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少女の航跡 短編集09「神々の詩 Part1」-1

少女の航跡の秘められたストーリー。太古の昔、アンジェロ族という者達が栄華を誇っていた時代、一人の子供、ガイアが誕生するところから物語は始まります。そしてそれは悲劇の始まりでもありました。

2011-11-19 17:20:44 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:936   閲覧ユーザー数:380

 全ての伝説には、確かな始まりがある。

 全ての物語には、その起源と言うものが確かに存在しており、その始まりの出来事が、後に起こるあらゆる出来事をも運命づける。

 例え、それを人々が知る事も出来ないほど太古の昔に起きた出来事であろうと、幾多の時や文明を乗り越えて、悲劇や、文化、そして全ての人々へと繋がっていく。

 それは過去という運命に決定づけられた、永遠に紡がれる糸のようなものである。

 この世界にも、確かな文明の起源が存在しており、それを人々はまだ知る事もない。人間や、亜人種達にも、その起源を知る事はできないものであったし、更に言うならば、それは、過去の時代の者達によって、巧妙に隠されていた歴史だった。

 しかし歴史は存在していた。人間や亜人達が、神として神格化していた者達は、確かに存在をしており、彼らにも国があり、そして、文化を持っていた。

 神々と呼ばれていた存在は、確かに当たり前のように存在していたのだ。

 ここでは、あえて彼らの存在の事を、神々と表現する事にする。神々の定義は、後の世においてあまりにも不明瞭な言葉だ。

 後の世においては、人々のもつ宗教によっては、唯一無二の絶対神を持つような世界も存在している。そうであるがゆえに、神を複数存在するものとして表現するのは、無礼な事であるかもしれない。

 だが彼らは、確かに神と呼ぶにふさわしい者達として、後の世へと伝えられている。

 後の世において神格化される事になる、アンジェロと呼ばれる存在達にも、確かに都というものが存在し、彼らはその世界で生きていた。

 アンジェロ達が住まう都は広大だった。それは一国の規模どころか、この世界全てを覆い尽くすほどの巨大な都として、この世界の全てを覆い、支配していた。

 彼らの都の繁栄は、すでに永遠とも呼べる時間に渡って広がり、伝わってきていた。

 それが、ある時には何世代にもわたって繋がりゆく平穏であったのだが、それだけではない。

 アンジェロ達はある時から、過去にも未来にも存在しえない秘術を編み出す事に成功した。

 彼らはいつからか、永遠の生命を得る事に成功していた。

 アンジェロ達は、あらゆる技術に長けていた。旧時代においては、よもや魔術でしかなかったような技術さえも習得し、それは全てのアンジェロであっても使う事ができる被術でさえあった。

 全ての命の肉体は確かに滅びる時がやってくる。だが、アンジェロの考えによれば、魂は永遠の存在であると言うものだった。魂の輝きも、確かにいずれは霞んでいく事もある。それは、肉体の滅びの数千、数万倍以上も先での出来事だ。

 アンジェロが永遠の生命の技術を習得してから、そこまでの長きに渡った時間を生きてきた存在はいなかったから、彼らは確かに永遠の生を持つ事になった。

 アンジェロ達は不滅だった。彼らは肉体を次々と入れ変えていく事で、その生を保ち続け、それは貴族や国家の元首だけではなく、一般市民でさえも当たり前のように行っていた事だ。

 しかしながら彼らも、その事が結果的にどのようなものを生み出すかについては、永遠の生の螺旋が、数千回は繰り返されなければ理解する事はできなかった。

 一時期は、アンジェロ達の人口は爆発的に増加した。都の規模が広大になり、天をも貫くほどの建物が無数に建つようになったのもそれが原因だ。

 だが、彼らはその難局をも乗り越えた。アンジェロ達が食するもの。生活を豊かにするものの不足についても、技術の大幅な開発によって不自由しなくなった。

 彼らは永遠の生を楽しみ、そして、実際、彼らは神であるという誇りさえ持つようになった。

 だが、彼らの永遠の生を得ると言う秘術は、代償を伴っていた。それについて人々が気づくまでに時間がかかってしまった。

 その代償とは、彼らの子孫を残す能力が極めて困難になってしまったという事である。

 アンジェロ達は、その子孫を残す能力をほぼ失いかけていた。彼らの人口は安定したが、新たな子の発生は、ごく稀に見る現象のようなものでしかなくなってしまっていたのである。

 彼らの新たな子の発生は数百、数千年に一回しか起こらないものとして、特異的なものとみなされた。新たに生み出された子は、特別な存在として扱われ、すぐにも、永遠を生きる者の一員として、永遠の生を受ける儀式が行われるのだった。

 アンジェロ族の繁栄に陰りが見え出す頃、ガイアと呼ばれる少女が誕生した時も、アンジェロ達の間で、大きな物儀が起こった。何しろ彼女は、三千年ぶりに誕生する事が出来た、言わば奇跡の産物のようなものだった為である。

