No.390357

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 二十話

TAPEtさん

久しぶりの人類(ry
一刀の思惑は何処へ?

2012-03-11 22:37:36 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5171   閲覧ユーザー数:4037

愛紗SIDE

 

「ふむ、流石に相手もそう簡単に挑発には乗ってこないか」

 

星と共に汜水関の前で敵将を挑発し始めて子一刻が経った。

最初は直ぐにでも出てきそうな動きをしていたのだが、隣にいた将が落ち着かせて、それからは反応がない。

 

「何か更なる手を探した方がいいかもしれないな」

「そうだな。しかし、どうしたものか。我々は華雄という者の成りを知らぬからな。元々こういう時罵倒というものは、相手の将やその主を傷つけるような言葉で相手を挑発するのが基本だが、我らは華雄に関しても、董卓に関しても解っているものが少ない」

「確かに、董卓が都で悪政をしているということ以外に、我々は敵に関して何も知らない」

「最も、それ自体も本当なのかどうか分からないのだがな」

「………」

「愛紗、お主は怖くないのか?」

 

私は星の質問に少し驚いた。

 

「星、それは私を愚弄するつもりで言ったのか?」

「まさか、お主が戦場にて怯むことなんてあるはずがない。私が聞いたのは今この戦場に立っているのが怖いのかって聞いたわけではない」

「なら何だ」

「もし、董卓という者が本当は悪人でもなく、暴政を行なってもなく、ただ袁紹の妬みの犠牲になっているだけだとすれば、お主はそれでもその刃を董卓に向けられるかって話だ」

「…!」

 

 

「手こずっているようね」

 

私が星の質問の答えに迷っていたら、後ろから忌々しき声が聞こえてきた。

 

「それは孫策殿。相手もそう簡単に挑発に乗ってくれそうにはありませんのでな」

「あいつとしては大したものね」

「孫策殿は華雄に付いて知っているのか?」

 

彼女は孫策伯符、袁紹の従姉妹の袁術の客将として、かの江東の虎と呼ばれた孫堅の娘だ。

でもそういう話とは関係なく、我軍にのこのこと入ってきて、桃香さまと話し合い同盟の話など持ち込んできた。

桃香さまは何の迷いもなくそれを受けたが、私からしては我らの功を横取りする算段にしか見えない。

しかも彼女の態度、たかが一軍の客将というのにあの態度はまるでどこかの王ぐらいにはなりそうだ。

まるで我が軍に居るアイツのようだ。

 

「まあね、あいつ、うちの母に一度負けて逃げたことがあるのよね。そこを突けば流石に出てくると思うわ」

「なるほど…一度恥をかかされた相手の娘。流石にそんな者の罵倒を浴びたら、どんな武士でも黙っては居られないか」

「そういうこと。じゃあ、私はちょっと近づいて挑発してくるわね。向こうで動きを見せたら直ぐに作戦通りに行くわよ」

「うむ、ぐれぐれも気をつけて」

「ええ」

 

孫策は星の挨拶を受けて去った。

 

「気に食わぬ奴だ」

「まぁ、君主としてあれほどの威厳がない方が変なものだ。その点においては我軍の桃香さまはすっかり変人なのだがな」

「桃香さまをアイツと一緒にするな!」

「いや…別に北郷殿と一緒にしたつもりはないが……というより、愛紗は北郷が変人だと思ってるのか?」

「当たり前だ。アイツのどこを見たら普通の人間と言えるんだ。行動や言葉、考え方も何一つ非常識的で怪しげなものばかりだ。あんな奴、桃香さまの頼みでなければ軍におくこと自体おかしなことだ」

「はぁ……愛紗、お主はそのような考え、桃香さまに仕えるものとして恥ずかしいとは思わぬのか?」

「何?」

 

星の言葉に私は呆気取られた。

私の考えがどうというのだ。

 

「桃香さまが君主としての資格を持つのは、他の軍の君主たちのように名門の出だからとか、力があるか、それとも稀代の智謀を持った天才というわけでもない。我らが桃香さまを慕うのは、桃香さまの志、つまりは夢に惹かれたからだ」

