テメエ……何時だかは人の胸をしっかり見たくせに、まだソレを言うかぁ?ああん?」

 「じょ、冗談だって!そ、それじゃあ俺は先に行ってるぜ!」

 「あ、待ちやがれこら!」

 

 さっきまでの真面目な態度は何処へやら。一瞬にして普段どおりの状態へと二人は戻り、その場から足早に逃げ出そうとする楽就を、周倉がそうはさせじと追いかけ出し、徐庶の待つ太守執務室へと、そのまま駆けて行ったのだった。

 

 

 

 翌朝。

 

 楽就と周倉の監督による、演舞会のステージが設営された広場には、所狭しと言うか、まともに動く事もままならない程の黒山の人だかりが出来ていた。

 

 「おお~。今回も随分、多くの者達が集まってくれたようじゃの~」

 「ですね~。これもみ~んな、美羽様がお可愛いからですね~。よっ!この天性の人たらし!史上最高の傾国の美女!」

 「にゅはははは~。もっともっと褒めてたもれ~♪」

 「……いや、傾けちゃったら駄目でしょ」

  

 演舞会の行なわれる、そのメインステージのそでにて、その群集を見ていた袁術と張勲と、二人のそんないつものやり取りを、一人冷静にツッコンでいる一刀がそこに居た。

 

 「ま、そういったいつもの冗談は置いておきまして」

 「ぬおっ?!今のは冗談だったのか?!」

 「ええ、半分くらいは♪」

 「うう~……一刀~、七乃が妾を虐めるのじゃ~。どうかその胸で慰めてたも~」

 「おほんっ!……美羽“様”?貴女はもう少し、人目というものを、お気になさるようにしませんとね。一応、今ここには、“お仕事”として、来ているんですからね?」

 「……こっちも七乃ばりに意地悪じゃ~……しくしく」

 

 そういったこれまた普段どおりな三人のやり取りを、少し離れた所でじっと見ている影が一つあった。

 

 「……やっぱり……羨ましすぎる……っ!」

 「……お前なぁ……ま~だそんなことを言ってるのかよ、樹」

 「しかしよぉ。椛の言うことも確かに一理はあるが、やはりふぁんの心理としてはだな!」

 「……あのな、樹?お前や俺、それに他の美羽様ふぁんの連中も、北郷の旦那には大きな、借りがあるって事、忘れちゃいないだろうな?」

 「大きな借り、だ?」

 「……お前がさっき言った“ふぁん”って言葉、教えてくれたのは誰だったよ?美羽様の舞台に、気を使った符術を利用して、“まいく”やら“すぽっとらいと”やらの、“すてえじ”用の道具を考案してくれ、ソレを私財でもって白洞の少年に造って貰ってくれたのは、一体何処の誰だったよ?」

 「う」

 

 

 

 袁術と張勲の二人が、施政の一環として時折行なっている民への慰撫活動の一つとして、このアイドルデュオ、『みうなな』としての活動というのがある。

 まあ、これが行なわれる事になった切欠と言うのは、本当に些細な出来事からだったのだが、その辺りの詳しい事情はまた別の機会にお伝えするとして。

 その活動が開始される事になった時、元黄巾党員だった楽就と周倉の二人は、かつて信奉した張三姉妹以上の人気を、袁術と張勲、二人に齎す事をその時誓い、それからというもの、日夜寝る間も惜しんでその活動を裏で支えてきた。

 そんな中、楽就と周倉の二人が、たまたまその話し合いの場に居合わせることになった一刀に、何かしら良い手段は無いものかと相談した所、その彼の口から提案されたのが、幾つかのこれまでに無い舞台装置の開発とその使用だった。

 

 この世界では、ある程度の武を嗜んだ者でありさえすれば、割と容易に“気”という、一種の精神エネルギーの様なものを扱う事が出来るようにのだと。かつて、諸葛玄から武の教えを受けていた際にそう聞かされていた一刀は、それを、袁術や張勲のような常人に近いレベルの者でも、何かしらの補助的装置があれば比較的容易に、扱う事が出来るようになりはしないだろうかと、そんな発想に至ったのである。 

 そこで、技術的なことなら何をおいても陳蘭が一番頼りになるからと、その彼に相談を持ちかけた。そして、陳蘭から帰って来た返事はと言うと。

  

