No.375351

真説・恋姫†演技 仲帝記 第二十七羽「虎檻に渦巻く策謀と、龍は他者の逆鱗に触れる、のこと(後編)」

狭乃 狼さん

仲帝記、二日連続の投稿です。

ども、似非駄文作家こと、狭乃狼ですw

突貫作業ではありますが、虎牢関の戦い、その後編をお送りします。

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2012-02-09 19:07:41 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8687   閲覧ユーザー数:6788

 知らなかったでは済まされない失策。

 

 主のためと言うお題目の下でも、けして許されざる沈黙。

 

 その両者が重なった時、そこに現れたるは、怒りの鬼神達。

 

 敬愛する主を愚弄され、その怒り天を焦がすほどに燃え上がらせた、三人の戦乙女。

 

 紺碧の旗は、全てを(つぶて)と化す、一陣の風となり。

 

 紫紺の旗は、全てを塵と砕く、一撃の雷となり。

 

 真紅の旗は、全てを灰と散らす、一柱の焔となり。

 

 眼前にその姿を晒す、憎き敵へと、ただ只管に、全てをその激情のままに、突き進む。

 

 戦場に、感情を抑える事無く出る事は、武人としては愚の骨頂。

 

 しかし。

 

 今だけは。

 

 例え後で何があろうと、今この時だけは、感情の赴くままにその武を振るうことに、彼女達は何のためらいも無かった。

 

 そしてそれは、彼女らに付き従う、数多の兵たちも、同一の想いだった。

 

 誰も彼もが、敵の為したあの行為に、その怒りを激しく燃やし、その士気、高まる事(はなは)だしかった。

 

 それらを迎え撃つ、若き龍とその主従は、ここで、心底から思い知る事となる。

 

 誇りを汚され、怒り心頭に達した時の、人間の、生粋の武人と言うものの、その恐怖という物を……。

 

 

 

 第二十七羽「虎檻に渦巻く策謀と、龍は他者の逆鱗に触れる、のこと(後編)」

 

 

 前漢の六代景帝、中山靖王の末孫、その血に連なる家系である、と。劉備は幼い頃から、今は亡き父や、故郷にて未だ健在である母より、耳にたこが出来るほどに、毎日の様に聞かされて育った。

 その証とも言うべき、家に伝わる宝剣『靖王伝家』の存在もあり、彼女は父母のその言葉を、欠片ほどにも信じて疑わず、何時の日かその身を立てて、漢の為、世の人々の為に立ち上がりたいと、そう願い続け、幼い頃から勉学にも鍛錬にも邁進して来た。

 しかし、劉備にはそのどちらにも才能が無かったのか、勉学にしても武術にしても、並よりはよほどマシ、といった程度のものしか、身につけることは出来なかった。

 とはいえ、それでも普通の民や平均的な兵士に比べれば、遥かに上と言って良いだけの力量はあるし、事実、未だ故郷の琢県にてむしろ売りをしていた頃など、近くの町までむしろを売りにいくその行き帰りに遭遇する盗賊程度であれば、簡単に撃退する事も出来てはいた。

 

 だが、それでも、一流の武人と呼ばれるには程遠い武力でしかなく、知恵とて世の賢者と呼ばれる者達には、遠く及ぶ事もない。

 では、そんな自分に出来ることは何かと、彼女はよく、自問自答を行なうようになっていた。力も知恵もさほど持たない自分が、どうやったら世の為に役に立てるのか、と。

 

 切欠は、単純な事だった。

 

 ある日、いつもの様にむしろを売りに町に出たとき、彼女は一本の立て札に見入っていた。それは、その頃暴れ始めていた、黄巾の賊徒を討伐するための兵を集う、その地の太守からの高札だった。

 その高札を眺めながら、劉備はただ只管に、溜息を吐くしかなかった。自分一人では、どれほども役には立てないだろう、と。己が力の無さを嘆いて。

 そこに現れたのが、彼女の運命を大きく動かす事になる、二人の少女だった。

 

 「世を憂いて溜息を吐くだけなら誰にでも出来る。しかし、本気で今の世をどうにかしたいのであれば、一人で悩まず、同じ想いを持つ者を同士に迎え、供に歩んでいけばよいではないか」

 

