が、そうとは知らない迂闊な旅人たちが、迂闊にもそこに立ち入ってしまった。
旅人の名は
愛紗「うぅ・・・返す言葉も無い・・・」
聞いてのとおりである。この霧の中で不運にも足を挫いてしまった愛紗は、赤面して一刀の背中に顔を
一刀「まぁそう言うこともないだろう。この霧じゃ誰がそうなっても仕方ないって」
鈴々「む~・・・・。でも~」
納得がいかないのか鈴々は頬を膨らませる。
愛紗の分の武器を持つことがそんなに嫌だったか―――そう一刀は考えるが、考えの方は見た目ほど子供ではないだろう。
少し考えてみたが、どうもそれらしい答えが浮かばないので、茶化すような事を一刀は言った。
一刀「もしかして、お前も背中に乗せてもらいたいのか?」
鈴々「え!? いいのか!?」
・・・前言撤回。
一刀「あー・・・。悪いな鈴々。俺の背中は一人用なんだ」
鈴々「じゃあ肩に乗るのだ! とりゃー!!」
一刀「ぬわっ!? バ、バカっ! 流石におんぶに肩車はキツイって―――!?」
愛紗「きゃあああ!! 一刀殿!! 前!! 前!!」
鈴々「あはははははは!! それー進め!!」
一人、星だけが三人から距離を置いて、そんな事を呟いていた。
・・・・・何故か、寂しそうな目で。
「~~♪ ・・・・・~~~♪」
とある山の頂上にある学び舎。そこで一人の少女が鼻歌を歌いながら楽しそうに掃除をしていた。
「~~~・・・♪」
身長はそう大きくは無い。だが、この時代には不似合いな魔法使いがかぶっている様な帽子が彼女の存在感を大きく表している。
ドンッドンッ
「・・・・・?」
門から大きな音が響く。此処は山の上と言う事もあってか訪れる人は多くない。むしろいないと言っても過言ではない。
(どうしようかな・・・。一々先生に言うほどの事でもないだろうし、かといってお客さんを待たせるのも良くないよね・・・)
オロオロと一人で迷った挙句、結局自分で行くことにした。門下生希望なら先生の下に連れて行けばいいし、宿を求めている旅人なら先生に相談すればいい。・・・・・どの道先生だよりなのだが。
「どちらさ―――ヒッ!?」
門を開いたその先には、疲労しきった顔で少女二人をそれぞれおんぶと肩車している青年と、三人分の武器を持って不機嫌な表情をしている少女がいた。・・・・・・・・・・書き手に画力が無いのが非常に悔やまれる。
まぁそんな人たちがまともな客に見えるワケも無く。魔法帽の少女は選択肢どおり、先生に泣きながら報告するハメになった。
一刀「ホントですよ・・・。あぁ腰が痛い・・・」
場所は変わって学び舎――水鏡塾。一刀たち一行は此処に客人として迎えられていた。
星「それで、愛紗の容態は?」
水鏡「軽いねんざですよ。それでも二、三日ほどは絶対安静ですけどね」
星「そうか・・・」
ホッとし胸を撫で下ろす星と一刀。ちなみに鈴々は愛紗の看病をすると言ってこの場にはいない。
「あ・・・あの、先生」
小柄で可愛らしい女の子が部屋に入ってくる。さっき一刀たちを門で出迎えた子だ。
水鏡「あら
水鏡「ありがとう雛里。・・・・・そういうことですけれど」
星「一刀殿からどうぞ。二人を乗せてきたのだ。一刻も早く疲れを癒したいことだろう」
一刀「あー・・・ そうさせてもらおうかな」
星「なんなら、ご一緒してさしあげてもよいのですぞ?」
一刀「そういうのは無いの。三世紀後にな」
むぅ、と頬を膨らませる星。対する一刀は冷静に部屋から出て行こうとする。が。
・・・・ッタッタッタッタッ
バン!!