「当然だ。だがそれが何故私が桃香さまに仕えるに足りない理由となるというのだ」

「桃香さまの志の高みというのは、つまりどんな者でも受け入れられる包容力から来るものだ。それが例えどのような過去を持って、どのような生を生きてきたとしても、自分の志を聞いて、それに同調してくれるとすれば、あの方は誰だって受け入れることが出来る。その証拠として、お主たちは北郷殿よりも、この軍に正式に入って日の浅い私の方により親しく接する。いや、愛紗お前の場合は北郷に嫌悪感さえも持っているだろう。桃香さまの思惑とは正反対に」

「………!」

「そして、お前のそのような考え方があるから、北郷も今以上この軍に溶け合おうとしない。なぜならこの軍で最も長く桃香さまに仕えた、最もその志を長く支えてきた者が、自分を排斥しているのだからな。北郷がこの軍になつかない最も大きな理由は、愛紗、お前にある」

 

私が、アイツがこの軍の一員になることを邪魔している?

 

 

「愛紗ちゃーん!!」

 

「「!!」」

 

桃香さま、何故こんな所に……!

 

 

 

桃香SIDE

 

朱里ちゃんに愛紗ちゃんたちの所に行くって行ったら絶対駄目って言われたけど、なんとか説得して鈴々ちゃんと一緒にここまで来ました。

 

「桃香さま!ここは危険です!直ぐに戻ってください!」

「あのね、愛紗ちゃん、私もっと近付かなきゃいけないんだけど」

「はい!?」

 

流石に驚く愛紗ちゃんと星ちゃんに私は一刀さんからもらってきた変な形の弓を見せながら言いました。

 

「あのね、一刀さんがこれを持って行って城壁の将に向かって撃つと言いことがあるって…」

「何馬鹿なこと言ってるのですか!そんなことさせるわけないではありませんか。そもそもあの野郎は一体何を考えてるんだ。桃香さまを戦場のど真ん中に立たせるなど無事に戻ったらただでは済まさんぞ!」

 

愛紗はすっごく怒った顔で

 

「鈴々!」

「にゃにゃっ!」

「今直ぐ桃香さまを連れて陣に戻れ。今直ぐにだ」

「愛紗ちゃん!」

「いいえ、今回ばかりは駄目です。危険すぎます!」

 

駄目、ここまで来たのに引き返したら一刀さんを見る面目がないよ。

 

「愛紗ちゃん、私は本気なの」

「……!」

「私はこの戦いで見つけたいものがあるの。だから、愛紗ちゃんがどれだけ無茶だと思っても、私は自分でやるべきことをやるよ。じゃないと、臆病な私を支えてくれた皆に面目立たないから」

「桃香さま…」

「だから、愛紗ちゃん…………許して」

「…へ?」

 

ごめん、愛紗ちゃん!

 

「鈴々ちゃん、星ちゃん、愛紗ちゃんを押さえて!」

「にゃっ!」

「むむ、後が怖いのだが……悪く思うな、愛紗。我が主のご命令なのでな」

「なっ!お前ら何のつもりだ!星その縄をどこから持ってきた!桃香さまー!!」

「ごめん、愛紗ちゃん!」

 

私は三人を後にして城壁に向かいました。

 

 

 

 

張遼SIDE

 

「うへー、下の連中、好き勝手やってくれてんなー」

 

劉備軍の連中に続いて今度は孫策か。

部隊を関門すぐ前にまで動かして堂々と罵倒している。

 

「華雄、大丈夫か?」

「むむーっ!うーっ!!」

 

あー、すまん、悪かった。そういえば劉備軍が前に出てきて『罵倒を始める前』に勝手に出ていこうとしたから縛っといたんだった。

立ったまま縛っといたけど、向こうでは縛られてるって気付かずにずっと罵倒してたっちゅうわけや。

 

「いやー、ウチも最初はここまでするのは悪いと思ってたんやけどな。だって華雄っちが馬鹿やると全力で止めろって賈詡っちに言われとったんでな…」

「うーん!!むうっ!!」

「せやなー。賈詡っちも酷いよな。幾ら何でも武人として、ここまで罵倒を浴びたら出ていかなくて武人としての誇りが傷つくというものなのに、こんな縛っとくなんてそれでもお前は人間かー!って言いたくなるよなー」

「うふぅむーーーっ!!!」(解釈:縛ったのはお前だろうが!!!)

