No.347795

LyricalGENERATION 1st 第五話

三振王さん

第五話になります。

2011-12-15 21:03:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1669   閲覧ユーザー数:1621

海鳴市内のとある公園……そこで時の庭園からプレシアによって落とされたヴィアは、芝生の上で目を覚ました。

「あ、あれ? 私確か魔法を受けて……どうして生きているのかしら?」

ヴィアはそう言って辺りを見回す、するとすぐ傍で血まみれになって倒れている狼形態のアルフを発見する。

「アルフ! ああ酷い怪我じゃない! 早く治療してあげないと!」

「あの……どうかしたんですか?そのワンちゃん、怪我しているみたいですけど……」

その時、彼女達の元に騒ぎを聞きつけた金髪の小学生ぐらいの女の子が近付いてきた。

「ああちょうどよかった! あなた! この辺に動物病院ない!?」

「え!? あ、はい!!」

 

 

 

その頃時の庭園では、シンが腹部の痛みに顔を顰めながら起き上っていた、隣には気絶したままのフェイトが横たわっていた。

「う……いたたた、あれ? 俺確かアルフに……」

「お目覚めのようね、シン君」

シンが目覚めるとそこにはアルフはおらず、代わりにプレシアがシン達を見下すように立っていた。

「プレシアさん……アルフは?」

アルフがいないことに気付きプレシアに質問するシン、対してプレシアは淡々と答える。

「あの子は……アナタ達を置いて逃げ出したわ」

シンはプレシアの表情と、アルフの性格を照らし合わせてみてそれが嘘だとすぐわかった。

「そんな訳ないでしょ? アイツがフェイトをほったらかして逃げるはずが無い。まさか!?」

シンの胸の内に湧き上がった嫌な予感、それはプレシアの歪んだ笑みによって肯定された。

「あら、鋭いのね、ヴィアが変な入れ知恵をしたのね、やっぱり消しておいて正解だったわ」

「……!」

アルフの事をあっさりと認めただけでなく、ヴィアにまで手を掛けた事を暴露したプレシアの態度に、シンは今までにしたことがない程怒りを感じる。

「なんでだよ! フェイトは……アルフやヴィアさんだってアンタのためにがんばっていたのに! それなのにどうしてこんな酷いことするんだ!? フェイトはアンタの娘だろ!?」

「黙りなさい!!」

「!?」

しかしプレシアの剣幕にシンは圧されてしまう。

「つべこべ言ってないで奴等からジュエルシードを取り戻しなさい! さもなくば二人ともあの出来損ないの使い魔のようにするわよ!? その気になればアナタを殺してジュエルシードを無理やり引き剥がしたっていいんだからね!」

「……!!」

プレシアから殺気を感じたシンはまだ眠っているフェイトを担ぎ、

「どうして……どうしてそんな酷い事が言えるんですか? アナタがそんな事言ったらフェイトだって……アリシアだって悲しむのに……」

とても悲しそうな顔で、プレシアに向かって捨て台詞を吐いてその場から離れていった。

「何も知らない子供のくせに……! 私達の何が解るっていうのよ……!」

その場に残ったプレシアは一人不愉快そうに呟いた。

 

その日の夜、遠見市のアジトにもどったシンは眠っているフェイトをベッドに寝かせ、彼女を見守っていた。

(まだ眠っている……相当疲れていたんだな……)

彼女の寝顔を見ながらシンは頭を優しく撫でる。

「ん……シン?」

するとフェイトは頭の心地よい感触で目を覚まし、眠い目を擦りながらシンの方を見た。

「あ、ごめんね、起こしちゃった?」

「別にいいよ………あっ!」

そしてフェイトはある事を思い出し、目を見開きベットから身を起こした。

「そうだ! ジュエルシードは!?」

「ゴメン……三つしか取れなかった」

「そう……」

申し訳なさそうに謝るシンと、話を聞いて肩を落とすフェイト、そしていつも側に居るアルフがいない事に気付いた。

「……アルフは?」

「アルフは……管理局に捕まっちゃったんだ」

シンはフェイトを心配させまいととっさに嘘をつく。

しかしシンのしどろもどろとしている態度に、フェイトはすぐに彼が嘘を言っている事に気付いた。

「シン……それは嘘だよね?」

「……ごめん」

フェイトは自分が意識を失う直前の事を思い起こし、ある事に気が付きはっとなる。

「あの時の雷は母さんが……それでアルフは……」

「……」

何も答えられないシン、2人の間に重苦しい空気が流れる。

しかししばらくしてフェイトがその沈黙を破った。

「ねえ、シン……ゴメンね」

「……なんで謝るの?」

「だって……こんな事に巻き込んじゃったんだよ?…今からでも管理局に行って理由を話せば元の世界に帰してもらえるかも……ジュエルシードを取り出す方法も解るかもしれないし、無理に私達に付き合わなくても……」

フェイトはこのような事態にシンを巻き込んだ事に罪悪感を感じており、これ以上危険な目に遭わせたくないと思い彼を遠ざけようとしていた。

「……」

するとシンはフェイトの両頬に自らの両手を添え……

 

そのまま抓んでギュウ~!!!と横に引っ張った。

「いひゃひゃひゃひゃ!!??」

手をパタパタと振って抵抗するフェイト、そして五秒ほど経ってシンは手を放した。

「な……なにするのシン?」

フェイトは瞳を潤ませ、赤くなった両頬をさすりながらシンを見る。

「フェイト、なんでそう一人でなんでもやろうとするんだよ? そんなに俺って頼りないの?」

「え? そんな事……」

フェイトは昨日の海での一件でシンに助けられた事を知っており、彼が決して自分の足を引っ張るような弱い人間でないことを知っていた。

「本当は……一緒にコズミックイラに逃げようって誘う事も考えたけど、フェイトはイヤだって言うんだろ?」

「うん、だって母さんを一人にしておけないから、私は母さんの願いを叶えてあげたい、母さんにもう一度微笑んでもらいたいから」

「……」

シンはプレシアが考えている事、そしてフェイトの本当の正体を知っているが故に、彼女の切なる願いが叶う事はほぼ無いと解っており、胸が張り裂けそうに苦しくなっていた。

(アルフもヴィアさんも今はもういない……じゃあ今フェイトを守れるのは俺しかいないんだ……)

