No.406382

そらのおとしものショートストーリー4th お前なんかが…触れていい人じゃない!!

ウルフ隊長も逝ってしまい、名台詞をくれそうな人がますます減ってしまいました。戦闘パートが続くとロマリーさんは事務的なことばかりしゃべるし。
という訳で、当分の間、ガンダムからセリフを引き抜くのは諦めます。そらおと二次創作を書くのにガンダム以外の原作を持ってくるのは恥ずかしい限りなのですが、仕方なく【そらのおとしもの14巻】からセリフを元に非オールキャストなお話を作っていきたいと思います。
今回と次回に渡って、拙作におけるキャラクター解説を挟みたいと思います。そして皆さんの応援するキャラクターの活躍をお楽しみ下さい

2012お正月特集

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2012-04-11 00:30:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2232   閲覧ユーザー数:2131

お前なんかが…触れていい人じゃない!!

 

 

拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その1

 

○イカロス:智樹を狙う蟲(ダウナー)を討つことに躊躇のないヤンデレ・クイーン。特にアストレアさんを葬ることに躊躇いがない。

     BL属性で智樹が男と結ばれる場合には無条件で許容する。同人サークル『シナプス』の売れっ子作家であり、最近は百合にも興味津々。

     感情が希薄で天然さんでボケ専なので主人公にはし辛い難点がある。

 

○ニンフ:そらおとで数少ない鋭いツッコミキャラ。だがボケにも回れる万能キャラであり、更に恋する乙女属性も暴走属性も持っているのであらゆる作品に対応でき最も重宝されているキャラクター。故にそらのおとしもの二次創作本作における事実上の主人公。

    アストレアさんを死に追いやる間に漁夫の利を狙うなどの知略を操るが、知略を巡らせるほどに空回りする。

 

○アストレアさん:出死にを極めたスーパーキャラクター。生きて作品に出るなど恥だと恥だと豪語する園崎魅音(byひぐらし)の後継者でありそらのおとしものを描く上でなくてはならないキャラクター。行間が空いて寂しい時に便利に死亡させている。

        既に死んでいるか、作中内で死ぬかという揺るがない信念を抱いている。死なないと驚かれたり、たまに格好良いとやっぱり驚かれたりする。

 

○見月そはら:右腕に聖拳エクスカリバーを宿す山羊座のゴールド・セイント。強化版の殺人チョップエクスカリバーは本作で最強の攻撃力を持つ。

      良い子ではあるが地味であり、使いどころが難しい。また、小説である為にヴィジュアルが存在せず、あまりエロくならないように作風を調節している為に最強の宝具であるエロい体を活かせないという難点が存在する。

 

○風音日和:約束された勝利の出番というEXクラスの最強必殺宝具を有している。即ち、日和が本編に出て来るとそれまでの展開とは関係なく智樹と結ばれる展開に変化してしまう。その反則技とも言える必殺属性ゆえに物語が崩れる可能性が大きく出番は多くない。

      エンジェロイドバージョンであるのかどうか曖昧にしている話が多い。また貧乏属性が重視される場合が多い。

 

○カオス:智樹と守形に二股掛けている本作では最初にしてとても珍しいキャラクター。とはいえ、本人は極めて無邪気に好意を示しているだけであり、二股という概念は彼女には存在しない。

     普段は海底に住んでいたり山の中へ住んでいたりとアストレア同様に不遇なキャラクターであり、作中における扱いも割と不遇であることが多い。

 

○オレガノ:遅れてきたルーキー。原作13巻から登場し、本作でもてこ入れの為に最近登場するようになった医療用量産型エンジェロイド。

      美香子に仕えて悪と策謀を学び、智樹と守形に二股を掛けているというポジションから今後出番が増えていくものと思われる。毒舌家でもあり、ニンフ同様にツッコミも担当できるが空気を読んでなかなか絶叫してくれないのが難点。

 

