No.389880

桜の雨が降る-第1部

音符さん

少女は母がかつて、実の妹を手にかけその罪を隠し通したことから、正しさの定義や人を信じるということを見失ってしまう。
突然飛ばされた異世界で、少女は死んだはずの母の妹が「フォルステッド」と呼ばれる、異世界に格差をもたらした存在になっていたことを知った。
元の世界に戻るため、そして、母が何をしたのかを知るために少女は異世界で「フォルステッド」を探しはじめる。

第1部1話を抜粋しております。本編はサイト(http://smilingpop.sakura.ne.jp/ )に掲載しております。

2012-03-10 23:38:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:520   閲覧ユーザー数:520

 

「……であるからして、我が清風高校生が三学期に成すべき事は」

 三学期の始業式が終わったばかりの、クラスホームルーム。

 先ほどから、学年主任である担任の古典教師の退屈な説教が続いている。見上げてみれば時計の長針は説教が始まった時から見事に九十度角度を変えていた。

 廊下からはホームルームが終わった他のクラスの生徒のざわめきが聞こえてくる。

(あーもう、早く終わってくれないかな)

 クラスの大半の願いにもれず、魚崎優桜(うおざぎゆうさ)も先ほどから熱心に担任の禿頭と時計の針とを交互に眺めていた。高い位置で結われた真っ直ぐな黒髪が、彼女の気持ちに合わせるようにそわそわと揺れている。

「一月行って二月逃げて三月去ってという言葉がある。三学期は短いのだ。正月気分に浮かれている間に学年末試験がやってくる。この試験で一年の成果が実証されるのであり、お前らの真価が問われる時なのである」

 担任の長演説がクライマックスに達しようとしたその瞬間、絶妙なタイミングでチャイムがなった。長すぎますよ、と相づちを打つかのように。

 どっと、クラスに笑いが起きる。担任すらいかつい顔に笑みを浮かべた。

「では、今日はここで終わることにする」

「起立!」

 担任の気が変わらないうちにと、優桜は大急ぎで号令をかけた。

「礼!」

 わあっとざわめきが広がる。優桜は大急ぎで教卓に駆けつけると、担任に一礼して学級日誌を差し出した。新学期早々、日直にあたっていたのである。

「先生、判子お願いします」

「ご苦労さん、魚崎」

 担任は胸ポケットから判を出すと、はあっと息を吹きかけた。

「そういえば魚崎、お前市の大会三位だってな。おめでとう」

 ぱっと、優桜の頬が染まる。

「え、魚崎さんなんかあったの?」

 教卓前にいた女生徒が耳ざとく聞きつけ、そう声をかけてくる。

「ああ、魚崎は剣道の冬の市大会で三位に入ったんだ」

 担任の誇るような調子の説明に、優桜はますます顔が赤くなるのを感じた。

「すごーい!」

「おめでとう、魚崎さん」

 少女たちが口々に賞賛してくれる。それは嬉しくもあり、くすぐったい。

「ありがとう」

 優桜は笑顔を浮かべると、クラスメイトに軽く会釈した。

「なんで始業式で表彰してくれなかったんだろ」

 確かに三位入賞というのは聞こえがいいのだが、県大会の前哨戦だったのだ。県大会でいい成績を残せば、また違ってくるのだろう。

「まだ一年なのに凄いね。うちの学校、剣道部全然強くないのに」

 その時、後ろのドアから首をつっこんでいた女生徒が優桜を呼んだ。

「優桜ー! 部活行くよー!」

 後ろの戸口で、三つ編みにされた茶色がかった髪が揺れている。

「学年職員室に日誌置いてくるからちょっと待って!」

 優桜はそう返すと、担任とクラスメイトにそれじゃと一礼して踵を返した。

「魚崎さんって、丁寧よね」

 教卓前で談笑していた女生徒の一人が、そう評す。

「背筋がピンと伸びてる感じっていうのかな。髪も黒くて綺麗だし、剣道少女っていうのイメージぴったりだよね」

 女生徒の視線が教室後ろから出て行く優桜を追いかける。彼女の後ろ姿は無駄なくすっきりとしていて、セーラー服の背中で黒髪が揺れていた。

 

 
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