No.369091

真・恋姫†無双~覇王を育てた男~曹嵩編(プロローグ)3

TAPEtさん

曹嵩の真名募集中(という名をコメント乞い)

2012-01-27 19:31:06 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4259   閲覧ユーザー数:3610

あのことがあってから、暫くの間俺は曹嵩に呼ばれなかった。

曹嵩も部屋から出てくることがなかった。

 

屋敷の中にだけ居るのも半引き篭もり状態なのに、部屋に一人だけ居ると本当に引き篭もりになってしまう。

椎花さんも食事を置くこと以外には部屋に入ることが出来ず、それもろくに食べてないらしい。

やはり色々と精神的にきつかったのだろうか。

 

そんなことを考えていたら、ふと曹嵩に呼ばれて俺は彼女の部屋に向かった。

一週間ぶりに見る曹嵩の顔は以前と何も変わらないようなそんな顔だった。

 

「どうした?」

「何が?」

「一週間も呼んでなかったじゃないか。いつも一日中付き合わされてるのに急に一週間も呼ばれなかったらこっちも流石に暇すぎる」

「……(小声)それぐらい暇だったら自分から来てもいいじゃない」

「?」

 

珍しくも一人でぶつぶつという曹嵩を見て、俺はただ黙々と彼女のことをじっと見つめていた。

 

「な、何よ」

「嫌いなのか?結婚するの」

「嫌いとか…そういう問題じゃないでしょう。私と関係なく決められることなのだから」

「つまり自分は気に入らないんだろ」

「………」

「じゃあ、逃げてしまえば良いんじゃないのか?」

「!」

 

曹嵩は少し驚いた顔をしたが、直ぐにいつもの顔に戻った。

 

「ば、馬鹿なこと言わないで頂戴。そんなこと私がするわけないでしょう?」

「何でだ?嫌なんだろ。ここに居るのが」

「嫌とは言ってないわ。…私には目的があるし、そのために今は少しの辛抱なだけよ」

「……辛抱ってことは、嫌ではあるんだよな」

「…っ」

 

嫌でないわけがない。

ここが現代ならすごいエリートになっていそうな曹嵩、目は冴えているし、その上野望も深い。

こんな所で時間を過ごしているなんて、天下はどれだけ損をしているものか。

 

「そういうあなたもここにいるでしょ?」

「俺?」

「そうよ、あなただってずっとここに残っているじゃない」

「それはお前がそうしろって言ったじゃないか」

「それでも、いつまでもここに閉じ込められた状態なのはあなたも一緒でしょ?しかも、元々はここに居ることを許されない身。ここは元ならあなたが居るべき場所でもないのよ」

「………」

 

わけが分からない。

外に出たら死ぬとそんな必死に俺をここに留まらせたのはお前じゃないか、と言い返したかったが、ふと考えなおした。

 

「俺に出て行って欲しいのか?」

「そうは言ってな」

「今そう言ってるんだろうが…俺がここに残っているのがお前みたいに臆病だからだって」

「なっ!誰が臆病ですって!」

「ああ、お前は臆病者だ!お前の野望を己自身の手ではなくお前の子供に成し遂げさせようとするのもそれだ!結局は自分の手でやるのが怖いから自分の野望を子に押し付けようとしてるだけだろ」

「っ…!言ったわね!そういうあなたこそ私が命令したのを言い訳でずっとここに隠れてるだけじゃない!」

「!」

「ええ、そうよ!私だって自分の手でやりたいわよ!私にはそんな実力があるのよ!」

 

曹嵩は俺に怒鳴りつけた。

 

「でもやらせてくれないじゃない。私に出来ることが、自分たちの腹を肥やすしか能のない連中の手に踊らされて私がやりたいことが出来ない。あなたにそれが分かるの?」

 

まるで今までこの館に閉じ込められてきた歳月を俺にぶつけるかのように…

 

「だから思ったのよ。私の子供はこの世の誰よりも自由な奴にするって。この世の誰も自分たちの理屈を押し付けられない強い志を持った子に育てるって…!」

「………」

「でも本当は…本当は自分の手でやりたかった…自分の才で、自分の野望を持ってこの天下に堂々と立ってみたかった」

 

