『改訂版』 第一部 其の十
荊州
【緑一刀turn】
「いいですかご主人さま?五胡とは
朱里先生から俺と赤は五胡についての知識をおさらい中である。
「歴史書によれば鮮卑と羯は元が匈奴から別れたもので、
北側だけでもすごい範囲だな。
「そして氐と羌はそれぞれ違う民族で、現在氐が涼州の西、羌が益州の北西をその勢力地としています。どちらも遊牧民で騎馬による戦いが得意です。」
「今回の大侵攻は侵入先から考えて氐と羌ってところか・・・」
ここまで説明を聞いた所で冥琳先生の登場である。
「我々が入手した情報を統合すると、今回の侵攻の原因は袁紹が発端だな。」
「「は?麗羽が?」」
逃がした麗羽が五胡を頼った・・・いや、それは無いか。
「五胡の侵攻って華琳が官渡で麗羽と戦い始める前に始まってたはずじゃ・・・」
「ご主人さま、お忘れですか?袁紹さんが河北制圧の時に烏丸と鮮卑を味方に付けたのを。」
「え?でも今五胡って総称で、別の民族だって・・・」
「奴ら時として手を結ぶ。故に総じて五胡と呼ぶのさ。」
「今回は鮮卑と烏丸が上手く行っているのを知って、氐と羌が先走った為みたいです。」
「すると何?『あいつらばっかり美味しい思いしやがって!じゃあ俺達も!』って事か?」
「まあ、言ってしまえばそういう事になるな。」
「その証拠に鮮卑と烏丸は袁紹さんが敗けそうになったらさっさと逃げちゃいましたし、匈奴と羯は動いてません。」
「だからと言って安心は出来んがな。早急に氐と羌を殲滅しないと北の奴らが動き出すのは、火を見るより明らかだ。」
「襲われた人たちを早く助けたいとは思ってたけど・・・そんな問題まで上乗せされてるのか・・・」
現状敵は連戦連勝で士気が上がってる、けど遠征の疲れも出ている事を考えれば今が反撃のチャンスでもあるはずだ。
こちらも連戦と遠征には違いないが、有難いことに兵は殆んど戦っていない様な状態だ。
今戦ってくれている前線の諸侯が持ち堪えている内に到着出来れば勝機はある。
麗羽を打ち破ってから二日目。
現在劉備軍と孫呉軍はここ宛県で船への積み込み作業中だ。
長江の支流である
西に向かって荊州北部を移動して漢中を目指す。
孫呉軍は漢水を下って途中陸路で江陵を目指し、そこからまた船で長江を遡上して益州を目指す事になっている。
華琳たち曹操軍は黄河を遡上して洛陽、長安を抜け、
「ご主人さま~ん。ちょっといいかしら?」
「ちと急ぎの用があって来たのだが。」
先程の勉強会からそのまま軍議に移行した所で貂蝉と卑弥呼がやって来た。
「ん?どうした?」
「わたしたちにお手紙が届いたんだけど、ご主人さまたちに見ていただきたくって。」
「「手紙?」」
貂蝉と卑弥呼に手紙が届くなんて!
この二人と知り合って手紙まで出すような豪傑は誰だ!?
