No.377948

『改訂版』 真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部 其の四

雷起さん

大幅加筆+修正となっております。

舞台は洛陽!
そこで同盟軍を待ち受けていたのは?

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2012-02-14 20:21:02 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:4783   閲覧ユーザー数:3712

『改訂版』 第一部 其の四

 

 

洛陽 深夜

【エクストラturn】

 厚い雲に覆われた天には、月も星も見ることは出来ない。

 深い闇に閉ざされた洛陽の都。

 献帝の住まう城には篝火が絶えないが、全てを照らせるわけではない。

 闇を縫う様に数人の影が移動する。

 帝の寝所から離れた場所。

 庭に面した二階でその影達は立ち止まり、部屋の中を確認する。

 静かな寝息を二つ確認すると暗器を取り出した。

 

「か弱い乙女の寝室にそんな大勢で忍び込もうとするなんていけないコたちねえぇん。」

 

 声に反応し振り向いた先には、四丈半(約10m強)はある木の天辺の小枝に爪先で立つ巨漢の影。

 

「愛と正義を守るため

   か弱き華を守るため

     美々しき蝶が今舞い降りる。」

 

 夜空を覆っていた雲が切れ、一筋の月光がその姿を照らし出した。

 

「華蝶仮面二号!

    ご主人さまに変わっておしおきよおおぉぉ~ん♪」

 

「ぎゃあああああああああっ!バケモンだあああああああああああああああっ!!」

 暗殺者として訓練されているにも関わらず、男達が声を上げて腰を抜かした。

 

「だああああれが夜空をばったばった飛び回って夜な夜な枕元で七転八倒どうしましょうですってえええええぇぇぇっ!!」

 

 暗殺者達はさすがにツッコミは言わずに、腰の抜けた状態で少しでも遠離ろうと廊下を這って移動する。

 

「何処に行くつもりか知らぬが、この卑弥呼がご主人様の命により貴様らを退治てくれよう。」

 

 移動しようとした先、廊下の欄干の上にこちらも爪先で立っていた。

「うぎゃあああああああああああっ!!こっちにもバケモンがああああああああああああっ!!」

 

「だああああああれが京の五条の橋の上クルクル回ってあら大変だとおおおおおおおおおっ!!」

 

「意味がわかんねぇよっ!!」

 堪えきれず遂にツッコミを入れた暗殺者だった。

 

「うっふううううううううぅぅぅぅううんっ!!」

「ぬっふううううううううううぅぅぅぅんっ!!」

 

 暗殺者達は一撃を貰う前に全員失神していた。

「あっらぁ?このコたち何にもしてないのにのびちゃったわよぉ。」

「恐らく我らの美しさに耐え切れなかったのであろう。」

「あらあらまあまあ、あたしたちってなんて罪なオ・ン・ナ♪」

 その様子を扉の陰から見ていた二つの影。

「あぁら、起しちゃったみたいねぇん。悪いコはとっ捕まえたから安心して寝たんさい♪」

「うむ、私達が不寝番をしているから、雲の上で眠るかの如く幸せな夢を観るが良い♪」

 プルプルと震える月と詠。

 そんな事を言われても安心して眠れる筈がない。

「あ、あのぅ・・・・・・・・どちら様でしょうか・・・・」

 意外にも声を掛けたのは月だった。

「ちょ、ちょっと月!」

「だって詠ちゃん、この人たちは私たちを守ってくれたみたいだし・・・・・・きちんとお礼を言わないと・・・」

「この転がってるヤツらも怪しいけど、こいつらはもっと怪しいじゃないっ!」

 詠は華蝶仮面二号と卑弥呼を指差した。

「あらあらゴメンなさぁい。華蝶仮面二号とは世を忍ぶ仮の姿♪その正体はっ!」

 仮面を取って素顔を晒す。

「都の踊り子にして『天の御遣い』の愛のしもべ♪貂蝉ちゃんよぉぉん♫」

「全然変わって無いっ!・・・ていうか余計に・・・」

「私は『天の御遣い』の謎の巫女にして、愛するダーリンのナース♫卑弥呼だ♪」

「今、謎って言った!謎って言ったわよっ!!」

 一人パニクっている詠だった。

「細かい事を気にするでない、賈文和よ。」

「細かくなんか無いでしょうっ!!・・・・・って、なんでボクの名前・・・」

「私は董仲頴と申します。」

 ペコリとお辞儀をする月。

「これはどうもご丁寧に♪」

「董仲頴は礼儀を知るヨイコであるな。」

「あんたらは全然礼儀がなってないけどね・・・・・」

 詠もツッコミ疲れたのかテンションが落ちてきた。

「あの・・・貂蝉さんと卑弥呼さんはお味方なのですよね?」

「こいつらが刺客ならとっくにボクらどうにかなってるだろうしね・・・一応信用するわ・・・」

「ほう、軍師賈文和よ。ようやく頭が働き出したようだの。」

「もすこしお話聞きたい?なら、夜風は体に毒よぉ。ちゃんと服を着てお部屋でお話しましょ♪」

 言われて月と詠は寝巻き姿なのに気がついた。

「夜ふかしはお肌の大敵だけどぉ、女の子四人、パジャマパーティーでガールズトークってのも捨てがたいわねぇ♪」

「ぱ・・・ぱじゃ?・・・・」

「・・・が・・・がある?」

「貂蝉よ、こうして話が出来たのならこの後の事もある。きちんと服を着てもらおうではないか。」

 詠は自分たちと貂蝉、卑弥呼を見比べた。

(どう見ても今のボクたちの格好の方がマシだとだと思うんだけど・・・)

「それじゃあわたしたちはお着替えの最中にこのコたちをふん縛って片付けておくわん♪」

「着替え終わったら声を掛けるが良い♪」

 

 

