秋の風が夏の終わりを告げている。そんな中、俺――――北郷 一刀とその仲間は祭りを楽しんでいた。
時間もそろそろお昼時というころ、どこか休めそうな所を探していた。その時だった。
??「どいてどいてどいてー!」
一刀「ッ!?」
背後から勢いよく影が飛び込んでくる。その事に気づいた時には、既に一刀は地面に押し倒されていた。
諸葛亮「か、一刀さん!? 大丈夫ですか!?」
一刀「あ、あぁ・・・何とか、な」
鳳統「あ、あわわっ、一刀さん、血が、血が出てますっ」
星「ただの鼻血だ。大騒ぎすることでもあるまい」
一刀「少しは心配してくれ・・・・うわ、スゲー出てる」
??「あっ・・!? ゴ、ゴメン!! 怪我はない!?」
声のしたほうを見る。例によって女の子だ。身長はそう高くはない。鈴々と同じくらいだろう。左右で輪の形にまとめられた桃色の髪が日の光に映えている。
星「見ての通りだ。これといった怪我はない。お主か? さきほど一刀殿にぶつかってきたのは」
??「別にぶつかりたくてぶつかったわけじゃないわよ! ただちょっと、ヘンな奴らに追われて急いでたのよ。仕方ないじゃない」
鳳統「ヘンな奴ら・・・ですか?」
少女が走って来た方を見る。祭りということもあって人ごみでごった返しているが、特に目立った奴も見当たらない。
星「何も見当たらんぞ?」
??「そんなワケないでしょ! 現に私がこうやって逃げてい―――――――」
男「居たぞ!! こっちだ!!」
??「!! 来た!」
男の怒声を聞きつけた少女が逃げ出す。何故か、俺の腕を掴んだまま。
一刀「な、ちょ、ちょっと待て! 何で俺まで・・・!!」
??「いいからついてきて!!」
一刀「くっ・・・・!! 後で説明してもらうからな・・!」
鼻血を止めることに必死になっていた一刀は抵抗することが出来ず、星たちを置き去りにして謎の少女と併走する羽目になってしまった・・・・。
??「はっ・・・・はっ・・・・・はっ・・・・」
一刀「・・・もう・・・・大丈夫か・・・?」
建物の影に隠れて一休み。随分と長い距離を走ったものだ。だというのに、目の前の少女は汗を掻いてはいるものの息一つ切らさずに平然と辺りを見渡している。
??「・・・うん、大丈夫。ここは人通りが少ないみたいだから誰か来たらすぐに分かるわよ」
一刀「そうか・・・それじゃあそろそろ教えてもらおうか? お前のことについて」
??「え? 何のこと?」
一刀「とぼけるな。俺を引っ張ってくる前に言っただろうが」
??「あれは貴方が勝手に言ったことでしょ? でも、ま。ここまでついてきてくれたんだし、自己紹介ぐらいはしてあげてもいいわよ?」
何故上から目線なのだ、この娘は。
??「ふっふーん。聞いて驚きなさい!! 私は孫尚香! 由緒正しき孫家のお姫様よ!!」
ドーン、という効果音が鳴りそうな勢いで偉そうに(無い)胸を張る孫尚香。
一刀「・・・・・・・・」
対する一刀は白い目線を送るだけだった。
孫尚香「・・・・ちょっと。何か反応しなさいよ」
一刀「や。だってなぁ・・・・」
歴史上における孫尚香は孫策、孫権の妹。そして、あの劉備に嫁いだ人物として有名である。女の身でありながら武芸を好み、自らの侍女たちにも武装をさせていた、という話もある。
一刀「しかし、本当にお前があの孫尚香なのか?」
孫尚香「そうよ?」
一刀「・・・何か証明できるものは?」
孫尚香「証明も何も、本人がこうやって言っているのだから間違いないでしょ?」
一刀「とは言うがな。仮にお前が孫尚香だとして、どうしてお姫様が供もつけずにこんな町にいる?」
孫尚香「う。そ、それはその、い、色々あるのよ・・・」
一刀「・・・・・・・」
孫尚香「い、一応言っておくけど! 別に堅苦しいお城暮らしにウンザリして、家出みたいに抜け出してきたーとかそんなんじゃないんだからね!!」