 そう言って、自らを奮い立たせてくれた、その黒髪の少女に、劉備は強く感銘を受け、その場ですぐさま、その少女に頭を下げて請いた。

 

 「それなら是非、私の力になっていただけませんか?私は、前漢の六代景帝に連なる血筋の者として、漢の為、力無き多くの人の為に働きたいのです」

 

 その時の、彼女の真っ直ぐな目と、揺らぎ無い信念の様なものを感じ取ったその黒髪の少女は、自らが同行していた義姉妹の少女と供に、劉備を義姉と仰いで助力する事を誓った。

 

 劉備、関羽、張飛。

 

 後に、桃園の三姉妹としてその名をあげる彼女達は、その時そうして出会ったのである。

 

 さらにその後、劉備達が義勇軍を率い、幽州各地で黄巾賊を退治して回っているその間に、臥竜、鳳雛としてその名を知られつつあった、諸葛亮と龐統の二人の軍師とも出会い、黄巾の乱の後、平原の地の相としてかの地に赴任。

 その地の民に、その慈愛に満ちた、人を疑うと言うことをほとんど知らない、その人柄を良く愛され、いつしか、劉玄徳は世の大徳であるとまで、世間に評されるようになっていた。

 

 だが、この虎牢関の戦いにおいては、彼女のその人の良さという物が、完全に裏目に出てしまった。義妹である関羽、そして軍師である諸葛亮と龐統のことを、盲目的に信じすぎていたが為に、彼女にとって、いや、劉備軍にとっては最悪の、その事態を招いてしまったのであった。

 

 

 「おらおらおらおらあーーーーーっ!どかんかい、雑魚どもおーーーーーっ!ウチが用があるんは、関羽とかいうあほんだらだけやあっ!それでも邪魔するんやったら、死にたい奴から邪魔しに来いやあっ!」

 

 自慢の愛刀である飛龍偃月刀を目にも止まらぬ速さで振り抜きながら、張遼は周囲に群がる劉備軍の兵士達を、次から次へと薙ぎ払っていく。今の彼女のその目には、ただ一人の人間しか映って居なかった。

 自分の主君を、何も知らずに悪鬼羅刹呼ばわりした、あの黒髪の女のその首を、自らのその手で叩き落す。そうしなければ、自分は生きてこの場を去るなど、到底出来はしない、と。

 張遼は怒りに燃えるその瞳で、戦場の中を、まさに目を皿にするかのようにして、くまなく見渡す。

 

 「そこの者!これ以上はやらせはせんぞ!」

 「っ!……ほうか、そこにおったんか……関羽」

 「貴様……初対面の人間を姓名で呼ぶなど、それでもぶ」

 「じゃかあしいっ!己如きはそれで十分や!名を呼んで貰えるだけありがたいと思い!この、無知の恥知らず人間が!」

 

 そこまで言ったその瞬間、張遼は名乗りも何も全てを無視し、いきなり関羽へとその刃を振るった。

 

 「ぐぅっ!だ、誰が無知で恥知らずだと?!」

 「おんどれに決まっとるやろが!月っち…董相国や都の、真実の姿も知らんと、流言だけを頼りに、それだけを信じて、罪無きウチらの主君を悪人呼ばわりする。無知な恥知らず以外のなんやっちゅうねん!!」

 「真実の姿……だと?何を言って」

 「知らんでええ!いや、もう知る必要も無い!お前はここで、ウチが殺すさかいなあっ!!」

 

 怒りに駆られた攻撃という物は、ある程度のレベルに到達した武人相手には、本来なら通用などする筈も無いものである。

 だが、幼子が激情のままに出す怒りと、武人がその信念から産み出した怒りでは、全くその意味と質が異なる。

 張遼のその太刀筋には、怒り心頭の人間が繰り出しているとは到底思えないほどの、鋭く、また重いものであった。

 

 「な、何だ、この攻撃は……!?私が、捌くだけで精一杯になるなど……っ!!」

 「おらおらどしたあっ!劉備の一の矛だのなんだのほざいとったんは、たんなるこけおどしやったんかい!!」

 「言わせておけば……っ!!」

 

 さすが、と言うべきだろうか。張遼の裂帛の気合が込められたその斬撃を、紙一重とは言え関羽は悉くいなして見せ、それどころか張遼に対して、その彼女に勝るとも劣らぬ連撃を繰り出してみせた。

