大丈夫よ
彼女は囁く
何も出来なくても
人は生きているだけで何かの形で役に立っているの
そう言って微笑む
でも自分は何かをしたいんだ
僕は呟く
それはいいことよ少しずつでもやっていけばいいわ
彼女はやさしくそう続ける
悪いことでも?
悪いことがしたいの?彼女は聞く
そうではないよ
僕は答える
自分がやっていることがいいか悪いかわからないんだ
いいか悪いかは人が決めることよ
そうだね
自分が正しいと思ったらやっていけばいいわ
だいじょうぶかな
だいじょうぶ、私はあなたを知っているし、きっといいことをやれると思ってる
ありがとう僕は力なく言った
耳元で囁く声は
誰のものだったんだろう
母だろうか
いや
母は自分と子供のその時の生活を守るために
いっぱいいっぱいだった
大変だったろう
励ます余裕はなかった
ならば
ただの幻聴
心の声
願望に過ぎないのかもしれない
それでも
その声はやさしく心がこもっていた
それならば別にいいじゃないか
それで力が出るのならばどうでもかまわない
そう考えた
あれから声は聞こえない
聞こえたっていいのに
失ってしまった恋人達の中にも
その声の人はいなかったと思う
でもありがとう
ほんの少しでも僕を支えてくれた
声の主は誰だかわからない
その方がいいのかもしれない
ありがとう
そう呟いて
少しだけ目をつぶった
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その声で、よろめきながらも前に進みます。