忠。
儒教における重要な徳の中の一つであり、正直で裏表のないことを表す、君臣間において重要とされるもの。これに義という文字がついて忠義となると、主君に対して尽くす真心、という意味合いになる。
すなわち、忠という言葉のその意味を正しく用いるのであれば、たとえどのような状況であれど、主君のためとなるべき行い、もしくは言を発するという事になる。
しかし、その忠義というものを少々勘違いする者が、長い歴史の中には時として現れる。
漢の三公という重職の中で司徒という位にある、王允、字を子師。
まさに彼こそがその典型とも言うべき人物で、彼にとっての忠を尽くすということは、他の全てを犠牲にしても成し遂げるべきことだと、そう思っていることである。
もちろん、その事自体はあながち間違いでもない。忠を尽くすと言うことは、須らくそういった要素を含んでいるのも、動かしがたい事実では在る。
だが、彼が他者と違っているのは、己自身の考えこそがもっとも有効で優れた手段である、と。心底から信じて疑わない事である。
どれほど他人から諫言されようと、一切その聞く耳を持つ事無く、自分の行動こそが、主君にとって最良のものであるとそう頑なに信じ、たとえその主君から一時遠ざけられようとも、自身の言動にて成果さえ出し、主君のためとなるなら、それこそまさに真の忠臣たる自らの本望である、と。
唯我独尊。
……は、少々大袈裟かもしれないが、彼はそれほど、自身の“忠義”というものに、絶対の自信と誇りを持ち、彼にとっての主君、すなわち漢の十四代皇帝劉協の、その真の
完全に、彼はそう思い込んでいるのである。
そしてその思い込みの結果王允が行なったのは、時の相国である董卓を悪逆非道の人物として世に流布し、各地の諸侯を都に呼び寄せ、それに董卓配下の者達が抵抗する間を狙って、彼自身の手で董卓を逆賊として誅し、相国と言う皇帝の真の忠臣が座するべき所に、自らがその忠臣として座る……というものであった。
漢の相国という、いわば皇帝の右腕ともいえる地位には、董卓というぽっと出の田舎者ではなく、皇帝の真の忠臣である(と、本人がそう思い込んでいる)自分こそが、その位置に相応しいのだという、そんな身勝手極まりない願望のために。
そしてその策が万が一にも失敗する事などある筈も無いと、王允は欠片ほどにも疑う事無く、その時が訪れる絶好の機会を、虎視眈々と待ち続けていたのであった……。
第二十二羽「忠臣は奸臣を謀り、羽は虎を通じて奸雄に疑をぶつけんとするのこと」
洛陽城内、内廷のとある一室にて、密談を交わしている人物が二人いた。
「そうかそうか。いや、帝はそれほどまでにお喜びになられておられるか」
「はい、それはもう、昨今見受けられなかったほど上機嫌に、王司徒の事を褒め称えておられます。司徒こそまさに、漢朝の忠臣中の忠臣であると」
「そうであろうそうであろう。帝にも漸く、真の忠臣という物をご理解できたようだ。いや、老体に鞭打って策を練った甲斐があったという物よ。かっかっか」
密談相手のその言葉を聞き、その皺だらけの顔にさらにたくさんの皺を作りながら笑う、見事なまでに伸び整えられた白いひげの、その小柄な老人。
漢の三公の一つである司徒の位階にある、王允、字を子師という。
その王允が座る椅子の前に立ち、腰を低くして追従のような言葉を彼にかけ、さらに持ち上げているのは、劉協の側近である李粛である。
「しかし、だ。陛下のご機嫌が良いのは、何より重畳なことではあるが……報せによれば、もうすでに、汜水関が袁本初ら連合勢によって陥落したそうだが……」
「たしかに。これはちと予想外な速さではありましたな。……司徒どのの策を為すためにも、これは少々、予定を早めねばならないのでは?」
