No.328157

伝説の木の下で貴様を待つ 

pixivで一番コメントが多くて、一番閲覧者が少なかった作品。
まあ、読めばわかります。最後までちゃんと読むことが重要ですよ

Fate/Zero
http://www.tinami.com/view/317912  イスカンダル先生とウェイバーくん

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2011-11-02 00:13:53 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:13034   閲覧ユーザー数:3521

伝説の木の下で貴様を待つ 

 

 

 眩しい光と共に目を覚ます。

 見ればカーテンが開かれており陽光が僕の顔に直接注ぎ込んでいた。

 人間に活力を与えるはずのその光は今の僕には眩しすぎて辛かった。

 そして突然すぎた。

「急にカーテン開けないでよ、雄二」

 僕に断りもなくカーテンを開けた犯人をジト目で睨む。

 まだ眠っていたかったのに太陽光で起こされてしまったせいで気分がダルい。

「もう朝だってのにいつまでも寝ているからだ」

 一方でカーテン前に立つ雄二は僕を冷ややかな瞳で見返してくる。

 180cmの高身長、更によく鍛えられて引き締まった裸身を惜しげもなく晒しながら。

「雄二は僕に対する愛が足りないよ」

 大げさに溜め息を吐く。

 雄二は天邪鬼だ。

 情は人一倍深いくせに正面から人を労わる言動に欠けている。

 だから行動だけ見るととても愛のない人間のように見える。

「愛だと? そんなものこの世に必要ないだろうが。必要なのは、肉欲だけさ」

 雄二は僕を見ながらニヤリと唇を歪めた。

「肉欲が一致しているからこそ、俺と明久は今一緒にいる。Give & Takeの原則は守っている。何の問題もなかろうが」

 雄二は言いながら僕の裸の肩を掴んできた。

 荒々しい手。

 昨夜、僕を滅茶苦茶にしたケダモノの大きな手。

「ゆ、雄二がそう言うと世の中の全てのものが味気ないものに見えてきちゃうよ」

 雄二から顔を逸らしながら抗議する。

「世の中の価値なんてものは本来何も存在しねえ。人間が勝手に価値尺度を作って、これは価値がある、これは価値がないと自分勝手に判断しているだけだ。だから明久、お前は俺と一緒にいることにどんな価値を創造する?」

「雄二の非礼を問題にしているのに、僕の問題にすり替えないでよ」

 文句を言いながらそれでも質問の答えを考えてみる。

 僕にとっての雄二の価値。

 1ヶ月前から同棲を始めた校内でも有名なバカ。

 昼間は冷淡でサディスティックで、夜は荒ぶる野獣スキルが追加される最低人間。

 嫌だと言っているのにわざと首筋にキスマークを残るようにつける変態。

 思い浮かべば浮かべるほどに最悪な点しか見えて来ない。

 そんな雄二と一緒にいることの価値なんて──

「大切すぎてとても他のものと比べることなんてできないよ」

 何よりも大切なものだった。

 恋愛は理屈じゃない。

 雄二と一緒にいる自分のことを考えると、そう結論を下さざるを得ない。

 雄二よりいい男なんて幾らでもいる。

 雄二より優しい男なんて幾らでもいる。

 雄二より僕を愛してくれる人だってきっとどこかにいるはず。

 だって雄二は欠点だらけの上に浮気性で自分の欲望に忠実なケダモノだから。

 なのに僕は今雄二と一緒にいるし、それを幸せだと感じている。

 それはどうやっても合理的な説明が付かないこと。

 だから、恋愛ってのは、理屈じゃなくて感性の問題なのだと思う。

 まったく、変な男を恋人に持ってしまったものだ。

「ヤレヤレ。まさか明久にそこまで価値を認められていたとはな」

 雄二は軽く息を吐くと僕にゆっくりと顔を近付けてきた。

「俺は等価交換を守る男だ。だから明久に対する価値を上乗せしないとダメみたいだな」

 そう言いながら雄二は僕の唇を荒々しく奪った。

 そして、起きたばかりの僕を再びベッドに押し倒した──。

 

 

 

「食事中にアニメ見る癖は何とかならないのか?」

 裸エプロン姿で朝食をのせた皿を運んできた雄二がテレビ画面を見るなり不満の声をあげる。

「いいじゃん。面白いよ」

「アニメを見るなとは言わない。だが、お前ももう高校2年生だ。少しは世の中のことに興味を持って少しはニュースでも見たらどうだ?」

 雄二が学校の先生みたいな小言を口にする。

「アニメから学べることだってたくさんある。文句を言いたいのなら、まずはアニメをよく見てから言って欲しいなあ」

 視線をテレビ画面へと向ける。

 番組は今まさにクライマックスシーンへと入ろうとしていた。

 

