真・恋姫無双 ifストーリー
蜀√ 桜咲く時季に 第33話
【挙動不審な雪華】
《優未視点》
「うぬぬ~~」
目の前の書簡を睨みつけながら唸る。
「……ぷはぁ~~~っ!もうやだ~~!外をぶらぶらしたい!」
「わがまま言わないでよ。私だってこんなところ抜け出して晴れわたった空の下でお酒が飲みたいんだから」
私の横で同じように不満を漏らす親友の雪蓮。
「……愚痴を言わず手を動かせばその分早く終わります」
「「……」」
そして、私たちに目を向けることなく手を動かし続ける雪蓮の大親友、冥琳。
「ぶー!大体なんでここに冥琳がいるのさ!」
「……その理由を私から言わせるつもりか?」
筆を置き顔を上げ、眼鏡の位置を直す冥琳。
うっ……眼鏡が光りに反射して表情が見えない……怖すぎる!
「ここ数日、政務をサボり町をぶらぶらしていたのは誰だ?そして、私の目を盗み真昼間から酒を飲んでいたのは誰だ?」
「「……」」
うぅ。失敗した。やっぱり冥琳の前で愚痴は零すもんじゃない。
「……」
雪蓮は『余計なこと言わないでよ』と云わんばかりに私を睨みつけていた。
はぁ……早く終わらないかな。お説教……
「聞いているのか優未」
「うぅ……大人しく仕事します」
「よろしい」
はぁ。もう、こうなったら早いところ終わらせて町で憂さ晴らしを……ん?
その時、私は書簡に気になる報告を見つけた。
『袁紹。進軍の兆しあり……』
「ねえねえ。冥琳」
「なんだ優未。くだらないことなら……」
「違う違う。この書簡にさ。袁紹がまた侵略するみたいなことが書いてあるんだけど」
「なに?見せてみろ」
私は冥琳に書簡を手渡した。
「……ふむ」
「どうなのよ、冥琳」
一人頷く冥琳に雪蓮は話しかけていた。
「そうだな。我々には問題は無いだろう」
「随分と含みのある言い方ね。なら、どこが危ないって云うのかしら?」
冥琳の言い回しが気になったのか雪蓮は冥琳に質問をした。
「そうだな。おおよその予想ではあるが、陳留の曹操。そして、徐州の州牧に就任したばかりの劉備のどちらかだろうな」
「ええ!?そ、それってまずくない?」
「なにがだ?」
私の問いに冥琳は何が問題なのかと問い返してきた。
「何がだ、って……うちと一刀君たちとで同盟結んでるんだよね?だったら助けに行くとか、それが出来なくても教えるとかしないの?」
「はぁ……」
「ちょ!な、なんで溜息なんか吐くの!?」
冥琳は私の問いに大きなため息を吐いた。
「簡単なことだ。この原因はお前にあるからだ優未」
「わ、私に?」
「ああ。この書簡はな。『十日』も前に報告に上がってきていたものだ」
「え゛……」
冥琳はそう言うと書簡を机に置き、私に見えるようにして報告日を指差した。
「……あは、あはははは」
確かにそこには十日前の日付で報告書が書かれていた。
「ちょっと優未?しっかりしなさいよね」
「うぅ~」
横でニヤニヤ笑う雪蓮に私は恨みがましく睨んだ。
「はぁ。お前も人のこと言えんぞ雪蓮」
「なんでよ」
「……私は『二十日』も前にお前に意見書を出したが、まだその返答が来ていないのだが?」
「ん~……てへ♪」
雪蓮は少しの間を開けて誤魔化すように笑った。
「雪蓮だって人の事いえないじゃんよ!私だけが怠け者みたいに言って」
「なによ。私のは意見書なんだからいつ読んだって問題ないのよ。でも、優未のは国の存続にかかわることなんだから」
「そんなこと言ったら意見書だってそうでしょ!」
「なによ」
「なんなのよ!」
「「むむむむむっ!」」
私と雪蓮はお互いの顔がくっつくくらいまで近づき睨み合った。
「はぁ……いい加減にしろ!」
(ごつんっ!)
