No.372428

『改訂版』真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部 其の一

雷起さん

修正&大幅加筆となっております。

正直、自分でもこんなに加筆するとは思っていませんでした。

ご意見、ご指摘、ご感想、ご要望、さらに「ちょっと!いつになったらシャオは一刀に会えるのよっ!!」などのお叱りがご座いましたら是非コメント下さいませ。

2012-02-03 20:40:10 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:6681   閲覧ユーザー数:5058

はじめに

 

この外史はPC版恋姫無双、PC版真・恋姫無双を基礎に語られる外史です。

 

物語の最初はPC版真・恋姫無双に準じております。

各√の「共通」

★蜀√第二章二節まで同じ、第三章以降第五章一節途中まで曹操軍との邂逅が無かったものとします。

★魏√第四章三節まで同じ、第五章以降第六章一節途中まで孫策軍、董卓軍との邂逅無し、並びに一刀と斗詩、猪々子との邂逅が無かったものとします。

★呉√第三章一節まで同じ、第三章二節以降第四章一節途中まで曹操軍、劉備軍との邂逅が無かったものとします。また、黄巾党討伐で孫策軍が撃破したのは本隊ではないとします。

★漢女√001まで同じ、張三姉妹は無事逃げ延び魏ルートへ移動したものとします。漢女ルートの北郷一刀は現れなかったものとします。

 

以上を踏まえた上でお読みくださいますようお願い申し上げます。

 

また、第二部以降は萌将伝も含まれていきます。

 

 

 

 

真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部

 

 

 

 天から三つの流星が大陸に降りた。

 一つは幽州

 一つは兗州

 一つは荊州

 それが新たな外史の始まりを告げる。

 

ついでにもう一つ漢中のとある場所にも墜落した・・・。

 

 

劉備軍 幽州 公孫賛居城

 

俺、北郷一刀が桃香たちと出会い白蓮の元で客将のみたいなことをしていた頃に、こんな噂が聞こえてきた。

 

「天の御遣いがご主人様以外にも居るだと!?」

 

愛紗の驚愕の声が太守の間に響きわたった。

「うむ。先ほど市の屋台で行商人から聞いてな。」

星は旨い酒の肴を仕入れたかのように答えた。

まあ、星には実際そうなんだろうなぁ。

しかし、俺にはその程度で聞き流せる話題じゃ無いぞ。

この世界に放り出された時からあるいろんな疑問のうちの一つが『俺がどうやってこの世界にやってきたのか?』って事なんだけど。

「俺以外にもここに来た人が居る・・・ってことか?」

 俺が腕を組んで唸ると星がニヤリと笑う。なんだ?その笑顔は?

「ふふふ、さぁてそれはどうかな?」

噂を伝えた本人が否定するの?

「え?どういうこと星ちゃん??」

桃香は星の言っている意味が判らないという顔をしている。

もちろん俺をはじめ愛紗、鈴々、白蓮も同じだ。

「私が聞いた話では、ここにいる北郷一刀殿を含め三名いるらしい。」

「天の御遣いを名乗る者がご主人様以外にあと二人いると・・・」

愛紗が愕然として呟いた。

それはそうだ、俺達は『天の御遣い』という御輿を担いで挙兵したんだ。

その御輿が三つも表れてはその意味が薄れてしまうじゃないか。

 

「いや、正確には『北郷一刀』を名乗るものがあと二人居るらしいのだ。」

 

「「「「「はあああああああ??????」」」」」

聞いていた全員の目が点になる。なんじゃそりゃ?

愛紗は逸早く我に返り呆れ顔に・・・・・。

「・・・・・それはつまり・・・ご主人様の名を騙った偽者ということではないか!」

「まあ、そんな処だと思うがな。」

星はみんなから期待通りの反応が得られたことで満面の笑顔だ。

「お兄ちゃんのニセモノなんて許せないのだ!」

鈴々がその小さな体全部でプンスカしている。

「まあ、ニセモノが現れるって事は俺もそれなりに名前が売れてきたって事かな?」

冗談めかして言ってみたが桃香、愛紗、鈴々には効果が無かったらしくジト目で見られた・・・・・・場を和ませようとしたんだけど・・・。

「何を落ち着いていらっしゃるのですかっ!もしそやつらがご主人様の評判を落とすような事をしでかしたらどうなさるおつもりですか!!」

いや、そんなこと俺に怒られても・・・・・・

桃香は思案顔で星に問いかける。

「そうだよねえ。悪い噂が立つのは困るなぁ。ねえ星ちゃん、その二人はどの辺に居るのか聞いてる?」

「うむ。それがな、一人は兗州陳留の牧、曹操殿のところにいるらしい。」

「陳留?結構遠いよね。もうそんなところまで噂が広まってるんだねえ。」

「曹操が?あいつがそんな事するかな?」

白蓮が意外そうだ。そうか白蓮は曹操の事知ってるんだ。

「白蓮ちゃん、その曹操さんのこと知ってるの?」

「ああ、でもあいつって天の御遣いなんて胡散臭いものには程遠いやつだと思ってたけどなあ。」

「俺って胡散臭いんだ・・・」

ちょっと落ち込む俺・・・。

「ああ!ごめん!!そんな意味じゃなく・・・」

「もう一人はどこにいるのだ?」

落ち込む俺と慌てる白蓮を無視して鈴々が話の先を促す。

「もう一人は荊州の孫策の下に居るそうだ。」

「荊州って!そんな遠い所に!?」

桃香はまるで荊州が地の果てみたいに驚いていた。

「それはいくらなんでも遠すぎではないか?」

愛紗も呆れ返っている。

しかし、俺は逆に孫策の名前を聞いた瞬間にこれまで以上に驚いた。

劉備、曹操、孫策。この三人の下に『北郷一刀』が居る?

一体どうなってんだ?

「とにかく、そんな遠くじゃ今の俺たちにはどうすることもできないさ。」

「それはそうですが・・・」

愛紗は納得いかないみたいだな。そりゃそうか。

「なにかあれば噂がまた流れて来るって。それに、変な噂が流れてもそれ以上のことをしてぶっ飛ばせばいいさ。」

俺は内心の不安を隠し務めて明るく言った。

「ほう、北郷殿はなかなか肝が座っていらっしゃる。ただの能天気かもしれんが。」

星が感心したように頷いている。

「お姉ちゃんといい勝負なのだ。」

鈴々がニャハハというと、

「え~~~?」

と、桃香から不満の声が上がり、みんなからは笑い声が上がった。

 

その後、俺以外の『北郷一刀』の噂は暫く聞くことは無かった。

 

劉備軍平原城

 

そして半年程が過ぎ、黄巾党の乱が収束し俺たちが青洲の平原の相として赴任したころの事。

その話題はまたしても星の口から伝えられた。

 

「北郷殿、あなたは何者だ!?」

 

星は開口一番、俺を睨みながら詰問してきた。

「え!?」

俺は訳も判らずただ星の剣幕に圧倒されるだけだ。

「どうしたのというのだ星?半年振りに再会したと思ったらいきなり!」

愛紗も星との再会を喜び合うものと思っていたのが、この星の突然の憤りに戸惑っているようだ。

「私はここ暫く、諸国を旅してきた。」

「そ、そうなんだ・・・」

「その旅先で私はあなたに出会った( ・・・・・・・・・・・・)。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

星の顔は真剣だ。しかし俺を含め今この場にいる全員が星の言葉の意味を理解できていなかった。

「あのう、ごめんなさい星ちゃん。言ってる意味がよく解かんないんだけど・・・詳しく教えてもらっていいかな?」

桃香が冷や汗と引きつった笑顔で問いかける。

「よろしい、まずは私が以前『北郷一刀』殿が三人いるという噂話をしたのを覚えておいでか?」

「あ~、そういえばそんなこと有ったね~。その後噂らしい噂聞かないから忘れてたけど。」

「私は諸国を旅するついでにその噂も確かめ笑い話の種にでもしてやろうと思っていたのだが・・・・・荊州の地で出会ったのはあなたに瓜二つの姿だった。」

星はここで一息ついて俺の姿を上から下まで見つめ

「本当に瓜二つだった。私も最初は噂を聞いて似たような人間を連れてきたのかと思っていた。しかし、気配もここまで同じとなるとな。そして街の人間に話を聞いてみるとその『北郷一刀』は孫策本人が流星の落ちた場所から拾ってきたそうだ。今では孫策の軍師として地位を得ている。」

「はわわ、軍師ですか!?」

朱里が俺の顔を見て何故か顔を赤くしている。

「しかも、その『北郷一刀』の本当の役目は孫呉に天の血を入れること。」

「「「「「!」」」」」「?」

 鈴々以外の全員の顔が朱に染まった。

「どういう意味なのだ?」

「「ええと・・・それは~~~」」

一人キョトンとしている鈴々に朱里と雛里の二人が説明しようとしている。

二人とも鈴々に変なこと教えないでくれよ~・・・などと思っていたら

「つまり『種馬』だな。」

星は身も蓋もない事をあっさり言ってしまった。

「ウラヤマシイ・・・」

「ご主人様っ!!」

うおっ!思わず本音が・・・・・・・・愛紗さん視線が痛い!