顔を真っ赤にして否定するが、見事なまでに説得力が無い。腕をブンブンと振り回すその様は、正に小動物そのものだ。
一刀「はぁ・・・。まぁ、そういうことにしておいてやろう」
孫尚香「な、何よ・・・・私はウソなんて吐いてないわよ」
一刀「分かった分かった。それより次の質問だ」
スッと目を細め、孫尚香に向き直る。無論、何から逃げていたのかと言う事だ。自分をここまで引っ張ってきたのだから、何かしらの理由があると一刀は考えていた。
しかし、実際に返ってきた答えは、予想したものと全く逆のものであった。
孫尚香「・・・分からない」
一刀「なに? 分からないだと?」
孫尚香「本当に分からないのよ・・・・昼ご飯を食べてたら、たくさんの武装した男たちが私を見るなり詰め寄ってきて・・・・それで怖くなって、その場から逃げ出したの・・・」
一刀「・・・・心当たりは無いのか?」
その問いに孫尚香はふるふると首を振る。先ほどまで強気だった少女の瞳には恐怖が浮かんでいるように見えた。
本音を言うと、一刀はこの少女にあまり関わりたくなかった。昔は生計を立てるためにいろんな事に取り組まなければならなかったが、基本的に厄介事はご免な性格なのである。
ではたった今、目の前で怯えている少女を見捨てるようなことをするのか? 答えはNOだ。いくら面倒事が嫌いといっても、そこまで人間腐ってはいない。
一刀「・・・ほら」
孫尚香「・・・・え?」
一刀「逃げるんだろう? 乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるよ」
だから一刀は手を差し伸べた。
孫尚香「・・・・ありがとう」
頬を僅かに染めながら、少女がその手を取る。
一刀「そういやまだだったな。北郷 一刀だ。姓が北郷、名が一刀。字と真名はない」
孫尚香「・・・一刀」
一刀「何だ?」
孫尚香「・・・・ありがとう」
二度目のありがとう。数分前の彼女からはとても想像できないほどのしおらしさに、一刀はついクスッと笑ってしまう。
男「見つけたぞ!!」
一刀「っ!! 逃げるぞ!!」
孫尚香「・・・うん!」
そうして再び、二人は人混みの中へと飛び込んだ。
――――――何故だ?
あれから数時間後。一刀たちは未だに街の中を走り回っていた。
――――何故アイツらを撒けない?
どこに逃げても、どうやって逃げても男たちに先回りされている。
どこかの建物に逃げ込むか? 駄目だ。そこにいる人に迷惑をかけるわけにはいかない。
街の外に出るか? 無理だ。街の四方に位置する門は全て男たちが見張っているからだ。そもそも街の中にはまだ星たちがいるため、置いていくことは避けたい。
なら男たちを殺すか? それはいけない。そもそも大事になってはいけないのだ。孫尚香は先ほど自分は家出の身であるといった。ここで一刀がなにかしらのアクションを起こせば、家出中の孫家の姫が此処にいることも騒ぎになってしまうだろう。どんな事情で家出をしたのか。城暮らしにウンザリしたといっていたが、まだ本人によく話を聞いていないため、此処で騒ぎにするのも可愛そうな話だ。
要するに八歩塞がりと言ったところだ。打つ手なし。男たちは一刀に考える時間さえ与えずに、ただひたすら追い詰める。
そして―――――――――。
男A「へっへ・・・やっと追い詰めたぜぇ・・・・」
下品な笑みを浮かべた男たちが、一刀たちへとにじり寄って来る。
背後は壁。辺りに人気はない。
一刀(クソッ・・・・逃げていたつもりが、いつのまにか追い詰められていただけなんて・・・・)
もう手段は選んでられない? 見たところこの場にいる男はたったの6人。まだ街の中にはたくさんいるかもしれないが、窮鼠猫を噛むの文字通り、全員殺すことが出来る。一刀はそう確信していた。
