No.337277 休日の閻魔生活(仮)shuyaさん 2011-11-20 23:01:43 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:736 閲覧ユーザー数:725 |
「あなたはそう、少し嘘を吐き過ぎた」
人のことを思い、人のために吐く嘘は良い。嘘は悪だと言うつもりは毛頭無い。無い、が。
いくら周りの人を楽しませるためとは言っても、限度があるだろうに。
話を大きくすることや、時に憶測や邪推から話を加えることもイコール悪ではない。
だがそれは常であってはならない。それはいけないことだ。
ただ『では、どこまでならいいのだ』と問われれば、答えられないのも事実。
四季映姫の能力は、白黒をつけること。
結論は出せるが、程度を測ることも教えてあげることも出来ない。
できるとしたら、せいぜい常識的な説教をすることくらい。
物言わぬ霊が相手出なければ、やっていけなかっただろうと自覚もしている。
「あなたは、地獄行きです」
時に、思う。
『私は狂っていて、間違いを犯し続けているんじゃないか』と。
閻魔とはいえども、仕事である。出勤時間もあればシフトもある。
時間が来て、一段落すれば帰宅する。その繰り返し。
ただ、私の場合は部下の仕事振りに左右されることがとても多いのだ。
あの『やる気次第』な仕事では、当日ですらいつ区切りがつくのか全く予測がつかない。
よって仕事後に予定などは入れられず、いつの間にか私は人と会わなくなっていた。
帰ってもやることは無く、寝ることだけが退屈を感じない唯一の術となった。
自然に帰宅を遅らせるようになり、仕事の勉強や終えた仕事の精査などをするようになった。
おかげさまで上から信頼も得た、地獄での名も上がった。
他の閻魔が多忙なときは必ず声がかかるようにもなって、どんどん忙しくなっていった。
家に帰らないで済むのだからこんなにもありがたい話は無い。
もはや仕事以外に何かをしたいとも思わないし、何をしていいのかもわからない。
コンコン、と私の部屋にノック音が響いた。
「はい」
きっと昨日手伝った閻魔からだろう。
『もう大丈夫です』とは言っていたが、彼の仕事量と部下の仕事振りを考慮するとやや厳しかった。
私の仕事量は不慣れな場でも彼の二倍程度だから、ここで依頼しない手は無いはずだ。
……他の閻魔と違って、私は見返りを求めないから。
今日も忙しそうだ。残念ながら帰宅できそうも無いな。
部屋の隅にあるロッカーの中には、大き目の毛布と寝巻きが詰め込まれている。
私服はたたんで机の引き出しの奥で眠っている。
もし私が裁くなら、私は間違いなく地獄行きだ。
罪状は『自分を蔑ろにしたこと』。
自覚しながら続けていたことも含めると、一切の考慮も無く即決できる。
決して人には見せない自嘲の笑みを浮かべながら、私は来訪者を招き入れた。
「休…暇?」
「そうだ」
現れたのは私の上司、しかも二つ飛ばして三つ上の上司だった。
間違いなく私から訪れる事しかあってはならないような上官で、地獄全体でもでも上から数えてすぐ該当するほどの方。すぐに立ち上がって非礼を詫びたがむしろ席に着くことを勧められ、いつもは直立して聞くお言葉を急に座り心地の悪くなった椅子の上で聞くことになってしまった。
「君は一切の休暇を使用していないからね。それに、通常の休みも潰していると聞いているよ」
「いえ、今月は二回のお休みを頂いております」
「その二回は、共に担当地区の見回りに費やしているね」
「……はい」
「それは業務として認められていることだね。むしろ嫌がる閻魔もいるから推奨すらしている」
「私のリフレッシュ法ですから、全く問題ありません」
「そうだね。しかし、そうじゃないんだ」
「と、いいますと……?」
つまるところ、私は『働きすぎ』だそうだ。
他の閻魔には便利屋扱いしているものもいるから、話が届くこともあるだろう。
しかし、それにしても全てを掴まれているはずが無い。
業務区分を超えて多方向で働いているからわかるわけがない。
報告もしていない、口止めもしている、時には私の仕事だとわからないように工夫すらしている。
全てを知るものなど、絶対に私以外いるわけがない。
「大変申し訳ないのですが、お断りさせて頂きます」
「む、皆が欲しがる休暇を『いらない』と?」
「はい。私はこの仕事を大切に思っています。確かにかなり力を入れておりますが、それでも限界を超えて励んでいるわけではありません。体調と精神、加えて残務量も考慮して勤めております。未だに私の出来ることは多く、これが片付いた時にこそお休みを頂きたいと思います」
「ふむ、それなら問題が無いな」
「?と、いいますと」
「君の仕事はおそらく、あと二日ほどで片がつく」
「いえ、今年は60年周期の該当年なので未だ残務は多く」
「それを君が片付けてしまっているんじゃないのかね?そうだな、確かめてみるといい」
何を言っているんだ?