 

 「っ!……やるやんかい、関羽。さすが、言うだけのことはあるで。……けどなあっ!!」

 「なっ?!ま、まだ速くなるのか!?」

 

 もし、張遼が普段どおりの状態であったとしたら、おそらく関羽にはもう一歩、その力及ばなかったかもしれない。

 だが、今の彼女は普通の状態ではない。

 主君を穢されたその怒りがプラス方向へと上手く働き、後世においては武神とまで讃えられている、あの関羽を相手に、張遼は一歩も引けを取るどころか、かなり有利に戦いを進めていた。

 

 (張文遠のこの怒り、この凄まじいまでの力……なぜ、これほどの力が出て来るのだ?……まさか、まさか本当に、文遠の言っていたことは真実……)

 

 「なにぼさっとしてんねん!戦いの最中に考え事とは余裕やな関羽!それとも何か?ウチにはその程度で勝てるとでも言うつもりか!」

 「くっ!」

  

 僅かに巡らせただけのその思考の最中にも、張遼の攻撃の手は、一切止む事無く。それどころか、関羽が自分のことを侮っていると思った彼女は、さらに怒りと速さの増した攻撃を、休む事無く繰り出し続ける。

 関羽の方も、そんな張遼の攻撃に、それ以上の思考を続ける事が叶わず、とんでもない圧力のその一撃一撃を、何とか凌いで見せるのであった。

 

 

 張遼と関羽が激しく矛を交えていたその時、そこから少し離れた場所では、まさに、阿鼻叫喚の地獄絵図といった情景が展開されていた。

 

 「ぎゃあああっ!」

 「ひぎいいいいっ!」

 「た、たすけ……っ!あああああっっ!!」

 

 ただの肉の塊となって、あたり一面にその無残な姿を晒しているのは、全て劉備の率いていた兵士達、だったもの。

 

 「……死ね」

 

 それらを踏みつけ、一片たりとも表情を変えず、一度に数十人以上を吹き飛ばし、無人の野を行くがごとく歩いているのは、返り血によって顔も衣服も、その身全てを真紅に染めた、赤き髪の少女、呂布。

 確かにその顔こそ、能面の様に眉一つ動かす事の無い、静かなものであったが、彼女もまた、先の関羽が送りつけた文によって、その怒りを激しく燃え上がらせていた。

 その証左に、彼女の顔を見た者は、ある者はただそれだけで意識を飛ばし、またある者は周りになんらはばかる事無く小便を垂れ流して、必死に命乞いだけを繰り返していた。

 だが、今の呂布にとって、相手がどのような態度を取っていようが、何の関係も興味も無かった。そこにあるのはただの雑草。しかも、彼女にとっては存在している事すら許しがたい、何の価値も無いモノでしかなかった。

 

 「……月の事を馬鹿にした奴、それに関ってる奴、全員、殺す」

 「そこのお前!これ以上みんなをやらせないのだ!」

 「……誰?」

 

 そんな呂布の前に立ち塞がったのは、自身の体の倍以上はあろうかと言う巨大な矛、丈八蛇矛を携えた張飛だった。

 

 「お前の相手はこの鈴々なのだ!こっから先には一歩も進ませないのだ!」

 「……うるさい」

 「にゃっ?!」

 

 一筋の閃光。呂布がポツリと呟いたその一言の後、張飛目掛けて(はし)ったソレを、彼女は何とか受け止めることに成功したのだが、余りにも強力すぎたその一撃によって、張飛は一瞬にして矛ごと後方へと弾き飛ばされていた。

 

 「うう……て、手が痺れるのだ……こ、こいつ、強すぎるのだ……」

 「……どけ。……恋は雑魚には興味が無い。……恋が殺したいのは、関羽とかいうやつだけ」

 「愛紗……?愛紗がどうかしたのか?」

 「……恋達が大好きな月を、優しい月を、アイツは馬鹿にした。……だから、殺す」

 「っ!?」

 

 それは、張飛にとって、初めて味わう恐怖、だった。

 呂布が、関羽を殺すと言ったその瞬間に見せた、わずかばかりの笑み。それを見た瞬間、張飛の背筋には寒気が走り、その手足は小刻みに震え出し、額には玉のような汗が湧き出た。

