年末、士樹と黒のフリフリドレスを着たアインハルトは戦艦フッケバインでの忘年会に誘われ、艦内を歩いていた。
「ここですね」
「入るよ、アインハルト」
士樹はアインハルトの手を引きながら宴会場と書かれた看板が掲げられている部屋に入っていった。中には、フッケバインのメンバーだけでなく士樹のクラスメイト達もいた。
「トーマ、君も来ていたのか」
「……気づいたら、簀巻きにされた状態で軟禁されていた。リリィが助けてくれなかったらいったいどうなっていたことやら」
「御愁傷様だね」
「フッケバインの人達はノリの良い人が多いから……」
「? 聞き慣れない声ですね」
「確かに」
知らない声の主を探すべくアインハルトはキョロキョロし、トーマの隣にいる長髪を持つ少女の笑顔が目についた。
「私だよ、アインハルト、士樹」
「リリィさん、あなた喋れるようになったんですか!?」
「そう言えば、2人は知らなかったな。リアルタイムで4ヶ月ほど前に喋られるようになったんだ」
「最近妙に嬉しそうだったのは、それが理由か」
「良かったですね、リリィさん」
「ありがとう、アインハルト」
「お〜い、俺達を忘れるんじゃねぇよ」
4人が話していると、遠くからヴェイロンという名の粗野な男が呼びかけてきた。それに続いていっけん優しそうな青年……フォルティスが話しかけてきた。
「先ほどから気になっていたのですが、今日アインハルトさんが着ているドレスはどうしたんですか?」
「あの、士樹が……」
アインハルトが急に赤くなり、もじもじしだしてフォルティスは嫌な予感を感じた。
「……結論から聞きます。今度は、何頭殺ったんですか?」
「一着につき5頭です」
「一着だけじゃないんですか!? ベヒーモスを巣ごと潰しでもしたんですか、あなたは!?」
「それはさすがにありません」
上位ランクに位置するベヒーモスをまるで象が蟻を踏み潰すかの様に扱う士樹にフォルティスは思わず突っ込みを入れた。
「あいかわらずだな、士樹は」
「神王や魔王のおじさん達に匹敵する愛情の注ぎ方だな」
別の方を見ると、音無と稟がいた。
「いやあ、突然自分の彼女にフリフリドレスを着せたくなっちゃってさ。君達もそう思わない?」
それを聞いて音無と稟は頭の中で恋人がフリフリドレスを着ているところを想像してみた。
「確かにそうだ」
「この間、魔法少女のコスプレをしていたけど、みんな似合っていたなぁ」
「愚問だな。シャーリーはもちろんのことナナリーに似合わないわけがない!!」
「うわっ!」
「いつのまに居たの!?」
「ついさっきだ」
どこから話を聞きつけたのかルルーシュも会話に加わり、その近くにいたトーマとリリィは苦笑いする。
「トーマ君、こんなところにいたんだ」
突如、トーマの背後から青いショートカットを持つフッケバインの責任者カレン・フッケバインが抱きついた。酒に酔っているのか行動がじゃっかん大胆だ。
「カ、カレンさん!?」
「いい加減フッケバイン(こっち)に来てよ、トーマ君。君ならいつでも大歓迎だよ」
「ちょっ!? 胸が当たってますって!!」
「細かいことは気にしな〜い」
カレンがトーマに対して積極的にアタックしているのを見てリリィもカチンときた。
「カレンさん、トーマにくっつきすぎじゃないですか?」
「良いじゃないのぉ〜、別に減るもんじゃないし」
「トーマももっとはっきり断って!!」
「えぇ、なんで俺に矛先が!?」
「諦めろ、姉貴は酔ったらこうだ」
トーマを巡る女の戦いが繰り広げられている中、ヴェイロンが慰める。
「アインハルト、このチキンいけるよ」
士樹が小さめのチキンをアインハルトの前にゆっくりと出す。
「はい、あ〜ん」
アインハルトはゆっくりとチキンを咀嚼する。
「うん、美味しいです。こちらの鯨のカルパッチョをどうぞ」
アインハルトが箸で掴んだ鯨のカルパッチョを士樹の口先に持っていく。
「美味しいよ、アインハルト」
士樹とアインハルトは幸せそうな顔で料理を食べさせあっている。
「完全に2人の世界に入っていやがる」
「こうなったら、しばらくは元に戻らないな」
「もし、起きてたとしても士樹の場合、あまり積極的に助けないだろうな。多少なら自分の修羅場でさえ楽しむ奴だからな……」
「そんなこと言ってないで助けてくれよ、3人共!!」
トーマの助けを求める声は音無、稟、ルルーシュの3人に届かなかった。
「そこまでにしてください、カレン」
さすがにトーマが気の毒になったのかフォルティスが引き剥がしにかかった。
「もぉ、フォルティスのいけずぅ」
「あんまりしつこいとかえってトーマ君に嫌われますよ」
フォルティスは文句を言うカレンをトーマから引き離し、どこかへ行った。
「あ〜、やっと解放された。この間のお祭りといい最近ろくなめにあわない」
「お祭りって、キューピッドの日のこと?」
「ああ、そうだ」
自分の世界から帰ってきた士樹がトーマに尋ねる。
「あの時、俺もターゲットの1人だったんだ。スティードを使ってメタルギアばりのスニーキングでなんとか逃げたんだ」
「今は、メンテナンス中だけどね」
「お互い大変だったな、トーマ」
「手強い奴らはあらかたルルーシュ達に向かっていったからそれほどでもないよ」
「そうだとしても、リリィさんの協力なしで生き残ったんです。十分に誇るべき戦果だと考えます」
「僕なんか途中やられかけたしね。ユークリウッドが来なかったら確実に捕まっていたよ」
「俺なんか楓達の親衛隊連合に終始マークされていたせいでパートナーを探す余裕も無かったんだ。それに比べれば大したものだ」
「その状況で逃げ切るのも凄いよ」
士樹達はところどころで料理をつまみながら互いの健闘を称えあい、この1年の思い出を語り合った。
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[そらのおとしもの~天使と仮面騎士の物語~]
設定集 http://www.tinami.com/view/401137
プロローグ http://www.tinami.com/view/401710
第1話『破壊の後継者/Iとの再会』 http://www.tinami.com/view/402298
第2話『驚愕の転校生/忍び寄るFの影』 http://www.tinami.com/view/402305
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