『に、ニンフ先輩っ!? なっ、なっ、何で早朝に桜井智樹の部屋から出て来るんですか? しかも、は、裸ワイシャツなんてエッチな格好で……』

『あらっ? デルタ? 私も貴方もエンジェロイド。マスターに尽くすのが存在意義。そして私も貴方も智樹が好きな女でもあるわ。好きなマスターの為に体を使って何でもしてあげるのは自然なことじゃないの?』

『桜井智樹となっ、なっ、何をしてたって言うんですかぁっ!? ニンフ先輩自慢のツインテールが解けちゃってるぐらいに一体何をっ!?』

『お子ちゃまのデルタは知らなくて良いことよ。それからデルタ、これから私のことはニンフ奥様って呼ぶようにしてね』

『ニンフ先輩が桜井智樹の妻を名乗るなんてぇ……っ。このぉ、泥棒猫がぁああああああああああぁっ!』

 

 翼の生えた2人の美少女が男を巡って争っていた。

 所謂修羅場。

「全くもって解せんな」

 雄二は朝食のトーストを齧りながら呆れたような声を出した。

「えっ? 何が?」

 今が朝7時台なのを考えると内容が過激すぎるということだろうか?

「何故修羅場が発生するのか俺には全く理解できないということだ」

 雄二は首を捻った。

「何故って、同じ人を好きになってしまって、2人ともその人を譲る気がないからじゃないか」

 何を当たり前のことを聞くんだろ?

「だからそれがわからんと言っているのだ。2人とも智樹という男が好きで何が問題なんだ? 2人で智樹を共有すれば良いだけの問題だろうが」

「共有って、恋人の座は1つしかないから争いになるんじゃないか」

 再びテレビ画面へと視線を向ける。

 

『…………2人とも、私のマスターを狙う淫蟲(エロダウナー)と認定。徹底的に排除』

『い、イカロス先輩っ!? いきなり全力攻撃ぃっ!? うきゃぁああああぁっ!?』

『こんなこともあろうかと準備していたデルタバリアが役に立ったわ。さあ、反撃の時間よっ!』

 

 テレビは3人の少女による暴力渦巻く修羅場へと発展している。

 アニメだから大げさに描いているのかもしれないけれど、やっぱり複数の人が同じ人を好きになってしまうのは大変なことだと思う。

「独占欲が悪いという問題にしか俺には見えんな。大体、恋人も一夫一夫制度も己の独占欲を綺麗にみせようと苦心した末の慣習に過ぎない。だが肉欲はもっと自由だ」

 なのに、雄二は再び修羅場を切って捨てた。

 いや、恋愛における一対一のカップリングという考え方を否定している。それがどうにも僕にはふに落ちなかった。

「雄二の言い方はまるで自分が浮気していることを一生懸命に正当化しているように聞こえるよ」

「なっ、何を言ってるんだ明久は!?」

 雄二が大きく仰け反りながら驚いた。

 予想以上に大きく動揺している。

「雄二、もしかして浮気してない?」

「何を話しているのか俺にはさっぱりわからんのだが……」

 雄二は視線を逸らした。

「雄二、僕は嫉妬深いってことをよく覚えていてね」

 朝食に使っているフォークの先端をジッと眺める。

「と、等価交換の原則はきちんと守る、さ」

 雄二はそっぽを向いたままそう述べた。

 これは浮気調査をする必要がありそうだった。

 結果によっては……僕は鬼になる。

 僕は瞳を細めて雄二を睨んだ。

 

 

 

「おいっ、俺を置いて行くなよ」

 雄二が浮気している可能性に苛立ちが解けない僕は1人で先に家を出た。

 まだ着替え中の雄二を無視して玄関を出て歩き始める。

「大体、雄二はいつも自分勝手過ぎるんだよ」

 歩きながら先ほどの会話を思い出すとまた腹が立ってきた。

「初めて会った時から唯我独尊で、我がままで、強引で、僕のことなんか少しも考えてない。ケダモノで欲望のままに僕を弄んでいるだけだよ」

 思い出すのは文月学園の入学式のこと。

 僕の人生が一変した分岐点となったあの日。

 