受け取った書簡を開くと懐かしく、そして綺麗な字が目に入った。
「「しっ・・・」」
危うく声を上げそうになった俺と赤は口を抑えた。
紫苑!良かった・・・生きていてくれた・・・。
俺と赤は急いで書簡の内容を読み取る。
「(翠も紫苑の所まで撤退出来たみたいだな。)」
「(ああ、娘も無事って書いてある。璃々ちゃんも大丈夫だ♪)」
しかし問題は今籠城している場所である。
「「
「御主人様。何か気になる手紙でしたか?」
愛紗がこちらを気にしてたんだろう。
俺たちの声を聞いて腰を上げた。
「あぁ、援軍要請だ!益州の将、黄忠が西涼の馬超と他にも数人の将で房陵って所で籠城してるって!」
「おぉ、あの錦馬超ですか!!」
「愛紗は知ってるの!?」
「ええ、反董卓連合のときも姿を見ました。声は掛けられませんでしたがかなりの猛者と見受けましたね。」
「あのぉ貂蝉さん、卑弥呼さん。そのお手紙見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「いいわよん朱里ちゃん。そのつもりで持ってきたんだから♪」
朱里に渡した書簡を軍師のみんなが揃って見始めた。
「これは・・・・・房陵ですか・・・・・」
「そこまで押されているとは・・・」
みんなの顔が深刻になる。
「房陵ってどの辺?」
俺の質問に朱里が答えてくれる。
「房陵は私達が選んだ進路である漢水沿いに在る街です・・・」
「ということは進路変更無しの最短時間で援軍に駆けつけられるな!」
「ああそうだな。早ければ二日後には到着出来るぞ。」
冥琳が太鼓判を押してくれる。
「二日で到着出来るのか♪・・・・・・・二日?」
冥琳の皮肉っぽい態度と言葉の内容が引っかかった。
ちょっと待て俺。
援軍に駆けつけられる時間が短いのはいい。
でもそれは敵がかなりの所まで入り込んだから・・・・・。
「それって漢王朝の存亡の危機って事じゃないかっ!!」
俺達の接敵場所がそんな所なら・・・華琳たちが敵と出会う場所って・・・。
司州 洛陽
【紫一刀turn】
「なんや?洛陽の様子がなんかいつもとちゃうで?」
霞の言葉に俺は望遠鏡を取り出して洛陽を捉える。
俺達曹操軍は黄河を遡上途中に一度洛陽に寄って、今回の麗羽との戦の経緯と五胡討伐に向かうことを報告する事になっていた。
そして陸路洛陽を目前に霞のこのセリフ。
「五胡の軍はまだ
「秋蘭、希望的観測で物事を言ってもしょうがないわ。長く洛陽にいた霞がおかしいと言うなら、何かあったのでしょう。」
華琳も洛陽に何かを感じているんだろう。
「なあ霞、具体的にどんな風に違うんだ?」
「そうやな、今ぐらいは飯の準備する時間やから煙の上がってなおかしいんや。」
そうだ、以前華琳と陳留の城壁の上から街を見たとき・・・・・あの時と比べると洛陽から生活感というものがまるで感じられない。
俺達同盟が多くの住人を移住させたとはいえ、まだまだ人は暮らしているはずだ。
「全軍戦闘準備っ!!我々はこれより洛陽に入るが警戒を怠るなっ!!」
突然の華琳の号令に俺、桂花、稟、風は驚かされたが、武将のみんなは既に戦闘態勢に入っていた。
「隊長は感じませんか?この異様な殺気を・・・」
俺の隣にいた凪に言われて俺も意識を集中すると・・・確かに感じる。
「なんだ・・・?この感じ・・・戦場とは違う不気味な殺気は・・・・・」
洛陽に入るとそこはまるでゴーストタウンの様だった。
人の姿は何処にも無く、烏の鳴き声だけが不気味に響いている。
ホラーの映画かゲームのワンシーンかよ・・・でも敵は間違いなく居る!
「ウラアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
突然の雄叫びに俺が振り向くより早く動いた赤い影。
「でいやああああああああああああああああああああっ!!」
それが春蘭だと理解したときには、春蘭は襲ってきた敵を全て叩き斬っていた。
ようやく俺は、敵が建物の屋根から飛び降りてきたと理解できた。
敵の死体は六人・・・あの一瞬でやった春蘭の強さに改めて驚かされる。
「まだいるぞっ!季衣と流琉は華琳様のお側を離れずお護りしろ!兵は広い場所で固まってお互いの身を守れ!!」
春蘭が指示を出した直後、敵がまた降ってきた。
『ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
今度はさっきの比ではない。十倍は居るんじゃないか!?
咄嗟に俺は軍師の三人を守る位置で、近衛隊と一緒に剣を構えていた。
「いえあああああああああああああ!!」
俺の振り下ろした剣は敵の武器に阻まれたが、敵を下がらせる事は出来た。
じいちゃんなら今ので武器を叩き斬っていただろうな。
下がった敵を季衣の岩打武反魔が吹き飛ばした。
しかしその隙を突いて敵が華琳に襲いかかる!