そしてシンはある事を決意し、フェイトの頭を優しく撫でてあげた。

「なら俺は……ずっとフェイトの味方になってあげるよ、たとえこれからどんなことがあろうと、どんな奴が敵になっても……君の傍にずっといる」

「シン……」

アルフやヴィアが居なくなってしまったフェイトにとって、シンのその心優しい言葉は彼女の心の中の支えになっていた。

「ありがとうシン……とっても嬉しいよ」

フェイトはとても優しい笑顔で、シンの優しさに精一杯応えた。

「えへへ……なんだか照れちゃうな」

シンは初めて見るフェイトの笑顔を見て、体の芯が熱くなっていくのを感じていた。

その時ふと、シンは瞼が重くなっているのを感じ部屋に飾ってある時計を見る。

「ああ、もうこんな時間なんだ……どうりで眠い筈だ」

日付が変わったばかりの時計を見てシンは大あくびをする、するとそれを見ていたフェイトは彼の服の袖を引っ張った。

「ねえシン……今夜だけでいいから、私と一緒に寝てくれない?」

「俺と? いいよ」

 

 

シンは部屋の明かりを消すと、フェイトがいるベッドに隣り合わせで寝転んだ。

「なんか……マユと一緒に寝ているみたいだ、アイツもよく怖い夢見た時に一緒に寝てってせがんできたっけ」

「マユちゃんってシンの妹さんだよね? ねえ、シンの家族ってどんな人達なの?」

「俺の家族? そうだな……お父さんはモルゲンレーテって会社に勤めていて、宇宙船を作る仕事しているんだ」 「宇宙船か……すごいんだね、シンのお父さんって。」

「それにお母さんも、たまにお父さんと喧嘩もするけどとっても優しい人……そんでマユは……」

シンは優しく微笑むと、フェイトの髪を優しく撫でた。

「今のフェイトみたいに甘えん坊さんだな」

「むぅ、ひどいよシン……フフフッ」

「ふふ……」

毛布を被りながら2人は無邪気にクスクスと笑う。二人は他愛のない会話に暖かい幸せを感じていた。

そしてフェイトは、シンが向こうの世界でどんなことをしていたのか気になって聞いてみることにした。

「シンは向こうでどんなことしていたの?」

するとシンはばつが悪そうにフェイトから目線を一度逸らすと、渋々と話し始めた。

「……俺の世界ってさ、遺伝子をいじくって普通の人より健康になったり頭が良くなったりスポーツができたりする“コーディネイター”って人達がいるんだ」

「……? その人達がどうかしたの?」

「実は……俺もコーディネイターなんだ」

そしてシンは誰にも話した事のない、自分が心に秘めていたある事をフェイトに打ち明けた。

 

 

俺が生まれる3年前……世界中にS型インフルエンザっていう病気が流行ったんだ、それでナチュラル……普通の人達は沢山死んじゃったんだけど、免疫力のあるコーディネイターは誰ひとり死ぬことは無かったんだ、だから父さんは俺達が病気に負けない体になってくれるよう、高いお金を払ってコーディネイターにしてくれたんだ。

やさしいお父さんなんだね……。

でもそのおかげで……お陰でって言ったら駄目か、実は学校でいじめられたりしたんだ。

え!? なんで!?

俺の暮らしている国って、ナチュラルとコーディネイターが一緒にいて、お互いすごく仲が悪いんだ、違う国とかでは殺し合いまでしているし……お陰でクラスの奴ら、俺の事“空の化け物”って呼んでいじめるんだ。でもそのことを話すとお父さん達はきっと悲しむだろうし、誰にも相談できなくて……だんだん学校に行ってクラスの奴らと顔を合わせるのが嫌になっていたんだ。それと同時に俺をコーディネイターにした両親を恨んだりもしたんだ……。

……

だからフェイトに攫われた時……怖かった半面、これで学校に行かなくて済むって思っちゃったんだ。でも……。

でも?

フェイト達と出会って気が付いたんだ、俺がコーディネイターになったのは……きっと神様がフェイトを守る為にくれた力なんだと思う、だから俺はコーディネイターで生まれた事を……僕を産んでくれたお父さんとお母さんにすごく感謝しているよ。

私も……母さんに感謝している、だってシンと出会えたんだもん。

ありがとう……フェイト……。

 

 

そして二人が深い眠りについた頃、デスティニーはバルディッシュと共にベランダで月を見ていた。

「いやあ、今宵も月が綺麗ですねえ……まるであの二人の仲を祝福しているような美しさです」

[……]

デスティニーは夜空に浮かぶ月を眺めながらバルディッシュと語り合っていた。

[デスティニー……前から聞きたかったのですが、アナタは一体何者なのですか?]

「……私はデスティニー、それ以上でもそれ以下でもありません」

バルディッシュの問いにデスティニーは素っ気なく答える、それでもバルディッシュは質問を続けた。

[シン・アスカのあの爆発的な戦闘能力……あれは遺伝子を調整したぐらいで出せる力には思えません、何なんですかあれは?]

「……」

するとデスティニーは夜空に向かってふわりと飛び立ち、月明かりをバックに満面の笑みでバルディッシュに語りかけた。

「いいじゃないですか、過去がどうだったかなんて……今と未来が幸せならそれでいいんです」

[……]

バルディッシュはデスティニーの笑顔の裏にある想いをなんとなく感じ取り、それ以上詮索することはなかった。

そしてデスティニーはふわっと浮かび上がりながら夜空を見上げる。

青白い月光に照らされた彼女の姿は、まるで天使と見間違えるほどの美しさを醸し出していた。

 

 

 

 

次の日の朝、フェイトはベッドの上で目を覚まし、隣で眠っているシンの顔を見る。

「ううん……むにゃ」

「ふふふ、いい気持ちで寝てるね、あ……」

ふと、フェイトはシンの無防備な寝顔を見て胸の鼓動がトクンと高鳴るのを感じていた。

「なんでだろう……どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう」

フェイトは自然と、自分の顔をシンの顔に近付ける。

(そう言えばリニスが昔……お話を聞かせてしてくれたっけ)

 

それはまだフェイトが今より幼かった頃、魔法の師でもあるリニスに寝る前に聞かされたあるお伽噺を聞かされた時の事だった。

『こうして人魚姫は天へと昇って行き、世界中の恋人達を見守っていきました……』

『ねえリニス……人魚姫が王子様にした“恋”ってなあに?』

『そうですね、“好き”になるってことでしょうか?』

『じゃあ私はリニスや母さんやアルフに恋しているの?』

ベッドの中で首を傾げるフェイト、対してリニスは苦笑しながら訂正した。

『うーん、それとはちょっと違いますかね……家族でもない、友達でもない、自分にとって特別な男の子に抱く気持ちといえばいいでしょうか』

『男の子に?』

『ええ、フェイトもいつかそういう人に巡り会う時が来るでしょう』

 