「いった~い!」
(ごつんっ!)
「何するのよ冥琳!たんこぶが出来ちゃうでしょ」
冥琳に思いっ切り頭を拳骨で殴られた。
うぅ~。流石に祭より痛くは無いけど、不意打ちは卑怯だよ!
殴られた部分を擦りながら冥琳を睨む。
「自業自得だろ。睨まれる筋合いは無いぞ」
ごもっともです……私が政務をサボってたのが原因なんだから拳骨で済むなら安いくらいだよ。
「ぶーぶー!本当にたんこぶが出来ちゃったじゃない!どうしてくれるのよ冥琳!」
そんな中でも雪蓮は自由奔放だな。ある意味、尊敬しちゃうよ。
「……はぁ。話を戻すぞ」
冥琳は諦めたのか溜息を一つ吐くと真剣な表情に変わった。
「どちらにせよ。今から劉備たちに報告をしても間に合わんだろう。良くて直前だ」
「それじゃどうするの?このまま無視するの?」
「無視するも何も今から軍を編成しても到底間に合わん。良くて逃げてきた劉備たちを保護することくらいだ」
「でもあの子達が素直に私たちの保護を受け入れるとは思えないけどね~」
「それはどういうことだ?」
「あの子達だって戦う理由があるって事よ。特にあの娘、桃香は見た目はぽやぽやしてるけどあれで強かよ。強い信念を持っているわね」
雪蓮はここには居ない劉備を品定めをしているかのような目をして話を続ける。
「そしてなにより。あの娘を更に強くしている存在が天の御遣い北郷一刀。きっと彼無しではこの先、生き残っていくのは厳しいでしょうね」
北郷一刀……雪蓮の口から彼の名前が出てきた時、なぜかよく分からなかったけど一瞬、鼓動が早くなった。
なんでだろ?やっぱり気になってるからなのかな?
反董卓連合軍で初めて一刀君を見た時、なぜか分からないけど初めて会った様な気がしなかった。
それどころか一目で一刀君の事が気に入っちゃった。
不思議だな~。それまで男の人は対して興味が無かったのに。
「それなら雪蓮は劉備たちがどういう行動を取ると思うのだ?」
「ん~。そうねぇ~」
私が一刀君に対して物思いにふけている横で雪蓮と冥琳は話を続けていた。
「私の勘だけど、南西に行くんじゃないかしら」
「南西?南西ということは益州の方か……なるほどな」
「?何がなるほどなの?」
雪蓮の答えに一人納得する冥琳。
「荊州のさらに西。益州で劉焉という人物の継承問題が起こっている。そして内戦勃発の兆候が見られると報告に上がってきていたのだ」
「なるほどね。内輪揉めの隙を突いて奪うってことね」
「ああ。だが、益州に行く為には曹操の領地を通らなければならないという難題がある」
「あのおちびちゃんがそう簡単に通すとは思えないわね」
「ああ。何かしら条件を出してくるだろうな」
「あの娘、一刀のこと相当気に入ってるみたいだし。きっと一刀をよこせとか言うんじゃない?」
「ありそうな話だな。もう一つは遠回りではあるが我々の領地を通って行くと言う手もある。だがこれにも重大な問題がある」
「問題ってなに?」
私は冥琳にどんな問題があるのか聞いてみた。
「遠回りをするということはその分の食料が必要となる。だが、逃げてくるのだ、必要最低限の食料しか持って来れないだろう。それに荷物が多ければ多いほど足が遅くなる。そうなれば格好の的だ」
「確かにそうね」
「それともう一つ。こちらに劉備が逃げてくるということは袁紹もそれを追ってこちらに来るということだ。そうなれば我々も戦いを避けられない」
