No.400754

機動戦士ガンダムSEED白式 03

トモヒロさん

3話

2012-03-31 22:42:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3975   閲覧ユーザー数:3827

崩壊の大地

 

 「しぶとい…仕留め損ねたか」

 

 「アークエンジェル!」

 

 クルーゼは軽く舌打ちし、目の前の大型戦艦、アークエンジェルにシグーを向かわせ、装備していたマシンガンのトリガーを引く。

 ダダダダダダッ!!ダダダダダダダダッ!!

 アークエンジェルは面舵をいっぱいにし、シグーから放たれた弾頭をかろうじてよけていく。

 アークエンジェルが離れると、狙いを再びストライクへ戻し、マガジンを変え、バーニアを全開にする。

 

 「フェイズシフト、これはどうだ?」

 「伏せて!!」

 

 シグーはストライクの周りに民間人がいるのも構わず…いや、あえて民間人がいる方へとマシンガンのトリガーを引いた。

ダダダダダ…!!

 

 「きゃあ!」

 「うわぁ?!」

 「ッ!?」

 ガッ、ガン!…キィン!!

 

 ストライクは身を挺してソレを弾き返す。

 

 「クッ、この!…」

 

 一夏はそうとう頭にきていた。ただでさえ、さっきまでマリューと口論していたのに、先程のクルーゼの非人道的な行為に怒りを覚えるのに、そう時間は掛からなかった。

 

 「ッ!、だめ!」

 「!ミリアリアさん、どうして?!」

 

 腕のガントレットに念じ、白式を展開しようとしていた一夏に、ミリアリアはガントレットに手を添え、ソレをとめた。

 

 「一夏君は私たちと同じ民間人何だよ?これ以上戦う事なんてないじゃない!」

 「でもキラさんが、今、危険な目にあってるのに、何もしないなんて…」

 「それに、一夏君の白式の事がばれたら、ソレを人殺しの道具にされるかもしれないんだよ!?」

 「…ッ?!」

 

 「チッ、強化APSV弾でも」

 

 いたって健在なストライクを見てクルーゼはまた舌打ちをした。

 

 そして今度はアークエンジェルが反転し、側面にあるミサイルハッチを展開させ、誘導ミサイルを4発、発射した。

 

 「チィ…!」

 

 しかし、クルーゼのシグーは後退しそのうちの一つを撃ち落とす。残りはあろう事かコロニーのシャフトを盾にして防いだ。

 シャフトはミサイルの爆発により炎上し、内部のワイヤーが焼き切れた。

 キラ達は、その光景が悪夢のようにも思えた。

 

 「ッ冗談じゃない!」

 

 キラはシートの後頭部から、スコープを引っ張り出し、シグーへ向けて、ランチャーの銃身を構えた。

 

 「ッ!待ってそれは…⁉」

 

 ストライクがシグーに向け、狙いをさだめているのに気付いたマリューは静止を呼びかけるが…。

 

 ドォオウッ…!!!

 

 時既に遅し。ランチャーの銃口から、高濃度のビームが発射された。

 

 「ッ!!?」

 

 しかし、ビームはシグーの右腕とマシンガンを焼くが、勢いに乗ったままのビームはコロニーの反対側の地表へと達し…

 

 ボォォオオーーーンッ!!!

 

 コロニーの外装を貫いた。

 

 「ぁ…あぁ…ッ!!」

 

 そこで、キラは自分が犯した事の重大さを認識する。

 コロニーの空気が漏れ、爆煙が宇宙(そと)に通じた穴へと引っ込む。

 クルーゼはこれを好機に、先程ストライクのランチャーが作った大穴から離脱した。

 

 

『第五プログラム班は待機。インターフェイス、オンライン。データパス、アクティブ。ウィルス障壁、抗体注入完了…』

 

 アスランは奪ったGシリーズのデータを解析していた。それと同時に、幼い、桜並木で別れたキラのことを思い出す。

 

 「あ!」

 「!、すまない、ついそっちまでいじってしまった」

 

 どうやら、ボーッとしていて、他のところまで手を出してしまったようだ。

 

 「ぁぁ、大丈夫です。外装チェックと充電は終わりました。そちらはどうです?」

 「こちらも終了だ。…しかしよくこんなOSで…」

 

ヴゥーッ!ヴゥーッ!