「次に陳留に向かいもう一人の『北郷一刀』も確かめた。やはりこちらの『北郷殿』もまったく同じ姿容だった。そしてこちらは街の警備隊長をしていたので会話も交わすことができた。」

「お話ししたのっ!?」

 桃香が声を上げて身を乗り出した。

「実は私も失念していたのだがこちらの北郷殿とは白珪殿のところにやっかいになる前に出会っていた。」

「「「「「「えええええええええええええええ!!!!!」」」」」」

なんじゃそりゃああああああ

「最初私は警邏中のその『北郷殿』の前に姿を見せたのだ。何かやましいところがあれば逃げるか何かすると思ったからだ。しかし『北郷殿』は笑顔を浮かべ話しかけて来た。しかし私の名を真名しか分からないから教えて欲しいと言う。そこで私ははっきり思い出したのだ、以前旅の途中で盗賊に襲われている『北郷殿』を助けたことを。どうやらその時ちょうど天の国から来た直後だったらしい。真名はそのときの旅の連れが呼んでいたのを覚えていたとのことだった。」

「何故そんなことを忘れていたんだ?しかも何故お前が助けたのに曹操のところにいる?」

愛紗は呆れと困惑の入り混じった複雑な表情で星に訊いた。

「私が助けた直後に官軍が来てな、そのとき私は官軍に関わるのが嫌だったのでその場から退散したのだが、その官軍が曹操の部隊だったのだ。」

 

(放り出して逃げたんだ・・・)

 

全員が同じ事を思ったがあえて口にはしなかった。

「さて、という訳で北郷殿。最初の質問に戻ろう。あなた達は何者だ!?三つ子なのか?それとも天の国の住人は皆同じ顔なのか?」

星は俺に詰め寄るが、俺にだって何がなんだか判らない。

「俺に男の兄弟は居ないし、俺とそっくりなやつに会ったことだってないよ!何が起こってるのか俺が知りたいよ!!!」

暫く俺と星は睨み合う。

しかし不意に星が笑って顔を離した。

「うむ、嘘はついておられぬようだ。ここは我が直感を信じることにしよう。」

「へ?」

「数々の無礼お許し願いたい。私がここに来た本来の目的はこちらで我が力を奮るいたいと思ってだったのだが、その前に迷いを絶っておこうと思いこのような振る舞いをさせていただいた。」

「と、いうことは・・・俺たちの仲間になってくれるってこと?」

「御意に。」

「でもなんで突然・・・?」

「こんな大陸を巻き込むかのような厄介ごと・・・・・・」

沈痛な面持ちでその理由を語りだした星・・・・・・・・と思ったら。

 

「面白そうだからに決まっておるではないか♪」

 

実に無邪気な笑顔で言われた。

と、言うわけで星こと趙雲子龍が仲間になった・・・なんか釈然としないけど。

 

時は三箇月程遡る

 

曹操軍陳留城 

 

「兄ちゃん幽州に行ったことってある?」

季衣が唐突に訊いてきた。

昼下がりの庭園。華琳、桂花、春蘭、秋蘭、季衣の五人が東屋にいるのを見かけたので、ちょっと挨拶をと立ち寄ったらいきなりこれである。

「へ?幽州って・・・たしか北の方だったよな。いやないよ。」

「どうしたの季衣?」

華琳もいきなりそんなことを言い出した季衣を不思議そうに見つめる。

「それがですね華琳様、今日ボクが屋台でごはん食べてる時『天の遣いが義勇軍を率いて黄巾党をたおしてまわってる。』って聞いたんですよ。」

「なんだそれは?北郷はずっと我々と一緒にいたではないか。」

春蘭が呆れた顔で言い放つ。

「大方どこかでこの馬鹿の噂を聞いた馬鹿が名を騙っているのだろう。」

「姉者の言うとおりだろうな。なあ季衣、そやつは名を名乗っているのか?」

秋蘭も呆れ顔だ。

そういう俺も似たようなもんだ、天の遣いなんていい宣伝になりそうだもんな。

しかし季衣の口から出たその名を聞いて俺は焦った。

 

「その人、北郷一刀って名乗ってるそうですよ。」

 

「はあ?この馬鹿の名前を名乗るって正真正銘の馬鹿ね!」

それまで無関心だった桂花が会話に参加してきた。

って、んなこと言うならそのまま無関心でいてくれたほうがいいよ!

華琳は思案顔で疑問を口にする。

「でも変ね?わざわざ一刀の名を名乗っているのなら、私たちの評判を落とすための何処かの工作かと思ったのだけど、やっていることはその逆・・・・・・どういうつもりかしら?」

「北郷!お前もしや私たちの知らぬところで義勇軍をやっているのではあるまいな!!」

「あのな春蘭、お前がさっきずっと一緒にいたって言ったばかりだろうが!」

「むぅ、それもそうか。」

なあ春蘭、僅かでもいいから考えてから発言しようぜ。頼むから。

「どうしましょう華琳さま。細作を放っておきましょうか?」

「そうね、今は情報が少なすぎるわ。秋蘭おねがいね。」

「御意。」 

 

その後の調査で孫策の所にも『北郷一刀』がいるという報告が入ってきた。

どうなってるんだ一体?

 

孫策軍荊州 

 

俺が雪蓮に捕まり城内から街へと連れ出されそうになったところで、冥琳にばったり出くわした。

「あぁ雪蓮、北郷、ちょうどいい。いま探しに行こうと思っていた処だった。さきほど北に放っていた細作が気になる情報を持ってきたのでな。」

冥琳が真剣な面持ちで挨拶もせず話し始めた。

「どうしたの冥琳?そんな怖い顔して。」

いまからサボろうとしていた雪蓮がそんなことをおくびにも出さず訊くと、とんでもない答えが返ってきた。

「北郷、お前の偽者が二人現れた。」

「は?」

俺は冥琳の言葉に間抜けな返事しかできなかった。

「冥琳、それって天の遣いを騙ってる馬鹿が出てきた話じゃないの?そんなの菅輅のあの占い聞いたやつが考えそうなことじゃない。そんな慌てなくても・・・」

雪蓮は少々呆れ顔である。

「そうじゃない。『天の御遣いの北郷一刀』が二人よ!」

「はあ!?どういうことよ?」

「一人は義勇軍を率いて黄巾党を討伐して回ってて。もう一人は曹操のところにいるらしい。」

「なにそれ?ねえ一刀、あなた心当たりある?」

雪連が俺の顔をのぞき込むが俺の答えは決まっている。

「あるわけないだろ。曹操なんて会ったことないし、この世界のことようやく理解しはじめた俺に義勇軍なんか集められるはずもない。」

「そりゃそうよねえ。」

雪連は少し思案すると悪戯を思いついた子供の様な顔になる。

「でもこの状況は袁術ちゃんから一刀の存在を隠すのに都合がいいわねぇ。」

「うむ、袁術はそれでいいが、その二人のことが気になるわ。細作には更に情報を集めさせるわね。」

「任せるわ、よろしくね冥琳♡」

雪連は笑顔でそう言うとこの場を立ち去ろうとしたが。

「ちょっと待て、雪蓮。」

冥琳に呼び止められた。

「今日の仕事場はこっちのはずだが?」

そんなわけで雪連は仕事に連れ戻されたのだった。

しかも俺まで巻き込まれて手伝わされる事に・・・。

 

反董卓連合参戦直前

 

俺たち劉備軍は反董卓連合に合流する前に曹操、孫策の軍に使者を送り会合を持ちたいと打診した。

 

『北郷一刀』の名前でだ。

 

正直無謀な提案だと思うが、俺としては『俺以外の北郷一刀』をこの目で確認したかった。

そして返事は双方ともに

 

『応』

 

とのことだ。

本当のところ俺は黄巾党討伐時に、孫策は無理でも曹操には会えるんじゃないかと期待していた。

三国志演義ではそういうシーンが有ったのになぁ。

董卓を攻める前に孫堅が居ない世界だもんな、朱里と雛里の例もあるし。

まあそんな訳で、今回の会合では向こうには俺の情報なんて駄々漏れだろうから、こっちは気にすることなど何もない。しかし向こうはそうじゃないはず。

それでもこの会合を了承したということは、向こうでもさらに情報が欲しいってことなんだろう。

 

「ご、ご主人様!砂煙がふたつ、み、見えました。ひとつは東、曹の牙門旗。もうひとつは南、こちらは孫の牙門旗でしゅ!」

「朱里、落ち着いて。戦になるわけじゃないんだから。」

俺は、はわわってる朱里の頭をなでて微笑む。雛里も一緒になってあわわっていてその微笑ましさに落ち着く自分を認識する。

わざとなのかな?だとするとこんな姿でも諸葛亮と鳳統、流石だと思うが・・・・まあ、天然だろうなあ。

「さて、それじゃ行くとしますか。」

「「はい。ご主人様!」」

俺達は予め用意しておいた、平地にぽつんと立てた天幕へと向かう。そのメンバーは俺、桃香、愛紗、鈴々、星、朱里、雛里。

そして曹操側から十人、孫策側から八人、天幕へとやってくるがその中に各陣営に一人ずつ同じ格好の人間がいる。

 

