No.396668

けいおん!大切なモノを見つける方法 第13話 苦手なテストを躱す方法

勢いとノリだけで書いた、けいおん!の二次小説です。
Arcadia、pixivにも投稿させてもらってます。

よかったらお付き合いください。
首を長くしてご感想等お待ちしております。

2012-03-23 12:05:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1223   閲覧ユーザー数:1207

 

 第13話 苦手なテストを躱す方法

 

 

 

 

 

 学校の勉強が好きな人間なんていねぇよ、という俺の考えはあながち言い過ぎというワケでも偏見というワケでもないはずだ。みんな大なり小なり遅かれ早かれ程度の違いはあれど、1度くらいはそう思ったコトだろう。

 多分に漏れず、この俺もそう思ったモノだ。

 初めてそう感じたのは、カタカナなんて日本語じゃねぇよ外国語だっ!と喚き散らして教科書をブン投げたのが小学校低学年。自国の偉人たちの歴史にも興味がなかったし、数字の羅列を見ただけで頭が痛くなる数学も嫌いだった。アメリカ弁ワケわからんと英語にも苦手意識を持ったのは中学に入ってから。

 考えてみて欲しい。クラスでバリバリの運動部に入って練習に明け暮れている連中は往々にしてバカが多いはずだ。コレこそ俺の偏見以外のナニモノでもないが、まあ俺の言いたいコトはわからなくもないハズだ。

 多分に漏れず、この俺もそのテのバカだ。

 バスケを言い訳に勉強から逃げてきたツケが飽和するのは、時間の問題である。つーかもう飽和している。

 今の俺がどれくらいヤバイかというと、俺の愛すべき親友の憂による次の一言に集約されている。

 

「フユくん、ちゃんと中学校を……ううん、小学校をちゃんと卒業したんだよね?」

 

 あの心優しい憂が、俺の胸元をえぐる内角高めの剛速球を放ってきたのだ、いかにオツムの弱い俺でもはっきりとわかる。

 あ、こりゃヤベーなと。

 1学期の期末テストを控えた俺に、果たして夏休みはあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい純……そろそろお前の番じゃね?」

 

「ヤだよ、絶対ヤだ!少なくとも次のボス倒すトコまではフユがやってよっ」

 

「おまっ、ふざけんなよ?この前のボスも俺にやらせただろうがっ。あのときはマジで心臓飛び出るかと思ったぞ……」

 

「アンタ男でしょうが―――って後ろから来てる来てるっ!?」

 

「うええっ!?くそ、なンで最近のテレビゲームの3D技術はこんなに無駄に発達してんだよ!?フツーに怖ぇわっ!」

 

 今やっているのは、ゾンビを銃でバッタバッタと薙ぎ倒していくタイプのホラーアクションゲームである。テレビ画面の向こうにはゾンビたちが絶叫しながら洒落にならない恐ろしい顔でこちらに迫ってくる。対する俺と純も絶叫しながら装備しているマシンガンで応戦。

 ギャーギャー言いながら純とコントローラーを押し付け合いながらテレビゲームに没頭していたが、突然画面が暗転した。アレ、ロード画面かイベントか?と思ったが、どうやらゲーム機本体の電源が落とされたらしい。

 

「…………2人とも……ナニしてるのかな?」

 

 ゲーム機の電源をOFFにした犯人は憂だった。

 どうやら怒っているようである。ちなみに憂の表情は以下参照。

 憂→(#^ω^)ビキビキ

 

 

「もうっ、今日は勉強するんでしょーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、勉強である。

 土日を利用して平沢宅にて勉強合宿を行うことにしたのだ。合宿とは言っても今週末に両親が旅行で家を空ける憂の家に俺と純と梓の3人が勉強道具引っさげて1泊するというだけの簡単なモノである。俺や純からしたら遊びの意味合いが強いと思っていたのだが、そんなウマイ話なワケがない。

 

「純ちゃん、今日は勉強するんだから勉強に関係ないモノ持ち込んじゃダメ」

 

「うぅ……、スミマセン」

 

「うはは。純、怒られてやんの」

 

「フユくんもっ!イチバン頑張らなきゃなのはフユくんなんだよ、ホントにわかってる?」

 