○五月田根美香子:この世全ての悪。好きなものはと答えれば殺戮と英くんと答えることに何の躊躇も感じない。快楽主義者であり、その快楽が残虐と結び付くのが玉に瑕。

昔から守形一筋であるが、その守形がアニメはおろか原作の10分の1も美香子に興味を感じないのでかなり絶望的な戦いを続けている。一方で、カオス、オレガノ、智子、ダイダロス、智代とライバルは原作以上に多く不幸に拍車が掛かっている。

     

○桜井智子:本作では智樹と分離して完全なる別固体となっている。どの作品でも存在している訳ではないが、存在している時は桜井家に居住している。

    守形を一途に想っており、美香子にとっては最強のライバル。シナプスの力の恩恵で美香子とも互角に渡り合える実力を有している。

    智樹がリタイアしている作品ではその代理の役に就く。

 

○ダイダロス:最初は智樹に気があった筈だが、守形と接する内にそちらを狙うようになった天才科学者。

      本作に登場することは滅多になく、登場する場合にもちょい役がほとんどである。シナプスのマスター苛めには参加しても、今後も出番は少ないものと考えられる。

      フラレテル・ビーイングの設立に大きく影響を与えた人物でもある。

 

○桜井智代:智樹の母であり、原作で守形を狙っている、見た目も中身も如何にも智子の母の人。本作でも設定はあまり変わらない。ダイダロス同様に出番は少ない。

    智樹の母であるが、現在の桜井家の体制が母を必須としていない為に帰宅する必然性は低い。むしろ、智樹争奪戦を激化させるなど美香子同様に騒動を引き起こすキャラクターとして登場する可能性が高い。

 

○鳳凰院月乃:鳳凰院・キング・義経の妹。キャラのブレ幅が大きく、1作1作毎に異なる振る舞いを見せることに最大の特徴を持つ。智樹を憎からず想っている作品から文字通り猿としか見ていないなど初期設定が作品ごとに大きく異なる。

また、基本的には情緒において不安定な面を持っており、兄への依存によりかろうじて一本筋を立てている。今後の原作での再登場次第では大きくキャラが変更するかも。

 

○パピ子&パピ美:シナプスのマスターに使えるハーピー1号&2号。ダメなマスターな元で頑張っているやっぱりダメな人達。同人サークル『シナプス』ではイカロスのアシスタントをしている。

 原作ではニンフの羽を毟るという暴挙を冒し、その後段々憎めない敵役として描かれるようになったが、本作では憎めない馬鹿役として描かれている。

 

 

*****

 

 

お前なんかが…触れていい人じゃない!!

 

「結婚って言われてもなあ……」

 桜が満開に咲く日曜日の昼下がり、魚屋のあんちゃんは缶ビールを片手に桜を見上げながら悩んでいた、

 今日は商店街で働く者たちの合同花見デー。両親の経営する魚屋で働き、順当に行けば次期店主が約束されている魚屋のあんちゃんも参加していた。

 花見では真昼間にも関わらず盛大な酒盛りが繰り広げられていた。次々と酔っ払っていき前後不覚に陥っていく商店街店主たち。

 そして、酔った店主たちによって魚屋のあんちゃんにとっては不幸な絡みが始まった。

『お前はいつ結婚するんだぁ?』

『早く良い人みつけてご両親を安心させないよダメよ』

『女なんて結婚してってパッと叫べば何とか捕まるもんだ』

 店主たちは口々にあんちゃんに結婚を勧めて来た。

『いや、結婚って俺にはまだ早いっすよ』

 あんちゃんは相双笑いを浮かべながら絡みを何とかかわそうとした。

『学校出て就職もしっかり決まった。後は結婚だけじゃねえか?』

『そうよ。魚屋の経営をしっかりする為には奥さんもらって2人で店を盛り立てて行く計画を立てなくちゃ』

『だから女なんてのは強引に行きゃ落ちるもんなんだよ』

 しかし、結婚はまだ早いと答えたことは商店街の店主たちには逆効果でしかなかった。

 魚屋のあんちゃんの学生時代の同性の友人に結婚している者はまだいない。そんな自分の同世代の常識もここでは通じなかった。

 更に商店街という特殊なコミュニティーを形成する店主たちは結婚に関しても独特な観念を持っていた。その観念ゆえにあんちゃんに対しては結婚を勧め、あんちゃんは苦悩せざるを得なかった。