つまり聖フランチェスカ学園の制服を着た男。

『北郷一刀』この俺だ。

 

お互いの表情が確認できる距離まで来ると、もう全員同じ唖然とした表情なのが判る。

その全員がそれ以外の反応ができないのが明らかだ。

欠く言う俺も自分と同じ顔が二つも並んでんだ、心中穏やかじゃなかったがここは気力を振り絞って挨拶を交わす。

 

「この度は反董卓連合への参加前に急遽この会合に参加していただいたこと、深く感謝します。俺は・・・って、なんか名乗るのも変に感じるかもしれないが、俺は北郷一刀。」

 

俺はあえてここで口を止めた。

案の定、曹、孫、両陣営からどよめきが起こった。

「天の遣いなんて名乗ってるが本当の所はこの国に突然落っことされた異邦人ってかんじさ。故あってこっちの劉備玄徳のところで旗印みたいなことをやってる・・・・そっちの二人も似たようなモンなんだろ?」

「ああ・・・・俺もそんな感じだ。そっちは?」

「同じく・・・目が覚めたらここにいた。」

俺たち三人はお互いの顔をまじまじと見つめた後、まったく同時に深いため息をついた。

「結局、なにも解らないってことなのね。まあ、予想はしてたけど。」

クルクルツインテールの女の子がつぶやいた。

「はじめまして・・・って、なんか変な感じだけど、私は曹孟徳よ。」

曹操の挨拶を皮切りにここに集まった全員が自己紹介していく。

 

「さて、自己紹介も終ったし本題に入るとしましょうか。一刀。」

「おう。」

「はい。」

「へ?」

「・・・・・・・・・・・」

あ、なんか怒ってる?

「私のところの一刀!こっち来なさい。」

「ああ、なんだ華琳?」

「あなたコレを付けてなさい。」

そう言って曹操は紫の紐を頭に巻きつけた。

「あ、それいいわね。私もさっきからどれがうちの一刀か分かんなくなってたのよ。」

孫策が赤い紐を取り出す。

「オレオレ・・・って、雪蓮?ぶわ!」

孫策は何を考えているのか向こうの俺の顔を胸に埋めて、その頭に紐を巻きつけた。

うわ、うらやましい・・・・

って、なんか殺気のようなものを周囲からビリビリと感じるんですが・・・。

「さあ、ご主人様もこちらへ。」

愛紗がニッコリ笑顔で緑色の紐を手に近づいてくる。

俺はその場で待って・・・いや、その場から動けなかった。愛紗の放つ殺気のせいで。

そして俺の頭には緑の紐が結ばれた。

・・・・・・首しめられるかと思った・・・・。

「さてと、今度こそ本題に入るわ。この三勢力で同盟を結ぶ。どうかしら?」

曹操は本当に単刀直入に言い切った。

「今回の董卓討伐は、いわば麗羽・・・袁紹の見栄と我侭の為の戦よ。それに乗っかって名を上げようとしている諸侯が集まったって言うのが実態。まあ、庶人が苦しめられているなら助けたいというのも私の本音。でも、本当に苦しめられているならね。」

「曹操さんも同じ考えなんですね。私たちの軍師も同じ答えです。」

桃香が驚いた顔で相槌をうつ。

「孫策はどう?」

「ま、同じようなもんよ。」

「で、今回最大の障害になるのが麗羽の馬鹿なわけよ。どうせ総大将をやりたがるに決まってるわ。それでいて自分たちはおいしいところだけもって行くつもりよ。劉備、あなたのところなんかいい標的にされるわ。」

「弱小ですからねぇ、うちは・・・」

ションボリと頷く桃香。

「しかし曹操殿、同盟といっても我ら孫呉は表立って動く訳にはいかん。なにしろ我らは形の上では袁術の軍の一部だからな。」

周瑜が難しい顔で発言する。

「ふふ、どうせその袁術の戦力もこの戦で削っておくつもりなのでしょう。孫呉独立のために。」

「その通りよ。」

答えたのは孫策だった。

「雪蓮!」

「だめよ冥琳。ここは本音で話す場よ。相手を試すような発言はわたしが許さないわよ。」

「はあ・・・・・・判ったわ。ここはあなたに任せる。」

「ごめんなさいね。話の腰を折って。で、ぶっちゃけちゃうとそうなのよ。袁術ちゃんをせっかくここまで引っ張り出したんだからやることやっておきたいのよね。その為にもこの同盟の話は私たちにも大いに魅力的だわ。」

「では、孫呉は賛成と、劉備はどうかしら?」

「私たちはもちろん異存ありません。あ、そうだ!ご主人様がキッカケで結んだ同盟ですから『天の遣い同盟』って名前にしませんか!?」

「・・・・・・・・・その名前はどうかしら・・・」

曹操の顔が引きつってるよ・・・・・ん?なんだ?地鳴り?

(ごーーーーしゅじーーーーーんさーーーーーまーーーーーーー)

「なにか聞こえないか?」

全員の意識がその音のするほうに集中する。

「なんだあの砂煙は?」

なにかが近づいてくる。しかも早い!そしてこの声は・・・

「ごーーーーーーーしゅーーーーーーじーーーーーーんーーーーーーーさーーーーーーまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「「「貂蝉!」」」

 

俺たち三人の『北郷一刀』がハモった瞬間、頭の中に『外史』という言葉が閃光のように思い出された。

俺達は顔を見合わせ、お互いが同じ事を感じたことを確信する。

そうしている間に天幕の下はバケモノだのキモイだの叫んで阿鼻叫喚な地獄絵図と化していた。

「だぁぁぁぁぁれが地の底から復活した古代のバケモノ蒼天の大決戦ですってええええええぇぇぇぇぇ!!」

「だれもそないなこというてへんわあああああ!」

李典のツッコミが天を裂く。

「みんな落ち着け!大丈夫だ!見た目はこんなだが害は無い!」

精神的な害は極大かもしれんが・・・あえてここは目を瞑ろう。

「遂にみつけたわぁぁぁん、ご主人さっまぁん・・・て、ご主人様が三人!?」

さすがの貂蝉もこの状況に驚いて動きが止まったようだ。

「貂蝉、再会していきなりで悪いが、なんで俺が三人いるか解るか?これも『外史』の力なのか?」

「あら、ご主人様。前の記憶が戻ってるの?」

「いや・・・お前を見た瞬間に『外史』の事が急に頭に浮かんだんだ。」

「それでわたしの事も思い出してくださったのねん。愛をかんじちゃうわぁん。むふ❤」

「「「いや、それはないから!」」」

「で、やっぱりこれは『外史』の力でしょうねぇ。誰かがご主人様が三人いる世界を望んだということでしょうねぇん。」

「ほう、貂蝉。この方がおぬしのいうご主人様か。なるほどおぬしが惚れ込むのも頷けるイイオノコであるな。」

後ろから聞こえた野太い声に振り返り・・・・・・・・見るんじゃなかった・・・・。

声の主の・・・その・・・は、・・・・・・・スマン、容姿の説明は割愛させてくれ。

「あ、あんたは・・・・?」

「うむ、我が名は卑弥呼。謎の巫女とでも言っておこうか。」

「・・・卑弥呼・・・ですか・・・・」

もう、ツッコミどころが多すぎてツッコム気が失せたわ!

