No.396060

“仁”の武士娘

るーさん

泡沫の夢

イメージはVer,Ka。カトキハジメ氏リファインの"蜃気楼"
魂ウェブで取り扱っているいますのでぜひ。

2012-03-22 01:13:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1179   閲覧ユーザー数:1153

佇むは―――Type 0/0A Ver.《DIS》"蜃気楼"

 

所々に"神聖帝国"のエンブレムを施された姿。

 

"悪逆皇帝"になるしなかった"反逆者"が最後に搭乗した機体。

 

"偽りの弟"が命を賭し脱出した時に駆った機体を―――辿り着いた"神聖帝国"で改修された機体。

 

基本性能のその物は"騎士団"の頃と変わらず、ただその機体を守護する役目を与えられた。

 

"白い死神"の異名を持ちつつも"裏切りの騎士"の開発コードネームを与えられた機体に寄り添いて。

 

気高い姿を演出させる為に、施された数々の刺繍とでも云うべき装飾類。

 

ソレに………"悪魔王の名を冠された銃神"と一体となった姿が―――

 

 

 

「一種の芸術品で御座いますね。奥様」

 

京都の本家。山々の麓にして京都の奥深くに居を構える"鹿島"家。

 

連なる霊山達の守護と恩恵を受け、その裾沿いに作られた地下施設。

 

「ふん。造形だけならね」

 

老人。灰がかった髪をオールバックに流す180を越す身長を持つ男の言葉に。

 

気に食わないと、鼻で一蹴して悪態を付くは"鹿島"家の長。

 

「ふふ。奥様にとってはお気に召しませぬか」

 

腰へと両手を回し、前を行く老婆の背後を一定の位置で緩やかに歩む。片手で大型のトランクを押しながら。頬も歩きと同じで。

 

そんな男の言葉に取り合うことなく、老婆は急造されたハンガーに掛かる"蜃気楼"。

 

それに群がる繋ぎを来た男女達が放つ熱気と怒鳴り声が織り成す喧騒を冷めた眼差し見下ろす。

 

「解析結果の方が上がってきております。システムの中枢区はお手上げでございましたが」

 

「誰もコクピットに入り込んでないだろうね?」

 

「それはもちろん。入り込んだ者とて意識を取り戻しております。時に研究者と言う者は愚かしい行いを行うというは世の常ですが」

 

「そうかい。ありゃ、私(あたし)達の手に負える代物じゃないってことだけ徹底してりゃ、私(あたし)は何にも口出しする気は無いがね」

 

言い切ってしまった老婆の面持ちに肩を竦めて、懐へと手を伸ばしクリップボードに留められた数々の報告書を取り出して読み上げ始める。

 

「主機(エンジン)部の内、二機の方は同一物質。……私(わたくし)には信じ難いものですが、米粒大にして既存の原発など及びもしない出力を保持しているとのことです」

 

捲りっていく資料の数々が眉唾物と斬って捨てたくなるほどの出鱈目な数値。共に紹介されている文章を表情を変えることなく淡々と言葉に為していく。

 

「残り一機に関しては、我々の技術レベル。中枢に位置する故に問答無用に侵入した人物が昏睡状態に追いやられる結果。解析不能」

 

「各部を構成するモジュール一つとっても数世紀レベル先を行く技術の塊が採用されている模様とのことであり」

 

「各種兵装と装備を積んでいる事のことです。これより各補足を」

 

男が紡ぐ言葉に揺らぐ事など無い。歩幅が変わる事も歩みの歩調が変わる事も無い。

 

「胸部の出っ張り部分にあたる場所におきましてはエネルギー圧縮における仮想砲身を形成するユニットと砲門を確認」

 

「背部の半独立した物は飛行ユニットと断定。面白いものですよ、奥様。完全なる重力制御を行えないとまったく役に立つ代物ではないとのこと」

 

「更に、強粒子(ハドロン)を放つ二門の砲口が両腕部に、そして……超高性能演算処理システムを引用しての守護領域展開」

 

「まさしく、子供の絵空事を具現化したような代物でございます」

 

恭しく言い切る。腰を折り優雅に一礼をする男に対して。

 

「それで、フウ。ソレを知ってどうしようってんだい?」

 

冷めた声音のままに、振り返ることすらせずに老婆は問う。

 

「いえ。私(わたくし)はどうも致しませぬ。我が意志は貴女様の意志のみで御座います」

 

「なら、分っているんだろう」

 

「はい、分っております」

 

男が指を鳴らす。階下にて"蜃気楼"に群がっていた者達が名残惜しそうに離れていく。

 

トランクを流す。己が主と定めし女性へと。

 

 

「"Cercueil de la glace"」

 

 

飛び出すは鮮やかな姿。銀糸の長髪。憂いげな瞳。背筋に一筋の冷たきモノを感じさせる……命なき容貌。

 

簡単に手折れると断ぜるほどに細長い四肢。蝋のような白さを持つ肌を持つ人形。人と見間違うほどの人形。

 

 

 

操るは――――人形と同じ姿を持つ女性

 

 

迸る冷気の群れ。集いて形を成す。棺桶という名の牢獄を。

 

 

 

 

「分っております。我が主……Eleonore"K"Pourpre」

 

 

 

 

 

 

 

月日が流れるのは子供特有のことだろうか?

