No.356275

外史異聞譚~幕ノ四十二~

拙作の作風が知りたい方は
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2012-01-01 16:06:36 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2330   閲覧ユーザー数:1429

≪漢中鎮守府/周公謹視点≫

 

聞きしに勝る、とはこの事だな…

 

雪蓮と祭殿は別途、洛陽から江東へと向かっている為、現在我らと共にはいない

かの地で我らと歩みを共にする豪族や兵を纏め、そのまま独立蜂起をする算段を整えるためだ

江東では事前にそれらの下準備を小蓮樣と穏と亞莎が行なっているはずで、ふたりにそれを引き継ぐ形で漢中へと来る手筈になっている

 

明命には先行しての情報収集をしてもらっているため、漢中鎮守府に入る前に合流することになっている

 

つまり、今は蓮華樣と思春と私だけ、ということなのだが、流石に予想を超える状況に圧倒されかかっている、という訳だ

 

蓮華樣と思春が共にいなければ、こうまで冷静でいられたかには私も自信が持てない状況だ

 

「陽平関で言われはしたけど、これはすごいわね…」

 

「たかが街道がこれほど整備されているとは、聞くと見るとでは違いますな…」

 

二人の言葉に私も頷く事で応える

 

「客将とは名ばかりの出稼ぎのような身とはいえ、そこにどのような気構えで身を置くかで得られるものは異なるものです

 安易な道ではありませんが、得るものは大きいでしょう」

 

「そうね…

 この繁栄を孫呉の地に持ち帰るための時間と考えれば、決して無駄にはならないはず」

 

ここで私は、敢えて急ぐ事はせずに徒歩での旅程で配置されているらしい宿場街と呼ばれる場所に逐次逗留する事を選んだ

この調子では急ぎ鎮守府に向かったところで田舎者宜しく圧倒されるだけであろう、と判断したからだ

この予想は当たっていたようで、宿場街や邑で得られる状況や生活水準などを聞くにつれ、我ら孫呉がもっている印象と漢中のそれは大きく異なる事が即時判明する

 

特に私が注目したのは、人の生活する場所には必ず役所と呼ばれている行政の末端機関を設け、そこで人民に勉学や護身術といった教育を施し、医療機関をも備えて開放している、という点だ

これは長期的に軍政に人材を養成し、身分に因らず人材を拾い上げる意思がある、という事である

元来、一定以上の身分や財力がなければ得られないはずのものを民衆に開放し、底辺の均質化を計る事で租税をより多く得る、という方法は非常に興味深い

 

ただし、これに雪蓮はあまりいい顔をしないであろう事も想像はつくのだが

 

思春は街道に点在する休憩所に特に興味を惹かれたようで、それについての見立てを聞いてみるとこのように答えた

 

「連絡網としての機能と最低限の野戦用の陣構築の資材集積所を兼ねているように見受けられます

 資材に関してはせいぜいが足止め程度といえる質と量だと思いますが、馬を常備したり鳩や犬を“訓練”して飼っているのが気になります」

 

鳩や犬を訓練して飼っている?

それは流石に気付かなかった

他の見立ては私と同じだっただけに、私はそれに関しての意見を聞くことにする

 

「鳩や犬なら非常食や厄除けではないのか?」

 

「いえ

 幼平の話では、漢中では巫術として犬を扱う事を禁じており、主に食糧兼警備のための畜獣として扱われているとの事です

 見たところ犬種も決まっており、しっかりと躾けられていたようですので、非常食ではあるでしょうが用途がそれだけとは考えづらいものがあります」

 

「興覇、私見で構わない

 お前の意見を聞きたい」

 

「恐らくは軍用もしくは犯罪者等の追跡用として常備されているものかと

 そうであるなら、幼平麾下の細作部隊が漢中の地で難義している理由のひとつの証明ともなります」

 

「そうなると鳩等の鳥類は連絡用、と考えるのが妥当だな」

 

「はい、公謹樣のお見立てて間違いはないかと」

 