 貂蝉と卑弥呼は六人いた暗殺者の男達を巻藁の様にまとめて縛り上げ、華蝶仮面二号が登場した木の上に吊るしておいた。

「さっき『天の御遣い』って言ってたけど、それって劉備軍か曹操軍にいる人の事よね。どっちも反董卓連合に加勢してるんだけど?」

 着替えた詠が、燭台の灯りと月光に照らされた部屋の中で訊いた。

「あら、そんな情報も手に入れてるのね。」

「敵軍の情報が無いと作戦も立てられないしね・・・それはどちらかの軍がボクたちに寝返ってくれるって事かしら?」

「う~ん、これはご主人さまたちの事をキチンと説明した方がよさそうねん。」

 詠と月は黙って聞く事にした。

「あなたたちは『天の御遣い』が二人だと思ってるみたいだけど、実は三人いるのよん。」

「孫策の所にもいるのだ。」

「孫策の所にも!?・・・ゴメン、続けて・・・」

「ご主人さまは元々一人だったんだけど、この大陸に降りるときになぜだか三人に分かれちゃったのよねぇ。」

 詠はこの説明を宗教家が使う宣伝文句だと思い込んだ。

「ちょっと待って、それは三人とも同じ名前って事なの!?」

「ええそうよ♪」

「・・・それで入ってくる情報が混乱してたのね・・・」

「今、ご主人様の力で劉備軍と曹操軍、孫策軍、それに公孫賛軍が、連合軍には秘密に同盟を結んでおる。」

「公孫賛も・・・そうか、劉備の・・・って、ええ!?三人とも同じ場所にいて、しかも周りの人たちも納得してるの!?」

「さっき三人に分かれたと言ったではないか。姿形も同じなのだから不思議ではなかろう?」

「いや・・・・・・その状態が既に不思議だけど・・・・・・」

(劉備の事はよく解らないけど、曹操と孫策がそんなペテンに引っかかるとは思えないし・・・)

「そういえば董卓ちゃん、あなた都の外ではヒドイ悪者にされちゃってるわよ。」

「え?」

 月が驚きと悲しみの顔で声を漏らした。

「・・・・・やっぱりそうなんだ・・・連合を組む時の檄文で何か書かれたんでしょうね・・・張譲達の悪行も月のせいにされてたし・・・」

「賈駆ちゃん、一つ聞いていい?」

「え?ええ。」

「連合軍が今どこまで来てるか知ってるかしら?」

「・・・汜水関で城攻めをしてるはずじゃ・・・・・違うの!?」

「やはり情報操作をされておるな。昨日の昼に虎牢関も落ちておる。」

「そんな・・・・・」

「華雄やみんなはっ!どうなったんですかっ!?」

 月が貂蝉に縋り付いて声を上げた。

「恋ちゃんと陳宮ちゃん、張遼ちゃんはご主人さまたちと合流してこちらに向かってるわ。華雄ちゃんは一騎打ちで敗れてケガしてたけど、ちゃんと逃げ延びたの見てたから大丈夫だとおもうわよ。ちゃんとケガの治療できたか心配だけど。」

「華佗の治療を受けさせる事が出来ておれば問題無かったであろうに。」

「いえ・・・生きて逃げ延びてくれたのなら大丈夫です・・・・」

「連合軍がもうそんな所まで来てるなんて・・・・・・・それじゃあ、あの刺客は連合軍じゃなくこちらの裏切り者がボク達を手土産に寝返るつもりでっ!!」

「そゆことね。これを警戒したご主人さまが私たちをここによこしたってわけ♪」

「今こちらに向かっている連合軍はご主人様達の同盟軍のみであろう。同盟軍は今や連合というか袁紹軍と袁術軍、そしてこの宮中の匪賊共を敵に戦っておる様なもの。」

「そこまでしてボクたちを助けようとするなんて・・・・・・『天の御遣い』は何を考えてるの?」

「それは自分の目で確かめたんさい♪」

「・・・・・そう言えば恋の事を真名で呼んでたけど知り合いだったの?」

「いや、虎牢関で会った時に恋敵(とも )として真名を預かったのだ。」

「へえ、虎牢関で・・・って、あなた達の同盟軍と一緒に行動してたの!?」

 詠は貂蝉と卑弥呼が洛陽に潜んでいて、連絡を受け取ってから行動したものと思っていた。

「うむ、そうでなければ華雄の事や張遼達の事も分からぬではないか。」

「虎牢関を出発したの昨日の昼なんでしょう!?狼煙で虎牢関陥落の情報だけなら分かるけど!早馬だって無理な距離じゃない!!」

 言ってから自分の考えに矛盾が在るのに気がついた。

 早馬が無理なら連絡を受けることは出来ないと。

「まあまあ、こうして悪いコ達を止めるのに間に合ったんだから、細かいことは気にしないの♪」

「・・・だから、細かい事じゃない気がするんだけど・・・・」

「さて、このままここに居ても良いのだが、ここではおちおち寝てもおられまい。」

「恋ちゃんのお家にとりあえず身を隠してはどうかしら?」

「恋さんのお屋敷ですか?」

「確かにあそこなら犬も沢山居るから侵入者を警戒するのに丁度良いかも・・・」

「それじゃ、今から行っちゃいましょ♪」

「よし、道案内は頼むぞ、貂蝉よ。」

「場所知ってるの?うひゃあ!!」

 貂蝉は月を、卑弥呼は詠を抱き上げると、またしても二階の窓から飛び出した。

「勝手知ったる洛陽よおん。」

「きゃああああああああああああ!!!」

「加減はしておるから大丈夫であろう。」

「董卓ちゃんは怖くないの?」

「少しだけ怖いですけど・・・・・・空がとても綺麗で・・・」

 雲が切れ、月と星が姿を見せた空はとても幻想的だった。

「ねえ詠ちゃん、私『天の御遣い』さまに早く会ってみたいな♪」

「うふふ、ご主人さまはとっっっても素敵な方よん♪」

「うむ、惚れ惚れするイイオノコである♪がはははは!」

「あんたらの美的感覚で言われても・・・・・・」

 四人の姿はそのまま洛陽の街に消えていった。

 

