No.400749

機動戦士ガンダムSEED白式 02

トモヒロさん

2話

2012-03-31 22:39:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4164   閲覧ユーザー数:4006

大天使(アークエンジェル)

 

  ジンの自爆の後、結果から言うと白式とストライクは無事だった。多少機体が汚れたものの、損傷と言ったダメージはなく、白式とストライクは近くの公園へと降り立った。

 白式のコックピットが開くとキラはその中から出てきた人物に驚く。

 

 「君は!」

 「え?」

 

 その人物は先程、公園の林で倒れていた少年だったのだ。

 

 「君がそのガンダムのパイロットなの?」

 「ガンダム?」

 「あ、ゴメン。僕がこうゆう顔のMSをガンダムって呼んでるだけなんだけど…」

 

 キラは今まで自分の乗っていたストライクの顔を見上げる。確かに今の白式とストライクの顔は似ているが、第一に白式はそのMSとも根本的に違うのだ。

 

 「うぅ…」

 

 どこからかうめき声が聞こえる。キラはその声を聞くと、ハッと何かを思い出したかのように、ストライクのコックピットの中へと戻っていく。

 

 「一夏くーん!」

 「一夏ぁ!!」

 

 その直後、一夏は聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 「ミリアリアさんとトールさん⁉どうしてここに?」

 「そりゃあお前のことが心配だからに決まってるだろ!」

 「そうだよ!一夏君がザフトのMSと戦ってる時なんてヒヤヒヤしたんだから!」

 「す、すみません。なんか、迷惑かけちゃったみたいで」

 

 そこにさっきストライクの中へ入って行ったキラが何やら女の人を抱えて出てきた。

 

 「トール!?」

 「え!?キラか!?まさかそのMSに乗ってたのって、お前か?!」

 「へ?キラ…さんって、まさか!」

 「そう、傷だらけのあなたを林で見つけてくれたのは彼よ」

 「本当ですか!あなたがキラさんだったんですね。ありがとうございます!!」

 

 一夏は律儀にお辞儀をしてお礼をする。

 

 「いいよ、それに君も、もう大丈夫そうで良かった。…あ!それよりトール!手を貸してくれ!」

 「どうしたんだ?キラ?」

 「この人を降ろすのを手伝ってくれ!肩を拳銃で撃たれたんだ」

 「またか?!今日はよく怪我人を見つけるなぁ!」

 

 *

 

 キラは後から合流したサイ達と共にマリューを公園のベンチへ寝かせ、すぐにミリアリアが応急手当をする。

 その後、カトーゼミの学生等はマリューをさっさと運ぶと薄情にもストライクの下へ走って行った。

 

 「キラさん!」

 

 一夏は白式から降りると、キラの下へ駆け寄った。

 

 「君は…」

 「一夏です!織斑 一夏!なんか助けてもらったみたいで、ちゃんと面と向かってお礼が言いたくて」

 「そんな、別に気にしなくてもいいのに、それにしてもあのMSは君のなの?」

 「あの…、質問を質問で返すみたいで悪いんですけど…」

 「どうしたの?」

 「えっと…MSってなんですか?」

 「え?!」

 

 キラは一夏の世間知らずとも言える質問に思わず間抜けな声をあげてしまった。一夏は今更ながら、気になっていた事を聞いてみた。

 

 「でも、君の乗っていた、あの白式ってMSでしょ?」

 「いえ、今はそのMSみたいな巨大ロボットですが、本来は人より一回り大きいぐらいのISと言うパワードスーツだったんです」

 「し、信じられない…」

 「俺も、何で白式があんなにデカくなっちゃったのか分からないんですけど、本当なんです」

 「でも、例えそれが本当だったとしても、ソレをどう証明するの?」

 「証明になるかは分かりませんけど、ISは待機状態の時、ブレスレットやアクセサリーになって持ち運ぶんです。俺の場合はガントレットですが…」

 

 一夏は白式をいつも解除する時と同じように念じると、白式は光の粒子となり一夏の腕にガントレットとして再構築する。その光景を見ていたミリアリアは目を丸くしていた。

 

 「うわ⁉、あで!」

「あだ?!」

 

 しかしその際、白式に登ろうとしていたトールが下にいたカズイを巻き込んで落っこちた。

 

 「す、すみません!」

 「大丈夫だよ、無断で登ろうとした彼等の自業自得だし」

 

 幸いつま先までしか登っておらず、大事にはいたらなかった。そして心配して走ってきた一夏にサイが呆れたような視線をトールとカズイに向けながら応えた。

 

 「イテテ、それにしても、あのMSはなんでいきなり消えたんだ?」

 「消えたんじゃなくて、待機状態になったんです。コレがそうです」

 