「……確かにそなたの言う通りかも知れん。呂布やら張遼やら腕の立つ者らがここに居らぬ間に、なんとしても“逆賊”董卓を誅さねばならん」
王允の立てた董卓排斥のための計画。
それは、董卓のありもしない悪行をでっち上げ、それをもって各地の諸侯に董卓討伐を呼びかける事から始まった。そして、名門としての自負ばかりの強い袁紹が見事そのエサに食いつき、王允のその思惑通り、各地の諸侯が連合を組んでの、董卓討伐が始まった。
その連合の標的とされてしまった董卓は、周囲の強い声にも押されて徹底抗戦の道を選び、洛陽防備のための二つの関門、つまり汜水関と虎牢関のそれぞれに、武将と兵を配置。洛陽にもその戦力は一応残っているが、それも、王允の計算の内である。
「都に残っている董卓の兵は、ざっと見ても一万足らず。対してわしが金をばら撒いて集めた、わしの私兵達の方は、その総勢三万。……結果は火を見るより明らかじゃが、こうも早く汜水を落とされるほど、董卓の配下どもは使えぬ駒揃いだったとは……いささか計算違いじゃったわ」
「……いや、まったくもって、仰るとおりにて……。ですが司徒殿?その使えぬ駒たちとて、都に戻ってきてしまえば、厄介なことには違いありませぬぞ?何しろ、虎牢関にはあの“飛将軍”が詰めて居りますれば、守りをかの者に任せ、他の者は早々に引き払ってきてしまうやもしれませんぞ?」
「む。……それは確かに、ありえるやも知れぬな……」
飛将軍。
それはすなわち、前漢の将軍であり匈奴からも恐れられた李広という人物が、その匈奴からそう呼ばれていたことに由来する名称であり、特に武に優れた人物の事を、その彼になぞらえてそう呼ぶようになっている。
当代(後漢末期)で言えば、勿論、それに当てはまる人物は一人しか居ない。董卓軍の第一大隊大将、呂布、字を奉先のことである。
「そこで、私めが一つ、良き舞台を整えさせていただきました」
「良き舞台……だと?」
「はい。……明後日、相国は陛下のお呼び出しにより、後宮の方へと参内する手筈となっております。禁門の内側は、陛下以外の誰であろうと、陛下のお許し無く帯刀することが出来ませぬ。……いかに武に長けた相国といえど、素手ではまず、勝ち目はありませぬ。そこで」
「……わしが前もって禁門の内側に待ち構え、董卓めがのこのこやって来たところを……ということじゃな?」
「御意。……司徒どのや、相国を囲む兵たちの帯刀については、私から陛下にお許しを願っておきますので、そちらの方はどうぞご心配なく」
「うむ。万事そちに任せておこうぞ。そして事がなった暁には、約束どおりそなたを執金吾として取り立てようぞ。かっかっかっかっか!!」
「……ありがたき、幸せ」
小柄なその体を豪快に揺らしつつ、王允は機嫌よく、高らかに笑う。そんな彼のことを、深々と下げたその頭はそのままに、李粛が僅かに口元を歪めながら嘲笑っていようなどとは、欠片ほどにも思う事など無く、狭いその部屋の中に、王允のそのしわがれた笑い声は、暫くの間響き続けるのであった。
ここで一旦、場面を反董卓連合軍が駐屯している、汜水関の方へと移す。
曹操の手によって陥落した汜水関の、そのとある一室において、連合軍の次なる攻略目標である虎牢関に対し、誰が次の先手を務めるかについて、連合参加諸侯がその話し合いを行なっていた。
「それでは華琳さんには次の虎牢関攻めでは、後方での待機に回っていただくと言うことで、皆さん宜しい
ですわね」
「ああ、私の方には何の異論も無い。桃香は?」
「あ、うん。私の方も問題ないよ」
「あたしらもそれで良い。今度こそ、あたしらに先手を譲ってもらえるんならな。な、蒲公英」
「うん」
汜水関への一番乗りを見事に達成した曹操を、次の虎牢関攻めには参加させず、汜水関で後方の安全確保を担わせるべきだとした袁紹のその提案に、公孫賛、劉備、馬超の三人が賛成の意を示していた。