「華琳っ!!」
閃光が走り敵は真二つになって地面に転がった。
華琳の構えた絶の刃が陽光をギラリと反射する。
「どうやら私自らの手で・・・」
その顔は敵が怯むほどの怒りを湛えている。
「先日の閨の恨みが晴らせそうね。」
・・・・・この場面でそんな冗談を聞いて少し余裕が出てきた・・・冗談だよな華琳?
こうして襲ってきた敵を全て片付けると、感じていた殺気も無くなった。
「桂花、こいつらは何処の者だと思う?」
「そうですね・・・風体からすると羌族かと思われます、華琳様。」
「やはりね・・・・・城に急ぐわよっ!!」
羌族・・・やっぱり五胡なのか。
献帝の居城に着いた俺達が見たものは・・・・・暗殺・・・いや、虐殺後の現場だった。
「帝を御探ししろっ!急げ!!」
士官達の号令で兵が城内に入る。
「誰か生きている者はいないかっ!?」
「我々は曹操軍だっ!助けに来たぞっ!!」
兵達は口々に生存者が隠れていないか声を出しながら捜索を続けるが、行けども行けども死体しか発見できなかった。
「・・・複雑な気分だわ・・・・・あんな腐った連中でも外敵に殺されたとなると怒りが湧いてくるのね・・・」
華琳はそう言いながらも、感情の無い声で呟く。
その呟きは、そのまま俺を含めた武将軍師達の気持ちだった。
そして士官の一人から遂にその報告がもたらされた。
「申し上げます!帝と
「・・・そう・・・・・みんな付いて来なさい。」
華琳の様子は実に静かだった。
俺は華琳の感情を読み取れないまま、みんなと一緒に移動する。
俺が行ったって献帝の顔を知ってる訳じゃない・・・・・むしろこの中で献帝の顔を知ってるのは華琳、桂花、秋蘭、霞だけだ。
「確かに・・・・・・・帝だわ・・・・・大長秋は最後まで帝の味方だったのね・・・」
立派な服を着たお爺さんの遺体は、帝に向かって這い寄ろうとした血の痕を床に残していた。
「一刀?・・・・・あなた泣いているの?」
「え?・・・・あ、あれ?」
華琳に言われるまで気が付かなかった・・・・・献帝・・・劉協の顔は初めて見たはずなのに・・・・・なんでこんなに喪失感に襲われるんだ・・・・・。
「・・・帝って言っても初めて見たからさ・・・・・俺にとっては子供が殺されたって感覚の方が強いんじゃないかな?だからさ・・・」
そんな誤魔化しでも華琳は納得してくれたみたいだった。
「図らずも私達は漢王朝の最後を看取ることとなったわね!」
そう、俺達が華琳と一緒にここに来たのはこの為だ。
「只今より我が領地、中原及び河北を以って国名を『魏』とし、我曹孟徳は魏王となることを宣言する!!」
『御意っ!!』
何故、華琳がこのタイミングで魏王を名乗るのか?
それは俺達曹操軍の置かれている状況が極めて危うい為だ。
今この洛陽には曹操軍しか居ない。
帝も、閣僚も、役人も、市民も、敵軍すら居ないこの状況で。
居るのは死体だけだ。
いくら俺達が五胡がやったと言い張っても、証拠はさっき襲ってきた奴らの死体のみ。
今後、華琳に敵対する者が現れれば間違いなくそいつはこう言うだろう。
『五胡襲来に乗じて、曹操は帝を亡き者にした。』と・・・。
将来的にそういう奴が現れても、華琳なら上手く利用するだろう。
最悪鎮圧してしまえばいい。
だが、今はダメだ!