とくんとくんと動く心臓の鼓動を感じながら、フェイトはじっとシンを見つめた。

(これがリニスの言っていた恋なのかな? 私……シンの事が好きなのかな? よく解らないけど……)

「ううん……? ふわあああ……」

その時、シンは眠い目を擦りながら体を起こした。

「おはようフェイト……ん? どうしたの? 俺の顔に何かついている?」

「へっ? えっ! な、何でもないよ……!」

突然話しかけられたフェイトは、顔を真っ赤にして慌ててごまかした。

「主、よろしいでしょうか?」

するとそこにデスティニーが2人がいる部屋に入り話しかけてきた。

「どうしたの?」

「臨海公園のほうにジュエルシードの反応がします。ジュエルシードはすべて回収されているのでこれはおそらく……」

デスティニーの報告を受けて、シンとフェイトはそれがなのは達の誘いだという事を察知する。

「なのは達か……俺達を誘い出そうとしているのか」 「如何いたします?」

「……どうするフェイト?」

シンの問いに、フェイトは力強く頷いた。

「行こう、あの子が待っているなら私もそれに応える……!」

「決まりだな」

そして二人はセットアップし、そのままなのは達のもとへ向かうのだった……。

 

 

 

 

海鳴臨海公園にやってきた二人、そこで2人は管理局が用意した、今にも雨が降りそうな薄暗い曇り空に、水没して荒廃したビル街のある異空間に入った。

「ここは……管理局の人達が用意したのか」 「おそらく激しい戦闘を想定してこのような場所を……これなら周りの被害を気にせず戦う事ができますね」 そして二人は荒廃したビルの最上階の、植物園のような場所にやって来た。 「植物園か……」 「そうみたいだね……なんだか小さい頃を思い出すよ、私が暮らしていたころも緑が一杯ある所だったんだ」 「へえ……こういう所でピクニックに行ったら気持ちいいだろうな、天気はあんなのだけど」 シンは灰色の空を見て溜め息をつく、するとそこに……バリアジャケットに身を包んだなのはと彼女の相棒のフェレットがやって来た。 「フェイトちゃん」 「お前達は……」 なのは達の姿を見てとっさに身構えるシン、そんな彼を見てフェレットは2人に投降を呼びかける。 「二人とも、もうこんな事はやめるんだ、事情はなのはの友達が保護したアルフとヴィアさんから聞いた。」 「よかった……2人とも無事だったのか」 2人が無事だったことが解り、ほっと胸を撫で下ろすシンとフェイト、そして二人は改めてなのは達に宣言した。 「ごめんね……でも母さんの為にもここで退くわけにはいかないんだ」 ふと、フェイトはちらりとシンの方を見る。 「そうだよね、ただ捨てればいいって訳じゃないよね、それに逃げればいいって訳でもない!」 そう言ってなのははレイジングハートを構える。 「だから賭けよう!互いが持っているジュエルシードのすべてを!」 なのはに応えるようにフェイトはバルディッシュを構える。 「……シン」 「わかっている、手は出さないよ」 フェイトは頷き、なのはと共に空高く舞い上がり、そして両者は上空で対峙した。 「それからだよ……全部それから!」 「……うん」 「だから、本当の自分を始める為に、最初で最後の本気の勝負!」 フェイトは思い出していた。広大な草原の花畑に母と二人でピクニックに出かけた幼い日のことを、 (あのころは本当に幸せだったな……) 『さあ、できたわ』 (そういえば母さん、あの時私に花の冠を作ってくれたっけ……) 『おいで、アリシア』 (……アリシア?) フェイトはプレシアが自分の事を違う名前で呼んでいることに気付き訂正しようとするが、記憶の中なので声を出すことができない。 『とっても綺麗よアリシア、まるで花嫁さんみたい』 (ちがうよ母さん、私はフェイトだよ、アリシアじゃないよ) 『わたしの可愛いアリシア』 (…………まあいいのかな) 目を見開くとそこにはなのはがレイジングハートをこちらに向けてかまえている。 なのははユーノの願いを叶える為に、大切な人達を守る為に、 フェイトは母の笑顔の為に、自分の味方になってくれると言ってくれたシンの為に、

互いのジュエルシードを賭け、ぶつかり合おうとしていた。

 

「私は負けない……母さんのためにも、アルフのためにも、そして……シンのためにも!」

そして、少女達はぶつかり合う、互いの譲れないものの為に。

 

 

―――少女達は迷いながら たどり着く場所を探し続ける―――

―――哀しくて 涙流しても いつかそれを輝きに変えて―――

 

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第五話「僕達の行方」

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次の瞬間、なのはとフェイトはほぼ同時に上空へ飛び立ち、激しい魔力弾の撃ち合いを繰り広げる。

ドォォォォン!!と巻き上がる爆煙、その中を掻い潜ってフェイトはサイズフォームに変形させたバルディッシュをなのはに向かって振り降ろした。

「くっ……!」

なのははそれをレイジングハートで受け止め、火花散る激しい鍔競り合いの後一旦距離をとる、するとフェイトは廃墟のビルが立ち並ぶ海の上に飛び立ち、それを盾になのはに向かってさらに魔力弾を放つ。

「ファイア!」

「くううう……!」

なのはは襲いかかる魔力弾を魔法で作りだしたシールドで防ぎ、ビルを盾にするフェイトの元へ飛びながら桜色の魔力弾を放った。

「……!」

しかしそれはフェイトが高い機動力を使ったことにより命中することはなかった、そしてなのはとフェイトはビルの間を摺り抜けながら魔力弾を交えた激しいドッグファイトを繰り広げる。

 

 

その様子を植物園のあるビルの屋上で見ていたシンは、心の中で神様に祈っていた。

(神様……お願いします、フェイトを勝たせてください、あの子は本当に頑張っているんです、だから……!)