たかが連絡用ともいえる場所にまでそれほどの準備をしているとなれば、なるほど天譴軍とやらは“勝つべくして勝利した”と言える訳だ

これでは袁紹袁術ごときでは太刀打ちすることすら適うまい

 

元々犯罪人を追うのに猟師の手を借り犬を扱う事はあるが、それを軍規模でやっているとなれば話はまるで違う

これらの事が指し示すのは、天譴軍は情報の精度となによりも速度を非常に重視しているという事だ

兵士に一定以上の教育と素養がなければ、そもそもこのような情報網を組むことすら適わない

 

口にするものに関しても、特に水から徹底的に手を加えているのは明白であり、肉類や魚介類を生で供する事を禁じているという律があるとの事からも、我々とは全く視点が異なるのは明白だ

 

「悔しいが、これもやはり策の“勘”が正しかったというべきか…」

 

「姉樣の?」

 

思わず出た呟きに反応した蓮華樣に応える事にする

 

「ええ

 あやつの“勘”などというものを当てにしていては軍師など勤まらぬものですが、ここ一番では常にそれが正しいと知る度に、得も言われぬ疲労感に苛まれるのですよ」

 

吐息と共にそう告げる私に、蓮華樣は困ったように返事を返してくる

 

「そうは言っても、姉樣の思う通りになんかやってたら孫呉は三日で終わっちゃうわよ

 公謹のようなしっかりした人がいてくれてこそなんだもの」

 

「有難いお言葉です」

 

皮肉ではなく心からそう思う

蓮華樣が孫呉の気質を持ちながらも、このように実直なお人柄だからこそ、我らは過分に過ぎると知ってはいても期待せざるを得ないのだがな

 

「蓮華樣、公謹樣」

 

「どうした、興覇」

 

蓮華樣と軽口ともいえるやりとりをしていた私達に、先を見ていた思春が馬を寄せてくる

 

「予定していた合流地点がもうすぐです

 幼平の合図もありましたのでもう間も無くかと」

 

なるほど、翌日には天譴軍の本拠地に到着、という訳だな

 

私は気を引き締めると二人に告げる

 

「さて、それではいよいよ魑魅魍魎の巣窟へと飛び込む事になりますぞ

 気を引き締めて参りましょう」

 

「ええ!」

「承知!」

 

僅かに馬足を早めて、我らは先へと向かいます

 

もっとも、到着早々、騒動に巻き込まれる事になるとは考えてもいなかったのだが…

≪漢中鎮守府/向巨達視点≫

 

あうあうあうあう………

さすがにこれは厄介なのです

 

なにも、驃騎将軍の喧伝と投票公布の発表前日に孫呉の方達が来なくてもいいと思うんです

 

伯達さんの件で張文遠さんはみんなにこってり絞られてましたけど、実は心情としては張将軍に感謝してる人は多かったりします

公祺さんあたりは

「あれが伯達ちゃんでなくアタシだったら平気だったんだがねえ…

 人選間違ったかな、こりゃ」

とか言って、逆に申し訳なさそうな感じでしたし、犠牲者といえる伯達さんにしても

「もう二度とこういうのは御免被りますけど、気持ちそのものは嬉しかったですよね」

と苦笑いしてました

他のみんなも苦笑はしてましたけど、心情としてはやっぱり嬉しかったみたいです

ただし、私も含めて

「同じ目には絶対に合いたくない!」

と断言はしていて、伯達さんはへこんでいましたけど…

 

ともかくも、翌日の警備等の問題から儁乂さんと公祺さん、仲達さんに忠英さんに元直ちゃんは打ち合わせを、伯達ちゃんは子敬ちゃんと地方での票の取りまとめの最後の確認を、皓ちゃん明ちゃんは対外工作に忙殺されています

 

票のとりまとめ方は、役所に設置された札箱に投げ込みをしてもらい、それを3日後に近衛と司法隊の方が最低5名の監視の下で決められた広場で開封、それを即日伝書鳩で鎮守府の元直ちゃんの元に集積し、それらを城門にて開票、その場で集計する、という方法を取ることになっています

投票箱は鉄製で、このために作成された専用の鍵がつけられていて、鍵は現在鎮守府に、箱は先に各役所に運び込まれています

 