五胡を退けるために俺達は諸侯と団結しなければならない。
更に劉備軍と孫呉軍とも同盟している事を広く喧伝した今となっては、向にもその被害が及ぶ。
それを踏まえた上で華琳はこの強硬とも言えるこの策を選んだ。
華琳は『乱世の奸雄』という自分の評価を利用する事にしたのだ。
「凛と風は洛陽に残り帝の弔いと、この状況を伝える書簡を諸侯に送りなさい。」
書簡の内容の真偽はどうであれ、今飛ぶ鳥を落とす勢いの華琳、雪蓮、桃香に真っ向から叛意を示す者は居ないだろう。
しかも五胡が攻め込んで来ている現在、俺達以外に主力となる勢力は残っていないんだ。
「帝の弔い合戦となるけど、我々が敗ても弔ってくれる人は誰も居ないわよ。」
それは残った人たちは皆殺しか五胡に隷属する事になるからだろう。
だから俺達は・・・・・。
「だから我々は絶対に敗けられないわ!心しておきなさいっ!!」
『御意っ!!』
敗ければ無、しかし勝てば領主を失った涼州から漢中、蜀から荊州を同盟が治めることになるんだ。
正にオール・オア・ナッシングの大博打となったわけだ。
(赤、緑、死ぬなよ。勝った後でもこの同盟関係を維持するのには俺たちが居ないとダメなんだからな・・・・・)
荊州 房陵
【エクストラturn】
城壁の上から見渡せば五胡の軍勢が挑発のため動き回っているのが見える。
「五胡の奴らめ、勢いづいておるのぅ・・・」
桔梗は忌々しそうに呟いた。
「桔梗様!こうなればこの魏延が打って出て五胡のやつらに一泡吹かせてやります!!」
「阿呆ぅ!今城を出て戦ったとて無駄に兵を死なすだけだろうが!!」
血気に逸る焔耶を怒鳴って黙らせる桔梗だが、自分が死んで焔耶が生き延びるのなら真っ先に飛び出したに違いない。
しかし、ここまで多勢に無勢では篭城戦でもいつまで持つやら分からなかった。
「そうよ、焔耶ちゃん。いまは堪えて、もうすぐ援軍が来てくれるわ。反撃はそのときよ。」
紫苑も焔耶を説得する。
その目は決し敗軍の将の物では無い強い意思が感じられた。
「だけど紫苑。援軍・・・・・本当に来るのか?」
紫苑の背後にいた翠が地平線を見渡し訊いてきた。
翠は蒲公英と共に撤退戦を繰り返しなんとかこの城まで逃げ延びて来たのだった。
「ええ、翠ちゃん。以前黄巾党討伐のころ加勢してくれた貂蝉っていう人が、そのころに探していたご主人様とその軍勢を連れてきてくれるって書簡で知らせてくれたわ。」
紫苑の笑顔には貂蝉が援軍を連れて来る事に微塵も疑っていないことが見て取れる。
「あの貂蝉の主か・・・興味があるのう。」
桔梗も面白そうに口の端を吊り上げるが、焔耶だけは違った。
(貂蝉と卑弥呼の主って・・・まさかアレに輪を掛けたバケモノじゃないだろうな・・・)
焔耶は想像しようとしたがあの二人を越えるモノを想像することが出来なかった。
「その人って今噂の劉備軍を率いてる天の御遣いの人だよね。お姉さま諸侯連合のとき会わなかったの?」
蒲公英が好奇心を刺激され翠に訊いた。
五胡襲来の混乱のせいで三人の天の御遣いの噂はまだここまで届いていかった。
「へ、へえ?そ、そうなのか蒲公英?劉備には会ったけど・・・も、もしかしてあのとき少し離れたところに居た白いキラキラした服着た、き、気障っぽい男のことかなぁ?」
翠は記憶を探り、なんとか思い出した・・・様に見せているがそれが演技なのは誰が見てもバレバレだった。
「たぶんそうだよ!なんでもその服『ぽりえすてる』っていう天の衣だって話だよ。」
蒲公英も分かっていながら翠の芝居に合せて会話を進めた。