公孫賛にしても劉備にしても、この汜水関へと先手で攻め寄せておきながら、ほとんどその結果を出せなかった。それゆえ、次の虎牢関でこそはという思惑が両者にはあり、馬超の方は、この連合に参加しておきながらもまだ、活躍の場が来ていない為、早く暴れたくてうずうずしている、といった感じで居た。
「……あたしの方からも、それについては特に異論は無いんだが、麗羽……ちょいとだけ、この場で孟徳に聞きたいことがあるんだが……構わないかい?」
孫堅からその提案がなされたその瞬間、それまで一言も発せずに場の流れを見つめていた曹操が、僅かにその眉を動かした。
「え?あ、ええ、別に私は構いませんけど……蓮樹さんが華琳さんに何をお聞きになると言われるので?」
「……曹孟徳。お前さんがこの汜水関を落とした、その電光石火の如き手腕は見事だったよ。だが、その時に使った手段について、うちの間蝶からちょっと、見過ごせない事を聞いたものでな」
「……見過ごせ無い事、ね。一体何のことかしら、孫文台さん?」
孫堅が向けたその鋭い視線にも一切怯む様子を見せる事無く、それどころか逆に、笑顔をその顔に浮かべて曹操は応えて見せた。
「……伯珪と玄徳が二人がかりでも落とせなかったこの頑強な関を、寄せ手を交代したばかりのお前さんがいとも容易く落とせたのは、董卓軍の兵のうち、元・黄巾党だった連中が中から呼応したためだと、そう報告を受けたんだが……間違いないかい?」
「……ええ。その通りよ」
『なっ!?』
そこで思わずそんな声を挙げる、曹操と孫堅以外の“全て”の諸侯。
「……そしてそれが出来たのは、お前さんの所に、この世にはもう居る筈の無い、死んだ筈の黄巾党の首魁だった張三姉妹が、数え役満姉妹なんて風に名を変えて協力していたからだ……って言うのも、事実だと認めるのかい?」
「ちょ!?蓮樹さん!それは本当なんですの?!」
「張三姉妹って、確か孟徳さんが討伐したはず…でしたよね?」
「……もしそれが本当だとしたら、とんでもない事実だが……どうなんだ、曹孟徳?」
「……」
孫堅の口から語られたその衝撃の報告によって、曹操以外の全ての諸侯の視線が、氷の様に冷たく無表情なままの彼女へと、一気に集められる。
「どうなんですの、華琳さん!?もしそれが本当だとすれば、これは立派な朝廷への反逆罪ですわよ!?」
「そーですねー。確か黄巾の乱の時に各地の諸侯に出された朝廷の命令は、黄巾の首魁を必ず、討ち果たすべし、とあった筈ですし」
「おい、孟徳。どうなんだ、実際のところは?!」
「……華琳さま」
それぞれに諸侯が詰め寄る中、その詰め寄られている当人の曹操は、一切その表情を変える事無いまま、諸侯からの糾弾の台詞を聞いていた。その彼女の傍らに控えていた曹操の軍師である荀彧が、不安げに主君の顔をチラリと見やる。
「……なら、孫文台。私からも聞くのだけれど、うちにいるあの三人、数え役満姉妹が張三姉妹だという、その根拠は、一体何かしら?」
「根拠……だと?」
「ええ、根拠よ。投降してきた元黄巾兵だった者たちから、その様な話でも聞けたのかしら?」
「……うちの間蝶である、周幼平が直接見聞きしてきた……では駄目なのかい?」
孫堅の配下の一人であり、間者としてもかなり優秀な部類に入る、周泰、字を幼平と言う人間を、孫堅はあらかじめ汜水関に潜らせていたと、一同にそう語って聞かせた。関の扉を中から開かせ、関攻略の一番手柄を取るために、自身の軍師である周瑜の提案に乗って密かに行っていたのだと。
もっともそれも、華雄率いる部隊に邪魔されたがために、達成する事は無くなってしまったがとも、そう付け加えて。