 これが、恐怖なのか、と。

 張飛は初めて知るその感情によって、なかなか次の挙動を起こせないで居た。しかし、呂布が次に放ったその一言によって、彼女はその内に芽生えた恐怖を、何とか振り払うことに成功していた、

 

 「……アイツの仲間は全員殺す。……兵だろうと将だろうと、みんな、恋が殺す。……そして最後に、お前達の主君を、八つ裂きにする」

 「っ!……そ、そんな事……絶対にさせないのだーーーーっ!!」

 「ッ!!」

   

 裂帛の気合を込め、張飛が思い切り叫んだ時、わずかばかりとは言え、呂布は思わずたじろいでいた。

 

 「桃香お姉ちゃんも、愛紗も、誰も、鈴々が殺させやしないのだ!……鈴々は頭が悪いから、難しいことは分からないけど、でも、例え愛紗がどんな悪い事をしたとしても、それでも、鈴々にとっては、大事なお姉ちゃんなのだ!だから!」

 

 両手でしっかり、丈八蛇矛を正面に構え、震える手足を気合で押さえ込み、張飛は真っ直ぐに、呂布のその顔を見据える。

 

 「ここから先には、絶対に行かせないのだ!たりゃあーーーーーッ!」

 「……コイツ……ッ」

 

 逡巡。

 それは、呂布の中に芽生えたものとしては、ほんのわずかなものでしかなかった。しかし、そのほんの僅かの逡巡が、呂布の戟をほんの少しだけ鈍らせていたことに、呂布自身も気付けないでいたのであった。

 

 

 そして、また別の箇所でも、激しくぶつかり合っている二人が居た。

 

 「おおらっしゃあーッ!」

 「ふん!ぬるすぎるわあっ!!」

 

 秒間に十発は繰り出されているであろう、馬超の銀閃による連撃を、事も無げに全て打ち払って見せている華雄。

  

 「くそっ!また全部弾かれた!……お前、ほんとにあの華雄なのかよ!?」

 「……どういう意味でそれを言っているのかは知らんが、人間の過去の姿なぞ、何の役にも立ちはしないものだ。ましてや、今の私にはなおさらな!」

 

 馬超のその言葉を軽く流し、華雄はその手の金剛爆斧を、彼女目掛けて凄まじい勢いで横に凪ぐ。馬超はそれを、寸手のところで何とかかわし、再び銀閃を繰り出すのであるが、先ほど同様、なんら動じる事無く、華雄はその全てを受け止め、逆に、馬超目掛けて再び斧を振るう。

 

 「士別れて三日なれば、刮目して相待すべし、と言うだろう。……まして、お前と会うのも数年ぶりのこと。あの頃のままの私しか知らぬお前には、今の私は止められはせん!」

 「くっ……そ」

 「昔の誼に免じて、お前の事は斬らずに置いてやる。……だからそこを退け、孟起」

 

 肩口に斧を構え、馬超のことをきっと睨みつけ、華雄は彼女に対し、一言、こう言って撤退を促した。

 

 「……正義無き、ましてや、真実さえも知らずに、人の主君を中傷するような輩どもに、これ以上力を貸すようであれば、例えお前といえども容赦はせん!もう一度言う、そこを退け、馬孟起!」

 「……あたしが退いたら、お前は如何するんだよ」

 「……決まっている。……偽りに踊らされたまま、それと知らずに、我が主君を罵倒した関羽とその主君を……殺す」

 「……っ。い……かせ……ねえ……っ!」

 

 自らの相棒である槍、銀閃を再び真っ直ぐに構え直し、馬超は再び、華雄の前に立ちはだかる。

 

 「……何故、そこまでする?お前には、劉備たちに何の義理も無いはずだろう」

 「義理なら……あるさ」

 「何?」

 「……例え一度でも、同じ釜の飯を食った仲間である以上、そこでもう、あたしらは仲間なのさ。そして、仲間と認めた以上は、何があってもそいつらを守り抜く!それが涼州人の、そして西涼の錦と呼ばれたあたしの、絶対曲げられない矜持なんだ!」

 「……そうか……ならば」

 

 馬超のその覚悟を目の当たりし、その意思揺るぎ難いものと悟った華雄が軽く一息を吐くと同時に、大気が華雄を中心にして、静かに渦を巻き始める。

 