「ただいま帰りました――――あっ!?」
一刀「おわっと」
勢い良く開けられた扉から、鳳統と同じぐらいだろうか。その位の小柄な少女が一刀の胸に飛び込んできた。
無論、事故である。
まさか扉のすぐ先に壁があるとは思っていなかった少女は何が起こっているのか分かっておらず上を見上げて―――顔を真っ赤にした。
「は、はわわわわ!! しゅ、しゅみましぇん! べべべちゅにわざとというわけではないんでしゅが、いや、あにょ、その、」
一刀「落ち着け。かみすぎて何言ってるか分からん」
ひゃい、と無駄に一度かんでから一回深呼吸。
「はい、落ち着きました。・・・・あ。申し送れました。私は
一刀「そうか諸葛・・・・は?」
一刀は耳を疑った。
その大物偉人の登場には、流石の一刀も目を見開かざるを得なかった。
諸葛亮「あ、あの? どうかしました?」
一刀「・・・・・・・」
水鏡「・・・ところで
諸葛亮「あ、はい! 先生がこの間教えてくれた薬草が見つかったんです」
水鏡「そう。それはとても貴重な薬になるのよ。じゃあいつものところに保管しておいてくれるかしら?」
諸葛亮「はい。分かりました」
水鏡「雛里。あなたも手伝ってあげなさい」
鳳統「わ、わかりました」
言葉に従って二人はトテトテと部屋から出て行く。
一刀「・・・じゃあ、俺も」
水鏡「ええ。ゆっくりしていってくださいね」
一刀もまた、二人に続いて部屋から出て行く。
部屋には星と水鏡のみが残された。
水鏡「
星「む? 構わぬが・・・・」
水鏡「有り難うございます。・・・・・では、あの子の事をどう思いますか?」
星「あの子というのは、諸葛孔明のことかな」
水鏡「ええ、その通りです。それで、いかがでしょう?」
星「ふむ。まだ見ただけでは何とも言えぬのが当然だが・・・・少なくとも、一刀殿は何かを感じていたようですぞ?」
水鏡「北郷さん・・・ですか?」
星「左様。彼には彼にしか見ることの出来ないものがあるようで。これが中々に面白い」
真夜中。人が寝静まったのを見計らい、妖怪たちが
しかし稀にだが変わった人間もいる。時間の枷を外し、自らを錯乱させる人間だ。
「・・・・・・・・」
月明かりの下、青年は戦闘の構えをとる。
あと三歩。あと二歩。―――あと一歩で間合いに入る。
その瞬間、相手の頭部が吹き飛んだ。
青年の手には短剣。刃と柄を合わせても20cmに満たない程の、小さなナイフのような物だが、彼はこの武器を以って首を飛ばしたのだ。
それだけではない。無残に地を転がる頭部。その眼球と思わしき部分には、二本の針が正確に突き刺さっている。
この針は
さらに残った胴体には三本の
帯布鏢はクナイのような形状をしており目印などに使われたりするが、毒を塗ったりすることで簡単に大人一人の命を奪うことも出来る。
これだけの作業を僅か三歩のうちに最小限の動作で済ませている。その動きは演舞とも呼べるほどに熟成されていた。
パチパチパチ・・・・
突然夜の世界に拍手が鳴り響く。
水鏡「お見事です。北郷さん」
一刀「・・・水鏡さんか。嫌なところを見られたな」
水鏡「
遅れたが、此処は水鏡の家の敷地内、庭である。そこで一刀と水鏡は向かい合うようにして立っていた。
水鏡「それで、今夜はどうしてこんな所に?」
一刀「見れば分かるだろ。動かない人形相手に真夜中にコソコソと特訓し続けるようなセコイ男だよ」
自嘲気味に言う。ちなみにこれはほぼ毎晩続けていることなのだが、それを一刀が言うようなことは無い。
水鏡「そうでしたか・・・。しかし、関羽さんたちの話を聞く限り、貴方は―――」
一刀「フン、どうでも良いさ。それで? 貴女こそ何か用があるのでは?」
ええ、そうでした。と思い出したように水鏡が言う。
長くなると思った一刀は近くの岩に腰を下ろす。水鏡も続くように腰を下ろした。
水鏡「コホン。話というのは朱里―――諸葛亮の事です。単刀直入に聞きますが、あの子の事をどう思います?」