この館に居て早数ヶ月、

俺は始めて曹嵩という女の本然の姿を見た。

 

 

 

 

 

「俺と一緒に行こう」

「……へ?」

「俺と一緒にここから逃げれば良い」

 

その姿が……

彼女の顔を初めて見た時よりも美しい姿があって……

 

どうせ右も左も分からない新天地に独りぽつんと立たされるぐらいなら、

俺は彼女に賭けてみようと思った。

 

「…今あなたが言っていることの意味…解ってるの?」

「ああ」

「……今私を連れて夜逃げをしよっていうの?」

「…ああ、そうだ」

「…………」

「一緒に出よう。俺はこの世界の外に付いて何も知らない。この時代に来て俺はずっとこの屋敷の中に居た。…そしてお前も人生の半分以上をここで過ごした。…一緒に出よう。あの外で何が待ち受けているとしても、二人で乗り込もう。お前と一緒に居れたら何も怖くない」

 

ここに来て何も悩んでいなかった。

これからどうしようかとか。この世界で俺は何をしていけばいいのだろうか。戻る方法はあるのだろうか。

考えるべきことが沢山あったのにしなかった。

 

守られていたからだ。

曹嵩に、この

館に守られた籠の中の小鳥。

そして曹嵩も、次世代に継げる野望があったと言ったけど、本当は自分の手で成し遂げたかった夢が…籠に囲まれて安全に守られながら奏でる小鳥のさえずりのようにまるで何もかもが幸せそうにしている間、その夢は心のどこかに埋められていた。

 

でも、もうお終いだ。

 

「お前の野望、俺が一緒に歩いてやる。だからお前も、俺と一緒に居てくれ」

「………」

 

 

「話は聞かせて頂きました」

 

 

「「へ?」」

 

 

曹嵩と俺が振り向くと、ドアを開いた先には侍女、椎花さんが立っていた。

 

「椎花、あなた……」

「いつか曹嵩さまがこの館を出ていくことになるだろうと思っていました。ご安心ください、既に準備は万全です」

「準備って……」

 

そう言いながら椎花は部屋に入って、部屋の壁側にあった重い棚を退かせた。

え、ちょっ、椎花さん、強いよ!?

 

「こちらに、この館の外に繋がる通路がございます。これを使うと、誰にも気付かれないままこの屋敷から離れた場所に行けます」

 

椎花さんが棚を退かせたその床を叩くと、中が詰まってなく、空になっているようにトントンと音がした。

 

「なっ!そんな秘密通路があったなんて私知らなかったわよ?」

「ここの通路はこの館が初めて作られた時からあったもの…ではなく、昔ここに曹嵩さまのようにこの屋敷に閉じ込められていたあるお嬢が侍女たちと一緒に掘った穴だそうです。この通路に関しては、その時この館に居た侍女の方々から聞いたわたくししか知るものが居ませんでした」

「どんだけ逃げたかったんだ。その人」

 

穴掘って逃げるとかここが牢獄かよ。まぁ、あまり違わないけど。

 

「こちらに、軽くて金になりそうなお飾りや財宝などを用意してあります。外に出たらまずお金が必要になるでしょう」

 

椎花さんの手腕が凄すぎる……

 

「ま、待ちなさい!私はこいつと一緒に出ていくとは一言も言ってないわ!」

「ではお伺いしますが、曹嵩さまはこのまま曹騰さまの仰る通りの人生を送られるつもりですか?」

「…!」

「嫁入りした所で、それから曹騰さまからの干渉がないわけではありません。今ここで逆らえないものでしたら、一度従った後なら尚更それに断ることは出来ないでしょう」

「………」

「ですから、お逃げになられる気がありましたら、ご一緒になられる殿方が居る時にさっさと夜逃げした方が宜しいかと」

「よ、夜逃げという言い方はやめなさいよ//////」

「……曹嵩さまが一番好きな本の内容を一刀様に教えて差し上げても……」

「分かった!分かったから言わないで!」

 

椎花さん、すごい、色々と。

 

