最初、私は怖かった。
亜子と一緒にお喋りをしながら買い物に行って、お昼ご飯を食べて午後からも楽しもうとしていたのに……いつの間にか私たちはチャラチャラした男たちに囲まれていた。
亜子は男たちに怯えていて声を出せなかったし、周りの人たちは自分に被害が出ないように見て見ぬふりをしている。私だって怖いけど、嫌なことは嫌だと言わなければならない。
「ふざけんじゃねえぞこのアマ!!」
甘かった。簡単に引き下がってくれると思っていたのに、逆に男たちを怒らせてしまった。
『助けて下さい』
たった一言。たった一言言うだけでいいのに、それさえも言えない自分が嫌で憎かった。
誰か、誰か助けて!!
「ちょっとちょっと、何も怒ることはないでしょう」
そんな状況で声を掛けてきたのは黒いスーツを身に付けた背の高い一人の男性だった。
「はあ?なんなんだテメェ?」
私に言い寄ってきた男が男性との距離をつめる。私は男性に目で来ないでと訴えたが、男性は気づいてくれなかった。
「"なんだ"と言われてたら、広域指導だから注意しただけですね。それにあなた達のレディを誘う方法はあまりスマートではありませんね。レディを誘うときはもっと相手のことを思い丁寧に誘いなさい」
自らを広域指導員と名乗った男性は、男を小馬鹿にした風でもなく逆に男を心配しているような口調だった。
「ふ、いきなり出てきてフザケンじゃねえ!!広域指導だって?デスメガネじゃねえんだし、調子コイてんじゃねえぞ!!」
しかし、男には小馬鹿にしているようにしか聞こえなかったのだろう。いきなり彼に殴りかかっていった。
私はとっさに目を瞑ろうとした……けれど、目を瞑ることが出来なかった。
私は暴力が嫌いだ。他人も、自分も傷付けてしまうから。
なのに……、
私は、男性が放った背負い投げを美しいと感じてしまった。
柔道なんて、テレビでやっている試合で数えるほどしか見たことがない。だからルールとか技なんかは私にはわからない。
だけどアレがすごくカッコよくて、美しいと感じてしまった。
「貴方達には二つ選択肢があります……、」
なにやら男性は絡んできた男達になにやら話をしている。私はさっきのこともあったせいか、まだ足がくすんでいて動けない。
「……ちっ、行くぞ」
話がついたのだろう、倒れた男を引きずって男達は逃げていった。安心したからだろうか、それと同時にふらつきそうになる。
「だ、大丈夫ですか!?」
助けてくれた男性がふらついた私の体を優しく受け止めてくれた。彼の体は見た目と違ってがっちりしていて、なんてゆうか……居心地がいいっていうか……って!?
「〜〜〜っっっ!!!?」
何を考えているんだ私!? は、恥ずかしくて死にたい!! 今考えたこと全て忘れて死んでしまいたい!!
「た、助けてくれてあああ、ありがとうございます。では失礼します!!」
私は助けてくれた男性に礼を言って、素早く亜子を連れて寮の方へダッシュで逃げた。こんな状況で買い物なんて出来ないし、またあの人とあったらどうしたらいいか全然分からない。
後ろであの男性がなにか言っていた気がしたがダッシュで逃げた私にはなにも聞こえなかった。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
第七話