「なんで?」
北郷一刀は携帯を片手に首を捻る。
「今日はくるな」
液晶に表示されているのは恋人からにしてはあんまりな内容のメール。
着信音とともにまたメールが届く。
「絶対にこないで」
着信音とともにまたメールが届く。
「きちゃダメなの」
着信音とともにまたメールが届く。
「こない方がよろしいかと」
……顔文字や絵文字で
極めつけは。
「来たら死ぬ」
一刀はがっくりと膝をついた。
部活が終わってこれから皆のいる乙女塾へ向かおうと思っていた矢先のこんなメール。
「俺、なんか怒らせたっけ?」
しばし悩んだ後、出た結論。
「よし! 謝りにいこう!」
一刀は乙女神宮へ向かって駆け出した。
「いくらなんでもいきなり殺されたりはしないだ……ろ」
呟きつつ、足取りを緩める。
「……春蘭こっちでもたまに剣出すよな……」
さらに遅くなる。
「ああもう! いったいなにしたんだ俺!」
ついには歩みを止めて頭をかかえる。
蹲って頭を抱えた一刀がう~とかあ~とか悩んでいると、一人の少女に遭遇した。
「あれ? 兄ちゃん?」
顔を上げて相手を確認する。
「季衣?」
「うん。どうしたの? どこか痛いの?」
心配そうに一刀を窺う季衣。
「い、いやそうじゃなくて……季衣は怒ってないのか?」
「え?」
ハッとして蹲ったまま携帯を確認する一刀。
「あ! 季衣からはきてない」
どれどれと、季衣が横から覗き込む。
「あ~、うん。そうか」
そしてうんうんと頷く。
「なんだ? なんかわかったのか?」
やっと立ち上がって季衣に聞く。
「うん。でも兄ちゃん、もしかしてみんなに会いに行こうとしてる?」
「ああ。なんで怒ってるかわからないけど、このままじゃまずいだろうし」
「死にたいの兄ちゃん!?」
驚いた顔で聞く季衣。
「そ、そんなに怒ってるのか?」
「怒ってないよ」
「え!?」
今度は一刀が驚いた顔を見せる。
「でも兄ちゃんが行くともの凄い怒ると思う」
「どういうことだ?」
「あのね、今日は……」
季衣の口が途中で止まる。
「今日は? ……季衣?」
少しづつ季衣が一刀から距離を取り始めた。
「あ、あのね……」
「どうした?」
一刀が近づこうとすると季衣は。
「こないで兄ちゃん!」
そう叫んだ。
「き、季衣まで……。いったいどうして? ……季衣、顔色が悪いぞ。大丈夫か」
「だ、大丈夫だから」
一刀が心配した通り、季衣の顔は青ざめ、そして足が微妙に震えていた。
「そんな様子で大丈夫なわけないだろう!」
季衣に駆け寄り、ひょいと持ち上げる。
所謂お姫様抱っこという姿勢である。
「あ」
驚く季衣。
「ほら、やっぱり調子悪いんだろ?」
普段なら簡単に捕まえることなどできない季衣を知ってるだけに余計に心配になる一刀。
「待ってろ。すぐに病院に連れて行ってやるから」
「ち、違うよ兄ちゃん! ボクなら大丈夫だから」
赤い顔で脱出しようともがく季衣。
それでも怪力少女が抱っこされたままなのは、調子のせいか、それともお姫様抱っこのせいか。
「ほら、暴れんな、落ちるぞ」
一刀は落ちないように両手の力を強める。
「そ、そんなに締め付けたら……」
季衣の抗議が途中でやみ、別の音がした。
ぷう。
その可愛らしい音は季衣の小さな小さなお尻から。
「なんだ、オナラ我慢してたのか」
「なんだじゃないよ! 兄ちゃんのバカ!」
耳まで真っ赤な季衣。
抱っこされてなかったら、すぐにも一刀の前から逃げ出したかもしれない。
「それぐらい気にしないのに」
「……本当?」
疑わしそうな目で一刀を見る。
「当たり前だ。生理現象だし」
「じゃ嫌いになったりしない?」
「ああ。それこそ当たり前だろ。俺が季衣を嫌いになったりするもんか!」
「兄ちゃん!」
季衣は半泣きで一刀の首に両手を回す。
「むしろ御褒美だ」
爽やかな
ぼむっ!!
その豪快な爆発音は季衣の小さな小さなお尻から。
「安心したらまた出ちゃった」
へへ、と笑う季衣。
「……はははは。そんなに我慢してたのか」
「へへへへ♪」
二人は見詰め合って笑うのだった。
「
「うん。華琳さまが、あんのうんっての買ってきてそれで、焼き芋してみんなで食べたんだよ。おいしかった~♪」
「ふ~ん。……謎はすべて解けた!」
やっと得心いった表情を見せる一刀。
「つまり、さっきの季衣みたいな状況になりたくなくて俺にくるな、と」
「そだよ~」
「なら、メールにそれを書いてくれりゃいいのに」
メールを再確認しながら愚痴る。
「だって兄ちゃん、そんなこと書いたらくるんじゃない?」
「そんなこと……ふむ。ここは行かねばなるまい!」
一刀の目が輝く。
「ダメだってば!」
再び一刀の首に両手を回し力をこめる季衣。
「ぐっ!」
あまりの締め付けに一刀が苦しむ。
「殺されちゃうよ兄ちゃん。それにみんなに嫌われるよ」
「じょ、冗談だから……」
なんとかそう一刀が言うと、季衣は力を緩める。
「ホントに?」
「ああ。俺も命が惜しい」
「そっかな~。兄ちゃんは命かけそうな気がするけど……。でも、ホントにダメだからね。ボクが喋っちゃったせいで兄ちゃんが行ったなんてなったら、ボクもオシオキされるよ!」
「わかってるって……で、季衣はどこに行く途中だったんだ?」
誤魔化すように話を変える一刀。
「ちびっこがね、焚き火で焼いたのもいいけど、石焼き芋もおいしいって言うから探しにきたんだ!」
「石焼き芋か~。俺も食いたくなってきたな」
その時ちょうどスピーカー越しの声が聞こえてきた。
「いしや~きいも。おいも~、おいも~♪」
「おいしいね、兄ちゃん」
「知ってるか? 皮ごと食べると咽ないんだぞ」
「へ~」
ベンチに座る一刀。その膝の上に座る季衣。二人で焼き芋を頬張る。
「でも、これでまたオナラでちゃうかな」
そう言いつつ、芋を食べるスピードは落ちない季衣。
「そうだな……。なら、俺が栓してやろう」
一刀は再び爽やかな
<あとがき>
安納芋、美味しいですよね。一刀なら鹿児島の祖父のとこで食べてるかも?
第二回恋姫総選挙の季衣応援投稿でした。
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