「一刀様」

「あ、ああ」

「…曹嵩さまのことをよろしくお願いします」

「椎花さんは…?」

「わたくしはこれからもここに居ます。お二人が無事逃げて落ち着けるまで、私は今までのようにお嬢様の部屋を尋ね、三食を持ち込み、洗う水を持ってまいります。一ヶ月ぐらいは、運が良ければまた曹騰さまが訪れるまで、曹嵩さまが消えたことを隠すことが出来るでしょう」

「でも、そしsたら椎花さんは……」

「………」

 

………

 

「一刀、あなた今私を見てはっきり言いなさい」

 

曹嵩は俺をまっすぐ見て言った。

まだ紅潮している顔が、さっきはっちゃけてしまったのもあって凄く見づらい。

 

「ここを一度出てしまったら後戻りは出来ない。捕まったら最後、あなたは死ぬし、私もどうなるか分からない。それでも、私と一緒に行くの?」

「……俺はお前と一緒に居る。そういうお前はどうなんだよ。俺なんかと行っていいのか」

「勘違いしないで。私は別にあなたと一緒だから出るんじゃないわよ」

「へ?」

「あなたの話を聞いて目が覚めたわ。私にも、自分でやりたいことがあった。だから、人に定められた枠なんて気にしないで、私の野望を貫くわ。私は自分の夢のためにここを出るの。あなたとは関係ないわ」

「……そうか」

 

さっきのって、割りと告白みたいにやったつもりだったんだけどな。

まぁ、アレだ。結構年も離れてるし(8才差)、この時代だと俺ってもう既に婚期過ぎてるし。それにこの高飛車なお嬢さんの目線だと、俺ってかなり低いだろ。能力的に

 

「まぁ、それはもう良い。そうと決まれば日が暮れるとさっさとこの通路を使って逃げよう」

「………」

 

 

 

 

「って、ちょっと、多くないか?」

「何言ってるのよ、これぐらいは必要でしょう」

 

その日の夜、俺は曹嵩の荷物を見ながらいった。

 

「いや、荷物というか、屋敷にあるもの全て持ち込むつもりか、お前は」

 

合わせて俺の体重ぐらいの重さはありそうな袋が二つ。

 

「どうせ二度と来ないんだもの。金になりそうなものは全部持って行って私の野望のために資金に使ってやるわ」

「程々にしてくれよ。そんな大荷物持って外に出たら真っ先に怪しまれるだろ」

「これでも自重した方よ。それに人の荷物に気にするような奴は盗賊か泥棒だけじゃない。そんな奴ら会ったら蹴散らすまでよ。あなたが」

「俺がかよ」

「女の子を連れて夜逃げするのならそれぐらいのことは出来なければならないでしょ?」

「どんな基準だよ。しかもそれって寧ろこっちから盗賊誘ってるだろうが。とにかく荷物減らせよ」

「……しょうがないわね。ちょっと待ちなさい」

 

頼りにならないわね、とため息つきながら(理不尽だ)、曹嵩は袋を開けて物を整理し始めた。

 

「これは……大きさに比べてちょっと金にはなりそうにないからおいといて」

「この本は?別に本とかはあんま金にならないだろ」

「なっ!何勝手に持つのよ!」

 

袋の中にあった本を取りながら言った俺の手から、曹嵩は素早く本を奪った。

題名を見ると、この前俺が書庫で見た本だ。

 

「なんか大事な本なのか?」

「あなたとは関係ないわよ!」

「………」

 

一緒に夜逃げしようとしてる仲で関係ないとか……

 

「……な、何よ」

「いや、別に」

「………」

「………」

「…大事な本よ。凄く」

「何で?」

「秘密よ」

「……」

「女には秘密が多いのよ。一々問い詰めるような男は嫌われるわよ」

「…まぁ、さっさと整理してくれ」

 

もう最初から椎花さんがくれた荷物だけでも良かったんじゃないか。

 

 

「……と、この本に書いてあった」

 

なんか後ろで呟かれたが、聞こえなかったし、再度聞いたらまた怒られそうだったのでやめた。

 

 

「最後のご挨拶のために参りました」

 

準備が済んだ所で、椎花さんが部屋に入ってきた。

 