う~む。それは大事な問題だよね。どちらかというとこっちに逃げ込まれると私たちの被害が出るって事だし。雪蓮や冥琳は下手をすると入国拒否するかもしれないよね。
だからと言って曹操の領地を通るのも大きな対価を支払わないといけないっぽいし……う~む。
私は腕を組んで考え始めた。
「はぁ~。どっちも難しいわね」
「ああ……?優未よ。何を黙っているのだ?」
「え?あ、うん。ちょっと考え事をね~」
雪蓮と冥琳の話を聞いて少し考えていた。
「よし。決めた!」
「何を決めたの優未?」
「嫌な予感しかしないが聞いてやろう」
雪蓮は何か面白いことを云うのだと思ったのか目を輝かせて、冥琳はまた厄介ごとかというような呆れた顔をしていた。
「じゃ、じゃ~~っ!それでは発表します!私はっ!」
《一刀視点》
「ん~~~っ!今日もいい天気だ」
青い空の下、寝ている間に固まった背筋を解すように伸びをした。
「さてと。まずは朝食前に軽く体を動かしておくかな」
俺は軽く身支度を整えて愛刀である双龍天舞を持ち庭に出た。
………………
…………
……
「……」
まずは両手で青龍飛天を握り、静かな動作で舞うように動き出す。
これを数分繰り返し行い鞘に収める。そしてもう一つの刀、炎龍飛天を今度は片手で持ち、先ほどとは打って変わり速い動作で刀を振るう。
これらは簡単に言ってしまえば儀式に近い。
これをしないとなぜだかよく分からないけど機嫌を損ねたようになる。
この二対の刀はそれぞれ特徴がある。
青い刀身の青龍飛天は細やかな動きや緩やかな動作を好み、赤い刀身の炎龍飛天は激しい動作を好む。
だからなのか青龍飛天は技の威力がそれほど高くは無い。だけどその分、軌道修正に優れている。
逆に炎龍飛天は技の威力は高いが精度に欠けるという特徴がある。
「よし。これくらいでいいかな」
片方ずつ刀を振るい終わり、最後に二対を両手で持ち構える。
「すー……はっ!」
静かに空気を吸い吐き出すと同時に刀を振るう。
青龍飛天と炎龍飛天はお互いが真逆の性能だ。だけど、二対で技を出す時はお互いを補助しあっている。
簡潔に云ってしまえば威力の調整が出来、軌道修正にも優れているという。なんともいいどこ取りなのだ。
「はっ!……ふっ!」
こうして、剣舞のような動きを毎日大体三十分くらい行う。
「ふぅ~~~~っ。こんなものでいいかな」
手ぬぐいで汗を拭い休憩を取る。
あれは結構体力を使う。刀を水平に維持するとか振るうとか、下半身の鍛錬、そして腕の鍛錬にもなってるからな。
「よし。軽く汗を流して朝飯にするか」
俺は厨房でお湯を貰い部屋に戻ることにした。
………………
…………
……
「ん?あそこに居るのは……」
厨房でお湯を貰い、部屋に戻ってみると俺の部屋の前で誰かが行ったり来たりしていた。
「なんだ、雪華じゃないか。おーい。雪華!」
「ふえっ!ご、ご主人様っ!?」
雪華に声をかけるとなぜか慌てていた。
「?俺に何か用事?」
「ふぇ、あ、あの……その……あるというか、ないというか……」
「?」
雪華はもじもじとしていて何が云いたいのか良くわからなかった。
「とりあえず部屋に入りなよ。こんなところで立ち話もなんだし」
「ふえ!い、いえ!だ、大丈夫です!わ、私はこれで失礼します!そ、それでは!」
「し、雪華?」
雪華はなぜか俺から逃げるようにして慌てて走っていってしまった
「……俺、何かしたのかな?」
雪華にあんな態度を取られるとちょっとショックだな……
「とりあえず体を拭いちゃうか……」