 

気がつけばあれよあれよと時は過ぎ行き。

 

 

 

「お~い!ゆうき!がっこういこうぜ~~!!」

 

「ゆうき~~がっこいこう~~!!」

 

玄関にて身支度をしていた祐樹の耳に届くは翔一と一子の声に。

 

「キャップ!ワン子!今行く!」

 

二人のあだ名で返答しながら荷物を持って玄関を開けると。

 

「さぁ!きゃっぷさまとおなかまのしゅつじんだ~!」

 

威勢のいい、キャップの掛け声。

 

この頃より、翔一は頭に赤いバンダナを巻いて自身のことをキャップと呼ぶように強制しており。

 

「はやく~ゆうき~~」

 

キャップの隣に立つ一子。

 

泣き虫で、その表情やら仕草からキャップに子犬っぽいと指摘されあだ名としてつけられたのが―――ワン子。

 

土手での一幕の後、一子・翔一(これ以降キャップと明記)・祐樹の三人は仲良く遊び。

 

帰り道にて一子が近くの老婆の家の養女とわかり、それ以降は常に三人一緒に行動するように。

 

普段の様子は―――

 

「こら。ワン子。寝癖が付いたまま、ちょっと待って」

 

サイドテールの横から飛び出したちょっとした寝癖を一子の頭を、優しく固定して手グシで整えてやる祐樹。

 

「うん。ゆうき~」

 

成すがままに気持ちよさそうに受け入れる一子。

 

小さな犬耳をちょこんと飛び出させながら、ほにゃ~と顔の表情を崩す。

 

「おい!おまえら、おれをのけものにするなよ~~」

 

そんな一子と祐樹の微笑ましいやり取りにキャップが唇尖らせて突っ込む。

 

先ほどまで、かなり先を行っていたにもかかわらずにだ……正しく"風の子"というわけだ。

 

「悪い悪い、キャップ。じゃあ、行こう」

 

「こら!ゆうき!しゅつじんのあいずは、おれがとるんだぞ!!」

 

「うん!!」

 

祐樹が朗らかにキャップへと笑いかけ促すとキャップは憤慨したかのように言い募り、一子は満面の笑みで頷く。

 

「じゃあ、キャップ。我等のリーダー。出陣の合図を」

 

その、なんともキャップらしい物言いに祐樹は苦笑を浮べて告げると。

 

「お~~し!いくぞ!」

 

「お~~!」

 

元気よく声を上げて拳を振りかざし、釣られて一子も小さな拳を上げて高らかに声を上げる。

 

こうして、三人はワイワイガヤガヤと楽しく雑談をしながら一路―――学校へと向かうであった。

 

 

 

―小学校 

 

 

「ことしは…ふたりといっしょのきょうしつになれるかな?」

 

不安げな表情を浮べて一子はクラス分け表が乗る中庭に出された黒板を見上げる。

 

「そうだな~~。ことしからはワン子もいっしょがいいよな!」

 

キャップも一緒になって黒板を見上げ。

 

「そうだね。ワン子もキャップも一緒だったらいいな」

 

一年生の時は、運悪く一子のみクラスが違ってしまい……クラス分け発表後の一週間はかなり愚図っていた時を思い出す祐樹。

 

内心、ドキドキしながら黒板を見上げる一子―――

 

「おっ!あったあった!おれのなまえ!!え~と……よっしゃぁ!ゆうきもワン子もいっしょだぜ!」

 

いち早く己の名前を見つけたキャップが、己のクラスの中に二人の名がないかと探すと幸運にも二人の名もあり。

 

「やった~!!」

 

一子ははしゃいで小さくピョンピョンとジャンプを繰り返し。

 

「よかった……今年も引き続きよろしくな、キャップ。ワン子はこれからよろしく」

 

長い前髪に隠された両の眼を細めて柔和な笑顔で二人へと声を掛ける祐樹。

 

「おう!!」「うん!よろしくね~ゆうき!!」

 

両者共に元気よく答えて……三人は振り分けられたクラスへと向かい。

 

―――適当に皆座ってそうだな

 

三人が入った教室は、何人かグループ立って窓際や教室の隅っこでおしゃべりしたり。

 

何人かが固まって椅子座っている。それ以外の者は疎らに散っており、皆大人しく席についている状況から……席順を予想する。

 

「お!そうだな!!とりあえず、かばんがじゃまだからせきにおいてくる!」

 

そう言ってキャップは自分の席を適当に見繕い。

 

「あ!ことはちゃんがいる!ゆうき!わたし、ゆうきとキャップのとなりがいい!」

 

「ああ。此方で適当にしておくから行っておいで」

 

隣で祐樹に引っ付いていた一子は……一年生の頃の同じクラスの友達を見つけて、ブンブカと腕を振ってそちらへと足を向ける。

 

祐樹へと鞄を預けて。

 

「二人とも動いたし、取り合えず固まっておくか」

 

そう言って祐樹はキャップを中心に一子と己自身の席を取り。

 

自分が座るべき席の後ろに座る――――――痩せこけた体に陰鬱な空気を背負う少女がうつむき加減に席へと申し訳ないようにチョコンと座っていた。

 

「…………」

 

物悲しげに机と見合いをしている少女へと祐樹は。

 

「え~と。初めまして、俺は直江、直江祐樹。君は?」

 

屈託の無い笑顔で祐樹は伏せてしまっている……青みが掛かった紫の髪を持つ少女は。

 

「!!!!!!!!」

 

ものすごくビックリした表情を祐樹へと晒す。背筋を立て、胸元で少女動きに応じて揺れる名札を見やり。

 

「えっと……椎名京さんだね。よろしく」

 

そう言って祐樹が声を掛けた時。

 

 

 

クラスの中に緊張が走る。

 

 

 

 

 


 
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