『改訂版』 第一部 其の十一
荊州 江陵
【赤一刀turn】
孫呉軍が漢水の途中で船を降りて陸路を移動した理由は二つ。
一つ目は単純にショートカットだ。
漢水は長江の支流だが、合流点は東の州境、夏口の辺りまで行ってしまう。
俺達にはそんな所まで戻っている時間は無い。
二つ目の理由は俺達が乗って来た船で援軍を集める為だ。
その為、蓮華と亞莎が船を降りずに漢水を下って行った。
『荊州の牧劉表の仇を討ち、五胡を倒すため参戦せよ。』
こんな内容の書状を雪蓮、華琳、桃香の名前で荊州各地に送ってある。
「これで日和見や、五胡に怖気付いて参戦しない様なら・・・」
冥琳は地図を広げ、その上に碁石を置いていた。
船への積み込み作業で時間が出来たため、情報の整理をしている最中だ。
「この状況でそんな奴っているのかな?」
この戦に敗けたら自分たちにも未来は無いっていうのに。
「そりゃあいますよぅ。どんな時でも漁夫の利を狙ってる人たちが~。」
穏にいつもののんびりした口調で辛辣な事を言われた。
「それを炙り出す為の策でもあるのさ。いくら五胡を追い払っても我々が帰る所が無くなっていては意味が無いからな。」
「本当は蓮華様に建業で守りを固めて欲しいんですけどねぇ。」
「出来れば小蓮様にもな。取敢えず成都を取り戻すまでは参戦を認めたが・・・・・まったく、貴様の所為だぞ北郷。」
う~ん、何も言い返せない・・・漢水で分かれる時も蓮華に上目遣いでモジモジされちゃって・・・うぅ、可愛かったなぁ蓮華・・・。
「抱きしめて口付けしてましたもんねぇ♪」
「・・・・・・・見てたの?」
「そういう事だから北郷、蓮華様をしっかり説得しろ。小蓮様もな。」
二人とも笑ってるだけで、俺の質問に答えてくれない・・・本当に見ていたのか、推測で言っているのか・・・。
「ちょっとっ!!重大情報よ!華琳からこんな物が届いたわっ!!」
雪蓮が飛び込んできて書簡を地図の上に広げた。
その勢いで冥琳の置いた碁石が飛び散る・・・・・。
冥琳は
「献帝が五胡に暗殺されただと!?しかもこの状況っ・・・・・なるほど、華琳は魏王を名乗ったか・・・」
「あのう~冥琳様?私も読んでいいですかぁ?」
「ああ穏、北郷も読んでくれ。」
献帝暗殺なんて、とんでもない事を聞かされたら読むなと言われても読むって!
「大人数の暗殺部隊って・・・・・これじゃあ暗殺じゃなくて虐殺じゃないかっ!!」
「五胡の進撃速度が異様に速い理由が解ったわね・・・頭を潰されて混乱している処に本隊が攻めて来たら一溜りもないわ。」
雪蓮の言う通りだ。
「こんな攻め方、我らはとても出来んがな。」
やろうと思えば出来る。
だけどそんな勝ち方ををしてもこの時代じゃ民衆を味方に付ける事は出来ない。
「五胡だから出来る戦法って訳か・・・奴らにとっては民衆も敵な訳だから・・・」
「敵の出方が分かれば対処も出来る。で、これから我々が取るべき行動だが・・・」
「でもなんで華琳はこんな時に魏王を名乗ったんだ?もう少し後の方が周囲を納得させやすかったと思うけど。」
「穏、華琳の行動の意味を北郷に教えてやってくれ。」
「そうですねぇ・・・華琳さんが魏王を名乗ったのは、まず戦後の主導権を握りやすくする為です。と言っても、同盟以外の勢力に対してって意味ですけど。」
「?」
「これじゃぁ一刀さんには通じないですよねぇ。実は白馬を出発する前に朱里ちゃんから提案をされましてですねぇ・・・」
朱里が提案・・・・・何となく読めてきたぞ。