『クルーゼ隊長機、帰還。被弾による損傷あり。消化班、救護班はBデッキへ』

 

そのアナウンスが流れると艦のクルーは皆驚愕した。それはアスランも例外ではない。クルーゼはこの艦の中でトップエースなのだ。そのクルーゼが被弾して帰ってくることに、皆信じられないでいた。

 そして、ヴェセサリウスのハッチが開くと、右腕のないクルーゼのシグーが見えた。

 

「隊長機が腕を!?」

 (…まさか、…でもあいつなら!)

 

 アスランが考えているのはもちろんキラの事だ。

 今しがた書き換えたプログラムの元はとても実戦で使えるようなシロモノではなかった。しかし、あの一機がクルーゼを追い詰められるほど動けるようになったとなれば理由は一つ。それはキラがアレに乗り込み、プログラムを書き換えて動かしたとしか考えられない。そうであって欲しくないと思いながらも、そう言う考えが脳裏をよぎる。

 

 「だから、本当なんだって!」

 「全く、ミゲル。負けたからって、言い訳するにしても、もう少しマシな嘘を考えろ」

 

 何やら下が騒がしくなってきた。アスランは思考を止め、何かと思いながらコックピットからMSデッキの様子をのぞきみた。

 すると何やらミゲルとイザークが言い争いをしている。

 

 「俺は確かに、この目で見たんだ!突然モニターがパァって光ったと思ったら、そこにいたんだよ!6機目のGシリーズが!!」

 (6機目?確か連合が造ったGシリーズは5機だけだった筈だが?)

 

 アスランは少し気になってみたので、イージスのコックピットから直接ミゲルとイザークの下へ降りてくる。

 

 「何の話をしているんだ?」

 「ああ、アスランか。なに、ミゲルが連合の木偶の坊に尻尾を巻いて逃げてきたのは、連合のMSがもう一機あったからなんだと」

 「?そんなはずは無い。工作員のレポートには連合のGシリーズは5機だけの筈だ」

 「アスラン!?お前まで俺の話を信じてくれないのか?!」

 「いったい何の騒ぎかね?これは」

 

 何時の間にかクルーゼは損傷したシグーを降りていた。そして、この騒ぎを聞きつけ、やって来たらしい。

 

 「隊長!クルーゼ隊長なら見ましたよね?6機目のGを!」

 「6機目?」

 「コイツ、自分が負けたのは、そいつのせいだって、言い張ってるんです」

 「ふむ、そう言う事か。残念だが、その6機目のGとやらは見なかったな」

 「そんな!?」

 「そらみろ!やっぱり6機目のGなんて、いやしないじゃないか!」

 「そんな…バカな、俺は、確かにこの目で」

 「きっと疲れているんだミゲル、少し、自室で休んでこい」

 「そんな…じゃぁ、アレは何だったんだ?いや、でも俺は…」

 

 相当ショックを受けたミゲルはブツブツと何か呟きながら、フラフラとMSデッキを後にした。

 そんなミゲルの背中をアスラン、イザーク、クルーゼは哀れみの目で見送った。

 

 *

 

アークエンジェルはコロニー内の地表へと降り、ストライクを回収した。

 

 「ラミアス大尉!」

 「バジルール少尉…!」

 

 そして、ストライクの手から降りたマリューを出迎えたのは、ショートヘアー女性士官、ナタル・バジルールだった。

 ナタルはマリューの前に立ち、敬礼をする。マリューも即、敬礼を返す。

 

「ご無事で何よりでありました」

 「あなた達こそ、よくアークエンジェルを…おかげで助かったわ」

 

 ストライクのハッチが開き、キラはコックピットの中からその身を出す。ソレを見たナタルは目を丸くさせた。

 