 ガイアと言う娘は、ゼウスとヘラという夫婦の間から生まれた。夫婦の愛を永遠に保つのは非常に難しい。無限とも言われる人生の中で、永遠の夫婦による生活を送る事ができている者など、彼らの間で子が誕生する事に比べれば多かったが、大抵は長続きはせず、何度も別の配偶者の契りを交わす事になってしまう。

 ゼウスとヘラの仲は、これもアンジェロの中では非常に貴重なものであり、ゼウスはアンジェロが、永遠の生を得る事に成功した時代から生き、ヘラとの夫婦の仲は数千年にも及んでいた。

 彼らは幾多の困難を乗り越え、偶然的に、ガイアと呼ばれる少女を誕生させる事ができたのだ。

 数千年に一度の出産。太古の昔には、子を誕生させる事は非常に難儀であり、母と子のどちらか、時には両方が死亡するような事も少なくはなかった。だが、アンジェロは用意周到だった。

 最後の子が誕生した後の3000年間の間に、その技術は目覚ましいほどの発展を遂げ、ヘラは万全の体制で、ガイアを産む事が出来た。出産上は何の問題もなく、ヘラに似た顔立ちの子が生まれたようにも思われた。

「ガイアは、とても元気なようだぞ。ほら、きっと私達を探しているに違いない」

 ゼウスは、真っ白な部屋の寝台に寝かされているガイアを見つめ、妻であるヘラにそう言った。

 ヘラは出産したばかりで、まだ別の寝台に横たわっていたが、元気なようである。ヘラは、すでに数千歳である。ゼウスの一万を超える年齢からすれば、半分程度しか生きていないアンジェロのだが、それでもアンジェロ特有の体質のために、女として子供を誕生させたのは初めてだった。

 二人とも、永遠の命を得ながらも子供を授かると言う、アンジェロ達の間でも奇跡でしかないような出来事に、ただ感謝をした。

 後の世に神として崇められる彼ら自身でも、神と言う存在を信じていたのだ。ゼウスもヘラも、女達の神、出産の神、そして、子の魂を運んでくる神にそれぞれ感謝の祈りをささげていた。

「あの子も、やはり私達と同じ儀式を受ける事になるのかしら」

 ヘラが不安げな顔でそう言った。

「ああ、もちろんだ。立派なアンジェロの一員として、永遠の時を我々と共に生きる。そしてもしかしたら、私達の子だ。孫を産んでくれる事があるかもしれない」

 ゼウスはそのように言いながら、ヘラの手をしかと握った。それは力強い彼なりの意志であるかのようだったが、ヘラの方は不安そうな表情を隠せない。

「それが、あの子にとっての、そして私達にとっての本当に大切な事だと思う?」

 ヘラの言葉。それは静かに発せられた。彼女の眼は、しかと、我が子の方へと向けられていた。

 だがゼウスは、

「君は、一体、何度その質問をすれば気が済むのだ?そのような議論は、一万年以上前から何度も行われてきた。だが、我々が永遠に生きるという事、それ自体が我々の誇りなのだ」

 そのように力強く言うのだった。彼自身、永遠の生を受けた事に誇りを持っており、彼自身、一度も永遠の生に悔いを感じた事が無かった。

 だがゼウスの欠点は、自分の意志を絶対視し、他社の意見には耳を傾けない所にあった。

「あなたは、そう思うのね。私は、時々後悔する事もある」

 ヘラは、ゼウスからもガイアからも顔をそむけてそう言うのだった。

「ともかくあの子は、私達の大切な遺産だ。そしてアンジェロにとっても大切な遺産でもある。大切に育てよう。時間は何しろたっぷりあるんだ。誇りに思えるような子に育ってほしい」

 ゼウスはヘラの言葉を聞かなかったかのようにそう言ってしまい、再び我が子の方へと目を向けるのだった。

 無垢な子供は何も知らずに、ただ虚空を見つめていた。彼女の持つ金色の瞳は、あまりにも純粋過ぎている。

 彼女はまだ自分自身に課せられた使命を知る事も無く、ただ母親を求めて、真っ白な天井へと手を伸ばしていた。

 まだ、彼女はアンジェロという種族から誕生した子に過ぎない。しかし、これから施される儀式を通過すると、彼女は大きな使命を課せられた偉大なる種族の一員になるのだ。

 アンジェロの世界にももちろん政治というものが存在していた。政治家達は評議会というものに出席をしており、その中でも最高評議会が、多くのアンジェロ達の社会を担っている存在だった。

 最高評議会はわずか10名の者達によってのみ行われており、アンジェロ達は世襲制によって政治を行わず、投票により評議会の者達を、全てのアンジェロの間から平等に選出すると言う民主主義を行っていた。

