「麗羽が襲われた?」
年末のある日、急報に華琳は驚く。
「はっ。しすたぁずの雑用中に襲われたそうです」
報告するは現場を確認してきた凪。
「張三姉妹は無事なの?」
「はい。襲われたのは袁紹と顔良だけです」
「文醜は?」
袁家の二枚看板の残る一人の安否を尋ねる。
「現場にはおらず無事です。……仕事をサボっていたようで」
凪は不真面目だからこそ救われたのを素直に喜べない。
「そう」
一度だけゆっくりと目を伏せる華琳。
「……せめて墓ぐらいは用意してあげましょう」
友の死を悲しむようなその表情はしかし、次の報告ですぐに塗り替えられる。
「い、いえ、袁紹、顔良ともに命に別状はありません」
「……まさか襲われたというのは……物好きな……いえ、顔良の方を狙ったのかしら?」
「そ、そっちでもありません!」
何故か真っ赤な顔で否定する凪。
それによって華琳の頭の中から「お止しなさい」「あーれー」と半裸で抵抗を続けていた麗羽と斗詩の姿が消えた。
思わず大声を上げてしまったのに気付き焦る凪。
「す、すみません。犯人の少年が奪ったのは……」
「今度は陸遜」
翌日、次の被害者の報告を受ける。
「せや。うちのからくりの参考になりそうな本持ってきてくれるとかで会う約束しとったんや。なのにあんま遅いんで探しいったらやられとった」
待ち合わせの相手だったという真桜。
「本人いわく、落ちていた本に夢中になっていたらいつのまにか、だそうです」
事情聴取で何があったか不明だが、稟は両の鼻穴を紙で塞いでいた。
「明らかに罠でしょう」
華琳はため息を一つ。持病の頭痛がぶり返してきたのを認識しながら報告を聞く。
「それで、被害は?」
「袁紹の時と同じです」
「そう。なにが目的なのかしら?」
報告している二人の脚を眺める華琳。
「ただの変態やろ?」
「しかし、三人に手を出さずに放置したままというのは……」
稟は首を傾げる。
「そうね。ちゃんとシてあげないと女性に失礼というものよね?」
ふふっと狩人の目をした主に将軍と軍師は若干引く。
「そ、そんなことをされたらそれこそ大問題です。事件は魏の領内で起きてるんですよ!」
荒い鼻息で詰めていた紙を吹き飛ばす稟。幸いにして鼻血は止まっていた。
「せやなあ、そん時は真っ先に華琳さま疑われるんと違う?」
数日後の夕暮れ。
街道にそいつはいた。
ツナギに帽子、そして
「……」
無言で道の真ん中に立ち塞がる。
辺りには少年と狙われた女性二人の他は人影はない。
「置いていけ」
すっと二人を指差す少年。
「なっ、なんじゃ?」
「これはアレですね~」
襲われている二人、美羽と七乃はひそひそと相談する。
「お嬢様、なんでここにいるかおぼえてますかぁ?」
「ん? 無様な姿をさらしたと噂の麗羽を笑いにきたのじゃろ?」
「直接会うのは怖いので遠目からこっそりと、でしたよね」
「うむ。気付かれぬようこっそりとじゃ。うははははは~」
律儀に二人の会話が終わるのを待っているのか、少年は微動だにしない。
「それで、袁紹さんがどんな無様な姿をさらしたか、おぼえてますか~?」
「馬鹿にするでない。それぐらい覚えておるのじゃ。男に襲われたのじゃろ? ……む? 襲われなかったから恥をかいたのじゃったかのう?」
首を左右に傾げながら悩む美羽。
「実はですね、その犯人さんに会っちゃったみたいです」
「ふむ。アレが麗羽を襲ったり襲わなかったりした犯人なのかえ?」
「そのようですね」
「なんと! その者、よくやったのじゃ♪」
無邪気にはしゃいで少年に近づこうとするのを七乃に止められた。
「いえ、お嬢様と私も狙われてるみたいなんです」