「ハイ……、スミマセン」

 

「あはは。フユ、怒られちやんの」

 

「とにかく!今日は私がイイって言うまで絶っ対に寝させないから、ね?」

 

「憂さん、なんか怖いんスけど……」

 

 そんな俺たちのやり取りを見た梓は、まるきり親と子供だよ、と呆れながらそう言った。梓の冷めた眼が嫌に印象的だった。

 

 何はともあれ、勉強合宿開始である。

 時刻は土曜の昼過ぎ、平沢家のリビングにて4人でテーブルを囲みながらノートや教科書を広げる。

 中間テストや日頃の授業に対する姿勢から総合すると、俺たちの学業成績は、憂>梓>純≫俺、といった順位になる。純≫俺の間に語りつくせないほどの溝があるというコトをご了承していただきたい。となると、自然と憂がマンツーマンで俺に勉強を教えてくれるという図になるのだが、その内容をすべて描写していると時間がいくらあっても足りないので大部分を割愛させていただく。

 あえて俺と憂の勉強の際の会話を一部抜粋するなら以下の通りである。

 

 ――数学。

 

「じゃ、まず数学だね。今のところナニかわからないトコある?」

 

「sin、cos、tan、とか、なんで数学なのに英語なん?ごっちゃになるんだけど」

 

「…………」

 

 

 ――英語。

 

「じゃ、英語だね。オーラルは範囲狭いから簡単なハズ」

 

「なぁ憂、英語っていわゆるアメリカ弁だよな?楽勝じゃん」

 

「…………」

 

 

 ――国語。

 

「じゃ、国語ね。フユくんは漢文はまだマシだったけど、古文が最悪だからそこを重点的にしよう」

 

「『ゑ』……って、憂。この教科書誤字があるぞ。『る』の下にヘンテコなマークがある」

 

「…………」

 

 

 ――化学。

 

「じゃ、化学。元素は周期表20番までは暗記しとかないと話にならないよ」

 

「すいへーりーべー……す、すいへ、すい……すいきんちかもく、どってん……あれ、続き何だっけ?」

 

「…………」

 

 

 ――日本史。

 

「日本史ね。語呂合わせをつかうと楽に覚えれるよ」

 

吐くよ(894)ゲロゲロ遣唐使っと。ん、遣隋使だっけか?」

 

「…………」

 

 

 こんな感じでみっちりと憂から教え込まれた。その間、あの優しさに定評のある憂から100回は『バカ』だと罵倒されたとだけ言っておこう。俺が少しでもシャーペンを動かす手を止めると、憂から圧力をかけられて俺はもう瀕死寸前である。

 終始憂は、(#^ω^)みたいな恐ろしい怒り笑顔を俺に向けながら、丁寧に教鞭をふるってくれた。

 時刻はもう19時を回っている。

 いつまでこの地獄が続くんだ、助けてくれっ!と心の中で救済を求める。往々にしてこのような甘い期待をしても意味がないコトが多いのだが、今回は祈りが通じたようだ。

 玄関から、ただいまーっ、と元気な声が聞こえた。

 どうやら唯先輩が帰ってきたようだ。ちなみに彼女は幼馴染の家でテスト勉強をしていたそうだ。……幼馴染が男ではないコトを祈る。

 

「お姉ちゃん帰ってきたね。……よし、ここら辺でご飯休憩しよっか!」

 

 そんな憂の一言に、俺たちは息を吐きながらシャーペンを放り投げてテーブルに突っ伏した。休憩なしの5時間ぶっ続けの勉強はさすがの梓や純にも堪えたようで、彼女たちもテーブルに頭と腕を投げ出してグッタリしている。俺に至っては言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘っ!これ全部フユと憂がつくったの!?」

 

「憂はお料理上手だって聞いてたけど、まさかフユも料理こんなにできるなんて……」

 

 口々に感想を言う純と梓。

 さっきまで教科書やノートやプリントが散乱していたテーブルの上には、数々の料理が並んでいる。

 俺がつくったのは、とろろの磯辺上げ、ジャガイモの千切りをカリカリに揚げたものを添えたオリジナルサラダ。そして意外に難易度の高い、だし巻卵に挑戦してみた。……メニューが居酒屋臭いのはご愛嬌。度々酒のツマミをつくってくれと懇願する父親とバイトの経験のおかげである。