 最高評議会の者達は、洗練されていた者達だった。永遠の生を受けた者達によって作られる政治は、数万年と言う時を生きている政治家も少なくない。洗練された政治は秩序ある社会を生み出し、その安定さは今までアンジェロ達が実現してきたどのような社会よりも安定したものだった。

 最高評議会では全ての社会の秩序を保つ。全ての法律から税、そして経済に至るまでを。最高評議会にいる者達は、それを全て任されるだけの器を持っている。数万年の時は、それだけの洗練された政治家をもたらしていた。

 

「今年から始まった、交易品にかけられた関税率に対して、随分と反感が民の間から上がっているようですぞ」

 アンジェロの都の中でも最も高い建物は、議事堂だった。その議事堂の頂上に位置する、最高評議会の議員達しか立ち入る事ができない建物に、今日も最高評議会の者達が集まっていた。

 評議会の議員は10人と定められ、それは常に例外が無い。5年に一度の解散と総選挙によって顔ぶれが変わる事はあるが、中にはすでに何百もの期間を最高評議会議員として務めている者もいた。

 タルタロス議員も、そんな最高評議議会の議員の一人だった。

「民の反感にばかり、目を向けているわけにはいかぬ。関税率は、物々の価値の秩序を他の地域と同一に保つためにかけるものだ。この関税率が最も良いと我々は判断を下した。税についての失敗は、すでに何度も経験してきている。この税率を保つ事により、アンジェロ全体の貨幣の秩序が保たれるのだ」

 タルタロス議員がそう言うと、最高評議会の議員達は納得したようだった。評議会は円卓を囲む議事堂の姿がそうであるように、議員達の地位は平等にと決められているはずだったが、彼の発言一つで、議会は左右されるのが、最近の最高評議会の流れだった。

 今回の関税率の問題にしても、タルタロス議員から出された、半ば法外とも思える税率から端を発している。

 絶対的なものではなかったが、彼の出した法案や税率は大抵の場合、通過するのだった。

「では、この関税率は改案なしという事で、中堅の議会に出しておきましょう。最高評議会では、今後もこの関税率を変更する事はないという事で」

 そう言って、この評議会の中でも、タルタロス議員ほどではないが古株の、ネレウス議員は言うのだった。

 彼はタルタロス議員の顔色を伺い、また民の顔色も伺う。自らの立場が危うくなるような事は決してしない議員だった。

「それよりも、数千年ぶりの子を産んだというゼウスがこの場にはおらんな。最高評議会では、召喚には必ず応じるように言ってある。今日の議会が終わる前に彼が現れない場合は、彼を処罰しなければならん」

 タルタロス議員が堂々たる声で言った。今日の議会では、一人の人物を召喚しているはずだった。数千年ぶりの子供は、下院議会の政治家であるゼウスから誕生した。新たな子がアンジェロの社会で誕生する事は、最高評議会でも注目している事だった。

 それにはいくつかの理由がある。数百万と言われるアンジェロの人口において、そこにたった一人増える事は大した問題では無い。しかしながら、特にタルタロス議員は、前回誕生した子供がいた時も、最高評議会の議員だったから良く知っている事があった。

「サトゥルヌス!」

 タルタロス議員は自分の秘書の一人の名を呼んだ。すると即座に、タルタロス議員が座っている席の目の前に、川の流れであるかのような像が姿を見せ、そこに正装をした一人の男が姿を見せた。

「お呼びでしょうか」

 サトゥルヌスは、タルタロス議員の第一秘書だった。彼はタルタロスが信頼する者の一人だった。

「ゼウスを迎えにやらせたはずだ?奴はまだ現れていないのか?」

 サトゥルヌスの姿を映し出している像に向かって、タルタロスは言った。彼は日ごろは滅多に見せない苛立ちを顔に見せている。

「遣いにはやらせたはずですが、まだ彼は現れていません」

 サトゥルヌスは感情を篭めないかのような声でそう言って来た。

「今日中にゼウスの奴は審問会に現れなければならん。そうしなければ奴は命令無視だ。強制的に娘も、奴自身も、奴の妻をも調べる事になる」

 タルタロスの命令は絶対的なものだった。いくら平等とされているこのアンジェロの社会においても、議会の呼び出し、それも、最高評議会の呼び出しとなれば、一般市民でも必ず応じなければならない。

「それは、ゼウスの方も承知しているはずですが?」

 サトゥルヌスはそのように言った。それはタルタロスの命令には無い、彼自身の言葉だった。

「とにかく、奴をすぐにでもこの議会へと来させろ」

 そのように言い放たれたタルタロスの言葉は、あたかも巨大な警鐘を鳴らすかのようなものであった。

 ゼウスがサトゥルヌスの元にやってきたのは、それから1時間もしない間の出来事だった。

「お待ちしておりました。ゼウス議員」

 頭を下げながらサトゥルヌスは他の部下と共に彼を出迎えた。ゼウスは急いでこの議事堂へとやって来たらしく、少し息を切らせている。

 ゼウスは大柄な体つきであり、その顔にはどことなく長き時を生きてきたという風格が漂う。例え、50年程度の年月でその肉体を交換する事を繰り返し、永遠の生命を得ていたとしても、顔には確かな風格が漂うのだ。