「同盟の三勢力が分割して治める様にする。『天下三分の計』と朱里ちゃんは言ってましたねぇ。」
やっぱりな。
「朱里はその話を桃香と緑にしてないんだろう。」
「やっぱり分かりますかぁ。」
「桃香の性格を考えればあの段階では言えないよなぁ・・・悪く言えば火事場泥棒みたいな物だからな。」
「華琳さんが魏王を名乗ったのは・・・これも言い方を悪くすれば桃香さんを納得出来るように追い込んだという事ですねぇ。」
なんとも華琳らしい愛情表現だよ。
もうちょっとソフトにしてやってもいいだろうに。
「それで俺や緑、紫にも内緒にしてたんだろう?別に俺たちは反対しないのに・・・」
「そうかしら?反対はしなくてもいい気分では無かったでしょ。」
雪蓮の言う通り頭では納得してても、心では割り切れなかっただろうな。
「はぁ・・・見透かされてるなぁ。でも戦後の事を考えれば桃香たちが蜀を統治するのが、一番勢力図をスッキリさせられる。朱里は徐州を華琳に任せるつもりなんだろう?緑だって桃香にそう言うさ。」
「国境線云々はそれこそ戦が終わってからどうとでもなる。今は戦後をこの三国でまとめて行く為の下準備をどうするかという段階だ。」
「冥琳、蓮華とシャオはやっぱりここから建業に戻しましょう。」
雪蓮は何時に無く真剣な顔で言った。
「そうだな・・・内政の才能は蓮華様の方が雪蓮より有るしな。」
「・・・・・それは認めるけどもうちょっと言い方が有るんじゃないの?」
「こうでも言わんと蓮華様は納得しないだろう?我々が死んだ時の用心とは言えんしな。」
「冥琳っ!!」
俺は叫んだ。
「そんな事言うなっ!!冥琳も雪蓮も絶対死なせやしないっ!!」
俺の剣幕に三人とも言葉を失っていた・・・。
「考えようっ!戦ってるのは孫呉だけじゃないんだっ!!桃香の軍も華琳の軍もあるんだ!俺達全員が揃って戦ってるんだっ!!必勝の策は絶対に有るはずだっ!!」
「・・・・・北郷・・・まったく・・・聴いてるこっちが恥ずかしくなるような事を言うんじゃない。」
うわ!冥琳が本当に赤面してる!?
「一刀ったら蓮華にはあんなに甘い言葉をかけるのに私達には熱い言葉しかかけてくれないわね~。」
「ああぁ、もう!それで死ぬなんて言い出さなくなるならいくらでも言ってやるよ!でも今はこの方が気合入るだろ!」
くそう!恥ずかしいから一気にまくし立ててやったぞ!
「うふふ♪気合入ったわよ!!でも今度は甘い言葉も期待しとくわね♥」
「・・・・・・前向きに善処します・・・」
俺達は
目指すったら目指すのっ!!
何処で蓮華が追い付くかは判らないが、冥琳に言われた通り俺が説得する事になるんだろうなぁ・・・。
益州 陽平関
【愛紗turn】
『奥義を使う時、その奥義の名前を叫ぶんだ!』
ご主人様にはそう言われたが・・・・・そんな事に何の意味があるのだ?
普通に考えれば敵にこちらがどういう攻撃をするのか教えてやるだけだ・・・。
しかしご主人様が我らに授けて下さった必勝の策。
私はご主人様を信じると秋蘭の前で言ったではないか!
何を迷う!?関雲長!!
武官筆頭たる私がやって見せねばみんなだって・・・・・・。
「
「え?」
今のは鈴々の声?
「おおっ!お兄ちゃんが言った通り威力が上がったのだ!!」
「
「星!?」
「ほほう、これは・・・・・主の言葉には半信半疑であったが、確かに闘気を集中させるのにいいな!しかも私の趣味にも合う・・・やりますな主よ♪」
「
「
翠にたんぽぽもかっ!?