 そう言って一夏は腕のガントレットを見せる。

 

 「こ、こんなちっこいのがか!?」

 「僕も白式がこの腕輪になるのを見たから、間違いないと思うよ」

 「本当か?!キラ!」

 「一夏君、君はいったい…何者なんだ?」

 

 サイの一言に全員の視線が一夏に集まる。一夏はその勢いに少したじろぐが、一回深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

 「実は、俺…この世界の人間じゃないんです」

 

 その後、キラ達は公園のベンチに集まり、一夏は自分の見に起きたここまでの経緯をそのまま話した。

 

 「じゃあ、一夏、お前は本当に別の世界から来たって言うのか?」

 「はい…やっぱり、信じてもらえませんよね…」

 「ううん、私は信じる」

 「ミリアリアさん…」

 「僕も信じる、って言うかあんなのを見せられたら、嫌でも信じるしかないしね」

 「そうだよな、あんなデッカいMSがこんなちっちゃくなっちゃうんだもんな」

 「サイさん、カズイさん」

 「うん、一夏の世界の技術力はすごいんだね!」

 「キラさん」

 「よし!一夏は今日から俺たちの仲間だ!」

 「ト、トールさん」

 

 トールは一夏の肩をガシッと抱いた。一夏は少し恥ずかしそうに縮こまるが、内心トールの言葉は嬉しかった。元の世界に戻れるかどうかも分からないのに、一人はやはり心細い。しかしトールは見ず知らずで赤の他人であるはずの一夏を仲間だと言ってくれた。元の世界へ帰るのを諦めたわけではないが、今の一夏にとってトール達が一緒にいてくれる事はとても心強かった。そんな一夏をキラ達は笑顔でうけいれてくれた。

 

 「うぅ…。ここ‥は?」

 「あ!目が覚めました?」

 

 気絶していたマリューが、目を開ける。一夏達はそれに気付くとマリューの下に集まってくる。

 

 「…すみませんでした。なんか僕、むちゃくちゃやっちゃって…」

 

 キラはばつが悪そうに視線をマリューから外し、謝罪の言葉を述べた。

 

 「お水、いります?」

 「…ありがとう」

 

 マリューはキラの手を借りて起き上がり、ミリアリアの持ってきたペットボトルの水を飲む。水は少し乱暴に飲んだせいか口の端から漏れていた。

 そして、一息つくとマリューはベンチから立ち上がり…

 

 カチャ…

 「「「「「「ッ?!」」」」」」

 

 ホルダーに入っていた銃を抜き取り、ソレを一夏達へ向けた。

 

 「な、なにをするんです!?やめてください!彼らなんですよ、気絶してるあなたを降ろしてくれたのは!…ッ!!」

 

 キラ抗議をするも、その銃はキラへと向けられる。

 

 「助けてもらった事は‥感謝します…。でもアレは軍の重要機密よ。民間人がむやみに触れていいものでないわ」

「…なんだよ、さっきアレ操縦してたのキラじゃんか」

 

 マリューはトールのぼやきも聞き逃さず、キッと睨みつけて黙らせる。「ひっ!?」と情けなくも縮こまるトールの姿はまさに蛇に睨まれた蛙の構図そのままだった。

 

 「…一人ずつ名前を」

 「サイ・アーガイル」

 「カズイ・バスカーク」

 「トール・ケーニヒ」

 「ミリアリア・ハウ」

 

 そして、マリューの握られた銃が残り二人を捉える。

 

 「キラ・ヤマト」

 「織斑 一夏」

 「私はマリュー・ラミアス。地球連合軍の将校です。申し訳ないけど、あなた達をこのまま解散させるわけにはいかなくなりました」

 「「「「えぇ!!?」」」」

 「事情はどうあれ、軍の機密を見てしまったあなた方は、然るべき所と連絡が取れ、処置が決定するまで、私と行動を共にしていただかざるおえません」

 「そんな!?冗談じゃねーよ!なんだよそりゃあ!」

 「僕達はヘリオポリスの民間人ですよ?!中立です!軍とかそう言うの、関係無いんです!!」

 「そうだよ!だいたい、なんで地球軍がヘリオポリスにいるわけさ!そっからしておかしいじゃねぇかよ!!」

 

 バン!バン!!

