ヒグラシが鳴き、夏の太陽が街並みを赤く染めている。西の空は太陽が地平に近づくごとに赤みを増す一方、東の空は紫から藍色に変わるグラデーションがかかっている。
『入野星児』はそんな風景を目にしながら、会社から自宅への帰路に就いていた。
「ああ、暑いなあ……」
夜が近づいているとはいえ、八月の初旬である。昼の暑さを未練がましく残して汗を噴き出させている。クールビズのおかげで半袖のYシャツにノーネクタイという出で立ちだが、だからといって涼しくなるわけではない。
「早く帰って、ビールでも飲みたいな」
今の時刻だと人気がほとんど無くなる公園を横目に、帰宅後の至福の時を想像する。こうでもしなければ今の暑さを我慢できない。
「ねえ、待ってよー」
「待たないよー」
ふとヒグラシの鳴き声に紛れて子供の声が聞こえてきた。公園の方を見ると、小学生くらいの女の子が同い年であろう男の子を必死になって追いかけている。
(子供はやっぱり元気だなあ)
毎日八時間、身体ではなく頭を活動させているだけでも疲れを感じる今、はしゃぎ回る姿が羨ましく見えていた。
「……夏、か」
子供達の姿を見て、星児は自分が彼らと同じくらいの歳にあった出来事を思い出していた。
十歳の頃、祖母の家に遊びに行った時に体験した、少し不思議なひと夏の経験を。
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拙作のやる夫スレ「やる夫と魔法少女の夏」の小説リメイク版です。登場人物の名前や描写に差異がありますが、ご了承ください。