俺は肩を落として部屋に戻り体を拭く事にした。
「ふぅ~、気持ちいい」
布にお湯を滲みこませ絞り汗をかいた体を拭う。
「……それにしても雪華の様子、おかしかったよな」
体を拭きながらさっきの雪華の態度を思い返す。
「それに俺の部屋の前で何してたんだろうな~」
俺が雪華に声をかけると、『何でここにご主人様がっ!?』って顔してた。
「ってことは、俺に知られたらまずいことってこか?」
わからない。雪華は素直でとても良い子だ。影に隠れてこそこそするようなことは今まで一度も無かった。
(コンコン)
『ご主人様。起きていますか?』
「それがなぜ、今日に限って……」
『?ご主人様?入りますよ』
「意味が分からないな……雪華がなんであんな態度を取ったのか」
(ガチャ)
「ご主人様。起きて下さい。朝になりましたよ」
「え?」
扉のほうから声が聞こえ俺は振りむいた。
「愛紗?」
「起きておいででしたか。朝議が始まりますおはや……く……」
「……?」
愛紗は俺の方を見ると固まって動かなくなった。
「愛紗?」
「~~~~~っ!」
愛紗は見る見るうちに顔を赤らめていった。
「ど、どうしたんだ愛紗」
「っ!し、しし失礼しました!」
(バンッ!)
「あ、愛紗?」
愛紗はなぜか慌てて俺の部屋から出て行ってしまった。
「……俺、なにかしたか?」
でも俺が何かしたから愛紗は出て行ったんだろうし……
う~む。思い当たることが無いんだけどな……
まったく見当がつかず俺はまた悩み始めた。
(コンコン)
「ご主人様~」
「ん?桃香か。入ってもいいよ」
ノックをする音が聞こえ、桃香が扉越しから話しかけてきたので中に入っても良いと伝えた。
「ねえねえ、ご主人様。今、愛紗ちゃんが顔を赤くして通り過ぎたけどなにかあった……の」
「それが俺にもさっぱりわからないんだ。一体どうしたんだろう……」
「……」
「桃香?」
桃香は動きを止めてさっきの愛紗みたいに顔赤くしていた。
「へっ!?あ、うんうんそうだね。ど、どうしたんだろうね~~」
同意してくれたものの桃香はなぜか慌てていた。
「ふへぇ~。すごい……」
「?何が凄いんだ?」
「えっ!?な、なんでもないよ!あっ!そ、そうだ!私用事があったんだ!そ、それじゃあねご主人様!」
「お、おい桃香!」
「きゃ~~~♪」
桃香はなぜか嬉しそうな悲鳴を上げて部屋から出て行った。
「……」
状況が飲み込めず一人呆ける俺。
「くっくっく。中々の見ものでしたぞ主」
「っ!星。どこだ?」
扉には誰も居ないのに星の声が聞こえてきた。
「こちらですぞ主」
「っ!な、何でそこに居るんだ星。というか、いつからそこに居た?」
なんと星は部屋の外、窓から俺の事を覗いていた。
「そうですな……『一.とりあえず体を拭いちゃうか……』、『二.起きておいででしたか。朝議が~』、『三.ねえねえ、ご主人様。~』どれがよろしいかな?」
「最初からじゃないか!」
「はっはっはっ!そうとも言いますな」
いや、そうとしか言わないだろ。もし、それ以外があるのならぜひ聞いて見たい。
「それにしても星も気配を消すのがうまくなったな。正直驚いたよ」
「主にそう言われるのは正直嬉しいのですが、それも主が本気を出していない時だけの話。もっと精進しませんとな……ところで主よ」
星は真面目な顔から急にニヤリと何かを企んでいる顔に変わった。
「な、なんだ?」
「愛紗と桃香様が慌てて出て行った理由。知りたくは無いですかな?」