 

洛陽 城外

【緑一刀turn】

 虎牢関を出発して四日後に同盟軍は洛陽に到着した。

 本当に戦闘が無いままここまで来てしまったなぁ。

「まさか、貂蝉と卑弥呼の二人が蹴散らしたわけじゃないよな・・・」

「さすがにそれは無いんじゃないかな~。自信ないけど・・・」

 俺と桃香は「あはは」と引きつった笑いで誤魔化した。

「ご主人さま!桃香さま!孫策軍から伝令です!洛陽には董卓軍の姿を認められず、すぐに進軍されたし、とのことです。」

 朱里の報告を聞いた俺と桃香は顔を見合わせた。

「敵軍がいない?」

「まさか本当に貂蝉さんと卑弥呼さんが・・・」

「まあ、二人に会えば判るさ。行こう!」

 こうして俺達劉備軍が洛陽への一番乗りとなった。

 

 

【赤一刀turn】

「それじゃあ私達も行きますか!先遣隊出発!!」

 雪蓮の号令で孫策軍も洛陽に入り始めた。

「なあ北郷、今さらの話なのだが・・・」

「どうしたの?冥琳。」

「虎牢関で雪蓮が言った『董卓が悪人か善人か興味無い』という言葉・・・」

「分ってるって、桃香と愛紗が落ち込んでたから気にかけてそう言ったんだろ。それに雪蓮自身の照れ隠しも♪」

 なんだよ冥琳、そんな意外そうな顔して。

「はは、北郷も雪蓮の事が解るようになってきたか♪」

「おかげさまでね。」

 街の復興を最優先でやりたいなんて言い出す雪蓮だ。

『庶人の支持を得る為』なんて言ってるけど、それだって後付の言い訳みたいなモンだもんな。

 本当は虐げられてる人を見ると放っておけないクセに。

 

 

【紫一刀turn】

「さあ、やっと我々の順番ね。先遣隊前進!」

 いくら洛陽の都が大きいからっていっても、同盟軍全部を一度に入れたら混乱するからな。

 先ずは各軍の選抜部隊が都入りして、それぞれ事前の打ち合わせ通り役割を分担する。

 華琳の役は宮廷に一番コネが有るってコトで、宮廷と同盟軍のパイプ役だ。

「・・・で、なんて役職の人だっけ?」

「大長秋よ。皇后府を取り仕切る宦官の最高位。」

「そんな偉い人に!?でもその人って信用出来るのか?」

「そうねぇ、こちらが力の在ることを示している限りは、ってところかしら。」

「持ちつ持たれつって事か・・・」

 悪い言い方をすれば力の無い奴に要は無いってコトね。

「宦官の最高位に居る人間ですもの、一筋縄ではいかないわよ。」

「『伏魔殿』だもんな・・・・・・怖い怖い。」

「安心しなさい、さすがにあなた連れて行けないから。」

「そりゃそうだな。はは。」

 付いてこいなんて言われたらどうしようかと思ってたけど、一安心だ。

「秋蘭と桂花を連れて行くから、春蘭のお守りを頼むわね、一刀♪」

「・・・・・・・・・え?」

 春蘭は華佗の治療が良かったから、もうすっかり元気だ。

 むしろ前より調子が良すぎるぐらいに・・・。

「し、霞!霞はどこに・・・」

「霞なら緑一刀の処に行かせたわ。董卓の事を心配してたし、ここにいた董卓軍がどこに行ったのか情報も集めて貰う為にもね。」

 北郷隊は城壁の外だし・・・頼みの綱は季衣と流琉だけか・・・・不安だ。

 

 

【緑一刀turn】

 董卓軍が洛陽から姿を消したのは二日前だという情報が、住人などへの聞き込みでで判明した。

 そして月と詠もその前日に行方不明になっているという情報も入って来た。

 後は兵隊と一緒に逃げた、暗殺された、奇声を上げて夜空に飛び去った、怪物に食べられた等、どれも裏付けの無い噂ばかり・・・後ろ二つは何を見たのか何となく判ったけど・・・。

「これは参ったな・・・・・・貂蝉と卑弥呼に合流場所を指示するのを忘れてた。」

「本当に董卓さんも一緒に逃げちゃったのかな?」

「それは・・・・・・いや、それは無いかな。」

「え?どうしてなのご主人さま。」

「うん、それは貂蝉と卑弥呼が俺達の前に現れないから・・・二人が同盟軍の到着に気がつかないはず無いのに俺の所に来ないのは、董卓と賈駆に合流できて二人を守ってるから。」

「でもそれだと貂蝉さん達も一緒に洛陽から・・・・・あ、そっか。私達が来るのに洛陽から出ていくはず無いもんね。」

 そんな推理をしていた時、馬に乗った霞が戻ってきた。

 霞は俺達と合流した後、情報収集と董卓軍の兵が残っていないか探しに行っていた。

「一刀!ウチの兵隊見つけたで!連絡用にやっぱり残っとったわ。董卓と賈駆はまだ洛陽のどっかに隠れとるそうや!」

「何処に居るかまでは判らなかったか・・・」

「ま、しゃあ無いやろ。暗殺の危険があんのやから。」

 とりあえず洛陽に居るのは分かったけど、一体何処に・・・・・待てよ、もしかして・・・。

「みんなに戻る様に伝えてくれ、四人の居場所が判った。」

「ご主人さま判ったの!?」

「ホンマかいな?」

 

 みんなが戻ってから俺達が向かったのは恋の屋敷だった。

 前の外史で俺、月、詠、貂蝉が顔を合わせた場所。

 貂蝉は俺なら何のヒントも無ければそこを目指すと分かってるんだ。

「・・・ご主人さま、こっち。」

 恋の案内で屋敷に着いた。

「ご主人さまぁん。おまちしてたわよぉん。」

「予想よりも早かったではないか!流石ご主人様だ!がっはっは!!」

 やっぱりここだったか。

「ご主人さまスゴイ!ホントに居たよ!!」

 ふっふっふ。どうだい桃香、俺の推理力は?