 憂はシーフードたっぷりのグラタンに、キノコの和風スープ。さらにデザートに明らかに素人ではつくれないクオリティの杏仁豆腐を用意している。

 それぞれつくりたいモノをつくったので一貫性もナニもあったもんじゃないが、まあ美味しく食べればソレでいいのだ。

 

「あずにゃん、純ちゃん。私が説明しようっ。憂とフーちゃんはね……お料理のライバルなんだよっ!」

 

 唯先輩がまたアホなコト言い出したな、と思ったが、案外的外れでもなかった。

 

「そして、私、平沢唯がジャッジです。ちなみに今のトコロ、憂の8戦全勝無敗」

 

「フユ弱ぇー……」

 

 憐れむような眼差しをこちらに向けてきやがる純。梓はやっぱりね、みたいなドコか安心した表情をしている。

 言い訳をさせてもらうなら、あまりにも敵の戦力が強大なのである。

 

「うるっせ!黙って食いなさい。とにかく今日は審査員が3人もいるんだ、今日こそ憂に土付けるぜ……!」

 

 リベンジを強く誓う俺だったが、結果だけ言うと、3-0で俺の完敗であった。

 ちっくしょう、また勝てなかった。

いっそのコト憂は専業主婦か料理人にでもなったらいかがだろうか。

 悔しがる俺だが、まあ結局のトコロ、美味しそうに俺の料理をぱくぱく食べてくれるみんなを見ると嬉しさで上書きされてしまうモノだ。またつくろう、と懲りずに俺はそう思う。全国の主婦や料理人だって、俺と同じコト思うはずだぜ。

 

「それにしてもさー、フーちゃん最近よく笑うよねっ」

 

「なんスか、いきなり。俺今そんなに笑ってました?」

 

 食後のデザートの杏仁豆腐をみんなで食べていると、突然唯先輩が脈絡なくそんなコトを言ってきた。

 

「ううん、そーじゃなくてね。出会ったときと比べて単純に笑う回数増えたなぁって」

 

「あーあーあー、ソレがホントならきっと唯先輩のおかげっすね」

 

「毎日今を楽しむ努力してるかい、フーちゃん?」

 

「うはは、抜かりないですよ。にっくきテスト前ですが、楽しくてしょうがないですね」

 

 確かに唯先輩の言う通り、俺は昔に比べて笑顔が増えたのかもしれない。ソレ疑うべくもないとても良いコトだと思った。

 そう言って俺たちは顔を見合わせてケタケタと笑った。

 

 しかし、ふと憂の方を見たら、なんだか元気が無さそうに見えた。気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は進み、時は深夜0時。俺は平沢宅の庭の縁側のようなウッドデッキで、ひとり音楽を聴きながら休憩していた。

 夜空には完全に夏を告げる満天の星空が広がっている。唯先輩から借りた団扇で扇ぎながら、綺麗な星空を眺める。

 ふと、視界の端から端へ一瞬で流れ星が転がっていった。ELLEGARDENのスターフィッシュを聴いている最中だったので、なんだかおかしくなり、クスリと笑ってしまう。

 願い事し忘れたなぁ、とかしょうもないコトをぼんやり考えていると、後ろで窓の開く気配がした。振り返らずに、そのままイヤホンを外す。

 

「フユくん、サボってちゃダメでしょ?」

 

 そう言って、そのまま俺のすぐ隣に腰掛けた人物は、やはり憂だった。

 

「リビングにいる爆睡3姉妹に言ってやれよ」

 

 俺がそう言うと憂は、あはは確かにね、と笑いながら言って、よく冷えた麦茶の入ったグラスを渡してくる。さんきゅ、と俺はグラスを受け取り、半分まで一気に飲んだ。ウマイ。

 晩飯を食ってから数時間、唯先輩を加えた俺たち5人は睡魔と闘いながら勉強を再開したのだが、いつの間にか、純たちは眠りに落ちてしまったようだ。梓と純は唯先輩にしなだれかかられながら、3人仲良く団子になってスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。なんだかんだで疲れていたんだろう。

 

「一応毛布掛けてきたけど、風邪引かないかちょっと心配」

 