 「おいおい何だってんだ?子供じゃねーか」

 

アークエンジェルのクルー視線はストライクの中から出てきた少年に釘付けだった。

キラはコックピットハッチから垂れるワイヤーを伝い、降りてくる。

 

 「ラミアス大尉、これは?」

 「……」

 

マリューは言葉に詰まった。視線をいったんキラへと移すと、すぐその視線を外し俯きになる。

 

 「へー、こいつは驚いたな」

 

 そんな気まずい空気を無視し、現れたのは紫色のパイロットスーツを着た、金髪の男性だった。

 

 「地球軍第7艦隊所属、ムゥ・ラ・フラガ大尉であります。よろしく」

 

 ムゥが敬礼すると、後から揃って、敬礼をするクルー一同。

 

 「第2宙域、第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」

 「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」

 

二人の紹介が終わると、ムゥは敬礼していた手を下げた。

 

 「乗艦許可を貰いたいんだがねぇ。この艦の責任者は?」

 

 ムゥの質問にナタルが少し俯きになる。

 

「…艦長以下、艦の主だった人名は皆、戦死されました。よって今、ラミアス大尉がその似にあると思いますが」

 「え?」

 「無事だったのは、艦にいた下士官と私はシャフトの中で運良く難を…」

 「艦長が…そんな…」

 「やれやれ、なんてこった…。あー、ともかく許可をくれよ、ラミアス大尉。俺の乗って来た船も落とされちゃってねぇ」

 「は、はい。許可します」

 

 許可が取れると、ムゥの視線はキラとその周りにいる子供達へと移した。

 

 「で?アレは?」

 「ご覧の通り、民間人の少年です。襲撃を受けた時、何故か工場区にいて、私がGに乗せました。キラ・ヤマトと言います」

 「ふ~ん」

 「彼のおかげで先にもジンを一機撃退し、あれだけは何とか守ることができました」

 「ジンを撃退した!?」

 

 ナタルの驚愕の声に、クルー一同がざわめき立つ。

 

 「俺はあのパイロットになるヒヨッコ達の護衛で来たんだがね、連中は?」

 「ちょうど、指令ブースにて、艦長へ着任の挨拶をしている時に爆破されたので、共に…」

 

 ムゥは俯きながら「そうか」とだけ言うと、その視線をキラに戻し、歩み寄る。

 

 「な、なんですか?」

 「君、コーディネーターだろ?」

 「ぅ…、はい」

 

 途端に奥にいた銃を持った兵士が構える。その光景に一夏は驚愕しムッとした。

 そして、トールと同時にキラの前へ出る。

 

 「な、なんなんだよそれは!」

 「キラさんが、あなた達に何かしたんですか!?」

 「トール、一夏…」

 「コーディネーターでも、キラは敵じゃねぇよ!さっきの見てなかったのか?どう言う頭してんだよ、あんたらは!」

 

 双方共ににらみ合う。(トールが少し引き気味だが)それを見ていたマリューがトールと一夏の前に出る。

 

 「銃を下ろしなさい」

 

 マリューの命令により。兵士達は言うとおり銃を下ろす。

 

 「ラミアス大尉、これはいったい?」

 「そう驚くこともないでしょ?ヘリオポリスは中立国のコロニーですもの、戦火に巻き込まれるのが嫌でここに逃げ込んだコーディネーターがいても不思議じゃないわ。違う?キラ君」

 「え、えぇ、まぁ、僕は一世代目のコーディネーターですから…」

 「一世代目…」

 「両親はナチュラルって事か」

 

 ムゥはバツが悪そうに頭を掻く。

 

 「いや、悪かったな。とんだ騒ぎにしちまって。俺はただ、聞きたかっただけなんだよね」

 「フラガ大尉…」

 

「ここのくる道中、こいつのパイロットになる奴のシュミレーションを結構見てきたが、奴等ノロクサ動かすのも四苦八苦してたぜ。…やれやれだな」

 

そう言ってムゥはMSデッキを後にしようとする。

 