「「華琳さま!華琳さまっ!お気を確かに!!」」

春蘭と桂花が華琳を抱えている。

「どうした!?」

「北郷!華琳さまがそれを見た瞬間に気を失われて!」

秋蘭が華琳を守る形で貂蝉の前に立っていた。

「あら、それはまずいわねぇん。」

「ち、近寄るな!貴様!!」

「そんなことより早くその子を助けなくっちゃ。ほら、あなたたちで人工呼吸をしてあげたんさい!」

「人工呼吸だと?」

「そうよん、あなたの愛のこもった熱い吐息を口移しで送り込んであげるのよぉん。」

「愛の・・・」

「口移し・・・」

 夏侯姉妹の殺気が消え、なにやら桃色な雰囲気が・・・・・・。

「春蘭!そこをどきなさい!わたしが人工呼吸をするわ!!」

桂花が飢えたケダモノのような目で春蘭に食って掛かった。

「ば、馬鹿者!貴様などに任せられるか!」

「では姉者、まずは私が。」

言うが早いか、秋蘭は華琳の唇をふさいだ。

春蘭と桂花が唖然としているうちに秋蘭はあっさりと口を離す。

「では姉者、交代だ。」

「お、おう」

春蘭も今度は桂花に邪魔されまいと直ちに人工呼吸を始めた。

「ちょ、ちょっと春蘭!しゅんらーーーーん!!は、は、早くかわりなさいよ!!」

焦れた桂花が春蘭を突き飛ばす。

春蘭は突き飛ばされたにもかかわらず幸せそうな顔で夢の世界へ旅立っていた。

「さあ、華琳様。この桂花めが人工呼吸をしてさしあげますわ。」

んちゅうううううううううううううううううううううううううううううう

 

「「「吸ってどうする!」」」

 

三人の『俺』が完全なユニゾンで突っ込んだ。

「は!私としたことがつい条件反射で・・・」

そんなことをやっているうちに華琳は気が付いたようだった。

「う、ううん・・・・・・・はっ!あ、あのバケモノは?」

「だ、大丈夫です華琳様!あいつら見た目はアレですが決して悪いやつでは無いようです。」

「おい、あの桂花が認めたぞ!」

「うふふ。恋する女の子の心を察するなんて漢女にとって造作もないことよん。ご主人様。」

「しかし貂蝉よ。ご主人様が三人もいるとは聞いてなかったぞ。こんなイイオノコ三人に見つめられては思わず滾ってしまうではないか。」

「そうよねぇん。いくらわたしでもご主人様の三乗が相手じゃ壊れちゃうわぁん。」

(三人の一刀が・・・)

 

【この場にいた恋姫全員の脳裏に、自分対三人の一刀の映像が描き出された。この時こそ、この『外史』の行方を決定付けた瞬間なのかもしれない。】

 

「ふう、やっと追いついた。貂蝉、卑弥呼、遅れてすまん。」

若い男の声に振り向くとイケメンが立っていた。

「はじめまして、キミが貂蝉の言っていたご主人様か・・・って、三つ子なのか?・・・・・・いや、筋肉の付き方が微妙に違うが寸分たがわぬ骨格、そして気、俺には同じ人間が三人いるように感じるが・・・不思議だなキミたちは。」

「えっと・・・あんたは?」

「俺の名は華佗。しがない医者さ。」

華佗の名前を聞き紫の『俺』が反応する。

「華佗って、もしかして曹操から手紙を受け取ってないか?」

「ああ、今はその曹操のところに行く旅の途中だったんだ・・・もしかして曹操の知り合いなのか?」

「知り合いもなにも、曹操ならそこにいるぞ。おーい、華琳!前に言ってた華佗が来たぞ。」

「え?華佗がこんなところに?」

華琳は極力貂蝉と卑弥呼を視界に入れないようにこちらにやってくる。

「キミが曹操か、偶然とは恐ろしいものだな。俺の旅の連れがここに用があるっていうから付いてきたんだが、こんなところで会えるなんて。」

「旅の連れって・・・アレ?」

「ああ、漢中で出会ったんだが二人とも医術の心得があるし腕も立つ。」

「「「医術のこころえ~?」」」

『俺』達三人はまたしてもハモる。

「あらん、恋の病なら貂蝉ちゃんにおまかせよぉん。」

「この国に巣食った病魔、黄巾党の連中を懲らしめてたんで少し遅くなった。」

「へえ、黄巾の討伐。」

華琳は目を細め華佗を見ている。品定めってところかな?

「なあ、曹操は何処か悪いのか?」

赤が紫に尋ねた。

「ああ、頭痛持ちなんだよ。そのせいで眠れないときも有るらしくてな。そんな時はえらく不機嫌になるんで寿命が縮むよ。」

「一刀~~~~~~。」

華琳が俺達三人を睨んでる。

怖ええ、寿命が縮むというより、一瞬で無くなりそう。

なんか前の外史の記憶が戻った今だと懐かしさを感じるな。

「華佗、今は大事な会議中だから少し待っていてちょうだい。治療はこの後ですぐやってもらうわ。」

「了解した。それじゃあ俺はむこうで・・・」

「あ、いや華佗。ちょっと待ってくれ。あんた曹操の治療の後、予定はあるのか?」

「いや、これといって特には、旅をしてその先々で病気や怪我をした人たちを治していくつもりだが。」

「俺達はこれから大きな戦をしなくちゃならないんだが、できたら同行してもらえないだろうか?もちろん報酬は約束する。」

「戦か。そうだな怪我人が大勢でるだろうしな。」

「それだけじゃないんだ。俺たちは洛陽まで進軍するんだがそこで庶人が困っているらしい、たぶん病人も大勢いるだろうからその人たちを助けるのも手伝って欲しいんだ。」

「そういうことなら全面的に協力しよう!そういう人たちを救うことこそ我が五斗米道の本道!!まかせてくれっ!!!」

「あ、ああ。よろしくたのむ。俺の名は北郷一刀・・・って、三人とも同じ名前だからややこしいか・・・とりあえず、この頭に巻いた紐の色で呼び分けてくれ。」

「ああ、了解した。」

「ところで・・・・・・あの二人と旅して来たって話だが、大丈夫だったのか?」

「ん?別に・・・・・・ちょっと変わった格好をしているが気のいいやつらだよ。」

「そ、そうか・・・・・・・・・・・なら、いいんだ。」

う~ん、本人が納得しているならいいか。

「ご主人様たち~。会議を再開するよー。」

桃香の呼ぶ声に、俺達は天幕の下に戻ることにした。

この日の会議では同盟を組むことと、他の勢力にこの同盟を悟らせないようにすることを決定した。

その後、曹操の治療でひと騒動あったが、次の日にはそれぞれの軍は別々の道で集合場所へ向け出発した。

華佗たち三人は俺たち劉備軍と行動を共にすることになった。

華佗は曹操の治療の後かなり疲れた様子だったが治療は成功したとのことだったのでまずは一安心だ。

 

 

反董卓連合軍集結地

 

【緑一刀turn】

連合軍の集結地で待っていたのは案の定袁紹の高笑いと無意味な会議だった。

「お~~~~~~ほっほっほっほ!それではこの軍議を始めるにあたって、い・ち・ば・ん・大切な事を」

「はーいっ!総大将を袁紹さんにお願いしたいと思いまーーす!!」

 俺はもうヤケクソで発言した。あの高笑いで確信した。この人全然変わってねぇ!

「あなた・・・・・どなたですの?」

 目を点にした袁紹が俺に問いかけた。

「俺は平原の相劉備のところの北郷一刀だ。」

「ほんごう・・・・・・あぁ、確か天の遣いとか胡散臭い事を言っている・・・・・あら?確か華琳さんの所にもそんな人が居たような・・・・・・」

なんでこんな時だけ思い出すんだよ!前なんか会うたびに自己紹介させられたってのに!

「あああああ!そんなことよりっ!総大将!!ここはやっぱり地位、家柄、財力、兵力、美貌を兼ね備えた袁紹さんしか適任は居ないと思うから是非とも、総・大・将・をお願いします!!」

 俺は早口でまくし立てて袁紹の気を逸らす。

横目で軍議に参加している諸侯の様子を見ると、白蓮はオロオロしてるが華琳、秋蘭、雪蓮、冥琳は静かに目を閉じて小刻みに震えている。

どうやら必死に笑いを堪えているみたいだ。

他の諸侯達は目を点にして口を開けている。

あ、翠だ。向うは俺のこと知らないんだから気を付けないとな。

そして我が陣営の朱里と雛里も口を抑えて笑いを堪え、桃香に至っては目に涙を浮かべた上にほっぺたを膨らまして吹き出す寸前だった・・・。

「あなた、なかなか見どころがありますわねぇ。こ・の・わ・た・く・しの素晴らしさをご存知なんて。お~~~~~~ほっほっほっほっほっほ!!」

 うぅ、耳と頭が痛て~~!どうやったらこんな脳みそに直接鳴り響く様な高笑いが出来るんだ?

「私に異義は無いわ。麗羽、総大将はあなたがおやんなさい。」

 華琳が助け舟を出してくれた。二重の意味で。

「我らも異議はない。」

 冥琳も発言すると諸侯から次々と賛成の声が上がる。

 白蓮が相変わらず不安そうに俺達の方を見ているが俺と桃香が無言で頷くと賛成してくれた。

白蓮は袁紹が次に言い出す事が分かってるので俺たちの心配をしてくれているんだろう。相変わらず人がいいなぁ、星の心配も最もだ。

「それではこの袁・本・初が総大将を務めさせて頂きますが、北郷さん、あなたのおかげで総大将をすることになってしまったわたくしから、ささやかなお礼として先陣の栄誉を差し上げますわ。」

 さあ、ここからが本戦だ!