『じゃあ俺、ちょっとトイレ行って来ますんで』

 堪らずにあんちゃんは店主たちから逃げ出した。缶ビール1本を手に持ちながら。

 

「俺には結婚相手どころか彼女さえいないっての。それに、もし彼女が出来ても結婚はなあ……」

 満開の桜を見ながらあんちゃんは黄昏ていた。

 商店街の各店舗の経営は決して楽ではない。

 ただその事実が店主たちがあんちゃんに結婚を積極的に勧め、あんちゃんが結婚が不可能であると考える根源になっていた。

 売り上げ額が劣っても零細経営の店舗の経営が成り立っている理由には幾つもの要因が存在する。その中でも家内労働力の積極活用に拠る人件費の削減は大きなウェイトを占めている場合が多い。

 要するに、家族経営することによって人件費を別途に支払うことなく経営を続けることが出来るのである。

 仮に営業時間を1日12時間とし、バイトを時給800円で雇い店番を任せるとする。

 単純計算すれば、バイトには1日9600円の報酬を支払うことになり、1ヶ月なら28万8千円。1年間なら約350万円の報酬を必要とする。

 人を雇い入れるには他の諸雑費を必要とするので、実際には350万円を遥かに超えるコストを必要する。

 しかし家族経営の場合にはこの雇用コストを支払わずに済む。言い換えれば、バイトを1人雇い入れている店よりも売り上げ利益が350万円少なくとも耐えられる計算になる。

 その費用節約が家族経営の強みである。

 だが、それは同時に家族に対して大きな負担を強いる経営方法でもある。

 事実上の無賃労働を長時間に渡って強いられることになるからである。それは劣悪な労働環境、金銭的不満と精神的不満に容易に直結する傾向を持つ。過酷な労働状態が続けば健康を害すか家族の不和を招き、結局は店の経営に破綻をもたらす結果に繋がりかねない。

 故に家族経営は、経営の観点から見るとコストパフォーマンスに優れてはいるが、実際に経営を行うに当たっては家族の崩壊を招きかねないリスクの高い経営法でもある。

 その為に家族経営は大型チェーン店やインターネットストアの進出という外部的な事情だけでなく、家庭内の問題という内部的な問題からも順次姿を消していく傾向が加速している。

 空美商店街はその多くの店が家族経営であるが故に成り立っているが、家族経営であるが故の問題を抱えていた。

 

「俺と魚屋を一緒に経営して下さいって言われても……普通ならノーセンキューだよなあ」

 あんちゃんは途中で買っておいたスルメを齧りながら溜め息を吐いた。

「朝3時に起きて、寝ている間を除いたらずっと仕事。しかも給料なしなんて俺が聞いたって絶対嫌だっての」

 あんちゃんは自分の生活リズムを思い出してみる。

 仕入れの為に1日の始まりは午前3時。遠くまで仕入れに行く時には2時。仕入れが終わったら開店準備。開店すると主に配達を担当している。仮眠を挟みながら労働を続ける。大型店やインターネットストアへの対抗の為、そして人々の生活リズムの多様化に対応する為に店の営業時間は以前に比べて長くなり、夜は10時まで営業。閉店して片付けて短い睡眠を挟んでまた3時には起床。シフトが変更することもあるが、基本的にはそんな生活を送っている。