「っ!わ、わかるのか!?」
俺は思わず窓の外に居る星に近づいた。
「う、うむ。とても明快な理由ですぞ」
「教えてくれ!俺は一体どんな過ちを犯したんだ!」
「では、お教えしましょう。それは……」
「そ、それは……」
(ごくんっ)
緊張で唾を飲み込む。
「服を着てくだされ」
「……え?」
「ですから服ですぞ主」
首をかしげる俺に星は俺の顔を指さしつつつっと下に指を下げていった。
「?……あっ」
星の指を目で追うようにして視線を下げていく。そして俺はやっと理解した。
そうだ、俺はさっき汗を拭う為に服を脱いだんだった。そして雪華の態度が気になって考えているうちに手が止まっちゃったんだな。
「主も気をつけた方がよいですぞ」
「え?」
「桃香様はともかく、愛紗はああ見えても乙女ですぞ」
「いや。女の子って見ればわかるけど……」
「はぁ。わかっておりませんな主は……」
星は腰に手を当てて呆れ返っていた。
「主よ!」
「お、おう?」
「わかっておらぬ!わかっておりませぬぞ主よ」
星はまた俺に指をさし力強く断言してきた。
「な、何がわかってないんだ?」
「主よ。ひとつ言っておきますぞ」
「う、うん」
「桃香様に愛紗、主の事を好いておいでなのですぞ?」
「あ、ああ。それはわかってる」
告白されたしな。今でもあれは冗談じゃないのかって思ってる。
だってそうだろ?あんなに綺麗な二人から告白されるなんて学園に通っていた頃を考えればありえないからな。
「そんな好いた人の裸を見たら誰だって恥ずかしくなるものですぞ」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものです。なにせ私も……おっと」
「え?」
「いや。なんでもありませんぞ。それより早く桃香様と愛紗になぜ裸だったのかをお伝えしなくてもよいのですかな?」
「そうだった!それじゃ、俺は行くよ!ありがとう星!」
俺は星にお礼を言って部屋を出ようとした。
「主よ!」
「え?」
部屋を出ようとした俺に星は呼び止めた。
「またその格好で桃香様たちにお会いするのですかな?」
「え?……あ」
星に指摘され俺はまだ上半身裸だったのを思い出す。
「す、すまない星」
「なに。これしきの事でお礼を言われることではありませんよ」
俺は椅子に掛けていたTシャツを手に取り手早く着る。
「では主よ。先に玉座の間で待っておりますぞ」
「ああ。俺もすぐ行くよ」
こうして俺は愛紗と桃香に理由を言うべく部屋を出た。
「う~む……」
俺はあの後、愛紗と桃香に説明をして納得してもらえた。
愛紗は恥ずかしそうにしていたが、
『よい体つきでした。さすがはご主人様です。いったいどのような鍛錬をしていたのですか?』
っと、その真面目っぷりを発揮してくれた。
桃香は桃香で、
『えへへ♪すごい筋肉だったね。普段、服を着てるからわからなかったよ。――――――きゃ♪』
俺の体を褒めたかと思うと今度は何か小声でぼそぼそと独り言を喋りいきなり頬に手を当てて恥ずかしそうにした。
まあ、桃香たちの事は理由も判明したし、今度からは俺が気をつければいいんだけど……
「問題は雪華だよな~」
桃香たちに理由を伝えたあと、毎朝行う朝議での事だった。
「それでは次の議題です」
「……」
いつも通り愛紗が朝議の進行役を務める。
「……っ!」
(ぷい)
「……」
視線を雪華に向けると雪華は慌てて俺から視線を逸らした。
う~む。本当に俺が何かしたのかな?