「貂蝉、卑弥呼ありがとう。ご苦労さん。」

 二人の頭を撫でてあげる。

「あ~ん、うれしいわぁん。」

「私もドキドキして今夜は眠れそうも無いわい。」

 なんか猛獣使いの気持ちってこんな感じなのかな?

「さ、月ちゃん。詠ちゃん。こちらがわたしたちのご主人さまよ。」

「は、はい。その、董卓です。はじめまして・・・・」

「賈文和よ。その・・・はじめまして。」

 そう、二人にとっては初対面なんだよな。

 恋は例外中の例外でこれが普通の反応なんだ。

 気を付けて話をしないとな。

「はじめまして。俺は劉備軍の北郷一刀、天の遣いなんて呼ばれてる。もっと早く助けてあげられれば良かったんだけど・・・・・・遅くなってごめんね。」

「い、いえ・・・・・・そんな!」

「そう、それよ!そこの二人にある程度聞いてはいるけど、あんたたち月を助けるなんて目的は何?捕らえるなり首を刎ねるなら分かるけど!」

 外史が変わっても詠の性格は変わってないなぁ。

「だって、キミたちも被害者だろ。助けを求める女の子を救い出すのに理由なんてないさ。」

「そんな!だってボク達は傀儡としてここに来させられて、ひどい風評を立てられて、正体も隠されていたっていうのに!どうやって真実を知ったっていうのよっ!?」

「う~ん。それは天の遣いの力って事で納得してもらえないかな?」

「はあ?なに馬鹿なこと言ってんの?」

「詠ちゃん、それは言いすぎだよ。この方は私たちのこと助けに来てくれたんだよ。」

「う、うん・・・」

 自分でもひどい屁理屈だとは思うが今はこれで納得させなければ。

「で、その助けるためには悪いけど、二人には死んだことになって貰いたい・・・」

 対策はやっぱりこれしかないんだよなぁ。

「え?」

「やっぱり!本性を現したわね!!」

「ちがうちがう!!本当に死ぬわけじゃなく、董卓と賈駆はここで討ち取られたってことにしたいんだ。袁紹たち連合軍を納得させるにはそれが一番いい手だと思うんだよ。」

「そ、そういうこと。」

「確かにそうですね・・・」

「で、二人の安全は俺たち劉備軍が保障する。あと二人のことを知ってるのは曹操軍と孫策軍、公孫賛軍の上層部だから、後でみんなに会って貰うけど。」

「貂蝉と卑弥呼に聞いたけど秘密同盟を結んでるんですって?」

「ああ、同盟軍がどんな感じかは俺が説明するより・・・・霞、恋、ねね。」

 俺の声に三人が前に出る。

 

【詠turn】

「なんかすまんなぁ、こないな事になってもうて。」

「・・・・・月、詠、無事でよかった。」

「月殿、詠殿大丈夫ですか?特に精神的に・・・」

「貂蝉と卑弥呼をはじめて見た時は驚いたけど、今はなんとか大丈夫よ。」

「霞さん、恋さん、ねねちゃん・・・・無事で良かった・・・」

 月は目に涙を浮かべて微笑んでる。

「霞は・・・その・・・曹操に降ったの?」

「あ、そやったな。あの二人が飛び出してったん話の途中やったから・・・ああ、ウチは今、曹操の家臣や。」

「そうなんだ・・・やっぱりボクたちの軍はもう終まいなんだね・・・」

「ホンマすまんな・・・・・・・そや!ここに居た兵隊共はどないしてん?」

「もう負けが決まった戦だからね。ここに居たら宮廷の連中が逃げる時に、連合軍への盾にされてしまうと思って逃がしたわ。あなた達の隊に合流するようにも密書には書いて置いたんだけど・・・まだ合流出来てないんだね。」

「さよか・・・けど、あいつらが良く密書だけで言う事聞いたな。」

「ボク達が宮廷の誰かに暗殺され掛けたって書いたから・・・ボク達を連れて逃げた風も装ったみたい。そんな噂も流れてたみたいだから。」

「そういう訳か・・・あいつらなら大丈夫や。月のことが心配で何処かに潜んどるんやろ。」

「それで霞、ねね、この人たち信用できそうなの?」

「劉備殿たちは信用にたる人物とみるです。」

「そやな、曹操も孫策も信用して大丈夫や。特に曹操ん処はな。」

「曹操は黄巾党の首謀者を匿っているのです。」

「な、なにそれ!?」

「なんでもそいつら元々は旅芸人の三姉妹で人を惹きつける能力に長けているそうなのです。」

「曹操はそれを利用して兵隊集めと士気高揚につこうとるそうや。」

「そんなことになってるなんて・・・」

「しかし、その北郷一刀のことは・・・恋どのが何故か心酔してしまわれて・・・」

「恋が?意外ね・・・」

 ボクが恋を見ると、彼女は首を傾げた。

「ねえ、恋はどうして北郷一刀の事を認めたの?」

「・・・・・・・ご主人さまだから。」

「またこれや・・・もうずうっとこればっかりで要領得んねん。まあ、恋の言うコトやから信用出来るんやけど・・・」

 確かに恋の感は絶対の信用がある。ボク達もそれで何度危機を乗り越えたか・・・。

「そうね・・・そういえば北郷一刀が三人いるって聞いてるけど・・・」

「それも本当や。ウチら三人揃った所で逢うてる。」

「あれは三つ子とかいう感じではないですな。確かに一人の人間が三人に分かれたというのが納得できるのです。」

「ふうん・・・天の御遣いねぇ・・・どう考えても眉唾モノなんだけど・・・」

 そう言ってそいつの方を見ると・・・。

 

