コンコンッ
「学園長殿、失礼します」
私はそう言って学園長室に入ると、学園長がお茶を飲んでいた。
「む、新人の教師かの?職員室はここより少し奥にあるのじゃが…」
「学園長、貴方も皆と同じ反応をするのですか…」
がっくりと頭を下げた私――正確には服装――を見て、学園長は私であると理解された。
「おぉハサン先生、ちゃんと仮面は外したようじゃのう。そのせいで分からなかったわい」
「えぇ、そのせいで危うくあの世へ旅立ってしまうところでした」
学園長は頭に?マークを浮かべていたが、深く聞いてはこなかった。
「それより学園長、私になにか用があるのでは?」
「おぉ、そういえばそうじゃったな。今日ハサン先生には仕事をしてもらいたいのじゃよ。」
「仕事……ですか?」
「なあに、簡単なことじゃよ。魔帆良の敷地内を散歩して、トラブルがあったら対処する。簡単なことじゃよ」
そう言って学園長は引き出しから携帯電話を取り出し、一通りの操作をしたあと、私に渡してきた。
「この中にはこの学園の教員の電話番号と魔帆良のマップを入れておる。今日1日敷地内(職場)を覚えてもらいたいのじゃ」
「ご配慮感謝します。そのほかに用件はあるでしょうか」
「では、うちの孫娘のお見合い相手を「なにもないのですね。それでは失礼しました」ちょっとハサン先生!?」
私はそのまま学園長室を退室した。ドアを閉める際、学園長がなにか叫んでいたが、気にしないことにしよう。
*
「外に出たのはいいものの、いったいどうすればよいのですかねえ」
歩き出してから3時間、私はその事ばかり考えていた。外側から見ていこうと思い、向かったのはよかったがあまりにも広すぎるのである。そのおかげで市街地に来る頃には額に汗を流していた。途中可愛らしいログハウスや、戦闘可能の広さがある広場などがあることが分かった。
私は近くのオープンカフェで適当に昼食を注文して、ゆっくり座っている。このカフェも学生が運営しているというのだから、前の世界から来た私には何もかも新鮮であった。
「前の世界もこれくらい平和であればよかったのに……」
この世界のように、自分のためばかりではなく他人にも魔術を使い、助ける人々が多ければ、ここのように変われていたかもしれないのに。
「ふざけんじゃねぇぞこのアマ!!」
突如響いた声の方向を向くと、刹那殿と同じくらいの年頃の女の子二人と、大学生らしい男三人がなにやら言い争っていた。響いた声で驚いたのだろう、道路で戯れていた小鳥達が一斉に何処かへ飛び立ってしまった。
「な、私たちは行かないって言っているのに……」
髪をポニーテールにした女の子がそう言うが、声が震えていて明らかに怖がっている。
男からナンパしたが女の子に拒否されたため逆ギレ、そんなところだろう。
「ちょっとちょっと、なにも怒ることはないでしょう」
「はぁ?なんなんだテメェ?」
私は男の方へ近づいていき、なだめるように言う。女の子達は私を見て逃げてと訴えていたが、とりあえず見なかったことにした。
「"なんだ"と言われてたら、広域指導だから注意しただけですね。それにあなた達のレディを誘う方法はあまりスマートではありませんね。レディを誘うときはもっと相手のことを思い丁寧に誘いなさい」
「ふ、いきなり出てきてフザケンじゃねえ!!広域指導だって?デスメガネじゃねえんだし、調子コイてんじゃねえぞ!!」
男の一人が激情して私に向かって殴りかかってくる。しかし私は右に避け、出してきた右手と襟元を素早く掴みそのまま地面に叩きつけた。投げられた男は受け身をとっていなかったのだろう、軽く過呼吸を起こしていた。軽く投げたつもりだが、下は石造りの歩道なので受け身をとっていても十分痛いはずである。
私は残りの二人の方を向き、人差し指と中指を立て二人に見せつけるようにする。来なかった二人は呆然としているが私は気にせず、少し困った風に提案してみた。
「あなた達には2つの選択肢があります。1つはこのまま退散する、もう1つはその男のようになる。私はこれ以上トラブルを起こしたくないので、前者を選んでくれると嬉しいのですが……」
無論、この言い方では提案というより脅迫の意味合いが強くなるかもしれない。いつもなら、言葉で説得してから実力行使であるのだが、相手が冷静でない以上、女の子たちに被害が及ぶかもしれない。それに、彼らには少し頭を冷やしてもらう方がかえって都合がいい。圧倒的力の差を見せつければ熱くなった思考は冷やされますからね。
さて、彼らはどちらを選ぶんでしょうか?
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第六話