No.396061 傷つけられた武士娘2012-03-22 01:19:10 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1368 閲覧ユーザー数:1332 |
―クラス
緊張が走る
祐樹が椎名―――京へと声を掛けた瞬間に教室の時が一瞬、止まった後
「うわ!こいつ、椎名菌としゃべってるぞ!!」
京と祐樹の会話に割り込むように叫んだのは隣に座る名も知らぬ少年
「うわ~~………こいつもいんばいがうつったぞ~~!!」
さらに煽るように向かいに座る少年も同調して叫ぶ
―――はぁ?
いきなり、わけのわからないことを叫ばれ祐樹は怪訝な表情を浮べて京へと視線をやると
「うう………」
弾かれたように上げた顔を再び伏せて……京は小さく唸りながら、縮こまっていく
その様子にさらに、調子に乗った少年たちは増長していき
「こいつのははおや、インバイってやつだ!」
「せいびょーでしんじゃうらいしいな!!」
「つまり~~……椎名菌だ!こいつもしいなとしゃべったから椎名菌がうつった~~~!!」
次々と心ない言葉を京へと浴びせる少年たち
周りの少女たちは関わらないように視線を避けるか……クスクスと笑っている
「……うっ……ぐす…」
見ていられない。………見たくなんか無い光景
目の奥が焼け付くようにヒリヒリする感覚に見舞われる。何かが、己の頭中でさざめく様な感覚が押し寄せるも…"蘇る事"は無い
だが―――
―――何処に行っても……あるんだな…!
ギリッと小さな歯軋りが聞こえる。形相は怒りに歪む。思い出すこと叶わなくても―――"肉体"が記憶している
「あうぅぅぅ…………あの――」
祐樹が発すモノに気づいた京が……流れた涙を拭いながら祐樹へと問いかける
優しい娘だ。己が傷つけられていながら、今初めて―――会話した祐樹を心配げに涙に濡れた瞳で見つめるのだから
京自身が思ってることとは違うかもしれない。もしかしたら……声を掛けてくれた祐樹が離れていかないように
縋る気持ちで問いかけただけかもしれない―――――だが、それでも祐樹へと心配げな瞳を向けることに変わりは無い
「あーー!かいわした!おまえ椎名菌がうつるぞー!」
さらに…子供としてはガタイのいい体格、文字通り頭一つ分。クラスの子供たちより背の高い少年が祐樹へと声を掛け
「う……」
その大きな叫び声と図体に京が怯えて、小さな呻きを洩らして……体を縮こまらせて、机へと顔を伏せてしまう
「あぶなかったな。おれさまにかんしゃしろよ」
京の様子に勝気になり、馴れ馴れしく祐樹へと声を掛ける少年
「…………」
無言の祐樹
「しっかし…ガリガリだな。あいつ」
そう言って少年は、縮こまる京へと一瞥して
「おまえになにかいいたそうだぜ?いろおとこぉ~」
ニヤニヤとした笑みを浮べてさらに祐樹へと声を掛ける
「黙れ。喋るな」
声を張り上げて言った訳ではない
ドスを効かせた訳でもない
ただ……淡々と少年へとそう答える。まるで、道端にある路傍の石に向けるような冷たい視線を向けながら
「なっ?!てめぇ~~~!!」
祐樹の物言いにガタイのいい少年はメンチを切るかのように祐樹を睨みつけ
「が、がくと!」
その隣に居た…気の弱そうな少年、師岡卓也が―――がくと…島津岳人を止めようとする
一触即発の空気。誰もが、子供ですら…解る程に空気が痛い
しかし、子供に空気を読めということが土台無理なこと…特に男の子には
「おい!おまえ、なまいきだぞ!」
「やっちまえ!しまづ!!」
周りに居る少年達が煽る。自分に向けられた訳ではない言葉。
しかし、子供にとって気に食わないことは――――暴力で解決しようとする傾向が強い
少年達も……例外ではなくガクトを先頭に祐樹へと拳を振り上げた時
「おれ!ゆうきのピンチにさんじょう!!」
「うげ!」
ガクトの背へと飛び蹴りを放ち、転倒させ……普通の子供ではできないような
蹴った勢いを使って宙返りをしながら祐樹を背にして正面に立つキャップ
天に愛された少年だからなのか―――――"一言"で言いきってしまうとキャップだからありだろう
その姿、まさしくヒーローと言える
「ずるいぞ!ゆうき、おれもまぜろ!!」
ニカッと八重歯を光らせながら笑顔を浮べるキャップは祐樹へとそう告げて
「りゆうはいらん!おれは、ゆうきのがわにつくぜ!!」
まぁ………祐樹、いや――ファミリー限定のヒーローだが
それでも、ヒーローには違いない
「てんめぇ!かざまぁ!」
蹴り倒されたガクトが起き上がりながら吠えるたが―――
「こら!お前達、何をやってるか!!」
濃い紅の髪をバレッタで止め、魅惑の首筋を晒し……少しキツメに見える鋭利な瞳をより一層と鋭くさせて
小島梅子。最短での教員試験を突破し、この春より祐樹達のクラスの副担任を任された女性と
四十台のほんわかした女性が教室へと入ってくる
「席に着きなさい!!」
本編では高校時代の大和達の2-Fの担任を務め、鞭による教育の愛―本当に愛のなのか?―を響かせる。三十路を控える独身女性だが
この物語では、新進気鋭の新任教師。今回の副担任も経験を積ませる為に、ベテランが補佐となるよう組まれた配置
話が逸れたが……教師の登場に鼻息荒くし、怒りをほとばらせていたガクト達はスゴスゴと退散するも
「ほうかご……おぼえてやがれ!!」
始業式ゆえに、本日は半ドン。お昼前に学校は終わる為
ガクトは脅すように祐樹へと吐き捨てて席へと戻る。他の子供たちも同様だ
―――はぁ……いろんな意味で泣ける…
波乱の騒動も祐樹に取っては只、溜息が洩れるだけ
しかし――――それを見ていた京にとっては
「だ…だいじょぶ?」
本編の様子からは考えられないような、小動物チックな上目遣いに祐樹は
―――かわいいな~…
一瞬、眼を奪われる。心を満たす暖かな気持ちを胸に―――その瞳に浮ぶ不安とまだ少し濡れる瞳をしっかりと認識し
「大丈夫だよ。なんとでもなるさ」
梅子にどやされない様に、小さく京へと囁いて
京の前たる自身の席へと着く
"雨降って、地固まる"
友好的から始まる友情だけではない
喧嘩から始まる友情とてあるということだ
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泡沫の夢