これらは不正が起こらないようにという配慮で、札は色分けされたものを黒い封筒に入れて誰が何色のものを入れたかわからないようになっています

 

何分はじめての事なので、日に日に役人さんも兵隊さんもぴりぴりしてきていますが、そのような中で一気に漢中を駆け抜けて3人の事を弁護してくれた驃騎将軍の行動と宣撫は、圧倒的な支持を民衆に得たようです

 

お茶会で伯達さんが言ってましたが

「私達は今では天譴軍の首脳として漢中では絶大な支持を得ているのは知っていましたが、そこに天下の神速・張文遠が身を粉にしてまで宣撫をしに来た、という風評は、想像以上に民衆の支持を得られたみたいです

 内容もきちんと吟味してきたみたいで

 『3名の行動は相国樣、ひいては漢室に対しても“天譴軍の将帥”として立派な信義を示したもので、天律には沿わないかも知れないがそこを認めて欲しい』

 という感じの、誰も損をしないし不快感も感じないものでしたよ」

などと感心してました

 

強行軍でなければ満点だったのに、と零してた伯達さんですが、逆を言えばそこまで必死になってくれたからこその風評でもある訳で、やっぱり苦笑するしかないところです

 

このように、一気に前倒しになっている状態で孫呉の方々が来た訳で、本音を言えば待っていて欲しいところではありますけど、そうも言っていられません

そうなると、まだしも人員を外せるのは警備よりも集計やらの担当の私達でして、そうなると元々担当だった私に振られるのが必然、という訳です

 

元直ちゃんの指摘に従って城門の外で待っていたんですけど、その理由は孫呉のみなさんが到着してすぐに判明しました

 

「鈴音を預けろとは一体どういう事だ!」

 

「あうあうあう…

 申し訳ないのですが、漢中では武装解除していただくのが決まりなのです

 客将等の方々には、近衛が管理する武器庫に即日お預かりした武器は移しますので、決まった場所でならお返しできますから」

 

「しかし、武人が武器を手放せというのは…」

 

渋る甘興覇さんを見て、周公謹さんが溜息をついています

 

「これは、策のやつがこっちに来なくて正解だったな…

 南海覇王を手放せなどと言ったらどうなっていたことか…」

 

「下手すると血の海ですよね、ここ……」

 

周幼平さんがとってもおっかないことをしみじみと呟いています

 

「あう…

 関雲長さんや張翼徳さん、張文遠さんにも同じことをしていただいていますので、ここで例外を認める訳にもいかないんです」

 

「ぬうう…」

 

「興覇、気持ちは解るけどここは従ってちょうだい?」

 

孫仲謀さんのその言葉で、ようやくといえるのですが、無事武器を預かる事ができました

 

「それでは、鎮守府へご案内します」

 

 

鎮守府までの道程に関しては、相手から質問がある以外は基本的に無言のままでした

 

その理由もやっぱり元直ちゃんで

「孫呉は諸侯で一番といえる数の間諜や細作をうちに放ってきてるから、向こうが質問してくる事に答えるだけで十分だと思う

 周幼平っていうのが同行してたら、それが細作の指揮官だから気は配っておいて?」

このような事を言われていたので、本当に通り一辺の説明をしながら案内するだけだったのです

 

百聞は一見に如かず、と言われるように、大抵はじめて漢中に来た方は質問攻めをしてくるものなのですが、特に周公謹さんは慎重に言葉を選んで、時折訪ねごとをしてくる程度でした

 

むしろ落ち着かない様子だったのは孫仲謀さんなんですが、甘興覇さんと周幼平さんが説明をしているようで、元直ちゃんの言葉の裏付けともなっています

 

「では、ここより鎮守府となりますので、後は案内の役人に従ってください」

 

頷いて鎮守府に入っていく孫呉の方々を見送りながら、そっと溜息をつきます

 

(あう…

 明日は面倒な事が起きないといいんだけどなあ……)

 

 

残念な事に、私の希望は最悪とも言える形で裏切られる事となります

≪漢中鎮守府/本郷一刀視点≫

 