【緑一刀turn】

「それではこれからは私もご主人様ってお呼びしますね。私のことは月と呼んでください。」

「って!ゆえ~~~!!なんでこんなやつに真名を預けちゃうの!?」

「だって、もう名前を名乗れないし、恋さん、霞さん、ねねちゃんも真名を預けてるし、これからお世話になるのだから私もそのほうがいいかなって。」

「別に偽名でもいいじゃない。こんなやつに呼ばせる名前なんて!」

「だめだよ詠ちゃん。世間的にはそれでもいいけどご主人様には。そうだ、詠ちゃんもご主人様に真名を預けよう。ね。」

「え、ええ~~~~~~~!?」

(詠殿、その気持ちよく判るですよ。ねねも恋殿からこいつに真名を預ける事を強要されたです。)

「も、もう・・・分かったわ。姓は賈、名は駆、字は文和、真名は詠よ!」

「よろしくな、詠。」

「なんでこんなことになっちゃったのかしら・・・ところであんた!」

「な、何?」

「月とボクを今後どうするつもり?ボクらは旅芸人みたいな真似出来ないわよ!」

 月と詠のアイドルユニットか・・・・・それも見てみたい気が・・・。

「・・・・・・・月と詠はメイドさん。」

 うわ!恋!?その単語も覚えてたのか!!

「は?冥土?」

「い、いや・・・なあみんな俺はこの二人に侍女になって正体を隠してもらおうと思うんだけどどうかな!?」

「はあ!?侍女おおぉ!?」

「・・・それはご主人様の趣味ではないのですか?」

 愛紗、そんな睨まなくても・・・いつもみたいな殺気が無いだけマシだけど・・・。

「私はご主人さまの意見に賛成だよ!捕虜っていう訳でもないし、政治や戦に関わるとそこからバレちゃう可能性も有ると思うの。お客様は・・・・うちの台所事情があるので・・・ゴメンナサイ・・・」

「桃香様がお認めになるのでしたら私としても異存在りませんな。」

「桃香、星・・・」

 

「主が用意していたメイド服なるものがようやく陽の目を見るのですからな。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・月と詠はメイドさん♪」

「・・・ご主人様・・・後でゆっくりお話を致しましょう♪」

 グッバイ・・・俺の威厳・・・。

 

 

 月と詠は桃香たちとも自己紹介を始め仲間を紹介されていた。

 俺はみんなから少し離れた所で貂蝉と卑弥呼から洛陽の現状を教えてもらう。

「どうだ?左慈や于吉の影はあったか?」

「やっぱりなかったわねぇん。ここまでこんがらがった外史ですし、あの子達も手が出せないか・・・」

「未だ復活できずにいるのやもしれんな。まあ、現れたところであのような孺子共ワシと貂蝉がおれば軽く蹴散らしてくれる。」

「そうか、ありがとう二人とも。このこと紫と赤の俺の処にも伝えて貰えるか?」

「まかせてちょうだい。でも、早く三人のご主人さまが揃った平和な世界が来るといいわねぇ。」

「うむ。ご主人様は一人でも充分魅力的だが三人揃った姿は正に眼福だからのう。」

 俺は二人を送り出し、一人思いに耽る。

 平和な世界になったらか・・・今の人数でも身が持つか心配なのにこれから何人増えることやら・・・俺が三人いる世界ってもしかしたら俺が一番望んだんじゃないだろうか?

 

【赤一刀turn】

 街の復興といっても戦火に巻き込まれた訳ではないから、むしろ治安維持になる・・・と、俺は思っていたんだが・・・。

「なんだよ・・・・・・・これ・・・」

 家や店が壊され、多分火も出たんだろう焦げた臭いが立ち込めている。

 まさか白装束どもの仕業か!?

 でも、前の外史とは違い洛陽には帝も役人も、そして庶人も居た。

 その庶人と呼ばれる普通の住人達は家を失い、俯いて俺達孫策軍と・・・いや、軍人と目を合わせない様にしている。

「みんな集まってっ!事情が判ったわ!!」

 雪蓮の声に将と軍師が集まる。

「これね・・・董卓軍が居なくなった直後にやられたんだって・・・・」

 雪蓮・・・目を伏せて話してるけど・・・・・これは怒ってる・・・しかも最大級に。

 

「治安を守っていた董卓軍が居なくなって・・・官僚共の私兵が略奪を始めたそうよ・・・」

 

「な・・・・・」

 言葉が出ない・・・怒りと悲しみが綯交ぜになって何を言っていいか解らない・・・。

「こちらがこの地区の長老さんよ・・・・・・おじいちゃん、取敢えず炊き出しと避難所の設営にすぐ取り掛かるから・・・して欲しい事、何でも言って頂戴!」

 雪蓮の目にから涙が溢れていた。

「おぉ・・・ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・孫策様・・・」

 長老さんも涙を流してお礼の言葉を繰り返している。

 

「伝令っ!輜重隊(しちょうたい )に糧食の搬入!工兵隊に至急全員先遣隊に合流しろと伝えろっ!!」

 

「はいっ!北郷様っ!!」

 

