…これは一刀が雪蓮の臣下になる少し前の話…
ここは、城の中庭の一角にある、武将たちが休憩によく来る場所。
普段政務や調練で疲れた将達が、癒しを求めてここで休憩をしているのだが…
そんな場所で、頭を抱え唸っている一人の女性がいた。
「うーーーなんとか出来ないかなぁ…」
そう言って頭を抱えているのはこの国の王である雪蓮。
「あれほどの子がいるのに、むざむざ見逃す手はないんだけど…うまく説得できないかなぁ…」
そう唸っていると、また別の女性が雪蓮に話しかけてくる。
「あら?雪蓮どうしたの?珍しく考え事をしているなんて…明日は雨でも降るのかしら?」
そう言って少し笑いながら喋るのは、雪蓮の断金の友でもある冥琳だった。
「ぶーー!冥琳それどういう意味よ。私が考え事をしてちゃ悪いって言うの?」
「いやいやすまん…だが珍しいのは確かだぞ雪蓮。どうした?悩み事なら相談に乗るぞ?」
そう言って近くの椅子に座り、聞く体勢になる。
いつもは、雪蓮をからかったりしているのだが、こういう風に気軽に悩みを打ち明けれる存在な事を雪蓮はいつも感謝していた。
無論、そんなことを冥琳に言うつもりはないのだが…
「うん…実はね…」
雪蓮が冥琳に悩みを打ち明けようとした時、誰かの声によってそれを遮られる。
「ん?なんじゃ二人して暗い顔をしよって…なんかあったのか?」
今それを喋ろうとしていたのに邪魔をされて、少し不機嫌になりながらもそちらを見ると、呉の宿将である黄蓋の姿があった。
「あら?祭殿も休憩ですか?」
「おう。少し休憩をした後、弟子の顔でも見に行くつもりだがな。」
「あー一刀ですか。もう鍛錬に来ているのですか?」
「そうじゃ。何でも今日はそこまで忙しくないらしくてな、さっき調練をする前に声をかけられたわい。」
「そうですか…でしたら祭殿の鍛錬の後にでも会いに行くとしましょう。私も彼に話したいことがありますので。」
そう二人で話していると、先ほどまで頭を抱えていた雪蓮がビックリした顔をしてこちらを見ていた。
「ん?どうなされたのじゃ策殿?」
「…どうしたもないわよ。祭一刀の事知っているの?それも冥琳も…」
何を今更といった感じで二人が見ていると、何か気がついたように冥琳が応えた。
「…あぁ。確か雪蓮には話していなかったかも知れないわね。すまん」
「別にいいわ…実は私が考えていたのは、一刀のことなのよ」
「ん?どういうこと?」
「うん。まずさ、一刀のこと二人はどう思う?」
「一刀か?そうじゃの…ワシはあいつのこと認めておるぞ。武に関していえば、あやつはワシの弟子でも有るし、その力もそこらの将より上じゃしの。」
「へぇ…そうなのですか。実は私も認めておるのですよ。私は一刀と喋る機会がいくつかあったのですが、その考え方や頭の回転の速さには一目を置いています。」
「二人とも認めているのか…うん♪やっぱり私が考えているのは間違いじゃないわね」
「なんだ。さっき考えていたのは一刀のことなのか?」
「うん。…実は前から一刀を将として呉に迎え入れたいと思っていたんだけど、なかなかうまくいかなくてね…それでどうしようか考えてたの。」
「なんと…策殿も誘っていたのですか。実は、ワシもあやつの武も踏まえて、このまま一庶民としているのはもったいないと思って、誘っていたのじゃが…策殿と同じで良い返事をもらえなくての。」
「ふぅ…では三人とも失敗に終わっているということですか…」
「え!ということは冥琳も誘っていたの?」
「ええ…私と討論が出来るものなど数少ない。それにこちらが少し教えると、それを自分のものにして私に問うて来る。これほどの人材を無視できるわけはないわ。」
「そう…んーなんとかならないかしらねぇ…」
『うーーーーーん』
三人で唸っていると、急に雪蓮が何かに気がついたように顔を上げた。