「必要なら明命……幼平の奴をここに呼ぶが?」
「その必要は無いわ。……数え役満姉妹については、本当ならうちの軍の特秘事項だったのだけど、変に疑われたままってのも、今後の連合の行動に差し支えるかもしれないから、ここに居る諸侯にだけ、特別に明かしておくわ。桂花」
「は、はい!」
「彼女達を呼んできて頂戴」
「わ、分かりました」
曹操のその命令を受け、慌ててその部屋を出て行く荀彧。
(……ちょっと意外でしたねえ。孟徳さんの事だから、てっきり知らぬ存ぜぬでも貫かれるかと、思っていたんですが)
(……なんであれ、これで事実だけははっきりするじゃろ。数え役満姉妹とやらが、この場にやってくれば、の)
一同の視界の死角にて、そんな事をひそひそと話している、袁術と張勲の二人。そして、荀彧が出て行ってから、およそ三十分も経った頃だろうか。その彼女が、件の三姉妹を引き連れて、その場へと戻ってきた。
「どーもー!数え役満姉妹の長女、天和でーす」
「その妹、次女の地和よ。よろしくぅ♪」
「……三女、人和です」
部屋に入るなり、元気良く挨拶をした長女の天和を皮切りとし、次女の地和、三女の人和が、一同にその名を名乗る。
「……単刀直入に聞くが、お前達、あの、張三姉妹……なのか?」
「えっへん。その通りだよー」
『なっ!?』
「おいおい。また随分あっさり認めたな」
「……天和。ここでは、その“嘘”を吐かなくて良いわ。貴女たちの本当の正体を、ここに居る全員に聞かせてあげて頂戴」
「……どういうことですの、華琳さん?」
公孫賛の真っ直ぐにぶつけたその問いに、あっさりと胸を張って頷いて見せた天和だったが、そのすぐ後、曹操からこの場においては嘘を吐かなくて良いと言われると、「えー?なーんだ、つまんないのー」と言いつつ、不貞腐れて見せた。
その二人のやり取りを聞き、袁紹が早く本当の事とやらを話せと曹操を急かすと、三女の人和が曹操の前に歩み出て、数え役満姉妹の“真実の姿”を、その場の全員に暴露してみせた。
「……私達は、張三姉妹に顔と声が瓜二つなだけの、ただの偽者……です」
「そう。そしてその事を承知の上で、私は彼女達のことを利用している……というわけよ。ま、信じる信じないは、そっちにお任せするけどね」
『……』
自信たっぷりに、その事を皆に語って聞かせた曹操の顔を、疑いの眼差しで暫く見つめ続けた一同。しかし、一同にはその虚実を見破る
再び、場面を洛陽へとここから戻す。
「……では、行きます!」
「どこからでも!」
その掛け声と供に小さく腰を落としたその瞬間、董卓は一気に地を蹴り、彼女同様木剣を持って立っている一刀を目掛け、自身が持つ木剣をふるって彼の胴を薙ごうとする。
「っ!」
「せえーいっ!!」
小柄ながらも、かなりの鋭さを見せる董卓のその剣を、一刀はかろうじて防いだ。しかし、一刀の剣と董卓の剣が一瞬交錯したかと思ったその瞬間、董卓は剣の刀身部分を軸にして、鋭く回し蹴りを一刀に放った。
「くっ!?」
「隙ありです!!」
「?!……んなくそおっ!」
董卓のその蹴りを何とか腕で防いだ一刀であったが、彼女のそのか細い脚からは想像も着かないほどに重いその蹴りに、僅かに体勢を崩した。
当然、董卓の方がその隙を見逃す筈も無く、彼女は体制の崩れた一刀の腹を目掛け、剣の柄でもって一撃を入れようとした。しかし、一刀の方も黙ってその一撃を受け入れる筈も無く、かなり無理やりに体勢を立て直し、間一髪といった所で、董卓のその剣を避けていた。
「……凄いな、月。失礼かもしれないけど、君がこれほども腕が立つなんて、正直思っても見なかったよ」
「へぅ~。えっと、その、わたしなんて、まだまだですよ。……霞さん相手に、十本中二本取れれば良い位ですから」
