No.379281

Legend of Vampire 第三話 契約...ドアのない部屋に迷い込む

さん

吸血鬼小説の第3話です。
いよいよ物語が本格的に動き出しました。

2012-02-17 14:07:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:431   閲覧ユーザー数:430

その夜は、ベッドに入ってもすぐには寝つけなかった。今日はなんて日だろう。今までダンスを申しこまれたことなんてなかったのに、今日に限って三人も来るなんて。翠の瞳の知的な少年に、青い髪の愛らしい少年、茶目っ気のある癖毛の少年。タイプは違えど滅多に見ない美少年揃いだ。きっと明日は嫉妬した姉たちに虐められる。でも、それでもいいと思えるほど、夢のような時間だった。

 

キィ…

 

かすかに扉が開く音がした。レウラはベッドを出るとドアに触れた。開いている。

 

「変ね。いつも外から頑丈な鍵がかかっているのに…」

 

でも、これはチャンスかも?この狭い鳥籠から外の世界に逃げ出せる…

 

いつも自室に閉じ込められているから屋敷の中の構造はよく解らない。息を切らしながら外に通じていそうな扉を探して彷徨う。もう幾つドアをくぐり抜けただろう?暗い部屋に迷い込んだ。ひやりと冷たい空気、なんだかここは怖い。戻ろうか。でも入って来たドアを探してもどこにも見当たらない。

 

カツコツ…

 

暗闇から誰かの足音が聞こえる。そして試すような、どこか面白がるような視線を感じる。怖い。逃げなきゃ。でも、足がすくんで動けない…!

 

ぼうっと目の前に蝋燭の明かりが灯った。

そこにいたのは先刻ダンスを踊った少年だった。忘れもしない。確か名前は…

 

「セナ…ハルトさん…?」

 

「ごきげんよう、お嬢さん。名前を覚えていていただいて光栄だ。」

 

 

 

 

でも、以前会った時とは何かが違う。雰囲気というか、存在感が。礼儀正しさの中に見え隠れする傲岸な視線。蝋燭の明かりに照らし出された影を見てあっと息をのむ。少年の影には大きな黒い翼が浮かび上がっていた。

 

「貴方…まさか…?」

 

少年はにやりと嗤う。その笑顔には引き込まれそうな妖しさ。

 

「勘がいいな。流石神に愛された娘か…」

 

「吸血鬼なのね。」

 

「ご名答。」

 

どんな怯えた目をするのだろうと楽しみにしていたら、娘はあろう事か吸血鬼にかけよって手をぎゅっと握りしめた。

 

…なに!?

 

「ねえ。貴方吸血鬼なら、飛べるのよね。だったらお願いがあるの。私をこの屋敷から連れ出して!外の世界に出たい。一面の花畑が見てみたいの。」

 

いきなり何を言い出すのだ。この娘は。驚きを気取られないように注意しながら言葉を紡ぐ。

 

「小心そうに見えて、案外大胆な娘だな…それにお前、吸血鬼の性質を解って言ってるのか?昼の光の中になんかそう簡単に出られるか。」

 

「だったら夜!夜でもいいの!夜の花畑に私を連れていって!」

 

娘は泣いて縋らんばかりに手を握りしめる。

セナはさすがに少し慌てた。

 

「お前!吸血鬼と契約を交わすことの意味を解っているのか?」

 

娘は一瞬黙りこくった後、意を決したように頷いて、胸に手を当てた。

 

「…解ってる。代わりに私の血を…命を差し出すわ。一生この部屋に閉じ込められて舞踏会の度に見せ物にされるくらいなら、いっそ天国にでも地獄にでも行きます。」

 

吸血鬼に血を吸われた人間の末路は三つ。わずかな血を吸われただけなら、軽い貧血程度で済む。しかしこれで満足する吸血鬼はいない。唯一人、伝説の蒼の吸血鬼を除いて。更に血を吸われると、人間としては死に、吸血鬼として蘇る。そして一度に血を吸われ尽くされると、乾涸びて死んでしまう。現実的には吸血鬼として地獄に堕ちるか、人として天に召されるかの二択だ。

 

この娘、そんなに今の生活が不幸なのか。

 

「あの舞踏会にいたなら噂で聞いたでしょ?私、捨て子なの。孤児院でもみんなが言ってた。『呪われた子だから捨てられたんだ。』って。今のお父様に引き取られたんだけど、珍しいからっていうだけ。家族はみんな私を汚い物を見るような目で見るし、部屋には鍵をかけて閉じ込められて、舞踏会の度にああやって見せ物にされるだけ。もう嫌なの。自由が欲しい。冷たい視線のない場所で思いっきり手足を伸ばしたいの。」

 

飢える訳ではないが、それは確かに嫌かもな。人間は群れないと生きていけない弱い生き物だ。広い屋敷で心通わせる相手も無く、独りぼっちで冷たい視線に晒され続けるのは想像以上に辛いものなのかもしれない。あのルディの想い人だが、奪ってやるのも一興か…?この思いつきに、思わず目を細める。運命の絆がどれほどのものか、試してやるのも面白い。

 

「ほう。では気が変わらなかったら次の満月の夜、窓を開けて…」

 

ぐらり。身体が傾いた。

 

そうか。しまった。何十年も血を吸ってなかったから魔力が…

 

吸血鬼の少年はそのままどさりと倒れ込んだ。

 

 

 


 
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