するとシンの様子に気付いたデスティニーは、優しく彼の頭を撫でた。

「大丈夫ですよ……フェイトさんは必ず勝ちます、だってあの子にはバルディッシュがいます」

するとそこに、かつてシンがアースラで出会った金髪の少年がやって来た。

「あ、お前は……」

「僕はユーノ・スクライア、君の事もヴィアさんから聞いているよ、なんで君はあの子に協力しているの? 君はただ巻き込まれただけなのに……」

ユーノと名乗る少年の質問に対し、シンはさも当たり前のようにすぐに答えた。

「決まっている、あの子の……フェイトの力になりたいからだよ」

すると先程まで話を聞いていたデスティニーが補足を加える。

「主は……シン・アスカは優しい人間なのです、困っている人を放ってはおけない、まるで物語の主人公のような真っすぐな心を持っているのです、時にそこに付け入れられ、利用される事もありますが……」

「デスティニー?」

何故デスティニーがそんな事を言うのかシンには解らず、ただただ首を傾げるしかなかった。

 

 

一方、なのはとフェイトの戦いは決着の時を迎えていた。

しばらくして高度を上げたなのはとフェイトは、桜色と金色の閃光となって何度も何度も何度もぶつかり合った、そしてしばらく後に二人は上空で息を切らしながら対峙していた。

(さすがフェイトちゃん……簡単にはいかないなぁ)

(あの子、初めて出会った時よりも強くなっている……早めに勝負を決めないと!)

一気に勝負を決めようとフェイトは自分の足もとに魔法陣を出現させる。

「はっ!? えっ!?」

それを見て身構えるなのはだが、その周りを小さな魔方陣がなのはを惑わすように出現と消滅を繰り返す。

[Phalanx Shift]

バルディッシュの声と共にフェイトの周りに無数の魔力弾が形成される。魔力弾の表面から紫電がほとばしっていた。

「あっ!? くっ……!」

それを見たなのはは迎撃しようとレイジングハートをむける。しかしなのはの両手首、足首に金色のバインドが巻きつき、両手を広げるようにしてなのはを拘束した。

「えっ!?」

 

 

「ライトニングバインド! フェイトさんも思い切った事しますねえ!」

「だ、大丈夫なのか!? あれだけの魔力をぶつけたら……」

「なのは! 援護を!」

ユーノは居ても立っても居られずなのはを助けに行こうと飛び立とうとする、しかし……。

(駄目!)

ユーノの脳裏になのはの念話が響く。

(ユーノ君は手を出さないで! 全力全開の一騎打ちなんだから……私とフェイトちゃんの勝負だから!!)

「で、でも!」

「ユーノさん……ここはあの子の言うとおりにしましょう」

ユーノはデスティニーに肩をポンと叩かれ、取りあえず状況を見守る事にした。

 

一方フェイトは目を閉じ詠唱を行っていた。

「アルカス・クルタス・エイギアス、疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ、バルエル・ザルエル・ブラウゼル……!」

呪文を唱え終え、目を見開くフェイト。魔力弾を纏う電撃がさらに量を増す。

「フォトンランサー・ファランクスシフト、撃ち砕け! ファイア!!」

フェイトはなのはに向かって手を振り下ろし指さす。

それを皮切りに、無数の魔力弾一つ一つからフォトンランサーがなのはに向かって放たれた。

そしてドォォォォンという轟音と共に、フォトンランサー全弾がなのはへと着弾し、彼女の周りを爆煙が包み込んだ。

 

「なのは!?」

「やったのか!?」

「いえ……!」

デスティニーの視線の先には、フェイトの攻撃を耐え抜いてバインドを解いたなのはがいた。

「……撃ち終わるとバインドってのも解けちゃうんだね」

そう言ってレイジングハートの先端をフェイトの方へむけるなのは。

「今度はこっちの……!」

[Drive]

レイジングハートの先端に桃色の魔力が集まる。

「番だよ!!!」

[buster]

なのははそのままその魔力をフェイトに向かって放った。

「うぁああああああああ!!」

それを迎撃しようとフェイトは左手に集めた魔力弾を飛ばす。だが込められている魔力が違いすぎ、砲撃は魔力弾を全くの障害にも感じさせず真っ直ぐフェイトに向かった。

「あっ!? くっ……!」

襲い掛かるなのはの砲撃をフェイトはシールドを張った。

ディバインバスターを受け止め、押し切られそうな衝撃の風に髪を揺らしながら必死に耐えるフェイト。

(直撃!?でも……耐え切る。あの子だって、耐えたんだから!!)

シールドを張るほうの手の手袋が破れ。漏れ出す衝撃に煽られマントも端から千切られていく。

「フェイト!」

その光景を目の当たりにしたシンは、飛び出したい気持ちを奥歯をギリギリと噛みしめながら必死に耐える。

(俺に……俺に何かできないのか!? フェイトがあんなに必死に戦っているのに!)

今彼女を助けに行けば、一騎討ちを所望しているフェイトの気持ちを踏みにじることになる、それ故何も出来ない自分にシンは心底恨みを感じていた。

(何か俺に出来る事……できる事は……!)

 

「う……あ……!」

一方先程の攻撃で魔力を消費し過ぎたフェイトは、押し切られそうになりながらも自分の気持ちを奮い立たせて攻撃を耐えていた。

「う……あぁああああああああああああああ!!」

最後の力を振り絞るようにシールドに魔力を込めながら叫ぶフェイト。すると砲撃はだんだん細くなりそのまま消えていった。

(耐え切った……!)

そう思いながら疲労を隠さず顔を俯かせるフェイト。しかし頭上から桃色の光が漏れ出していることに気付き見上げる。

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション……!」

そこにはフェイト見下ろしながら空へとレイジングハートの先端を向けるなのはの姿があった。そしてフェイトと向かい合うように魔方陣が出現する。

[Starlight Breaker]

レイジングハートの言葉と共に周りから桃色の魔力が魔方陣の中心へと集まっていく。そしてそれらは一つの大きな魔力球へと収束されていった。

「くっ……!」

苦々しい顔で前方の光景を見ながらフェイトは動こうとする。だが先程自分がなのはにしたように、両手首と足首を拘束され動けなくされたフェイト。

何とか抜け出そうともがくが魔力を消費しすぎ、疲労しきった体では叶わなかった。

そんなフェイトになのははレイジングハートを振り下ろす。

「これが私の全力全開!スターライト……ブレイカー!!」

ディバインバスターなど比べ物にならないほどの大威力砲撃がフェイトへ襲い掛かる、そしてそれは愕然とする彼女を飲み込みながら海上に叩きつけられ巨大な水飛沫を立ち上がらせた。

「ッッッッッッ……!!!」

「……決着だ」

なのはの勝利を確信したユーノはフェイトを助けに行こうと身を乗り出す、すると……。

「待って」

目の前にデスティニーが現われ行く手を遮られた。 「な、何をしているんだ!? 早くしないと!」

「まだ終わっていません、彼女も……彼も」

 