 

あ、孫策が帰っていくでー。これで少しは静かになるだろうか。

華雄の目から血の涙のようなものが出てきてるけど、これでなんとか関は守れそうやな。

 

と、その時うちの予想外のことが起きたんや。

 

「うがーっ!」

「華雄!」

 

矢が飛んできて華雄の額にあたった。

うっそやろ!?ここまで矢が届くはずがない!しかも正確に華雄を狙ったやって!?

 

「華雄!」

 

って、良く見たらなんやこれ。矢に先があらへんぞ?

 

「ご、ごめんなさーい!!」

「うん?」

 

そんな声が聞こえて下をみてみると、なんか変な形の器具を持った、まったくこんな戦場とは似合いそうにもない奴が下からごめんなさいって叫んどった。

 

「あの、ごめんなさい!当てようとしたつもりじゃなくてですね!なんか私が知ってる矢の軌道と違って!」

「桃香さまー!!」

 

とかしてたら、後ろから関羽が……え?関羽?

あれが、関羽?

 

「とおおオぉうううウウかさまぁああああアアーーーー!!!!」

「きゃーー、愛紗ちゃん!来ないで!ごめんなさい!怖いーーー!!」

「なんか、すっごく怖いんやけど、あの関羽ちゃん」

 

凄い勢いで、矢を打った女の子に逃げる隙も与えず突進して来た関羽(らしき他の何か)がその子を連れて後ろに下がっていった。

……こんな遠くに立ってるのにゾクゾクするほどの殺気を出してきて、よう分からんがあの子は死んだな……冥福を祈ってやろう。

 

「キサマラー……貴様らーー!!!」

「うん?うわっ!」

 

ってここにもう一匹変な方向に覚醒した奴が居やがった!

 

「この……この私を散々馬鹿にしやがってー!!」

「あー…もう無理やな」

 

ブチッブチッと縄が破ける音がして、やがて自由になった華雄は頭に吸盤でくっついた矢を真っ二つに切り捨て、血の涙を流しながら自分の武器を手に取った。

 

「華雄隊!今から関を出て我らを馬鹿にした連中ら全て蹴散らす!邪魔する者は容赦するな!」

 

と言いつつ、華雄がウチを見たので

 

「どうぞどうぞ」

 

とだけ言ってやった。

流石にここで止めたりしたらウチと喧嘩し始めそうやしな……。

さっき関羽ちゃんが連れていったあの子の矢先ない矢がトドメを刺したな。

 

「関口を開け!これより孫策に向かって突撃だー!」

「うん?なんやこれ」

 

華雄の覚醒とは関係なく、ウチはなんか華雄が折った矢の胴体に紙が巻かれているのを見つけた。

 

「……うん?………は?」

 

なんやこれ。

どういうことや?

 

「全軍、とつげきーー!!」

「うん?ああ、華雄、待ちぃ!これってー!」

 

……ああ、もう無理やな。あの猪はもう助からへん。

 

「張遼隊!関は放棄や。撤退の準備をしぃ!撤退の準備する連中以外はウチと一緒に華雄隊を助けるで!」

 

 

 

 

朱里SIDE

 

 

「これは幾ら何でもやりすぎです!!」

 

桃香さまが半分無理やりに戦場に向かった後、私は北郷さんの天幕にへ行きました。

 

「なんで桃香さまにあんなことを言ったんですか。もし桃香さまの身に何があったら」

「玄徳の身に何かある可能性はない。今あそこには劉備軍が誇る三人の将が皆集まっている。そこで玄徳が危険であるのなら、彼女はこの世のどこに居ても死に身を投じている様なものだ」

「でも、桃香さまは我軍の君主です。北郷さんがあんなことをさせていい方じゃありません」

「言っとくが俺は彼女に強要してない。彼女自身が決めたことだ」

「桃香さまは北郷さんが言う事なら何でも信じるじゃないですか」

「……本当にそう思うか?」

 

話をしてる間でも無関心そうに虚空を見て座っていた北郷さんがこっちを向きました。

 

