No.296286 遊戯王‐デュエル・ワールド‐(4)2011-09-09 09:53:49 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:475 閲覧ユーザー数:474 |
誰かの声がする。誰だろうか。聞き覚えのない声だ。
「しっかりして下さーい!寝ちゃ駄目ですよ!死んじゃいますよー!」
「―――っ!!?」
西稜寺は慌てて跳ね起きる。目の前に防寒着を着こんだ少女の姿があった。
「俺は…生きているのか…?」
そんな馬鹿な、と混乱する。蘇生不可能なまでに長時間氷点下の大気に晒された筈。それが今、こうして生きている…。まさに奇跡としか言い様がない。
「ふわわっ…良かった、間に合ったです。ビックリしましたよ、こんな所でそんな薄着してる人が倒れてるなんて…普通じゃないです。何が有ったですか?」
西稜寺は起きた事をありのままに説明した。仲間とのデュエル中、謎の声にこの世界に飛ばされたと。信じられない話だが、少女は納得してくれた。
「酷い話ですっ。仲間とはぐれちゃった上に、こんな雪原のど真ん中に送るなんて。私とブルーアイズが居なかったらホントにカチコチになってたですよ。」
「…ブルーアイズ?」
今更だが、辺りがほんのり暖かい事に気付く。自分が横たわっていたその場所も、白くはあるが雪では無かった。顔を上げると、その名の通り青い目を持った伝説の白龍、“
「ソリッド・ビジョンでは無い…実在している!?」
そんな事が有り得るのかと、うろたえる。
「この世界では、デュエリストの魂を宿したカードのモンスターが実体化するのですよ。私の場合は“青眼の白龍”だったのです。あ、自己紹介がまだでしたね。私は真竜神騎団所属のフィフィー・ファイウェンです。」
「む…、俺は西稜寺皇軌だ。ところで…その真竜神騎団とやらは何だ?」
「えーっと、この世界のお巡りさんのような団体です。悪いデュエリストを捕まえるのがお仕事ですよ。」
こんな小さな子供まで働いているのかと驚いたが、デュエルの実力さえあれば年齢は関係ないそうだ。それにしても、真竜神騎団とは大層な名前だと西稜寺は感心した。名付けた者の顔を見てみたいとすら思う。
それから西稜寺の体力がある程度回復すると、ブルーアイズに乗り、フィフィーが勤めている真竜神騎団の極北支部まで行く事になった。現実に龍に乗って空を飛ぶ事ができるとは、夢にも思わなかった。それも、デュエルモンスターズ伝説の白龍に。
「そう言えば…西稜寺さんのデュエルディスクは他とは違ったカラーリングをしていますね。」
「ああ…コレか。コレは、全国大会の10連勝記念に贈呈された物で、
世界に1つだけの、海を連想させる鮮やかな青色のデュエルディスク。西稜寺は世界大会に出場する時は決まって青い衣装に身を包む。要は、彼のイメージカラーだ。
「じゅ、10連勝ですか!?ふわー…敵無しですね。」
「いや…大会に出ていないデュエリストなど腐る程居る。俺は、そういった者の方が強いと踏んだんだ。だから俺は、武者修行に出た。…まさか、こんな事になるとは思わなかったがな。」
1時間程で、真竜神騎団の極北支部に着いた。ブルーアイズの背から降りると、眼鏡を掛けた男が出迎えに出て来た。
「お帰り、フィフィー。お疲れ様。…おや、其方は。」
「雪原で死にそうになってたから、救助したです。」
「こんな恰好であの雪原に?…まあ、こんな所で立ち話も何でしょう。ちょっと狭いかも知れませんが、中へどうぞ。」
そう言われ、遠慮無く上がらせてもらう。室内は暖房が程良く利いていて、心地がいい。暖炉一つで此処まで快適になるなら、自宅にも欲しいと思う西稜寺だった。
「聞きたい事は沢山あるけど、一先ずは療養が優先だね。死にかけたって言ってたしね。まあ、自由にくつろいで下さい。」
「…そうさせていただきます。」