だって、あの花が咲き乱れた時から数えてまだそんなにも経っていない。
あの花の数だ。流石の私でも、そうそう裁けるものではない。
あの時から、あの花の数ほども裁けていないのだから終わるはずが無いのだ。
そう、終わるはずが……
裁判待ちの霊はいなかった。
というかむしろ、彼岸にいっさい霊がいない。
「これは……?」
「知っての通り、霊は運んできてすぐ裁判というわけにはいかない。彼岸でしばらく己の状態を理解して、納得してもらわなければ上手く事が進まないからだ。通常、裁判は遅れがちでどの閻魔も霊の増加に追いついていないので、彼岸に霊がいないなど考えられないことだ」
「でも、これは小町……私の部下の怠慢が原因で、ままある状態だと」
「ああ、小野塚小町君だね」
「どうして、その名を」
「この休暇は小町君の発案なのだよ。上司に休暇を与えよ、と直訴してきてね」
「……?!」
「一年ほど前だったかな。君の上司全ての部屋の前に、小野塚小町名義で資料が置かれた。一月間の君の仕事内容と、サポートした仕事。それから別業務と疑われる外出の時間。後は業務に関連する行動と、業務として報告していない業務の時間など。これらがわかりやすいグラフと表で示されていて、その異常さが問題となったんだ。さっそく小野塚君を呼び出して、君の事情を彼女の意図を聞いた」
小町っ!
確かにあの子なら、私の時間を把握できる。
厳密にわからなくても、私の様子と指示などから確定させることもある程度は出来てしまう。
やられた、まさかこんな方法で……
「彼女が言うには、君がどんどんいけない方向へと進んでいると。仕事しかやることが無いと思いこんで、本当に一切の生活を放棄して仕事しかしていない。休ませようとしてサボっても別の仕事や勉強を始めてしまう。やることが無くなったら実力行使で働かせにやってくる。どれだけ言っても、泣きながら懇願しても全く休んでくれないと」
「……」
小町っ!
「……土下座しながら頭を叩きつけながら『休ませてくれ』って、言うんだ。こんなやり方は嫌だけど、もうお願いするしかないんだって、止めても止めても振り払って『お願いします』って大きな声で言うんだ。涙と血でぼろぼろになっちゃって、でも誰も止められないんだ。流石の私も、これには心を揺さぶられてしまってね。だから、言ったんだよ。小さな声で『わかった』って。すると一瞬で私の前に来てね、『ありがとうございますっ!』ってまた繰り返すのさ。全く、困ったものだよ。そして落ち着いた小野塚と共に、君を休ませる方法を考えたんだよ」
「それが『仕事を終わらせる』ですか」
「そう。普通の手法ではだめだということはよくわかっている。上司が言っても聞かないなんてことは報告されているよ。私が言っても駄目だったろうね。だから小町君と画策して、一日の仕事のペースを極端にばらつかせながら、長期的な総量を大幅に増量させることにしたんだ。別口の仕事をあれだけこなせば、管轄の仕事量変化など些細なことだからね」
もうっ!わざわざそんな小技まで使わなくてもいいじゃないっ。
なんで休ませようとする。仕事がしたくて仕事が片付くんだからいいじゃないかっ。
おかしいんだ、そんなわけがない。
「それでも多くなんて無かったと思います。あまりに違えば流石に気付きます」
「そういえば、該当年だから顕界は花が咲き乱れて大変だったそうだね」
「え、ええ。それが何か」
「そう、確か自由に花を咲かすことの出来る妖怪がいるんじゃなかったかな」
「おりますが」
「その妖怪と話をつけてね、花の一部はその妖怪が咲かせたものだ。あふれて花になっている霊の数を、君に見誤らせるためにね」
っ!!