 俺の命令に伝令兵が馬に飛び乗り駆けていった。

「よし!それじゃあ炊き出しをする場所を確保・・・・・」

 なんでみんな俺を見て・・・・・あ、感情に任せて突走っちゃった。

「・・・一刀!」

 雪蓮が・・・・抱きついてきた。

「ご、ごめん雪蓮・・・勝手な命令出して・・・・」

「バカ・・・何言ってるのよ・・・・・」

 そう言って優しく頭を撫でてくれた。

「的確な判断だ、北郷。本当に成長したな・・・」

「今の命令、様になっていたわよ。一刀♪」

 冥琳・・・蓮華・・・。

「一刀さん、何か逞しくなった気がしますねぇ♪」

「この戦で鍛えられたんじゃろ。いい男になってきたぞ、北郷♪」

 穏、祭さん。

「伝令!三個中隊入城!!」

 雪蓮の命令でまた一騎、伝令兵が駆けていく。

「祭、思春、明命は兵が揃い次第治安維持に当たれっ!略奪狼藉を働くものを見つけたら構わないから首を撥ねてやりなさい!」

「「「御意っ!!」」」

 思春が俺の横に来て肩を叩いた。

「こちらは任せておけ。北郷、復興作業は任せたぞ。」

 思春が俺に笑い掛けた?認めて貰えたのかな・・・。

「一刀様!こちらお願いしますね♪では、行ってきます♪」

「ああ!お互い頑張ろうっ!明命!」

「はい♪」

 明命は大きく手を振って兵を迎えに行った。

 

 俺が炊き出しの指揮をしていたら卑弥呼と貂蝉がやってきた。

「ごっ主人・さ・まぁん♪」

「四日ぶりであるな、実に寂しかったぞ。」

「二人がこっちに来たって事は月と詠は保護出来たんだな!」

「もうばっちしよん♪」

「もう間も無く劉備軍もこちらに合流出来よう。」

「ありがとう、貂蝉、卑弥呼。」

 俺は二人の頭を撫でてあげた。

「赤いご主人さまにもなでなでしてもらっちゃった♪うふ♫」

「うおお!これで一週間は眠れぬほど昂ってきたぞおおお!!」

 なんか猛獣使いの気持ちってこんな感じなのかなぁ?

「それからぁ、例の件なんだけどぉ。」

「やはり奴らはこの外史に来ておらぬな。」

「そうか・・・これで不安の種が一つ減ったな。」

 自然に笑が溢れた。

「あら?貂蝉と卑弥呼じゃない♪朗報?」

 俺が笑ってるからそう取ったのか。

「ああ!緑の方は上手くいったそうだ。もう少ししたらこっちに合流出来るって。」

「そう、よかったわ♪」

「そうだわ雪蓮ちゃん、わたしたちご主人さまに褒められて気分が最高だから、コレあげちゃう♪」

 そう言って貂蝉は小さな巾着を雪蓮に手渡した。

「なにこれ?・・・章・・・じゃない!もしかしてっ・・・冥琳っ:!!」

「ん?どうした雪蓮。おや、二人とも来てたのか。」

「「おっひさあぁあ!」」

「そんな事よりちょっとこれを見て頂戴っ!」

「なんだ一体?・・・・・・・・これは!どうしたんだ一体!?」

 このタイミングで出てくるのって・・・・・アレなんだろうなぁ。

「なあ貂蝉、卑弥呼、これどこで拾った?」

「うんとねぇえ、緑のご主人さまの所からここに来る途中で着地場所間違えて枯れ井戸に落っこちちゃったのよん。」

「そうしたらその井戸の底に有ったのだ。」

 今・・・・着地って言ったよな・・・・・しかも二人で落っこちたのかよ。

「だってさ、冥琳・・・・・・それって伝国璽だろ。」

「北郷にも判るのか・・・・・・そうだな、文献に有る通りの拵えだ。まず間違い無いだろう。」

「また厄介なもの拾って来ちゃったわねぇ・・・・・」

「あれ?嬉しくないの?」

 てっきり喜ぶものかと思ったのに。

「呉一国なら大いに利用させて貰う所だが、今は同盟内の疑心と不和の種に成ってしまうぞ。」

「これは同盟の会議の時にどうするか相談させて貰いましょう。」

 雪蓮は溜息混じりに肩を竦めた。

「貂蝉、卑弥呼、これは取敢えず預かっておく。まだ、紫に伝えてないんだろ。頼む。」

「はぁい♪それじゃ、また後でねぇん♪」

「うむ、また後でな。ご主人様よ。」

 二人は案の定、飛んで行った。

 