「それはありがたい・・・と、言いたい処なんだけど、残念ながらうちは貧乏でね今のままじゃご期待に添えられそうもないんだ。そこで申し訳ないんだけど兵の貸与と糧食の援助をお願いします。」

「な、何でわたくしが!」

 反論を言い出す前に袁紹に耳打ちする。

(ほらほら、みんなが見てる。ここで器の大きい処を見せればさすが袁紹様って人気が上がるし、曹操も参りましたって言うに違いないよ。)

「・・・・・・・わかりましたわ。では如何程ご用意すればよろしくて?」

 ホント、相変わらず扱いやすいなぁ。

 

「では、兵一万と糧食二ヶ月分で。」

 

「い!いちまん!?いくなんでもそれは」

「じゃあ、九千に一ヶ月と二十日で。」

「ご、五千と一ヶ月に・・・・」

「八千に一ヶ月と十五日。」

「ろ、六・・・いえ五千九百八十五に一ヶ月と四日・・・・・」

 なんか細かく切ってきたな?その削った十五にどんな意味が有るんだ?

「はぁ・・・・袁紹さんならと思っていたのに・・・・しょうがない、せっかく戴いた先陣の名誉ですが諦めましょう。俺らは後方に待機して皆さんが手柄を立てるのを指を銜えてえ眺めていましょう。」

「あああぁ、もう!わかりましたわ!七千百十五に一ヶ月と七日!これでよろしくてっ!?」

 だからなんでそんな半端な数なんだよ?

「おおお!さすが袁紹さん!!三公を排出いや、輩出した名門袁家の当主だけはある!!なんて大器な方だ!!さあ、諸侯の皆さん袁紹さんに拍手をっ!!」

 なんて言うと大きな拍手が起こった。

あれ?てっきりおざなりな拍手か俺一人で手を叩く事になると思ってたんだけど・・・・・。

「あ、あら・・・ふふふ・・・おほほ・・・おーーーーーーーーーーーほっほっほっほっほっほっほっほ!!!わたくしには八万の兵がございますもの、これくらいどうという事はございませんわぁ!!!おーーーーーーーーーほっほっほっほっほっほっほっほっほ!このわたくしの!この・わ・た・く・し・の兵の力があれば汜水関などちょちょいのぷーですわ!!」

 

 

「なかなか面白い物を見せて貰ったぞ、北ご・・・緑北郷。」

 冥琳が会議の終わったあと話しかけてくれた。

「あ、言辛いようなら一人の時は色で呼ばなくてもいいよ。俺も真名で呼ばせて貰ってるし。」

「ふふ、そうだな。慣れてしまったせいかお前の声で真名以外を聞くと落ち着かなくてな。」

前の外史じゃあんなことになったけど・・・・・・目の前の冥琳は結構優しい感じがするなぁ。

「だけどあそこでみんなが拍手してくれて助かったよ。」

「あれはお前を讃えた拍手だ。そして視線もな。皆お前の手腕に感心していたのさ。」

「あれってそういうことだったの?うわぁ恥ずかしい・・・・・」

「いや、中々の手際だったぞ。笑いを堪えるのが大変だったがな。」

 そう言って冥琳はクスクス笑い出した。

「彼を知り己を知れば百戦して( あや)うからずってね。」

「ここで孫子を諳んじるか・・・では北郷は袁紹の為人を知っていたということか?」

「それはほら、天の御遣いってことで。」

「はは、ほざいていろ・・・・・そうだ、今晩我らと曹操達がそちらに行き密会を行うから準備しておいてくれ。」

「汜水関攻めの軍議ってことか。」

「あぁそうだ。艶っぽいことにはならんから期待するなよ。」

「そ、そんなこと期待しないっての!」

「あっはっはっは。ようやくお前を焦らす事が出来たな。」

そう言って冥琳は雪蓮とともに孫呉の陣幕に戻って行った。

 

【赤一刀turn】

「お、蓮華。雪蓮と冥琳が戻って来たぞ。」

「お帰りなさい姉さま、冥琳、会議は」

「あーーーはっはっはっは!おっかしかったぁ!!ここまで笑いを堪えるのが大変だったわぁ。一刀、あなたあんな才まで有るのね!見直したわ!!」

そう言いながら雪蓮は俺の頭を胸に抱きしめている。や、柔らかくて嬉しいけど苦しい・・・。

「ね、姉さま!一体何を・・・・・ねえ冥琳、会議で一体何があったの?」

「ふふ、緑北郷が袁紹を丸め込んで兵七千百十五と糧食一ヶ月と七日分を出させたのですよ。」

「へぇ、やるじゃない・・・でも何でそんな半端な数なの?」

「さて、緑一刀がしっかりやってくれたから私たちもしっかりやるわよ!んふふ~俄然やる気が出てきたわ!」

 ぶはっ!ようやく雪蓮に開放された俺は今後の方針を決める話し合いに参加した。

「緑北郷のところはやはり先鋒をやらされる事になった。我々はたぶん袁術の偵察部隊としてその後ろに配置されるだろう。曹操は好きなところに配置が可能だが、適当な理由を付けて我々の横に来るはずだ。この同盟の兵力があればなんとかなると思うが、あいてはあの汜水関だ。さて、北郷はどう攻める?」

 冥琳が汜水関と周辺の地図を広げて俺を見た。

「えぇ?また俺に聞くの?」

「黄巾党の立てこもった城を落としたときは見事だったじゃない。今度も大丈夫よ一刀。」

 蓮華が励ましてくれるけど・・・・・こんな砦どうやって攻めたらいいんだ?

「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず。」

 冥琳がかの有名な一文を諳んじる。

「は?孫子の一篇だよね、それが?」

「さっき緑北郷が私に言った言葉だ。袁紹に勝てたのはこれのおかげだそうだぞ。」

「あぁ、そういう事か・・・・・・・・ねえ冥琳、華琳・・・曹操の会議での様子はどうだった?」

「ん?我ら同様必死に笑いを堪えてたな。帰るとき面白い目で緑北郷を見ていたぞ。」

「それじゃあ今頃、紫は俺と同じ事してるんだろうな・・・・・それじゃあ・・・」

 

【紫一刀turn】

「それじゃあいくぞ。緑は汜水関に対して短期決戦で臨むはずだ。」

「はあ!?あんた馬鹿じゃないの!?あの汜水関に対してそんな事考えるなんて!!」

 俺の言葉に桂花が間髪入れずにツッコミをくれた。

「待ちなさい桂花。とりあえず一刀の話を聞いてからでも遅くはないわ。一刀、続けなさい。」

「あ、あぁ。汜水関そのものを攻めるのは厄介だけど守る将を打ち取るならまだましだろう?」

「貴様馬鹿か!?将が砦の中に居るのに砦を攻めずにどうやって将を討つんだ!?」

「・・・・・春蘭。」

「はい!華琳さま!」

「お黙り!」

「・・・・・・・・・・・はい。」

「緑は敵将を汜水関から(おび )き出して野戦に持ち込む。」

「それが出来ると思う?」

「普通ならまず無理だな。でも今汜水関を守るのが華雄と張遼だって話だから、まず間違いなく成功する。」

「その根拠は?」

「華雄は自分の武に誇りを持っているうえに、頭に血が登りやすい性格だから挑発すれば簡単に出てくるさ。張遼は義に厚いから華雄を助けに出てくるはずだ。だけど張遼って頭もいいからなぁ。もしかしたらさっさと虎牢関に引き上げて呂布と一緒に防備を固める可能性もあるなぁ。」

「ふ~ん、まるで知り合いみたいな事言うのね。」

「え?あ、あぁ、それは天の遣いの知識ってことで・・・ダメ?」

「普通ならば即却下だけど、さっきの緑一刀の麗羽をあしらうのを見てるから許してあげる。」

「ありがとう華琳。それじゃあついでに、緑は華雄と張遼を生け捕りにしようとするはずだ。連合には董卓の姿を知る人間が一人も居ないから情報を聞き出すために、っていう建前でね。」

「建前ね。つまりあなたは董卓がどんな人物か知っているって事なのね。天の遣いの知識で。」

「あぁ、ただ、董卓に関しては何故か確証が欲しいってのが正直な処かな?自分でもよく判んないけど。」

「へえ、そういう感覚も有るのね。」

「あぁ、ホント不思議なんだよな・・・でも、もし俺の知ってる董卓だったら張三姉妹と同じように助けてあげたいな・・・」

「また難しい事を言い出したわね・・・・・いいわ、その辺も含めて考えてあげる。それに張遼は私たちで捕らえましょう全て劉備に渡してしまうのも悔しいし。呂布はどうかしら?」

「呂布は生け捕りそのものが難しいと思うぞ、なあ秋蘭。」

 俺の呼びかけにそれまで黙って聞いていた秋蘭が会話に参加した。

「そうですね華琳様。人和の話では三万の黄巾の一軍を一人で壊滅・・・いえ、全滅させたそうです。」

「それは呂布の軍で」

「いや、そうじゃなく文字通り一人で三万を相手にしてるそうだ。実際に張三姉妹はその場にいたって聴いてるから間違いないだろう。すげぇ青ざめてたし。」

 思わず華琳の言葉を遮ってしまうくらい焦ってしまった。あの外史での生け捕りは本当に肝が冷えたもんな。あんな思いは二度としたくない。

「そうなの・・・では呂布にはちょうどいい相手をぶつけてあげましょう。」

「?・・・・・・・どういうこと?」

なんか俺には解らない事を言ってるけど、あれはとんでもない事考えてる顔だな。

「あの会議にいた美周郎ならきっと同じことを考えてるはずよ。」

 冥琳が?