「な、なんじゃと!?」
「わ、妾たちも襲われたり襲われなかったりしてしまうのか?」
「それはもう♪」
ガタブルと震えだす主人を支えながら妙に嬉しそうな七乃。
「お嬢様の肢体を弄ぶんですよ、きっと。あ、弄ばれなかった時は私が代わりにしますのでご安心下さい、お嬢様♪」
「う、うむ。意味はよくわからんが七乃にまかせれば大丈夫なのじゃな?」
「それはもう♪」
もう少年の方は向かず、七乃の胸に顔を埋めて震える美羽。美羽の頭を優しくなでながら満足気な七乃。
その二人に少年は近づいてきた。
「小さいのはいい。そっちのを置いていけ」
「な、なんじゃとっ!? ち、小さいじゃと?」
七乃にしがみ付きながらも抗議する美羽。だが少年に
「あれ? お嬢様のはいいんですか?」
「いらない」
「私のを渡せばそこを通してくれます?」
七乃の問いに少年はうなづく。
「はあ。仕方ありませんねえ」
「七乃?」
胸の谷間から上目使いに自分を見る美羽に興奮し強く抱きしめる。
「お嬢様、袁紹さんが何を奪われたかは知ってます?」
抱きしめが強すぎてもがき始める美羽。
「犯人は変態さんで履き物にしか興味ない変態さんなんです」
「おい」
「大事なことだから二回言いました♪」
「いや、いい加減に離さないと」
少年に指摘されてやっとぐったりとした美羽が解放された。
美羽の無事を確認した後、少年が言う。
「お前の靴下を貰う」
「お~ほっほっほっほ!」
麗羽の高笑いが響き渡る。
膝の上には困った表情の美羽。
「美羽さんの靴下では満足できないと……お~ほっほっほっほっほっほ!!」
「なんか姫、上機嫌だな」
「美羽さまがきたおかげかしら?」
「ああん、怯えてるお嬢様ぁ♪」
「襲われた事には
美羽の髪を弄りながらも別のことでご満悦な麗羽だった。
「ん? っていうか美羽さま靴下はいてねえじゃん」
「靴下を履いてないお嬢様の靴のニオイを求めなかったのは、変態さんとして未熟ですよね、犯人さん」
「そうではありませんわ! 靴下を奪われた者の共通点を考えて御覧なさい」
美羽の髪を強く握って麗羽が抗議する。
「ひ、ひぃぃ!」
「共通点……あ!」
「わかったの文ちゃん?」
麗羽、斗詩、七乃を見回しながら得意気に猪々子が答える。
「おっぱいがでかい!」
「そう! 美しい女性を狙っている事件なのですわ。お~ほっほっほっほっほ!」
「……あたい、おっぱいって言ったよな」
「……うん」
いつも通り人の話を聞いていない麗羽に猪々子は素早く切り替えることに決めた。
「まあ斗詩が美人だってことにゃ間違いねえし、いいか」
「ひゃっ! ぶ、文ちゃんっ!?」
斗詩の背後に回り、その胸を揉み始めた猪々子。
「変態にいやらしい目で見られた斗詩のおっぱいが誰んもんだか思い知らせる!」
「私のおっぱいは私のだよぅ」
「おっぱいと言えば、白蓮さんはどうしたんですの?」
「そこで出てくるほどおっぱいの大きな者なのかのう?」
「パイつながりですよ、お嬢様」
「おお、なるほど。で、誰なのじゃ?」
「呼んだか?」
噂をすれば、とばかりに現れた白蓮。その姿はいつもと違っていた。
「ぱ、白蓮さん、貴女まさか……」
麗羽は指先を震わせながらも白蓮の脚を指差す。
「……やられた」
悔しそうにボソっと言った白蓮は、片脚しか靴下を履いてなかった。
「張勲に公孫賛、ね」
「あと亞莎ちゃんもなの」
今度の報告は沙和。
その追加報告に華琳はまたしても怪訝な顔をする。
「呂蒙も? 元は武官だったはずだ。それも親衛隊員を勤めるほどの」
尋ねたのは、華琳のそばに控えていた秋蘭。
「確か阿蒙とかいってとっても凄かったって話なの~」