「いやいやいや。霞……張文遠相手にそれだけ勝てれば十分だって。……さすが、董卓仲頴の名は伊達じゃあないな」
その姿形こそ、一刀の知っている正史の董卓とは真反対な彼女ではあるが、膂力も速度も、今の彼を遥かに上回ったものを、一刀の目の前で柔らかな微笑を浮かべているその少女は、しっかりとその身に宿していた。
「……けど、これでやっと納得できたし、安心したよ。囮役なんて君には危険じゃあないかと思ったけど、これならなんの問題も無いな。あ、だからといって、絶対に無理したら駄目だよ?いざとなったらすぐ」
「ふふ、分かってますよ。……その時は、一刀さんにすぐ、助けてもらいます」
ちなみに、一刀と董卓が何故その場で模擬試合などをしていたか、であるが。
明後日に控えた王允捕縛のための作戦で、その時の囮役を自ら演じることを董卓が買って出たのであるが、一刀ら袁家組がその提案に対して不安の意をその場で呈したのが、その切欠だった。
何しろ、董卓のその容姿というのは、とても武に秀でた将のものには、到底見えないのである。その事が陳蘭の口から直接董卓に指摘されると、その彼女自身の提案によって、その腕のほどを一同に披露することとなった……という訳である。
「……やっぱ、人っての見た目で判断しちゃあ駄目、だな。……あれなら、美紗と良い勝負……位じゃあないか?」
「そ~ですね~。多分~、千ちゃんの~、読みどおりじゃあ~、無いかな~」
「……霞といい恋といい華雄といい、なんでこうこの世の女ってのは、こうも強いのばっかりなんだか……」
男子よりも女子の方が、往々にして圧倒的に高いスキルを持っている事の方が、この世界においてはいたって普通な事である。十数年間この世界で生きてきた陳蘭とて、勿論その事は重々承知の事ではあるが、それでもやはり、どこか納得いかないというか、理不尽なようなものを時折感じてもいる、彼であった。
「月~。お疲れ様~。……で?どうだった、あんたたち?これでもう納得出来たかしら?」
陳蘭たちと一緒に試合を見学していた賈駆が、試合を終えて笑顔で語らう一刀と董卓二人の下へと歩み寄り、その二人に間に何気に入りつつ、董卓には笑顔で労いの言葉を、一刀達にはドヤ顔をしたままでの、親友のその腕っ節を我が事の様に誇る言葉を、それぞれにかけてきた。
「ああ。ホントに恐れ入ったよ。……ついでに、俺もまだまだ修行が足りないって事も、再確認できたし、良い体験をさせてもらったよ」
「そ。なら、後は明後日の決行日を待つだけね。……ところで千州?あんたの言っていた例の罠だけど、設置の方、出来たそうよ」
「分かった。なら、俺の方も零黒の整備、きちっとやっておかないとな。じゃ、そう言うわけだから、俺は先に戻ってるよ」
「それじゃあわたしも~、お部屋に戻って~、準備の方~、きちんとしておきますね~。にゅふふ~」
陳蘭と雷薄の二人が、なにやら二人で楽しげに話をしつつ、その肩を並べて揃って廷内へと戻っていく。その二人の背をどこか羨ましげに一刀が見ていると、その彼の背にふたたび賈駆の声がかけられた。
「ねえ、北郷?一応、アンタにもう一回確認しておきたいんだけど」
「ん?あ、ああ。なに?」
「連合に参加している方の連中……アンタの主人である袁公路は、本当に私達を…月を助けてくれるの?」
「え、詠ちゃん!!」
「……それは、一体どういう意味だ、賈文和?」
賈駆のその一言が発せられた瞬間、一刀はその彼女の事をあえて姓と字と言う呼び方で呼び、その目を細めて問い返していた。
「アンタたちのことは、ボクだって勿論信用してるわ。実際、真名だって預けてるんだし。けど、あんた達の主君である袁公路については、正直まだボクも半信半疑なのよ。言っちゃあ悪いけど、彼女の事はまだ直接会ってその人となりを見たわけじゃあないしね」
