Scene1:某研究所 AM02:00
草木も眠る丑三つ時。
榛奈市近郊の、とある製薬会社の研究所。
人気もなく真っ暗な廊下をこそこそと走る人影が一つ。
がちゃがちゃ。
前言撤回。
肩や腰の飾りがぶつかって、騒々しい音を立てつつ走る人影が一つ。
無駄にメリハリのきいたボディに奇妙な装飾のビキニアーマー。
レミィである。
ご丁寧にほっかむりをして、どこから引っ張り出してきたのか唐草模様の風呂敷包みを担いでいる。
胡散臭いことこの上ないというかどう見たって目立ちまくっているのだが、当人は物陰づたいに素早く移動したりして、見つからないよう頑張っているつもり、らしい。
「ふっふっふー。久しぶりのまともなミッションでやんすー!」
拳を握りしめ、感動にうちふるえたりしている。
ここ数週間というもの、派手に登場しては負けの繰り返しでは、張り切るのも無理はないのだが。
「ささささーっと、お、ここでやんすね?」
「第三資料室」とだけ表札のかかった扉の前で立ち止まる。
近代的な設備に似合わぬシリンダーロックのノブに取り付くと、胸元からロックピックを引っ張り出す。
「けっけっけー、この程度の鍵なんざ、あっしにかかればちょちょいのちょい、でやーんすっ!」
自慢するだけのことはあるらしく、数秒も経たずにピンと澄んだ音を立てて鍵が開いた。
そっと音を立てないようにドアを開く。
同時に、背中に懐中電灯の光が当てられる。
「誰だ!そこにいるのは!」
「げげーっ!」
巡回の警備員が腰から警棒を抜く。
と、レミィの姿が消えた。
「なっ!?」
膝立ちの姿勢から、かがみ込むようにして横に飛んだのだと気が付いたときには、レミィは警備員と大きく距離を開けていた。
「けーっけっけっけ。悔しかったら追ってきてみろでやんすー!」
手を腰に当て、威張り腐って胸を張るレミィ。笑うのにあわせてたゆたゆと胸が揺れる。
「けっけっけ……って、ぎにゃー!」
いい気になっている内に距離を詰められて。
血相変えて迫ってくる警備員に、大あわてできびすを返す。
「追ってこいと言われてほんとに追って来ちゃだめでやんすー!」
「待てー!」
どたどたどたーっと追いかけっこが始まる。
「…始まったようですね」
警報の鳴り出した研究所を、道路脇に止めたレンタカーの運転席から眺めて呟くジルバ。
予定時刻通りなのを古びた真鍮の懐中時計で確認。
「では、そちらも準備に取りかかりなさい」
後部座席の戦闘員に声をかける。
「イー!」
と応じた二人は、いつもの戦闘服でなく、闇にとけ込むような暗い紺色の全身タイツを着ていた。
周囲に誰もいないのを確認すると、するすると研究所の塀を乗り越え、騒ぎの起こっている棟とは別の棟へと走っていく。
「あとはどの程度レミィさんが頑張ってくれるかですが……」
「ひいいいっ!?なんか増えてるでやんすよ!?」
いつの間にやら三人に増えている警備員と必死の追いかけっこを続けているレミィ。
警備員側も廊下で挟み撃ちにしようとしたり壁際に追い込もうとしたりと頑張るのだが、肝心の所ですり抜けられてしまい、なかなか捕まえられない。
捕まえられないからどんどん殺気立って行って。
追いかけられるレミィは半べそをかいている。
と、どこからともなく脳天気なお囃子の音が聞こえてくる。
驚いて立ち止まる警備員。
レミィはその隙に……立ち止まって胸元をゴソゴソ。
谷間から引っ張り出してきたかわいらしいピンクの携帯電話を耳に当てる。
「誰でやんすか!?今取り込み中でやんすよ!」
どうやら、お囃子はこの携帯電話だったらしい。
「え……ちょ……それは……なーっ!?ヒドイでやんす!納得いかないでやんすよ!」
電話の相手にくってかかるレミィ。
「あーもーわかったでやんす!……ん?なんでやんす?今電話中でやんすよ?」
肩をつつかれて振り返るレミィ。
そこには……
肩で息をしつつ怖い笑みを浮かべている警備員達。
「ぎーにゃー!」
腕を捕まれそうになったのを振り切って走り出すレミィ。
追いかけっこの第二ラウンド開始である。
塀を乗り越えて戦闘員が帰ってきた。
待っていた車に再び乗り込む。
「……首尾は?」
「イーッ!」
問いかけたジルバにディスクを手渡した。
そのディスクを懐にしまうと、代わりにシンプルな造型の携帯電話を取り出して、
「目的は達成しました。そちらも隙を見て脱出してください。……え?ははは、そんなわけが無いでしょう。……ええ……ええ、健闘を祈ります。では」
ちょっと待つでやんすー!とかなんとかわめき散らしている相手の返答を待たずに一方的に通話を終わらせた。
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二話Aパート開始