No.318039

遊戯王‐デュエル・ワールド‐(5)

芽吹さん

真竜神騎団極北支部のある村で起きた騒動
西稜寺は彼らの力になれるのか?

2011-10-14 10:02:54 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:522   閲覧ユーザー数:521

 再び目覚めると、毛布が掛けられていた。それに、何やら食欲をそそられるいい香りが漂う。

「おや、お目覚めですか。ナイスタイミング、そろそろ夕食の時間です。席へどうぞ。」

 男に勧められ、食卓に着く。そう言えば…と、まだ名前を聞いていなかった事を思い出し、尋ねる。

「これは申し遅れました。私は佐田儀(さたぎ)洋士(ようし)真竜神騎団(しんりゅうじんきだん)の一員で、フィフィーの保護者です。」

「保護者…?あの子の親は―――」

 と言いかけて、ふと思う。もしや、フィフィーも自分と同じ境遇…異界から送り込まれたのだとしたら。親同伴で飛ばされるなんて、都合のいい事は考えにくい。そうなら、自分が雪原で倒れていた理由を聞いて、素直に納得してくれた訳だ。

 と、奥から大きな鍋を抱えてフィフィーがやって来た。

「出来たですよー、特製シチューです!おかわりもたっぷりありますよ~。」

 確かに、3人では消費しきれない程の量だった。だが、西稜寺は一人でも完食できる気がしていた。朝から何も食べていない上に、この極寒でかなり体力を奪われている為だ。体がエネルギーを求めている。

「はい、じゃあ…いただきますですよ。」

「おや、今日は大丈夫そうだね。いただきます。」

「『今日は』って何ですか!いじわる言わないで下さい!」

 軽い冗談を交えながら、食事が始まる。野菜たっぷりのシチューを口に運ぶと―――

(う…美味い!ま、まさか、ウチの給仕を超えた…だと!!)

 あまりの衝撃に、意識が飛び掛けた。西稜寺家では、世界にも名の知れた一流シェフが食事を作っている。しかし、フィフィーの作ったこのシチューは、そんなシェフにも勝る味だった。一体、何を入れたらこんな味になるのか、予想すら付かない。

「…西稜寺さん?大丈夫ですか?一服盛られましたかー?」

「い、いや、あまりの美味さに驚愕している所です…。」

「佐田儀さん…後でグーですよ。」

 笑いの絶えない一時。これが家庭的な食事の時間なのかと、自然と顔が緩む。自宅では、こんな感覚は絶対に味わえない。食事はみんなで取った方が美味いというのは本当なのだな、と西稜寺は一人納得する。そして、見事10人分は有りそうな量を食べ切った西稜寺は満足そうに腹を撫でた。

 食事が終わり、小一時間程経った頃、一人の男が掛け込んできた。

「たったたっ、大変だあ!奴等が、奴等が村を、村をぅぼろろろろ!」

「えーっと、取り敢えず落ち着いて下さいね。はい、深呼吸ー。吸ってー、吐いてー。すーはー、すーはー…。どうなさいました?」

 落ち着いた所で、改めて事情を聞く。どうやら、村から少し離れた雪山の洞窟を根城にしている、真竜神騎団の敵対集団が村を襲撃しているのだとか。金品を奪い去り、民家に火を放ち、村人には老若男女関わらず暴力を振るう。…つまりは、賊だ。

 佐田儀は眉間にシワを寄せ、苛立ちを抑えきれない声で、言葉を吐く。

「最近大人しいと思ったら…!力を蓄えていたのですね。フィフィー、お仕事です。奴等を叩いて、ボーナスをたっぷり貰いましょう。」

「ふわわ、もしかしなくても、怒ってますよね?佐田儀さん…。しかもボーナスって!」

 厚手のコートに身を包み、デュエルディスクを装備し、体勢を整える。西稜寺も、何か手伝える事は無いかと尋ねる。せめて、何かしらの恩返しをしたいのだ。

「そうですね。奴等もデュエリストです。一人残らず殲滅して下さい。」

「いや、殲滅は…。とにかく、賊全員にデュエルで勝てばいいんですね?」

 佐田儀は笑顔で頷く。だが、今だけはその笑顔が怖かった。

 外に出ると、彼方此方で燃えている民家の炎で明るく照らさた。こんな情景が有っていいのかと、三人はその場に崩れた。だが、今は絶望と無情に浸っている場合ではない。一人でも多くの住民を助けなければならない。佐田儀は近くに居た族の一味の胸倉を掴み、吠える。