 

スターライトブレイカ―の直撃を受けたフェイトは、身に纏っていたバリアジャケットをボロボロにしながら海に向かって真っ逆さまに落ちていた。

(ああ、そうか……私は負けたんだ)

ふと、フェイトは落下しながらシン達のいるビルを見る。

(ごめんね、負けちゃった……母さんもこれで私の事……)

そう考えた途端、フェイトの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

結局私は一生懸命やったけど……母さんの笑顔を取り戻す事ができなかった、シンになにもしてあげられなかった、この後はどうなるんだろう? 集めたジュエルシードは全部没収されて、私は管理局の人達に捕えられちゃうのかな? 色々悪い事してきたし、きっと死ぬまで牢獄の中で暮らすんだろうな……。

 

ごめんね母さん、願いを叶えてあげられなくて。

ごめんねアルフ、私のせいで一杯イヤな想いをさせて。

ごめんねバルディッシュ、こんなにボロボロにしちゃって。

ごめんねシン、アナタにもお母さんやお父さん、それに妹がいるのに……私のせいで引き離しちゃった。

でももし離れ離れになっても、私の事忘れないでね……。

 

「フェイトォォォーーーーーー!!!!!」

 

その時、シンの悲痛な叫びが薄れゆく私の意識を少しだけ呼び覚ました。

ごめんね、心配かけて、でも私は大丈夫だから……。

「フェイト! フェイト! フェイトォーーーーーー!!!!!」

泣かないでシン、私は平気だよ、だから……。

「フェイト……!!!」

 

 

 

「フェイト! 負けんなああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

!!!!

 

次の瞬間、落下していたフェイトは体勢を立て直し、足もとに魔法陣を展開してその場に踏み留まった。

「えっ!?」

「なっ!?」

九割方勝利を確信してフェイトを助けに行こうとしていたなのはとユーノは、その光景を見て目を見開いて驚いた。そしてそれは踏み留まったフェイト自身も同じことだった。

「私……まだ立てる……?」

信じられないといった様子で自分のボロボロの体を見るフェイト、するとビルにいるシンが彼女へさらに応援の言葉を送った。

「フェイトなら勝てる! だって……あんなに頑張ったじゃないか! だから負けんなーーーーー!!!!」

「シン……」

すると普段物静かなデスティニーも大声で、ボロボロのバルディッシュにエールを送った。

「バルディッシュ! アナタにならできます……! 限界を超えることが! 相棒を幸せな未来へ導くことが!! あなたにはリニスさんの想いも込められているのでしょう!?」

 

「バルディッシュ……」

[はい]

シンとデスティニーのエールを受け、フェイトはバルディッシュに静かに語りかけた。

「私……あの子に負けたくない」

[はい]

「だってシンがあんなに応援してくれるんだもん、なんか疲れも痛みもどっかにいっちゃった」

[はい]

「だからもうちょっと……頑張ろっか」

[…………はい!]

フェイトは心の中に熱いものが溢れ出してくるのを感じながら、上空で茫然としているなのはに向かってつぶやいた。

「そっちが二発ならこっちも二発……!」

その瞬間、バルディッシュは一度分解し、そして大剣の柄のような形に変形して行く。

[Zamber Form]

バルディッシュアサルト・ザンバーフォーム……それが今のバルディッシュの名前だった。

「バルディッシュザンバー……“エクストリームバースト”!!!!」

その瞬間、バルディッシュザンバーから金色の刃が、遥か上空にいるなのはに届くぐらいまで伸びた。

「えええええ!? 何それ!!?」

あまりにも常識外れな長さになのはは驚愕する。

「バルディッシュ、限界を……超えるよ!!」

そしてフェイトは最後の力を……否、沸き上がってきた力をすべて使ってバルディッシュザンバーの常識外れな刃をなのはに向かって振った。

「だあああああああ!!!!!!!」

「わあああああああ!!!?」

なのはは突然の事にその剣撃を避けることができず、とっさに出した魔力シールドで防いだ。

「はぁ! くっ……ううう……!」

必死に耐えるなのは、普段の彼女なら耐えきることができたかもしれない、しかし今の彼女は全力全快の魔法をつかったばかりだった、つまり先程のスターライトブレイカ―を受けたフェイトのように、彼女の全力全快、全身全霊、そしてシン達の願いが付加した攻撃に耐えきる事はできなかった。

「ああああああーーーー!!!」

そしてフェイトが振り抜いた刃はなのはの体を引き裂いた、といっても非殺傷設定が掛けられているのでなのはの体が物理的に真っ二つになることはなかった、しかし彼女の中にあるリンカーコアは大きなダメージを受け、そのまま気絶して海に真っ逆さまに落ちて行った。

「か……った……」

その光景を目の当たりにしたフェイトは、糸が切れたマリオネットのように意識を失い、なのはとは少しずれたタイミングで海の中に落ちて行った……。

 

深い海の中、フェイトは自身の体が沈んでいくのを感じていた。

すると何者かが彼女の体を抱え、そのままフェイトは海の上に顔を出す事ができた。

「フェイト! フェイト……! ああよかった! 無事だったんだな!」

フェイトは自分を助け出した人物……シンの海水と涙で濡れた顔を見る。

「シン……あの子は?」

「なのはなら今……」

するとそこに、ボロボロになって気絶しているなのはを背負ったユーノがやって来る。

「そっちは大丈夫かい? まったく……なのはが負けたなんて信じられないよ」

「へへん! フェイトが本気になればこんなもんだ!」

「なんで主が自慢げなんですか?」

「……」

その時、フェイトは何を思ったのかシンの体をギュウッと抱きしめる。

「フェイト……?」

「ありがとうシン、シンが応援してくれたおかげで私……頑張れたよ」

「そんな、俺なんて全然……」

フェイトは首を横に振り、顔をシンの胸に埋めた。

「ありがとうシン……私の傍にいてくれて……」

「フェイト……」

シンは何も言わないまま、彼女を抱きしめ頭を撫でてあげた……。

ふと、シンはあることに気付き、顔を真っ赤にしてフェイトに語りかける。

「な、なあフェイト、そろそろ海から上がらないか? その恰好じゃ風邪ひくと思うし……」

「?」

顔を赤らめるシンに指摘され自分の今の恰好を見るフェイト、今の彼女の恰好はただでさえ水着のように面積の狭いバリアジャケットがなのはとの戦闘でボロボロになっており、かーなり際どい姿になっていた。