 あの日、僕は入学式が行われる体育館に向かおうとして道を誤ってしまい、校舎の裏庭に迷い込んでしまった。

 ここはどこなのだろうと迷っているとつまらなそうに校舎にもたれ掛かっている男子学生の姿が見えた。

 その男子学生はどう見ても柄が良くなかった。

 悪(ワル)が服着て歩いているような印象だった。

 僕としてはそんな人間と係わり合いを持ちたくなかったので見えないフリをして通り過ぎようとした。

 今にして思えばあの瞬間、僕は回れ右をして出戻るべきだった。

 それをしなかったのは僕の心の警戒感が足りなかった証拠だった。

 足早に通り抜けようとしたその瞬間、僕はその男に腕を掴まれてしまった。

 驚いて体がビクッと跳ね上がる。

「な、何か用でしょうか?」

 恐る恐る尋ねる僕。

 その返事は──

「お前、いいケツしてんな」

 僕の唇が奪われることで済まされた。

「…………ウプッ!?」

 初めてのキス。

 しかも相手は男。

 僕が動揺しないはずがなかった。

 目の前が真っ暗になり、心が絶望に囚われる。

 そして僕は更にまた大きな過ちをおかした。

 僕は嫌なことに放心していないでさっさと全力で逃げるべきだった。

「さて、それじゃあケツの方の味見をさせてもらおうか」

 男は舌なめずりした。

 そして、僕は男に腕を引っ張られて植え込みの更に奥へと引きずり込まれた。

 

 それからのことを僕はよく憶えていない。

 断片的な映像と、体の痛みと心の恐怖だけが残っている。

 そして記憶があるのはそれから数時間後のこと。

 地面に横たわって空をボンヤリと眺めながら

「入学式、サボっちゃったな……」

 そう呟いたこと。

 あの日から僕の人生は一変した。

 僕がそれまで持っていた人生観、価値観は圧倒的なパワーを持つ現実の前に大きく変貌してしまった。

 僕の人生の見方が変わってしまったのは仕方のないことだった。

 けれど、あの入学式の日に雄二に襲われなかったらと思わなくもない。

 そうすれば、もっとバカばっかりして、もっと明るくてポップな人生を送れていたんじゃないか。そんな想いに囚われる。

 今のこの人生自体が、本来僕が歩むべきルートとは異なるifの道を歩んでいるような、そんな感慨が沸いてならない。

 

 

 

「明久ではないか。おはようなのじゃ」

「ああ、秀吉。おはよう」

 暗くなりながら歩いていると後方から声を掛けられた。

 振り返るとクラスメイトの木下秀吉が立っていた。

「どうしたのじゃ? 顔色が何か悪いようじゃが?」

 秀吉が僕の顔を覗き込んで来る。

「何でもないさ。本当に大丈夫だよ」

 秀吉から慌てて目を逸らす。

 秀吉に見つめられると何もかも見透かされてしまいそうな錯覚に陥る。

 今、僕が抱いている負の感情もみんなバレてしまいそうで嫌だった。

「フム。どうやら雄二と喧嘩でもしおったな」

 そして実際に秀吉は僕の悩みを当てて来てしまった。

「僕ってそんなにわかりやすいかな、やっぱり?」

「まあ、それもあるが、一般の高校生の悩みの種類はそんなに多くないもんじゃ」

 秀吉が僕の目をジッと覗き込む。

「なっ、何?」

 秀吉の可愛い顔に見つめられると心臓が高鳴って止まらない。

「それにワシはまだ明久のことを……じゃから、些細な変化も見逃せぬのじゃ」

「ぼ、僕たちの関係はもう1年も前に終わったじゃないか」

 再び秀吉から慌てて目を逸らす。

 まるで先ほど問い詰められていた雄二のように。

「そうじゃな。ワシらが恋人だったのはもう1年も前のことじゃったな」

 秀吉の言葉に心臓がグサッと痛みを覚える。

 秀吉は僕の生まれて初めての恋人だった。

 秀吉は僕の初恋の人で、僕に愛とは何か教えてくれた人だった。

 そして1年前の夏、僕たちは哀しい別れを体験した。

 とてもとても哀しい別れ。

 僕も、秀吉も互いのことを好きだったのに、別れなければならなかった。

 神様を激しく恨んだあの日の別れ。

 