 「もはやこれ以上は何も言わん。……馬孟起よ、お前がどうしても邪魔をするのであれば、私はお前を殺してでも、この場を通り抜けるのみ!」

 「っ……!へっ、上等!」

 

 ほんの僅かな時か。それとも、永劫の様に長い時か。暫しの正対の後、二人はほぼ同時に、相手に向かって吼えていた。

 

 「おおおおおおああああああっっっっ!」

 「だあああらっしゃああああっっっっ!」

 

 

 「……随分圧されている様ね」

 「董卓軍側の将兵の今の気質からすれば、それも仕方の無い事かと」

 「そうね。……関から討って出させたのは良いけれど、一体どんな手段を使ったのやら」

 

 先鋒軍の少し後方、連合の本隊を率いている曹操は、董卓軍のその余りの勢いぶりに圧されている先方勢を見て、眉間に皺を寄せていた。

 関から相手を引きずり出し、先鋒軍が気を惹き付ける。そこまではまだ良い。曹操も先鋒軍がそうする事は十分分かりきっていた事であるし、もしそれに手間取るようであれば、自分がそれを行なう腹積もりでも居たわけであるから。

 しかし、予想以上の董卓軍の圧倒振りによって、先鋒軍は既に瓦解し始めていると言って良い状態になっていた。流石に、この状態をこれ以上放置しておくわけにも行かず、彼女は傍に控えている自軍の軍師、荀彧へとその視線を向けて、一つの命令を下した。

 

 「……桂花」

 「はい、華琳さま」

 「春蘭と秋蘭に、先鋒勢に加勢するよう伝えなさい。それと、後方に居る孫文台にも、伝令を送りなさい。……檻はそっちに譲る、と」

 「……宜しいのですか?」

 「ええ。……私達は汜水を落とせたことで、もう十分に名を得られたから」

 「……は」

 

 曹操の命令を聞き、少々不承不承気味ではあるものの、荀彧はすぐさま伝令兵を呼びつけ、本隊の両翼に位置している夏侯姉妹と、後方で輜重を管理している孫堅の下へと、それぞれに走らせた。

 

 「……なんであれ、この虎牢関さえ抜いて、都に私達が着きさえすれば、“真実”なんていくらでも伝えようがあるし、ね……うっふふふふ」

 

 都の情勢や董卓の真実など、曹操にとっては些細な事柄に過ぎなかった。自分が都に到着して、帝の身柄を確保、もしくは知己だけでも作って置くことこそが、曹操の本来の目的であり、腹心である夏侯姉妹も、参謀であり右腕である荀彧すらも知らない、曹操の連合への本当の参画目的だったのである。

 

 「董卓が、天和たちみたいに、使える駒だったのなら良いけど、そうでなかった場合、どう扱うべきかしらね……。正直、そっちの方が、今の私には悩みの種なのよね……ふふ」

 

 最終的な結果がどうであれ、彼女には全てを丸く収められる自身がある。その為に、連合の総大将も、あくまで仮の、代理と言う立場に自分を置いたのであるし、袁紹というお飾りを、未だ汜水関に留めてもいるのである。

 

 その辺りのことを考えるだけで、つい、笑みのこぼれてしまう曹操であったが、伝令を送り終えた荀彧がその場に戻ってくると、すぐさま何事も無かったかのように、何時もの冷徹な表情へと、自分の顔を正すのであった。

 

 そして、それから四半刻もしない内に、虎牢関での戦いは、その大詰めを迎えたのである。

 

 

 

 張遼と関羽。呂布と張飛。そして華雄と馬超。

 

 初めの内は、三組供に離れた場所で戦っていたのであるが、ふと気がついてみれば、全員が全員、ほぼ同一の場所で激闘を演じていた。

 

 「はあ、はあ、はあ……鈴々、それと孟起殿。……まだ、生きているか?」

 「鈴々はまだ、全然、へいちゃらなのだ……っ」

 「あたしだって、まだまだ戦えるさ!」

 

 互いにその背を預けあい、それぞれに一騎打ちの相手を見据え、再び戦闘態勢を取る関羽たち。三人が三人とも、すでに満身創痍の様相を呈しつつあったが、それでも、未だに闘志の光が彼女達の瞳からは失われていなかった。