 サトゥルヌスは、タルタロス議員に仕えて長い。少なくとも彼が議員になってからは、秘書として、同時に警護としても彼に仕えていた。

「ご存知かと思いますが、ゼウス下院議員。今日の議会の呼び出しを放棄されれば、あなたは処罰され、お子様は強制的に調べ上げられる事に…」

 最高評議会のある場所まで、高い建物を押し上げていく乗り物に乗りながら、サトゥルヌスはゼウスに言った。

「ああ、ああ、分かっている。ただ、娘が体調を崩してしまったのだ。自分の娘だ。放ってはおけまい」

 ゼウスは少し焦りを見せつつ、乗り物内でサトゥルヌスに向かってそう言った。

「そう言う事でしたので、今日の面通しは父親であるあなただけです。あなたの娘さんは、後日、議会の方から直々に調査をします」

「ああ、分かっているよ」

 ゼウスは、サトゥルヌスの言っている言葉が不快であるようだった。サトゥルヌスとしても彼の気持ちは理解できる。例え自分に子供がいなくても理解できた。生まれて間もない子供を、色々な形で調べられるのだ。それは病院に任せる事はできない。議会が国民を代表して、親から子供に至るまで徹底的に調べる。

 その後も、アンジェロの世界に産み落とされた子供は、その後、成熟し、立派な大人になる20年もの間を、議会の監視下に置かれる決まりになっていた。

 何故、議会直々にそこまでする必要があるのか、それはアンジェロとして生きている者たちならば、誰しもが知っている理由があった。

 サトゥルヌスとゼウスを乗せた乗り物は、やがて、最高評議会の部屋のある場所へとやってきた。ここは、最高評議会の議員達が認めた者達しか入る事を許されない、アンジェロ達の聖域の一つだ。

「お連れして参りました。ゼウス下院議員です」

 サトゥルヌスはそう言って、最高評議会の面々にゼウスの顔を通させた。

 ゼウスは堂々たる姿を見せ、その顔を少しも揺るがせなかった。だが、最高評議会の者達の方が、ゼウスよりもずっと貫禄のある姿をしていた。やはり議員としての格が違う。ゼウスに比べて最高評議会の面々の方が、議員としての長き時を生きている。

「遅れまして、申し訳ございません。娘が突然、体調を崩してしまって」

 ゼウスはそのように言い、最高評議会の者達に遅延を詫びた。しかし議会の者達は変わらぬ表情でゼウスの方を見つめる。

 長とも言える存在である、タルタロス議員がじっとゼウスの眼を射抜き、口を開いた。

「最高評議会の命令は絶対だ。例外は認めん」

「申し訳ございません」

 ゼウスはタルタロスのその言葉に、不意を突かれたかのようだったが、たちまち謝罪した。

「そこに座れ。呼び出された理由は分かっていよう。お前が授かった、アンジェロの新しい子についての審問だ」

 タルタロスはそのように言い、ゼウスに評議会の円卓の中央に設けられた椅子を指示して言った。

「はっ」

 ゼウスはその巨体を、円卓の中央の椅子に座らせ、その姿をさらした。

「何故、我々が、新たなアンジェロの子が生まれた事でお前を呼んだか、わかっていような?ゼウスよ。今、この時代に生きるアンジェロならば誰でも知っている理由がある」

 タルタロスはじっとゼウスの顔を見つめてそう話しだした。

「存じております。3400年前に起きた、出来事については私も…」

「セーラの悲劇!」

 ゼウスの言葉を遮るかのように、彼の背後の円卓に座っていた最高評議員の一人が言った。

「その通り、セーラの悲劇が起こった。お前もその悲劇を乗り越えて生きている者だから知っていよう。あれが、いかに我々アンジェロを追い詰めた悲劇であるかという事をな」

 タルタロス議員は言葉の先を進めた。

「セーラも、お前の所と同じように、女児の赤子だった」

 別の議員が重ねるかのように言ってくる。

「そして、その赤子は恐ろしいまでの力を秘めた忌子でもあった」

「もし、当時の最高評議会がそれを打ち倒さねば、アンジェロは滅びる所だった」

「実に半数、半数のアンジェロがそれによって死に絶えたのだ」

 次々にゼウスに言葉をぶつけてくる議員達。だが、円卓の中央におり、それらの言葉を浴びせられても、ゼウスは顔を変えず、動揺を見せなかった。

「我らアンジェロは、永遠の時を生きる種族として、長年かけた生の中で、他の生き物が持ちえない、特別な力を持つようになる」

 そう言いつつ、タルタロスはその手をゼウスの前で広げた。あたかも自らの手を天秤の皿にするかのようにしてみせる。するとそこには、黒々とした黒い球体ができ上がり、周囲の光を、次々とその穴へと吸い込ませていった。