「すげぇ・・・こんなに効果があるなんて・・・・・さすがあたしが見込んだご主人様だぜっ!!」
「ホントだ・・・たんぽぽこんなに強かったんだぁ・・・・・ご主人さまの天の知識ってスゴイんだねぇ~♪」
「
「
「
「
桔梗!紫苑!焔耶!それに白蓮殿まで・・・・・。
「うはははははっ!これはいいっ!!お館様、いけますぞ♪」
「えぇ♪なんだか気も昂るわね♪」
「う・・・確かに気分がスッキリする・・・あの男、いやお館の評価を改めないと・・・」
「確かに攻撃力は上がったけど・・・・・私だけ個人技じゃない・・・・・・」
「
「う~ん?恋の場合効果が出ているのか良く判らないな・・・・・元がが凄いだけに・・・」
「・・・・・効果あるよ。恋は全然本気出して無いのに威力上がった・・・・・ねねの『ちんきゅうきっく』と同じ・・・・・」
「ねねはこの事を知っていたという事か!?・・・・・小さくても軍師、見聞は広いのだな・・・・・・・って、やってないのはもう私だけかっ!?」
いかん!武官筆頭の私だけやらないなど、ご主人様に申し訳無いではないかっ!!
「そうやって主への想いを誤魔化す愛紗だった。」
「星っ!!私の考えを読んで妙な茶々を入れるなっ!!」
「それだけお主の考えが分かりやすいという事だ。素直に主からの言葉に従いたいと言えば良いではないか。」
「う、うるさいっ!!」
「丁度良い具合に敵部隊が突っ込んで来るぞ。武官筆頭の力、主にご覧に入れてはどうだ?」
「言われなくてもっ!この関雲長の力!とくと見るがいい!うおおおおぉぉおおぉおぉお!!」
「
こ、これはっ!確かに気合が入る!しかもなんという恍惚感!
これがご主人様の言っておられた『厨二』の力なのかっ!!
・・・しかし厨とは調理場や料理を示す言葉・・・いや、私財をなげうって人を救った者の事でもあるな・・・・・どちらにしろ意味が解らんが・・・・・。
【緑一刀turn】
「おぉ!愛紗の一撃がとどめだな。敵が逃げ出し始めた。」
劉備軍は房陵を出発した後南鄭の街を取り戻し、この陽平関に攻め寄せた。
詠が言った『争地』となる定軍山には敵は居らず、まっすぐ陽平関に逃げ込んだのだった。
「やはり遊牧民である羌は山岳戦には不慣れなようですね。そして砦に依って戦うのも。」
雛里は敵が定軍山に敵が居ないのを見て、敵は騎馬による野戦に自信があり、その為陽平関からも誘い出しやすいと読んだのだ。
俺達は一度陽平関を攻めてから逃げる振りをしてみせると、敵は直ぐに関から出て追撃を始めた。
そこで俺がみんなに授けた厨二な策で反撃に出た訳だ。
今まで気が付かなかったがみんな気合や掛け声は出しても技の名前を口にしていない。
ねねがちんきゅーきっくを出すときは言ってるからまるっきり無いという事はないみたいだが、かなりマイナーなようだ。
先日の卑弥呼と貂蝉の戦いを聞いて思いついたので、愛紗に訊いたら呆れられた。
俺はムキになって説明している内にこれは戦力アップに出来るのではと思い、みんなにもやらせたのだ。
だけどねねは何処で『きっく』なんて言葉覚えたんだ?
「門を閉めさせるなっ!破城槌を門に突っ込ませろっ!!」
「門が閉まってもワタシの鈍砕骨で吹き飛ばしてやるっ!!敵を追い立てろっ!!」
焔耶は言葉通り門扉を粉砕して味方を関の中へと導いた。
その際城壁の上に居た弓兵は全て紫苑と桔梗によって排除されていた。
紫苑の弓は相変わらず凄いが、桔梗の腕も紫苑に引けを取らないなんて・・・。
オッパイが大きいと弓の腕は上がるのか?