「こんな事が許されるとでも思っているのですか!?ブッ殺しますよ!」

 デュエルで片付けるのでは無かったのかと、西稜寺は佐田儀を抑える。佐田儀は、やってしまったと言うように手で額を抑え、首を振る。一息で落ち着きを取り戻し、構える。

「…申し訳ないです。もう大丈夫ですから、此処は私に任せて他の輩を倒して下さい!」

 多少、どころかかなり心配だが散った方が効率がいいと考え、フィフィーは西側、西稜寺は東側、佐田儀は中央と分担する事にした。

 別れて程なく、西稜寺は男女一組の子供に襲いかかる賊の一味の男を発見した。少女はただ泣きじゃくり、少年は震えながらも木の棒を構え、勇敢に対峙している。

「其処の貴様ァ!子供相手に情けなくないのか!」

「ア゛~?ナンだ、オメー。…ン゛ン!?そのコートは、真竜神騎団かア゛!丁度いいゼェ、オメー等は特別得点が高ェ!コイツは運がイイッ、グエッヘッヘ!」

「得点…だと!?」

「そ~さァ。殺した分だけ報酬が貰えんのサ!ジジィとババァ、ガキは1点、女は2点、男は3点…オメー等は10点ダァ!ヒーッヒッヒ!さ~あ、楽しいデュエルの時間だァ、かかって来ナ゛!オメーのターンからでいいゼェ。」

 怒りで手が震えた。何と言う事か、コイツ等は人殺しをゲーム感覚でやっている。そんな非人道的な事を、平気でやっている。許す訳にはいかない…いや、許す筈が無い!青く輝くデュエルディスクを起動させ、デュエルに入る。

「後悔させてやろう…!先攻ドロー、まずは永続魔法“前線基地”を発動!1ターンに1度、レベル4以下のユニオンモンスターを特殊召喚できる。“X-ヘッド・キャノン”を通常召喚し、“Z-メタル・キャタピラー”を特殊召喚!XにZを装備し、攻守共に600ポイントアップさせる!そして、カードを1枚セットし、ターン終了だ。」

 XZに合体融合する事無く装備させる。訳有ってのユニオン効果だ。

「オ゛イオイ、1ターン目からそんなの有りかよォ…?ンじゃあ、俺もブッ飛ばすゼェ。“マッド・デーモン”を召喚、そんで“デーモンの斧”装備して攻撃ダ!」

 Xに向かって、斧を振り下ろす!しかし、ユニオン効果でXが戦闘破壊される事は無い。ユニオン効果で代わりにZを墓地へと送る。多少のダメージは気にしないといった様子で、腕組みをして静かに相手を睨む。

「へっ…ソイツがそんなに大切かア゛?俺のターンは終了だぜ。」

「そうでなきゃ守らんさ。リバースカード、“ゲットライド!”発動!墓地に存在するユニオンモンスターを、自分フィールド上の装備可能なモンスターに装備する!」

 Zが再び現れ、Xに装備される。この為に合体融合をせずに装備した訳だ。賊の男はつまらなさそうに舌打ちをする。そのまま、“マッド・デーモン”を攻撃する。“マッド・デーモン”の攻撃力は2800だが、攻撃対象になった時に守備表示になってしまう。防御力は0なので、問題無く倒せる。