だけど思い当たることなんか何もないんだよな~
「……さま。……ご……さまっ!」
う~む。ここはやっぱり直接本人に……
「ご主人様っ!」
「え?あ、な、なに?」
愛紗に呼ばれ俺は我に返る。
「なに?ではございません。先ほどの話を聞いておいででしたか?」
「えっと……あ、あはは」
「はぁ……しっかりしてくださいご主人様。これでは民に呆れられてしまいます」
「面目ない」
「まあ愛紗よ。それくらいにしておけ、主も反省しているではないか」
「しかしだな星」
愛紗の説教が始まろうとしていた時、星が助け舟を出してきた。
「良いではないか。愛紗も今朝は良いものを見たのだろ?」
「なっ!」
「?何を見たんだ?」
「な、なんでもありません!」
俺の問いに慌てて答える愛紗。
「何を慌てているのだ愛紗?桃香様も喜んでおいででしたのでしょ?」
「え?わ、私?えっと……えへへ♪」
「と、桃香様っ!今は朝議の時間ですぞ!」
「わわっ!ご、ごめんね愛紗ちゃん。でも……えへへ♪」
桃香は何かを思い出しているのかまた頬を染めて笑っていた。
「桃香様はホント正直なお方ですね。それにくらべ……はぁ」
「な、なんだ……なんだというのだ」
星は愛紗を見てため息を一つ吐く。それを見た愛紗は星を睨み付けていた。これはまずいかな。
「ま、まあまあ二人とも、そのくらいにして朝議を……」
「もとはと言えば……ご主人様がいけないのでしょ!」
「え、ええ!?」
「ご主人様が朝議中だというのに呆けているのがいけないのです!」
し、しまった!標的が俺に戻ってきた。しかも怒り二割増しで!だ、誰かに助けを!
俺は誰か助けてくれそうな人物を探すため周りを見回す。
朱里なら……
「は、はわわっ……あ、あの、あの」
ダメだ、愛紗の殺気に怯えてる。雛里は……
「あわわ……こ、怖いです」
こっちはもっとダメだ。もともと怖がりなところもあるからな。
「にゃはは」
鈴々は……無理だな。ありゃ『鈴々には無理なのだ!』って言われるのがオチだ。
星は論外もいいところだ。あいつはこの状況を楽しむに決まっている。より悪い状況になるだろう。
あとは……
「……」
俺は雪華にもう一度目線を向ける。
「……っ!」
(ぷい)
はぁ、やっぱりダメか……ここはおとなしく愛紗の説教を聞くしかないのかな。
と、諦めかけた時だった。
「おいおい。朝議中なんだろ?これじゃ決まるものも決まらないぞ」
席の隅に座っていた白蓮が呆れながら注意してきた。
「「「白蓮(ちゃん)居たの?」」」
「居たよ!最初からずっと居たよ!なんで気が付かないんだよ!」
愛紗や桃香、俺も白蓮が居たことに気が付かず声を揃えて言ってしまった。
「ごめん。あんまりにも影が薄っ。いや、静かだったから」
「うぅ……いいさ。あたしなんてここにいるみんなに比べれば対した特徴もないからな」
白蓮は諦めたように淡々と語っていた。
「と、とにかく朝議を続けましょう。で、では……は、白蓮殿。騎馬の調練の報告をお願いします」
愛紗は話を逸らすように朝議を再開させた。
おかげで俺も説教されずに済んだ。
それにしても……
雪華のあの態度は……っと、これじゃまた愛紗に怒られるな。今は朝議に集中しないと。
俺は雪華の事が気になりつつも朝議の報告を受けた。
「さてと……」
朝議も終わり、各自が自分の持ち場に戻った後。
俺は廊下を歩きながらある人物を探していた。
「確か、この時間はここら辺にいるはずなんだけどな……」
しばらくあたりを探していると……
「――――――っ」
どこからともなく喋り声が聞こえてきた。どこから……
「――――――っ」
「あそこか……」
蔵の裏から聞こえてくる人の声に俺は足を向けた。
「はぁ……なんであんなことしちゃったのかな」