 空気の流れでもはっきりとわかる。確かにその黒々とした球体は次々と周囲のものを取り込んでいる。今はタルタロスの手のひらの上でその球体が小さいから良いが、もしそれが巨大なものとなればあらゆるものを呑み込むものとなってしまうだろう。

「我はこのように、全てのものを呑み込む奈落を作る事ができる。消そうも、巨大化させようも自在にできる。お前はどうだ?ゼウスよ」

 タルタロスはゼウスにその球体を見せつけ。やがてはそれを握りしめる事によって消した。消えた跡には、黒い球体も何も残されなかった。

「私は、雷鳴を呼び、落雷を起こす事ができます。ですが、よほどの事がなければやりません。幼い頃から自らの力については知っていました」

「雷神トール!」

 背後にいた議員がまたしても声を上げた。それがゼウスの力だ。

「では、お前の妻のヘラはどうだ?」

 別の議員が攻撃的な態度でそう言ってくる。ゼウスはその議員の方をちらりと見ながら答えた。

「いえ、ヘラは。何も力を有していません」

 ゼウスはそのように答えた。

「隠し事をするでないぞ」

「アンジェロは皆、長き年の間に、必ず魔法の力を有するようになる」

「例外など無い。長き時を生きていく内に、知恵と力が生み出される。そしてそこから、自然と力を身につけていくのだ」

 議員達は口々にゼウスに向かってそう言ってくる。だが、ゼウス自身はどうしようもなかった。

「最高評議会の場で虚偽をすればどのような事になるか分かっていような?ゼウスよ。そして、我らが何故このような質問をするのかも分かっていような?」

 タルタロスは、長年彼の中で形成されてきた、威厳ある話術をゼウスへと見せつける。ゼウスはその顔の表情を少しも変えようとしないが、タルタロスの前に立たされたものは、大抵、この威厳ある表情に耐える事はできない。嘘をつくことはできず、隠し事も全て露呈する。

「存じております。我々、アンジェロの力は時として、全ての民に対して脅威になる。だからこそ、管理されなければならないという事を、私はもちろん知っております」

「その通り!」

 誰かが声を上げてそのように言った。

「だから、お前の妻も、生まれてきた赤子であっても、その力の管理は我々が行わなければならないのだ。アンジェロ、数百万の者達の管理は我々が行う。皆が、自由を手にしていた、セーラの悲劇以前は、アンジェロ達は好き勝手にその力を行使する事ができたが、今は違う。全てのアンジェロは管理されねばならぬのだ」

「はい。もちろん存じております」

 ゼウスはそのように言って来る。しかしながらタルタロスは、ゼウスへの視線を衰えさせようとはしない。むしろ、彼の心の内を見透かすかのように強力なものとした。

「セーラの悲劇は恐ろしいものだった。我らはその悲劇を二度と繰り返すつもりはない。あの時、セーラの持つ力によって、アンジェロの数は半分にまで減った。

我らは、数千年に一度しか、子を誕生させられないほどにまで、生命の機能が衰えていると言うのに、たった一人の赤子の手によって、その数が更に半分にまで減らされたのだ。

セーラは私が消滅させる事ができた。しかしながら、我らアンジェロは自分達を滅ぼしかねない存在を生み出す事ができるという証明にもなったのだ。我らがいかに、新たに生まれてくるアンジェロに恐怖を抱いているかは知っていよう」

「はい。私はそれを承知の上で、ヘラにガイアを産ませました」

 ゼウスは即答した。彼の応えには一切の迷いが無い。タルタロスはそれをしかと確認し、他の議員達もゼウスを凝視した。

「いい覚悟だ。ではゼウスよ。お前の娘がもし、ほんの少しでも恐ろしい力を秘めている事が分かったら、我らがどのような制裁を取るかと言う事を、お前も知っているな」

 そう言い、タルタロスは、自分の拳を再びゼウスの方へと向けた。そこには全てを呑み込む黒い歪みが現れる。

「承知しております。議員」

 ゼウスは少しも揺るがない眼でそう言って来た。タルタロスは変わらぬ表情のままだ。拳を握りしめ、手のひらに生み出した空間を消しさる。

「お前の娘が危険でないと確認ができれば、晴れて我々の仲間入りというわけだ、ゼウスよ。実に三千年ぶりに、アンジェロの人口が増えることになる」

「聖女の到来として崇められるだろう」

 そのように言って来た議員もいたが、最高評議会の場に流れる空気は張り詰めたものだった。全ての視線がゼウスの方を向き、彼を異端審問会にかけているかのような眼で見つめている。