【紫一刀turn】

「はあぁ~・・・」

 華琳は大長秋との会見から戻って来ると大きな溜息を一つ。

「お疲れ様、華琳。こっちは異常なし、劉備軍からの報告もまだだけど。」

「そう、結構手間取ってるわね。桃香の処が上手く行ったら、またここに来なければいけないのね・・・・・・憂鬱だわ。」

 華琳がそんな事言うなんて余程だな。

「秋蘭、桂花、会見はそんなに大変だったのか?」

「大長秋とはそうでも無かったんだが・・・」

「他の宦官や官僚たちの態度がね・・・ああもう!思い出しただけで腹が立つわっ!!」

 桂花だってコネが在るのにこの怒りようだ・・・こりゃ相当だな。

「さあ、早く雪蓮達に合流して、庶人への支援を始めましょう。」

「そういえばここに来るまでの街の様子・・・あれはどういう事か解ったのか?」

「董卓軍が居なくなった事で黄巾の残党が入り込んだという話だ。」

 秋蘭が答えてくれたがその顔は納得いってない様だ。

「なんか気になるのか?」

「うむ、賊が嗅ぎ付けるにしては早すぎる。しかも、城や街の警備兵、有力者の私兵も居るのにあそこまで被害が出るのも変だと思ってな・・・」

「大方自分の財産を守らせる事しかしなかったのでしょっ!」

 桂花の怒りはまだ持続中のようだ。

 そんな時、霞と貂蝉、卑弥呼がやって来た。

「華琳、報告や!劉備軍は上手く行った!!」

「よし!それでは全隊出発!!」

 移動しながら俺は貂蝉、卑弥呼と話する。

「ありがとうな、貂蝉、卑弥呼。ご苦労様♪」

俺は二人の頭を撫でてあげた。

「うふぅん♪これで三人のご主人さまになでなでしてもらえたわぁん♪」

「ぬっふうううぅぅうん♪一ヶ月は不眠不休で闘えるぞおおぉぉぉおぉっ♪♪」

「それで例の件はどうだった?」

「あのコたちの痕跡は無しよぉん♪」

「もし今後現れてもワシが銀河の彼方に放り投げてやるわ♪がっはっはっは♪」

 ・・・・・・冗談じゃなく本当にやりそうなテンションだな・・・。

「そうか・・・良かった。それじゃあ月と詠を狙った奴なんかはどうだ?」

「いたわよぉ、虎牢関が落ちたその日の夜にはもうやってきたわねぇ。」

「私達の美しさに目を回すような根性無し共で在ったがな。」

「その後は恋ちゃんのお家に隠れたんだけどぉ。」

「其処にもしつこく嗅ぎ回る連中が遣って来おったが気合だけで逃げ出したわ!」

「一刀、今の話は董卓と賈駆の事?」

 華琳にも聞こえたのか。

「ああ、やっぱり暗殺者が来たってさ。」

「本当に腐った奴等が多いわね・・・」

「そういえば華琳ちゃんにお話があったわ。」

「何かしら?」

「さっき雪蓮ちゃんに拾った物あげたら会議で相談するって言ってたわよ。」

「貂蝉、一体何拾ったんだ?」

 雪蓮が相談を持ち掛ける様な物って何だろう?

「巾着に入ったピカピカのハンコだったわよ。」

「ピカピカの・・・判子・・・って、華琳!」

「素材は何か解る!?」

「あれは(ぎょく)だな。龍の角の部分を金で補修してあったが。」

「・・・・・まさか・・・でも、只の章や璽だったら相談なんか・・・・取敢えず実物を見てみない事には・・・」

「それじゃあわたしたちは恋ちゃんのお家に戻るわねぇん。」

「引越しの手伝いをしてやらねばな。」

そう言うと二人はその場から飛んで行ってしまった。

遠くで悲鳴が聞こえたような気がするが・・・・・聞かなかった事にしよう。

 

【緑一刀turn】

 劉備軍と曹操軍が孫策軍の所に合流し情報交換の為の簡単な会議を始めた。

「なんだよそれ・・・・・」

 俺は自分の耳を疑った・・・・・・。

 桃香も、愛紗も・・・いや、それだけじゃない。

 劉備軍は勿論、曹操軍のみんなも怒りに震えている。

「愛紗!鈴々!すぐに俺達も輜重隊と工兵隊をっ!」

「御意っ!」

「警備用の兵隊も連れてくるのだっ!!」

 俺が言うのとほぼ同時に紫も叫んでいた。

「華琳!俺達も!」

「秋蘭と季衣は輜重隊と工兵隊の指揮!春蘭は凪、沙和、真桜と兵を再編後、街の警備!流琉はすぐに炊き出しの手伝いに入りなさい!」

「「「「御意っ!!」」」」

「宮廷の連中のあの態度・・・・・あれはこういう意味だったのね・・・」

「なあ華琳・・・・・・大長秋から聞いた黄巾の残党って話・・・」

「嘘の報告をされているわ・・・当然帝も・・・・・張譲達を排除しても、取って代わる連中が現れるだけなんて・・・」

 いつか俺達は朝廷を敵に回して闘う日が来るのかもしれないな・・・。

「雪蓮、桃香、白蓮、気分が悪いでしょうけど、明日は大長秋の所に一緒に来て頂戴。一応この乱の終結を報告しなくてはいけないから。」

「胸糞悪い連中から褒美を貰うなんて腹が立つけど・・・・・被害に遭った人たちに少しでも返してあげられるなら何だって貰ってやるわ。」

「そうですね・・・・・でも、こんな目に遭ってもここに住みたい人って居るんでしょうか?」

 桃香の呟きにちょっと閃いた。

「なあ朱里、雛里、ここに残っている人たちって行く宛てが無いんじゃないのかな?」

「そうですねぇ、親戚縁者が居る人はとっくに逃げ出してると思います。」

「後は逃げ出そうにもお金も物も無くて辿り着く前に死んでしまうと分かっている人たちですね。」

「それじゃあさ、今から俺達の街に移住したいって人を募集しないか?」

「ご主人さま、スゴイ!是非そうしよう!私達が帰るときに連れて行けば盗賊や食べる物の心配もいらないし♪」

 俺が雪蓮と華琳を見ると。

「また、一刀に先手取られたぁ。」

「本当ねぇ。そう言う訳だから桂花、すぐ手配なさい。」

「御意!」

「それじゃあ穏、よろしくね。」

「は~い。了解しました~。」

「雛里、お願いするよ。」

「ぎょ、御意ですぅ。」

 なんか人数が大幅に減ったな。

 俺たち三人と桃香、朱里、華琳、雪蓮、蓮華、冥琳だけだ。

 因みに星、恋、ねねは月と詠の護衛に残してきた。

「じゃあ、これから董卓の所に・・・」

「ちょっと待って!先の話しておきたい事があるの。」

 雪蓮、何かまだ情報があるのかな?