近づいていくと段々と話し声が聞こえてきた。
「ふぇ~。でもなんだか恥ずかしくなっちゃって」
どうやら蔵の裏に居たのは俺が捜していた人物、雪華のようだ。
「こんなところに居たんだね雪華」
「ふええ!ご、ご主人様!?」
後ろから声をかけると雪華はすごい勢いで飛びのいた。
「ど、どうしてここにご主人様が?」
「なんだか俺の部屋で見かけてから雪華の様子がおかしかったからさ。俺が何かしたのかなって」
「ふえ!そ、そんなことはありません!ご主人様はなにもしていません!」
「だったらなんで俺と目線を合わせてくれないのかな?」
「ふぇ、そ、それはその……」
こうして話している間も雪華はあまり俺と視線を合わせてくれなかった。
「……あ、あのご主人様は……」
「ん?俺が何かな?」
「そ、その……や、やっぱりなんでもありません!」
「あっ、雪華!」
雪華はそれだけを言うと走り去ってしまった。
「……」
一人取り残される俺。
「こりゃ、本格的に何とかしないとまずいかな」
このままじゃ雪華と話すこともできない。だけどどうやって雪華を逃がさないようにして話をするか、だな……
「よし。朱里と雛里に相談してみるか」
ほとんどの時間を朱里と雛里と一緒にいるんだ。きっと何かいい方法を思いつくかもしれない。
そう思い立った俺はさっそく朱里たちが居る部屋へと向かった。
………………
…………
……
「さてと……本当に雪華はこの時間に来るのかな?」
あの後、朱里と雛里に相談に行き事情を説明すると……
『それでしたらあそこが丁度良いかと思います』
『あそこ?』
『はい。あそこでしたらゆっくりとお話ができると思います』
『それでその場所って……』
………………
…………
……
「と、この場所を教えて貰ったんだけど……」
その教えて貰った場所っていうのが……
「雪華の部屋なんだよな」
そりゃ、雪華の部屋なんだからいつかは戻ってくるんだろうけど。勝手に入ってもいいのか?
いや、言い分けないよな。普通だったら不法侵入で訴えられてもおかしくはない行為だ。
『ふふふっ。きっと大丈夫だと思いますよ』
なんて朱里は言ってたけど。やっぱり不安だ。これ以上、雪華には嫌われたくないからな。
(がちゃっ)
そんな時だった。扉を開ける音が聞こえた。
「ふぇ。ちょっと休憩してからお昼にいこっと」
本当に戻ってきた。
『雪華さんは必ずと言っていいほどお昼前にご自身の部屋に戻ります。何をしてるかはしりませんけど』
よし。ここはうまくやるぞ。
「雪華」
「ふえ!?な、なんでご主人様が私の部屋に!?」
雪華が部屋の中心に辿り着いた時に後ろから雪華を呼ぶ。それと同時に俺は扉の前に立った。
「雪華とゆっくり話をしようと思ってね。悪いとは思ったけど勝手に入らせてもらったんだ」
「そ、そうですか……っ!ふえ!!い、今部屋を片付けます!」
雪華は慌てながら部屋を片付け始めた。
「ふえ。こ、これはあそこで……これはあっちで……ふえ~」
「ぷっ……」
「ふえ?」
「いや。ごめん。なんだか雪華の慌てる姿を見てたら可愛らしいなって思ってさ」
「ふえっ!?か、可愛い!?」
雪華は赤い顔をさらに赤くした。
「雪華。少し話をいいかな?」
「は、はい……扉の前に立たれたら逃げられませんし」
「あ、いや。俺の顔を見ると雪華が逃げるからさ」
「い、いえ。それも私のせいですから。お気になさらずに。それで……私がご主人様と目を合わせない理由、ですよね」
「……(コクン)」
無言で頷く。
「そ、それを説明するにはまずご主人様にお渡ししたいものがあります」
「俺に?」
「はい……」
雪華は頷くと俺に近づいてきた。
「じ、実は……こ」
(ドンドンドンっ!)