「ワシは今でも明久と付き合っていた日々を昨日のことのように覚えておる」

「僕も秀吉と付き合っていた日々のことを鮮明に覚えているよ」

 初めて手を握ってドキドキした時のこと。

 遊園地の初デート。

 そして、2人で初めて外泊したあの日のこと。

 みんな、みんな覚えている。

「けど、今の僕には雄二がいるし、秀吉にはムッツリーニがいるじゃないか」

 昔の恋人に新しい彼氏がいる。

 そんなのは当たり前のこと。

 けれど、その昔の恋人と新しい彼氏の両方がクラスメイトだったりすると色々と辛い。

 きっと、秀吉も同じ気分なんじゃないかと思う。

「そうじゃな。ワシも明久も新たな人生を歩んでおる。1年前の話を掘り起こすのは虚しいものでしかないの」

 そう語る秀吉の顔はどこか寂しそう。

 それを聞く僕も寂しそうな表情をしているに違いなかった。

「……でも僕は、今でも秀吉が最高だけどね。可愛いし、性格良いし、僕を大事にしてくれるし」

「フムッ。どうやらワシは明久に不倫の誘いを受けているようじゃな。これは雄二に報告せねばなるまい」

 秀吉と顔を見合わせて笑う。

 少しだけ気分が軽くなった。

「さて、学校に急がねばな」

「うん? 今日何かあるの?」

 演劇部の朝練だろうか?

「ああっ、姉上に生徒会の仕事を手伝ってくれと頼まれておっての」

「へぇ~。優子さんの仕事ね」

 木下優子さんは秀吉の双子の姉で、この学校、ううん、この街、ううん、この国、いや、この星で知らない者はいないと言われているスーパーエリート超絶美人才色兼備眉目秀麗学生。

 美人で頭が良くて運動神経も最高で性格も非の打ち所もなく、おまけに料理から裁縫までプロ以上の実力を誇るこの地球の最後の希望ともいうべき人。

 そんな彼女は当然のことだけど学校のみんなから尊敬と愛情を一心に集めていて、他薦にも関わらず満票で生徒会長に当然就任した。

 優子さんの政治的手腕は神の領域に達しており、今すぐにでも主権国家を解体して地球統一政府を作り、その最高責任者に彼女に就任してもらうべきだという声に溢れている。

 そんなインフィニット・スーパーフリーダム・ジャスティスな女の子が同じ学校に在籍しているというだけでも僕は生まれて来たことを感謝すべきだろう。

「秀吉も優子さんみたいな人がお姉さんだと鼻が高いよね」

「確かに姉上は神に最も近い女と呼んでも何の差支えもない立派な乙女じゃ。じゃが、少々心配な面もある」

「心配な面?」

 優子さんのどこに秀吉を不安がらせる要素があるのだろう?

 超絶無比に完璧な優子さんのどこに問題が?

「姉上もそろそろ17になるというのに、浮いた話の1つもない。一生嫁に行けないのではないかと心配になってくる」

「優子さんなら、恋人を募集した瞬間に30億人以上の男が立候補する気がするけれど」

 優子さんの超次元的な人気を考えれば、地球の反対側はおろか、地球外からも恋人募集に応じる者は現れるに違いない。

「では、姉上が明久に恋人になって欲しいと告白してきた場合、明久はそれを受けるのか?」

「そんな仮定、あり得なさ過ぎて想像することさえもできないよ」

 世界最高の女性が僕に愛を告白するなんてあるはずがない。

「それに、僕には雄二がいる。どうしようもない男だけど、僕にとっては大事な恋人だから乗り換えるなんてできないよ」

「フム。姉上は失恋という訳じゃな」

「はぁ?」

 秀吉は何を言っているのだろう?

 これは単に僕が神をも越える優子さんと吊り合うはずがないってだけの話なのに。

「そしてそれはワシも同じ、かのぉ」

「はい?」

 秀吉の言葉は謎に満ちていてよくわからない。

「まあ良いのじゃ。さあ、遅刻せぬ内にとっとと学校に行くぞ」

「ああ、待ってよ秀吉ぃ」

 元恋人の背中を追って走り出す。

 一緒にいると楽しくて暖かい気持ちに包まれて、でもちょっとだけ切なくなって来る元恋人の背中を追って。

 今でも未練がタラタラな初恋の人の背中を追って。

 僕の何の変哲もないはずの1日はこうして始まりを告げるのだった。

 

 

 

 未完

 

 

 執筆 木下U子

 

 


 
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