「その阿蒙を倒したというのか。面白い」
春蘭が目を輝かせる。
「その前に、沙和?」
「?」
「亞莎、靴下してたかしら?」
「!」
華琳の疑問に春蘭と秋蘭がやっと気付く。
「普段はしてないの~。でも、お料理とかする時の衣装、……ええと、えぷろんどれす? だとしてるの~」
「ふむ。料理中に襲われたか」
「違うの。亞莎ちゃんはごま団子と靴下を交換したの~」
沙和の台詞の後、微妙な沈黙が続く。
「ごま団子、ねえ。今度、ごま団子と引き換えに閨を要求してみようかしら?」
「華琳さま!」
「冗談よ」
「本当ですか? ……それにしても……いまだ我ら魏の者を狙わぬとは許せん!」
「違うだろう、姉者」
「靴下狩りよ、出てくるがいい! この華蝶仮面がお相手いたす!」
街中で大声を上げているのは星華蝶。
麗羽が襲われてから暫く犯人を捜していたが遭遇できず、朱華蝶に相談。自らを囮に犯人を誘き出すことにした。
「私と勝負して勝てば貴様の好物、この靴下をくれてやろう!」
「出てこないね~、靴下狩り。もう一時間ぐらい経つんじゃない?」
「恋殿が退屈してるのです。早く出てくるがいいのです!」
物陰からそう言っているのは華蝶仮面のファン、蒲公英と音々音。
「私のだけでは不満と言うのなら、そこの恋華蝶の靴下もつける! 出て来い!!」
焦れたのか隣で丸くなって昼寝中の恋華蝶から靴下を脱がし始める星華蝶。
「……寒い?」
「わ、星姉さまヤケになった」
「恋殿の靴下をオマケ扱いなんて酷いです! あとそれはねねが欲しいのです!」
「これでも駄目か。……ならば! 朱華蝶のもつけ……む!」
視線の先には民家の屋根の上に立つ
「小さいのはいらない」
「やっと現れたようです……わたしの靴下までつけようとするなんて……」
やはり裏道からその様子を見ていた朱里が呟く。少年は星華蝶のように大声で話してなかったので、不要だと言われたのは聞こえてないらしい。
「紫苑さん、万一の時はお願いします」
朱里の隣に立っていた紫苑は苦笑する。
「せ、華蝶仮面なら大丈夫じゃないかしら?」
「できれば、朱華蝶の出番がくる前におねがいします!」
苦笑を続けながらも紫苑の弓は少年に狙いをつける。
「……あら? あの子……」
「そこまでだぜ」
当然の声に紫苑が弓の狙いを変えた。
声がした背後へと。
「もう一人、いたの?」
声の主は同じくツナギと帽子、そしてやはり
「まあ、二号とでも呼んでくれ。あっちは一号な」
「は、はわわわわわ」
焦る朱里。
狙いをつけたまま紫苑は言う。
「坊や……ではなく、女の子だったようね。あちらも。ちょっと残念かしら」
「おおう、そこまでバレちまったか。まあいいや、靴下寄越せ」
「え?」
「この俺が現れたんだ。目的は決まってるだろ?」
二号と名乗った少年、いや少女の頭上で四角い物体がモゾモゾと動く。もしかしたら喋ってるのはその四角かもしれない。
「私の靴下?」
「そうだぜ。そっちのちっこいのはイラネ」
「あ、あなたの方がちっこいでしょう!」
たまらず朱華蝶が声を上げるが紫苑は気にしない。
「こんな子持ちのおばさんのでもいいの?」
「姉ちゃんのがいい」
「まあ、どうしましょう?」
「紫苑さん!?」
何故かとても嬉しそうな紫苑。
二号と朱里、紫苑が話してる最中に、一号と星華蝶の戦場は屋根の上へと移っていた。そのまま、屋根伝いに移動しながら戦う二人。
「ぴょんぴょんって身軽さは鈴々並だね~。背の高さも同じくらい?」
追いかけるつもりはないのか、二人の去った頭上を眺めるだけの蒲公英。
「恋華蝶さまを置いてけぼりにするなです!」
