博麗神社には、立派な鳥居がある――が、あまり使われてはいない。
鳥居とは神を祭る場と、人の住む場を区切る結界のようなものなのだ。
本来は神社唯一の出入り口として使われるべきものなのだけれど、
こと幻想郷においては空を飛んで入ってくる者の方が多い。
その代表例が最も訪れる頻度の高い霧雨魔理沙で、
「鳥居を通ったことがあるのか」と聞きたくなるほどに無視しているそうだ。
実質的な管理を担っている博麗霊夢は、何も言わない。
だからあえて、直接聞いてみることにした。
――なんで鳥居を使わないんですか?これって、神社の入り口なんですよ?
「何故って、私が魔法使いだからさ」
――ちょっと、よくわからないんですけど……
「あのなあ……仮にも魔の文字を冠する者が、神を祭る場所に気を使ってどうするんだよ。
私が魔法使いでなければな、来る時はいつも石段を登って、帽子を脱いで一礼して入るだろうさ。
石段も石畳も真ん中は通らないって程度の知識はあるが、気にしたことはないな」
――じゃあ、鳥居を使ったことはないと。
「ない……いや、あるな」
――え、魔法使いは神を…
「昔の話だ。まあ、今でも可能性はある。
私が本気で神頼みをするような事態になれば、神に礼を尽くして参拝の手法を守るだろうさ。
まあ、大抵のことは自分で解決するだろうけどな。つまり、ありえないってことだ」
――なるほど。よくわかりました。ありがとうございます!
「でも、お前。なんでいきなり、そんなこと聞いてきたんだ?」
逆に、毎回のように鳥居をくぐって訪れる者もいるそうだ。
しかもその内の一人(?)は、いつも石段を一段一段上ってくるらしい。
本当は石段を上ってくる理由を聞きたいのだけれど、
そうそう容易く話を聞けるような存在ではないので次の機会にして。
今回は石段こそ上らないが鳥居はくぐるという、魂魄妖夢に直撃することにした。
白玉楼に行くのは面倒なので、買出しのために里に来る日を狙いうちして聞いてみた。
――妖夢さんっ!なんで博麗神社へ行く時に、皆が無視している鳥居をくぐっているんですか?
「うわああっ!……あ。あなたですか。驚かせないでください」
――はい、私です。ですからその剣はしまっても大丈夫です。
「そうですね。こんな里の往来で、容易く剣を抜いてはいけませんから」
――(と言うわりには、えらくあっさり抜いたような……)
「なんですか?その顔は」
――いえっ、なんでも。で、なんで鳥居をくぐるんですか?
「いきなりですね。まあ、それは鳥居が神社の入り口だからですよ」
――へ?
「いえ、だからですね。家なら扉、屋敷なら門。そして神社は鳥居です。
訪ねるならば、入り口から入るのが当たり前でしょう」
――えと、じゃあ神社に対してなにか思うところとかは……
「え?ああ、私は神とか、あまり信じていませんので。
やけに鳥居にこだわっているようですが、私はあくまで来訪の礼儀を守っているだけです」
――ああ、だから鳥居の前で飛ぶのをやめるわけですか。
「といいますか。入り口から入るのって、そんなにおかしなことなのでしょうか。
私は皆がすいすいと他者の敷地に入っていることが、不思議で仕方がないのですが」
――どうも、ありがとうございました……
「なんだか期待に応えられなかったようで、気になってしまうのですが……
それより、どうしてこんなことを聞いてきたのでしょうか?」
なるほどね。
幻想郷の荒くれどもたちは、神社だからって敬意を払ったりはしないわけか。
そりゃそうよね。
神に対して遊びを仕掛けてくるような人たちですもの。
参拝の礼儀作法なんて、気にするだけ無駄ってことか。
あえて注意もしない方が、面倒がられなくて良さそうね。
よーし、今日も一歩前進したわ。
でも、まだまだ常識に囚われているなあ、私。
この幻想郷では常識に囚われてはいけないのにっ!
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彼女にはどうも、気になることがあるようです。
(発想から書き上げまで3時間の実験作です)