「!!!!! きゃああ!!!」

それに気付いたフェイトは慌ててシンに背中を向け、両腕で自分の胸を隠した。

それを見ていたデスティニーは心底むかつく笑顔でフェイトをからかいだした。

「おやおやー? フェイトさん、どうして赤くなっているんですかー?」

「へ!? え!? いや!? あれはその……!」

「どうしたのフェイト!? 顔がトマトみたいに真っ赤だよ!」

「なななななななんでもないよ! シンはあっち向いてて!」

「は、はい!!」

フェイトに言われて慌てて背中を向けるシン、その光景を呆れながら見ていたユーノは、あることを思い出しレイジングハートに指示を出した。

「レイジングハート……彼らにジュエルシードを」

[はい]

そしてレイジングハートに封印されていたジュエルシードがシンとフェイトの目の前に放出される。

「約束は約束だからね」

「フェイト、ついにやったんだな」

「そうだね……」

宙に浮かぶジュエルシードを、二人は感慨深げに見つめる。

異変はその直後に起こった、シンとフェイトの周りに突如、転移魔法用の魔法陣が出現したのだ。

「うぇっ!? なんだこれ!?」

「まさか……母さん!?」

「二人とも!?」

ユーノは二人を引き留めようとするが間に合わず、シンとフェイトはジュエルシードやデスティニーと共に何処かへ……時の庭園へ転送されてしまった。

するとすぐさま、ユーノの耳にクロノから念話が入ってきた。

(ユーノ! なのはを連れてアースラに戻ってくれ! さっきので彼女達の本拠地がわかった! これから向かうぞ!)

「う、うん! わかった……!」

そしてユーノは気絶したなのはを抱えてアースラに戻っていった……。

 

 

 

 

なのはとの決着の後、シンとフェイトはそのままプレシアによって時の庭園の王座の部屋に転送された。

「プレシア……さん……」

「ふふふ……よくやってくれたわフェイト、これでジュエルシードは……」

そう言ってプレシアは先程の戦闘で満身創痍のフェイトからバルディッシュを奪い、その中に封印されていたジュエルシードを総て取り出した。

そしてバルディッシュを投げ捨てると、プレシアは一緒に回収したなのはの分を合わせて20個のジュエルシードを自分の周りに浮遊させる。

「ば、バルディッシュ!」

フェイトは慌てて投げ捨てられたバルディッシュを回収する、そしてそれを見ていたプレシアは冷ややかな目で彼女に冷たく言い放った。

「……あら? まだそこにいたのフェイト? アナタにはもう用はないわ、早く出て行きなさい」

「えっ……!?」

プレシアの言葉に固まってしまうフェイト、その様子を見ていたシンは思わず声を荒げてしまう。

「な、なんでだよ……なんでそういう事言うんだよ!? フェイトはアンタの為にジュエルシードを集めたんだぞ!」

「ええ、その点は感謝しているわ、でもその子は一つだけミスを犯した……」

プレシアはそう言ってシンを一瞥した後、近くにあった端末を操作しだした。

「やっぱりアナタは欠陥品ね、顔だけはあの子に似ているのに、それ以外は何も似ていない……まったく、煩わしいったらありゃしない」

「あの子……!?」

フェイトはプレシアが何を言っているのか解らず、ただその場でオロオロしていた。

すると王座の後ろにある壁がせり上がり、巨大な円柱型の水槽が現われる、そしてそこには……。

「フェイト! 見ちゃ駄目だ!」

シンは慌ててフェイトを抱きしめ水槽の中身を見せないようにするが、彼女の目にはしっかりと映っていた。

 

「わ……私……!?」

水槽の中に、自分そっくりの少女が死んだように眠っているのを。

 

「その様子を見るとアナタはその子に何も話していないのね……フェイト、アナタはこのアリシアのできそこないのクローンなのよ」

「…………!!!?」

フェイトは何も言葉を発する事が出来ず、目の瞳孔を開かせる。

「アリシアはもっと私に優しく笑いかけてくれた……偽者であるあなたにアリシアの記憶を植え付けてもやはり偽者でしかったわね」

「……!! お前ぇぇぇ!!!!」

ついに堪忍袋の緒が切れたシンはアロンダイトを手にプレシアに斬りかかる。

「主! 無茶です!」

デスティニーはシンを止めようとしたが、間に合う事は無かった。

「鬱陶しい! 跪きなさい!」

プレシアは襲いかかって来たシンを右手に溜めこんだ魔力で吹き飛ばした。

「うわああああ!!!!」

「し、シン!」

「主!」

「う……ぐぐぐ……!」

腹部に激痛が走り起き上がる事ができないシン、そして彼の元に駆けつけるデスティニー、そんな彼等を見てニヤリと笑ったプレシアは、茫然とするフェイトに言い放った。

「フェイト、その子のジュエルシードをリンカーコアごと取り出しなさい、弱っている今がチャンスよ」

「え!? そんな事したら……!」

「死ぬかもしれないわね……でもアナタが悪いのよ? アナタがもっと早くジュエルシードを見付けていればこんな事はならなかった、さあ早くしなさい、母さんを悲しませたいの?」