「大きく追いついたのはそこだよ。あの時、君は懸命に裁いていたね。まず目途をつけておくのが君の仕事の癖だと言っていたよ。小野塚君、あの時は久しぶりに全力以上で仕事に取り組んだのだそうだよ。連れてきた数を一桁ごまかして報告して、後で修正したり……」
「一桁っ?!少なくとも百を超えて」
「君は没頭すると他のことが気にならなくなるんだってね」
「……」
「十人連れて行って、裁いている最中に少しづつ増やせば気付かないと言っていた。好物を食べていて、ふと見れば意外と多く残っていてもまあいいかと思ってしまう気持ちと同じさ」
「まだこんないたかなと、疑問に思ったことは何度かありました」
「だが、裁くだろう?それが閻魔だからな。そしてこの通り、後は残務処理を片付けるだけだ。君ならどう頑張っても二日以上を費やすことは出来ないはずだ」
「休暇の間は?」
「私が裁く。不服か?」
「一番不服を唱えられない方を配置されてしまうのですね……私が関わる他の仕事にも手が回っているのでしょうか」
「明日からしばらく業務調査という名目で、休暇補佐以外の業務補助が禁止となる。違反者は業務怠慢と同罰とされるので、まあお声はかからないだろう」
「もう、打つ手がないのですが」
「大人しく、休みたまえ。期間は約一ヶ月を予定している」
「っ!長くないですか?流石にそれでは、」
「私なら半年くらいは何とかなるよ。きっとまだ、君より無茶は利く。体が大きい分だけな」
「何とか三日くらいになりませんか?」
「今から地獄が大災害で混乱に陥っても、一週間は休ませることが決定している」
「地獄行きの判決を受けた気分です」
「私はそれを忌避したいのだよ。もちろん、小町君も」
「……」
「それでは君は二日後より休暇に入り、その間は私が幻想郷担当代行となる。私の手伝いは業務調査の関係上させられないので、休暇中は仕事が一切出来ないと思ってくれ」
「流石の私も、手が思いつきません。ああ、幻想郷を見て回るくらいはいいのでしょう?」
「よかろう。二日ほどの業務だな。それくらいならかまわんよ。ただ、苦情が来たら即座に禁止する。君なら延々と説教して回ることも考えられるからな。行き過ぎた説教はためにならぬ」
「……では、業務に戻ります」
「ああ、最後に」
「なんでしょうか」
「君が小町君を罰した場合、パワーハラスメントとして君を処罰することを申し添えておく」
「私の行動はそこまで読みやすいのですか?」
「完璧であることの裏返しみたいなものだよ」
手を振り去っていく後姿を眺めることしか出来なかった。まさしく完敗。小町の命をもいらぬ覚悟を持った特攻が完全に実った形である。
はぁ。
と一つため息を吐くと、緊張しきっていた全身の力がすっと抜けて、椅子にだらしなくもたれかかる格好となってしまった。しかし、身を正す気にはなれない。
二日後から始まる地獄の責め苦を思えば、途方に暮れること以外はできそうになかった。
来てほしくない時ほど、早く来てしまうもの。仕事受託の押し売りをしてまで詰めに詰めた予定だったが、やはり私の休みと同時に何一つのやることもなくなってしまうことに変わりは無かった。
『あなたのためならば、私は禁止指示を破り、責任を全て被ってもかまいません』と言って回ってもみたのだが、勘違いして求婚してくる者くらいしかいなかった。意外と私も捨てたものではないのかと、変なところで自尊心が満たされたがそれも詮無きこと。これからを思えば、すぐに塗りつぶされる程度の喜びでしかない。
いつものように部屋の隅で毛布に包まりながら眠りについて、目を覚ましたのはおよそ四半刻ほど前だろうか。床から出ることが出来ないという話は聞くが、まさか我が身で為すなど意識の端にすらよぎったことは無い。今の私を心の底から情けないと思う。思うが……どうしても体を動かす気にはなれなかった。
業務開始時間までに、この我が家とも呼ぶべき部屋を出て行かねばならない。いや、本来ならば今、ここに私がいること自体がおかしいのではあるけれど、業務開始までは本日として取り扱われないはずだ。ならばそのぎりぎりまでここにいても非難されるいわれは無い。言い訳にしかならないが、長期休暇前の残務処理と復帰後のための処理をしていたのは本当のことだ。疲れているのも本当のことだから、浅い眠りから覚めた私が、もうしばしの休息を求めていても許されないことは無いだろう。この部屋から職場を出るまでの時間は完全に把握しているから、時間とほぼ同時に去ることが出来るように調節することにしよう。そうすればまだここにいることが出来て、何も無い家へとたどりつかなくてすむから。
コンコン、ガチャ
と。ノックが意味を成さぬ早さで、返答も待たずに扉が開いた。
「四季様、いらっしゃいますかーっ?……あー、やっぱり」
見ればいつもの小町が右手を顔に当て『あちゃー』などどのたまっている。
まだ業務開始前なので鎌は持っていないが、身だしなみだけは相変わらずきちんとしている。やや着崩してはいるがそれでも不快感を与える程度ではなく、動きやすさと見栄えを追及した結果だということを私だけは知っている。それにしても、いつも時間ぎりぎりの小町が今ここにいるなんて、遅刻するよりありえない。そもそもノックして返事を待たず入ってくるなんて、らしくない。あれで気を遣う方だから、今までに一度も無かったことだと思うのだが……
「四季様、まずは起き上がってください。それでは頭も回りませんから考えるだけ無駄ですよ」
「うぅ、ん……えぇ、そうですね」
体を起こしてみようとすると、なんだかとても重くてふらふらとしてきた。起き上がるまでに時間をかけてしまうが、なんとか体を起こすことに成功した。
「すごい寝癖ですよっ。あぁ、着乱れちゃってます。ほら、ちゃんとして」
「えっ」
手を頭に持っていくと、はねてふくらんでからみきってしまっていることがわかった。あー、とか思っているうちに、服のほうは小町が整えてくれた。なんだか起き上がってもぼーっとしている気がする。どうもいつもの調子が出てこない。
「すみません、小町。よくわかりませんが、なにやら調子が悪いような気がします」
「はい。そんなこともあろうかと、私は四季様に合わせて少しお休みを頂いているのですよ。まずは身支度を整えて、家へと向かいましょう」
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四季映姫から仕事を奪ったらどうなるだろうかという考えから、
こんなお話が生まれつつあります。
まだ構想中で荒書き中の文章ですが、
更新を飛ばす代わりに次回更新まで置いておこうと思います。
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