西稜寺は近くにあったソファーに座り、全身の力を抜く。不思議と心から休まる気がした。まるで自宅に居る様…むしろそれ以上にも感じる。その内、次第に眠気が増してくる。先程の永久の眠りではなく、ただの睡眠が。
リーダーとの極限のデュエルが終わった途端に疲労から全身の力が抜け、水無都はその場に座り込む。
「おっ!そっちも終わったみたいだなー。こっちも片付いたぜ。」
振り返ると、“グレンザウルス”に乗った遊鳥が手を振っていた。足元には、十数人という数の敗者が転がっている。
「乗っ…!?ソイツ、ソリッド・ビジョンじゃ…!」
「その筈なんだけどねえ~、何か乗れた!意外と乗り心地いいよー。」
目を輝かせながら“グレンザウルス”の背中をペチペチ叩く。水無都はその呑気加減に気が抜ける。
「おーい、朱璃!乗るかー…って、アレ?」
振り返って朱璃の居た場所を見ると、其処に朱璃の姿は無かった。デュエル中、度々確認していたが、その時々には手ごろな岩の上に座って観戦していた筈だ。…と、背後からあくどい含み笑いが聞こえてきた。
「クックック…探し物はコイツかぁ…?駄目だねー、ちゃんと責任もって保護しないとー…。」
その声に振りかえると、リーダーが朱璃を抱え、ナイフを突き立てていた。
「ヘッ…ヘヘッ!コイツに怪我させたくなかったら、大人しくしてるんだな!」
迂闊だったと二人は焦る。まさか、距離を置いていた朱璃が狙われるとは思いもしなかった。と言うか、あのリーダーは何時の間に復活したのか。何とかして状況を打破したいが、自分よりも相手が早く動いてしまう。
程なく二人は取り囲まれる。卑怯さでは一流だと、遊鳥はこんな状況ですら呑気な事を思う。醜い風貌の集団が、にやけ顔で品定めする様にジロジロと二人を見る。
(くそ…っ!デュエルで勝ったのに…!)
水無都が反抗的な姿勢を取る。しかし、その虚勢には全く動じない。
「ヘッ、あんまり焦らしても可哀想だしなあ。…やっちまえ!」
「「イィィヤッホォオオオゥ!!」」
リーダーの合図に拳を振り上げる!もう駄目だ、と目を瞑った時―――
「“黒炎弾”!!」
「「!?」」
突然の声が響く!間もなくリーダーの顔に炎弾が直撃し、堪え切れずその場で悶え転がる。
「ぎゃあああ!?ア゛、あ゛っづぅぅぅぅ!!」
集団の動きが止まった一瞬を二人は見逃さなかった。遊鳥はハイキックを、水無都はストレートパンチをそれぞれ、眼前の敵の顔面に容赦なく喰らわせる!そのまま流れに乗り、一人、また一人と倒して行き、素早く朱璃を救出する。その後、空を見上げて奇襲の主を見る。
空には、漆黒の竜と、真紅の機竜が羽ばたいていた。
「あれはレッドアイズと…“Y-ドラゴン・ヘッド”!?まさか…皇軌!?」
二つの影が大きくなり、地上へと降りてくる。しかし、其処に居たのは西稜寺ではなく、白いローブを着た、赤髪長身の女性だった。もう一人の、冷めた瞳の黒髪男が三人に歩み寄る。
「よーぅ、大丈夫かな?君達。怪我とかしてない?」
水無都の肩を叩きながら軽い調子で尋ねる。水無都は危うくこけそうになった。冷徹な外見とのギャップが大き過ぎたからだ。人は見掛けによらないとは、正にこの事か。
「うんうん!大丈夫そうだね~。気を付けなよ?この世界じゃ、こんな奴等はゴキブリ並に居るからー。一集団見付けたら、三十集団はいるからね!」
「そーなのか…。ところで、君達どちらサマ?」
「俺?俺は“真竜神騎団”の一員さ!こっちのおねーさんもね。」
「し…しんりゅう、じんきだん…?」
ここにもイタイ人達が…と、目眩がした。しかし、まだあの暴走族集団よりはまともそうだから流石に失礼だと思った。
「そう!コイツ等みたいな無法者を取り締まる、警察みたいな団体さ。ちょっと宗教めいた所もあるけどね~。」