「フ…。良く考えて戦うんだな。カードを2枚伏せてターンエンドだ。」

「チィ…調子に乗ってル゛と、イタイ目に遭うゼェ!」

 男のターンとなり“インターセプト・デーモン”を召喚し、カードを1枚伏せて終了。次の西稜寺のターンも、行動をせずに終了。双方とも、狙ったカードが来ない様子だ。その後暫くの間、魔法・罠を伏せる以外動きは無かった。

 しかし、此処に来て遂に西稜寺が“Y-ドラゴン・ヘッド”を引き当てる!“前線基地”の効果でYを特殊召喚し、Zを装備解除する。

「X、Y、Zの三機が揃った!見せてやろう、幾度と俺を栄光へと導いた我が相棒を!合体融合、“XYZ-ドラゴン・キャノン”召喚!!」

 三機が合体し、1体のモンスターとなる!

「ギャハハハー!待ってたゼェ、この瞬間をよォ!罠発動“因果切断”だ、グェッヘッヘッヘ!」

「甘い!“トラップ・スタン”起動!このターン、全ての罠は無効化される。これだけカードをセットしているんだ、これ位は読めても良いんじゃないか?」

「アア゛!読んでたゼェ、“盗賊の七つ道具”で無効化してやるゼェ!」

 男はどうだと言わんばかりに誇らしげな顔をする。だが、それでも西稜寺の表情に焦りは無い。

「やはりな…。今時、大抵のデッキにはカウンター罠が入っている…その対策を、この俺が練っていないとでも思ったか!カウンター罠起動、“カウンター・カウンター”!!カウンター罠のみを無効化出来る代物だ。条件は限られているが、ノーコストで発動できる。」

 流石にこれ以上の対策は無いらしく、男はこれ以上行動出来なかった。自分が一方的にコストを支払っただけで終わった。

 西稜寺は更に“ナノブレイカー”を召喚する。XYZの効果を使い、“インターセプト・デーモン”を破壊する。そして、2体でダイレクトアタックを試みる!

(通るか…!?)

「グゥゥ…!即効魔法“月の書”発動ダ!XYZは裏側守備表示になってモ゛らうゼェ!」

(即効魔法!!…しかも“月の書”とは、やってくれる!)

 “トラップ・スタン”の効果では魔法カードを無効化出来ない。XYZの攻撃は中断されたが、“ナノブレイカー”の攻撃が残っている。そちらは防ぎようが無かった様で、まともに受ける。これで男の残りライフは1400だ。西稜寺はターンを終了する。

「俺のターン!…モンスターをセットして、“太陽の書”を発動!対象は今俺がセットしたモンスターダ!」

「リバース効果か!」

「御明答!“ライトロード・ハンター ライコウ”を表側攻撃表示にするゼェ!リバース効果で、XYZを破壊ダ!」

 まさかライコウが来るとは予想できず、XYZは破壊されてしまう!男はライコウの山札の上から3枚墓地へ送り、効果のコストを支払う。

「ア゛ァン…?モンスターは1体だけかヨ゛…。まあ、いいさ。手札から“魔法石の採掘”を発動、手札から2枚墓地に捨てて“月の書”を手札に戻すゼェ。」

 またそれか、と西稜寺はあからさまに嫌そうな顔をする。西稜寺のデッキに、魔法を無効化させるカードが無いからだ。しかし、そこまでして手札に戻すカードだろうか?と疑問に思う。

(…成る程、ライコウに使い、再びリバース効果を使おうと言う魂胆か。)