「「「「「「?!」」」」」」

 銃声が二つ、何もない空へと響き渡り、そしてその場は一瞬にして静まり返った。

 

 「黙りなさい!何も知らない子供が!!」

 

 マリューの更にキツくなった目がギロリとこの場の全員を睨み、彼女の顔には苛立ちの表情が浮かび上がってきていた。

 

 「中立だと、関係無いと言ってさえいれば、今でもまだ無関係でいられる。まさか本当にそう思っているわけではないでしょう?ここに地球軍の重要機密があり、あなた達はそれを見た。それがあなた達の現実です!」

 「…そんなの…乱暴すぎます」

 

 誰かがボソっと低いトーンで呟いた。キラは声の聞こえた方へと目を向ける。声の主はうつ向き、その両拳を震えながら握りしめている一夏だった。

 

 「乱暴でもなんでも、戦争をしているんです。プラントと地球、コーディネーターとナチュラル。あなた方の外の世界はね…」

 「だからって!戦争って理由だけで中立のこの国に、外のゴタゴタを持ち込むんですか!あなた達は!!皆あしたの予定だって、来週の予定だってあったのに…それをめちゃくちゃにされて!!」

 「戦争はあなたが思ってるようなキレイごとではすまされないのよ!利用できるものは利用する。勝つためならね、手段を選んでられないのよ、軍は!」

 「そんなの、あんたの理屈じゃないか!あの戦闘で死んだ人だってたくさんいるんですよ!!今まで普通に、ただ平和に暮らしていたのに…、あんなの、人の死に方じゃありませんよ!!」

 「一夏君!?」

 

 我慢の限界に達した一夏は手の平から流れ出る血を気にせず、目の前の怒りの対象に振るおうとするが…

 

 「一夏!!」

 「離してください!キラさん!」

 

 一夏はキラに背後から取り押さえられる。それでも一夏はこの拳をあの女にぶつけるため前に進もうともがく。

 

 パァンッ…

 

 だが、それは乾いた音が鳴るのと同時に止まった。

 一夏はじんと痛む頬を抑え、目の前人物を見る。そこには自分とマリューの間に割って入ってきたミリアリアの姿があった。ミリアリアは叩いた手をもう片方の手で抑え、俯く。

 

 「ミリアリアさん…」

 「一夏君…君が私たちの為にそこまで、怒ってくれるのは嬉しいよ。でも…」

 

 ミリアリアはそっと一夏の両手を自分の両手で包む。

 

 「でも、それで一夏君が傷つけるのも傷つくのも見たくない」

 「……」

 

 一夏は握りしめた拳の力を緩める。

 

 「ごめんなさい…ミリアリアさん」

 「ううん、大丈夫」

 

 公園には再び静寂が訪れていた。

 

 

騒動の後、キラは再びストライクへ乗り込み、地球軍の連絡を試みるが、応答はなし。サイ、トール、カズイはトレーラーの運転。一夏はミリアリアに手の平を看てもらった後、腕のガントレットを眺めていた。

 

 「ナンバー5のトレーラー、あれでいいんですよね?」

 

 サイが戻ってくると、マリューに持ってきたトレーラーに親指で指し、確認をとる。トレーラーの横ではトールとカズイがグッタリとしていた。

 

 「えぇ…そう、ありがとう」

 「それで?この後、僕達はどうすればいいんです」

 「ストライカーパックを…そしたらキラ君、もう一度通信をやってみて」

 「はい…」

 

キラはストライクをトレーラーの横に移動させ、トレーラーがストライクの背になるようしゃがみ込む。トレーラーのコンテナが開くと、中から緑色のランチャーが出てきた。

 

 「どれですか、パワーパックって?」

 「武器とパワーパックは一帯になってるの、そのまま装備して」

 

 「まだ解除にならないんだね、避難命令」

 「親父やお袋達も避難してるのかな?」

 「あー…早く家帰りてぇー」

 

 ストレスがたまりつつある彼らは内心の不安と愚痴をこぼす。しかし、そんな彼らを追い打ちするかのように、それは起きた。

 

 …ズドォーン!!

 

 突然、どこからか爆発音が響き、そしてそこから二機のMSとMAが飛び出してきた。

 

 「あれは!?」

 「MS!」

 

 クルーゼは白いシグーのモニターごしにその最後の一機を見据える。

 

 「ほう、あれが…」

 「最後の一機か!」

 

 クルーゼのシグーは休息旋回しストライクに機体を向けバーニアを吹かす。MA、メビウス・ゼロに乗ったムゥはそれを追った。

 

 「装備をつけて!早く!」

 

 マリューが叫ぶとストライクはランチャーパックを装備する。その間に、メビウス・ゼロのガンバレルがクルーゼのシグーにより断ち切られた。

 

 「今のうちに沈んでもらう」

 「うわぁーーーーーーッ!!」

 「キラさん!」

 

 ストライクがランチャーへの換装を終えると、再び機体色が白、青、赤のトリコロールになる。

 

 ズダァーンッ!!

 

 「何?」

 

 しかしクルーゼの行く手をコロニー内壁の爆発から飛び出した“何か”が阻んだ。

 

 「…あぁ」

 

 それは、大天使の名を持つ、白い戦艦だった。


 
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