「で、でもなあ・・・その男、劉備のところにいたかと思ったらいつの間にか曹操のところにいたり、孫策のところにいたり、しかもみんな仲良く話しててさあ・・・そ、そのスケコマシっぽくて・・・」
翠は顔を真っ赤にしながら身振り手振りも加えて説明した。
「ふ~~~~ん。カッコいい人だったんだ~♪お姉さまももっと積極的にせまればよかったのに~♪」
蒲公英は半目で翠を眺め、片手で口を隠し「くふふ」と笑っている。
「な、何言ってんだたんぽぽっ!私はっ!その・・・」
「ほほう。なかなか英雄の素質をお持ちのようだなその御仁は。」
「うふふ。わたくしも早く会ってみたいわ。」
桔梗と紫苑も興味をそそられ会話に加わった。
ちょうどその時、焔耶が地平線の異変に気付く。
「東から砂塵が上がっていますっ!桔梗様!!」
「おお、噂をすれば!」
弓の名手である紫苑の目が更に望遠鏡を使い、牙門旗を捉える。
「旗は・・・・・あれね。碧旗に十文字、それに劉。他の旗は関、張、趙、諸葛、鳳、陳、あと・・・深紅の呂旗!飛将軍呂布が天の御遣いに下った噂、本当だったのね。」
恋の旗があることに紫苑も桔梗も驚きを隠せない。
「なんでも戦場で呂布がその姿を見止めたとたんその足元に平伏したと言う話だったか・・・」
(なんかちょっと違ったような気もするけど・・・)
その現場を遠目で見ていた翠は首を捻った。
そして翠と蒲公英も援軍を確認しようと目を凝らしてみると・・・。
「ん?なんか突出してくるのが・・・」
「黄忠ちゃ~~ん!厳顔ちゃ~~ん!魏延ちゃ~~~ん!助けにきたわよ~~~~~ん!」
「ああっ!!あのバケモンはっ!!」
「うわ!キモッ!!」
「だ~れが『恐怖の目撃談、都市伝説!走る婆さんを見た!!』ですってぇぇぇ!こんなピチピチムチムチの美女をつかまえてっ!!」
「どわあああああああああああああああああああああああ!!なんで後ろに立ってるんだよ!?いま向こうを走ってたはずだろ!」
貂蝉と卑弥呼が極て当たり前のようにそこに立っていた。
「そんな細かいこと気にしちゃだめよ。馬超ちゃん。」
翠はもう訳がわからなくなっていた。
「久しいな。黄忠、厳顔、魏延。」
卑弥呼は満面の笑顔で挨拶をした。
「おう、お主たちもな、卑弥呼、貂蝉。壮健そうでなによりだのう。」
「華佗さんはお元気?」
「華佗ちゃんも元気よ~♪負傷兵も多いんでしょ、着いたらすぐに治療を始めるからって伝言よん♪」
「おお、助かるぞ。」
「さて、積もる話は後にして。それでは貂蝉、一暴れしてくるとするか。」
「女の友情パワー爆発よおおぉん!!」
言うが早いか貂蝉と卑弥呼の二人は城壁を飛び降り、五胡の軍勢の前に立ち塞がる。
「我ら、漢女道はっ!」
「可憐な風よんっ!」
「全身!」
「恵烈!」
「天覇!」
「胸乱!」
「「見よ、漢女は!!赤く、萌ているううぅぅうっ!!」」
突然降ってきた二人の漢女の姿に、五胡の軍勢は戸惑った。
「うっふううううううううううううん!」
「むっふううううううううううううん!」
次々と蹴散らしていく貂蝉と卑弥呼。
「な~んか結構な数ね~ん。」
「貂蝉、ちまちま相手にしていてもしょうがない・・・アレをやるか。」
「了解よん♪」
「「
桜吹雪の様な闘気の渦を纏った卑弥呼が貂蝉に撃ち出され飛んで行く。
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁああぁぁ!!」
「バケモノだあああああぁぁぁああああぁぁあ!!」
五胡の兵達が精神崩壊を起こした後、闘気に弾かれ吹き飛ばされていった。
「相変わらず流石ねえ♪」
紫苑は漢女達の戦い振りを眺め微笑んでいる。