 あんちゃん自身はそんな生活でも前向きに楽しんで働いている。が、それを他人に薦められるかと言うと絶対にノーであると断言する。

 まして、自分の生涯の伴侶になる女性にそんな生活を送ってくれるように頼めるかと考えれば、それは幾ら何でも無理そうな気がした。

「やっぱ、魚屋経営って難しいよなぁ……」

 商店街の労働条件はどこも厳しい。だが、その中でも生鮮食品を扱っている魚屋は特に難しいとあんちゃんは感じている。

 夜型の生活を送る現代人にとって、魚屋の生活は修行僧よりも早くから始動する。それ自体が大きなネックになっているとあんちゃんも感じている。

「俺と結婚してくれる、いや、それ以前に俺と同じ生き方を共有してくれる子なんかいないよなあ」

 ガックリとうな垂れる。

 虚しさが込み上げて来る。

 前屈みになりながら桜の幹に額を押し付ける。

 木の温もりが、香りがほんの少しだけあんちゃんの心を癒してくる。

 あんちゃんはしばらく樹にもたれ掛かっていた。

 

「あの、大丈夫、ですか?」

 あんちゃんは不意に背後から声を掛けられた。

「えっ?」

 驚きながら振り返ると、『どうぶつえん』と書かれたキャップをかぶった若い女性が心配そうな瞳であんちゃんを見ていた。

「君は……動物園のお姉さん」

 あんちゃんは女性に見覚えがあった。空美神社の祭りイベントで何度か一緒になったことがある。名前は知らないが、動物園に勤務する空美町在住の女性に間違いなかった。

「あっ、魚屋のあんちゃんさんですよね? こんにちは」

 お姉さんはあんちゃんに向かって頭を下げた。

「あ、ああ。こんにちは」

 あんちゃんは戸惑いながら返事をした。

「あの、気分が優れてなさそうだったので声を掛けたのですが、大丈夫ですか?」

 お姉さんはオドオドしながらあんちゃんに尋ねた。

「ああ、酒飲んで色々考えていたらちょっとブルー入っちゃっただけで、別に酔って気持ち悪いとかじゃないから」

 あんちゃんは手を横に振りながら何でもないとアピールしてみせた。

 けれど、その説明の仕方ではお姉さんの心配を解けなかった。

「色々……悩み事、ですか?」

 先ほど以上に心配そうな瞳があんちゃんを見ている。

「あ~ま~その、なんだ。えっと……」

「私でよければ話して下さい。私、仕事柄、メンタルケアの問題をとても重視していますので少しはお役に立てるかと」

 キラキラした瞳。

 その瞳を見ていると、相談しないのも悪い気分になって来る。

「いや、ちょっと仕事のことを考えていたら悩みが出て来てね……」

 他人に話すことでもないよなと思いながら、悩みの先端部分だけ口に出してみた。

「もしかして、経営が苦しいのですか? 今、不景気ですし……」

 お姉さんが申し訳なさそうな表情をしてみせた。

「いや、おかげ様で商売の方は何とか順調にいっているよ。動物園は大口のお客さんの1つでもあるしね」

 あんちゃんはお姉さんに向かって笑ってみせた。

「あの、失礼なことを言ってしまい、す、すみません」

 お姉さんがあんちゃんに慌てて頭を下げる。

「いや、別に構わないって。このご時勢、店の売り上げで悩まない所なんかないんだから」

 慌てて取り繕う。

「では、どんなお悩みを?」

 そして、また聞かれてしまった。

「えっと……労働環境について少々」

 あんちゃんはどこまで話すべきなのか戸惑っている。

「あの、お仕事が辛いのですか?」

「いや、辛いんじゃなくて、夜明け前から起き出して仮眠を取りながら働き続けるっていう状況が世間一般とは合わないよなあって」