「今日はこんなに暑いんだから大丈夫だろ」

 

 憂をちらりと横目で盗み見してみた。風呂上がりの憂は髪を下ろしていて、いつもと雰囲気がまるで違っていた。色っぽくて大人びた感じのする憂を見ていると、なんかドキドキしてくるので、誤魔化すように星空に視線を移した。

 

「完っ全に梅雨明けたなぁ」

 

「そうだね、雲一つない。……私久しぶりにこんな綺麗な星空見た気がする」

 

「うん。前住んでたトコよりこの町の空のがキレーな気ぃするよ。……あ、そーいや、さっき流れ星見たぜ」

 

「えぇ、いいな~。フユくん、ナニお願いしたの?」

 

「勉強教えてくれるときの憂がもう少し優しくなりますよう――ウソウソ、世界中のみんなが幸せになれますようにって願いましたっ、ホントですっ」

 

「それなら、よろしい」

 

 麦茶を飲みながら憂がジトリと睨んできたので、言い直す。もちろんいつもの茶番で、もう気付くと憂は、流れ星来ないかなー、と大きな目を動かして空を見ている。

 

「夏の大三角どれだろ……。あ、アレさそり座じゃね?」

 

「え、どれどれ?どこ?」

 

「ホラ、あのすげぇ明るいヤツ。赤色の」

 

「じゃあ、それの左上の3つのヤツが夏の大三角じゃない?」

 

「うわー、マジではっきり見えんのな、ここの星空」

 

 俺たちはしばらく肉眼で天体観測をして盛り上がった。あーでもないこーでもない、と星を指差しながら、嘘みたいに綺麗な星空に目を奪われていく。

 だけど俺は、夕飯の時の憂の浮かない表情が気になっていた。多分ソレは俺の気のせいとかじゃなくて、現に今も憂はドコか元気が無い。たかだか半年の付き合いだけど、平気そうにしていても俺にはわかってしまう。だからこそ、力になりたいと思う。

 あらかた知っている星座を制覇して話がひと段落したとき、涼やかな風が吹いてきた。俺と憂はその風を一身に受ける。

 涼しいね、と憂が呟き、そうな、と俺も呟く。そうして互いに言葉を止め、静かに目を閉じた。

 鈴虫の鳴く声がする。涼やかな風が髪を揺らす。

 グラスの氷がカランと音を立てて崩れ落ちた。

 

「なんかね、……楽しい、ね」

 

「へ?」

 

 沈黙を破ったのは憂だった。

 楽しい、と憂は繰り返す。

 

「すごく楽しいの。今日みたいにみんなで集まってお泊りで勉強会とかね。今までにあんまりこういうの無かったから、私。……今日だけじゃないよ?普段ね、学校でフユくんたちとお話ししていっぱい笑って。休みの日とか一緒にお出かけして、いろんなトコ行って、いろんなコトして」

 

 楽しい、と憂は繰り返す。

 

「フユくんと出会ってから、本当に楽しくて仕方ないんだ」

 

 楽しいと言っているハズの憂は、やっぱりドコか元気が無い。

 

「そんなん、俺だって同じだよ」

 

「フユくんも、楽しい?」

 

「当ったり前だろ。夕飯んときも言われたけど、俺、笑うコト多くなってる。自分でもそう思うよ。それはきっと憂たちのおかげだと―――」

 

「違うよ」

 

 憂のはっきりとした言葉に俺は口を閉じてしまった。

 

「きっと、お姉ちゃんのおかげだよ」

 

 そう言う憂の表情は、一見笑顔のように見えた。彼女のコトをよく知らない人は、そう思うだろう。

 だけど、俺には。そうは思えなかった。その笑顔の裏には、負の感情があるような気がした。

 

「お姉ちゃんはスゴイ。私なんか、全然かなわないや……」

 

 その一言で、俺は全てを理解した。

 どうしてそんなコトを言い出したのか。どうして元気が無かったのか。どうしてその感情を隠そうとしたのか。どうして我慢できずに言ってしまったのか。

 

「憂……」

 