「ふえ!?」
「な、なんだ?」
雪華が俺に何かを渡そうとした時だった。扉を勢い叩く音がした。
『ご主人様っ!』
勢い良く扉を叩いたのは朱里だった。
『緊急事態でしゅ!え、園長さんが』
「え、園長?」
『はわわっ!ち、違いましゅ!袁紹さんが攻めてきました!』
「な、なんだって!?」
《To be continued...》
葉月「お待たせしました。今回はいかがだったでしょうか?」
優未「ちょっとちょっと!なんで私の重大発表が載ってないの!」
葉月「それは後々のお楽しみってことで。その方が楽しみじゃないですか」
優未「まあ確かに……」
葉月「でしょ?」
優未「それはまあいいや。でも!ひとつ許せないことがあるんだよ!」
葉月「なんですか?まあ、大体の予想はつきますけど」
優未「なんで一刀君だけ雪華ちゃんの部屋に!私も雪華ちゃんの部屋に入りたい!」
葉月「やっぱり……まず言っておきますけど陣営が違うでしょ。だから無理です」
優未「ぶーぶー!横暴だ!」
葉月「どっちが横暴ですか!無茶を言う優未優実のお方が横暴ですよ!」
愛紗「ごほん!そろそろ。ちゃんと本題に入ってほしいのだが?」
優未「あっ!愛紗!愛紗からも言ってやってよ!葉月にさ!」
愛紗「いや。そういうことではなくてだな……」
葉月「愛紗は一刀の上半身の裸を見れて満足していますからね」
愛紗「なっ!」
優未「む~!それもうらやましいな。ちょっとそっちだけずるいんじゃない!」
葉月「いや。だから陣営が違うんだから仕方がないでしょ」
優未「ずるいずるいずるい!愛紗と私を交かっ」
??「ふんっ!」
(ゴチンッ!)
優未「いった~い!誰!私の頭を殴った……の……は……」
雪蓮「まったく。何考えてるのよあんたは」
優未「な、なんでここに雪蓮がいるの!?」
雪蓮「あんたを迎えにきたに決まってるでしょ。ほら。行くわよ!」
優未「い~や~~だ~~~~!私も一刀君と雪華ちゃんのいる徐州にいくの~~~!」
雪蓮「わがまま言わないの!そのうち一刀は私たちのものになるんだから」
愛紗「ちょ!そ、それはどういう意味だ!」
雪蓮「え?深い意味は無いわよ。それじゃ、またね~~♪」
愛紗「ま、待て雪蓮殿!……くっ、行ってしまったか」
葉月「いや~。嵐のような人たちでしたね」
愛紗「ああ。だが、お前に聞きたいことができたぞ」
葉月「なんですか?」
愛紗「さきほど雪蓮殿が言っていたことについて詳しく聞きたいのだが?」
葉月「はぁ。そう言われましても私も初めて聞いた事で。まさに寝耳に水といった感じなんですが」
愛紗「それは本当だろうな」
葉月「はい」
愛紗「……そうか。ならこの話はここまでだ」
葉月「ほっ……よかった」
愛紗「何を安心しているのだ?」
葉月「いえ。なにも。さて、次回ですがいよいよ一刀たちが徐州を離れていよいよ本拠点となる蜀へ向かいます」
愛紗「おお。いよいよか」
葉月「はい。これからどんどん一刀を好きになる人が急激に増える土地に向かいます」
愛紗「うぐっ!そ、それは困るが……」
葉月「まあ、もうそこは諦めてください」
愛紗「ぐぬぬ……」
葉月「さて、ではみなさん。またお会いしましょう!」
愛紗「うぬぬ……私は負けぬぞ!次回も楽しみに見てくれ!」
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前回までのあらすじ
街の片隅で占いをしていた管輅こと永久、
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