「さあ、桂花、秋蘭。今の話を元に作戦の細かい処を煮詰めるわ。」

「「御意!」」

 さて、俺の仕事はひとまず終わりか。夜の会議まで一休みするかな。

「なあ、北郷。」

 と思ったら春蘭に捕まった。

「どうした春蘭?」

「さっきの華琳さまとお前の話なんだが結局どういう事になったんだ?」

 はい。予想通りの質問きましたー。

「そうだな、先鋒の劉備軍を助ける。張遼が出てきたら捕まえる。呂布は相手しないってことだよ。」

「おぉ!なるほど!よくわかった!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・よかったね、春蘭。

 

【緑一刀turn】

 さて、お待ちかねの夜がやってきた。

 と言っても別に艶っぽい話など・・・・・まあ、これだけの美女美少女軍団にか囲まれてるだけで充分艶っぽくはあるが・・・・・とにかく無いのだ!

 

「「で、これはどういう事?」だ?」

 

 天幕の中、華琳と冥琳の指さした先に居るのは白蓮。

おいおい人を指さしちゃいけませんって習わなかったのか?

 俺は赤と紫をジト目で睨んでやる!

「「悪い、説明するの忘れてた。」」

笑って誤魔化す二人の俺に嘆息しつつも説明することにした。

白蓮が居心地悪そうにモジモジしてるのが可哀相だからな。

「俺達劉備軍が旗揚げする前にこの公孫賛の所で世話になっててさ。俺がそっちの俺の噂を初めて聞いたのもその時なんだ。そういう訳で白蓮・・・公孫賛も同盟に参加させて貰いたいんだけど・・・・・」

「は、はは・・・・・・・・・・ヨロシク~」

 こめかみに汗を一筋流し、引きつった笑顔で挨拶をする白蓮。

 華琳と冥琳は一つ大きな溜息を吐いて

「「しょうがない。」わね。」

と、一応納得してくれたみたいだ。

「まあまあ、事情を知ってるなら味方にするのは問題無いじゃない。私は江東の孫策伯符よ。よろしくね。」

 雪蓮が明るく場を和ませてくれる。いい奴だなぁ、雪蓮って。

「そしてこっちが妹よ。」

「孫権仲謀だ。よろしく頼む。」

 あぁ、そういえば蓮華って初対面相手はこんな感じだったなぁ。

「私は周瑜公謹だ。よろしく。」

「幽州の公孫賛白珪だ。よ、よろしく頼む。」

「さてと、それじゃあ始めようか。」

 俺の言葉に全員が頷く。

「それじゃあ朱里。よろしく。」

「はい、ご主人さま。それでは汜水関攻略作戦の我ら劉備軍の方針ですが、ご主人さまの希望があり短期決戦で臨もうと思います。」

 ここで朱里が言葉を切り全員の顔を見回すと曹操、孫策両陣営の顔ぶれは全員口元に(えみ )を浮かべている。

 やっぱりね。双方、向こうの俺から考えを聞いたんだろう。

 朱里は短期決戦を言い出せば反対意見が出ると思っていたから、この反応を見て戸惑っていた。

「はわわ、み、皆さんこの方針にご意見は無いんですか?」

「それくらいはこちらの一刀から聞いているから問題無いわ。直ぐに作戦の細部の説明に入っても大丈夫よ。」

「我々も同じだ。」

「はわわ!ほ、本当にご主人さまの言った通りですぅ・・・・・・では、早速細部の説明に入ります。」

 そんな感じでそれぞれが作戦を出し合い細部を調整して、まとまった作戦で俺たちは汜水関に挑む事になった。

 

 

「それにしても、気になるのはやっぱり月の事だよな。」

「ああ、前の外史ではあいつらが暗躍してたけどここじゃ未だに姿を見せて無いからな。」

「隠れているのか、本当に居ないのか・・・・・貂蝉と卑弥呼はどうみてる?」

「二人も今のところ様子見だそうだ・・・・・・・・・早く情報がほしいな。」

 俺たち北郷一刀三人は特別に許して貰い三人だけで話をしている。

 いくら同盟を結んでいるとはいえ軍事機密なんかもあるのに、よくあの華琳と冥琳が許してくれたもんだ。

 俺たち三人は篝火に照らされる夜営陣地の中で、中天に輝く月を見上げながら洛陽に居るはずの月の事を思っていた。

夜が明ければ行軍、そして次の朝にはいよいよ同盟初の連携戦だ。

 

汜水関

【緑一刀turn】

「ご主人さま!我が軍の布陣完了いたしゅましゅた!」

 朱里のカミカミ報告を聴き汜水関を睨んでいた俺は朱里に振り向く。

「後ろはどんな感じ?」

「右後方の孫策軍は布陣終了しています。左後方の白蓮さんの軍は後少しで終わりそうです。更に後方の曹操さんの軍も布陣は終了しています。その後方の中央に袁紹軍、最後尾に袁じゅちゅ軍が・・・袁術軍が布陣している最中です。」

「いよいよだねご主人さま。」

 桃香も緊張してるな。

相手は今までの盗賊や黄巾党とは違う。本当の軍隊だ。そういう意味では劉備軍は初めての戦争だ。

俺も前の外史以来久々の戦争となるわけか・・・・・・何度やっても嫌なものは嫌だけど、覚悟を決めてやるしかない。

「それじゃあここは俺が鼓舞を・・・・・・あれ?汜水関の門が開いてないか?」

「ほ、ホントです!敵兵が出てきて布陣を始めました!?」

 朱里にすら読めなかった敵の動きって事だけど・・・。

「どうなってるのぉ!?」

 桃香も?マークを頭の上に乱舞させている。

「まあ、こっちとしては手間が省けた。銅鑼鳴らせっ!進軍開始!落とし穴や伏兵の注意を怠るなっ!!」

 戦場に銅鑼の音が鳴り響き、遂に戦場が動き始めた。

 

 

【エクストラturn】

「挑発して出てくる奴などどうか思っていたが・・・・・・挑発する前から出てくるとは・・・

敵将は何を考えているのだ?」

 挑発の言葉を必死に考えていた愛紗はこの展開に戸惑っていた。

「まあ、深く考えるな愛紗。主の言われた通り罠や伏兵か、さもなくば野戦に絶対の自信を持っておるのだろう。ここは一つ愛紗が名乗りを上げて見極めてはどうだ?挑発よりはおぬし向きだろう?」

 星の言葉に愛紗が頷き敵前に出ようとしたところで鈴々に止められる。

「愛紗ー!鈴々が一番槍をやりたいのだーっ!!」

「鈴々よ、おぬしに愛紗みたいな難しいこと言えるのか?」

「う・・・それはムリなのだ・・・・」

笑いながら言う星の言葉にションボリと頷く鈴々。そんな姿を見てつい愛紗は励ましの言葉を掛けてしまう。

「鈴々にも華雄の相手をしてもらうからここは我慢しろ。ご主人様の願いだ、殺すんじゃないぞ!」

「わかったのだっ!!」

 愛紗は単騎で陣から進み出る。

 名乗りを上げて、出来れば華雄と一騎打ちに持ち込み華雄の力量を量りたいと考えていた。

「我は平原の相、劉備玄徳様と天の御遣い北郷一刀様の第一の鉾にして平原の青龍刀!関羽雲長である!!我が刃は我らが主の天軍の刃と思い知れい!!」

 高らかに名乗りを上げる愛紗に向かい、巨大な戦斧『金剛爆斧』を手にした華雄が進み出る。

「何が天の御遣いの天軍だ!!我が名は華雄!我が主董卓様の進む道を拓く斧!!猛将と謳われた私が、死山血河を築いたこの金剛爆斧でその下らない挑発ごと叩き切ってくれるっ!!」

 もう言うべきことは終わったとばかりに華雄は陣の中へと戻っていく。

「え?ちょ・・・これは別に挑発では・・・・・・・」

 戸惑っているうちに言い返すこともできず自陣に帰ってきた愛紗。

それを迎えた星は感心した面持ちだった。

「うむ、さすが愛紗だ。この局面で更に挑発するとは!」

 

「挑発じゃなああああああああああい!!」

 

 

「声を上げろっ!銅鑼を鳴らせっ!弓隊構えっ!・・・・射てええええええええっ!!」

「全軍!突撃っ!!」

 飛び交う怒号と剣戟と悲鳴、その騒音に音を消された矢が降り注ぎ、盾で受け槍で突く。

 血飛沫が舞い、大地を赤く染めていく。

 

【赤一刀turn】

「さあて、頃合ね。銅鑼鳴らせっ!興覇!先鋒突撃開始!!」

雪蓮の号令で兵士達が雄叫びと共に突進していく。

「このまま敵陣の横っ腹を食い破れ!我ら孫呉の恐ろしさを味わわせてやれ!!」

 思春の叫びに呼応して華雄隊左翼の側面に襲い掛かる。

 華雄隊左翼は対応に遅れその数を減らしてゆく。

 