 「大尉、どちらに?」

 「どちらにって、俺は被弾して降りてきたわけだし、外にいるのは、クルーゼ隊だぜ?」

 「「え!?」」

 「アイツはしつこいぞ~。こんな所でノンビリしている暇は無いと思うがね」

 

 そういって、今度こそムゥはMSデッキを後にした。

 

 

  アークエンジェルの部屋のベッドで寝息を立てる音が二つ。キラと一夏だ。キラは二段ベッドの上で寄りかかるように寝ていており、一夏はその下のベッドで奥の方を向き、体を折り曲げて寝ていている。

 

「あの状況で寝られちゃうってのは凄いよな」

 「キラと一夏君、本当に大変だったんだから…」

 「……『大変だった』‥かぁ、確かにそうなんだけどさ…」

 「何が言いたいんだ?カズイ」

 「別に、ただキラにはあんな事も『大変だった』で済んじゃうもんなんだなって思ってさ。キラさ、OS書き換えたって言ってたじゃん?アレの、それっていつさ?」

 「いつって…」

 「キラだってあんなモンの事なんて知ってたなんて思わない。じゃあアイツいつOS書き換えたんだよ」

 

カズイはベッドの上で寝ているキラを見る。

 

「キラがコーディネーターだってのは知ってたけどさ、遺伝子操作されて生まれてきた奴ら、コーディネーターってのはそんな事も『大変だった』で出来ちゃうんだぜ?ザフトってのは皆んなそうなんだ。そんなんと戦って勝てんのかよ、地球軍は?」

 

 この場の全員が不安の表示を見せるが、ミリアリアは一夏を見る。その様子を見ていたトールは面白くなさそうに話しをふった。

 

 「でも、一夏は?一夏はナチュラルだけど、白式を動かしてただろ」

 「アレは、キラと違って『知ってた』から動かせたんじゃないか?」

 「サイ…」

 「それって、一夏の世界の事か?」

 「あぁ、…一夏は前の世界で、あれに乗ってたんだろ?」

 「でも、一夏君の世界の時は白式ってパワードスーツだったんじゃなかった?」

 「動かし方が違くても、機体のスペックは『知ってた』んじゃないか?白式として」

 「…そうですね、操作の仕方がコンソールになっただけで、他は俺の『知っている』白式でした」

 「一夏君!」

 

 何時の間にか、一夏がベッドから体をおこしていた。見るとまだ疲れが残っているのか、眠そうな目蓋をこすり、脚をベッドから垂らした。

 

 「お前、寝てなくて、大丈夫なのか?」

 「ええ、もう平気です。それよりも、コーディネーターとかナチュラルとかっていったい何なんですか?この戦艦に乗った時も、キラさんがコーディネーターだって、騒いでたし」

 「そうか、一夏の世界にはナチュラルだけだったんだっけな」

 「ナチュラル?」

 「ナチュラルってのは、俺たちやお前見たいな、遺伝子操作をしてない、普通に生まれた人間の事さ」

 「遺伝子操作?ってことはキラさんは!」

 「あぁ、キラは、コーディネーターは母親のお腹の中で遺伝子をいじってから産まれた人間の事だ」

 

 サイの説明を聞いた一夏はアークエンジェルに乗ったとき、あの一般兵が見せたキラへの態度を思い出した。

 

 「…たった、それだけですか?」

 「一夏?」

 「あの人達は、たったそれだけの理由でキラさんに銃を向けたっていうんですか!?」

 「ッ!?」

 

 ミリアリアは一夏の怒気に気圧されする。トール、サイ、カズイは目を丸くして、固まっていた。

 ハッと一夏は平常心を取り戻し、「すみません」と言って縮こまる。

 

 「いったいどうしたの?外まで何か怒鳴り声が聞こえてきたけど?」

 「あなたは…」

 

 そこのひょっこり顔を出したのは、黄色いツナギから連合の軍服に着替えたマリューだった。

 サイはベッドに腰掛けた姿勢のまま視線だけをマリューにやり、「何か用ですか?」とそっけなく聞く。

 