 憂と唯先輩は仲が良い。それは疑うべくもない、正真正銘の事実だ。

 憂と唯先輩。この2人と親しくなっていくにつれて、改めて見えてくるモノがある。それは2人の仲の良さが異常だというコトだ。

 憂は出来た子だ。よく周りに気が付いて、なんでも器用にこなす。勉強でも家事でも炊事でも。それに引き替え、唯先輩は出来が悪い子だ。間抜けで鈍臭くて不器用で。

 そんな格好悪いひとつ上の姉に対して、憂が好意以外ナニも感じなかったなんて、俺は思わない。目の上のタンコブ、とまではいかないかもしれないけれど、そんな姉を鬱陶しく思い、衝突したのは1度や2度じゃないハズだ。自分と同じ顔をしているコトも、イヤだったに違いない。

 そして、唯先輩には人を引き付けるナニかがある。自分には乏しいカリスマ性が、自分とは違う強いキャラクターが、自分にはないセンスが。

 嫌悪感とは別の場所にある、劣等感。憂はそういった負の感情を、きっと感じてきたハズだ。誰にも言えないような醜い喧嘩もあっただろう。

 だけど。

 だけど、2人は仲が良い。

 憂は、優しくて自分には無いモノをたくさん持っている、そんな姉が、全部ひっくるめて大好きなのだ。

 唯先輩は、優しくて自分には無いモノをたくさん持っている、そんな妹が、全部ひっくるめて大好きなのだ。

 大好きだからこそ、自分でも嫌になるようなコトを感じてしまうコトがある。

 そんな歪で異常なバランスの姉妹愛を、俺はただただ単純に凄いと思った。

 

「唯先輩はスゴイ、かぁ」

 

 俺は呟きながら、氷ですっかり薄くなってしまった麦茶を煽る。

 

「唯先輩に出会ってから半年の間さ、唯先輩はスゴイって言う人たちたくさん見てきたよ。そんでナニより、俺自身何度も何度も思った。唯先輩はスゴイ」

 

「……うん、お姉ちゃんはスゴイ」

 

 憂の表情は、俯いていて髪が遮っていて、よく見えない。

 

「けどさ、そーいうとき大概同じ思うコト思うんだよなぁ。……『さすがは憂の姉ちゃんだ』って」

 

「……私なんか関係ないよ」

 

 コレ以上、俺はフォローするつもりはなかった。俺みたいな安い人間が、気遣いの言葉でどんなコト言おうと、ソレは安くて軽い言葉になる。

 だから、思ったコトを。

 正直に、本気で言うコトにした。

 

「憂のがスゴイ!」

 

 …………。

 こんなド直球に言われるとは、思ってもみなかったのだろう。憂はぽかんと口を開けたまま、びっくりしたように俺を見てくる。

 

「憂のがスゴイ。憂自身や周りの人間がどう思ってるかなんて知ったコトかよ、俺自身がはっきりきっぱりしっかり、本気でそう思ったんだ。優しくて、気配り屋で、優しくて、今みたいにイロイロ考えてて悩んでて、そんでもってすげぇ優しい憂はスゴイんだ」

 

 誰が誰より凄いとか凄くないとか、誰それより優れているとか劣っているとか。恐ろしく低次元で幼稚で、恐らく器用な人はこんなコト言わないんだろう。

 だけど、俺は言うんだ。俺みたいな安い人間が、自分で感じたコト言わなきゃナニを言うんだよ。

 

「劣等感感じたっていいよ、他人を嫉妬したっていい。俺はソレを醜いだなんて思わねぇ。今みたいに自信無くして思い切りヘコめよ。そしたら俺は言ってやる。青臭くて、ガキっぽくて、滅茶苦茶恥ずかしいけど、憂はスゴイって心の底から本気で全力で真顔で言ってやんよ。憂はすげぇよ」

 

 一気に、言った。

 真顔で、全部言ってやった。

 憂を見る。

 

「…………っ」

 

 憂は、俯きながら、肩を震わせていた。

 え、まさか泣いてんのか!?と心配したが、近づいてよく見ると、ソレが杞憂だと理解する。

 憂は、肩を震わせながら、可笑しそうに、嬉しそうに、笑っていた。

 

「フユくんとね、話してるとね。ホントのホントのホントにね―――……」

 

「……ナニさ?」

 

「……ふふっ、やっぱり言ーわないっ!」

 