「よし!わしらも出るぞ!!全軍突撃――――――っ!!」
『おおおおおおおおおおおお!!』
城門を開き兵と騎馬が雪崩のように、混乱した五胡の陣に襲いかかる。
ただ二人、城壁の上に翠と蒲公英を残して。
「・・・・・なんかすごいの見ちゃったね・・・お姉さま・・・・」
「・・・・・うん・・・世の中って広いな・・・」
【緑一刀turn】
劉備軍が房陵に着いた時には、既に戦いは終わっていた・・・・・。
「(おい、卑弥呼、貂蝉。敵をやっつけてくれたのは嬉しいけど・・・ここまで外史に介入して大丈夫なのか?)」
「あらん♪ご主人さま心配してくださるの?」
「そりゃあ当然だろ!」
「おお!御主人様の優しさに、思わず濡れてしまうわ!惚れ直すぞ!!」
「うれしいわぁん!ご主人さまあぁぁあん♪」
「しかし、その心配は無用。これは飽くまでも私達個人が友情を示しただけだからの。」
「そゆこと♪」
二人がそう言うんなら、ここは納得しておくか。
「貂蝉、卑弥呼。そちらがお主達の主、天の御遣い殿か?」
やって来たオッパイ・・・いや、美人が声を掛けてきた。
「そうよぉん♪」
「こ度は見ず知らずの我らのように為に援軍して下さり誠に感謝しております。わしは厳顔と申す益州の将。」
「初めまして。わたくしは黄忠と申します、同じく益州の将・・・でしたが今となっては益州も落ちて流浪の将ですが・・・」
紫苑・・・本当に久しぶり・・・って言えないのが辛いな。
撤退戦を繰り返して来たからか、疲れも見えて・・・妙に色っぽいんですけど・・・。
「こ、こうして挨拶するのは初めてだよな!せ、西涼のば、馬超だっ!!」
翠もようやく声が聞けたな・・・。
「反董卓連合の時は挨拶も出来なかったからね・・・・・怪我も無いみたいで嬉しいよ。」
「え?あたしの事覚えててくれたのか!?」
あれ?そんなに意外な事かな?軍議の度に顔は見てたハズだけど・・・。
「良かったねぇお姉さま♪心配してくれてたみたいだよ♪」
「た、たんぽぽっ!!」
「あ、初めましてぇ♪あたし、馬超の従姉妹で馬岱っていいま~す!!」
元気な子だなぁ。翠にこんな従姉妹がいたのか。
「初めまして。俺は北郷一刀、厳顔さんが言ったように天の御遣いって呼ばれてます。」
俺が挨拶すると紫苑の陰から小さな姿が飛び出して来た。
「お母さん!璃々もごあいさつするぅ!」
「あら?申し訳ありません。この子はわたくしの娘で璃々と申します。」
璃々ちゃんも・・・本当に無事で良かった・・・。
「初めまして、璃々ちゃん。」
俺は璃々ちゃんの頭を優しく撫でてあげた。
「みつかいさま、ないてるのぉ?」
あ・・・。
「あ、ああ・・・璃々ちゃんみたいな子が無事で居るのを見て嬉しくなっちゃってね。」
「おい!焔耶もご挨拶せんか!!」
「は、はあ・・・その・・・魏延だ・・・この度は援軍していただきありがとうございます・・・・・」
?・・・・・なんか態度が変だな?
「(つかぬことを聞くが、あんたはあの二人とはどういう関係なんだ?)」
「(あの二人?)」
ああ、貂蝉と卑弥呼ね。
「(アレの主人というから、アレに輪をかけた凄いのが来るのかと・・・)」
「(・・・・・・・・・・まあなんというか・・・腐れ縁みたいなモンだよ・・・)」
貂蝉と卑弥呼に輪を掛けるってどんなのだよ!
まさか『董卓』や『張角』みたな姿絵が出回って無いだろうな・・・・・。
「(そ、そうか・・・・)」
「ご主人さまー!そちらが手紙を下さった人達ですか!?」
「なっ!!」
お、桃香が来たな・・・・・何で魏延は飛び退って固まってるんだ?