いまだ昼寝中の恋華蝶に駆け寄る音々音。
「すまん恋、やられた」
恋の部屋を訪ねた星は土産を持っていた。
盆の上にはたくさんの肉まんと瓶。当然のように瓶を指差す恋。
「それはメンマ?」
「うむ。これは筍ではなく、育った竹の先端でつくったものだそうだ」
「……ちょっと違う?」
あまりメンマの違いに興味はないのか、すぐに肉まんを頬張る恋。
「ふむ」
箸でつまんだメンマをじっくり観察してから口にする。ゆっくりと咀嚼。
気になったのか、恋も肉まんの消費するスピードを若干落として星を見る。
「ほう」
やっと星の口から出たのはその一言だった。
満足そうな星に肉まんを掴む両手を止めて恋が言う。
「……星が嬉しそうなら、いい」
だが、その言葉で困ったような顔になる星。
「靴下を奪われてすまなかった、恋。……実はこのメンマだが」
「恋が寝てたせいで靴下狩りに逃げられた。でも、星が嬉しいなら、いい」
言い終わると恋は再び両手で肉まんを掴む。
「……ふっ」
一瞬呆けた顔を見せた星も箸を再起動させる。
「やはり恋にはかなわん」
「やるじゃねえか」
十文字槍を振るいながら翠は楽しそうに笑う。
「……無理に動くと靴下が破ける」
戦っている相手は一号と呼ばれた
「無理なんかしてねえぜ」
攻撃の手は休めずに余裕の笑みを見せる翠。
「靴下をよこせ!」
「それしかねえのか!」
一号の攻撃をかわしながら翠が怒鳴る。
「時間がないんだ、早く……」
「時間がない? 時間……」
一号の呟きをとらえた時、翠はあることに気付いた。いや、思い出してしまった。
「ちょっ、タンマ!」
「……」
「こ、こんな時に……いや、もともと緊急事態だったんだけど!」
辛そうな表情を見せ、動きも不自然になった翠。
律儀に待ってくれた一号に聞く。
「
一号に襲われる前、翠はある目的地を探していた。
戦いに夢中になっている間は忘れることができていたが、思い出してしまうと我慢できそうにない。
「……」
無言で厠の方向を指差す一号。
「あ、ありがとっ」
翠は厠へとダッシュで走り去った。
「待たせたな」
再び一号と対峙する翠。
だが、厠で脱いだのか片方の靴下がない。
「よ、汚したのっ!?」
焦る一号。
「ち、違う! ……ほら、コイツが欲しかったんだろ」
真っ赤になって否定し、脱いだ靴下を一号に手渡す翠。
「口止め料だ。戦いの途中で厠行ったなんて恥ずかしいだろ」
「あ」
「絶対に誰にも言うんじゃねえぞ。あたしはお前に敗れて靴下を奪われたんだからな!」
真っ赤なままそう言い終えると翠は走り去る。
「いいな! 秘密だからなーッ!!」
「もう時間がない。あと残るは……」
最後の目標へと急ぐ一号。
「いた!」
目印である美しい黒髪を見つけ、その持ち主の前に立ち塞がる。
「え!?」
一号の姿を見つけ、驚く愛紗。
そして。
「え!?」
一号も愛紗の姿を見て驚く。
「く、靴下は!?」
愛紗は両脚ともに
「……貴様の仲間に奪われた」
「え? なか……ま?」
「あれだけの腕を持ちながら二人がかりとは卑怯な!」
一号を睨む愛紗。
「二人? ……もしかしてニセモノ?」
「なにっ?」
「そんな……うっ」
一号の瞳に涙が溢れ始める。
「な、泣くのか? むしろ泣きたいのはこっちなのに!?」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
大きな、大きな大きな叫びを上げて泣く一号。
「こ、こんな時は……」
困ってしまう愛紗。辺りを見回して人気がないのを確認してほっとする。
「なぜ安心した? ……私が少女を泣かしているように見られずにすむと思ったからか」