 

 「はあ、はあ、はあ……おまえら、ええ加減しぶといっちゅうねん。……とっとと武器を捨てて、自分のした事謝りながら、その首、ウチらに明け渡さんかい」

 「……霞。こいつらには、何も言っても無駄……さっさと、終らせる……」

 「……そう、だな。……呂布も、珍しく息が上がって来ているようだし、早い所こいつらに止めを……」

 

 怒りに任せた全力での戦闘。それによって、さしもの張遼たちもその息を荒くし、肩で大きく息をしていた。確かに、初めの内は張遼たちのその怒りに満ちた激しい攻撃によって、彼女らの方が圧倒的に有利な戦いを繰り広げてはいた。

 しかしその反面、普段ならば出来ている筈のペース配分という物が、この時の彼女たちには満足に出来て居なかったことが、関羽たちにとって功を奏した。後先考えない全力を最初から出しすぎたため、張遼と華雄のみならず、呂布すらもその体力に限界が来始めていた。

 特に呂布にいたっては、張飛とぶつかるその直前まで、劉備軍や公孫賛軍の兵を薙ぎ払いまくっていたため、その体力の低下は他の二人よりも顕著であった。

 

 「……鈴々。桃香様がどうなったか……ここから分かるか?」

 「分かんないのだ。……砂埃が凄すぎて、周りが全然見えないのだ」

 「……こっちも、同じだ。……ここからじゃあ、どうなってるか全く見えないぜ」

 

 六人の周囲では、未だに董卓軍と劉備、公孫賛、馬岱がそれぞれに率いる部隊が、激しく入り混じって戦っていた。それによって巻き起こっている砂埃や土煙によって、周囲の視界は最悪の状態となっている。

 余りにも濃すぎる霧の中では、正面に伸ばした自分の手が見えなくなると言うが、そこはまさに、それにかなり近い様相となっていた。

 

 「……ウチらの部隊も似たような状況、か。……周りが全然みえへんな」

 「……霞。華雄」

 「なんだ、呂布?」

 「……もし、今、こいつらの援軍が来たら……どうなる?」

 『!?』

 

 それは、張遼と華雄にとって、完全な失念だった。

 董卓の事を酷く愚弄された余り、目の前にいる関羽達のことしか、彼女らの目には映らなくなってしまったいた。関羽達はあくまでも、連合軍にとっての先鋒部隊でしかないということを、完全にその頭の中から追いやってしまっていた彼女達。

 

 「……まずい。もし、今この時点で援軍が来でもしたら……っ!」

 「……逆に、我らが殲滅されてしまう……っ!張遼!呂布!」

 「ん!」

 「わあっとる!……関羽!残念やけど、お前のその首、一旦預けとくで!」

 

 自分達が今、最悪な状況に居る事に、ここに来て漸く気がついた張遼たちは、すぐさま虎牢関へと撤退する事を即断した。そして、念のためにと袁術から預かっていた、陳蘭手製の合図弾、所謂ロケット花火に近いそれを、中空目がけて慌てて打ち上げた。

 

 

 

 戦場の只中に突如として上がった、一筋の炎と煙。虎牢関に残っていた袁術たちも、それにはすぐ気がつけてはいた。

 そう。気が付けてはいた……のであるが。

 

 「駄目ですお嬢様!もう、これ以上はもちませんよお~!」

 「くっ……!蓮樹おば様の軍が、これほどまでに関攻めが上手いとは……!」

 「孫家といえば水軍、水軍といえば孫家……。そんな考えに、凝り固まりすぎていたようですねえ」

 「美羽様、ここは文台様にご協力を願っては」

 「それは駄目じゃ!これ以上、伯母様を妾の我侭につき合わせてはならん!……誰ぞ、関の外へ決死の伝令、名乗り上げるものはおらぬか!?」

 「お嬢様?」

 

 孫堅に対して、再び助力を願ってはどうかと進言した紀霊の言を即座に拒否し、その代り、袁術は周囲の兵たちにそんな事を問いかける。現在関に寄せて来ている孫堅の部隊を潜り抜け、張遼たちに虎牢関では無く洛陽へ直接、間道を使って撤退するよう伝える、一か八かのそんな危険な役を、誰か名乗り出てはくれないか、と。