「あっ、それは私も分かります」

「えっ?」

 あんちゃんは驚きながら改めてお姉さんを見た。

「夜明け前から働いて不規則な生活っていうのは私も同じですから」

 あんちゃんはジッとお姉さんを見ている。

「動物園の営業は夕方までですけど、動物達は人間とは違う時間帯で24時間を過ごしていますから。朝勤めに出て夕方に仕事を終えるという訳にはいきませんね」

「そうだよ、な。お姉さんが相手にしているのは動物だもんな。人間の都合で動いている訳じゃないもんな」

 言いながらあんちゃんは少しだけ自分が喜んでいることを感じていた。

 それが何故なのか考えてみる。

 答えはすぐに出た。

 自分はお姉さんに共感を抱いているのだと。

 自分と同じ問題を抱えている人間に出会えて喜んでいるのだと。

「昼間活動する動物もいれば夜行性の動物もいます。それに、出産シーズンは何日も付きっ切りになります。だから私も他の方とは違う生活時間帯を過ごすしかありません」

「でも、それ自体は嫌じゃないんだよな」

「そうですね。お仕事自体にはとても遣り甲斐を感じています」

 気付けばお姉さんとの会話を楽しんでいた。

 それはあんちゃんにとってとても楽しい瞬間となっていた。

「でも、こういう生活をしていると、人と出会う機会はなかなかなくて……今日も1人で桜を見に来ちゃいましたし」

「週末とか関係ないし、空いている時間が平日の昼間だったりして誰にも会えないのが普通だからな」

「両親は結婚しろ結婚しろって煩いんです。でも、私はまだ早いと思うし、それに、相手もいないし。相手を見つけようにも……今みたいな生活じゃ出会いさえも……」

「俺も商店街の皆から結婚しろ結婚しろって煩くてさ。相手もいないし、嫁さんに俺と同じような生活を強いる訳にもいかないしな」

 あんちゃんはお姉さんとの会話に引き込まれていた。

 こんなにも話の合う女性に出会ったのは初めてのことだった。

 そしてその幸せは、長くは続かなかった……。

 

「よぉ。魚屋の。可愛い子と楽しそうじゃねえか」

 酔っ払った呂律の回っていない声が2人の会話を中断させた。

 声の主を振り返ってみると、白い鉢巻を締めたボサボサ頭の中年の男が顔を真っ赤にしてあんちゃん達を見ていた。

「たこ焼き屋のおっさんっ!」

 男性は、普段は空美町で寿司屋を営み、祭りになると様々な出店を出店させているおっさんだった。

 先ほど酒に絡みながらあんちゃんに盛んに結婚を勧めていたのもこのおっさんだった。

 ちなみにこのおっさん自体は未婚。人生の全期間において女性にモテたことがない。

 女性云々語っていたのはおっさんの経験談に基づかない勝手な憶測でしかない。

 だがこのおっさん、モテはしないが女好きであることに掛けては相当なものだった。

 綺麗な若い女性を前にしてちょっかいを掛けないなど出来ない。彼の哲学にあわせて言えば、それは女性に対する失礼に値する。

 そしておっさんは世間ではセクハラと呼ばれる行為を実行に移した。

「おう、姉ちゃん。そんなガキじゃなくて、俺と一緒に酒飲まねえか?」

 おっさんはニヤニヤとスケベ面をしながらお姉さんの肩を掴んだ。

「こっ、困りますぅ」

 お姉さんはおっさんから顔を背けながら拒絶しようとした。だが、おっさんはお姉さんから手を離さない。

「そんなつれないことを言うなよぉ。俺と一緒に飲めば楽しいぜぇ」

 それどころか調子に乗って更に体をすり寄せて来た。

「あの、私、お酒は苦手なんです」

「じゃあ俺が酒の味ってやつを教えてやるからよ」

 おっさんは完全に調子に乗っていた。

 