「実はさっき貂蝉から受け取ったんだけど・・・」

 そう言って見せてくれたのは・・・・・これってもしかして・・・。

「・・・伝国の・・・玉璽?」

 前の外史じゃ見なかったけど、三国志じゃ有名なアイテム。

「はわわ!た、確かに文献にある通りの形です!」

「これの扱いをどうした物かと思ってね・・・・・・どうしよっか?」

「これは・・・また厄介なモノを見つけてくれたものね・・・・・・雪蓮、これはあなたの所で保管して貰えないかしら?」

「いいの?うちで預かっちゃって。」

「見つけた貂蝉があなたにあげると言ったのだから、筋は通っているでしょう。それに下手な奴に渡ればいらぬ火種になるし、今の朝廷にそれを手にする資格が在るとも思えないしね。」

「はぁ、朝廷に関しては全く同意見だわ・・・・・はいはい、分かりました。でもこれでそれぞれが他人に言えないモノを抱え込んだわねぇ。」

 張三姉妹、月と詠、伝国の玉璽、ホント秘密が増えてくなぁ。

 

 

 翌日、桃香、雪蓮、白蓮が華琳と共に宮廷に行って来た。

 俺は劉備軍の本陣にした恋の屋敷で引越しの手伝いをしながら桃香の帰りを待っていたんだが・・・。

 帰って来た桃香の様子がおかしい・・・というか妙にふわふわしてる。

「お帰り桃香、どうっだった?」

「ご主人さま・・・・・私、帝にお会いして州牧様になっちゃった・・・」

「は?どういうコト?」

 青州の一地方でしかない平原を治めていた人間が、いきなり大陸に十三しかない州の一つを任されるって・・・いくら手柄を立てたっていってもそんな事ありなのか?

「大長秋が昨日の内に劉備軍が董卓を討ち取った報告を聞いたらしいわ。」

「華琳!?」

 ここに来るのはもっと後だったはず・・・。

「それを帝に告げたら会いたいと言われたらしくて。」

「それで帝に会うことになったと・・・」

「更に桃香が中山靖王劉勝の末裔だって話になって、靖王伝家が本物だとその場で確かめたら後はあっという間だったわ。」

「皇族の血縁だと判ったら一気に大昇進か・・・」

 そうか、肉屋さんが大将軍になるくらいだもんなぁ、充分にアリなんだ。

「大長秋の意図は見え見えだがな。」

「冥琳も!?」

「ここで恩を売って自分たちの勢力に引き入れるつもりなのだろう。」

「やっぱりそういう裏があるんだ。」

「ああ、おかげで劉備軍の連合軍内部の立場が危険になった。」

「あなたたちは明日洛陽を出発した方がいいわ。後の事は私達で上手くやっておくから。」

「そう言う訳で今後の事を決める緊急会議よ!」

「雪蓮!それにみんなも!!」

 赤と紫に軍師を中心とした各軍の頭脳派が揃っていた。

 

 会議で決めることは袁紹と袁術にどう対処するか。

「麗羽と袁術は我々同盟軍を目の敵にして狙ってくるでしょう。」

 華琳の発言から会議が始まった。

「今回の戦で麗羽の目ができるだけ私に向くように仕向けはしたけど、現状一番狙われるのは白蓮、あなたの幽州だわ。」

「わ、分かった!戻ったら直ぐに準備を始めるよ。」

 多分、劉備軍が平原に居れば最初に狙われたと思うが、俺達が徐州まで引っ込んでしまったからな。

 それでも着任したばかりで体制が整わない内に徐州を攻めてくる可能性もあるが。

「うちは冀州から離れた分、袁紹の動きが掴みづらくなったのが困った処だな。」

「私の所からも出来るだけ情報を回すわ。それから定期的に連絡を取るようにした方がいいわね。」

「孫呉の遠術への対策はどうするんだ?」

「我々は江東各地で一揆鎮圧と称して一度散らばって見せる。遠術ならこちらを消耗させるつもりで許可を出すだろう。」

 一揆の鎮圧って出費は変わらないのに得る物が少ないからな。

「我々が居なくなった処で袁紹が動けば、袁術は援軍を出して兗州か徐州を攻めるはずだ。そこで空き家になった南陽を奪い、そのまま遠術の背後を突く。」

「もし遠術が動かなかったら?」

「その時はもう腹を決めるわ。袁術からの離反を表明して対袁紹戦に参加する。」

「大丈夫なのか?それって?」

「袁術が北に向かうか東に来るかの賭けにはなるが、最悪東に来た場合我々は一度引き返して防戦になるな。そちらが袁紹を打ち破って援軍に来てくれるまで持久戦だ。」

 華琳がまた意地の悪い顔してる。

「そうならない様に麗羽と袁術が洛陽に着いたら、また挑発しておくわ。」

「よし!方針は決定したな。それじゃあ俺たちは出発の準備を始める。後始末を押し付けるみたいで心苦しいけどお願いするよ。」

「そう思ってくれるなら一つ貸しにしておくわ。いつか返して頂戴ね。」

「ああ、必ず。それから白蓮。」

「え?な、なんだ?」

「くれぐれも袁紹の動向には気を付けてくれ!」

 前の外史では白蓮がこの戦いで戦死している・・・・・それだけは何としても避けないと・・・。

「分かった。さっきも言ったけど直に準備を始める。」

 俺は白蓮の肩を掴んでその目を見詰る。

「本当に・・・死なないでくれよ、白蓮・・・」

「北郷・・・・・おまえ・・・」

「危なくなったら俺たちの所に逃げてきても構わないからな・・・」

「あぁ・・・分かった。約束するよ・・・」

「くれぐれも!絶対!必ずっ!」

 

「だああああああぁぁっ!しつこいっ!それじゃ私があっさり負けるみたいじゃないかっ!」

 

 そうして翌日、俺達劉備軍は洛陽を後にした。

 移住希望者も当然一緒に。

 一度平原へ向かい、その後で徐州下邳に入る事になるが。

 

 さあ、袁紹が動き出す前に俺達は準備を整えなくては!

 

 

あとがき

 

 

今回また長くなっちゃいました。

 

元版に無かったエピソードを

盛り込んだ所為なんですが

特に初っ端からの華蝶仮面二号

星はまだ仮面を手に入れてないので

ここはやっぱり二号の出番

月と詠にあっさり正体バラしてますがw

 

 

伝国の玉璽

ウィキで調べるまで知らなかったんですが

玉って翡翠のことだったんですね。

璽、章、印とそれぞれレベルが違うそうな。

素材も玉、金、銀、銅でレベルが変わるそうな。

う~ん、奥が深い。

 

 

次回から対麗羽&美羽の準備開始です。

 

 


 
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