「そういえば二人ともどうやって一刀と知り合ったの?真名を知っているということは、二人も真名を預けたんでしょ?そこの所ちょっと気になるんだけど?」
そう言うと、二人はその時の事を思い出したのか”クスッ”と笑う。
そして何かを決心したのか、祭が徐に喋りだした。
「うむ、そうじゃの。別に隠す必要もないし、話すかの」
そう言って祭は初めて一刀と出会った時を思い出しながら喋り始めた。
~祭・一刀との出会い~
「これ。そんなひっつく出ない。歩きづらいじゃろうが」
ワシが待ちに出ると、大概子供達が寄ってきて遊んでとせがんで来る。それ自体は嬉しいことなのだろうが、ワシがもし手を振り上げて子供に当たってしまうと…考えただけで恐ろしい。じゃから子供は嫌いなのだ。
いや、嫌いというよりは苦手といったほうがいいだろうな。子は国の宝。嫌う理由などない。
「黄蓋しゃまどこに行くの?」
「黄蓋しゃま遊んでーー」
「これ!だれじゃワシの尻を触ったのは…。ふぅ…、ワシはこれからお酒を買いに行くところじゃ。」
「おしゃけ?もしかしてお兄ちゃんの所?」
「お兄ちゃん?それはだれじゃ?」
「んーとね。ここの通りの端にあるおしゃけ屋さんにいる人ー」
「ここの端…あぁ最近城の中でも有名な酒屋のことか。けっこう品揃えも良いと聞くし…うむ。そこに行ってみるとしようか。」
「じゃあ僕が案内してあげるー」
「私もーー」
「これ…そんなひっぱるでない。わかったから…」
そう言ってワシは、子供達につれてかれ端にある酒屋へと向かった。
いつもなら近くにある酒屋で済ますのだが、城の中の評判も良いし、その酒屋のお酒も前こっそり飲んだときおいしかったのを覚えておったし、なら行ってみる価値はあるだろう。
…というかこの状況では、行くしか選択肢がない気がするしの。
そう思いながら、ワシは子供達と一緒にそこに向かうのじゃった。
「すまん。じゃまするぞ」
「いらっしゃいませ。ってずいぶん大勢のご来店ですね。」
そう応えた店員は少し困った声で返事をしながらも、けして嫌な顔をせず笑顔でそう答えた。
「わーい。お兄ちゃん遊んでー」
「あー私もー」
そう言ってワシの周りにおった子供たちが、その店員へと近寄っていく。
「うーん。ごめんね。お兄ちゃんまだ仕事中だから遊んでやることが出来ないんだよ。」
『えーーー!!!』
「ごめんね。でも仕事が終わったら一緒に遊ぶから、それまでいい子で待っててくれる?」
しゃがみながらそう笑顔で答えると、子供たちも分かってくれたのか「わかったー」と笑顔を見せた。
「ありがとう。じゃあここで待っててもつまらないだろうから、いつも遊んでいる場所で遊びながら待っててくれるかな?」
「うん!じゃあ絶対に来てね♪」
「あはは。わかってるよ。ほら行っといで」
すると、子供たちは皆元気よく店を出て行った。
おそらく、さっきこの店員が言ったようにいつも遊んでいる場所とかに行ったのだろう。
しかし、それにしても…
(ほう…子供への接し方がうまいのう…)
素直にワシは関心をしていた。
大体酒屋に子供が大勢で来るのは、はっきり言えば邪魔でしかない。
考えてみれば簡単にわかる事じゃが、子供達がここで騒いでおると、もしかしたら誤って酒瓶を落としてしまう可能性だってある。だからこうした場所では子供連れというのは嫌われるモノなのじゃが…。
それなのにこやつは、少しも嫌な顔を見せず、しかもお店に被害が出ないように誘導して、この状況に対応してみせた。
おそらくワシでは絶対出来んな。
「ふう…。あ、すみません。お待たせしてしまって」
「いや、良い。こちらに子供を連れて来てしまったワシに非があるしの。それにしても、お主ずいぶん子供に好かれておるの?」
「はは…そうなんですかね。前、寂しそうにしている子供がいたので、一緒に遊んでいたら、いつの間にかなついてしまって…それからは一緒に遊ぶようになったんです。」