「椎花…ほんとに私と一緒に行く気はないかしら」

「屋敷が空になると、曹騰さまも直ぐにお気付きになられるでしょう。曹嵩さまの安全のために、わたくしはここに残ります」

「椎花……」

「…貴女さまのために仕えた生、悔いなどありません」

 

椎花さんは、今どれぐらいだろうか。

ざっと見て曹嵩より歳上、俺ぐらいの年の人だろう。

そんな彼女は既に死を覚悟していた。

 

「ありがとう、椎花」

 

曹嵩は最後に椎花さんを抱きしめた。

椎花さんは少し驚いた顔をしたが、直ぐに曹嵩を抱き返した。

 

「一刀様、曹嵩さまのことをよろしくお願いします」

「ああ…もっとも、どっちがどっちの頼りになるかって問題があるがな」

「今更弱音吐いてどうするつもりよ。はい、さっさと行きなさい」

「分かった、分かったから蹴るなって」

 

俺と曹嵩はそのまま曹嵩の部屋の秘密通路を通って、脱出を敢行した。

 

・・・

 

・・

 

 

「随分と遠いな」

 

通路は身を丸めて腹這いしてやっと通れるような大きさだった。しかも作られて長かったせいもあってか、崩れそうな所も結構あった」

 

「椎花の言う通りだと後一刻(二時間)はこのまま進むことになるはずよ」

「大丈夫か、曹嵩?」

 

既に小一時間ぐらいこんなふうに進んできていた。

曹嵩の声は少し弱っているように聞こえた。

 

「剣がこんなに重いとは思わなかったよ」

「捨てろよ、剣」

「馬鹿言いなさい!外に出たらもう何が出るか分からないのよ。出て直ぐ盗賊にでもあったらどうやって身を守るつもりよ」

「……わかった、その剣俺に渡せ。出たら返すから」

「あなたは既に身が重いでしょ?」

 

俺と言うと椎花と曹嵩が持っていろと無理矢理持たせた真剣と、椎花が用意してくれた夜食と水筒を身につけて、曹嵩がなんとか減らしたもののそれでも重い財宝や私物を入れた袋を前に押しながら進んでいた。

 

「良いから」

「嫌よ」

「……後で弱音言っても知らんぞ」

 

こっちもあまり余裕がある状態じゃなかったから、俺は一度断られてからそのまま前に進んだ。

 

・・・

 

・・

 

 

 

そのままどれぐらい進んだだろうか。

流石に疲れて来たと思った頃、ふと後ろから何も聞こえないことに気付いた。

 

「曹嵩?」

「………」

 

返事がなかった。

 

「曹嵩!」

 

通路は小さくて後ろなんて向けない。

途中で力尽きて倒れてでも居たらどうしようもない。

一体どこから…!

 

「曹嵩!!」

「………ぉ」

「!」

 

小さいけど声が聞こえた。そう遠くない。

俺はそのまま後ろの方で後ずさった。

 

 

「曹嵩!」

「……かず…と…」

 

後ろから声が聞こえたけど、とても弱々しかった。

脱力したに違いなかった。

…仕方ない。

 

「一か八かだ」

 

俺は持っていた剣の柄の方を使って通路の上を掘り始めた。

上に何があるか知らない。

もしかしたら水脈があるかもしれないし、出たら突然盗賊の巣窟でした、という落ちもあるだろう。そもそも上の土が総崩れして二人とも生き埋めにされるかもしれない。

でも、曹嵩はこれ以上進むことが出来なかった。

 

「ちっ!姿勢がおかしくてうまく掘れない!」

「……かずと…………なに…してるの?」

「待ってろ!曹嵩!もうすぐ…」

「…かず…と……」

 

ちっ!いい加減空けろっての!