秋蘭も凄いし、祭さんも弓の名手だっていってたもんなぁ。
普通に考えたら却って邪魔になりそうだけど。
そんな事を考えていたら城壁に旗が上がった。
「陽平関は取り戻したぞーーーーーっ!!」
たんぽぽの声に呼応して、俺達は勝鬨を叫んだ。
「感服致しました、ご主人様。まさかここまで効果が有るとは。」
「そんなに畏まらないでよ、愛紗。これは本来持っている実力を引き出しただけ、みんなもそうだけどそれだけ鍛錬していたからこそ出来た事なんだから。」
「何を言っておられるのです、お館様♪その実力を引き出す事こそが難しいのですぞ。これはお館様だから出来たこと、もっと誇りなされ♪」
「桔梗の言う通りです!」
「そんなに凄かったの?愛紗ちゃん。」
「ええ、桃香様!今迄全力と思っていた力が実は半分だった様に感じるぐらいです!」
「ほえぇ~・・・」
愛紗ってば興奮しすぎ・・・・・こっちは褒められ過ぎて恥ずかしくなってきた。
「ねえねえお兄ちゃん♪鈴々まだ名前のない技があるから、お兄ちゃんに考えて欲しいのだ♪」
「お、そうか?じゃあカッコイイのを考えなきゃな♪」
「ああっ!そ、それならあたしのも頼むよ!ご主人様!」
「たんぽぽもー!」
翠とたんぽぽがそう言うとみんなも追随して頼んできた。
これは紫と赤にも勧める様に手紙を書かないと・・・・・もしかしたら向こうも思い至っているかもしれないけど。
「主よ、このような素晴らしい知恵を授けて下さり、誠に有難う御座います。感謝の気持ちはこんな言葉では到底表しきれません・・・」
「だから星もそんなに畏まらないでよ。」
「感謝の意を込めて主の奥義に私から名を贈ろうと思います。」
「は?俺の奥義?」
「陽撃昇天破。いかがですかな?」
「確かに格好イイけど・・・俺はそんな奥義なんて・・・」
「何を言っておいでですか!?毎夜のように使っておられるのに!」
「毎夜?・・・・・ちょっと待て!」
陽ってもしかして男の事を指す方か!?
つまり男の攻撃で・・・・・昇天って!
「成程、お館様が精を
流そうと思ったら桔梗にツッこまれた!
「昨夜は誰になさっておいででしたかな?・・・・・アイ」
「「うわあああああああああぁぁぁああぁあぁぁぁぁああああっ!!」」
「アイ手は思い出せない・・・はてアイ紗、何を慌てているのかな?」
愛紗・・・お前が慌てたら誤魔化し切れないだろうに・・・・・あ~あ、真っ赤になっちゃった。
「それで愛紗ちゃん、今日は肌の艶が良かったのね♪」
「奥義ではなく奥技ですな♪お館様♪」
「桔梗うまい!」
「たんぽぽっ!!」
「うわああああぁぁぁあああぁぁん!」
愛紗が顔を隠して逃げちゃった・・・・・。
「全く、愛紗といい翠といい・・・この程度で取り乱すとは修行が足らんな。」
「あ、あ、あ、あたしは・・・その・・・」
翠も顔を赤くして言葉が上手く出ないようだ。
「あら、桔梗。ご主人様はああいう恥じらう姿も好ましいとお思いなんですよ♪」
紫苑にはバレバレだな・・・・・うん、愛紗の泣いて逃げる姿に萌ちゃいました。
さて、そんな事をやっているが。
ここで劉備軍は軍を二つに分けて、一方は成都に向かい蜀を開放する。
朱里が曹魏や孫呉の軍師たちを含めた全軍の軍師と決めた『天下三分の計』では、桃香と俺が孫呉より先に成都に入らなければならない事になっている。
そこでこちら側の編成は桃香、俺、愛紗、鈴々、星、朱里、雛里、紫苑、桔梗、焔耶。
もう一方は基本的にはこの陽平関の守りだが、遊撃隊として雍州の羌族を攻撃して貰う。
勿論曹魏から援軍の要請があればそちらに駆けつける。
こちらは白蓮、月、詠、恋、ねね、翠、たんぽぽと騎馬隊を中心に編成されている。
さあ、戦いの山場はまだこれからだ。
気を引き締めて行かないと。
「ご主人さま。真面目な顔で独白されていても、この場はまだ収まってませんよ。」
「朱里・・・・・お願いだから見逃して・・・」
あとがき
今回は作者の仕事の都合で
投稿が遅くなった上に
華琳たちの出番を次に回させて
いただきました。
申し訳ありません。
武将達の技名
「真・恋姫✝無双~乙女繚乱」の奥義名と
「真・恋姫✝夢想~乙女対戦」の技表
「萌将伝」の劇中で使われた物等を資料として
そのまま使ったり
少々アレンジしたりしております。
白蓮には今のところ
個人技がありませんw
武器の名前も「普通の剣」ですしねぇ・・・
次回は
曹魏の戦闘からを予定しております。
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大幅加筆+修正となっております。
今回は孫呉の移動中の一幕と、
劉備軍の陽平関攻略戦です。
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