「そうじゃったか…でも店のほうは良いのか?」
「ええ…遊ぶといってもこちらが暇になった時ぐらいですし、それに子供の笑顔はいいものですからね」
そう言った顔はとてもよい笑顔であった。
その笑顔に少し見とれてしまっていると、店員が喋りかけてくる。
「…えーと間違いだったらすみません。黄蓋様でございますか?」
急に名前を言われ警戒をする。
「…なぜワシが黄蓋だと?」
「はぁ、子供たちと遊んでいた時に教えてもらったんです。困った顔をしながらも相手をしてくれるし、何よりお酒が好きな人と…子供たちもよくなついていた様なので、ひょっとしてと思いまして。」
「なるほどのう…でもワシは別に子供たちの相手をしておるわけじゃないぞ?あいつらが勝手についてくるだけじゃ…そこを勘違いせんでもらおうか。」
「それでも子供たちは黄蓋さまについてまわるのですから、みんな黄蓋さまが好きなのでしょう。良いことではありませんか。」
「むぅ…それでもワシは子供を好きにはなれん」
「そうですか。でも子供は、大人よりも人を見る目があります。本当に嫌っている人にはついて行かないものですのです。それを考えると黄蓋さまは口ではどういっても、子供を大切にしているのだと私は思いますよ。」
と平然とワシに向かって言ってきた。なんてまっすぐで良い目をしているんだろうと思う。何より驚いたのがわしの心を読んだかの様なことを当然のごとく言う。なかなか言えるものではないだろうに…。
「…お主はワシを黄蓋と知っているにも関わらず、そんなことを平然と言い放つとは…どういう神経をしておるのじゃ?」
そう言うと、は!とした顔になったあと顔色が一気に悪くなり頭を下げてきた。
「…すみません。あの…別に変な意味ではなくてですね…ああーもう…とにかくすみませんでした。」
ころころと表情を変えながら謝ってくる店員を見て、”こやつ天然か?”と思っていた。
しかし、そんな店員を、いつの間にか気にってしまっている自分がいて、思わず笑ってしまう。
「わっはっはっは…良い良い。別にそこまできにしとりゃせん。それよりも酒を買いに来たのじゃが何か良い酒はあるかの?」
「ありがとうございます。うーん良いお酒ですか…どういったものをお探しでしょうか?」
「そうじゃの。うまければなんでも良いのじゃが…どうせならこうカァーとなるやつがいいの。」
「カァーですか…それならばこちらと、こちらなどはどうでしょうか?二つとも当店でつくった物ですが、お気に召すかもしれません。良かったら試飲してみますか?」
そう言って瓶から少し取り出し前においた。
「おおう、これはすまんな。どれ…こっこれは!!」
その時ワシに電流が走った…ように感じた
「うむ!両方ともうまいではないか。よし二つとももらえるか?」
「喜んでいただけたようで…分かりました。用意しますので少しお待ちを…」
そう言うと大瓶からお酒を移し始めた。
その時少し後ろで物音がしたかと思うと、一人の男がお酒を盗み逃げ出そうとしていた。
「おまえ!なにをしておるんじゃ!!」
そう言って声を上げると急いで店の外へと駆けていく。
「くっ待たんか」
そう言って追いかけようとすると、それよりも速くさっきまでお酒を入れ替えていた店員が走り出していた。
「こいつ、まちやがれ」
酒屋の店員に続くようにワシもその男を追ったのじゃが、そこでワシは驚いた。
それは、ワシと一緒に盗人を追い駆けているこの店員、ワシと同じぐらいの速さで走っていおったことじゃった。
ワシは走るのはそう得意ではない。
じゃが、それでも日々鍛錬をしておる事もあってそこら辺の…それこそ何も鍛錬しておらん男よりは早く走れる。
だというのに、この店員。一見鍛えて無さそうに見えるのに、ワシと一緒の早さでしかも殆ど息を切らしておらん。
(一体何者なんじゃ?)