「な、なんですか」

「玄徳が俺がいう事ならなんでも信じると、そう思ってるのか」

「実際、そうじゃないですか」

「…それはつまり、俺がこの軍に邪魔になると言っているわけだな」

「何故そのような意味で取るのですか?」

「当たり前だ。俺と言う存在がこの軍の均衡を崩していると思っているからそういう考えが口に出るのだ」

「っ」

「だから、俺が居なくなるべきだと思うのは至極当然」

 

この人はなんでこんなに平気なのでしょうか。

 

何事にも冷静に、合理的な判断の末に出したその答えは、例えそれがとてつもなく非人道的で、あんまりな仕打ちだとしても、それで間違っていません。

そこがまた悔しいのです。

 

「正直に、私は北郷さんが桃香さまの理想を邪魔していると思っています」

「……」

「正確に言えば、『私たち』の理想です」

「…そうか」

 

雛里ちゃんが朝議で言った言葉、確かにそうかもしれません。

北郷さんという存在を、私たちは未だに私たちと同じ枠で考えて居ないのです。

未だに北郷さんは、どこか他所の人間として扱われて居るんです。

 

曹操軍ではどうだったか知りませんけど、北郷さんのような考え方は、桃香さまや私たちが考える理想とは相当遠いものに感じます。

だから雛里ちゃんが言ったとおり、幾ら時間が経ったとしても、まだ北郷さんが曹操軍や他の軍に言ってしまうかもしれないという考えを捨てきれないのです。

 

「…まぁ、そう慌てるな、孔明。玄徳は無事に戻って来るだろう。その後は色々五月蝿いだろうが、お前とは関係ない」

「関係ないとはなんですか。私は…」

「お前は玄徳の軍師だ。政治家で、劉備軍の誰よりも玄徳の理想を理解していなければいけない者だ」

「……」

「そんな者の意見だ。反論する余地はない」

「…!」

 

北郷さんはそれから黙りこんで、私はその時気づいてしまいました。

この瞬間、北郷さんはこの軍を出ようと心に決めたのだってことを…。

 

 

 

 

鈴々SIDE

 

わーい!出番なのだー!

 

…あれ?鈴々は何を言っているのだ?

 

ま、いいや。

 

お姉ちゃんを連れ戻しに行った愛紗が帰ってくるまで、鈴々は星と一緒に待機してたのだ。

 

「まったく、桃香さまにも困ったものだ。自分の身もろくに守れないお方が、敵の関のあんな近くまで入られて、撃って殺してくれと言ってるのと同じだぞ」

「大丈夫なのだ。今日のお姉ちゃんは、なんか気合が入ってたからきっと矢だって空気読んで外れるのだ」

「うん?どういうことだ?」

 

そういえば、星は何故お姉ちゃんがここまで来たのか知らなかったのだ。

鈴々が教えてあげるのだ。

 

「さっきお姉ちゃんが持っていた変なのって、実は弓みたいなのだ。それで、その弓で関の上に矢を撃って来いってお兄ちゃんに言われたのだ」

「それは聞いたが、幾ら桃香さまといっても、北郷がそう言っただけでここまで無茶ぶりをするとは思えん。一体あの矢がなんだっていうのだ?」

「にゃー、そこは鈴々も良く知らないのだ。でも、朱里を説得する時のお姉ちゃんの言い方が、いつもに増して無茶苦茶だったのだ」

「…酷い言い方をするな、鈴々」

「星も人のこと言えないのだ」

 

でも、本当に桃香お姉ちゃんも流石に今回は凄い無茶だったのだ。

お姉ちゃんはすっごく弱いんだから、鈴々たちが戦場に居る時自分はおとなしく待機していないと、鈴々たちが精一杯戦えないって十分知っているのだ。

それでも、それをわかっててもここまで来たのだとしたら、きっとお兄ちゃんが何かしたとしか思えないのだ。

最近の桃香お姉ちゃんはお兄ちゃんが言うとなんでもなんでも信じて聞き入れるけど、愛紗や朱里はそれがあまり気に食わないようなのだ。

鈴々はお兄ちゃんがお姉ちゃんに不利なことはしないはずだって思うけど。

 

でも、今回はこればかりは言えるのだ。

 

お姉ちゃんもお兄ちゃんも、この後地獄を見るのだ。

 


 
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