まだ、どころかかなりまともだった。口に出さなくて良かったと、遊鳥は心から思った。水無都はノリが遊鳥に似ていると感じる。何となく間延びの有る口調が、特にそう思わせた。しかし、その団体の一員であるこの男が「宗教めいた~」等と言って問題無いのだろうかと心配だ。
「あ…そうだ!俺、仲間と離れ離れになっちゃったんだ!赤髪のお姉さんと同じ、XYZ使いの男なんだけど。灰髪で、青いデュエルディスク付けてる奴…知らない?」
「私と同じXYZ使いで灰髪の男…?心辺りが無いわ。」
だよねー、と肩を落とす遊鳥。だが、無理も無い。遊鳥達はつい先程この世界に来たばかりなのだ。
「…けど、興味あるわ。その男。どれ程の使い手か、見てみたい。チェルル、人探しも立派な仕事じゃないかしら?」
「確かにね~。でもさー、このまま探しに行けないよ?一応本部に報告しないと。」
「じゃあ、チェルルが戻って私の分も出してちょうだい。」
「まぁーじぃーでぇ~?…まあ、毎度の事ですか。」
何やら話が勝手に進んでいる。遊鳥としては、一緒に探してくれる事は有難いのだが…。
「えーっと。ウチのお嬢様はワガママ言ったら聞かないから、同行して欲しいんだけど…いいかな?」
「まあ、探してくれるんならいいんだけど…。せめて、名前くらい教えてよ。赤髪さん黒髪さんじゃー困るでしょーよ。」
それもそうかと、二人は名乗り上げる。男の方は、チェルル・アディアパーネ。“
遊鳥達も自己紹介を返す。遊鳥は魔法使い族、水無都はジャンクをメインとするデュエリストだ。朱璃はデュエリストでは無い事を伝えた。
「じゃあ、俺は一旦本部に戻ってこの事を報告するから、それまでウチのワガママお嬢様を宜しくネ~。」
そう言って、再びレッドアイズに乗り込み、飛び立つ。「誰がワガママお嬢様よ!」と叫ぶが、チェルルの耳には届かなかった。大きく溜め息をついて、ルリスは三人の方へ向き直す。
「取り敢えず、此処からは結構遠いけど町まで移動するわよ。落ち着ける場所が欲しいわ。」
「…って言われてもねー。移動手段が無いんだよねー。水無都君は。」
言われればそうだった。ルリスは“Y-ドラゴン・ヘッド”が、朱璃には水無都の“グレンザウルス”が居る。遊鳥はバイクが。二人乗りは出来ないことも無いが、地面が荒れている為、非常に危険だ。
どうしようか考えた結果、遊鳥が名案を出した。それは先程の暴走族集団から戦利品として、あの何とも言い難い悪趣味なバイクを貰うという考えだ。都合良く、水無都は運転できるらしい。
「バイク…?ああ、Dホイールの事ですか?確かに、良い案ですけど…アレに乗れと。」
「それしか無いじゃん?つか、アレでDホイールだったんだ?」
あのフォルムでそれとは思えなかった。装飾部品がやたら出っ張っている為、空気抵抗が半端じゃなさそうだ。アレで十分な速度が出るのだろうか。…それはさて置き、遊鳥は有無を言わさずDホイールを奪い取る。恥ずかしくないよう、中でもまだ軽傷そうな物を選んでおいた。それでも一般的な人間から見れば十分悪趣味だったが。
「ここからずっと東に、村が有るわ。其処を目指しましょう。」
「うん、東ってどっち?」
遊鳥の一言に、一同沈黙。まさかの方角が分からなくなるという事態が起きた。しかも、目印となる物が何もない。方位磁針などという便利な物は持ち合わせていない。
「…太陽の昇る方が東ですよね。きっと、このまま前進すればいい筈ですよ…多分。」
そうである事を祈り、走り出す。意外と、“グレンザウルス”の脚はバイクに追いつける程早かったので、それなりのスピードで進めた。
「…あ、今更だけど、水無都君…ノーヘル運転じゃね?あと、年齢的にも大丈夫なの?」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!今は!」
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世界を超えて、新たなる仲間と旅立つ!