 

「やっぱり・・・・・慣れないよなぁ。」

盗賊や黄巾党は人非人な事をやってた天罰って自分を納得させたけど・・・董卓軍の兵が罪を犯してるかなんて判んないし恨みが在るわけでもないし・・・・・・孫子かぁ。

 

「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり・・・・」

 

「なんだ北郷?また孫子を諳んじて。今この場でそれを言ってもしょうがないだろう。もう戦は始まっているんだ。」

 うわ、冥琳に聞かれてた!因みに孫子でいう『兵』ってのは『戦争』のことで、意味は『戦争は最後の手段だ』とか、意訳して『戦争以外に解決方法が在るならそっちにしろ』ってことだ。

「そうだよな、こうやって戦闘が始まってるんだ。俺の・・・俺たち『北郷一刀』の責任を果たさないとな。」

「ああそうだ、今回の作戦は殆んどお前の・・・お前たちの案なのだからな。」

「はは、三人いたら責任は三分の一になるかと思ったら三倍になったよ。もう腹は括ってるさ!」

「ふふ・・・お、劉備軍の先鋒が引いて公孫賛軍が受け止めたな・・・一朝一夕でできる連携とは思えんが・・・」

「あぁ、公孫賛軍の調練は星・・・趙雲が以前はやってたからな、関羽と張飛も指揮してたことがあるからだろう。」

「あのな北郷、そういう情報はもっと早く教えてくれ・・・・・」

「ごめん・・・・」

 予定通り向こうの戦線がジリジリと後退している。

「冥琳!一刀!そろそろこっちも先鋒を下げるわ!!」

「了解した!雪蓮、無理はしないでよ。」

「はいはい♪合図を送れ!銅鑼三点鉦!!さあ、地獄を見せてあげるからこっちにいらっしゃい・・・・」

「なあ、冥琳・・・・・」

「突撃しないだけマシだと思うしかないな・・・・・・」

 

【紫一刀turn】

「華琳様。また少し戦線が後退したようです。」

秋蘭の報告に俺と華琳が汜水関の城門に注目する。

「未だ動き無し・・・ね。」

「華琳様は張遼が出てくるとお思いですか?」

 複雑な顔で華琳に秋蘭が質問すると、華琳は微笑みを浮かべた。

「そうね、私としては出てきて欲しいわね・・・・・・そういう将であって欲しい。」

「どういう意味でしょう?」

「あの状況を華雄が春蘭、張遼を秋蘭に置き換えると解って貰えるかしら?」

「なるほど・・・・・・確かに、そのような将なら共に闘ってみたくは有りますね。」

「・・・あのう、華琳さまぁ。私はあんな砦を出てきて闘うような馬鹿なマネはしませんようぅ・・・」

春蘭が涙目で訴えると、桂花が冷たい視線で睨む。

「何言ってるのかしら!?さっき華雄が出てきたとき潔い奴だって褒めたくせに!」

「それは・・・」

「姉者、華琳様が仰っているのは、あのような状況で私が姉者を黙って見捨てるはずがないという事だ。」

「そんな!私だって秋蘭を見捨てたりしないぞ!!」

 俺は見兼ねて春蘭に言った。

「だからな、春蘭!張遼は仲間の危機を見捨てて逃げるような将であって欲しくないって華琳は言ってるんだよ!!」

「なるほど!確かにその様な将なら共に闘えるな!!」

 ようやく春蘭にも解ったようだ。

「因みに飛び出したのが北郷なら?」

 桂花が余計な一言を付け足した。

「そんなの決まってるだろう。城壁の上から笑ってやる。」

「ひでぇ・・・」

「あら、意外ね。」

 桂花・・・・・。

「私だったら矢を射掛けるのに。」

 ・・・・・・・・・・・・・・・俺は果たしてここに居ていいのだろうか?

「馬鹿なこと言ってないで・・・ほら、そろそろみたいよ。」

華琳の声で汜水関を見ると、城門が開き始めているようだ。

「皆、持ち場に戻りなさい!張遼が出て来るのを確認したら合図と共に全軍突撃開始よ!」

 

 

【エクストラturn】

「まったくっあのドアホゥがっ!!すぐに戻って来んならまだしも、敵に引っ張られてどんどん砦から離れて行きよるっ!!」

 霞は華雄救出の為、鋒矢の陣を組んでいる最中だった。

「張遼将軍!砦の中の者は全員虎牢関に向かい出発しました。」

「よっしゃあ!お前らも早う行きぃ!」

「で、ですが将軍!門を開ける者が必要でしょう!」

「門は閉めんでええ、ウチが華雄の首根っこ捕まえて駆け抜けるからそのままにしとき。ほら早よ行き、すぐに張遼隊が追いついてお前ら全員馬に乗っけて虎牢関まで一っ飛びや!」

「将軍・・・」

「砦から近い所で追い着いたらお前ら全員ケツしばくから覚悟しときぃ!!」

「分かりました!では御武運をっ!」

「おうっ!」

 送り出した兵にはああ言ったが、霞はかなり厳しい賭けになると考えていた。

「ええか!?この突撃で突破できんようなら直ぐに反転して虎牢関を目指す!最悪華雄を見捨てる事になるが、ここでウチらがやられてしもたら虎牢関の防備すらおぼつかなくなる。反転の合図はウチが出すから聞き逃すなやぁ!それから、虎牢関に行く途中で(かち )の兵を拾うの忘れんな!もし見落とした奴がおったらケツから手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわすから覚悟しときぃ!!」

「それはたまりませんなぁ。」

 兵達からドッと笑いが起こり、いい具合に緊張が解れたのを確認すると、霞は正面を見据えた。

「行っくでぇ!全軍!突撃やあああああああああぁぁぁっ!!!」

 五百の騎馬が地響きを上げ、雪崩の勢いで突き進む。

「行くぞみんな!遼来来( りょうらいらい)っ!!」

『遼来来っ!!遼来来っ!!遼来来っ!!遼来来っ!!遼来来っ!!遼来来っ!!』

 小隊長達の掛け声で『遼来来』の大合唱が始まった。

 霞が強制したわけではない。兵の霞を慕い信頼する気持ちが言わせるのだ。

「恥ずかしいから止めぇ言うとるのに・・・・・」

口ではそんなそんな事を言っているが兵の気持ちを嬉しく思っていた。

 

 

時を少し戻し、華琳の陣。

 

「騎馬のみで鋒矢の陣!?・・・張遼、その手で来たのね!!全軍!張遼と華雄の間に割って入るっ!!急げっ!!」

 華琳の号令の下、華雄隊の背後に回り込む形で突き進む。

「春蘭!張遼の相手の件だけど。」

「はい!華琳様!!捕えればよろしいのですよね!!」

「今日は諦めるわ!あなたは張遼を押し止めなさい!!」

「ええ!?それだけでよろしいのですか!?」

「えぇ、任せたわよ春蘭!!」

「御意っ!!」

 

 

 『遼来来』の大合唱をその身に纏い、愛馬と共に駆け抜ける霞の目に、立ちはだかる曹操軍の姿が写った。

「あかん・・・間に合わんかったか・・・・・」

 既に回り込むことも出来ない距離まで迫った眼前の敵。

 万一回り込めたとしても、その先に別の敵陣があった場合こちらが全滅する。

「全軍ぶち当たれぇいっ!!」

 遂に張遼騎馬隊と曹操軍が激突する。

 突進力で食い込む鋒矢を曹操軍は見事に受け止めた。

 曹操軍はこの短時間で簡易なものではあるが馬防柵を築きあげ、前面にいた盾兵でそれを隠していた。

激突直前に盾兵が馬防柵の後ろに回り込み初撃を凌いだのである。

「くうぅ!そないなモンまで用意しよるとは・・・」

「その姿!敵将張遼と見たっ!!私は曹操様が大剣、夏侯惇!!貴様の相手は私だぁ!!」

七星餓狼で斬り付けてきた春蘭を飛龍偃月刀で受け止めた霞。

「ええ斬撃やなぁ、個人的には相手したいんやけど・・・そんな訳にもいかんねんっ!!全軍転進っ!!一気に駆け抜けええええええ!!」

 春蘭をいなし、その勢いで春蘭の乗る馬を石突きで小突いて体勢を崩させる。

「お前に恨みは無いけど、堪忍な。」

小突いた馬に謝りつつ、春蘭が体勢を崩した隙を付いて反転した霞は来た時と同じ勢いで後退した。

「ま、待て貴様ぁ!!」

「次会うときは決着付けたるわ!!ほんじゃあな惇ちゃん!!」

「このっ・・・」

「待ちなさい春蘭!!追わなくていいわ。」

 馬に鞭を入れようとしたところで華琳に呼び止められた。

「ですが華琳様ぁ・・・・・・」

「今はいいのよ。さあ!皆派手に勝鬨を上げなさいっ!!銅鑼も鳴らせっ!!」

 全然勝った気がしない春蘭だったが、とにかく大声で勝鬨を上げた。

 