「カードを2枚セットして、ターンエンドだ。」

「俺のターン、ドロー。」

 やはりXYZを失ったのは痛手だ。だが、何もXYZが全てではない。夕食を終えてからの一時間を無駄に過ごした訳ではない。XYZに次ぐモンスターを投入したのだ。

「“V-タイガー・ジェット”を召喚!そして、“前線基地”の効果により、手札の“W-ウィング・カタパルト”を特殊召喚!」

「ゲゲッ!」

 VとWで合体融合したい所だが、今は状況が状況だ。数が第一だ。2体では、追いつかない。もう1体並べておきたい所だが現状では不可能だ。手札も策尽きた。

 ならば、例え罠があろうとも攻撃するしかない!西稜寺はバトルフェイズに入る。

「まずは、Wでライコウを攻撃だ!」

「くっそー…!即効魔法“月の書”で、ライコウを裏側守備表示にするゼェ!」

「構わん、そのまま攻撃だ!」

 ライコウは破壊したが、リバース効果でVを破壊された。だが、まだ“ナノブレイカー”が残っている!この攻撃が通れば、ライフを0にできるが…。

「させネ゛ェ!“ドレインシールド”発動!攻撃を無効にして攻撃力分回復させてもらうゼェ…。」

「何っ!」

 まさか、そんなカードを伏せているとは…予想外だ。これで男のライフは3000に戻った。流石にマズイ状況だ。西稜寺は“黙する死者”を発動し、Vを呼び戻してWを装備させる。

「グェッヘッヘ…!このデュエル、貰ったゼェ。行くぜ、俺のター…

 と、カードをドローした瞬間…。

「……………ぎぃぃぃぃぃいいいいいやああああああああああ!!!」

「オボフッ!!?」

 吹き飛んで来た太った男が、男に直撃!そのまま家に激突し、気絶。当然、デュエル中断。西稜寺は、謎の光景にただ呆然と立ち尽くす。何が起きた?と辺りを見渡すと、空からブルーアイズが舞い降りて来た。ああ、理解した、とこれ以上ない大きな溜め息を吐いた。フィフィーだ。

「ご、ごめんなさいなのですよ!でも、悪いのはあのデブチンなのですよ!ブルーアイズを馬鹿にしたんです!『そんな化石カード、まだ使ってんのかよー。ダッセー!』とか、『観賞用にもならねーぜ!』って言うんですよ!それで、カッとなって、つい3体のブルーアイズで“滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)”をフルパワーで放ったら吹き飛んだ訳で…。」

「…だろうな。」

 何と言うか、この世界に来る前の遊鳥とのデュエルといい、今のデュエルといい…。最近何だかデュエルをやり切った覚えが無い西稜寺だった。

 しかし、そのフィフィーの対戦相手の台詞、聞き捨てならない。カードと言うものは新しければいいと言うモノではない。それも、ブルーアイズは未だ最強の通常モンスターだ。それを嘲り笑うとは、デュエリスト失格だ。専用カードや補助カードも多く、扱いやすいモンスターだと言うのに…。

 その伝説の白龍を操るフィフィーのデッキは、完全にブルーアイズの為だけのデッキだ。ありとあらゆるサポートカードが入っている。しかし、入手困難なブルーアイズをこの少女はどのようにして手に入れたのかが謎だ。それも3枚も…。

(下らん事だ、入手先なんてどうでもいい。…今は賊の始末だ。)

 本来の目的を思い出し、振り返る。と、またも男が何処からともなく吹き飛んできた!危うく巻き込まれそうになるが、間一髪避ける事が出来た。

「おや?これだけの人数しか居ないのですか。派手に襲撃した割には、少人数でしたね。」

 遅れて、巨大な白熊を従えた佐田儀が歩いて来る。極北支部の人間はデュエルで人を吹き飛ばす習性があるのだろうか。偶然だと、そう信じたい西稜寺だった。お手伝いとはいえ、自分までそんな癖が付いては堪らない。

「ああ、お二方。賊は全て片付けましたよ。西稜寺さん、協力に感謝します。」

 協力と言えるほど何もしていない為、西稜寺は少しだけ心が痛んだ。だが、決着が付く前にフィフィーに妨害されてしまったとは、口が裂けても言えない。

「しかし、もう我慢の限界ですね…。さっさと組織を壊滅させて差し上げましょう!」

 歯を食いしばりながら、妖しげなオーラを纏って言う。また暴走し掛けていると、慌てて抑える西稜寺とフィフィー。本当にこの人は大丈夫なのだろうか。

 


 
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