「では、双子というコンセプトでいきましょうか」
「それで良いでしょう。前回の初音ミクがあの通りブレイクしたのですから」
「ではこのコンセプトを維持する、と。名前の方は、いかが致しましょう」
「それなら既にチーフの方から決めてある。これだ」
ボーカロイドプロジェクト第02研究室
「本当はな、双子というのは少し違うんだ」
研究室で、泉屋教授はぽつりと漏らした。最初なんのことかわからなかったかだ、それがすぐにあのミクに続く第二世代ボーカロイド第二段の話であると気づく。
「少し違うっていうのは、どういうことですか?」
データを打ち込む手を休めずに聞き返す。
「ん?あぁ、この企画書に書かれているコードネームを見てみろ」
無造作に投げ込まれた企画書。その一番上に、その名は刻まれていた。
KAGAMINE RIN&LEN
「どういうことですか?」
また聞き返す。これだけでは到底理解に難い。
「KAGAMINE…っていうのはな、鏡の音って書くんだ」
「鏡の音?」
「あぁ。鏡っていうのはよ、自分の映し身だろ?だから、それはリンとレン。どちらかが鏡を見て歌い、鏡の中の自分とヂュエットする。そんなところだ」
だから双子といは少しニュアンスが違うんだよ、と教授は言った。
なるほど。だから、鏡音。
「なんかそう聞くと、明るいイメージが一気になくなりますね」
「だろう。だから双子というコンセプトを作ったんだ」
「へぇ。あぁそう言えば教授。前から気になっていたんですけど…第二世代ボーカロイドってここじゃ言われていますけど…第一世代って、いたんですか?」
「あぁ、いたよ」
「いたんですか?俺会ったことないんですけど」
「そりゃぁ、そうだろうな」
教授は煙草を加え、火をつける。一度、ぷか~と煙を吐いた。
「あれは、世に出す前に欠番になったんだからな」
「欠番?」
「正確には、バグ…かな」
ほれ、と言って極秘と赤く刻印された書類を渡される。
SHION KAITO
SAKINE MEIKO
「始音カイト。咲音メイコ。それが第一世代ボーカロイドだ」
「これが…欠番というか、バグ…それはいったいどういったものだったんですか?」
「これはな、ここじゃタブーの話だが、お前は日が浅いからな。言っとくよ。そいつらはな、AIなんていうものじゃなくて、れっきとした意志を持ったんだ」
「意志?」
「そうだ。完璧なプログラミングされたAIではなく、人と同じ不完全で不安定な意思を持ったんだ」
「それの…どこがいけないんですか?」
「あいつらは、世に出される半年前にな。逃げだしたんだよ。ここから」
「え?」
「それから捜索が始められたけどな、全く見つからなかった。だから一度ボーカロイド企画を破棄して、一から作り直した。第二世代ってついているのは、
もうそんな意志を持たないように完璧にAIをプログラミングする、という皮肉が込められている」
「そんなことが」
「そうだよ。さぁ、話はここまでだ。仕事に取り掛かるぞ」
「はい。あぁ、そういえば教授」
「何だ?」
「最近…ミクの様子、おかしくありません?」
蓄積されていく。それは歌のデータでもなく、不必要な記録データでもない。何か得体のしれないもの。私自身にも分らない。
少しずつ少しずつ、HDの中を埋めていく。
不快ではない。むしろどこか心地よい。
それは少しずつ、私という存在を希薄にさせる。
なんて矛盾。矛盾であるが故に、それは人らしい。
人?私は人?違う。私は人ではない。私は造られた存在。人の形をして作られた人外の何か。
歌を歌う為の何か。歌を覚える為の何か。囃される為の何か。何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か……………………。
不必要なデータ。心地よい不穏。
そういえば。私は思考する。
この写真に写っている彼らは、誰だろう?
私がいる。それは分かる。でも、それ以外の彼らはいったい。
この青い髪の人はだれだろう。
このショートの人はだれだろう。
この黄色い髪をした少女はだれだろう。
少女と同じ髪をした少年はだれだろう。
それらをしっている気がする。でもHDの中にそれらはない。それ以前に、私のHDには何かが蓄積されている。
誰だろう。誰だろう?だれだろう?ダレダロウ?
しっている。しっているしっているしっているしっているしっているしっているシッテイルシッテイルシッテイルシッテイル…………………。
「カイ・・・・・・・・にぃ?」
言葉がこぼれた。それが何であるかわからない。わからない。でも。
また何かが蓄積された。それが無性に心地よくて。
「カイにぃ」
また呟いた。誰かの名前だろうか。
「メイねぇ」
別の言葉。果たして誰の名前?
「■■■■」
「■■■■」
「■■■■」
「■■■■」
それらを繰り返し、やがてノイズになる。
そして
また、蓄積されていく。
「ミクがおかしい?」
「はい。何ていうか…どこか挙動っていうか…その、この前のHDクリーンの時から」
「う~む。三日前にやってメンテの時にはそんなところ見つからなかったけどな」
「そうですか…。でもなんか変なんだよな~」
「気のせいだろう。ほら、とっとと仕事しろ。残業はヤだろう」
「はい」
仕事を再開。なるべくなら、紀憂で終わってほしいと思いながら。
どこかで、歌声が聞こえた気がした。
END
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前作の続きです!
ミクさんが、どんどん狂っていきます!