孫呉の面々との会見は、特筆することもなく終了した

 

こちらの流儀を洛陽で示していたのもあるし、明日公布される民間投票のこともあり、こちらの都合で実務に入ってもらうのは数日後となる、と伝えるに留まったからだ

正確な意味での客ではないため、改めて宴席を設ける必要がなかったのもある

 

「ふむ…

 それでは我々は後日改めて仕事を割り振られるという事で、それまでは自由にしていてよい、という事ですな?」

 

周公謹がそう確認するのに頷き、劉玄徳や公孫伯珪、張文遠らと親交を深めたいのであれば夕餉の席に出る旨を世話を担当する官吏に毎朝伝えてもらえればいい、と申し添える

そういう席が煩わしいのであれば、用意した宿舎にて食事は摂れるようにしておく、と

 

「予めお尋ねしますが、ここ漢中で我らが立ち入りを禁じられる場所はどこになりますか?」

 

こんな甘興覇の言葉にも

 

「鎮守府にある各局長の私有部分と本殿の奥、後は常識の範疇で考えてもらえれば、という感じだね

 一般開放されている書庫には自由に出入りしてくれて構わない

 持ち出しは禁止されているけど写本は認めているしね

 ただし、汚損した場合は実費なりで必ず保障はしてもらうので大事に扱って欲しい」

 

とまあ、俺達の基準で当たり前の事を告げる程度に留まった

 

つまり、現状で俺は孫呉に対しては警戒はしていても心を砕く理由はなにひとつない訳だ

 

このような感じで会見は終了し、俺も奥に戻ろうとしたのだが、そこで声を掛けられた

 

「あの……」

 

訝しく思って振り向くと、そこには孫仲謀がひとり佇んでいる

 

「?

 何かな?

 特に用事はなかった気がするけれど」

 

どうしてだろう、何か非常に言いずらそうにもじもじとしている

 

「えっと、あの…

 こ、こういうのもなんというか不本意なんだけど…」

 

一体何をどうしたいのだろう

正直、こういうのは非常に扱いに困るんだが…

 

なんとなく嫌な予感を感じながら待っていると、勢いをつけて叫ぶように彼女が話し出した

 

「私も一応求婚した立場だし

 貴方の事を何も知らないままというのも色々と困るし

 これからお世話になる訳だし

 そうなるとまともに会話もしないままとかありえないし

 つまりええと、なんていうか、お茶くらいはしないといけないというか

 とにかく察しなさい!」

 

………マシンガンのように吐き出された単語を要約するとだが、つまりは俺と話がしたいって事かな

 

まあ、話すのは構わないんだけど、これって俗に言う“お見合い”なんじゃなかろうか

 

どうしてこういう時に限って、懿とかが居ないんだろう…

 

割と後の事を考えると絶望しかない状況なんだが、このまま放置とか無視というのも人として有り得ない状況な訳で、なんとなく泣きそうな気分になりながら、俺は椅子を勧める事にする

 

「まあ、どうぞ遠慮なく…」

 

「え?

 あ、そ、そうね…

 では……」

 

こうして彼女が俺の目の前に座ったのはいいんだが…

 

まるで地雷原をモンシロチョウが飛んでいるような、このなんともいえない沈黙は一体なんなんだろうか

 

(い、いかん……

 こんな状態で女の子と話すなんて全く想定してなかったぞ!)

 

気まずい、あまりに気まずすぎる…

 

ちらっと孫仲謀の顔を見ると、思わず目が合ってしまってお互いばっと視線を逸らす

 

(どこの少女漫画なんだ、これは…)

 

「えっと…」

「あ、あの…」

 

打開しようと声をかけたところ、お互いの声が被るという、あまりにもベタな展開に陥ってしまう

 

「あの…

 じゃあそっちから…」

 

「いえ、そちらからどうぞ…」

 

ぐはっ…

この展開はあまりにベタで気まずすぎる!