 「まぁ、用があるのはキラ君だけよ」

 そう言うとマリューはベッドの柱に背中を預けて寝ているキラを見る。

 

 「キラ、…キラ」

 

 キラの一番近くにいたトールがキラを揺する。キラは目蓋をあけ、ボヤける視界が元に戻るのと同時に、感覚が目覚めていく。

 

 「キラ、あの女士官さんがお前に用だと」

 「え?マリューさんが?」

 「キラ君、あなたに話があるの、ちょっといいかしら?」

 「あ、はい。いいですけど…」

 

 キラとマリューは部屋の前に出た。気になった他のメンバーは部屋の中から、キラ達の会話を聞いていた。

 その話の内容とは、キラにまたあのストライクに乗って、今後もザフト軍を追い払って欲しいとの事だった。

 

 「お断りします!僕達をもうこれ以上、戦争なんかに巻き込まないでください!」

 

 キラのそれをキッパリと断った。

 

 「キラ君…」

 「あなたの言ったことは、正しいのかもしれない…僕達の外の世界は戦争をしているんだって、でも、僕達はそれが嫌で、闘いが嫌で、この中立のここを選んだんだ!それを…」

 『大尉!ラミアス大尉!至急ブリッジへ!』

 

 キラの言葉を割り込むようにアナウンスが流れる。マリューは側にあったコンソールを開きブリッジと回線を繋ぐ、それに応じたのはムゥだった。

 

 「どうしたの?」

 『MSがくるぞ!早く上がって指揮を取れ、君が艦長だ!』

 「わ、私が!?」

 『先任大尉は俺だが、この艦の事は分からん』

 「…解りました。では、アークエンジェル発進準備、総員第一種戦闘配備。大尉のMAは?」

 『駄目だ出られん!』

 「では、フラガ大尉にはCICをお願いします」

 

 そこまで言うと、マリューは通信を切り、再びキラ達に振り向いた。

 

 「聞いての通りよ、また、戦闘になるわ。シェルターはレベル9で今はあなた達を降ろしてあげる事も出来ない、どうにかコレを乗り切ってヘリオポリスを脱出する事が出来れば…」

 「卑怯だ…あなた達は」

 「キラ君…」

 「そしてこの艦にはMSはアレしかなくて、今動かせるのは、僕だけだって言うんでしょ!」

 

 

 アークエンジェルがヘリオポリスから離陸する。

 キラはストライクへ再び乗り込み、発進準備に取り掛かっていた。

 武装はソードが選ばれる。

 

 「ソードストライカー、今度はあんなことないよな…」

 

 キラの手の平にあの不可解な感覚が蘇る。ランチャーのビームでコロニーの外装を焼く感覚。このトリガーを引いただけなのに、嫌にハッキリと残っている。

 キラは首を横に降り、気を取り直してフェイズシフト装甲を展開する。

 

 

 「熱源探知!数は4!ジンが3機に、コレは!?」

 オペレーターがジンのスペックを調べると、その装備に驚愕する。

 「どうした!」

 「内2機にD装備を確認!」

 「D装備って拠点制圧用の兵器じゃねぇか!」

 「!さらに後方からMSが一機、X303、イージスです!」

 

 

 ストライクの色がトリコロールに変わると脚のカタパルトが滑り、ストライクはアークエンジェルから飛び出す。

 アークエンジェルは主砲を展開し、焦点を拡散させてビームを撃つ。

 しかし、それは軽く回避される

 

 「オロールとマッヒュは戦艦を叩け!」

 (クソ、あの白いの今度こそ仕留めてやる!)

 

ミゲルのジンはアークエンジェルから出てきたストライクにビームランチャーを構える。

 

 

「おい、あっちのモニターで外の様子が見れるぞ!」

 どこへ行っていたのと思えば、トールはモニタールームを見つけて帰ってきた。一夏達は、急いでトールの後を追う。

 

 

 ミゲルのジンのモニターに長身の剣を構えて切りかかってくるストライクが映る。

 

 「お前じゃないんだよお!!」

ドシュゥッ!!