 ゼウスはそれをはっきりと理解していた。そして彼は全ての答えに肯定的な返事を返してはいたものの、心の内は決して穏やかなものではない。

 むしろ彼はこの最高評議会にいる者達全てに対して、憎悪さえを向けていた。

「私とて、あの権力者達の言っている事が分からないというわけではないのだ。むしろ彼らの言っているアンジェロ族の安全と平和のためには、一つの命が失われるような事になったとしても、それは仕方の無い判断なのだろう」

 ゼウスは議事堂付近の芝生の上を歩きながらそのように言っていた。議事堂周辺の芝生はきちんと管理をされた敷地となっており、誰もそれを汚す事はできない。天高く聳え立つアンジェロ族の様々な建物の中でも、広々とした敷地を持っていた。

 ゼウスはその中で、自分の議員仲間の一人と共に歩いていた。政治的思想は多少異なる所もあるが、同時期に下院議員として民の中から選出された、ハデスを伴っていた。

「場合によっては赤子さえも、この世から消失させる。タルタロスの持つ力は恐ろしいが、セーラの悲劇の時は彼がいなければ、全てのアンジェロがこの世から消えるところでした」

 ハデスは神妙な表情をしたままゼウスに向かって言って来た。彼も、セーラの悲劇を知る人物だ。この世にいるアンジェロならば、全ての民が知っている。

 あのセーラの悲劇がどれほどのものであったかという事も。そして、その出来事をどれだけアンジェロ達が恐れているかと言う事を。

「ああ、良く知っているよ。あの悲劇は二度と繰り返すわけにはいかない事は私にも分かっている。だが良く考えてみたまえ、ハデス。自分の娘なのだ。それが悲劇を引き起こす事になろうと、忌子であるかのように扱われる事も、どちらも父親としては耐えがたいものであるという事が、お前にも分かるはずだ」

 それは忌子として扱われる。アンジェロ達の中から偶発的に生まれる新たな生命は、とてつもない力を秘めており、特にセーラの悲劇のような出来事を引き起こしてきた。

 ゼウスやハデスが生まれた時は、特異的な存在では無かったと言うのに。アンジェロ達は、自らの生命をより偉大なものにするために、危険な存在を誕生させ、それを自分達でも操作する事ができなくなっていたのだ。

 ハデスは言葉を続ける。

「わたしにも、アフロディーテという妻がいますが、あなたの所はまさに奇跡ともいえる存在だ。本来ならば歓迎すべき所を、あたかもあなたの娘さん、ガイアが、忌子であるかのように扱われるのが耐え難い気持ちは私も同じですよ」

 ハデスはゼウスの理解者の一人だ。アンジェロの中で年齢というものが、ほぼ無意味なものとなっているものの、世代的にはゼウスとハデスは近い者同士である。

「だが私は、あのガイアがもし、セーラと同じような忌子であった場合は、彼女を葬り去らなければならない。それだけではない、忌子を生まれさせる要素を秘めている、この私と、ヘラも同じように抹消されるのだ。これ以上、危険な忌子を誕生させまいとな。

 アンジェロ達は、これ以上、子を産む事を禁止することになるだろう。今ある我らでは駄目なのだ。我らが新たな生を生み出す事が禁じられる」

 ゼウスは声も高らかに広場で言うのだった。

「ですが、あなたのガイアがまだ忌子であるという事が決まった訳ではありませぬ。もし、通常のアンジェロと同じような存在であるならば、議会の者達も納得するでしょう。多少の不自由はあるかもしれませんが、たかだか数十年程度であなたの子も自由となる。それはアンジェロの永久の時を生きる事に比べれば、実に短い時間だ」

 ハデスはゼウスをなだめるかのようにそう言った。しかしながら、ゼウスは落ちつかない様子だった。

「だが、私には感じられる。それは予感と言うものだ。とてつもない恐ろしい予感というものを感じている。それこそ、あのセーラの悲劇よりもさらに恐ろしいものが、我々に振りかかろうとしているという予感だ」

「思い過ごしなのでは?」

 ハデスはそう言うのだが、ゼウスは収まりつかない。

「予言というものとは、こういう事を言うのだろう。私は予言をするような秘術を持っていないが、アンジェロ達が忘れかけていた、親子の絆というものは、こういうものなのか」

「私には、何とも言えませぬ。ゼウス。ただ、議会の判断を待ちましょう」

 ハデスはこっそりと言った。

「ああ、それしか方法が無い」

 ゼウスは、そこで初めてハデスの方を振り向き、彼のまなざしを見た。ハデスはその顔に実に怪しげな視線を光らせていた。

 ようやくヘラは、自分の娘をその腕に抱く事が出来た。誕生したばかりの時も、ガイアの身体を優しく抱いてやる事ができたが、それはわずかな時間でしかなかった。

 例え、真っ白な部屋であり、外界からは閉ざされた空間の中であっても、ヘラはその腕にガイアを抱いてやる事ができたのだ。

 ガイアはあまりにも無垢だった。肌の色などはヘラに似たらしい。本当に生まれたての赤子とは小さなものなのだと、ヘラは思い知らされる。

 永遠の生を受ける事ができるアンジェロも、生まれたての時は、ここまで小さな存在でしかない。このガイアという存在が、実に3400年ぶりの赤子である事はヘラもよく知っていた。