「な、何なんだよ、これ?」

 あんちゃんはお姉さんに絡み出したおっさんを見て始め呆然としていた。

 楽しかった時間が一瞬にして崩れた。それを理解するまでにしばらくの時間を要した。

 そして、あんちゃんに沸き起こった次の感情。それは──

「その汚い手を離せぇええええええぇっ!」

 激しい怒りだった。

 お姉さんに触っているおっさんの右腕を掴む。

 そして怒りを込めた瞳でおっさんに向けて熱く叫んだ。

「その人はなぁ……お前なんかが…触れていい人じゃない!! お前なんかがぁっ!」

 周囲の花見客が全員注目するほど、熱い声だった。

「フンッ。まだ小僧の分際で吼えるじゃないか、魚屋の」

 だが、たこ焼きやのおっさんはあんちゃんのその声をもってしても怯まなかった。

「こちとら祭りの屋台常連。五月田根組みたいなのといっつもやり取りしてんだ。小僧1人が吼えたぐらいで今更びびるかっての」

 おっさんはニヤリと笑った。

 それは数々の修羅場を潜り抜けて来た男の経験がなせる笑みだった。

「魚屋の。お前も男なら、俺を力でねじ伏せて物を言ってみろっての」

 おっさんが立ち上がる。

「何だと!」

 あんちゃんはおっさんの態度に底知れぬ恐れを抱きながら、それに負けないように希薄を前面に押し出す。

「次の祭りイベントで優勝して賞金を掻っ攫う為に身に付けたこの力を試す時が来たようだな」

 おっさんは自信満々に両腕を挙げて力を誇示する。

「力、だと?」

「そうだ。これが長期間の特訓の末に俺が新たに身に付けた力だ」

 おっさんは両腕を胸の前で交差させ、そして禁断の呪文を唱えた。

「脱衣(トランザム)っ!!」

 一瞬にしておっさんの服が全て消え去る。

 そして全裸が輝き始めた。

「脱衣(トランザム)……選ばれし変態にしか使えない究極の身体能力活性法をたこ焼き屋の親父が会得しているだとっ!?」

 脱衣(トランザム)は、空美町に住む数名の変態少年とシナプスに住む変態しか扱えないとされる究極の奥義。

 それを変態とはいえ、ただの中年親父が扱ったことにあんちゃんは大きな衝撃を受けていた。

「とある天才魔術師が綺麗な姉ちゃんの前で全裸を晒すと急激に全身の身体能力を上げる擬似全裸魔術回路を開いてくれたんだ。この回路さえあれば、お手軽に脱衣(トランザム)が楽しめるってもんさ。まあ、それも俺の天才的な肉体あってこその話だが」