 「……不可能とは言わない。気でなんらかのからくりを動かす事は、前々からソッチの方の師匠や兄弟弟子と、文で散々論議していたしよ。それに実際のところ、兄弟弟子の奴はもう、自前のそういうからくり、造っちまったそうなもんでよ。……俺としても、アイツにだけは負けたくねえと思っていたところだったから、これは良い機会かも知れねえな」

 

 陳蘭の言う兄弟弟子と言うのが、一体誰の事を言うのかは、また別の機会に語らさせて頂くとして。

 

 それはともかく、技術的な詳しい事は、説明をしだすと長くなるので省かせていただくが、陳蘭の試行錯誤によって、かなり限定的ではありながらも、現代で言うマイク相当の拡声器や、強力な光源を生み出すライト等が、この時代に早くも登場したのであった。

 

 「……ちょっと、歴史を変えすぎちゃった……かな?」

 

 完成した陳蘭製のそれらを始めてみた時の、一刀の率直な感想であった。

 

 閑話休題。

 

 

 

 「さて樹?ここまで言って、まだ何か反論が?」

 「……参りました」

 「分かれば宜しい。ほら、そろそろ開演の時間だぞ!俺ら裏方はこっからが本領発揮だろうが!」

 「お、応!」

 

 そうして、未だ一刀と袁術の関係―と言っても、本人達もまだまったく、何にも進展しても居ない―に納得していない楽就を、少々強引ながらも納得させることの出来た周倉は、その彼の尻を引っ叩くようにして、開演の時を今か今かと待ち受ける、一般の観客達のその最前列へと、銀色に染め上げたはっぴ(これも一刀考案の品だったりする)を纏い、彼ら同様の格好をした、『みうなな』のファンクラブ員たちのその中央に立つ。

 

 そして。

 

 「さあ、お前ら!!今日も気合入れていくぞおっ!」

 『おおうっ!』

 「お集まりの会場の皆様!お待たせいたしました!これより、恒例演舞会、『みうなな』こんさーとの開演です!」

 『おおーーーーーーーーーっ!』

 

 楽就の開演宣言と同時に、会場内のボルテージは一気に高まっていく。

 

 「さあ、それでは声を揃えて呼びましょう!我らが永遠不滅の絶対あいどる!その名は!」

 『みーうなな!みーうなな!みーうなな!』

 「みなのもの!待たせたのー!」

 「みなさ~ん!ご無沙汰してました~!」

 『ふおおおおおおおおおおおっ!!』

 

 観客達の呼び声に応え、袁術と張勲が舞台そでから勢いよく、舞台の中央へと躍り出てくると、その瞬間、観客達の熱気は更にヒートアップし始めていく。

 

 「それでは皆の者!わらわの歌を聞くのじゃーっ!!」

 

 『ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!』

 

 そうして始まった、袁術と張勲によるデュオユニット、『みうなな』のコンサートは、まさに、大盛況を絵に描いた状態のまま、陽が西に傾き始めるその直前まで、民達のというか、ファンの心をしっかり掴んで離さぬままに、熱狂の渦を宛県の街に巻き起こしたのであった。

 

 

 

 

 ちなみに、このとき初めて、二人のコンサートを見た一刀はと言うと。

 

「……やばい。俺までマジで『みうなな』のファンになっちまった……。……ファンクラブ、俺も入ろう…かな?」

 

 

 

 

 その後。

 

 

 

 

 実際に、一刀が『みうなな』のファンクラブに入ったかどうかは、また、別のお話である。

 

 

 

 

 幕間の六、了 

 

 

 

 

 と言った感じの幕間、その六でした。

 

 アイドルのファン心理というか、熱狂する気持ちと言うか、そういうのを今回表現したかったんですが、うまく出来たかどうはか自身がありませんwww

 

 

 

 それはともかく、今回の幕間はここまでとして、次回からは再び、本編へと戻る事にします。

 

 実の所、もう一つ幕間を書くかどうしようか悩みはしたんですが、

 

 幕間、すなわち拠点と言うのは、あくまでも仲間内での話だろうと、そう思いまして。

 

 予定として考えていた劉備勢の様子などは、本編の中の一幕として入れることにしました。

 

 

 それでは次回、新章突入の第三十羽にて、また、お会いしましょう。

  

 

 

 再見~( ゜∀゜) 。彡゜


 
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