 しかしながら、それはあまりにも壊れやすく、もろいガラス細工のような存在であり、誰かが守ってあげなければならない事は目に見えていた。

 知識ではアンジェロ達も赤子というものが、どういった存在かは知っている。しかしながら、あくまでそれは知識でしか無く、実際に誕生した例は少ない。ヘラは何に代えてでもこの娘を大切にしようとしていた。

 今、ガイアは眠っている。眼を閉じて、彼女は何も知る事は無いはずだ。自分がアンジェロと言う種族に生まれ、この種族に与えられた使命も何もかも知らずに、ただ無垢な身体を無防備にさらしながら眠っているに過ぎない。

 せめて、皆に歓迎されながら生まれてくる存在であったならば、この娘もずっと幸せであっただろう。ヘラはそう思っていた。

 自分にとっては、とてもこのガイアが忌子であるとは思えない。そう思ってヘラは我が子を抱きしめていた。この子は、純粋無垢な娘でしかない。決して、数千年前にアンジェロの文明を滅ぼそうとしたセーラとは違う存在だ。

 ヘラはそう言い聞かせた。だがガイアはどうだっただろうか。ヘラの発した感情を読みとることができたのか。

 ガイアはその眼を開いていた。じっと抱きしめているヘラに向かって、その純粋無垢な眼を開いている。

 ガイアの瞳は金色であり、それ自体があたかも光を放っているかのように見える。その瞳は輝きを持ち、ヘラは少し戸惑った。

 この瞳は、ゼウスにもヘラにも無いものだった。彼女達の家系には存在しない瞳の色。だが、この瞳をヘラは知っている。

 ガイアが開いた金色の瞳が輝きを見せてきたので、ヘラは思わず彼女を手放しそうになってしまった。だが、踏みとどまる。突然の動揺で、まだ生まれたばかりの我が子を床に落とすわけにはいかなかった。

 しかし、その瞳を見ている内に、ヘラは何か恐ろしいものに自分が包まれていくのを感じていた。

 それは白い何かであるという事はヘラには分かった。白いベールのようなものが自分を包み込んで来ようとしている。

 ヘラはそれを振り払おうとした。何よりもまずガイアを助けなければ。そう思ったが、ガイアはその眼を見開き、そのあまりにも純粋な瞳をヘラへと向けて来ているではないか。

 ヘラはガイアを寝台の一つの上に置き、迫ってくる白い何かに対して、必死に彼女を庇おうとした。

 だがヘラは気づいていなかった。その迫りくるものの正体が何者であるのかと言う事を気が付いていなかった。

 その迫りくるベールの正体こそ、ガイアがけしかけているという事を、彼女は想像する事さえできなかった。

 ヘラは意識を失って、その場に倒れた。倒れた母親の姿を見つめて、まだ生まれたばかりの幼子であるはずのガイアはその眼を見開き、無邪気な笑みを見せていた。

 

 ヘラが意識を失って倒れたという知らせは、すぐにゼウスの元へと入った。

 ゼウスはアンジェロ達が使う乗り物に乗り、一気にアンジェロ達の街を駆け抜けていった。天をも貫くような建物が建ち並ぶ中を、ゼウスはハデスと共に、ヘラのいる建物へと向かっていた。

 乗り物はゼウスの意志で動かす事ができる。これはアンジェロ達の技術の結晶であり、すでに数千年前、セーラの危機の時代から用いられているものだった。今では全てのアンジェロ達がこの乗り物を操る事ができる。

 そして何より、目的地まで急ぐためには欠かす事ができない乗り物の一つだった。

「何事も、無ければ良いのですが」

 同じ乗り物に同乗したハデスが、ゼウスの表情を伺うようにして言って来た。乗り物は言わば4人ほどの体が入る事ができる箱のようなものであり、そこに備え付けられている座席に、ゼウスとハデスは並んで座る。

「評議会もまだ手出しはしていない。だというのに何故だ?ヘラの身に何か?」

 と、ゼウスは自分で自分を責めるかのような言葉を並べている。

「ヘラ様は、初めてお子を産まれたのです。体調でも崩されたのでしょう。心配はありません」

 ハデスはそのように言うのだが、

「何故、ヘラは意識を失ったのだ?医者の呼びかけにも答えないと言うではないか!」

 ゼウスは正気ではいられないと言った様子でそう言った。アンジェロのように長大な生命を持つ者達は決して短気ではなく、長年の経験とも合わせて、落ちついた態度をいかなる時も取る事ができる。