「駄目だよ詠ちゃん、そんなこと言っちゃあ。……一刀さん。一刀さんは袁公路さんのこと、とても信頼している……ですよね?」
「……ああ」
「だったら、私達は一刀さんの信じる袁公路さんを信じます。ね?詠ちゃん」
「……分かったわよ。……ごめん、北郷。汜水が予定よりも早く落ちたものだから、少しだけ神経質になっていたみたい。……ほんと、ごめんなさい」
当初の計画より、数日早い汜水関の陥落という、ほんの僅かの綻び。それは、張勲が始めに立てた計画の中では、ほんの些細な狂いなのかもしれない。
しかし、たとえ小さな綻びであったとしても、今の董卓軍にとっては、重大事に繋がる綻びとなってしまう、そんな可能性も十二分にあるのである。
確かに、計画が全て順調に進めば、董卓たちは今の立場からは一切揺らぐ事無く、そのままで居ることが出来るだろう。しかし、もし計画が失敗すれば、董卓は悪逆非道の汚名を着たまま、この世から消えてしまわなければならなくなってしまう。
賈駆はそのことを憂慮する余り、少々過敏になっており、一刀に対して思わず先の様な事を聞いてしまった。
「……いいさ。俺の方こそ、睨みつけたりしてごめん。……じゃあ、俺もそろそろ戻るよ。……おやすみ」
「あ、う、うん。……おやすみ」
董卓と賈駆の二人にそう謝りつつ、一刀もまた、練武場を一人後にし、ほんの少しだけ気まずさの様なものが最後に残った、その日の洛陽城内、練武場の片隅であった。
そしてその翌日、洛陽の董卓達の下に、一人の伝令が現れ、その事態を報告して来たのである。
「『袁』の旗を掲げた二つの軍勢、その数およそ六万!本日未明、虎牢関を目指して汜水関を出立いたしました!!」
~to be continued........
後書き。
月ちゃん強くしちゃいました。
といっても、本人が言っていたように、霞の足元に一歩及ぶぐらいの実力しかありませんがww
まあ、一刀も言っていたように、それでも十分っちゃあ、十分ですけどねwww
正史の董卓だって人並み以上の武力を持っていたはずなのに、恋姫の彼女がそうでなければいけない理由も無い・・・と、ボクはそう思った次第です、ハイ。
ちなみに、これもちゃんと意味のあることですので、その辺十分、ご了承とご理解をいただきたいです。
それと月に限らず、今外史においては、ある程度まで、全ての恋姫たちを正史の武将に近い能力に、上げていくつもりです。
もちろんいきなりではなく、徐々に徐々に、です。
でもって、華琳が使った例の三姉妹に関する言い訳と言うか、釈明。
出来る限り読者様に納得してもらえる様、無い知恵を絞って考えました。なので、あまりキツイツッコミは無しな方向でお願い出来たらナー、と思ってますwww
まあ、諸侯がその釈明に納得いっているかいないかは、多分、半々ぐらいじゃあないでしょうかね?
約二名ほどは素直に信じるだろうし、約二名ほどはほとんど信じていないと、思いますけど。前者と後者、誰の事かは、まあ、言わずもがなかとは思いますがwww
さて、いよいよ連合戦もクライマックスも迎えます。
虎牢関に先手として向かった両袁家の運命は?
そして、洛陽にて動く一刀達の策は、果たして上手くいくのか?
一日のタイムラグがもたらすその結末は、果たして・・・?
それではまた次回、第二十三羽にて、お目にかかりましょう。
再見~( ゜∀゜)o彡゜
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仲帝記、久しぶりに更新ですw
DLサイトで見つけた同人ゲームやっていたら、全く作業が進みませんでした。
どーもスイマセンwww
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