「……!」

フェイトは震える手でバルディッシュをサイズフォームに変形させると、立ち上がる事ができないシンの前に立った。

「ふぇ、フェイト……!」

「フェイトさん」

「……」

フェイトはそのままシンに向かってバルディッシュを振り上げる、しかし……。

「……ごめんなさい……!」

バルディッシュから手を放してそのままシンを抱き上げた。

「フェイト!!! 母さんの言う事が聞けないの!!?」

そのプレシアの発言に、デスティニーは心底あきれ果てた様子で言い放った。

「アナタから拒絶したくせに、どこまで自己中心的なんですか?」

「ごめんなさい……! でもシンだけは……! シンだけは裏切りたくない……!」

それはフェイトがプレシアに行った初めての反抗だった、そしてそれに腹を立てたプレシアは、先程よりも大きな魔力を右手に集束させた。

「まったく最後まで役に立たない子……! いいわ! そんなにその子がいいのなら一緒に消してあげる!」

「フェイト……逃げて……!」

「ごめんね、ごめんねシン……!」

フェイトは逃げようとせず、シンを守る様に強く抱きしめた。

その時、アリシアの眠る水槽のほうからバリンとガラスが砕ける音が響き、プレシアは攻撃を中断して水槽の方を見る。

「何……!?」

そこには水槽を中から素手で破壊して這い出て来る死んでいる筈のアリシアの姿があった。

「アリ……シア!?」

「な、なんで!? あの子は死んでいるってヴィアさんが……!」

「まさか……!」

培養液が割れた水槽の間からどんどん漏れて地面に広がって行く、そしてそれに構うことなくアリシアは裸のままプレシアの元に近付いていった。

「あ……あははははははは!!!! すごいわ! まさかアルティメット細胞がここまでの効果を示すなんて! 始めからジュエルシードなんていらなかったのね!」

プレシアは半狂乱の状態でアリシアに近付き、自分のマントを彼女に羽織らせた。

「アリシア! 私が解る? プレシアよ! アナタの母さんよ!」

「母さん……?」

アリシアは涙を流して喜ぶプレシアの顔をじっと見つめる。

「さあアリシア……昔みたいに私に笑いかけて! 私の事を母さんって呼んで!」

「……」

その時、2人の様子をシン達と共に見ていたデスティニーがある事に気付き声をあげる。

「プレシア! 逃げて!」

「え?」

次の瞬間、プレシアはアリシアの手によって壁に叩きつけられ、そのまま地面に倒れた。

「ガフッ……!!」

「母さん!?」

「な、何だよ!? 何がどうなっているんだよ!?」

アリシアは地面でのた打ち回るプレシアを、まるで汚物を見ているような目で見ていた。

「アナタは母さんじゃない……母さんは私にもっと優しく笑いかけてくれた、そんな化け物みたいな顔してない……」

「ば、化け物!? アリシア! 私のことが解らないの!?」

プレシアは豹変してしまったアリシアの姿が信じられず、何度も彼女に訴えかけた。しかしアリシアはそれに耳を貸すことなく、茫然としているフェイトを睨んだ。

「お前が……お前が母さんの笑顔を奪ったんだ! 殺してやる……殺してやる!」

「え……え?」

次の瞬間、アリシアは常識では考えられない程のスピードでフェイトとの距離を詰め、彼女の心臓目がけて手刀を突き刺そうとした。

しかし手刀はとっさに割って入ったシンのアロンダイトによって弾かれた。

「邪魔をしないで……! 私はそいつを殺さなきゃいけないの!」

「そんな事させるか! フェイト! プレシアさんを連れて逃げろ」

「う……うん!」

フェイトはシンに言われるがまま、ショックで放心状態のプレシアの元に赴き彼女に肩を貸した。

「なんで……なんでなのアリシア……」

「母さん! しっかりしてください!」

「デスティニー! フェイト達が逃げる時間を稼ぐぞ!」

「はい!」

シンはそう言って背中から翼を出現させ、片腕でアロンダイトを抑えるアリシアを押し出していく。

「邪魔をするな……!」

しかしアリシアは驚異的な脚力で踏ん張り、握力でアロンダイトを握りつぶしていった。

「何なんだコレ……!? この子のどこにこんな力が!?」

「恐らくこれは元々自然の回復を目的に作られたアルティメット細胞の副作用……! 自己進化を繰り返してアリシアさんを蘇らせたアルティメット細胞が、変貌したプレシアさんを見て判断してしまったのでしょう……自分の母親がああなったのはフェイトさんのせいだと……異物を排除する白血球みたいなものですね」

「なんだよそれ……ふざけんな!」

デスティニーの説明を聞いて頭に血を登らせたシンは、サマーソルトキックでアリシアから距離を取る。

「デスティニー! ビームライフルとビーム砲を!」

「はい」

そして出現したビームライフルを手に彼女に向かってビームを何発も放つ。

「甘い……!」

アリシアはそれを右に左にと瞬間移動しながら避け、シンとの距離を縮めて行く。

「よし……もうちょっとだ、もうちょい……!」

だがシンは焦ることなく、ひそかに抱えていたビーム砲をアリシアが移動する予測位置に標準を合わせていた。

「今だ!」

そしてタイミングを見計らって引き金を引き、ビーム砲から極太の光線が放つ、しかし……。

「ふんっ!」

アリシアはそれを素手で受け止め、そのままかき消してしまった。

「なんだよアレ!? もう次元が違いすぎる!」

「アルティメット細胞を甘く見すぎていましたね、まさか戦闘力をあそこまで向上させる力を持つとは……!」

そしてシンの攻撃を受けきったアリシアは、プレシアにかけてもらったマントを掛けなおしながら不敵に笑う。

「もう終わり……? あんまり私の邪魔をしないで」

その時、彼女の背後からフェイトに支えられたプレシアが叫んだ。

「お願いアリシア目を覚まして! あなたはそんなことをするような子じゃ……!」

「か、母さん危ないよ!」

フェイトはアリシアのもとに行こうとするプレシアを必死に引き留めるが……。

「ええい邪魔よ! この人形が!」

「あ!」

頬をぶたれその場に倒れこんでしまう、そしてその様子を見ていたアリシアは、鬼の形相でプレシアをにらみつけた。

「やっぱりお前はお母さんじゃない! 母さんはそんなことしない!」

「ち、違うのよアリシア! これは……!」

プレシアは慌てて弁明するが、アリシアはそれに意を返すことなく足元に落ちていた水槽のガラス片を手に取り、 「死ね! 偽物が!」

プレシアに向かって投げつけた。

ガラス片は高速に移動しながらプレシアに向かって飛んでくる、そのことに気づいたフェイトは……。

「母さん!」

プレシアを力一杯突き飛ばした。フェイトはそのまま飛んでくるガラスのほうを見る。

それが悲劇に繋がってしまった。

 

 

ガラス片はフェイトの心臓あたりにグサリと深く突き刺さってしまい、彼女はそのまま仰向けに倒れた。

「あ……!」

「ふぇ、フェイトォーーーーーー!!!!!」

「あ、あなた一体何をして……?」

プレシアはフェイトの行動が理解できずに呆然としていた、するとそこにシンとデスティニーが慌てて駆けつけフェイトを抱き起こす。

「フェイト! フェイトしっかりしろ!」

「シ……ン……」

「なんて無茶なマネを! このままでは……!」

デスティニーはフェイトに治癒魔法を使って応急処置を施すが、効果は著しくなかった。

(くっ……! こんなことなら戦闘面ばかり強化してもらうんじゃなかった……!)