一緒になって盗人を追い駆けていたワシはそんな事を思っておった。
それからまたしばらく、盗人との追い駆けこをしておったのじゃが、一向にとまる気配を見せない盗人。
そんな盗人見て、その店員はそこら辺にある石を拾い投げつけた。
「だから、待てって言ってるだろうが!!」
店員が投げたその石は、見事盗人の足に当たり、盗人を転ばした。
「いてて…なにしやが…」
そう盗人が言う途中で、助走をつけた蹴りが見事に顔に当たっていた。
「ぶぺら!!」
変な声を出したかと思うと、盗人は吹っ飛んでいた。
(ほう、良い蹴りじゃな)
そう思いながら見ていると、盗人は起き上がり店員に向かって拳を振り上げてきた。
「あぶな…」
そう声をかけようとする前に、盗人の拳はかわされ、さらにその拳をつかまれ投げられていた。しかもそのあとに顔に拳を入れられていた。
(うーん。拳をかわし、懐に入りそのまま投げる。なかなか良い動きをするのう。まぁ最後の追い討ちは必要なかったかもしれんが…)
「はぁ…はぁ…な…なにしやがるはこっちの台詞だって、大事な商品盗んでるんじゃねぇって…あー!!」
店員の叫び声に驚いたワシは店員が見ている場所へと視線を移す。
するとそこには、見事に割れた瓶と濡れた地面があった。
「あー!!どうしよう…親父に怒られる…」
膝を付いてうなだれている店員をみて、同情してしまった。
「あーその…酒のことは残念じゃったが、盗人は捕まえたんじゃ…ほれしゃきっとせい!」
ワシがそう言っても、まだ膝を突いたままだった。
「それに今回のことはワシからも親父さんに説明するから…の」
そう言うとがばっと顔を上げ目をウルウルさせながらこちらを見上げる。
「本当ですか?黄蓋さま」
(////う…その顔は反則じゃろ。嫌とは言えん)
「おう。じゃからほれ…さっさと立たんかい」
そう言って立ち上がらせると、盗人を後から騒ぎを聞きつけた警備の者に引渡し、一緒に店へと戻る。
そして戻る途中にワシは気になった事を聞いてみる事にした。
「あ、そういえばお主何か武術でもやっていたのか?」
「?…いえ、特にはやっていませんけど?」
「そうなのか!それにしては見事な体捌きだったが…」
「そうだったんですか?いや~あの時は考えるよりも先に体が動いたといいますか…気付いたら盗人の顔に拳を入れていました。」
「そうか…。どうじゃお主、ワシと一緒に鍛錬をせぬか?うまくすれば良いところまで行くと思うぞ?」
思わずワシは、そんな事を口にしていた。
これは武人の性なのかもしれんが、目の前に、磨けば必ず光ると分かっている原石を見つけて、それを磨いてみたいと思ったんじゃろうな。
しかも、この原石は少し磨くだけでかなりの光を放つを見える。
そんなものを見せ付けられた、らもう黙ってはおれんかった。
「黄蓋様とですか?うーんお気持ちは嬉しいのですが、店のこともありますし…なにより黄蓋様についていけるかどうか…」
「店のほうの仕事が済んでからで良い。それにいきなりワシと同じ鍛錬などせんでも良い。徐々に力をつけて、たまにワシと組み手などをすればすぐにでも同じ鍛錬が出来ると思うぞ?」
「…うん。分かりました。それでしたら大丈夫だと思います。」
「そうか、ならお主の名前を教えてくれるか?」
「はい。私の名は姓は北、名は郷、字は江清といいます。よろしくお願いします。師匠!」
「師匠!?ええい変な風に呼ぶな。ワシのことは祭と呼ぶがいい」
「は?いやいやいや、それ真名ですよね。いきなり真名を呼ぶなんて事…」
「良い。ワシはお主の事を気に入った!だからそう呼ぶが良い。」
「あ、ありがとうございます。それならば私のことを一刀とおよびください」
「おう、よろしく頼むぞ一刀」
それがワシと、一刀の最初の出会いになるのかの。
初めて遭ってから、まだ数日ぐらいしか経っておらんと言うのに、今では、最初からワシの弟子だった気がしておるよ。
本当に興味深い男よな…一刀は。
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少し遅れましたが、拠点を投稿させていただきます。
前に、ちょっとお話しましたが、長くなりそうなので3つに分けます。
その分少し短く感じてしまうかも知れません。
それではどうぞ!
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