「初めまして!私、劉備玄徳っていいます♪」
「なんと、こんな可憐なお嬢さんが劉玄徳殿とはな・・・」
「そ、そんな・・・照れちゃいますよぉ・・・あぁ!あなたが馬超さんですね♪反董卓連合の時は挨拶できなくてごめんなさい!」
桃香が挨拶している間も魏延は固まったままで、首だけが桃香を追いかけていた。
「初めまして、劉備玄徳です♪」
そんな魏延に桃香が挨拶すると。
「は、初めまして劉備様!!ワタシは魏延!字は文長!真名は焔耶と申しますっ!!どうか気軽に焔耶と呼び捨てて下さいっ!!」
突然桃香の手を握り締め、満面の笑で握った手をぶんぶん振り回した。
「うひゃあぁあ!」
一緒に桃香も振り回されている・・・。
「落ち着かんか!この馬鹿者がっ!!」
魏延は厳顔に殴られてようやく動きが止まった。
「まったく・・・申し訳ございません劉備殿、不調法者ゆえご容赦くださいませ・・・」
「い、いえぇ・・・」
桃香は苦笑いで答えていた。
「(おい!貴様っ!!劉備様とはどういう関係だ!?返答如何では只ではおかんぞっ!!)」
『あんた』から『貴様』に変わったな・・・殺気もバリバリだし・・・。
取敢えず俺達は房陵の城に移動して武将と軍師を集め、お互いの情報を交換しあった。
「大陸の東側ではそんな事態になっていたのね。」
紫苑が代表するように驚きの声をもらした。
「あぁ、そんな訳で俺達劉備軍以外に曹操軍が黄河を、孫策軍が長江を上る形で進軍している。」
「成程・・・ではこの後漢水を上り、
地図を指していく紫苑に、朱里が答える。
「はい、陽平関を抑えれば、完璧とは言えませんが漢中は制圧出来たと言えます。」
「この陽平関ってそんなに重要な場所なの?」
俺の問いに詠が答えてくれた。
「この陽平関は漢中、蜀、涼州、雍州に通じる
ええと、衢地は道が集まる分岐点で、争地は手に入れると有利になる場所だったな。
「ほう、さすがに劉備殿の軍師は層が厚いのう。定軍山の重要性にも気付くとはな。」
地の利を熟知している厳顔が褒めてるってことは、余り気が付かれない場所なのか?
定軍山って言えば正史じゃ黄忠が夏侯淵を破った場所なのにな。
「ボクは知ってただけだよ。ほら、月の領地は陽平関の北に有ったから・・・」
そういえばそうだった・・・・・月の顔も沈んでる・・・。
「月・・・ご両親が無事だといいな・・・」
「ご主人様・・・・・・いえ、私はご主人様に助けていただいた時から、もう両親とは会えないと覚悟はしていましたから・・・」
紫苑達にも月が董卓だということは教えてある。
「簡単に諦めんなよ!」
翠が月の肩を叩いた。
「あたしは母様とか家臣とか、目の前で討たれたの見たからな!でもあんたは情報が入ってこないだけで私らみたいに逃げ延びてるかも知んないじゃないか!!だから諦めんな!!」
「馬超さん・・・・・」
「あたしの真名は翠だ。みんなもあたしの事は真名で呼んでくれよ!」
「あぁ!たんぽぽもっ!!」
たんぽぽが翠に追随して手を挙げている。
「これは我らも真名を預けた方が良いな。わしの真名は桔梗だ。」
「わたくしの真名は紫苑です♪」
「え、焔耶だ。よろしく頼む・・・」
なんか急に真名の交換会になっちゃったな。
「所で御遣い殿、劉備殿、もし宜しければ我らを家臣として御仕えさせてもらえぬだろうか?」
「え?それはまあ・・・仲間になってくれるのは嬉しいし・・・でもいいの?」
「はい、先程申し上げた通り、わたくし達の主家は滅ぼされ今や流浪の将。蜀を取り戻しても残った我々には蜀は広すぎます。御遣い様と劉備様に治めていただければわたくし達も安心です♪」
「ちょ、ちょっと待って!話がえらいでかく成ってきたぞ!!朱里はどう思う!?」
「は、はい・・・・・実は私達軍師はこの戦が終わった後の事も話し合ってはいたんです。ただ戦が始まったばかりでそこまでお話するのは早すぎると思い、進言していなかったのですが・・・」