そうわかると愛紗は少し落ち着いた。
大きく息を吸い込む愛紗。
「落ち着かんか!」
愛紗に大声で怒鳴られて、一瞬ビクッと泣き止む一号。
「うむ」
満足そうに愛紗が頷き、一号の帽子を脱がせる。
「あ」
どうやって帽子に収めてたと思うような長い髪が現れる。緩くウェーブのかかった桃色の髪が。
「いい子だ」
一号の頭をなでながら泣き止んだ事を褒める愛紗。
「いい子じゃない!」
「なに?」
「いい子なのはボク以外だよ」
一号は再び泣きそうな顔を愛紗に向けたのだった。
「御機嫌ですね、華琳さま♪」
華琳とともに会場を確認しながら桂花が言った。
「わかるかしら」
「はい。あの大馬鹿者の国の祭りといえど、華琳さまがお喜びになれるのでしたら、苦労した甲斐があります」
「まあ、そういうことにしておきましょう」
ふふふっと本当に嬉しそうに笑う主に、桂花の顔も綻ぶ。
「なんや、宴会はまだ始まらんのかい。はよせんかい」
文句を言いつつも、霞の表情もイキイキとしていた。
「宴会じゃないわ、くりすます、よ」
「やるこたいっしょやろ? はよ始めてはよ寝たいわ」
霞の言葉に衝撃を受ける桂花。
「どうしたの? いつもなら朝まで飲むって騒ぐのに」
「ん? 今日はちょお身体動かして疲れとんだけやて。……ぬふふふふふふ」
しまりのない顔で笑う霞にちょっと後ずさる桂花。
「か、華琳さま。霞が変です」
「そう? いつもの桂花と変わらないのではなくて?」
「そ、そんな!」
「くりすます? たしか華琳殿が主催する宴会がそのような題だったな」
「うん。兄ちゃんが教えてくれた天のお祭り」
「たしか、さたんくろすって爺ちゃんがいい子のとこに贈り物をくれるお祭りなんだって」
「いい子?」
「うん。枕元に靴下用意しておくと、その子が欲しがったもの、入れておいてくれるんだって!」
「なるほど。贈り物をダシに子供を躾けようとする祭りか」
「にゃ?」
自分の言葉に首を傾げた季衣に
「それで靴下か」
「うん」
靴下を履いてない季衣の足下を見る。
「だが、いくら自分が持ってないからとはいえ、このような行いは感心できない。買うなり作るなりして用意すればいいではないか」
「それじゃ、駄目なんだよ」
「理由があるのか?」
「……天の御遣いって知ってる?」
空を見上げながら季衣は聞く。
「ああ。華琳殿の……覇業に力をかした人物と聞く」
「もっと別の名前、聞いたことない?」
「そ、それは……」
目の前の少女に聞かせるべき言葉ではないと愛紗は言いよどむ。
「魏の種馬って聞いたことない? 結構有名なのに」
「そのような呼び方をしてはいけない!」
思わず叫んでしまう愛紗。
愛紗の剣幕に驚きながらも季衣は続ける。
「え、ええとね、とにかく兄ちゃんはそう呼ばれるような人だったから、新品の靴下じゃ駄目なんだ」
「兄ちゃん? ……つまり天の御遣いのため?」
「うん!」
「だが、天の御遣いは天に帰ったと聞いている。もしや、再臨なされたのか?」
「ううん」
力なく首を振る季衣。
「だから、欲しい贈り物は兄ちゃん」
「なっ!」
「美人の靴下だったらきっと兄ちゃんが贈られてくるよ! 風ちゃんもそう言ってたもん!」
「……それなら、魏の者たちの靴下の方が良いのではないか? 天の御遣いと深い仲だった者も多いのだろう?」
「去年試したけど駄目だった」
「そ、そうか………………だがこんなやり方では、贈り物の条件のいい子を満たせないではないか」
沈黙を誤魔化すために、生じた疑問を素直にぶつける。
「ボクは贈り物なんて……いらない」
「靴下を集める意味などないではないか!」
「集めた靴下はみんなの分」