また少し時を戻し劉備陣営

 

「童っぱの相手などしている暇は無いっ!!」

「またガキって言ったのだっ!もう、許さないのだっ!!」

 金剛爆斧と丈八蛇矛が激しく打ち合わされ、まるで鉄骨を打ち付ける工事現場のような、普通の剣戟では聞かれない音が響き渡る。

 鈴々は身長の三倍近い蛇矛を自在に操り華雄を翻弄していく。

「早い・・・・そして重いっくっ!そんな小さな身体でっ!」

 しかし華雄も負けてはいない。鈴々の攻撃を受けては返しを繰り返す。

「し、しぶとい、のだぁ~っ!!」

 その激しい攻防に魅せられ、戦の最中にも関わらず敵も味方も手を止めて見入る者が続出した。

 しかし、その攻防を左右する事が二人の周囲に起こった。

 それは曹操軍の戦場への突入だった。

 張遼を止める為、その進行方向に壁を作る為に移動した曹操軍。

 しかし、それは華雄軍の右翼から中央の退路を絶つ形に布陣することになる。

 退路を絶たれる事に恐怖した兵達が崩れだし、その喧騒が華雄の耳にも届いた。

「退路を絶たれただとっ!?」

 

「隙ありなのだーーーーーーーーーーっ!!」

 

 華雄の血が飛び、金剛爆斧は鋼が立てる重い音と共に地に倒れる・・・・・・。

「降参するのだっ!!華雄おねえちゃん!!!」

華雄は死んでいない。鈴々は緑一刀との約束を守り急所を外したのだ。

左脇腹、左太腿、右腕から血を流した華雄は方膝をついて鈴々を悔しそうに睨んでいた。

「もはや・・・これまでか・・・」

「華雄将軍!お逃げくださいっ!!」

 突如、蛇矛を構えた鈴々のまえに十数人の兵が立ち憚かった。

「そ、そこを退くのだっ!!」

「退くものかっ!俺は華雄将軍に娘の命を助けられたんだっ!!ここでご恩を返さずに何時返すというのだっ!!」

「俺も・・・いや、ここに居る者達、皆が華雄将軍に家族の命を助けられた者だっ!!華雄将軍の為ならば命など惜しくはないわっ!!」

「お、お前たち・・・・・・」

 鈴々ならば数合で全員を蹴散らすのは簡単だったろう。

「う~~~~、これじゃぁ鈴々が悪者みたいなのだあぁ・・・・・」

 さすがに鈴々はしょんぼりして蛇矛を収めた。

「もうっ!さっさと行くのだっ!!鈴々が目をつぶってるあいだに連れていけなのだーーーーーーーーっ!!」

 鈴々は両手で目隠ししてまるで隠れん坊の鬼のように突っ立っている。

「あ、ありがとうございます・・・・張飛将軍・・・・・」

 兵達の肩に担がれ華雄が連れ出されながら呟く。

「・・・・・張飛・・・・・いずれ決着はつける・・・・・」

「いつでも待っているのだっ!」

 鈴々は目隠ししたまま返事をした。

 

 

【緑一刀turn】

 俺は目隠ししている鈴々に近づいた。

「鈴々。も~い~よ~。」

 隠れん坊みたいに声を掛けると、目隠しを解いて俺を見る。

「お兄ちゃん・・・・・・・・」

「お疲れさん♪」

 俺が鈴々の頭を撫でてあげると、俯いてしまった。

「・・・に・・・・」

俺は黙って撫で続ける・・・・・。

「逃げられちゃったのだ。ニャハハ・・・」

「いいんだよ。鈴々は俺がして欲しいって思った選択をしてくれた。鈴々と気持ちが通じてる気がして嬉しかったよ。」

 俺の言葉に鈴々はオズオズと顔を上げ、上目遣いで俺を見た。

「ホントに?・・・・・」

「ああ♪」

 ようやく鈴々に笑顔が戻った。

 丁度そのとき勝鬨が聞こえてきた。これは曹操軍か!

「よし、鈴々!!勝鬨だ!」

「うん、お兄ちゃん!」

 

「敵将華雄をやっつけたのだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 その声に呼応して劉備軍が勝鬨を上げる。

 愛紗と星が少し離れた所で俺達を見守ってくれていた。

 

【赤一刀turn】

「雪蓮っ!劉備軍からも勝鬨が上がった!」

「よしっ!全軍汜水関に向け突入せよっ!!一番乗りは我ら孫呉が貰う!!」

 雪蓮の号令で俺達孫策軍は汜水関城門に向けて突撃していく。

 霞が入った後も城門が開いたままになっていて、冥琳が言うには汜水関の中はもぬけの殻だという事だが、一応矢が飛んでくるのを警戒して近付いて行く。

「なあ冥琳、どうして張遼が虎牢関に引き上げたと思ったんだ?」

 俺は冥琳の隊と一緒に馬で城門に向かった。

「何を言っている、お前が言ったんだぞ。虎牢関の防備を固めるかもしれんと。」

「いや・・・まあそうだけど・・・・・それを何時確信したのかと思ってさ。」

「それは張遼が騎馬のみで鋒矢陣を組んだ時だな。華雄救出が絶対条件だったら騎馬の鋒矢陣に槍兵も加えるな、私なら。何故か分かるか?」

「ええっと、鋒矢陣は突撃を重視した陣形だよな、それだったら騎馬だけの方が早いし・・・・・あ、その騎馬を守るためか?」

「減点だ。騎馬だけで組んで今回曹操がやったような馬防柵などで動きを止められた場合騎馬最大の強みである機動力が生かせない。そこで槍兵を使い馬防柵を破壊させるのさ。この後も汜水関に立てこもる気ならそうするはずだ。だが張遼は『出来る事なら助けたい』と考えていると私は読んだ。つまり汜水関に留まる気は無いという事だ。たぶん張遼にはそれまで静観していた曹操軍が動くかどうかの賭けだったのだろう。槍兵がいては後退のとき置き去りにしてしまう。張遼はそれだけ速さを重視したかった。入り口が開けっ放しなのも時間を惜しんだ為、私ならば砦内の物資はそのままにして出口だけ閉めるな。」

「物資を敵にあげちゃうのか!?」

「それはこちらが俄か作りの連合軍だからだよ。普通なら城門が開いていれば我先にと殺到して一番乗りを争うな。そうして連合内に不和の種を蒔いて、中に入れば物資の山だ。奪い合いで更に不和が大きくなり、出口を開けるのは後回しにされ、事態収拾に時間を取られている内に易々虎牢関に逃げ込める。連合の内部崩壊まで行けば安い出費だ。」

 俺が感心して聞いていると城壁の上に思春の隊が姿を現した。

 

「孫呉の勇士!甘興覇!!一番乗りいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

「・・・・・・雪蓮、本当にやらせたんだ・・・」

 実は昨日の会議で孫呉が一番乗りの手柄を貰うのを決めたとき雪蓮が言ってたんだが・・・・・冗談じゃなかったのか。

「冥琳様!仰られた通り物資が残っていましたっ!!」

 明命が走って報告にきた・・・・・・冥琳、さっきの話いつから考えてたんだ?

「ほらな♪」

 冥琳がにやりと笑って俺を見た。

「さて、張遼が思惑通りに動いてくれたので今後の策がやり易くなったな。明命、穏に鹵獲物資の分配と目録の作成をしろと伝えてくれ。」

「了解しました!」

 そう言って明命は走って行ってしまった。ゆっくり話す暇もないなぁ。

「この物資の殆んどは孫呉で使わせて貰う事になる。曹操と諸葛亮には昨日の内に確約済みだ。」

「あぁ、それって袁術が補給を渡さないからその代りって事?」

「まあそれもあるが・・・・・虎牢関では面白い物を見せてやるぞ、北郷。」

 この物資を使って虎牢関を攻めるってことかな?

 

あとがき

 

 

いかがでしたでしょう?

 

修正部分は「前よりは読みやすく」を目標に

後、色々細かい部分を直してあります。

 

そして追加部分

前はほんの数行だったのがすごい量になってしまいました。

 

遼来来と丈八蛇矛

「遼来来」本当は襲撃される側が

警報のように使ってたようですが

「兵士から慕われている霞」の演出に使ってみました

丈八蛇矛は鈴々が蜀√で

「身の丈八尺の蛇矛」と言っていますが

これだと184cmで青龍偃月刀より短いのでは?

三国志演義では一丈八尺という事ですので

4m14cmとなり、こちらを採用

鈴々の身長を135cmぐらいで考えました

 

 

全体の流れと結末は元版と同じですので

比べてみるのも面白いかもしれません。

 

 

其の二は虎牢関戦となりますが

元版にある両袁家を参戦させた策が

明らかになります。

 

どこで区切ることになるか

書き出してみないと分からないのですが

とりあえず恋を仲間にする処は入れたいです

 

 

 


 
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