キッカケは、ほんの些細なことだった。
ひとつめ。
俺の機嫌が悪かったこと。
ふたつめ。
アイツの機嫌が悪かったこと。
みっつめ。
思わず言ってしまった、心にもない言葉。
「で、素直に謝りたいと?」
コクリ、と頷いたイギリスに、日本は深く溜息を吐いた。
「最初から憎まれ口など叩かなければいいものを」
いつもより冷たい日本の言葉にも、イギリスは怯まない。
そもそも、ゲームの発売日に自分の話を聞いてくれているということだけでも奇跡のような話なのだ。
……視線はゲームのパッケージに釘付けとはいえ。
こういったことは日本に聞けばいい、とイギリスは知っていた。
別に他に相談できる友達がいないわけではない。
彼の後ろに積み上げられたイギリスには理解できないゲームの量がその適任さを物語っていた。
「で? 一体何を言ったっていうんですか」
日本の質問にイギリスは硬直した。
聞かれないとは思わなかったが、こんなに直球で来るとは正直イギリスも思ってはいなかった。
相当ゲームがやりたいらしい。
「大っ嫌いだ」
イギリスの言葉に、日本は眉を寄せる。
「いつもいつも言ってらっしゃるじゃないですか」
「昨日は、アイツの機嫌が悪かった」
不貞腐れた子供のように顔を逸らしたイギリスに、日本は溜息を吐いた。
「本当に、子供のような方ですね」
「俺が、か?」
意外そうに目を丸くするイギリスに、日本は頷いた。
「機嫌が悪かったから、それがなんだというんです? いつもいつも憎まれ口ばかり叩いて。それが受け入れられると知っているからでしょう? 貴方は、親に無償の愛を望む子供そのものですよ」
まったく、と菊は笑った。
「早く行って、勢いに任せて謝ってごらんなさい? 貴方は私から見てもあの方から見ても年下なのですから。そんな無鉄砲さは、子供の特権というものでしょう?」
子供子供と連発されても、イギリスは怒らなかった。
日本の言う通りだからだ。
「変な小細工や助言など、貴方には似合いませんよ?」
イギリスは立ち上がって踵を返した。
しかし振り返って、ニカリと笑う。
「ありがとう、日本」
アメリカとよく似ているのに、きちんとお礼を言って去っていくところが、流石兄だと認識させる。
かの大国にそういった礼儀は存在しない。
「日本も意地悪だね」
そう言ってクスリと笑ったのは、フランスだ。
押入れからノソノソと出てくる姿は、格好良いとは言えなかったが。
「おや、そんなところにいらしたんですか、フランスさん」
フランスの後ろからアメリカがノソノソと出てきたが、日本は無反応だ。
「日本がお兄さん押し込んだんでしょ?」
「俺もなんだぞ! ビックリしたんだぞ!」
「すみませんね、フランスさん。爺になると記憶力が低下しまして」
そのアメリカの存在に気付かないような言葉にフランスはもう一度笑って、それからイギリスが出ていった襖を見た。
「本当に、可愛いヤツ」
「惚気は他でやってくださいます? そもそも私、米英派なので」
「ちょっ、それは言っちゃダメでしょ!」
「そうなんだぞ! イギリスなんか、お断りなんだぞ」
五月蠅く喚きはじめたアメリカに、日本は視線も投げない。
「日本、赦してほしいんだぞ。その、確かにゲーム壊しちゃったのは悪かったと思ってるんだぞ……」
アメリカの言葉に、日本は目に涙を溜めてアメリカを睨みつけた。
「本当に反省してらっしゃいます? 貴方、一体何枚目だと思って! 三枚……三枚ですよ? どうしていい加減気をつけようと思わないんですか! もう絶対に貸しませんからね!」
アメリカの手が日本の腰に回って、軽く唇が触れた。
「本当にごめん、なんだぞ……」
「っ! いつもいつも、そうやって絆されると思ったら大間違いですよっ!」
頬を赤く染めて喚いた日本にフランスが「惚気るのは駄目でイチャつくのはいいの?」と呟いたが、日本は聞いていない。
「でもまぁ、あれが馬鹿な子供の正しい謝り方かな。……上手にできたら御褒美あげようかな」
今度はフランスの言葉に日本が食いつく。
「そのお話終わった後にKWSK!」
フランスはニコリと笑って「無理」と呟いた。
まるで語尾にハートが飛んでいるかのような言い方だった。
さぁ。イギリスがきちんと謝れたのか、そして御褒美をもらえたのか。
それは本人たちのみの知るところである。
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