 

しかし、ここで趣味やら漢中の印象やら俺の事を聞いたとしたらあまりに王道で、逆に下手な事を聞いて滑ろうものなら一気にギャグになってしまうのは最早明白だ

 

「じゃ、じゃあ私から……

 えっと、その…

 しゅ、趣味とかはなんなのかしら?」

 

おのれ孫仲謀、俺がベタな展開に頭を悩ませているというのに、貴様はわざわざ王道を突き進もとするのか!

とはいえ、他に何か聞きようもないのだろうし、仕方がないとも言える

こういう時にベタであるからこそ王道と言われるのだろう

 

自分で実感したくはなかったのだが、仕方あるまい

 

俺は腹を決めて彼女に付き合うことにする

 

「趣味か……

 今はそうだね、書き物をすることと新しい料理を考えたりすることかな」

 

「新しい、料理?」

 

首を傾げる彼女に簡単に説明する

 

「天の知識にある料理は、実はそのままではこの世界では料理にならなかったりするんだ

 材料が足りなかったり調理器具が違ったりしてね

 だから、そのままではなく、工夫して料理を増やそうとしてるんだよ」

 

「それはどうして?」

 

きょとんとした顔で尋ねてくる彼女に、苦笑しながら答える

 

「それはまあ、やっぱり懐かしい味とか、そういうものが俺にもあってね。なんとか再現できたり材料が手に入らないかと試行錯誤してたりするんだよ」

 

「例えばどんなものがあるのかしら?」

 

「そうだなあ…

 俺は君達孫家の人がどのような味や料理に馴染んでるかは知らないけど、例えば…」

 

うん、困ったときはとりあえず共通項になるような話題、別けても食事に関する話題が一番だ

これだと無難でもあるし、なにかひとつ共通項があれば、そこから延々話を続けられる

 

よし、よく頑張ったぞ俺!

 

こうして一頻り話をし、お互いの好みの料理などで盛り上がりはじめ、ようやく孫仲謀の顔にも笑顔が見えた頃、悲劇はおこった

 

いや、悲劇というべきではないのだろうが、当然考えられる事ではあったのだ

 

俺がすっかり忘れていただけで……

 

「我が君、本日の会議のご報告ですが……」

 

誰かに聞いてきたのだろう、孫仲謀と歓談中の俺のところに、司馬懿さんがやってきたのです

 

恐らく懿には、普段と違う様子で“楽しそう”に話す俺と、その求婚者という図式に見えたはずで、俺はこれについては一言言いたく思う

 

どうして誰か、一言でいいから俺が来客で歓談してるって伝えないのさ!

 

これじゃあ俺がお嫁さん候補と楽しく語らってるのを見せつけてるみたいじゃないか!!

 

この様子を見た司馬懿さんは、常にないほどの完璧な微笑みを浮かべておられます

あの微笑みは俺には判る

完璧に怒ってる、理由はなんとなく解らなくもないけど、理不尽に怒っていらっしゃる

 

「これは失礼

 歓談中とは存じませんでしたので不調法を致しました

 ご報告は後程改めてさせていただきます

 それではごゆっくりと…」

 

俺達のどちらにも二の句を継がせず、完璧な礼と微笑みで退出していく懿の視線は俺にこう告げていた

 

“後でしっかりきっちり説明していただきますので、絶対にお逃げになりませぬように”

 

 

「?

 北郷殿、なにかお加減でも悪くなられたのですか?」

 

恐怖に歯の根が震える俺を気遣ってくれるのは嬉しいのだが、既に状況は決している

俺は無理やり歯を食いしばって震えをとめると、政治用の笑顔を浮かべて対応する

 

この子のせいではあるけど、この子が悪い訳じゃない

 

単に巡りあわせが悪かったのだと、ここは心で涙するのがオトコノコってもんなんだ!

 

そうして再び歓談に戻る俺だったが、この日の夜の事は故意に考えないように頑張っていた

 

 

そして予想した通り、この夜の俺は床に正座させられた上でさんざん絞られ、その上で椅子にされるという司馬懿さんお説教コンボをフルコースで喰らうことになる

 

 

 

いや、これって結局、つらいんだか嬉しいんだか………

 

いや、我慢だ、耐えるんだ俺!!


 
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