一刀「随分と曖昧な質問だな。的確な答えを引き出す為には的確な質問が必要だと思うが?」
水鏡「・・・・実は、既に同じ質問を趙雲さんにしました。趙雲さんは自分よりも北郷さんに聞いたほうが良いと仰っていました」
一刀「はぐらかされただけじゃないのか?」
水鏡「そうかもしれません。けど、それだけじゃないんです。貴方が諸葛孔明の名を聞いたとき、妙だったのです。急に何かを考え込むような、そんな表情をなされたものですから」
一刀「そうか」
短く返し、空を見上げる。今夜は満月だ。おかげで明かりが必要ないほどに明るい。
一刀「残念だが、俺自身大した考えは持ち合わせていない。聞くだけ時間の無駄だと言っておこうかな」
水鏡「・・・そう、ですか」
二人の間に沈黙が生まれる。生み出した当の本人は何とも思っていないのだが。
水鏡「・・・・諸葛亮は三姉妹の次女として生まれてきました」
ポツリと水鏡が告げる。
水鏡「長女の
一刀「・・・・・・・・」
水鏡「この姉妹はそれぞれが素晴らしい才能を秘めていて、姉の瑾は既に呉の忠臣にして股肱の臣。妹の亮も姉に勝るとも劣らない才能を秘めていると私は思っています。しかし・・・」
一刀「経験、か」
水鏡「そうです。あの子は外の世界をあまりに知らなさ過ぎる。文書を読むだけじゃ駄目。自分の足で歩き、自分の目で確かめることで初めて外を知ったと言えるのです」
一刀「・・・それで? 俺に何が言いたい?」
深刻な顔でこちらに向き直る水鏡。その美貌は月光で妖しく輝いていた。
水鏡「諸葛亮を、貴方がたの旅に同行させていきたいのです」
諸葛亮「わぁ・・・人がたくさんいますね・・・」
星「ここの太守は善政を敷いておると聞く。慕う民も多かろう」
場所は移り、此処は山の麓に位置する大きな街。今日、此処では太守の誕生日を祝う祭りが開かれていた。
一刀「しかし鈴々も来れば良かったのにな。こういうのは好きだろうに」
鳳統「関羽さんが絶対安静ですから・・・・。
星「あやつの姉依存症も大したものだな。まぁ形はどうあれ私たちは祭りに来ているのだ。楽しんでもバチは当たるまい」
一刀「そう、だな・・・・」
――――あの夜。
一刀「分からんな」
あの夜。一刀は水鏡の頼みに対してこう答えた。
水鏡「分からない・・・ですか」
一刀「確かに
水鏡「・・・・・・」
黙り込む水鏡。何を思っているのか、表情からは読み取れない。
水鏡「・・・ですね。私は急ぎすぎていたようです」
言葉と共に腰を上げる。
水鏡「あの子には何としてでも外の世界を見て回ってほしい。出来るなら私が連れて行ってやりたい。しかし私はそれほど体が強くありません。私の代わりに手を引いてもらえる、そんな人が欲しいのです」
一刀「・・・・・随分と、自分勝手なんだな」
水鏡「これが、私ですから」
その後、今日祭りがあることを聞き、それに諸葛亮と鳳統が行くので貴方たちもどうかと言われ、こうして祭りに来ている訳だが。
一刀「・・・・・・」
祭りを楽しむ諸葛亮の小さな背中を見る。彼女には何か志があるのだろうか。・・・・・いや、そんな事を俺が考えるの傲慢か。と一刀は一人考える。
星「どうかなされたか一刀殿?」
一刀「・・・いや、つまらない事だ。祭りを楽しむんだろう? 俺たちも行こうじゃないか」
そうしてまた一歩。北郷一刀は踏み出した。
一刀たちは知らない。
この街でとある企みが進行していることを。
この街で
そしてこの街で、この祭りで、一刀の運命の歯車は大きく動くこととなる。
TO BE CONTINUED
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実は今回だけで四・五回ほど書き直していたり。遅れてすみませぬ。
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元ネタ:アニメ「恋姫†無双」
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