「おっさん。アンタ、自分で人体実験されてるって気付けよ!」

「そう言えばあの天才魔術師、俺の回路を開いた際に『う~ん? 間違ったかな?』とかお茶目に冗談をかましていたが、俺の体はすこぶる健康体ってやつよ」

 おっさんは尻を前後左右に激しく動かしながら自分の元気ぶりをアピールして見せた。

「さあ、魚屋の。俺を倒してみせな。さもなくば……」

 おっさんはお姉さんを見た。

「俺はこのお姉ちゃんを連れ去ってお酌でもお願いするとすっかなあ」

 おっさんは臭い息をお姉さんに吹き掛けた。

「ひぃいいいいいいぃっ!?」

 全裸のおっさんに近付かれてお姉さんは錯乱一歩手前まで追い詰められている。

 お姉さんは異性の裸に滅法弱かった。

「それ以上その人に近付くなぁっ!」

 あんちゃんは拳を振り上げながらおっさんへと襲い掛かる。

「食らえぇええええええぇっ!」

 あんちゃんがおっさんの顔面に向けて渾身のストレートを放つ。拳の軌道は確かにおっさんを捕らえていた。

 しかし……

「そんなパンチ……ハエが止まるぞ」

 おっさんは難なくパンチをかわしてしまった。

「畜生っ!」

 あんちゃんはめげずに連続攻撃に移行する。必死になっておっさんに向かって拳を繰り出す。

「そんな温い攻撃、何万発打たれてもあたりはせんぞ」

 おっさんは涼しい顔をしながら攻撃をかわし続ける。

 まるで見せ付けるように優雅にパンチを避け続けるおっさん。

「どうだ、姉ちゃん。俺の体の動きはなかなかのもんだろう?」

 実際におっさんは自身の身体能力をお姉さんに見せ付けていた。

「よそ見してんじゃねえよっ!」

 あんちゃんの攻撃は続く。けれど攻撃は一向に当たらない。それどころか攻撃するあんちゃんの体力の方が切れて来た。

 息が荒くなり、攻撃はどんどん大振りに、そして雑になっていく。

「さて、俺の身体能力の凄さは見せたことだし、そろそろフィニッシュと行くか」

 一方で高速で攻撃をかわし続けたおっさんは息ひとつ乱していない。

「さあ、魚屋の。俺のモテ男伝説の礎になってもらうぞ」

 あんちゃんから距離をおき、おっさんが初めてファイティングポーズをとった。

「あんちゃんさんっ!」

「くそぉっ!」

 お姉さんの心配する悲鳴が聞こえる。

 だが、あんちゃんは体力を削り取られすぎて立っているのがやっとの状態だった。

「今日から俺が真のモテ男だぁあああああぁっ!」

 おっさんが拳を振り上げて襲い掛かってくる。

「クッ!」

 あんちゃんには防御も回避も出来ない。

 ただ、迫り来る拳が黙ってみているしか……。

「うぉっ!?」

 だが、もう少しでおっさんの拳があんちゃんに向かって振り下ろされるというタイミングだった。

 飛んで来た分度器がおっさんの顔面に当たり視界を塞ぐ。そして、拳の狙いはずれて見当外れの桜の幹を直撃した。

 

「チッ!」

 おっさんのパンチの衝撃で、樹になっていた桜の花が全て一斉に地面に降り注ぐ。

「ぺっぺっ!」

 おっさんは桜の花びらに埋もれた自分の体を這い出させるのにしばらくの時間を要した。

「だが、この程度の失敗はどうということはねえ」

 おっさんは桜の滝から脱出し、あんちゃんを睨んだ。

 あんちゃんはお姉さんと並んで立っていた。正確には、一気に積もった桜の花びらに歩みを封じられてお姉さんと共に動けないでいた。

 その光景を見ておっさんはほくそ笑んだ。

「今度こそ終わらせて、姉ちゃんを俺の女にしてやるよ」

 おっさんは右腕を振り上げる。そして拳に力を充満させていく。

「脱衣(トランザム)120%状態の一撃を食らわしてやるぜぇっ!」

 おっさんが渾身の一撃をお見舞いしようとしたその瞬間だった。

「ぐわぁああああああああああぁっ!?」

 おっさんの全身を耐え切れない激痛が襲う。

 雷で打たれた方がまだマシな程に激しい衝撃だった。

 次いで全身の筋肉が脈打って激しく痙攣を起こし始める。

 体中の組織を誰かに手で摘まれてぐちゃぐちゃにされている。おっさんは自身に起きていることをそう考えた。

 そしてその原因を薄れる意識の中で思い立った。

「畜生……実験は失敗だったというのは本当かよ……」

 そして意識を失い桜の花びらのベッドの中へと崩れ落ちたのだった。

 

「えっと……自滅したみたい。だな」

「そう、なんでしょうね」

 あんちゃんとお姉さんは気絶してピクリとも動かないおっさんをそう評した。

「助かった、な」

「そうです、ね」

 顔を合わせながら互いの無事を確かめ合う。

 そして2人は気付いた。

 いつの間にか互いに手を握り合っていること。

「あっ、ごめん」

「こちらこそ、ごめんなさい」

 慌てて手を放す2人。

 2人の顔は真っ赤だった。

「あのさ……」

「何でしょうか?」

「時間があるんならさ、その、もう少し話さないか?」

「はっ、はい」

 あんちゃんとお姉さんは手を繋ぎ合ってゆっくりと桜の湖となった地域から出て行く。

 2人の表情はとても楽しそうなものに見えた。

 そんな2人を影から見守る視線が1つ。

「あんちゃん……その女の人のこと、好きなの?」

 空美文具店のエプロンを身に付けたショートカットの若い女性が2人を辛そうな表情で眺めていた。

 そして──

「私の求める究極の魔道はまだ遠い。フッ」

 おっさんに興味を失い桜に目を向ける金髪碧眼の男の姿があった。

 

 

 

 了

 

 

 


 
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