軍師のみんなは考えてたのか。
「桃香様はこのお話をどうおもわれますか?」
「う~ん・・・私としてはお引き受けしたいなぁ。蜀の住民の人達はこの戦で酷いことされて困ってるんだもん、絶対助けたい!でも・・・」
「でも?桃香が引っ掛ってるのは徐州の事か?」
「うん、ご主人様。あ、でも徐州を手放すのが惜しいとかじゃないよ!帝には申し訳無いけど徐州をお返しして、代わりに蜀を治める事をお願いすればいいと思うから。私が気に掛けてるのは洛陽から連れて行った住民の人達や平原から私たちを頼って移住してくれた人達の事。無責任に放り出すみたいで嫌だなぁと思って・・・」
「そっか・・・うん。桃香らしい理由だな・・・・・・・・・そうだ!それなら徐州は華琳に任せる様に帝にお願いしたらどうかな?その上で蜀まで一緒に来てくれる人たちが居るなら俺達の引越しと一緒に移動出来るようにすればいいんじゃないか?」
「すごい!ご主人様!華琳さんになら安心して任せられるもんね。一ヶ月ちょっとでまた引越ししてもらうのは心苦しいけど・・・」
「それでは劉備様・・・」
「桃香ですよ、紫苑さん♪よろしくお願いしますね♪」
「はい、桃香様♪」
翠が難しい顔してるな・・・。
「あ、あのさ・・・あたしたちも・・・その、家臣にしてもらえないかな?」
「え?でも翠は西涼の次期当主だろ。西涼を取り戻したらそっちを・・・」
俺の言葉を蒲公英が遮った。
「西涼もご主人様の領地にしちゃえばいいんだよ♪」
なんか既にご主人様って呼ばれてるし。
「ま、まあ領地の問題は華琳や雪蓮のところと話し合うとして・・・どうだ、桃香?」
「うん♪心強い仲間が増えるのは嬉しいよね。よろしくね、翠ちゃん、たんぽぽちゃん♪」
「よ、よろしく・・・お願いします。桃香様、ご主人様。」
「んっふっふ~。これでお姉さまの片思いが片付きそうだねぇ~♪」
「んなっ!た、たんぽぽっ!!お前っ!!」
翠は真っ赤になって蒲公英を追いかけ始めてしまった。
「申し上げます!只今曹操様より火急の使者が参りましたっ!!」
廊下からの声に和んでいた空気は吹き飛び、全員が振り返った。
華琳たちに何かあったのかっ!?
「使者を直ぐに通せ!」
愛紗の声に扉が開き、曹操軍の鎧を纏った伝令兵が入ってきた。
「失礼いたします!こちらが曹操様よりの書簡で御座いますっ!」
俺は書簡を受け取り直ぐに開く。
そこには信じられない様な事が書かれていた。
「・・・・・・・・・みんな・・・帝が・・・五胡に暗殺された・・・・・」
あとがき
前回のあとがきにあった
五胡襲来の伏線とは
朱里の説明の通りです。
麗羽の意図していなかった
置土産となってしまったわけです。
房陵
元版では夷陵でしたが
劉備軍の進行ルート
紫苑たちの守城が漢中だったこと
第一部のラストへの伏線も含め
房陵に修正しました。
洛陽の虐殺
元版ではさらりと流しましたが
今回は華琳
そして同盟の逆境となりました。
因みに献帝劉協は男の子です。
紫一刀の反応からすると
どこかの外史で仲良くなっていたのでしょう。
貂蝉と卑弥呼
アニパロ第二弾w
漢女√でもよく使われたGガンダムネタですw
元ネタ「超級覇王電影弾」をご存知ない方は
ニコニコ動画などで検索すると見られますw
天の御遣いの姿絵
もしあるとすれば
頭が三つ有って
角の代わりに触手が十本くらい
口から女の子を誑かす呪いと媚薬を吐き出す
淫魔に違いありませんwww
次回はどこまで五胡から
奪われた土地を取り返せるのか?
作者もあまり考えず
恋姫たちの活躍を楽しみにしながら
書いていますw
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大幅加筆+修正となっております。
ついに対五胡編の始まりです。
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