 そう言って、憂は楽しそうに笑った。

 元気が戻って来たんだ、と俺は密かに安心する。

 

「なんだよ、気になるじゃんか。俺恥ずいの我慢して正直に言ったのにっ」

 

「別に、フユくんは優しいなぁって思っただけっ」

 

「ウッソくせーなぁ」

 

 憂が元気になると、何故か俺まで元気になってくる。本当に不思議だ。

 自然と、笑みがこぼれてしまう。

 

「ま、唯先輩はスゴイ」

 

「うん、お姉ちゃんはスゴイ」

 

「だけど、憂だって負けてねぇ」

 

「フユくんの方がスゴイ」

 

 互いに顔赤くして、俺たちはそう言った。

 

「うはは、2人して褒め合うとか、俺たちキモチワリぃなー」

 

「もうっ、人がせっかく感動してるのにそんなコト言わないっ」

 

 憂は俺を少し睨みながら、バシバシと肩を叩いてくる。

 いつも通りどころか、憂はいつもの5割増しくらい元気になっていた。

 それにつられて俺もハイになっていたのだが。

 

「フユくん、忘れてるかもしれないけど、明後日からテストだからね」

 

「憂こそ、このタイミングでなんつうコト言うんだよっ!?」

 

 憂の意地悪な一言で現実に引き戻される。

 

「まあ、テストさえ終わったら夏休みなんだから頑張ろうねっ」

 

「夏休み……、そうだそうだよ夏休みじゃん!もうすぐ夏休みなんだっ」

 

「フユくんたち、夏休み初っ端に夏フェス行くんでしょ?私も行きたかったなぁ……」

 

「憂たちは丁度じーちゃんばーちゃんに会いに、帰省するんだろ?予定ズラせねぇの?」

 

「ごめん、ムリなんだー……。まあ、チケット3枚だけなんだし、フユくんたちで楽しんできて」

 

「お土産期待してなさい」

 

 はーい、とちょっとつまらなさそうにする憂。

 そんな憂を笑顔にさせる方法ぐらい、俺にだってできるんだぜ。

 

「ばーか、夏休みなんていっくらでもあんだろうがよ。そうだな……、まずはやっぱり夏祭りだろっ?」

 

「行きたい行きたい!私、花火見たいっ」

 

「近場の小さい祭りと町の方の大規模な祭り全部制覇しようぜ」

 

「浴衣買おうかなぁ」

 

「あと、駅向こうの山の麓にキャンプ場できたじゃん?あそこでみんな集めてバーベキューやるぞ」

 

「また隣町までお買い物に行きたいねー、映画も観たいし、遊園地も行こうよ」

 

「みんなでフリーマーケットで出店すんのも悪くないよな」

 

「あ、ソレ凄い面白そう!」

 

「駅周辺の甘味処巡りもまだ途中だしな」

 

「ピクニックとかもどうかな?私お弁当張り切っちゃうし」

 

「あ、そーいや、料理対決もしてかねぇとな。夏休み中に絶対憂に黒星つけてやる」

 

「私絶対に負けないから。フユくんにはムリだもん」

 

 俺たちは、餓鬼丸出しで、はしゃぎながら、次々と夏休みの予定を立てていく。

 それはとても懐かしい感覚で、童心に帰ったかのようだった。

 

「憂。楽しいコト、いっぱいしようぜ」

 

 いつだったか、唯先輩が俺に言ってくれた言葉だ。

 俺はこの言葉を聞いたとき、無性に楽しい気持ちになったんだ。

 憂もそうだといいな、と俺は思った。

 

「うんっ、最高の思い出いっぱい作ろうっ!」

 

 満面の笑みで、そう応えてくれる。

 最高の思い出というその単語を聞いて、俺はふいにZONEのsecret base を思い出したので、ついつい口ずさんでしまう。

 

「「きみっと、なっつのおわーり―――♪」」

 

 どうやら憂も俺と同じコトを考えていたようで、思いっきりかぶってしまった。

 顔を見合わせて、思わず吹き出してしまう。

 深夜独特のノリで、俺たちは腹を抱えて爆笑した。

 こうして、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 高校生になって初めての。

 一生忘れられない。

 夏が始まった。

 

 

 

 

 

 


 
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