 

 ミゲルはランチャーを構え、発射した。ストライクはソレをかわすが、流れ弾がシャフトを支える柱に命中する。

 

「チッ!」

ドシュゥッ!!

 

 そして、2発目。ストライクはまたしても避け今度はコロニーの地表を焼いた。

 

「クッ、コロニーに当てるわけにはいかない!どうすりゃいいんだよ⁉」

 

 さらにジンから3発目のビームが放たれるが、ストライクはソレをシールドで防ぎ、すかさずミゲルのジンへと斬りかかる。

 ミゲルはそれをかろうじて避けるとストライクから距離を置き、ビームランチャーを発射する。

 

 

 アークエンジェル向かったジン2機は予定通り、アークエンジェルへの攻撃を開始する。脚部から発射されたミサイルはアークエンジェルに直撃し、艦全体を揺らす。

 

 「きゃあ!?」

 「ミリアリアさん!」

 「ミリアリア!」

 

 その振動でミリアリアは転んでしまう。一夏とトールは駆けつけ、ミリアリアの体を起こす。

 

 「ありがとう、“一夏君”、トール」

 

 その時、トールの中に何か黒いモノが渦巻いた。それは、単なる些細な事かもしれないが、トールにはそれが何なのか、分からなかった。

 

 「クソ、もう我慢の限界だ‼」

 「一夏君!?何処へ行くの!」

 

 この場を走り去ろうとする一夏にミリアリアは一夏の腕を掴んで止める。ミリアリアには一夏が何処へ行くのかだいたい検討がついていた。

 

 「 MSデッキに行くんです。キラさんだけじゃあの数は無理だ!」

 「ッ!!そんな事をしたらどうなるか分かっているんでしょ!一夏君!」

 「…分かってます。白式(こいつ)を見せたら、俺は白式と一緒に戦争の道具にされるかもしれない。それでもッ!!」

 「!」かぁ…

 

 振り向いた一夏の瞳は透き通るように清んで、一点の曇りも無かった。ミリアリアの頬がみるみる赤くなっていくが、一夏はそれに気付いていない。

 

 「それでも、俺は皆んなを護りたいんです。だからすみません。俺、…行きます!」

 

 ミリアリアの掴んだ手が緩むと、一夏の腕がスルリと抜け、そのまま一夏はMSデッキへと走り出す。

 今だそこにポツンとたたずむミリアリアは自分の胸に手を当てる。その手の平からは普段からは考えられない程の鼓動を感じた。

 

 (どうしちゃったんだろ?あたし、一夏君のあの顔を見たら、急にドキドキして…あ、あたしにはトールがいるんだよ!?…なのにどうして…)

 

 ミリアリアは自分の胸を抑えながら、通路の壁に寄りかかる。

 

 (どうして、あたし…一夏君の事ばかり考えているんだろ?)

 

 その様子を見ていたトールは自分では言い表せられない感情に襲われていた。

 

 

 「おい!ボウズ!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」

 

 なんとかMSにたどり着いた一夏はガントレットを構え、白式を展開しようとしたが、無精髭を生やしツナギを着た男性に呼び止められた。

 

 「あの数相手にキラさんだけじゃ無理です!ハッチを開けてください!俺が出ます!」

 「はぁ?!何言ってんだボウズ、出るつったって、もう出せるモン何かねぇぞ!」

 「大丈夫でず!自分のがありますから!」

 「へ?」

 「来い!白式ぃ!!」

 

 ツナギの男が素っ頓狂な声をあげている間に、一夏は白式を展開する。そして、MSデッキは刹那、眩い光に包まれた。

 

 

 ズゥウン!!