「かあ……さん……かはっ!」

するとフェイトは血を吐きながら呆然とするプレシアに語りかけた。

「フェイト! もうしゃべるんじゃない!」

「ごめん……なさい……私は……人形で……」

「フェイトさん!」

フェイトは力を振り絞りながら、シンとプレシアに向かって優しく微笑む。

「それでも……私は……貴女に生み出して……くれた……あなたの娘……」

「やめて……やめて!」

「だいすきだよ……かあさん…………シ……………」

その瞬間、フェイトの瞳から光が失われ、体から力がふっと抜けた。

「フェイト……!? 嘘だよね!? ねえ起きてくれよフェイト!」

シンは必死になって彼女の体をゆするが、デスティニーに止められる。

「落ち着いてください主! 今回復魔法が効いて意識を失っているだけです!」

「そうなのか!? よかった……」

するとプレシアは訳がわからないといった様子でフェイトを見つめていた。

「なん……で? なんでそこまでするのよ……!? 私はあなたを拒絶したのよ!!」

するとシンは奥歯をギリギリと噛み締めながらプレシアに言い放った。

「この子にとって……あんたは世界でたった一人の母親なんだ……! 愛されたいって思うのは当然だろう!」

「く、くだらない! 所詮は植えつけられた記憶で……! アリシアの偽物であるこの子にあげる愛情なんて一片も……!」

「くだらなくなんかない!!!!」

シンの叫びに、プレシアは何も言えなくなってしまう、そしてシンは涙を流しながら語り始めた。

「フェイトは……本当は大声で涙を流して泣きたいのに、頑張らなきゃって思って我慢して泣かないんだ……! だから心の中で泣いていたんだ!! お母さんに愛されたいって泣いていたんだ!!」

シンはフェイトの立場を自分に置き換えて、フェイトとアリシアがどんな思いをしているのか理解しようとしていた、そしてその答えは……とても悲しいものだった。

「俺にも母さんと妹がいるんだ、もし……母さんがマユをいじめたら、拒絶したら……やっぱり俺はどうしようもなく悲しい、心が苦しい、守ってあげられない弱い自分が大嫌いになって、世界の何もかもが大嫌いになって、きっとあんな風になっちゃうよ……!」

シンの視線の先には、先ほどからブツブツとつぶやいて俯いているアリシアの姿があった。

「自分だけ愛されたってちっとも嬉しくない、だって俺は……フェイトは……アリシアは家族みんなで幸せになりたかったんだ!!!」

「あ……! う……!」

何も言い返す事ができないプレシア、そしてシンは冷たくなっていくフェイトを抱きしめながら、呆然とするプレシアに自分が今思っている気持ちをぶつけた。

「なんで……なんで拒絶したの? 手を離したの? この子アリシアじゃなくフェイトで、貴女が生んだ娘で、アリシアにとってたった一人の妹なのに、みんなで……皆一緒に幸せになれたはずなのに!!」

 

 

プレシアの頭の中に、アリシアがまだ生きていた頃の思い出が浮かんでくる、その日プレシアは久しぶりの休日を使ってアリシアとピクニックに出かけていた。

『そういえばもうすぐお誕生日ね、アリシアは何が欲しいの?』

『欲しいもの? んっとねー……私、弟か妹がほしー!』

『えええ!?』

『だって弟か妹がいれば留守番していても寂しくないもん! ねえお母さんいいでしょー?』

『あ、あははは……そうね、ちょっと頑張ってみましょうか……』

そして思い出の世界から帰ってきたプレシアは、今度はアリシアのほうを見る。

「ねえお母さん、リニス……どこにいるの?私を一人ぼっちにしないで……!」

 

 

そしてプレシアはすべてを悟った、自分はもう心の傷を埋める程の宝物を手に入れていたこと、それなのにその宝物を自分で傷つけていたこと、そして自身が昔のように笑わなくなり、この世のものとは思えない醜い何かに変わり果ててしまったこと、そのせいで取り戻したはずの宝物に拒絶されてしまったこと。

すべて自分が悪いんだ。

自分がすべてを壊していたんだ。

ヴィア達が過ちを指摘してくれたのに自分はそれを頭から否定して。

すべて手に入れていた筈なのに、すべて取り戻していた筈なのに。

 

全部自分が……跡形もなく吹き飛ばしたんだ。

 

「い……いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

プレシアは嘆きを含んだ狂ったような叫びをあげ、意識のないフェイトにすがった。

「なんで……! どうして私は……!」

シンはもう泣き叫ぶプレシアに対し怒りは感じていなかった、代わりになんでこんなことになってしまったんだろう、助けてあげたかった、こんなことになる前に何とかしてあげたかった、そんな彼女に対する憐れみと自分の無力さに対するやるせない気持ちで一杯になり、泣かないフェイトの分まで涙を流した。

 

その時、シンたちのすぐそばに転移魔法用の魔法陣が出現し、そこからユーノとクロノが現れた。

「シン! 早くここから離れるんだ! あとは僕たちに任せて……!」

「ユーノ!? フェイトが……!」

「うっわ! ひどい怪我……アースラ! 受け入れの準備を!」

するとユーノとクロノに気付いたアリシアは、突如二本の触手を床から出現させて彼等と一緒に逃げようとするシンとフェイトを襲わせる。

「逃がすかぁ!!」

「!! 危ない!」

それに気付いたプレシアはフェイトを抱えるシンをクロノ達の元へ突き飛ばし、自分はその触手に捕まってしまう。

「プレシアさん!?」

「プレシア・テスタロッサ!」

「は……早く逃げなさい! 早くしないと……!」

するとシン達を取り囲むように触手が地面から次々と這い出てきた。

「クロノ! このままじゃ……!」

「仕方ない……転移する」

「ま、待って! プレシアさあああん!!!」

シンは絶叫しながら、クロノ達と共に触手で埋め尽くされていく王座のある部屋から転移して行った……。

 

 

そして気絶したプレシアと共にその場に残ったアリシアは、憎しみと狂気がこもった目で天を仰いだ。

「まだだ……まだ足りない……! 母さんを奪ったあいつらを……世界を!」

そしてアリシアはふと、プレシアが忘れていった20個のジュエルシードを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。

それは、誰にも想像できない物語のプロローグとして語られる、ちょっと変わった“恋”のお話。

どこかの誰かが願いました、誰も守れなかった少年と、母親に愛してもらえなかった少女、二人が幸せになってくれますようにと、いっぱいいっぱい泣いて悲しい気持ちを洗い流してくれるようにと。

大丈夫……二人ならきっと、終わらせることができる。

 

 

次回Lyrical Century's 1st 最終回「君は僕に似ている」

 

 

 

 

悲しみの運命を、撃ち砕け! ガンダム!


 
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