「みんな?」
「うん。兄ちゃんが大好きな魏のみんなの分。みんなの欲しい贈り物もぜったいに兄ちゃんだよ。だからあとでこっそり枕元に靴下置いてくるんだ♪」
「それで……いいのか?」
「うん。兄ちゃんが帰ってきてくれるなら! 兄ちゃんに会えるなら! ……会いたいよぉ、兄ちゃん!」
「……」
無言で季衣の頭をなでる愛紗。
「兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
愛紗は今度は止めたりせずにただ、季衣を泣かせるのだった。
「宴会終わるまで待ってたから遅くなっちゃったね」
「みんなお酒が入っててすぐに寝てくれたのが救いですよ」
一号こと季衣と、二号こと風が作戦の仕上げを終わってほっと一息つく。
「でも、華琳さまにはバレてたみたいだね~」
「流琉ちゃんにもですよ」
「……明日ちゃんと謝ろうね」
「そですね~」
宴会の残り物をつまみながら作戦の成功を祈る二人。
「それじゃ、そろそろ寝ようか。爺ちゃん見つけて驚かせちゃったら逃げちゃうかもしれないから」
「ですね~」
「兄ちゃん、くるかなぁ?」
「お兄さんの変態っぷり次第ですねぇ」
「……兄ちゃん」
さっきあれほど泣いたはずなのにまた涙腺が緩む季衣。作戦が終わって気が緩んだせいかもしれない。
「今日はいっしょに寝ましょうか、一号」
「……うん」
手を繋いで部屋へと向かう二人の上で宝譿が愚痴る。
「なあ、お前らが一号二号で俺は名無しか?」
「へ?」
「ありゃ?」
季衣の部屋には先客がいた。
二人はその姿を見て驚く。
「
宝譿の言葉通り、その人物は変質者だった。
でなければ不審者。
「あ、あの靴下……?」
「あれはさっき愛紗ちゃんが持ってきてくれたのを置いておいたのですよ。月ちゃんと詠ちゃんのだそうです」
「え?」
「季衣ちゃんの話を聞いて、二人に譲ってくれと頼んでくれたそうなのですよ。優しい人なのです」
「そ、それじゃまさか」
不審者を指差す季衣。
「あの靴下を頭に被ると、あんな面白い顔になるとは」
「ていうか、苦しんでなくね?」
宝譿の指摘通り、被ったストッキングを脱ごうともがく人物。二枚重ねのせいか、かなり苦しいらしい。
「い、今外すよ!」
「ふう~。……いったい何が?」
深呼吸の後、辺りを見回す人物。
「兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
季衣は
季衣の泣き声で人が集まりだしたその部屋の上に二人。
「サービスしすぎではないか?」
「今宵はクリスマス。奇跡があって当然よぉん」
会話の続きも気になるが、ミニスカサンタの漢女二人に注目するのも辛いのでこの辺で終わる。
<あとがき>
星なら穂先タケノコぐらい知ってると思いますが。
……なんとかクリスマスに間に合いました。
どこに誰の靴下がいったかメモ
華琳・愛紗右
霞・愛紗左
春蘭・麗羽
秋蘭・斗詩
桂花・白蓮
季衣&風・月&詠
流琉・紫苑
稟・亞莎
凪・翠
沙和・七乃
真桜・華雄
天和・穏
地和・星華蝶
人和・恋華蝶
風「霞ちゃんの部屋は風が設置すると言って素通りです。風は気付いてますから」
って華雄のシーン忘れてたの今気付いた……。
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この作品は第3回同人恋姫祭りへの参加作です。
1回目、2回目参加していないので、やり方間違ってたらごめんなさい。
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