 そのように考える者もいたが、それは時と場合による。死というものを前にしては、アンジェロも平気ではいられない。彼らは寿命では死と言う枷から逃れる事ができていたが、その他の死からは逃れる事ができないでいる。

 アンジェロが完全なる平穏を手に入れる事ができないのは、まだ、病気、事故による死というものが彼らには立ち塞がっているからだ。アンジェロとて、永遠の生を得られようと一つの生命でしかない。

 ヘラはアンジェロの歴史の3000ぶりに、一人の子を産んだ。それが彼女の肉体に大きな影響を及ぼしたのかもしれない。

 遠き昔、ゼウスさえも生きていないほど過去の時代には、出産とは、生死さえも分かつほどの危険な行為だった。しかし、子孫を生み増やすためには、どのような生命も子を産まなければならない。

 アンジェロもその数をどんどんと減らしつつある。いくら長大な生命を持っていようと、不慮の事故などで死亡してしまえば、アンジェロの人口は減る。まして、滅多な事で子孫を生み増やせなければ、滅びの道を歩んでいってしまう。

「ヘラとガイアが無事であれば、今の私はそれでよい。しかし、嫌な予感がしてならないのだ」

 ゼウスは乗り物の中でハデスに吐露する。

「予感といいますと?」

「やはりだ。ガイアが生まれてからと言うもの、私の中には確かな不安が残り続けている。あの子を失うことになるかもしれないと言う恐れとは違う。それ以上の何かを私は感じているのだ」

 ゼウスはハデスに確かな口調で打ち明けた。お互いは包み隠さず何でも話し合える仲だったから、ゼウスの言葉には誇張も無い。彼は事実のみを述べている。

「奥様と、お嬢様に会いに行きましょう。それまでは何とも言えませぬ」

 ハデスはそう言って、ゼウスの手を握った。彼の手はとても大きく、アンジェロとして標準的な体格しかないハデスの倍の大きさはある。しかしながら、彼の巨大な背中が背負っているものは、彼の体をもってしても耐えきれないほど巨大な物であるようだった。

 タルタロスは最高評議会の議事堂の建物の展望台から、アンジェロの街を一望していた。この巨大な街は、悠久の時を経て来ている。すでに幾千もの時を経て来ているほどの街だ。街には次々と巨大な建物が建てられ、街は改められるが、評議会はアンジェロの歴史が始まった頃からここに存在している。

 最高評議院が背負っているアンジェロ達の統率の荷も変わらなければ、最高評議院が持つ地位も変わっていない。

 それだけ長きに渡って共和制を保つ事が出来ているのは、皆がそれを望んでいるからだ。誰もこの共和制を破壊しようとはしていない。だからこそ保つ事が出来ている。

 アンジェロの者達は平和な破壊よりも安定を望む。それが数千年に渡って続ける事ができるのだ。

 しかしながら、いかに長い年月をかけて築き上げられてきた、完全なる安定であったとしても、それを乱す者は確かに現れるのだ。

 それがまた、3000年ぶりに現れたのかもしれない。タルタロスは警戒していた。自分はアンジェロの中で誰よりも、セーラの悲劇を覚えているつもりでいた。

 セーラと同じような存在として、ゼウスの子が生まれたと言うのならば、それは排除されなければならない。全てはアンジェロの秩序と安定のためだ。

 タルタロスは自分に与えられた、恐ろしい力を手の中だけに展開する。自分がアンジェロを滅ぼすほど恐ろしい存在にならなかったのは、この力を制御する事ができるためだ。

「タルタロス議員」

 突然、自分の背後から呼んでくる声がある。落ち着いたタルタロスのみしかいない展望室に、一人の男が入ってくる。第一秘書のサトゥルヌスだった。

 落ちついた正装をしているサトゥルヌスは、タルタロスの表情を伺った後で口を開く。

「ゼウス議員の妻が倒れました。医者からの連絡によれば、意識不明の状態であると」

 サトゥルヌスはほとんど感情を篭めないかのような声でそう言って来た。タルタロスも表情を全く変える事は無かった。

「原因は何だと医者は言っている?」

 タルタロスの口調には刃のような残酷さがこめられている。

「医者にとっても分からないと申しております」

「ゼウスの娘はどうしている?」

 続けざまにタルタロスが尋ねた。

「娘は何も異常は無いと。ただ、母親だけが昏睡状態になったと」

 その言葉を聴いてタルタロスは納得したように頷いた。

「急ぎ、ゼウスの娘達の元へと向かう必要があるな。事は緊急を要するかも知れぬ」

 タルタロスは即座に行動した。

 彼は全てを知っている。ゼウスの妻、ヘラに何が起こったのかを彼は知っている。もしこれがセーラの悲劇の再来であるならば、何よりもまず自分が行動しなければならない。新たな悲劇が起こったとして、それを止められるのは自分だけしかいないのだ。

 


 
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