 「な、何!!?」

 

 アークエンジェルのブリッジが揺れる。マリューはまた、ジンの攻撃に被弾したのかと思ったが、突然MSデッキから通信が入った。

 

 「どうしたんですか?」

 『あのボウズ!回収した民間人の中にいた、黒髪の奴が…!!』

 「いったい…ッ!?」

 

 ブリッジにいたアークエンジェルのクルーはMSデッキのカメラが映し出した光景に絶句した。

 そこには、Gシリーズとよく似た真っ白いMSが映っていた。

 

 『艦長!あのボウズが早くハッチを開けろってうるせぇんです!どうします!?』

 「え?どうって…いわれても、と言うより何でアレが…」

 「いいんじゃないの?今の状況で贅沢言ってられないでしょ。そのボウズによろしく言っといてくれ」

 「あの!大尉?!」

 

 突然の事に対処できないマリューに変わり、ムゥが勝手に許可を出す。MSデッキとの通信は切れ、気が付くとムゥ以外のクルー一同が『やっちまったぜ』的な空気を漂わせていた。

 

 「ど、どうしたの?なんか俺、マズッた?」

 「あの、大尉。我々はあのGの様な機体を乗せた覚えが、無いんですが…」

 「え"ッ!?」

 

 

 「よし、いけるな?白式。…すみません!この銃借ります!」

 

 一夏は先程組み立てられたライフルを白式の手に持つ。

 

 『お、おい!そいつの端末が分からねぇのに、むやみに掴むな…』

 「『ビームライフル』…すごい、これがビーム兵器か…システムに異常はなし、いけます!」

 『う、嘘だろ…』

 

 整備班は皆、唖然としていた。何せ突然見たこともないMSが現れたと思ったら、そのMSは別系統である筈のビームライフルが使えるというのだ。

 一夏は白式をカタパルトに接続する。

 

 「早くハッチを開けてください!敵がきているんでしょ!?」

 『あ、あぁ…ハッチ開け、この白いのを出すぞ!おい!そこのコンテナ邪魔だ、どけろ!!』

 

 そして白式は着実に発進シークエンスに入っていった。アークエンジェルのハッチが開き、目下戦闘中の光景はそこから見える。

 

 「いくぞ、白式!」

 

 シグナルがグリーンへと変わり、白式はこの世界でのソラを駆ける。

 

 

 「何だ?あの艦から何か出てくるぞ」

 「ふん、どうせ、MAだろ。連合のMSはあのGだけの筈だ」

 

 しかし、マッヒュの予想は裏切られ、アークエンジェルから出てきたのは、そのフェイスマスクがGシリーズとそっくりなMSだった。

 

 「そんなバカな、地球軍にあんなMSがあるなんて聞いてないぞ!?」

 「アークエンジェルはやらせねえ!!」

 

 白式は装備したビームライフルをジンに向ける。そしてトリガーを引き、発射されたビームはジンの右足に命中する。

 

 「はぁあッ!!」

 

 一夏はすかさず、雪片を抜き、体制を崩したジンの右腕を断つ。

 

 「クあぁ!!」

 ボォオンッ!!

 

 切断された右腕から発生したスパークがミサイルへと誘爆する。

 斬られたジンはかろうじて、体制を整えると、白式との距離をとった。

 

 

 アスランはコックピットの中で戸惑いを隠せなかった。敵の戦艦から出てきたMSはミゲルの言っていた通り、もう一機あったのだ。

 ストライクの相手をしていたミゲルはその白いMSを見つけると、急にストライクから離れ、白いMSに一直線に接近した。

 

 「ついに見つけたぞ白い奴‼」

 「上から!?」

 

 ミゲルのジンは照準を白式に向け、ビームランチャーを撃つ。

 白式はそのビームを避け、すれ違いさまにビームを撃つ。ミゲルもそのビームを避ける。一夏の避けたビームは地表を焼き、爆発する。

 

 (俺が避けたら、コロニーが!)

 

  一夏は視線をミゲルのジンに戻し、瞬時加速(イグニッションブースト)を使ってミゲルのジンをコロニーの外まで押し出す。

 ミゲル達が侵入の際、開けた大穴から、宇宙(そと)にジンを出す。

 

 「うわ!?」

 

 白式のコックピットの中で幾億の星が流れる。

 

 「やっぱり、ここって宇宙…あいつ、何処に?!」

ドガァ!!