孫尚香「一刀ぉ・・・」
しかし孫尚香が不安そうな表情で俺の服の袖をキュッと掴んでくる。
そう。ただ殺すだけならば楽かもしれないが、この少女を守りつつ殺らなければならない。それはこの追い詰められた状況ではとても危険なことであり、誤って孫尚香に危害を加えてしまう可能性もあった。
一刀(どうする? まだ何かあるはずだ。こんなところで終わるなんてことは・・・・)
いまさらになって脳が冷静さを取り戻してくる。
一刀「お前らは何者だ? どうしてこの子を狙っている?」
男B「それはお前の知るところじゃない。俺たちは依頼主の命令に従っているだけだ」
一刀「依頼主・・・?」
ハッキリとは分からないが、その依頼主が孫尚香の素性を知っていて、殺そうとしているのだろうか。いったい何のために? 聞くだけ無駄だろうが。
男C「あ~。さっさとやっちまおうぜ。最近シてねえから溜まってんだよ」
男D「おい兄ちゃん。俺らが要あるのはその嬢ちゃんだけなんだよ。おとなしく、尻尾巻いて逃げるってんならぁ、見逃してやってもいいんだぜぇ?」
男E「それともその嬢ちゃんと心中するかい? 俺らは親切だからな。ちゃんと一緒に逝かせてやるよ!」
男たちが次々と頭の悪い言葉で殴りかかってくる。しかし一刀に退く気がないことに気づくと、男たちの表情から笑いが消え、それぞれが抜刀しだした。
男B「どうせ殺せといわれているんだ。男だけ殺して女は捕らえろ」
隊長格の男が命令すると、待ってましたと言わんばかりに飢えた野獣たちが襲い掛かってくる。
孫尚香「一刀ッッ!!」
一刀「―――――――――ッ!!」
万事休す。なんとか反撃しようと構えをとるが―――――
先に倒れたのは、目の前の男だった。
何が起こった!? 突然の出来事に混乱する。それは男たちも同じようだった。
すると次の瞬間、また別の男が倒れる。
「逃げて!!」
声のした方向に視線を合わせる。離れた所で弓を構えた女性がこちらに狙いを定めている所だった。
男A「なんだテメェ―――ッグ!?」
また男が倒れる。急所を一撃だった。
ここから女性のいる位置までは相当の距離がある。なのにも関わらず、一撃で、確実に男たちをしとめていく。
孫尚香「一刀っ!!」
一刀「ッ!!」
孫尚香の声で我に返る。そうだった。早く逃げなければ。
男D「待てぇぇぇっぇぇッ!!」
憎悪の声を上げながら、男たちが追いかけてくる。
それらを、女性の助けを受けながら全て避けきる。
しばらく逃げ続けた後――――――
道に抜けたときには、もう誰も追ってきてはいなかった。
「・・・・・どうして邪魔をした?」
男性が辺りに散らばっている死体を足蹴にしながら尋ねる。
「約束したはずよ。他の人に、危害を加えないって」
弓をしまいながら女性が答える。
「・・・・あまり迂闊な行動はしないことだな。お前は俺の言うとおりに動いていればいい」
「・・・・・・・・・・・」
紫色に輝く長髪を靡かせながら女性はその場を無言で立ち去る。
残った男性は、一人で呟く。
「あわよくばあの男―――北郷一刀まで始末できると思ったが・・・・そう甘くないか」
足元の血溜りを指ですくって――――恍惚とした表情で舐める。
「おい」
「ハッ」
部下と思わしき人物が、どこからか現れる。
「出立の準備をしろ。次は――――呉だ」
物語は、本人の知らぬところで、静かに、ゆっくりと、動き始めている。
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R-18要素を抜きにした場合、小蓮は一番好きなキャラになります。
結局予定日より五日も遅れてしまいました。すいません。m(_ _)m
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