 

「あ」

 

その時、剣が虚空を突く感じがした。

そこを中心に穴を広げると、やっと人が出られそうな穴が出来た。

 

「よし」

 

外に出てみると、周りに何もない。

荒野だった。とにかく、今はどこかで曹嵩を休ませなきゃならなかった。

 

「曹嵩、しっかりしろ」

「……かずと…」

 

身を反対側にして通路の中に入って、曹嵩を外に引っ張り出した。

力尽きて汗を流している姿が、いつもの強気な姿は消えていた。

こいつが女の子ってことをすっかり忘れていたんだ。俺の責任だ。

 

「水だ、取り敢えず飲め」

「………」

 

水筒の水を少し飲ませながら、俺は周りを見た。

荒野のど真ん中で、遠くに森が見える以外には何もなかった。

夜風が寒くて、こんな所に長く居られなかった。

 

「曹嵩」

「………」

 

曹嵩は休ませなければならないのに、こんな所では駄目だ。

取り敢えず、森の方へ行って、風を避けて野宿出来るような場所を作らなければ……

 

「っっ…!!」

 

俺は曹嵩が持っていた剣を自分の剣と一緒に身に付けて、曹嵩を背中に負った。

そこで更に、曹嵩の荷物を持つと、道場での修練が子供遊びに感じられるほどだった。

数時間狭い通路を通りながら俺自身も力が尽きたのか、一歩一歩が重かった。

曹嵩が思ったより重くなかったことだけが幸いだった。

 

 

 

 

「……ぅ……ん?」

「起きたか?」

「!」

 

朝起きた曹嵩が俺の声に驚いて自分の腰の剣を探すのを見て、俺が少し傷ついたのは秘密だ。

 

「か、一刀……どうなったの?」

「…お前な、疲れてたならそう言えよ。何倒れてるんだよ」

「………ごめんなさい」

 

まぁ、気持ちは分からなくもないが…自分の力で出ていくと言った癖に俺の手なんて借りたらカッコつかないし、自分の決心がその程度のものだと思われるのが嫌だったのだろう。

だけど、曹嵩は数年を屋敷内だけで生活してきたお嬢さまだ。あんな所を何時間も通っていけるほどの体力はなかったのだ。

最初からそこに気づけなかった俺も馬鹿だが、意地を張った曹嵩も相当なものだ。

 

「水飲むか?」

「え、あ、うん……」

「椎花さんが作った夜食と、後木の実とかとってきたから、一緒に食べようぜ」

「………ごめんなさい」

「……」

 

屋敷の中ではあんなに強気なお嬢様だったのに、外に出てから直ぐにこうだ。

 

「俺は確かに言った。お前と一緒に居るって。一々謝らないでくれ。お前は独りじゃないってことだけわかってくれれば良い」

「………」

「あの中では知らんけど、一応俺、お前より年上だし、ちょっとは頼りにしてくれても良くない?」

「…呆れてないの?」

「うん?」

「あんなに強そうに意地を張っておいて、今はこんな足手まといになるようなことして……」

「別に、お前のそういう所、別に嫌いじゃないし」

「え?」

「弱音吐きながら何もかも他人任せな奴らより全然いい」

「…ほんと?」

「考えてみろよ。お前は自分の定められた運命から逃げてきたんだ。自分の人生を人に決められて生きる奴らより、そんな運命から逃げて自分の手足で立ち上がろうとするお前は何倍も偉い」

「…………」

「でも、何も独りでやっていけというわけじゃないからさ。もっと…こう……」

「……?」

「たまには、ちょっと無茶そうな程度に頼ってくれたら、俺としては…一緒に行くって決めた甲斐があるってもんだ」

「………ふふっ」

 

屋敷を出て、曹嵩は初めて笑った。

籠の中の小鳥のそれより、何倍も美しかったことは言うまでもない。

 

「ありがとう、一刀」

「…どういたしまして…早く食べろ。元気付いて早くどっか村にでも行かなければ飢え死にだ」

「ええ」

 

俺たちはこれからどうするべきなのだろうか。

俺には何も具体的な計画も、せめてこれからどの方位に向いて歩くかの考えさえもなかった。

でも、俺は思った。

昨夜俺がそうであったように、このお嬢さんのためになら、俺はなんだって出来る。

そう思った。

 

 

 

 

 

 

「って、これ、ほぼ食べられない実じゃない」

「え、マジ?それって棗とかじゃなかったのか?」

「バカ…」

 

 

 

 


 
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