 「うわあッ?!」

 

 刹那、後ろから何かが直撃し衝撃がはしる。白式の後ろにはミゲルのジンがビームランチャーを構えていた。一夏も直ぐにビームライフルをジンへと構えようとするが…。

 

 「どうしたんだ!?白式!」

 

 白式の動きに一夏は違和感を感じていた。さっきまでとは違い、白式の動きが急に重く感じる。

 

 「動きが鈍い様だな。俺はこんなのに遅れをとったのか?情けない!」

 

 今の白式は滑降の的だった。ミゲルは目の前の敵にイラつきを感じながらも、ビームランチャーのトリガーを引く。

 

ドカァアッ!!

 「がはッ!!?」

 

 ビームは白式の腹部に直撃し、シールドエネルギーが残り四分の一にまで減少する。

 

 「チィ、しぶとい!何なんだコイツの装甲は!」

 「マズイ、あと一発喰らったら、もう保たない!」

 

 ミゲルは白式をランチャーの照準のど真ん中に入れる。

 

 「やられる!?」

 

 一夏は背中にゾクッと嫌なものを感じた。ビームランチャーの銃口が光だし、一夏の心が死を覚悟した時…。

 

 「落ちろぉ!!」

 

 ビームランチャーからビームを打ち出した刹那、奇跡は起きた。

 

 カッ!!…ぱしゅぅ!

 「何ぃ!?」

 

 白式が突然、輝きだしたと思ったら、ビームは白式に届く直前に霧散した。

 白式から放つ光は、次第に白式の背中に『翼』として形成する。そして、『翼』となった光が弾けると、一夏にとって見慣れた『翼』がそこにあった。

 

 「これは白式の翼!」

 『一次移行(ファーストシフト)完了。単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、零落白夜、使用可能』

 

 モニターに懐かしいインフォが表示される。

 

 「一次移行(ファーストシフト)…そうか、コレが白式(おまえ)の本当の姿なんだな!」

 

 『確認』をタッチすると、白式の色がただ真っ白だった装甲が所々に黄色と紺のカラーが追加された。

 

 「な、何だ!?スラスターが…生えたのか!?なんなんだそのふざけたMSは!!」

 

 ミゲルは再び、ビームランチャーを構えるが、白式は既に雪片を構え、そのビームランチャーの先っちょまで近づいていた。

 

 「は、速い!?」

 

 白式はビームランチャーを斬り捨て、めいいっぱい振り上げる。この時一夏は幼い頃、憧れでもあった自分の姉の言葉を思い出していた。

 

 『いいか?一夏…刀とは振るうものだ。振られるようでは剣術とは言わない』

 

 道場で剣術の稽古をした時にはいつも聞かされた言葉。

 

 『重いだろ、それが人の命を断つ武器の重さだ』

 

 重い…。今この瞬間、手に握る操縦桿がとても重く感じる。自分は今、人を殺すマシンに乗っているのだと、それが嫌でも分かる。

 

 (それでも!あんた達を倒さなきゃ、トールさんやミリアリアさん、他の皆だって死ぬんだ!)

 

 そして、振り上げられた。雪片は今、目の前のジンを叩き斬った。右肩から股下のかけて断ち切られたジンは一瞬のスパークの後、爆散した。

 

 (やった…?俺が殺したのか、あのMSのパイロットを…ッ!!)

 

 一夏は自分の口を抑える。人を殺した。その人の可能性を奪った。その事実が、体の奥から嫌なものを込み上げさせる。

 しかし、後悔はしない。そうでなければ、それは命を奪われた者への侮辱だ。

 

 (あなたなら、そう言うだろ?…千冬姉ぇ)

 

 一夏は白式を反転させ、ヘリオポリスに戻ろうとした。

 しかし、そこで異変は起きた。

 

 「ヘリオポリスが…どうして!?」

 

 そう、一夏が目の当たりにしたのは、ヘリオポリスが高いところから落としたコップのように、崩壊して行く光景だった。


 
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