 

 それから数分後。関の門前にて激しく攻め立てている孫堅の軍の中から、一人だけ鎧の色の違う兵士が飛び出し、後方にて上がる土煙目指してその場を離れていく姿があった。

 

 「……宜しかったのですか、文台様」

 「ああ。……これが正真正銘、あの娘に手を貸す最後の一手さね。まあ、いきなり城壁の上からさっきの兵士が降りてきた時には驚いたけど、結構無茶な事をやらせるもんだね、あの娘も」

 「……それだけ、公路殿も必死だと言うことでしょう」

 

 袁術が半ば強引に出したその伝令兵が現れたとき、孫堅はその意図する所にすぐさま気がついた。袁術は、というより、関内部の董卓勢は、もう間も無く撤退を開始する腹積もりだ、と。それゆえ、彼女はすぐにその伝令兵を安全に後方へと下がらせ、そのまま走り去っていくのを黙認したのである。

 

 そして、それから更に数十分後には、虎牢関の城壁の上に、赤く染め抜かれた孫家の旗が、高々と翻っていた。

 

 こうして、鉄壁を誇った虎牢関は、連合軍のその手に陥落。意気揚々と入場する連合軍のその中で、劉備と公孫賛、そして馬超らの率いる部隊とその将たちだけが、一様にしてその顔に暗い陰を落としていた。

 

 一方で、洛陽へと撤退した張遼たちは、無事、彼女らと同様に洛陽を目指していた袁術達と合流を果たし、疲れきったその体を引きずるようにして、都へと戻ったのであった。

 

 ~続く~

 

 

 狼「おーっし、虎牢関の状況終了っと。あ、ども。作者の狭乃狼です」

 輝「アシスタント、輝里です。いや、今回は久々に大演劇だったねー」

 命「アシその2、命じゃ。虎牢関の大熱戦。うむ、後世にまで伝わる一大ドラマとなりそうじゃな」

 狼「ほんとにそうなったら、作者冥利に尽きるんだけどねー」

 

 輝「さて、今回のお話で解説するところは・・・私の宛県居残り理由が、ちゃんとはっきりしたって事かな」

 狼「まあ、前編部分での話だけどね。な?ちゃんと意味のある居残りだったろ?」

 命「妾はちゃんと、親父どのこと信じておったぞ?・・・えらい?」

 狼「うん、命はえらい!(なでなで)」

 命「ほっほっほ。もっともっと褒めてたもー♪」

 輝「・・・・・・親娘馬鹿」

 命「羨ましいならそう言えば良かろうが」

 輝「べ、別にそんな事は誰も言ってな・・・!」

 命「はいはい。ツンデレ、乙。じゃあ、次、行ってみようか」

 

 狼「あ、そうそう。今回、霞が作中で使った、陳蘭こと千州作の合図弾ですが、作った経緯とかについては、今後の拠点でお話しする予定なんで、あんまり深く突っ込まないで下さいませ」

 輝「で?これから桃香さんたち蜀組の面子、ぶっちゃけどうなるの?」

 狼「んー。一応、今回の戦いでの彼女達の行動、後々大事になってくる伏線なんで、今のところは何も言えない」

 命「・・・考えてないだけ、とか、まさか言わんじゃろうな?」

 狼「そんな事無いっての。・・・どんだけ信用無いの、俺」

 輝&命『・・・・・・・99%ぐらい?』

 狼「・・・・・・・・・・・・・・・良いもん良いもん、フンだフンだ」

 輝「あ、すねた」

 命「それじゃあ、向こうでいじけ始めた親父殿は放って置いて、今回はここまで」

 

 輝「それではまた次回、仲帝記の第二十八羽にて、お会いしましょう」

 狼「今回もコメント、多数、お待ちしてます」

 命「お、復活しおった。・・・それでは皆の衆?マナーをきちんと守ったたくさんのコメント、妾も待ったおるでな?」

 輝「ついでに、気が向いたら支援ボタンの方も、宜しかったら押してやってください。・・・父さんには贅沢だと想いますけど♪」

 狼「最後の一言だけ余計だっての!・・・ごほん。それではみなさま、今回はこれにて!」

 

 三人『再見~!!』

 

 

 


 
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